怪獣大戦ガメラ2026
第一幕
廃墟と化した、かつては栄えていたであろう臨海都市。
遙か遠くに、傾いだ城が見える。
この荒涼とした廃墟がかつての東京湾岸であり、傾いだ城が、千葉県にある東京ディスニーランドのなれの果てだとは、昔なら誰が信じただろう。
そこを、自衛隊の戦車が進んでいく。今、西暦2026年から二年ほど前に現在の事態に対応するため急遽採用された24式対獣戦車。百七十五ミリレールガンを主兵装とする最新型。
上空には、一年遅れで採用された最高速度マッハ4のVTOL攻撃機、F−9。
二十世紀からたった四半世紀、兵器は此処まで急速な進歩を遂げた。全ては、人類全体の危機を乗り越えるために。
だが、それでも隊員達の表情は暗い。
彼らは知っているのだ。これでも敵を止めるには力が不足していることを。更に絶望的なことに、彼らが属する種族・・・人類が、滅びつつあるという事実を。
それは、人類の罪の結果。怪獣達の骸をあさって得た知識から、マナをエネルギーとして使うすべを編み出し、地球の命を奪い続けた。一部の知者は警告したが、新しい潤沢なエネルギー原に驚喜する人々の叫びが、それを聞こえなくした。
その結果の、人類を滅ぼす者、怪獣の群、否、軍事的な集団の出現。的確な作戦をもって、複数の種類の同族を使って巧みに人類を殲滅するそれらは、いずれもかつて京都府を壊滅させたイリスに、その体が何処か似ていたた。イリシズ。全体としては、彼ら死神ははそう呼ばれた。
だが、それでも、戦車隊は湾岸に展開した。
最後の希望を、得るために。
それとほぼ同時、一路東京を目指す飛行物体があった。高速回転しながらプラズマの輪を形成しつつ飛ぶ、巨大な円盤。
上部をダークグリーン、下部を熱線反射用と思われる銀色に塗り分けられたそれは、明らかに人工物だった。それも、人によって操縦される。
「・・・急がなきゃ・・・」
コクピット内の小さな人影が、決意に満ちた声で呟いた。
緊迫した空気。
兵士達は、じりじりとして海を眺めていた。
そして。
「偵察機より報告!目標海中型ジグラ、接近中!」
通信兵の報告に、司令官は頷いた。
「全車、砲撃準備!」
サイレンが鳴り響き、戦車の砲塔が一斉に旋回を始める。それまで一旦地上に降りていたF9も、全機一度に離陸する。
ドバーンッ!!
唐突に、目の前の海に凄まじい水柱があがった。
「グブォオオオオオオオオン!!」
地をふるわせるを雄叫びをあげて浮上したのは、全長1キロメートルにもなる、鎧をまとった鯨のような巨大な怪獣。
通信でジグラと呼称された、「敵」
がしゃがしゃ、と音が聞こえそうな動きでジグラの硬そうな装甲の一部がスライドし、そこから小型の怪獣が二種類飛び出した。
小型といってもそれぞれ全長四十メートルと八十メートル。小さい方は長くとがった頭部と長い、皮膜を張った触手を持ち、大きい方はワニの骨格を連想させる姿。巨大な口が凶暴な雰囲気を持っている。
「ジグラ、バイラスとバルゴン、それぞれ二対ずつ射出!」
「撃てぇい!」
轟音と共に、凄まじい水柱が怪獣達を包む。レールガンの一斉射撃だ。
だが、その段幕を無視して怪獣達は突っ込んでくる。小型タイプは空中に飛び上がり、大型タイプはそのまま上陸する。
「バイラスはバグスに任せろ!全車、バルゴンに一斉射撃!」
上陸した大型、バルゴンに戦車隊は集中する。上空では小型、バイラスとF9のドッグファイトが始まった。
だが、力の差は有りすぎた。
「駄目だ、追いつけない!」
F−9とバイラスでは、最大速度がバイラスの方がマッハ2は早かった。
「わあああ!」
ばたばたと撃ち落とされていく。戦車隊も、いくら撃ってもバルゴンにダメージを与えられない。逆に踏みつぶされる。
「だ、駄目だぁ!」
敵とのあまりの戦闘力の差に、逃げ腰になる隊員達を、司令官は必死に叱咤した。
「バカ、逃げるな!味方は必ず来る、必ず!・・・俺達の戦女神を信じろ!」
その言葉に、隊員達はわずかに動揺から回復する。
隊長が言った存在、「戦女神」。
それは、宗教的な存在ではない。実存する者。彼らと、共に闘う者。
「キュゴォーーーーーーン!」
金属的な声を上げ、今しもまた一機の戦闘機を撃墜しようとするバイラス。長大な、三つ又の音叉のような頭が共鳴し、金属すら切り裂く超音波が発射される。
「わああああ!」
絶望の声を上げるパイロット。
だが、攻撃は来なかった。
逆のサイクルの低周波が、超音波メスをうち消す。彼らが待ち望んだ存在が持つ、特殊防御兵器。
「悪魔の笛・・・ってことは!」
巨大な者同士が激突する轟音。
「メカガメラ!」
後ろを振り向いたパイロットは見た。巨大な円盤が、今まで仲間達を一方的に蹂躙してきた怪獣を、体当たりで粉々に粉砕するのを。
間髪入れず、円盤は変形を始める。回転を停止し、楕円の一方の端から現れたのは、凶暴な牙を生やした、装甲で覆われた頭部。同時に、左右からやはり装甲に覆われた翼とも手ともつかない物が飛び出し、飛行を安定させる。
もう一機のバイラスの後ろに回り込んだそいつは、口をぐわっと開いた。
閃光!
小型のプラズマ球がガトリング砲のように連射され、バイラスをうち砕く。
悲鳴と共に地面に叩き付けられ、二匹のバイラスは動かなくなった。たった今まで絶望にひしがれていた部隊に、通信が入る。
映像に映っていたのは、奇妙な格好をした14歳ほどの少女。黒髪をショートカットにして、凛々しい雰囲気を漂わせている。
その思春期特有のほっそりした体は、ぴたりと張り付いた光沢のある赤い服で覆われ、表面には幾本ものコードがまるで呪術的な文様のように走り、かすかに膨らんだ胸に固定された、電子部品を寄せ集めて作った勾玉のようなものに集約している。
「こちら、特別合同司令部所属特尉、メカガメラパイロット、比良坂 海!救援に来ました!」
少女の言葉に、兵士達はわき返った。
戦女神は、来たのだ。
「ガァオウッ!!」
バルゴンの背中から、眩い光がほとばしる。時に一個連隊すら瞬時に壊滅する、破壊の光。
それを見たと同時に、海の胸の勾玉も光った。
メカガメラは、機体を激しく動かして光線をかわす。海は、操縦桿を動かす等の操作をいっさい行っていない。いや、最初からそんな物は付いていなかった。パイロット・・・いや、巫女、とでも言う存在が願うとおりに、自由自在にメカガメラは力をふるう。
回避機動の勢いを残したままで脚部をのばし着地、地面を滑走しながらプラズマ・ガトリングを連射して、バルゴンを牽制する。その身長、87メートルの、人工の直日の神。
「いくぞぉっ!」
う゛ん、とかすかな音を立てて、メカガメラの腕から格闘用の武器、フレイムクローブレードが長くのびる。
「ええいっ!」
裂帛の気合いと共に、腕から生えた剣を振り下ろす。バルゴンはそれを、プラズマをはわせた花から生えた角で受け止めた。
「グワーーーーッ!」
「このっ!!!」
二、三合斬り結んだところで、バルゴンが横にバランスを崩した。
「もらった!」
一瞬出来た隙をついて、バルゴンの首を切り落とそうとする海だが、
ずっだ〜〜〜〜ん!
「うわ!??」
地響きを立ててメカガメラが転倒する。慌てて振り向く海の目にもう一体のバルゴンが長い舌でメカガメラの脚をからめ取った様子は映る。
「しまっ、あぐぁあああああ!」
絶叫。
バルゴンの巨大な口が、倒れ込んだメカガメラの腕に食らいついた。一見機械のように見えた腕から、青緑の血がだらだらと流れ落ちる。そして、海の腕からもまた、同じ傷、同じ出血。
これが、力の代償。あの日、全世界に現れたギャオスハイパーを倒し、消えたガメラを、残された細胞や血液、海中から引き揚げられた「ガメラの墓場」の死骸から人類は作り出した。
だがそれは、所詮魂のないまがい物。魂のない体を動かす力を持つ者は限られる。そして、何もないからだに自分の魂を入れるということは、その体の全てを受け止めると言うこと。傷も、痛みも、命も。
「くううううっ・・・」
痛みに耐えながら、海は強引に噛み付かれた腕を甲羅の中に収納した。食い込んだ牙がひっぱられて、傷が広がる。
「せええええいっ!」
右腕を収納した穴から、プラズマジェットを噴射。本来飛行に使うそれで噛み付いていたバルゴンを焼き尽くすと、反動をつけて起きあがり、後ろの方のバルゴンの頭部に左腕のクローブレードを突き刺す。
「ギェ・・」
びくっ、とけいれん。中枢を破壊されたバルゴンは即死する。
立ち上がるメカガメラ。きっ、と沖をにらむ。
ジグラは、巨大な口を開けていた。超音波メスとは破壊力の桁が違う、凄まじい衝撃波が発射され、メカガメラに迫る。
だが、海も同時に行動を起こしていた。銀色の腹甲が、パラボラ状に展開する。その奥には、灼熱の、命の炎。
閃光と共にそれは吹き出し、衝撃波ごとジグラの巨体を消滅させた。
わっ、と沸き上がる歓声。我を忘れ、自衛隊員のあるものは鉄棒を放り投げ、ある者達は互いに抱き合う。あまりに久しい勝利に、皆我を忘れて喜んだ。
だが、その喜びの騒ぎも、すぐさま厳粛な雰囲気に取って代わられる。全員威儀を正し、彼らなりの精一杯の感謝の敬礼を、メカガメラに乗る少女に行う。
彼らは知っているのだ。最後の武器、ギガマナエネルギーレイ。地球のエネルギーを使って放たれる、本来のウルティメイトプラズマと同じだけの威力を出すために、パイロット比良坂海が命を削っていることを。
メカガメラ。Multipuropose-Espesial-Kamikaze-AttackerGAMERA。多目的特殊カミカゼ攻撃機ガメラ。
その名の通り、これ以上の地球のマナの損耗による怪獣出現を防ぎ、かつ高性能を得るため、乗り手自身のマナ、すなわち生命エネルギーを動力とし、その寿命をむさぼる欠陥兵器。
今や人類は、こんなものにすがるしかなかった。
だが、その乗り手の少女は。
それでも、自分に敬礼する兵士に微笑んだ。
その光景を、彼方の廃ビルから見る者達がいる。
白い一枚布を体に巻き付け、豪奢な作りの王冠を頭にいただき、神話の登場人物のような姿をした十歳ほどの幼い少女。
その周りに、数人の科学者らしき男達がうやうやしく控えている。
科学者の一人が言った。
「シュラ様、アレがメカガメラにございます。」
王者に報告するがごとき言葉に、シュラと呼ばれた少女はまた王のごとく応えた。
「ふん、所詮はまがい物よな。我が力、ジャイガーには遠く及ばぬ。」
科学者のリーダーらしき痩身の男が、笑顔で頷いた。
「まことにその通りでございます、シュラ様。加えて我等が下民共に作らせた我等ネフェル・アトランティスの新たな剣、ギロンもございます。負けるはずがございません。」
ふ、と少女は大人びた笑いを浮かべた。
「ジャイガーだけでも十分というのに・・・まあよい。その心配もそなた等の忠義の証。ほめてつかわす。」
歓喜の表情を浮かべ、科学者達は一斉に平伏した。
「ははーっ!シュラ様!我等ネフェル・アトランティスの新たな神、全ての人類の救い主、万歳!!」
時に、西暦2026年のことである。