・・・・・・
「ん・・・」
「あ、気が付いた?」
村正宗が目を覚ますと、目の前に見知らぬ少女が居た。
歳は高校生くらいか、腰元まである長い黒髪が印象的だ。
「ここは・・・」
「私達の町の病院だよ、結構重症だったからね」
微笑まじりに少女が答える。
(病院?重症?)
起き上がって周りを見回す。
土色の壁にトタンの屋根、微かに黄ばんだシーツのベッド以外何も無い。
次に自分の身体を見る。
腹部に包帯が巻かれているだけで、別段痛いところも無く身体も自由に動く。
「どこが?」
思わず声に出す。
「確かにココは病院には見えないよね、でも君が大怪我してたのは本当だよ」
その様子を見て、傍らの少女が苦笑まじりに言う。
「じょ・・・」
冗談でしょう?と言おうとした瞬間、村正宗の脳裏に今まであった出来事が去来した。
(そうだ、俺は神奈と一緒にあいつらと戦って、それから・・・)
そこまで思い出すと、急に顔色を変えて
「そうだ!神奈・・・俺と一緒に居た女の子は!?」
詰め寄るように少女に問う。と
「彼女なら大丈夫だ、少々危なかったが何とか生きている」
いつの間にか現れた、白衣らしき物を着た青白い顔をした男がそう答えた。
「そ、そうですか」
男の出現に驚きつつ安堵の表情を浮かべる。
「ついでに自己紹介をしよう、私の名はWILL(ウィル)・オピウス、この町で医者をやっている」
WILLに続き少女も自己紹介
「私は彩乃・ヴァルキュア、「彩乃お姉ちゃん」って呼んでねっ♪」
ゴンッ!
彩乃の「のほほん」とした声に、壁に頭をぶつける。
かなり間抜けだ。
「あれ?どうしたの?」
心配そうに村正宗の顔を覗き込む彩乃
「い、いや何でも・・・あ、俺は村正宗、え〜と・・助けてもらったようなのでお礼を、ありがとうございます」
ベッドの上で上半身を倒しお辞儀
「・・・フルネームは?」
「え・・・?御影、御影 村正宗です」
意味ありげに聞くWILLに、困惑しつつ村正宗が答える。
「え・・と、何か?」
「聞いてみただけ」
ガンッ!
再び壁に頭をぶつける。
「大丈夫?」
そしてまた彩乃が顔を覗き込んでくる。
「大丈夫です・・・あの、顔近いんですけど」
「そう?ねぇ村正宗くん、綺麗なお姉さんは好き?」
悪戯っぽく聞いてくる彩乃
「いえ、どっちかというと可愛い妹の方が好きです」
素で答える村正宗
「・・・気が合いそうだね」
「?」
さりげなく親指を立てる彩乃
「話はこれくらいにして、ゆっくり休め村正宗、我にはまだすることがある」
さっきと口調が違うWILL
「そうだね、おやすみ村正宗くん」
2人とも部屋を出て行く
「あ、ちょっと待ってください。そういえば奴ら・・・俺達を襲った連中はどうなったんです?」
慌てた様に村正宗が訊くと
「全員破壊したよ、私がね」
先程とは違う、押し殺した声でそう言うと彩乃は部屋から出て行った。
翌朝
ドスンッ!
村正宗は天井から垂直落下した。
「・・・直らないな、この寝相・・」
うつ伏せのままボヤく。
どこをどうすれば天井から落下するのか、3秒ほど考えて起き上がる。
「鼻、曲がってないか」
メガネを掛けながら指で確認する。
異常が無いことを確認し、ドアを開ける。
「おはよー、村正宗」
「・・・え?」
目の前で呑気に挨拶する神奈。
固まる村正宗
「どうかした?」
村正宗の様子に首をかしげる。
「神・・奈・・・」
「そうだよ、他の誰に見える?」
気に障ったのか、少し膨れる。
「・・・・」
「はい、現実から逃げない!あたしは今ここにいる、そして挨拶した」
困惑する村正宗に次の行動を促す。
「あ・・・おはよう神奈」
「よ〜し、じゃ ご飯にしよう」
呆然とする村正宗を横目に、テーブルに着く。
他招きされ反対側に座る。
「で、どういうことだ神奈?」
食後、ようやくショックから立ち直った村正宗が訊ねる。
「はいこれ」
神奈が一枚の紙を差し出す。
数秒、手紙に目を通して神奈を見る。
「本当に?」
大きく頷く。
「はぁ・・・」
溜息をつき、もう一度手紙に目を通す。
『患者:神奈はかなりの重症であったため、通常の治療・延命処置は不可能と判断、よって改造手術を施すことを選択。
本人の意思を尊重すべく、まず比較的軽度の改造を行い意識が戻り次第、合意の下で再改造を施すもの也。
尚、脳改造は行っていないのでご安心を
P.S.
村正宗君の荷物の中にあった資料の数々を拝見。
非常に興味深く、是非ともそれについて話がしたいので朝食後、我が研究所に来られよ。
また神奈さん本人の強い意志により、再改造にこの資料を使うので、より詳細な情報をお教え願いたい。以上
Dr.WILL・オピウス』
天井を仰ぎ、複雑な表情を浮かべる村正宗。
「どうして勝手に見るかな・・・」
問題はそこらしい
視線を戻し、再確認する。
「神奈、本当にいいのか?その・・・改造」
「止むを得ない事だったから仕方ないよ、と言うかもうされてるし『毒を食らわば皿まで』ってね、それに・・・」
一旦言葉を区切り、一息ついて
「このままじゃ・・・悔しすぎるっ!!」
神奈の言葉を聞き、村正宗が椅子から立ち上がる。
その表情は何かを決意したものだった。
「神奈がそう言うなら俺は止めない、でも成功するかは・・・」
言いかけて神奈と目が合う。
強い意志の宿った瞳、まだ幼くとも何者にも屈せぬ戦士の顔
「・・・分かるな、絶対大丈夫だ」
口元に笑みを浮かべて言い切る。
「当然!じゃ、行こう」
神奈も立ち上がり、揃って外へ出る。
そしてその光景に目を見張る。
満々と水を湛えた大きな泉、その周囲に集まるようにして立ち並ぶ店や民家、そしてそこに暮らす様々な人種の人々。
どこを見ても活気が溢れ、人々は強い意志を持って生きている。
争いも貧困も差別も無い、まさに理想郷(アルカディア)
「村正宗、早く行こう」
「あ・・ああ」
呆然とする村正宗の手を引き、歩き出す神奈。
さっきまで居た建物が視界に入る。その軒先に掛かった「個人的緊急医療室」という看板も
(なんだ、個人的緊急医療室って?)
村正宗の疑問をよそに、2人は一路研究所へ向かう。
十数分後
「到着」
神奈の案内で、町外れの研究所に着く。
「・・・・」
しばし無言で頭の中を整理する。
なぜなら、目の前の建物には確かに「WILL・オピウス研究所」と書かれたプレートが掛かっていたが、その大きさはプレハブ小屋程度で、後方には広大な作物地帯が広がっていた。
「地下・・・だな」
「それ以外無いよ、あたしも出てきたときビックリしたから」
他愛の無い話をしながら建物の中へ入る。
2人が完全に中に入ると、床下からモーター音がして床全体が下降し始めた。
(床だけのエレベーターか)
下降している内にコンクリートの床の断面が見え、それを過ぎると特殊な合金で出来た壁に囲まれた。
10mほど下降してエレベーターは停止し、目の前の壁が左右に開く。
「待ってたよ、村正宗くん、神奈ちゃん」
壁の先には彩乃が立っていた。
「彩乃・・さん」
「お姉ちゃん!」
神奈が彩乃に飛びつく
「は?」
村正宗の目の前で2人の少女が抱き合っている。
いつの間に仲良くなったのか、本当の姉妹のように見える。
「あ・・え・・・と」
「あ、ごめんね村正宗くん、じゃあ早速案内するね」
困惑した様子の村正宗を見て、神奈を抱き締めたまま奥に続く通路を歩き出す。
(本当にここは研究所なんだろうか?)
しばらく通路を歩いて思う。
壁一面に刻まれた呪術式、天井に照明の類は無く天井自体が光っている。
両脇に並ぶドアにも「渇」「滅」「運命」「時」など意味不明の文字が書かれている。
そして何より、歩いていて他の研究員の姿を一度も見ていない。
「着いたよ、ってどこ行くの村正宗くん」
「え?」
彩乃に到着を告げられるまでボーッと歩いていた村正宗は、目的地を通り過ぎていた。
「目的地はここだよ♪」
悪戯っぽく笑う彩乃に言われて、慌てて引き返す。
3人の前には両開きの大きなドア。
「入りますよ、ウィルさん」
そう言ってドアの一部に触れる。ドアが左右に開くとそこには
「・・・・・」
「ニャ、ニャッ」
屈んで猫ジャラシを振る振る科学者風の男と、二頭身のネコミミ少女がいた。
「ウリウリ」
「ニャニャ、ニャ」
しばし呆然とする村正宗と、なぜか微笑ましい視線を向ける少女2人。
数分後
「Dr.WILL、客が来ている」
部屋の隅から左半身が機械で出来た男が出てきた。
「ぬ、カルクスくんか、何用だ」
「客が来ている」
カルクスと呼ばれた男が3人を見る。
「あ・・・そう言えば呼んだのだったな。3人とも部屋の入っていいよ」
やっとこちらを向いた男・WILLが手招きする。
「ふ〜、ようやく入れたよ」
「おはようございます」
「失礼します」
三者三様の挨拶をして部屋に入る。
「ようこそ、我が研究所へ」
「ニャ」
WILLが椅子に座ると、床にいた少女も椅子の背もたれの上に移動した。
「立ち話もなんですので、その辺に座りな」
「はぁ・・・」
言われて椅子に座り、改めて部屋を見回す。
一応、ここは応接間のようになっているが部屋自体はまだ奥行きがあり、奥には大きな円卓が置かれている。
そして一番目を引いたのが、その天井近くに飾られた紋章の数々。
「衝撃を与える者」から「バダン」までの、歴代の秘密結社の紋章。
そしてその中央に、十二の宝玉が埋め込まれた六芒星から翼と蛇が生えた紋章が輝いていた。
「あれは・・・」
「『十二天星』、バダンの末裔たる我らの紋章だ」
村正宗の呟きに、壁際に立っていたカルクスが無愛想な声で尋ねた。
抑揚の無い声だが、どこか嬉しげだ。
「バダンの末裔・・・道理で改造手術なんてことが出来たわけだ」
「あれ?驚かないんだね」
妙に納得した声に、彩乃が意外と言いたげな顔をする。
「神奈を改造した技術を見れば分かりますよ。これほど高度な技術は他には無いですから」
「そうそう、村正宗はこんなことじゃ驚いたりしませんよ。お姉ちゃんが改造人間だっていうのも気付いてたんじゃない?」
さも当然そうに答える村正宗に、神奈が肯定の意を支持する。が
「え・・彩乃姉さん改造人間だったんですか?」
「彩乃「お姉ちゃん」!でも本当に気付かなかったの?」
「てっきりこの町の人かと・・・あ、彩乃「姉さん」で妥協してもらえませんか」
本筋とどうでも良い話を織り交ぜた奇妙な会話を交わす2人
「う〜ん・・・分かった「姉さん」で良いよ。で、私も十二天星の一人なの」
「は〜〜〜」
漏れる感嘆の声
「それで十二天星っていうのは・・・」
「と、その話は後にして、まず神奈さんを改造するに当たって村正宗に資料の説明をしてもらいたいんだがね」
話を遮り、WILLが机の上に村正宗の荷物を置く。
簡易霊刀、スケッチブック、メモ帳、各種呪符などカバンの中にあった衣類以外のものを出して並べる。
「まだありますが出しますか?」
並べられた物を見て、村正宗がポケットを漁る。
「あるなら出せ、是非とも見てみたいですので」
「では・・・」
ポケットから呪文字の入ったナイフを取り出す。続けてもう片方のポケット、次に服の背中から、続々とナイフを取り出す。
「これが最後の一本」
最後に短剣を取り出して衣服を正す。出てきたナイフは計78本、一体どこに入っていたのだろう。
山と詰まれたナイフの中から一本取り出し、興味深そうに眺めるWILL
「いい出来だ・・・人間にしては良い物を作りおる」
小さく呟くとナイフを置き、メモ帳とスケッチブックを開く。
「これが神奈の希望した改造案だ。これについて少々不明な点があるのでお教え願いたいね」
「え〜と、どこですか?」
「まずここの部分・・・」
「ああ、ここはこういう風にして」
・・・
「ここはこうして・・・こう考えては?」
「あ、そうですね、そっちのほうが良いかもしれませんね」
・・・・
「で・・ここなんだが・・・」
「あ、いやそこはこうじゃないと・・・」
もはや自分達だけの世界を作っている2人
その後、話は4時間に及び、正午を過ぎた辺りでようやく改造プランが完成した。
「よし、この案を元に早速手術に取り掛かるとしよう」
張り切って立ち上がるWILL、だが
「とりあえずお昼を食べてからにしましょうよ〜、お腹空いた〜」
肝心の神奈、その他が空腹を訴えたので、改造は昼食後に行われることになったのだった・・・
昼食後
「そろそろ準備を始めるとしよう。彩乃よ」
「はい、すぐに準備します」
WILLに言われ、彩乃が部屋から出て行く。
「村正宗公、貴様も来い、発案者として今後の参考にしてもらいたいし、微妙な点での指摘がほしい」
「分かりました、行こう神奈」
「うん・・・遂に手術か」
促され2人も部屋を出て手術室に向かう。
手術台の上に一糸纏わぬ姿で横たわる神奈
その脇に白衣を着たWILLと村正宗、そして
「なんで彩乃姉さんは着替えないんですか?」
「必要ないから、私のすることは一つだけだし」
普段着・夏用セーラー服を着たまま枕元に立つ彩乃。村正宗の問いに曖昧な笑みを見せて神奈を見つめる。
「では手術を始める、彩乃・ヴァルキュア「歌」を」
「歌?」
WILLの言葉に疑問符を浮かべる、が・・・
“♪舞い落ちる 月の欠片 輝きは 銀の雫・・・”
(!! この歌はっ)
彩乃の「歌」を聴いた途端、疑問符は感嘆符に変わった。
これはあの時、消え行く意識にも関わらず心に染み入った優しい調べ。
“・・・月明かり ただ静か 在りし日を 映し 切々と 彼を想い 夜に抱かれ 姫眠る・・・♪”
しばし聞き惚れていたが、不意に聞こえた風切り音で我に帰った。
そして目にも止まらぬ速さでメスを振るうWILLの姿を見た。
いつの間に眠ったのか、ピクリとも動かない身体を白銀のメスが容赦なく駆け巡る。
「惚けてしまっていたようだな」
メスを振るいながらWILLが話しかける。
「無理もない、麻酔代わりにしている「歌」ですからね。目が覚めた様なら我のしている事をしっかりと分析し、記憶せよ」
淡々と喋るWILL、しかしその手の動きは全く衰えることはない。
村正宗は手術の光景を見て、その状況を分析し始めた。
(人体を改造するにはこれ程の速さが必要なのか・・・それに麻酔代わりに使っているというこの「歌」は・・・)
神奈の方に目を向け、切開部を観察する。
(余計な傷が消えていく・・・なるほど音は分子の振動と揺らぎ、音波による麻酔効果は元より、振動数を調節して同時に傷の治癒もしているのか)
次々と行われる工程を目で追い分析する。
・・・その後も手術は順調に進み、6時頃にほぼ全ての工程が完了した。
結局、何の指摘もすることなく手術は終わった。
「よし、では次に衣服の製作だ。エアル・ラム!」
手術を終えてすぐ、今度は身体にあった服を作ることになった。どうやら今日中に全て終わらせる気らしい。
WILLの呼びかけに、手術室の隅に魔方陣が浮かび、一人の少女?が部屋に現れた。
(時空魔方陣!?)
「は〜い、呼びましたかウィルさん」
元気に答える少女?は変わった格好をしていた。
背格好は12歳くらい、小柄な体に羊の頭を模ったフード付きのモコモコしたローブを羽織っている。
ローブの下は長袖のシャツと短パンで、ショートカットの髪型とその無邪気な顔に非常にマッチしている。
「これに記された通りに作ってくれ、期限は今日中、出来るだけ早く」
「了解なのです、がんばって作るのです」
どうやらこの少女?がエアル・ラムらしい
村正宗のメモ帳を受け取ると、また足下に魔方陣が現れあっという間に姿を消した。
「さっきの子は?」
「エアルちゃん?私と同じ十二天星で、ああ見えても男の子なんだよ」
嬉々として説明する彩乃(説明になってないが)
「・・・男の子?」
「うん、ちょっと女の子みたいだけどね。それでね、服を作るのがとっても上手なんだよ。私の服もエアルちゃん特製なんだよ」
「服作りが得意って・・・あのメモ帳に書いてあるのは只の服じゃありませんよ」
あのメモに記されているのは『対呪力装甲』の試作案。
霊子攻撃・・・魔法による攻撃ダメージを軽減、または無力化する特殊装甲で、製作には複雑な呪術法式を施さなければならない。
「大丈夫、服や防具作りに関してはエアルちゃんの右に出る人はいないから」
能天気な声で返す彩乃。ともかくこれで神奈の改造手術は全て終了した。