3年前・・・
砂漠の上空を1機の小型飛行機が飛んでいる。
2基のプロペラを回し、ガタガタと不気味に震える機内に対照的な顔をした少年と少女が座っている。
「へえ〜、砂漠ってホントに砂だらけなんだ〜」
窓から下を見下ろし、無邪気にはしゃぐ少女
「村正も見て見てホラ、すごいよ」
「・・・それ嫌味か?それに俺は妖刀じゃない」
少女の隣に座っている少年が青い顔をしながら応答する。
「分かってるよ村正宗、それにしてもまだ直んないんだ高所恐怖症」
「ほっといてくれ」
村正宗と呼ばれた少年がそっぽを向く。
しっかりと窓の反対方向に
「でも村正宗って呼びづらい名前だよね」
「この名前付けたの神奈の父さんだろ、文句はそっちに言ってくれ」
矛先違いのイトコの言い分に、そっぽを向いたまま答える。
「そうだね」と言いながら苦笑するのは神奈と呼ばれた少女
今2人は夏休み最後の思い出作りとして、アジア横断旅行を敢行している。
当初は国内旅行だったのだが、途中で乗る便を間違えてしまい、戻るのが面倒だというのと料金が格安だった事から予定を変更し今に至る。
「でもラッキーだよね村正宗は、こんな美少女と2人っきりで旅行できるんだから」
悪戯っぽく身を寄せる神奈
「同性愛者に興味は無いよ」
そっけなく返す
「むぅ、私同性愛者じゃないよ、ただ男の子より女のこの方が好きなだけ」
「なら同性愛者予備軍だ、これなら文句・・・っ!」
言いかけて目を見開く村正宗
「どうしたの?」
神奈が心配そうに顔を覗き込んでくる。
次の瞬間
「伏せろ!」
叫ぶと同時に神奈に覆い被さる。
刹那、突如エンジンが爆発し、破片が窓を突き破る。
そして飛行機は異常な速さで墜落を始めた。
「神奈、神奈・・・神奈!」
「ん・・・」
村正宗の呼びかけにうっすらと目を開く神奈
起き上がって辺りを見回すと、遠くに飛行機の残骸が見えた。
「あれ、なんで?確か私たち飛行機と一緒に・・・」
「これを使ったんだ」
そう言って煤けた紙を見せる。
半紙の半分くらいの大きさで、表面に文字とも記号とも付かない幾何学的な紋様が書かれている。
「お札?」
「古代の呪術をアレンジした転移の呪符だ、まだ未完成だったが何とか役に立った」
言い終わると同時にボロボロと呪符が崩れていった。
「ふ〜ん、それにしてもよく咄嗟で・・・」
そこで神奈は初めて村正宗が目を閉じていることに気付いた。
「また・・・見えたんだ」
悲しそうに神奈は言った
『未来予知』
村正宗の持つ特殊能力で、瞬間的かつ断片的に未来の光景を見ることができる。
それがどんなタイミングで発動するかは不明だが、一旦発動すればしばらくの間、目を開けている限り持続する。
この能力のせいで村正宗は周囲から奇異の目で見られていた。
何度か在らぬ疑いを掛けられたことさえある。
小さい頃から一緒にいた神奈は、そのことをよく知っている。
「ああ、ちゃんと役に立ったのはこれが初めてだ」
不似合いに明るく答える村正宗
彼自身はこの能力を気に入っており、さっきの呪符の様な霊的な事への研究を始めたキッカケにもなっている。
「もういいか」
目を開ける
「っ!」
「わっ!」
反射的に神奈を抱え飛び上がる。
ドォォォ・・・ン!
さっきまで2人が居た所に砲弾が炸裂し、砂煙が上がる。
着地した村正宗は、砲弾の飛んできた方向を見る。
そこには装甲車が一台、そして人に似た何者かの集団がいた。
村正宗の目付きが鋭さを増し、眉間に皺がよる。
眼鏡越しの視力が、集団の異様な姿を捉えたからだ。
ところどころに継ぎ跡がある歪な体、左右で長さの違う腕、腕と同じ様に長さの違う、しかもそれを無理矢理引き伸ばし金属で補強した両脚、目・口・鼻がでたらめ且つ複数付いた髑髏じみた頭部。
そんな人間の出来損ないの様な身体に、無数の銃器が埋め込まれている。
「うっ・・・」
僅かに遅れて集団の姿を見た神奈が口元を押さえる。
まともな人間なら明らかに嫌悪感を覚えるその姿。
しかし、村正宗の眉間に皺がよった理由はそのことではない。
『Kill me♪(私を殺して)』
彼らの体に書かれたその文字、そして目から流れ落ちる雫。
「なんて事を・・・」
村正宗の手に力が篭る。
神奈もそのことに気付いたのか、体が震え始めた。
「降ろして、村正宗」
「・・・」
無言で神奈を降ろす。
「村正宗・・・あの人たち・・・辛そうだよ」
「ああ、あんな姿にした奴は絶対に許しちゃいけない」
呟くように言葉を交わし、装甲車を睨みつける。
「やるか・・・」
「うん」
背中から木刀を出し、神奈に藍色の紐を渡す。
手渡された紐で神奈が髪をまとめる。
「何とかなると思う?村正宗」
「何とか“なる”んじゃない、何とか“する”んだ」
暗黙の了解、それを敢えて聞く神奈に真剣に答える村正宗。
そして・・・
「『飛翔』!!」
村正宗が神奈を抱えて飛び上がる。
砲弾を避けたときと同じ、人間離れした跳躍で一気に集団の中に飛び込む。
「おおおっ!」
「はあっ!」
着地と同時に傍に居た数体を打撃で弾き飛ばし、左右に分かれる。
「げ・・がぁぁ」
ガガガガガガッ・・・!!
2人を追うように体の銃を乱射する。
撃つ度に衝撃で体が震え、埋め込んだ根元から血が吹き出る。
「せぇい!!」
姿勢を低くして接近、銃と銃の間に蹴りを入れる。
「やっ!」
振り向き様に肘鉄。
打撃を受けた2体が血を吐いて倒れる。
一瞬の戸惑い
「とっ!」
バララララッ!!
自分に向けられた銃口が目に入り、慌てて身を逸らす。
「感傷に浸ってるヒマなんて・・・」
撃ってきた奴目掛けて突進
「無いかっ!」
双掌打。衝撃で吹き飛ばす。
「せぇぇ・・りゃっ!」
跳躍、延髄に回し蹴りを叩き込む。
そんな調子で次々に撃破していく。
苦しませず、一撃で確実に仕留める・・・その姿、闘神の如く。
一方、村正宗は
「でやあああ!」
手にした木刀で、一体一体を確実に“斬って”いく。
普通の木刀には出来ない芸当、しかし村正宗の木刀は表面に刻まれた呪文字を媒体に、精神の一部を宿らせた簡易の霊刀である。
そのため精神的な疲労感が出るが、小出しにしているのか疲労の兆しは無い。
「ふぅあ!」
横薙ぎに数体をまとめて斬る。
飛んでくる弾を敵を盾にして防ぎながら、村正宗は違和感を感じていた。
敵が弱すぎるのだ。
一応、呪術などで多少の能力強化はしているが、その分を差し引いてもギリギリ勝てそうだ。
(何かある)
そう思い、神奈と合流しようと動きかけ
「やはり失敗作ではこれまでか」
どこからか声が聞こえてきた。
声のした方を向くと、装甲車の屋根から一人の男が出てきた。
「出来損ないの屑どもめ、こんな任務もこなせないのか」
憎々しげに、しかしどこか愉しげに男は言った。
その言葉に、村正宗は嫌悪感を覚える。
そして男に何か言おうとした瞬間、男がパチンと指を弾いた。
メキ、ビシ、ベキャ・・・
生き残った者達が、突如両手で全身を掻き毟り始めた。
掻き毟った部分が灰色に変わり硬質化する。
ビシャ、ズル、ベショ・・・
同時に倒された者達が肉片に変わり、変化する者に取り込まれた。
「こうすれば貴様ら屑も役に立つだろう。さあ行け!行って任務を果たすのだ!!」
男が喋り終えるのと同時に変化が終了した。
「びゃしゅおおおおお!!」
「ぎゃりりりりり・・・」
「ぐばががが・・・」
もはや人の形は残っていない、灰色の怪物と化した者達が村正宗達に襲い掛かった。
「ぐきゃあぁあぁ!」
一体が村正宗に腕(?)を振り下ろす。
「っと、うわっ!」
何とか回避したが、その衝撃波が村正宗の体を打つ。
「くう・・・おおおっ!!」
反撃に木刀を振り下ろす・・・が
キィィ・・・ン
木刀が灰色の肌に弾かれる。
「なっ・・・ぐはっ」
体勢を崩した村正宗に、別の一体の殴打が決まる。
吹っ飛ぶ村正宗。
「ぐうう・・・・」
木刀に支えに何とか立ち上がるも、間髪入れず今度は金属製の脚(?)で蹴られ、再び中を舞う。
「がはぁぁ・・・」
落下し激しく地面に叩き付けられる。
朦朧とする意識の中、何とか立ち上がろうとする。
不意に横に何かが落ちてきた。
渾身の力を込めて立ち上がり、消えかけた意識でそれを確認する。
(神・・奈・・・)
そこには両腕両脚が千切れ、腹部に大きな穴を開けた神奈の姿があった。
絶望と悔しさに倒れ付す。
・・・・・
“♪舞い落ちる 月の欠片”
その朦朧とした意識の中に何かが聞こえてきた。
己の存在すら遠くに感じるのに、それはハッキリと聞こえていた。
“輝きは 銀の雫 遥か遠く 彼方”
歌。それもこの世の者とは思えないほど美しい歌声
“地平線には 萌える草 水面には 蒼い風 泡沫の まぼろしが 銀嶺の 夜を繰る♪”
月の光のように・・・やさしい歌