『襲来』
天之兄妹の「特殊な事情」の撮影に成功したシャムシールは、光学・呪力迷彩を纏ったまま自らの
アジトへ向かっていた。
これで自軍が有利になるという確信からか、その口元には笑みが見える。
そして駅前の広場を通り過ぎようとした時
ゴワンッ
「なわっ!」
シャムシールの頭にタライが降って来た。
チャン、チャチャンチャン、チャーチャチャチャチャッチャー、チャチャチャチャチャンチャッチャー♪
同時にどこからか流れてくる、何となく音程の外れた音
「そこの怪しい男!ちょっと待て」
「なに!?」
タライの一撃を受けて迷彩が解けたシャムシールが辺りを見回す
が、声はすれども姿は見えず
「何者だ!」
迷彩があるのに関わらず自分にタライを当てた相手に警戒し、曲刀を抜き放ち叫ぶ
「彩りましょう原稿を、描いてくれよう禁忌の世界…」
近くの電柱の“陰”から声の主が現れる。
「秀麗なる小説家、天之 川玲(せんれい)参上!そのカメラこっちに渡してもらおう!」
「………」
目が点になるシャムシール。だがそれも無理は無い。
出てきた者の姿があまりにも…あまりにも変だったからだ。
無精ひげを生やした端正な顔、頭にネクタイを巻き、古びたアロハシャツと神社の巫女が着る赤い袴、「素敵変人」と書かれた陣羽織を着て、背中に「正装↓」と書いた大看板を背負い、片手に大き目のトランクを持っている。
制服着て高校言ってるシャムシールとタメを張る変さ加減だった。
そいつが失礼にも人を指差し、偉そうな口調で向かって来る。
「…天之…そ、そうか貴様あの2人の血縁者か」
「如何にも!私の“娘”と“甥”の秘密、お前達になど渡しはしない!」
大仰な動きで宣言する川玲を冷静な目で観察する。
川玲の言った重大な言葉には気付かずに。
(魔力は…感じられん、あのトランクにも武器になりそうな物は入っていない、ただの一般人か)
分析を終えると余裕の表情を浮かべ曲刀を突き出す
「笑わせるな、この超魔科学イスラム戦士団大幹部シャムシールに、貴様如き一般人が勝てると…
思うな!」
一閃、川玲に向けて曲刀を振るう。
ズシャッ!!
たやすく両断され血の噴水に変わる川玲
「愚か者めが…」
「はてさて、それは誰ですかな?」
「なっ…!?」
振り返ると、先程斬ったばかりの川玲が涼しい顔をして上半身と下半身のズレを直している。
くっついた肉体はすぐに再生し、傷一つ残っていない。すこし背が高くなったが。
「どうだ!身長が2センチ伸びたぞ」
「貴様…何者だっ!!」
「生物(なまもの)、要冷蔵だそ、気を抜くとすぐ腐るから」
「…おのれ…得体の知れん奴め、これならどうだ!」
マントの下から魔導書を取り出し、巨大な火炎弾を出しぶつける。
直撃する火炎弾。しかし
「ええじゃないか、ええじゃないか♪」
「なにぃ!?」
炎の中から川玲が出てくる。やはり服が焦げているが体には煤が付いているだけ。
降りかかる火の粉をお札に見立て小躍りしている。
正直頭を抱えたくなったが、気を取り直して、今度は2冊出し、混合魔法を繰り出そうと構え…
「ドーーーン!!」
「!!」
シャムシールに川玲の人差し指が突きつけられた。
ガシャン!!
砕け散るカメラ。そして膝から崩れ落ちるシャムシール。
壊れたカメラからフィルム取り出し、踏み潰す。
「ふん、これで良し…しかしどこから情報が漏れたのか…あの2人には結ばれてもらわねば困る」
顔を苦渋に歪ませ、顔とは反対に愉快そうに吐き捨てる。
「そう、2人は結ばれねばならない、禁断の兄妹愛を成就させ、結ばれねば!」
トランクを拾い、シャムシールに一瞥をくれる。
「そのために、このような“余計な演出”はノーサンキュー」
陶酔した顔でトランクからノートを取りだし、近くの塀の上に置く。
「全ては!My Dreamの為に!!」
ノートに向かって右手を上げて宣言する。
そのノートの表紙には「水奈の日記(裏)」と書かれている。
そしてその下に(仮タイトル)「兄妹禁忌〜実録!禁断の兄妹愛、成就までの日々(はぁと)〜」
小説作家、天之川 玲(あまのがわ れい)の現在製作中の小説である。
「それと兄さんに頼まれた天之家の秘密守護の役割もなぁ…ふっふっふ…ひひひひ…くっくっくっく…
ふひゃははははははははは!!!!」
奇妙な高笑いを残し、駅の中へと消える。
数分後、目覚めたシャムシールは、盗撮した写真や計画について全ての記憶を失っていた。