ぶすっ

「っ!?」

首筋に何かが刺さった。その痛みで目を覚ますと、目の前に扇状の仮面をつけた男がいた。

「起きたか、すまぬのだ、いきなりこんな事して」

苦笑混じりに男が喋ると、仮面の前を赤い棒が何度か揺れ、真ん中で止まる。手には空になった注射器が握られていた。

「寝不足で覚えてないだろうから自己紹介。俺はプラト・リブラ、第十星将だよ」
「あー・・・あの天秤の人ですね。今何したんですか?」

覚醒しきってない頭で訊く。同時に足下に奇妙な浮遊感を感じた。

「ウィルに頼まれてちょっとね。あとココは・・・」

足下を指差す。見てみると何やら丸い皿のような物があり、その下には・・・

「・・・っ!!!」

何も無い。村正宗とリブラは宙に浮いていて、地面が遥か下に見える。青い顔して慌てて覗き込むのをやめる。

「地上から約600m上空だよ。気持ち良い風が吹いている」

プラトの顔の前をまた赤い棒が往復する。どうやら感情を表しているらしい。

「なぜ高所が恐い?」
「え?」
「『飛翔』だったよね、灰硬人・・・最初に君達を襲った連中と戦った時に使ったのは。あの時も結構な高さだろ、それなのに何故恐い」

質問を受け青褪めていた顔が元に戻り、少し考えて

「そういえば・・・気にして無かった」

また下を覗き込む。さっきより高度が上がったようだったが

「どうよ?」
「平気・・・みたいです」
「何事も気の持ちようだよ、じゃあ・・・行って来なさい!」

ドンッ

背中を押され皿から出た、イコール

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・!?!?!?」

落下。一直線に地面に落ちていく。



落下開始から数十秒後

ドン!

村正宗は土煙を立てて地面に

「ぉぉ・・・お?」

着地した、それも全くの無傷で。何が起こったのか分からず首を傾げていると、頭上からヒラヒラと紙が落ちてきた。拾って読んでみる。


『村正宗くんへ
君に依頼したいことが出来たので場所を変更した。驚いてるかと思うが、続きを読む前に自分の体を見てくれ』

書かれた通り見てみる、と

「なっ!?」

素肌のはずの部分が青い装甲のような物に変化していた。薄く体にフィットしているが、叩いてみると硬質的な音がする。

『君の怪我を治す際に使ったナノマシン皮膜だ。
依頼内容はツールの回収した兵器の奪還。我々では少々困難なのだが、この皮膜と君の戦闘センスがあれば可能だと判断した。それと君の
精神力の度合いを測るためプラトに狂』

ここまで読んで

「!」

ガキンッ!

背後から殺気を感じ、背中から木刀を抜きソレを受け止めた。

「あはは!すごい村正宗、見ないで受け止めた!」

振り返ってみると10歳くらいの少女が居た・・・両腕が大砲と刃物になっている以外は。

「村正宗もコオネと遊ぼ、ここに居た皆みたいに」
「なに?」

周囲を見回すと・・・死体、死体、死体の山。上半身が吹き飛んでいたり、胴から2つに分かれていたり、明らかに人間の手で行えるもの
ではなかった。

「コオネが車から出たらね、みんな銃を向けてきたの。だからコオネみんなと遊んでね、殺したんだよ!」

言いながら大砲を向け、撃ってきた。無邪気な笑顔で平然と両腕の武器を振り回す。
そんな姿に困惑しながら攻撃を避けるべく動く。

ドクンッ!

木刀を構え体勢を調えた瞬間、村正宗の中で何かが起こった。脈が早まり、喉が異常に渇くのを感じる。


(血・・・渇く・・・血が・・欲しい・・・血)

頭に響く声、貪欲な獣の如き衝動。

「ぐっ・・・!」
「あははは!村正宗、目が真っ赤ー!!」

無邪気に笑うコオネの言葉どおり、村正宗の瞳は赤く染まり犬歯が鋭く尖る。そして全身に生じる・・・渇き。

「がが・・・ぐぅ・・」

その中で必死に意識を持たせながらコオネに視線を向け

斬!

発射寸前だった右腕の大砲を切り落とす。一瞬呆然とするコオネ、だが

「あははははは!!凄ーーーーい村正宗!!」

ズリュ

一瞬で再生、更に左腕の刃物で連撃。

「もっとコオネと遊ぼーーー!」
「ぐ・・・これは・・遊びじゃ・・・ない!」

木刀でソレを受け止め、途切れながらも言う。

「これは・・・殺し合いだ!楽しくなんか・・・ない!」
「えー?殺すの楽しいよーー?さっきのいっぱい殺したけど、コオネ凄く楽しかったもん!」

食い違う言葉、無邪気という名の狂気。

「人がバラバラになって中身が飛び散って、血がいっぱい出て死んじゃうんだよ」
「!!・・・うっ・・ああああああ!!」

一瞬、頭の中が真っ白になった。


気が付けばコオネは自分の足下で座り込み、腕は木刀を振り上げていた。

「血が・・・コオネから血が出てる・・・」

差し出された指先、座り込んだ内腿に血が付いている。

「どうしよう・・・止まらないよ・・・・死んじゃう・・血が出たらみんなみたいに死んじゃうよう!村正宗ともっと遊びたいのに・・・
イヤだよう」

涙を流し震えるコオネ、いまだ流れ続ける血。それを見た村正宗は

なでなでなで・・・

コオネの頭を優しく撫でた。
そうされたのに驚いたのか、泣き顔のまま村正宗を見上げるコオネ。

「大丈夫・・・死なない」

撫でながら、赤い瞳も鋭い牙もそのままの顔で優しく微笑む。コオネも落ち着いたのか、口元に笑みが浮かび始めた。

ひゅっ・・・

「うわっ」

何かが横を通り過ぎ、背後から男の声がした。振り返り声のしたほうを見ると

「これ以上この子達に妙な真似するなら・・・私が許さないよ」
「ひ・・ひいいい!」

長い髪を大鎌のような形にした彩乃と、切断されたライフルを手に腰を抜かしている男性兵士がいた。

「レクイエム(鎮魂歌)を歌いましょうか?」
「お、お前は・・・し、死神の歌姫!」

怯えた声で兵士が叫ぶ。後姿の彩乃は、今までの姿が偽りだったかの様な殺気を放っている。

「わ、分かった何もしない、だから・・・」

言いながら拳銃を取り出し彩乃に向ける。

パチンッ

どこかで指を鳴らす音、そして

「グビョアアアアア!!!」

一瞬にして巨大な灰硬人に変わる兵士。更に

ドドドドドドド!!

巨大な戦車のような物が地響きを上げて数体現れた。

「ガンヘッド・・・なら」
「ご名答、十二天星第九星将、彩乃・バルキュア嬢」
「キース=シルバー・・・いえ、マッドハッター(帽子屋)」

彩乃が巨大戦車―ガンヘッドを見上げる。視線の先には土色の髑髏―マッドハッターがいた。

「彩乃嬢、コオネは我らの物だ、返して・・・」
「却下!こんな可愛い子を渡すなんて絶対却下!ねぇ村正宗くん」
「応!絶対渡せませんよ!!」

突然の声にも関わらず、1ミリ秒の速さで即答する。

「てことで、お断りだよ、帽子屋さん」
「そうか・・・しかし、一人でこの数を相手にするのは大変だと思・・・」

ズドォォン!

ガンヘッドの一体が突如爆発する。続けて複数の影が飛び出し、他のガンヘッドに突っ込んでいく。

「残念、私一人で来たなんて言ってないよ」
「おのれ・・・!」

ゴウ!

「クソッ!外したか!」

衝撃波を纏って降ってきたプラトがおどけた口調で悔しがる。

「他にも来てるんでしょう?でも私達も勢揃いだよ♪」

ニコヤカに彩乃が宣言し、マッドハッターの乗っている以外のガンヘッド、灰硬人が破壊される。

「十二天星・・・『ここに集結!!』

力強い声と共に並び立つ十二の影、天に居並ぶ十二星座の化身達。

「さて、覚悟はいいかの?」

山羊頭の第一星将、ガラド・カプリスが背中から伸びる装甲帯を蠢かしながら確認を取る。

「無くてもやるがネ」

雫型仮面を被った第二星将、龍(ロン)・アクアリウスが背中と両腕に付いた大砲のような物の先端を前方に向ける。

「さぁ・・・」
「祭りの始まりだ!」

そう叫び、魚頭半魚人の第三星将、ウォスト・ピスクと牛頭マタドール姿の第五星将、ディム・タウロスがガンヘッドに突撃する。

「くっ・・・おのれ!」

あわててガンヘッドから飛び降り、両腕を星将達に向ける。

「喰らえっ!」

ガンヘッドの爆発と同時に、マッドハッターの両腕から荷電粒子砲「ブリューナクの槍」が放たれる。が

「グラビティー・ボルテック!」

立ち塞がったプラトの構えた大皿に受け止められ、反対側の皿から重力衝撃波にして返された。

「ぐおっ!」

直撃を受けマッドハッターが吹き飛ぶ。が、流石に幹部の一人とあって致命傷にはなっていない。すぐさま第二、第三撃を放つ。

「なんのこれしき!」

またもやプラトが受け止め、衝撃波にして返す。



プラトがマッドハッターの相手をしている間に、他の星将達の前に灰色の奇怪な生物群が現れた。

「灰硬獣キメラか、また妙なもん出しおってからに!」

獅子の獣人、第八星将レズィー・レオンが右腕から黒い刃「獅子の大鎌」を出し、相対する灰硬獣を切り伏せていく。

「エアル!2人の護衛任せる、しっかり護れ!」
「了解なのです!」

羊のフードを被り・・・というか一体化し、ローブがモコモコになり、羊そのものになった第四星将エアル・ラムが短い手で敬礼すると、
村正宗達の傍に寄り

「クラウドウォール!」

ローブのモコモコ・・・否、羊毛が3人を覆う壁を作る。ちなみに覗き穴付きで、戦況もしっかり見ることが出来る。

「あ!アヤちゃん、後ろ危ないのです!」

エアルの声に、彩乃が横に飛び退く。避けた後に幾多のレーザー光が地面に突き刺さる。

「バロールの魔眼・・・ということは」

瞬間、周囲の風景が塗り替えられ、無数のレーザー光が雨の如く降り注いだ。

「うわっと!あーやっぱりマーチヘア・・・バイオレットの擬似空間か」

レーザーを回避しながら周囲の状況を把握する。
『擬似空間』
特定の範囲を微粒子ナノマシンで覆い、光の屈折率を変えて作った偽の空間。更にナノマシンの光反射角を揃えれば、太陽光線を強力な
レーザー光に変えることも可能。

「っと!エアルちゃん、そっち大丈夫?」
「大丈夫なのです、ボクの障壁は簡単には破れないので・・・ひゃ!」

突然エアルの障壁の一部が切断された。中に被害は無かったがこれは・・・

「空間断裂、魔剣アンサラーか!」

即座に立ちはだかるエドワードの前に、全身棘だらけの四足獣が現れた。

「チェシャキャット、やはり貴方か!」
「・・・・・」

無言のまま尾を振り上げ、魔剣を発動させる。

「ぐあっ・・・くそ!」

両腕と左足を切り落とされるも、癌細胞並みの細胞分裂からなる高速再生で即座に復元、ハサミと節足で切りかかる。



一方擬似空間の外では、樹木を思わせる体表と馬脚状の脚部を持った第十二星将アーツ・ボーテックと、体の半分が回路が入った機械、
もう半分を護膜で覆った第六星将カクルス・ジェミニが、並んで地平線を向き・・・

「標的確認、目標アームスレイブ小隊・・・マイクロウェーブ照射」
「照準セット、2連装37mmリニアマシンガン「アレトゥーサ」掃射!」

ヴン!
ブヴヴヴヴヴヴヴヴ!

肉眼では確認できない距離にいるアームスレイブ小隊に向けて、2人の遠距離攻撃が掛けられ、時折爆発音が響く。

「2q先より輸送船と思われる航空機発見・・・ガンヘッド4体降下を確認・・・」

言うなり左腕を突き出す。先端の一部が上下に分かれ「弓」の形状になる。

「圧縮プラズマアロー・・・発射」

肩部から大量の空気を吸引、先端から赤熱したプラズマ弾が撃ち出され、また爆発音が響く。

「降下したガンヘッド全機にハッキング完了・・・機能停止を確認」

黙々と殿軍を勤めていた。



「大丈夫かいガラドの旦那」
「なに、平気じゃてこのくらい、ではまた行くとしますかの」

先程より少しはなれた地点で、ガラドと龍が高速サイボーグの一団と相対していた。

「しゃっ!」

単分子ワイヤーが八方から投げかけられる。それをガラドが装甲帯で切断し、龍の大砲からの水流で敵を押し潰していく。

「そういえばグリフォンの姿が見えんの」
「さっきそれっぽいのを潰した気がしたけど・・・」

いつ切断されるか分からぬ状況の中、2人は冷静に、いやむしろ余裕を持って行動していた。



再び擬似空間内、さっき話しに出てきたグリフォンは、ディムと蠍の外骨格を模した装甲を纏った第十一星将マトラ・スコルプの2人組と
戦っていた。

「ほっ、はっ、せい!」

グリフォンの両腕とディムの持つサーベル、マトラの肩から生えたハサミと腰から生えた毒針が交互にぶつかる。

「ディム、やっぱり2人がかりだと卑怯だって気が・・・」
「俺はザコじゃない!貴様らごとき何人来ようと負けん!」
「・・・ザコだ、これで沈め!サウズンズクリンカー!!」

ドドドドドッ

ディムの高速連続突きがグリフォンの体を貫く。

「ぐあああああ!」

見事に宙を舞うグリフォン。もはや幹部の面影は無く、すっかりザコ扱いで倒された彼を、2人は同情するような目で見送った。



絶え間なく降り注ぐレーザー。しかし何故か当たる気がしない。そうして回避を続けてる内にエドワードと合流。

「あ、エドワードくん、大丈夫?」
「このくらい直ぐ治ります」
「!」

突然出てきた彩乃に驚いたのか、魔剣が擬似空間の一部を切り裂いき、一瞬その隙間からマーチへアの銀色の姿が見えた。

「アヤさん!」

エドワードに視線を向けられ頷く彩乃。

「♪Uh〜〜・・・・」

彩乃が歌い始める。歌声は直ぐに高音域に達し、近くにあったガンヘッドの残骸が崩れ落ちた。
「歌」は更に広がり、擬似空間を構成していたナノマシンが分子レベルで分解、元の風景が戻った。

「おう、アヤ!ぬ、そこにいるのは・・・バイオレット」

灰硬獣を全滅させたレオンが空中にいるマーチヘアに視線を向ける。

「なぜお前は戦う・・・そんなに悲しそうな顔をして」
「それは・・・私がそういう存在・・だから・・・そうでしかないから」

レオンの問いに、マーチヘアが動揺の色を見せる。同じ様に彩乃とチェシャキャット・・・キース=グリーンも対峙し

「グリーン・・・」
「アヤノ、僕は君を傷つけたくない。でも」

辛そうに目を伏せる。その時

「「代行者の名をもって、主よ、我が血肉、貴方に捧げる」」
「!!」

きぃぃぃぃ・・・

2柱の光が天へと伸びる。

「すまないのだ!マッドハッターが贄になった!」
「グリフォンもだ!油断した隙に・・・くそっ」

プラトとマトラが慌てて駆け寄り叫ぶ。言われてその方向を見ると、グリフォンとマッドハッターが光に包まれ、背中から純白の翼が広が
っていた。

「天使降臨・・・いや、まだ間に合う」

走り出そうとした瞬間、壊れたはずのガンヘッドが動き行く手を塞いだ。

「ガンヘッド!?・・・邪魔させない気か」
「皆どいて!」

彩乃が叫ぶ。周囲の空気が収束し、眼前へと集結していく。

「音の槍(ハーモニック・ランサー)か」
「♪〜・・・・」

ィィィィイ・・・ギュン!

彩乃の前面から高音の塊が放たれ、行く手を塞ぐガンヘッドを貫き粉砕した。

「「今だ!」」

レオンの額に宝石のような物が現れ、左の拳の先に獅子座の記号が。同時にアーツの右目にも同じ宝石が現れ、左腕の先端に射手座の記号
が浮かび、矢の先端に渦を巻いて吸い込まれる。

「レオ・パーーーーンチ!」
「インドラの矢!」

レオンの拳が記号をぶち抜き、アーツが矢を放つ。
翼を広げていた2体に攻撃が当たると、頭上に光輪が現れ、瞬時、爆散した。



「任務完了・・・これより帰還する」

カルクスとディムが戻り任務完了が宣言され、足下に魔方陣が展開される。
バイオレットとグリーンはいつの間にか消えていた。




街に戻ると彩乃、カルクス、エアル以外の星将は、皆それぞれの任地へと戻っていった。
なんでも協力体制にある周辺都市を防衛し、ツールの活動を牽制しているとのこと。

「で、どうだったかな?お姉ちゃんの活躍は?」
「レーザー避けてるのと、ハーモニック・ランサーでしたっけ?あれ使ってるのしか見てませんでしたが」
「がーん!うう・・・頑張ったのにショックだよ」

落ち込む彩乃。そんな他愛の無い話をしながら研究所へと戻る。


「おかえりー」

研究所に着くと、完成した衣装を着た神奈が出迎えた。設計図の通りアイヌ民族衣装(女性物)に、半物質化した龍を巻き付けている。

「どうかな?村正宗」
「ああ、よく似合ってる。性能の方はどうだ?」
「問題無いのです、ちょっと難しかったけど注文どおりに仕上げたのです」

フードを下ろしたエアルが、えっへんと胸を張る。

「ちょっと動き辛いけどね」

裾をつまみ苦笑する。

「これから改良していけば良い。それよりWILLさんはどこに・・・」
「ここに居る。村正宗くん、依頼を受けてくれてありがとう」

いきなり背後に現れて頭を下げるWILL。少し驚いたがそれよりも

「WILLさん・・・プラトさんが俺に注射した薬、あれは一体なんですか?精神の強さを測るとか書いてましたが」
「ああ、昔アメリカで流行った「狂血病」という病気のアンプルだ。純度100%だったが・・・自力で戻るとは」

瞳も牙も元通りになっている村正宗を見て、しばし考え込む。

「あれ?村正宗、その子は?」
「依頼で奪還してくれと言われた兵器・・・だと思う。いまはもう違うけど」
「コオネだよ。コオネ=ペーネミュンデ」

神奈や彩乃に自己紹介すると、素早く村正宗の服の袖を引っ張り、何かを期待するような目で見上げる。

「・・・・・」

なでなでなで

「えへへへへ・・」

無言でコオネの頭を撫でる。その様子を見た神奈が溜息混じりに

「また一人「撫で魔」の犠牲者が・・・」
「撫で魔?」
「そう、村正宗は病的な撫でマニアなんです。今まで何人の少女がこの右手の前に陥落して言ったことか・・・」
「人聞き悪いこと言うなよ神奈」
「本当のことでしょ。犠牲者第一号の私が言ってるんだから間違いないよ」
「ぬう・・・」

神奈の言葉に反論するも、事実なのですぐ返す言葉を失う。

「いいなぁ・・・」

彩乃がポツリと呟く・・・その顔はどこか寂しげだった。


暫くして考えるのをやめたWILLが注射器で村正宗の血を採取し、コオネを連れて研究所の中へと入っていった。なんでも調べたい事が
あるとのこと。
変なことされないか少し心配だったが、彩乃が「ウィルも私達と同じで小さい子に優しいから大丈夫」と言って近くのベンチに腰掛けた。

「私達って、彩乃姉さんも小さい子好きなんですか?」
「もち!小さい子だけじゃなく少し下までOK。男の子でも女の子でも可愛ければみんな弟妹だよ♪」

愉しそうに答え、隣に座らせた村正宗の方を向き、イタズラっぽい笑みを浮かべる。

「そういえば神奈ちゃんから聞いたんだけど、村正宗くんこういうのに弱いんだって」
「へ?はうっ!」

村正宗の横腹を指で突っつく。

「ちょっ・・・やめ・・あう・・・くっ・・」
「お、良い反応だね♪こことかどうかな?」

彩乃の指が脇腹からヘソの辺りへと移動していき、それに合わせて身悶えする村正宗。

「あ・・くっ・・・っ何すんですかいきなり!!」
「あははは、敏感だねぇ村正宗く〜ん♪赤くなった顔、なんだか可愛いよ♪」
「からかわないで下さ・・・あくっ!おおおおお!!」

面白がって全身を突付き回す彩乃、半ば必死になってその手を払いのけようとする村正宗。その様子を見ている神奈は必死に笑いをこらえ
ている。

「神奈!お前、よくも人も弱みを!」
「だってお姉ちゃんに何か面白いこと無いかな?って訊かれちゃって、それでつい、ね」
「く・・くく・・・神奈、今すぐやめさせなきゃ・・もう撫でてやらんぞ」
「!!お、お姉ちゃん、もう突っつくのやめて!!」

村正宗の「撫でてやらん」の一言に顔を真っ青にして止めに入る。撫で魔犠牲者第一号、百合っぽいが彼女もまた村正宗の右手に陥落した
一人だった。


「何をしているのだ君達は?」

研究所から出てきたWILLが淡々とした口調で訊いてくる。その声で正気に戻ったのか、彩乃も身なりを整えて座りなおす。

「い、いえ別に・・・」

何故か敬語。疑問に思い訊いてみようとした直前、その気配を読んだのか神奈の後ろに立っていたカルクスが説明した。

「Dr.オピウスは医者であると同時に「Chaos」の統括官「代王」であり、我らの司令官なのだよ」
「・・・そうなんですか?」
「然り、役職で言えばこの街の最高責任者という事になる」

またしても抑揚の無い声で答える。

「さて、本題に入ろう。前に話しそこなったツールに関することだ」

そう言って一枚の紙を渡す、なにかの資料のようだ。

「これはツールに誘拐された少女の数だ。奴らは年端も行かない少女達を誘拐し、提携している組織ガイラス・カルテルに引渡している」
「そんな組織が・・・」

新たに明かされた組織、それと資料の数字を見て驚愕する。これが本当なら既に3桁近い人数の少女達が誘拐されていた事になる。

「ガイラス・カルテルは少女達を娼婦に仕立て、世界中の“その手”の連中に売り渡している。同時にクローン技術に置いて世界屈指の
実力を持ち、少女達と引き換えにツールの兵士を量産している」
「それを阻止するために私達十二天星が周辺都市を警備して、被害を無くそうと頑張ってるの。私達は子供達が大好きだから・・・未来へ
の希望を潰そうとする奴らを絶対に許さない!!!」

WILLの説明の後、彩乃が戦場で見せた真剣な顔で言い放った。髪の一部を鎌に変え、瞳を怒りの色に染めて。

「話を続けよう。ツールはその兵力を使い、ある計画を実行しようとしている・・・その計画とは天使の降臨。魂無き肉体を使い、天上
から戦闘天使、ロードを降臨させようとしている」

その言葉に、村正宗の脳裏にあの夢に出てきた獣頭の異形達の姿が浮かんだ。多くの屍の山を築き、立ち向かった男に「邪魔する者か」と
尋ねたあの異形達を。

「前に見たメダロット部隊、あれを注文したイスカリオテという狂信者集団がいるが、ロード達の所業は彼らを遥かに上回る。更にツール
幹部達はその力を我が物にしようと自らの身体を変質させ、器となってロードを取り込もうとしている・・・今日の「天使降臨」はその
前段階だ」

そう言って空を見上げ、溜息をつく。

「不可能だと言うのに・・・」
「は?」
「いや、こっちの話だ。それに対抗するため、我々も色々な装備を開発している。例えば「穢血弾」、これは鉛に罪人の血を混ぜ、先端に
神を穢す言葉を刻んだ特殊弾で、聖なる存在がこれに触れると激しい拒絶反応を起こし、腐敗して崩れ去る」

白衣から銃弾を取り出し手渡す。

「そして最も強力なのが、十二天星でも数人しか装備していない特殊な結晶体「ツォハル」。これは光を物質化するまで圧縮し、更に純度
を上げて練成した物で、発動させれば装備者に強力な力を与えるのだ」
「光って物質化するんですか?」
「勿論だ、かつてアトランティスで生成され、その試作品を極地に封印した後、幾つかの完成品が製作されている。後で一つもっているの
を渡そう、有効に使えよ」

試すような目で村正宗を見た後、極めてどうでもいい事のように、こう締め括った。

「神をして利用のし甲斐のある道具(ツール)、それが奴らの名の由来だ」

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