水面の光景が揺らいで消え、同時に村正宗の視界に移る光景も変わった。
今見えるのは先程まで戦闘があった場所、幾多の敵兵の死体が転がる荒涼とした風景
「説明ヲ開始する」
呆気に取られる村正宗を他所に、WILLが話し出す。
「彼ら・・・組織の名は「ツール(道具)」、全世界の戦争屋の下請けで、新兵器や改修した不良品の実用実験と称して近隣諸国に攻め
行ってきやがる迷惑な連中だ」
言いながら近くに転がっているソルジャーの死体を引っ張り上げ、他の死体の傍に並べる。
「見たまえ、こやつらの顔を」
そう言われ2つの死体を眺める。血やオイルで汚れているが、顔付き、体格、瞳の色、その全てが似ている、否、まったく同じ。
「これは・・」
「そう、クローンだ。奴らの戦力はメダロット以外は全てクローン兵を改造した物、聖人サイボーグも崩れてしまっているが元は他の兵士
と同一人物なのさ」
しばらく死体を眺めた後、WILLの肩から生えている蛇がいきなり緑色の液を死体に吐き掛けた。
死体はグズグズと腐食していき、数秒後には跡形も無く消えた。皮膚や肉は元より、金属部分すら残さず綺麗サッパリと。
同じ様に隣の死体、更にいつの間に移動したのか数m離れた所の死体にも近づいて液を吐き掛ける。
「こうして死体を処分しないと、また再利用される・・・」
自分に言い聞かせるように行動を続けるその様子は、何だか酷く悲しげで・・・村正宗は只黙って見ているしか出来なかった。
「ああ、それと・・・」
しばらくその行為を繰り返し、辺りの死体が全て消えた頃、思い出したようにWILLが喋りだした。
「ツールにも一応幹部と呼ばれる連中が居てな、時折現れては我々を威嚇してくるんだ。あんな風に」
「え?」
何の前触れもなしにWILLが横を指差す。
「くっくっく、まさかバレていたとはな」
指差した場所から迷彩服とベレー帽を被った男が出てきた。
「性懲りも無く出たな、ツール幹部「5人の異能」が一人、コードネーム:『グリフォン』・・キース=レッド」
「説明くさい台詞だな、オピウス」
苦笑まじりにキース=レッドが冷やかす。
「説明しているのだよ、この少年に」
と顔を村正宗に向ける。2人の視線を感じ、あまりの急展開に背景と化していた村正宗も、ようやくこの状況を理解した。
またすぐ背景に戻りそうな気配を感じつつ・・・
ビキュッ!!
レッドの迷彩服の右袖が腕と一体化し、右腕が巨大な包丁状に変化した。
「WILL・オピウス、十二天星の規格外存在よ、お前には随分と煮え湯を飲まされた」
「私はそんなもの処方した覚えは無いぞ」
「くっ・・・その小賢しい口振りで、何度我々の計画を狂わせたか・・・忘れたとは言わせんぞ!」
言うなり右腕を振り下ろす。
「狂わせた覚えなど無いが・・・」
冷静にそれをかわし、先程出していた液を吐き掛ける。
「くっ!」
続けて後ろへ飛び距離を取る。
「引っ掻き回してやった記憶はあるぞ、下っ端の小僧」
口元に笑みを浮かべ、レッドを見やる。
「ぬぐっ・・・下っ端だと」
「それ以外の何だと言うのかね、特に大した能力も無い、簡略化せずに量産できそうなグリフォン君」
「き、貴様ぁぁぁぁぁ!俺を馬鹿にするなぁぁぁぁ!!」
ベキベキベキッ!
レッドの体が大きく形状を変えていく。
「科学者として当然の見解を述べたまでだが、何かご不満でも?」
「ぬううううう!!」
そんな事など気にも留めず淡々と喋るWILL。
そうこうしている間にレッドの変化が終わる。身長2m、灰色の体に包丁状の両腕、クチバシの様な頭部からは長い髪がタテガミの様に広
がる。
「見よ我が真の姿を、真の力を」
「これで19回目ですよ、その台詞」
WILLが溜息をつく、結構頻繁にこの姿になっているらしい。
ブンッ
周囲の岩が粉々に砕け、体に付いた液が蒸発する。
「超振動攻撃、相変わらず芸が無いな」
「死ねぇぇぇぇ!!!!!」
そのまま突っ込んでくるレッドに、また溜息をついて地面に目をやる。
「居るんだろう、出てきてちょっと助けてもらえないかね、エドワード君」
視線の先の地面が盛り上がり・・・
ガギンッ
飛んできたレッドが何かにぶつかる。
「分かりました、ここは僕が引き受けます」
ぶつかったものが少年のような声で喋った。
「では、後は任せましたよ、第七星将エドワード・キャンサー」
WILLが話しかけたのは巨大な蟹の怪人、十二天星、第七の星将。
ギギギ・・ギギ・・
グリフォンの刃をハサミで受け止め押し返す。
「くっ、邪魔をするな・・・化物!」
バキャッ
刃の振動数が上がり、エドワードのハサミを粉砕する。
「化物はあなたも一緒だ!」
砕かれた両腕が上がり、胴体から飛び出した何かがグリフォンを弾き飛ばす。
飛び出したのは6本の脚、体の側面から生えたそれがワキワキと動いてグリフォンを威嚇する。
「今の内に撤退してください!」
両腕を上下させ、背後の2人を促す。
「腕を元に戻してくれ、そしたら撤退するヨ」
WILLが妙な口調で言うと、メキメキという音と共にエドワードの腕が再生する。
「今のは見たか?」
「え・・はい」
「では退くぞ!」
言い終わると同時に足下に時空魔方陣が広がり、瞬時に周囲の光景が変わる。
「では説明・・というより質問に答えよう」
蒼月の広場に戻ったWILLが開口一番そう言った。しかし急な話の展開に村正宗の理解速度は着いて・・・
「さっきの人・・・エドワードさんでしたよね。あの人に言っていた「星将」とは?それと貴方が規格外存在とは?」
きていた。
「ん、それを説明するためにまず「十二天星」について話そう・・・聞いてるとは思うが我々はバダンの末裔的組織だ。ここも元々は
バダン幹部らが緊急時に使う仮本部だった・・・崩壊するまではな」
言葉を切る。目を閉じて何かを思い出しているようだ。
「本部の崩壊後、各国の支部で造られた改造人間はその殆どが未完成のまま無軌道に暴れ、倒されていった。
ワタクシは偶然にもここの管理を任されていたため難を逃れた・・・ここの存在は最高幹部以外は管理者にしか知られていないのでね。
そして私は生き残ったもう一人の管理者と共に世界を回り、未完成でも自我を持って生きている者達を探し出し保護した。
見つけ出せたのは12人、いずれも良心派と呼ばれた医療部隊で再生手術を施され・・・未完成のまま謂れ無き迫害から身を隠していた
者達だった。
我々は彼らに再改造を施し、「共存都市」を創るべく活動を始めた・・・もはや「世界征服」をするだけの力は無かったのでね。
同時にどこから知ったのか、俺達の持つ技術を狙うツールとの戦闘も始まり、その自衛手段として生み出されたのが・・自らの意思で戦う
事を選んだ12人に十二星座をモデルに改造した「十二天星」・・・「星将」はそのときの気分で付けた星座の周期順に並べた称号だ。
そして私は治療や修理を携わる者として十三番目の星座「蛇使い座」をモデルに自身を改造した、規格外存在というわけだ」
長い説明が終わり、WILLが肩の蛇の頭を何と無しに撫でた。
「もう一つ聞いて良いですか?」
「なんだ」
「話に出てきた、もう一人の管理者は・・・」
「数年前に死んだ・・・かつてこの街を治め守護する存在・・「王」だった男だ」
誇らしげに語る姿から見る限り、かなり大きな存在だったようだ。興味がわき更に聞く。
「その人の名は?」
「私が記憶する名は、ガオウ・・・「我王」だ」
(我王・・・か)
あの話の後、村正宗は他の星将達と会うべくWILLに引きずり回され、明け方近くになって漸く開放された。
「・・・・」
与えられた部屋のベッドに寝転び、うとうとと微睡む。やがて本格的に眠気が起こり、そのまま寝入り・・・
「元気ですかー!!」
「うおっ」
ボスッ!
殺気を感じ身を捻ってかわす。村正宗の頭があった位置に鉄拳がメリ込む。
「いきなし何をするか神奈!」
「避けられたか・・・」
「・・・用件は何だ」
神奈がはっちゃけていたが、何時もの事なので流す。
「ノリが悪い・・・昨日と今日どうだった?」
「急展開過ぎて覚えてない・・・これから寝て頭の中整理する」
「そう・・じゃ、起きたら研究所に来てね」
「分かっ・・た・・・」
暗転
目の前に惨状が広がる。崩れ、溶け、凍り、燃え・・・様々な形容の死体が地面に転がる。
「グオオオオオオオッ!!!」
その中で地の底から響くような咆哮が木霊する。
「シャアアア・・ゲッ!」
奇妙な声、そして爆音。
「許・・さぬ・・・断じて・・許さぬっ・・・」
爆煙が薄まり何かが現れる。
「シ、シャアアア!!」
少し怯えたような声がソレに向かっていく。
ガシッ
粉塵の中から巨大な掌が伸び、声の主を持ち上げる。
「ガ・・ガガ・・・」
声の主・・・獣頭と彫刻の如く整った体を持ッた者がもがく。
爆風が晴れ、そこから現れたのは・・・『鬼』
黒と灰色の体表を人骨を思わせる外骨格が覆い、仮面のような頭部には赤い眼、額から伸びる角、大きく開いた口部に装甲が変化した長い
牙を備えた・・・2mを超える巨大な異形。
鬼の骸、骸の鬼・・・そうとしか形容できない存在がいた。
グシャ・・・
頭が握り潰され、手の中でもがいていた者が息絶えた。
「グウウウ・・・」
『鬼』が唸り
「グワオオオオオオッ!!!!」
そして吼える。巨大な咆哮が天地を揺るがした・・・