9.日本・対古代怪人決戦


「ライダーーーッ、パァンチッ!!」
ズドン!
生命エネルギーと高速が齎す高温と爆風。並の改造人間を上回る古代怪人であるゴルゴムの改造人間が外骨格の隙間を撃ち抜かれて倒れ伏した。
「ブラックサン・・・!!」
サタンサーベルでえぐり、打倒した。あとはとどめを刺すだけと思っていた相手の復活に、シャドームーンは唸る。
あとは、ブラックサンを完全抹殺さえすれば、新創世王の誕生、すなわちゴルゴムの世界征服は成る。
戦闘経験の蓄積と最上位改造人間二体分の生命エネルギー、そして前創世王の存在をも取り込んで二つのキングストーンの力を完全に引出した新創世王の力は全知全能。オーヴァーロード・トーマ、ガーライルにも比肩し、それを上回る。
あと一押しなのだ。だからこそ、この最終作戦に、ゴルゴムは現創世王の護衛を除く全ての改造人間を投入していた。この一戦に勝てば、後はどうにでもなるのだ。
だが、だというのに・・・!
「ライダァアアアアッ!チョーーーップッ!」
ザン!
鋭い手刀がまた一体の動きの隙をとらえて、関節を粉砕して打倒す。
「なぜそこまで動ける・・・!」
古代怪人が倒される。それは、想定の範囲内だ。これで相手がある意味究極への道の速度を競う現在の競争相手であるダグバであれば、まとめて吹き飛ばされていたであろう。
かつてのブラックサンはそこまでではなくても、今よりもパワーがあった。今のブラックサンは復活したとはいえかつてほどのパワーはないようにみえる。
だが。
パンチ、チョップ、回避、投げ技からのパンチ、回避、コンパクトな蹴りからのチョップ、突き飛ばした相手を諸共にキック、フェイント気味のバックキック・・・
速い。
いや、速度とてパワーの低下とともに落ちているはずだ。
ならばこれは。
巧い・・・ということか?
「シャドービームッ!」
一体の改造人間とブラックサンが組み合った瞬間、シャドームーンは怪人を巻き添えにする軌道で、諸共にブラックを痛打すべくビームを放っていた。
巻き添えにしてでも直撃をさせて、リズムを断てば、改造人間の数で押し切れると。
だが。
「とぅっ!!」
「ギャアアアア!!」
目前の戦いにあれほど見事な技を見せながら、なお背後を見ているかのごとき動きでブラックサンはそれを回避!巻き添えを食らう改造人間は直撃を食らって爆散!!
「ライダー!キックッ!」
ズドォオオン!!
さらに回避跳躍からの急角度キックでもう一体の改造人間の延髄を的確にヒットして倒す。
それはフルパワーのライダーキックではなく、軌道を絞ったコンパクトなものだ。コンパクトであるがゆえにエネルギー消費を抑えて継戦能力を高め、、シャドームーンにシャドービームや跳躍してのサタンサーベルによる割り込みをさせない。
明らかに・・・ブラックサンは。パワーを失った分以上にテクニックを増して、強くなっている!
「ブラックサン、貴様・・・死にぞこなった状態からの復帰直後だというのに、どうやってそんな冴えを会得した!」
「・・・俺は。」
彼は答えた。
「俺は、ブラックサンじゃない。仮面ライダーブラックだ。世紀王ではない。ゴルゴムという、背負いきれない程の巨大な力に、敢えて抗うと決めた、人間だ。」
その目で、見てきたことを思い返しながら。
「仮面ライダーは特別な存在じゃない。ただの、どこにでもいるヒーローの一人だ。そうだ、どこにでもヒーローはいた。持った力の代償を理由にせず、己にできる限りの、己の持てる力のすべてを魂と知恵と勇気を研いで最大限に使い、抗う者たちが。」
「貴様・・・!」
そう語る、彼の、仮面ライダーブラックの力は、一回り凄みを増していた。
不思議なことではない。奇跡ではない。
それは必然。多くの魂が、多くの心が、多くの嘆きに負けぬ抗いが、その戦い方が彼を研ぎ澄ましたのだ。
そして本来。かつて、のちに仮面ライダー1号と呼ばれるようになる男が戦い始めた時。彼の行く手には絶望があり、それに対する堪えぬ研鑽と、ショッカーの恐怖に抗う人々の抵抗と窮地が、彼をバッタ男から仮面ライダーへと変えた。
ゆえに。
それと同じく、彼は今、いや、今まさに仮面ライダーブラックとなったのだ。
「・・・お前を開放する、信彦。」
「俺は、世紀王にして、創世王になるもの・・・シャドームーンだ!!」
そしてそれに対する者は、みずからはシャドームーンだと吠え。
キングストーンと、サタンサーベルの力を全開に。配下の改造人間を突撃させると同時に自らも襲い掛かった!
「とぉおっ!!」
「はぁああああっ!!」
黒と銀が交差する・・・!


そこに炎はなく。そこに殺戮はなかった。
「・・・何だい、その無様な姿は。」
己の最大の力である超自然発火能力が封じられている。そのことではなく、眼前に立ちはだかる敵の姿に、逃走を本来快楽愉悦とするダグバが、初めて露骨な不快の色をあらわにした。
超自然発火能力は、同種の干渉能力をぶつけることで相殺することができる。それはつまり、眼前の敵手が、己と同じ究極の闇に近しい存在となったということであり、それを食らえば、確実に究極の闇へのさらなる完全進化が達成される、そして、その過程で究極の闘争を味わうことのできる、ダグバにとってもっとも望むべき展開のはずだ。
だが。
「お前みたいに、なりはしない。お前には・・・お前にだけは、笑顔になってもらうわけにはいかない。」
眼前に立つのは、かつてのアルティメットの姿をしたクウガではない。
部分的にいくつかの体のパーツが黒きアルティメット、そして部分的には白きグローイングという、いびつな姿に変身した仮面ライダークウガの姿だ。
それは、アルティメットの力を抑えつけて制御し、そのうえでダグバの力を押さえつけ無効化する、そのために特化した、力を捨てた形態。
ダグバの、そしてグロンギの目指すところとは正反対の・・・いわば、その否定だ。
ぶん、と、ダグバが、己の世の金色の羽衣に触れるように腕を振った。本来ならばその動作で、クウガの各フォームが使いこなすような武器を無数に生成しその手にすることができる。
だが、その力も発動しない。
「なるほどね。だけど、この状態でもボクはまだ戦うことができる。対して君はどうだい?」
傍らに薔薇の女・・・アンシーともラ・バルバ・デとも呼ばれる者を招きよせ、ダグバは言う。この状態でもディオスブレードは使用可能であり、また、ダグバは基礎身体能力だけでも隔絶した実力を持っている。
それに対し、この奇妙なフォームを発動させたクウガは、それを維持するのが手一杯で、自身の戦闘能力については相当劣化していると明らかに見て取れる。
「これが、一度はお前と同じものになってしまったことへの・・・答えで、責任で、償いだから。」
それでも、クウガは構える。戦闘能力的にはせいぜいグローイングフォームに毛が生えたレベルといったころだろう。
しかし。
「そして、それでも皆が。」
その周りを固めるのは。
「一緒にいてくれるなら・・・!」
種々様々なスーツや力を纏い手にした、折原軍のヒーローたちと戦士達!
「・・・全員で挑む、と、いうことですか・・・」
ダグバの傍ら、薔薇の女は。およそ想定もしていなかった展開に、呆けたようにつぶやいた。
ダグバの力は一対多で多数を蹂躙することに長けている。それも、圧倒的なまでにだ。だからこそ、ダグバに数で挑むという発想はなく、匹敵する個で当たるよりほかはない。
その前提が崩されるとは。
「ああ。」
いわばこの力は、敵を封じ味方を助ける、サポートの為の形態。
グローイングでもマイティでもドラゴンでもペガサスでもタイタンでもアルティメットでもない。
しいて名づけるならば。
「この、ガーディアンフォームが。お前を止める、ダグバ!」
「はは、は・・・束になった程度で、できると思うなら・・・!!」
双方の力が空間を鳴動させ・・・
「やってやるっ!」
「やってみろっ!!」
激突する!

「・・・」
そのさなか、薔薇の女、ラ・バルバ・デは。
ダグバに挑み、そして己に挑む人類軍団の中にいる、一人の姿を見ていた。
天上ウテナ。兄・散との因縁ゆえに学園を離脱した覚悟と同じく、此方に来ていたか。
それは同時に、バリスタスのネットワークがいまだ周囲との戦力連携において機能していることを意味している。
「バリスタス共が後衛をついてきているだと!?奴らの遊撃部隊はタロンとやりあっておるのではなかったか!?」
「本隊の襲撃です!」
「えぇい・・・シャドームーン様への支援が一兵とて多く必要である時に!!!」
事実、シャドームーンがブラックとの交戦に専念しだしたことで改造人間指揮を引き継いだダロムが叫んでいる。
「・・・ウテナ」
その象徴というべき彼女の姿を見て、その名をつぶやく。
事態は深刻であった。古代怪人達の側にとっては。ゴルゴムはグロンギより多量の物量を誇るが、ああまで四方八方から攻撃を受けては苦しかろう。
スパァアアアンッ!!
「ぐ、あ・・・ブラック、サンッ・・・!!」
「させんっ!」
腕をはじきあげられたシャドームーンが唸った。サタンサーベルを取り落しそうになるのをかろうじてこらえる。
振りかざした腕を、肘を下から掌打によるアッパーカットじみて弾きあげられた。関節に強力な打撃。
関節でも狙わなければ打撃を与ええない、非力なヒーロー達の技だ。
ドッコイダーやネルロイドガールだけではない。あるもので戦う、戦い続ける各地のヒーロー達と、移動の中で出会い分かれていたのだ。
ただ、敗れ、倒れ伏していたわけではない。彼の目は、彼の脳は、その間、ずっと見続けていたのだ、そそれら、闘いの日々のすべてを。
そして、それ故に。圧倒的に力でも装備でも勝るはずのシャドームーンは、その力で振るう装備を、仮面ライダーブラックの経験と技に封じられている。
「あはははははっ!!」
「退避っ!」
ず、どん!!
ダグバの拳の一振りで、地面にクレーターができる。けれど、同時に素早く後退した折原軍は健在。
「・・・!」
「?」
その直前に、振り上げたダグバの腕に後衛が狙撃を連続で命中させ、わずかだが回避の時間を稼いだのだ。
そして直後、支援射撃を受けながらの前衛の一斉突撃。ダグバの拳を支援射撃で止めて、その間に攻撃をたたきこむ。
その程度のことで、ダグバは揺らがない。直撃を受けても首をかしげたほどだ。だが・・・
無敵を誇ってきたダグバが、初めて敵を思うようにしとめられずにいる。
その疑問が、彼に首を傾げさせたのだ。
このように、ましてゴルゴムより少数であるグロンギが。ダグバの範囲攻撃を封じられたならば。
・・・今彼女の名をつぶやいたのは、その暗雲の象徴としてであって、それ以上で、それだけのはずだ。

それは。
グロンギの神官の如きラ・バルバ・デが抱いた・・・不安であった。


そして、その不安は現実となったのである。

 

10.日本・縁(前編)


戦場に、歌が響き渡る。特定の相手にしか聞こえない歌が。
それは言葉も楽曲も伴わない原始の歌。だが、その声は万里の果てまで届き、心と体に作用する。
「バン・・・ザド!?」
「び、ビシュム様!」
その歌に導かれるようにして、バリスタスの改造人間達は、ゴルゴム、グロンギら古代怪人の後背を突き、効果的に彼らに打撃を与えていっていた。
戦力数が減少したとはいえ、精鋭を残した今のバリスタスだが、それでも、普段ならばグロンギやゴルゴム相手には手こずるだろう。
かつてならば、だが。
「・・・!あれを狙え!」
ゴルゴムイ三神官の一人ビシュヌは、未来と過去を見通すその両目をかっと見開いて驚愕した。
過去を見て、その理由を悟る。それ故に即座に部下に攻撃指令を下した。バリスタス部隊の後方で指揮を執る・・・音叉やメトロノーム、楽器やスピーカーを模した複雑な構造のアーマーを装着した、第一天魔王lucarへと。
「きしゃあああ、ぐわっっ!!」
「ぐおお、ごぼぼーっ!?」
斬っ!
突撃した前衛が、即座に一体が大剣で殴り飛ばされ、もう一体がオブ氏で叩きつけられた。
それを行ったのは、これまでのバリスタスでは見たことがない・・・否、正確には、見たことがあるはずだが、以前とは姿を変えた二体だ。
片方は、甲殻の鎧に華を添えたいでたちの少女改造人間。鋭い大剣を軽々と、そして同時に巧みな技巧でもって一閃。
もう片方は、オレンジ色の肌に青い斑模様の・・・しかし異形の怪物ではない、均整のとれた屈強さを持つ戦士。巧みな拳打の連続技で、対敵を揺らし崩し叩き伏せた。
ばしゅっ、じゃっ・・・!
ずばぁんっ!
そして、後衛のゴルゴム改造人間が放った生体弾や熱線を、lucar自身が、超音波と衝撃波を織り交ぜた攻撃で叩き落とす!
「おのれ・・・!」
ビシュヌが唸る。彼女の過去を見る目は、今も機能している。それ故に、その正体も見ることができた。
lucarの纏う鎧は、彼女自身の体の強化と連動するデバイスだ。
イルカの改造人間としての超音波発振能力を増強し、全軍団と通信を確立。完全同時連動を達成せしめ、また同時に、音楽による音響暗示により肉体の限界を突破し味方の身体能力を強化する。
その力を自らにも応用すると同時に、収束させた超音波、そして衝撃波レベルまでパワーアップさせた大音響を武器とすることで・・・旧式であったその戦闘能力をも大幅に増強した結果だ。
「私たちはもう一度立ち上がったんだから、二度と膝を折るわけにはいかないの。まして・・・これまで、一杯一杯迷惑をかけてきたんだから、私が頑張るのよ、今ここでは。」
「・・・気負いこみすぎる必要は無い。だが、お前がもう一度立ち上がってくれたことは、嬉しくてたまらない。つられて頑張ってしまうが、構わないな?」
「・・・・・・ありがと。」
そしてそうやりとりする前衛の二人は、残りの二人は、二人格に分裂していた人格が、これまでの経験の結果心の傷がいやされたことにより統合されたアクニジン/カブトレオンがそれに合わせての再改造を受けた「カブトニジン」と。
二重人格の彼女を常に庇護してきたオクトーガが、負傷と回復再改造の果て、改造体が回復に過剰適応した結果、失われたはずの言語能力の再獲得とあわせ、その莫大な量の筋肉を最適化し絞り込み生まれ変わった「オクトロール」。
そこまではわかる。
彼ら彼女らの過去が写ってくる。エヴァンジェリスト・ゼブラーマンとの共闘と別れ。折原軍に取り込まれたHUMAの再起動による、ヒーローというものとの新しい対峙。
それがヒーローというものに裏切られた二人の運命を変えていったことが。
だが、ビシュムは混乱していた。未来を見る目が、先ほどから機能していないのだ。
ゴルゴムは追い詰められているといえよう。必勝のはずのシャドームーンは、ブラックに苦戦を強いられている。バリスタスの巧みな用兵のおかげで、後背を断たれたグロンギとゴルゴムは、身動きままならず、相互支援も、突破も出来そうにない。
あまりにも未来の可能性が増え、不確定になりすぎて、予知をしきれなくなっているのか?あるいは・・・
「・・・このままではゴルゴムに未来はありません。」
lucarは、ビシュムの不安を言い当てるようにいった。彼女には未来予知の力は無い。
純粋な、人間の知性としての予測だ。
「何を言うか!敗れるというか、我がゴルゴムが・・・我らがシャドームーン様が!」
「世紀王ブラックサンになら、世紀王シャドームーンは勝っただろうね。」
「だが、世紀王シャドームーンでは、仮面ライダーブラックには勝てない。」
lucarの言葉を継ぐように、カブトニジンが、そしてオクトロールが言った。
「正義の味方を倒すには、なんというか・・・理が要るの。相手の正義を崩す理が。力だけじゃダメ。私たちは、そうやってHUMAに勝ってきた。貴方達は、その理に傷のついたHUMAに勝って来たけれど・・・運命が回って、新しい理が出来ている。傷ついても矛盾しても立ち上がって堪えて進む、新しい理が。」
「・・・古代より眠っていた、お前達には分かりづらいと思うがな。」
「何を、持ちかける積りか。」
言刃による戦いではなく、説諭に近いその言葉の色を、敏感に察してビシュムは眉を潜めた。

「何、だよ・・・何で楽しくない、んだよっ!!」
ずずぅううううんっ!
背後で、ダグバが暴れる音が響き渡る。その力は相変わらず凄まじいまでの暴虐だが、その言葉にかつての超然とした余裕は無い。
そして、戦闘音は続いている。折原軍は、ダグバと、あのダグバと戦い続けているのだ。
それは異常であり、そして・・・個の突出で全てを征しようとする、グロンギの理論の崩壊であった。

「グロンギはここで終わることになるでしょう。けれど、ゴルゴムはグロンギよりはるかに大きい。それら全てと殺しあうのは、したくありません。同じ夜の住人として。」
事実、同種の改造人間が何体もいることもあるゴルゴムの戦力は、グロンギよりもはるかに分厚い。
この場にその大半を投入してこそいるが、創世王のいる本部の護衛など、どうしても残さざるを得ない部分の残存戦力すら存在する。
「・・・」
唸るように沈黙する・・・しかし、同時にバリスタスの言葉を聞き始めているビシュムに対して、lucarは告げた。
「もし、シャドームーンが仮面ライダーブラックに敗れるのであれば、私たちは問わねばならないでしょう。『形式はどうあれ、貴方は創世王ともなった。貴方は、ゴルゴムの未だ生き残る者達をどうなされる。責任を持って善導するのか。それとも、全て殺しつくすおつもりか』と。」
「!」
仮面ライダーブラックが、創世王になる・・・
その発想・可能性は、全くビシュムの頭には無かったのだろう。
驚嘆するビシュムに対して、lucarは言った。
「私たちも、勝ち残らねばならなかった。だから、貴方達とグロンギの後背を断った。恨んでくれても呪ってくれても構いません。けれど。」
コレが悪であることは承知している。勝たねば生き残れぬからゴルゴムを追い詰め、生き残れる目が出たから、助けられる分のゴルゴムは助ける。
自侭であり、悪の所業である。それでも。
「・・・明日の為の一手を、打ちたく思っています。」
最後の戦いのその先をバリスタスは見つめていた。


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