6.日本・北海道、九州
北海道。
「ああ・・・行け。後は俺に任せろ。」
「っ、ありがとう、キャプテンブラボー!」
「戦士長・・・」
銀色の顔まで襟と帽子で覆うコートの帽子を脱いで襟を寛げ、HA錬金戦士団戦士長キャプテンブラボーは、素顔でそういった。
心臓を核金とした少年、武藤カズキと、時に対立を経ながらも彼と絆で結ばれた少女戦士、津村斗貴子。
「人を護る。それだけを考えろ。何が人か、何から護るのかを組織が間違ってしまった事と戦うのは、俺達に任せて。お前達はそっちで戦ってくれ。何、戦場をそれぞれ分担するだけの事だ。」
HA・・・人類同盟。
その名の通り、本来は人類を護る組織の一つでありながら、結果として、「人類以外を排斥する組織」となってしまった組織。
その一部隊でありながら、バリスタス北海道支部・カムイチセとの交流などを経て、また別の方向性に変化した彼らは。
「・・・はいっ、戦士長!」
「行こう、斗貴子さん!」
「ああ、カズキ!」
この最終局面において、ある意味では人類の同盟、人類の守護者としての本分を全うする行動に出ていた。
即ち、今や全世界で、特にこの決戦の地である日本において猛威を振るう、タロン、ゴルゴム、グロンギ、上位次元と交戦しての、民の護衛であった。
九州。
「本隊戦力は北米事件以前の75%、か。」
連絡を受け、バリスタス九州支部・熊本鎮台支部長、天魔王の一人、影磁は呟いた。
静かな声に、万感の苦渋が隠される。
かつてエルロード、生命のエル・アヴァドーンが舞い降りた地であり、在日米軍基地を根拠地として対日攻勢を行ったHAの行動において、横須賀、三沢を上回る大規模基地密集地である沖縄からの攻撃を受けた九州も、激しく厳しい撤退戦を経ていた。
失った戦力・・・いや、仲間たちは決して少なくは無い。
だが。
「牙(たすく)」
「うんっ。」
毛皮製のライダースーツを纏った幼女が頷く。
「翼(うぃんぐ)」
「霊的索敵は完了して、います。」
黒羽の陰陽師服装束の少女が、呪札を翳して呟いた。
「殻(しぇる)」
「前衛はお任せを。」
様々な国の意匠を融合させた体の線を強調する鎧を纏った美女が身構えて覚悟を込めた声で答えた。
影磁自身も、巨大な斧と外骨格の鎧を持つ変身形態を既に取っている。
艱難は、しかして鎮台の戦力を磨き上げた。
アヴァドーン戦時には未だ経験不足であった、彼女達逆三連星。そんな彼女たちが今や、三貴子に匹敵するカタログスペック以上に実力を発揮できるようになったのだ。
・・・単純に戦力的に考えれば、むしろ戦力は増したとすらいえるレベル意である。
無論、それが犠牲を肯定するわけではないが。
だが。
戦局は、この時をもって転回する。
「沖縄基地において、HAに派遣されていた上位次元戦力が、在日米軍、並びにHA部隊を自己戦力として止め置く為の、武力制圧・洗脳を行おうとしているという情報が入った。」
影磁は、改めて己の配下戦力に告げる。コレより、作戦を・・・
「我らバリスタス熊本鎮台は、これより、上位次元戦力が在日米軍・HAを制圧せんとする戦力消費・混乱に乗じ、同戦力を撃破する攻勢作戦【鎮西八郎為朝】を発動する。本作戦は、これをもって本土への敵戦力増強を阻止せしめ・・・これより始まる日本本土における再攻勢の道を切り開くものである。諸君らの奮戦が、勝利を齎すことを期待する!」
「「「了解!!!」」」
・・・反撃を、開始すると。
7.日本・各支部現状
「・・・」
深く暗い闇の中。再起動したように、明かりがともる。
闇の中に照らし出された第一天魔王lucarは、イルカの改造人間であるが故に、夜の海にたゆたうようだ。
だが、その精神は決して「たゆたって」はいない。
これより行い最終反撃のための状況の把握、そして、この局面で無力でいないための、再改造で得た力の掌握に、全頭脳を駆動せしめている状態だ。
映像の向こうでは、同じく闇にその身を浸しながら、生き残った戦力相手に指令を飛ばすシャドーの姿。黒曜石を思わせる外骨格の鎧が僅かな光を跳ね返す。
「(多くのものを失いましたが・・・悲しみは尽きませんが、そのおかげで戦局は今、ひと段落を迎えました。)」
北米支部と多くの戦力を喪失した結果であるが、現在、宇宙の運命を決する要石の星であるこの地球での戦いから、HAは終に脱落した、といえた。
それは実質上位次元戦力の戦力半減であるが・・・彼ら上位次元の支配を許すことは、他の何にもまして避けねばならぬこと。それ以外の全勢力の最大の目的だ。重大な戦果である。
故に、今この地球・・・そして、ゴルゴムの本部、グロンギの故郷、要石の星の要たるこの日本で、最終決戦が行われるに当たって、それに参加する、世界を争う者たちは。それを、lucarは改めて確認する。
まずは、上位次元。HAを実質上失った(再度取り込もうという動きは、かえって隙を生んで戦力を低下させることになるだろう。それを狙い、既に影磁たち熊本鎮台が動いている)ことにより戦力は最大事より大幅に低下し、北米事件によって後詰の兵力を断たれ、あとは現有の戦力しか、この局面では投入できない。
追い詰められてはいる。だが、それを持ってしても尚、手持ちのロードと生き残りのエルロード・・・そしておそらく地球に現れるだろうオーヴァーロード・トーマをあわせれば、未だに最大の敵手であるといえるだろう。
何より、その戦力は最精鋭ということが出来る。ロードには、一定以下の戦力はいくらあっても役には立たない。「一定以上の各組織の戦力」が、それぞれにどれだけロードを倒すか・・・そして「誰がオーヴァーロードを倒すのか」。
それを第一に考えて戦局を動かさねばならない、最大の警戒対象であることは変わりはない。彼らの戦略は、ロードを持って他戦力を漸減せしめながら、再度この日本において地脈冷機の大儀式を実行することにあるだろう。
それを行うための札はある。オーヴァーロード本体と、そして、HA日本支部を率いていた、アスカ蘭だ。オーキッド因子を宿すあの女は、エルロードを超える適正をもつガーライルの神の地上代行。彼女が現在の日本を未だ部分的に支配するHA傀儡政権を最掌握すれば、今一度の儀式を行う事は可能だ。
ただし、彼らにも弱みはある。それは、彼ら以外の全ての組織が第一にのぞまぬ、ということだ。ほかの全組織は、上位次元撃破を意識して動く。故にこそ、これに対抗するには「戦局の動かし方」が鍵を握ることになるだろう。
古代怪人グロンギ。戦力、という点では、上位次元と似たような状態にあるのがこの勢力であるといえるだろう。彼らグロンギ族は少数精鋭、その戦力は、成長することはあっても増加することはなく、総数は減少以外することはない。
だが、上位次元と比べればまだ組みしやすい、といえるだろう。総数はロードより少なく、戦力的にもロード程ではない。
警戒すべきは、二つだ。一つは、長たるン・ダグバ・ゼバ。ロードが束になってもかなわない、どころか、複数体のエルロードを同時に相手取れる程の怪物。オーヴァーロードに挑むために鍛え上げられた狂気の剣。
彼の戦力は底なしだ。殺せば殺すほど、強くなる。
そして、もう一人のン・ダグバ・ゼバと、「なるはずだった」・・・仮面ライダークウガ。ダグバは狂気的存在ではあるが、ある程度クウガが自己と同種の存在として覚醒することをもくろんで行動をしてきた節がある。
実際、そうなる筈だった。HUMA壊滅の責任を取るべく挑んだ仮面ライダー1号が、その命を捨てて打ち倒さなければ。打ち倒されたクウガは、一時的にその覚醒を失った。以後の姿を見たものはいないが、調査結果としてはおそらく死んではおるまい。
グロンギに対する行動は二つ。一つは、ロードとかみ合えば有効ではあるが、野放しにすれば対策が取れなくなるダグバを、如何なる時期、如何なる手段で打ち倒すか。
加えて、いずれ目覚めるであろうクウガが、「どう」かを調べ、その「どう」に対し、それを以下によき方向に導くか。
古代怪人ゴルゴム。グロンギより多いが、ただし、グロンギ程の質は持ち合わせていない。警戒すべきは、世紀王シャドームーンだ。既にブラックサンの力の一部を吸収した彼は、創世王の領域に近づきつつある。
シャドームーンがブラックサンの残りの部分を食ってしまえば、ダグバを超え、オーヴァーロードに至りうる存在として覚醒することだろう。
ゴルゴムへの対策は、とにもかくにもそれを防ぐことだ。HUMAの残党が、今のところはブラックサンを守っている。それを、ここからどうするか。そして。
ブラックサン吸収を阻止されたシャドームーンを如何に討つかだ。最悪、ダグバ当たりがシャドームーンを食ってしまったら、創世王とかそういうレベルですらなくなってしまう。オーヴァーロードすら
鍵はブラックサンだ。ブラックサンが、仮面ライダーブラックとしてどう行動するか。だがそれは同時に、対ゴルゴム戦「後」を、あるいはバリスタスにとって苦境としかねないだろう。
タロン。物量は、上位次元がHAを失ったこの現在においては、地球戦域においては文句なしの最大だ。だが同時に質という点では、ごく一部を除けばこれまであげた最終局面の敵対者の中では最も低かった。
だが、鳴海清彦とサグがクーデターにより組織を掌握し、タロンはこれまでの営利組織から、彼らの明確な世界制覇・世界改変の目的に沿って行動する攻性の組織に変動した。
それに加えて、栄光学院の生徒たちの能力を分析して得た、大量の新兵器がかれらの戦力の質を爆発的に上昇させる。
個別単位では上位次元やグロンギには抗すべくもないが、たとえばゴルゴーン複数で囲んで畳み込めば、ゴルゴム古代怪人やバリスタス改造人間、HUMA残党ヒーローにも相手には打撃力として通用するレベルになっている。そして、彼らの数は、数倍を優に超える。
だがそれらは、エルロードやオーヴァーロード、ダグバ級に通じる力ではないが・・・彼らとて愚かではない。むしろ、最も世知に長けているといえる。
故におそらく、切り札があるだろう。量産型共とは違う、それら用の。そして、それは、栄光学院を運用する過程で得た知識から、彼らとしてもコントロールを失う可能性を一切有さない仕上げをしているに相違ない。
これは確実な事実だ。なぜならば、そうでなければ狡猾な清彦とサグが、自分たちが表に出てクーデターを起こすなどというまねはしないからだ。
・・・だが、この方面において、バリスタス本部並びに関東支部は、特段の行動を取る必要はない、と、lucarは見切っていた。
なぜならば、彼らがいる。
傷ついた天魔王がいる。傷つくことで、その身に宿した怒れる龍王(ゴジラ)の力を完全に覚醒させたJUNNKIがいる。
第六天魔王が遺し、乱世の悲しみに鍛え上げられた刀がいる。一文字の娘によって解き放たれた、刀将、御影村正宗がいる。
必要なのは彼らに対する支援と・・・そして、ケアだろう。決戦は彼らのものだ。それを、彼らも望んでおり・・・それ以上は望んではいるまい。
そして、HUMA残党、そして日本政府だ。
かたや壊滅した軍団の僅かな生存者、かたや、HA傀儡政府により僅かな領土と拠点に押し込められた少数勢力。
だが、侮ることは出来ない。
何となれば、北米事件の解決が全ての状況を激変させるからだ。
傀儡政権の母体であるHAは倒れた。上位次元のアスカ蘭がその代わりのバックとして彼らを統括するであろうが、統括に掛かる時間は、彼らに行動の自由を与えることになる。
そしてそうなれば、動く状況を彼らは全て力に変えることができる。
まずはHUMA残党と日本政府の合同だ。これは確実に成る。HUMA残党はかつてのHUMAの原理主義的頑固さを捨てており、そうなれば目指す者が同じ彼らは確実に手を取り合える。
そして、その手は、北米から帰還するであろう、生前の第六天魔王が何よりも敬し何よりも警戒した太陽の少女、折原のえるの手によって、北米HAを叩き潰した覇道軍へとつなげられる。
何より、彼女自身の帰還そのものが、巨大な力だ。彼女そのものの強固な意志と、そしてそれが沸き立たせる日本政府の力。
加えて、覚醒の次第では、クウガもブラックも、HUMAの戦力として復活することになるだろう。
「・・・彼女(のえる)たちは、来るわね。」
「ああ、彼ら(日本政府・HUMA)は来る。」
lucarの呟きに、シャドーが答えた。
「我ら悪の秘密結社が最後に対峙するのは。いつだって正義の味方達だ。」
それに対する、彼らバリスタスは。
マギラ、マギリ、ゲッコローマ、フリーマン、第六天魔王直下の北米支部の総兵力。
防衛戦において分散配置された、かなりの数の各種蝗兵隊、コネクテッド達。
相当数の戦力を失っている。
しかし、辛うじて。
「少なくともこの戦い、最終局面までは、同盟関係は堅持できるでしょうね。」
「最終局面に至った場合は、どうなるかは分からないが。」
北米支部は、事件前に、北米で拾った各種同盟者達を、全て海外に離脱させていた。滅ぶるは自分たちで良し、と。
そして、北米事変の間中、バリスタスは同盟を維持していたものも、殺戮を嫌い同盟を離反したものも、全て、出来うる限り、身を挺して守る程に誠実に対処していた。
それゆえに。ことの真相が明らかになったこの時点においては。同盟のネットワークはかなりの割合で復旧していた。
対宇宙ネオバディム同盟、夜真都、十二天星、Q、ロウレス、中小組織同盟UNCRET、アフリカ支部、南半球諸国、マリネラ、ほか・・・・
ただし。
戦争が清算される局面になれば、人々が戦後を見だす局面となれば。バリスタスの罪を、最終的には問われることになるだろう。
少なくとも上位次元を退けるところまでは全てがついてくるだろうが、日本政府・HUMA同盟と対峙する時に、果たしてどうなるかは、国家組織であればあるほど、協力を続けるのは難しくなってゆくだろう。
悪の博士は、北米事件の直後と、その最後に、こう言っていた。
「この戦いにおいて、今次の戦争においてバリスタスは、世界を征服する力を失うであろう。武力的にも、道義的にも。」
だが・・・
「今はまず、上位次元を、古代怪人を、タロンを退けます。」
「ええ。その後のことは・・・その時、ですね。『我ら秘密結社バリスタスは・・・』」
lucarはあえてその後をすっぱりと切り捨てた。
そして、それに対してシャドーが、合言葉のように続ける。
「『世界征服を企む悪の秘密結社である』・・・か。それでは・・・」
lucarはうなづいた。
「はい、始めましょう・・・秘密結社バリスタス日本本部、関東支部全軍に通達!所定の作戦通り、再侵攻作戦・・・作戦名『解答』を開始します!」
闇の中。
改造人間達が、一斉に立ち上がった。
戦いを生き延びた、精鋭達であった。