5.ロストグラウンド
それは、正に神話の戦いであった。
「Serra,Serra,Serra,Serra・・・・・!」
第二の太陽が其処に顕現していた。
ロストグラウンド。かつて大魔王サタンとの戦いで生まれた土地。
元は上位次元族であったといわれる下位次元の王、サタンは、総身が光子エネルギーで構成され、その存在は魔でありながら光そのものであった。
Drグルジェフの作り出せしアンドロイド・ミカエルを拠り代に地上に降臨した火天のエルロード・ミカエルは、そんなサタンと同種の存在。
それ故に、かつては白金色の金属であったミカエルの機体は、そのデザインを背に双翼を生やすように変えるだけでなく、全身を光と炎に変換していた。
それは、ジーザスタウンに君臨する絶望の太陽。既にグルジェフ本人をも逆支配する、この地における上位次元の力だ。
立ち向かうのは・・・漆黒。そしてそれを支える、いまひとつの漆黒。
加え・・・その戦いの行方を祈るように奏でる、一人の女性。
降り注ぐ聖光、舞い散る光翼。それは神聖霊子と熱エネルギーの集合体であり、触れれば塩の柱の如く砕け、爆熱で焼き焦がされるであろう粛清の神罰。
「う・お・お・お・お!」
それを、漆黒・・・ハカイダーは、紙一重でかわし続ける。ぎりぎりで避けた熱光が空気を熱によって爆裂させ、その衝撃波に吹き飛ばされながらも、身をよじり、すれすでで他の光に触れることを避け続ける。
「ーーーーーーっ!♪」
「斬り、捨てる!」
そのハカイダーに、左右からハープ・ガンの音色と剣風を渦巻かせて迫るのは、ビジンダーとワルダー・・・かつてのその名を持っていた人造人間を象って生み出された、最新の「兵器」・・・最早思考を持たぬミカエルのクグツ。
遮るは、涼やかとすら聞こえるリロード音と、雷の銃声を響かせるロングバレル・アンチアンドロイドライフル・・・ハカイダーの高振動ショットガンではない。ハカイダーを後方から支えるもう一人の漆黒が、クグツ2体を引き受け、阻止しているのだ。
空中を疾風が幾重にも切り裂く。狙撃、跳弾、更に射ち手が乗ってきたバイクの車載機銃による掃射、幾重にも、ビリヤードやチェスめいて緻密に織り込まれる弾雨。牽制ではない。追い込み、必殺するという意図を込めた弾頭がクグツ達を睨み据え・・・
「!」「ちいいっ!」
二機に回避行動を強い、ハカイダーを妨害させない。
「ギリギリ、だな・・・!」
だがしかし、神業レベルの絶技を成し遂げたもう一人の漆黒の赤い隻眼には油断も慢心も無く、寧ろ焦燥がある。
それは、此処まで辛うじてたどり着けた経緯を思えば必然の事ではあった。
・・・数十分前。
「俺達の因縁は、俺達が断つ・・・!」
「だから、テメェはテメェの相手をブッ砕くんだ・・・いけぇっ!!」
劉鳳が誓い、カズマが叫んだ。
HOLYとしてではなく、正義を信じる一人の人間として戦う事を選んだ男と、神にさえも抗うと誓ったこの土地の人間精神の具現の如き男、二人。
スーパーHOLYの相手は、彼らがする。アルターの更なる進化、スクライド・・・その力を纏いアルターとその身を完全に融合させた二人は、彼ら自身が助けるべきと誓った相手・・・シェリルとかなみを助ける為に挑む。
他者の能力を増大させる力を持つシェリルと、夢を操る力を持つかなみ。彼女ら二人のうちどちらかでも渡せば・・・それはミカエルによる支配の為に悪用されることになる。
そうなれば・・・葉隠覚悟と葉隠散の奇跡的な和解、そしてギャンドラーを一先ず瓦解させ参戦したロム・ストールとスーパー1のHAへの反逆と助太刀の力で、改造ダース軍団とかつての暗闇(ダーク)破壊部隊を思わせるロードを象った重機械獣人型兵と化した新型重装兵にようやく抗っているロウレス・Q連合軍は忽ち瓦解させられてしまうことになるだろう。
「絶影刀龍断!!」
「シェルッ、ブリットォオオオオオオオオッ!!」
「させませんよっ!」
「さあ、最後の遊びよ!楽しみましょ!」
「カズマぁあああっ!」
二人がアルターの力を解放する。刃拳が唸り、弾拳が轟く。
スーパーHOLYの音波が、電磁触手が、空間湾曲による太陽熱線が、それと激突する。
ヴおぉおおおおおおおんっ!
その傍らを、二台のバイクが駆け抜けた。
「・・・恩に着る!」
一台はハカイダーのバイク・ギルティ。
もう一台は、かつてネロス帝国で使われていた戦闘ロボット軍団用バトルバイク・サーキュラダーのカスタムタイプ・・・!
「急がねばならん、ハカイダー!もう余り時間は無い!」
そしてそれを駆るは、かつてディーヴァ・エリヌースとの戦いで大破した体を、天魔王シャドーの改造により新型へと換装した、現ネロス王国軍唯一の地球所在軍団員、新暴魂トップガンダー!
弾頭のような無貌に赤い隻眼、しなやかで細身のボディに不釣合いに大型な灰銀色の左腕、という基本的な要素は同じだが、そのデザインはより現代的にブラッシュアップされている。
随所の装甲が流線的・空力的に研ぎ澄まされ、灰銀の左腕も屈強な強大さはそのままながら、工事機械じみた動力筒むき出しのそれから、最新式コンバットスーツをも上回る高度の装甲と、メタルダーのレーザーアームを参考に近接打撃戦においてより洗練し、バリスタスの最新技術を投入したエネルギー消散・擬似光粒子分解装置「エナジーブレイカー」を内蔵したものへと置換され。
赤いカメラアイも、スリットの形状とレンズの基本から再設計が施され、より広範囲同時ロックオン・高速戦闘に対応したものとなている。装備する銃も全身の出力上昇によって取り回せる質量が増えた事により、より大型の新型となっている。
「分かっている・・・!」
混戦の中、攫われた晶を取り戻す。それはミカエルの多重に張り巡らされた計画のひとつへの対決だ。
かなみやシェリルと同じく、音を媒介に他者を励起する力を持つ晶は・・・奪われ、ミカエルの手によって道具へと改造されてしまえば、地を支配する為の神の力とされてしまうだろう。
スーパーHOLYにも、同じく音を使い人を操る能力者がいるが・・・アルター能力の進化、スクライド現象。スーパーHOLYは脳改造によりそれを発現させて現在の能力にたどり着いた。
逆に言えば、ここまでであり、これ以上の能力の改善は望めない。それに対して、未だ覚醒していない晶ならば、覚醒の方向性を洗脳で誘導することにより、道具とすることが可能なのだ。
「(晶!この大地で、壊すべきではないと俺が感じた者!)」
彼ではないハカイダーの・・・今とは体の部品の大半も、収められた脳髄も違うハカイダーの・・・記憶がちらつく。電子回路が覚えているゴーストのような残像。
キカイダーが、人造人間の自分と違い人間の娘を、思い守ろうとしたことを、思い出す。この思いはそれと同じものなのか、違うものなのか。
「(かまわない、何であれ・・・!俺は、これを成すべきだと心に決めている!)」
構わずハカイダーは突進!バイクで、銃弾で、敵兵をなぎ倒し、壁を打ち破り・・・!
「来ましたか。愚かな・・・」
「ッ、ハカイダー!」
ミカエルが悠然と振り返り、ロードの細胞と機械が融合した怪異なシステムに磔にされかけた晶が叫び・・・
かくて幕を開けた「神話」は、現在の時間軸においてもまだ続いていた。
「ぬぅーーーっ・・・!!」
悪魔めいた漆黒でありながら、同時に不動明王めいた力強い炎の義憤をも思わせる容姿のハカイダーの、食いしばった姿の口元から唸り声が漏れる。
ミカエルの攻撃はあらゆるものを光と熱に分解する上に、その翼から発せられる光条全てが攻撃であり、全方位に無数に放たれる。
装甲は意味を成さず、加えてあらゆる包囲へ届くその攻撃は「全てを避けきり、攻撃に対する回避を終わらせる」という事も出来ず、隙が無い。
それに抗うハカイダーの牙、高振動ショットスラッグは超音速で襲い掛かるが、上位次元と接続し光の化身と化したミカエルに対しては、超音速ではあまりにも遅い。
「かぁっ!」
キンッ、ズガァン!
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。偉大なるかな主の御技。悪鬼よ、お前たちは裁かれる。それは既に神が定められている。」
奇襲気味に放った、腕部の隠し銃アームショット。それすらも、ミカエルは予知能力じみた、いや、実際に予知を行っているのかもしれない動きで完全に迎撃し回避する。
その光景を、生体機械に半ば磔にされながらも、箕条晶は見る。
「ハカイダー・・・」
ハーメルン・オーケストラ。音を媒介に様々な力を振るうアルター。その一端たる、心を震わせ皆の力を増す能力。それは今、最大限で鳴り響いている。
身肉を一部強引に引きちぎるようにして磔から片腕を外し、その手のうちにアルターを形成しているのだ・・・跳弾攻撃を行う過程でトップガンダーが行った離れ業の一つをきっかけにしてとはいえ、文字通り身を切る晶の覚悟。
だがそれでも尚ミカエルに届かない。いや。ミカエルの攻撃を辛うじてかわしきれているのは、このアルターの力によるものだ。
しかし、それ以上に届かないことが・・・晶には、死ぬほど悔しい。なぜならば。
それは相反した思いの混合だ。
助けられるだけの姫ではありたくないという思いと、夢の中の黒い騎士とハカイダーを重ねる思いと、現実に接してきたハカイダーの雄雄しくも気高い硬質さに惹かれてきた思いと。
それ故に。
「負けるなっ、私の騎士、いや・・・!」
夢を思い、そして、夢以上に大事な、コレまで戦い過ごした共有する時間を思い、晶は叫んだ。
「私の仲間、私の大切な人!ハカイダー、負けるなっ・・・勝つんだっ!」
晶は祈り叫ぶ。その思いと生命エネルギーが、彼女のアルターに注ぎ込まれる。
・・・スクライド。進化が、覚醒が始まる。晶のアルターが変化してゆく。
「・・・導かれる可能性を否定しますか。道具でもなく、命でもない。この歪な奇械への思いで・・・!」
自らの意思でスクライドを行い、進化覚醒してしまえば、もはや晶を神の道具、支配の手段として用いることは出来ない。計画への打撃に、ミカエルはハカイダーとの戦いでも見せなかった憤りを見せた。
祈り励ます晶の音杖が変形してゆく。魔術武器めいたデザインから、軍旗を思わせる姿に。そして、シンプルに研ぎ澄まされる過程で余剰した楽器型のパーツが、変形しながら移動してゆく。晶自身の体に。
アルター使いとアルターの融合。スクライド特有の変化だ。楽器たちは楽器としての機能と印象を失わないまま、背中に羽を供えた、聖女あるいは女神の如き鎧へと変貌して、晶の体へと融合してゆく。
「・・・ならば貴方は悪だ。神の敵へと進化した。故に・・・私が断つ。私は正義、その執行者だ!」
即断。未だ変化途中、そして、磔台からも脱出できていない晶をこの場で殺しにかかる。ミカエルの光り輝く刃翼が晶に向けられ、光条が放たれる・・・・!
「・・・貴様が正義、か。」
だが。晶は絶望のうめきも、悲鳴も漏らさなかった。ただ真っ直ぐにその力を歌い上げ、ただ真っ直ぐにそれを見据えていた。
「貴様が正義ならば、俺は悪だ。・・・貴様が正義だというのなら、貴様のようなものが正義だというのならば。俺は、正義を、破壊する!」
「ああ・・・そしてその先を目指そう。一緒に。歓喜の歌(アン・ディー・フロイデ)を共に謳おう。」
その背は、落ちかかる天を背負おうとするかのように逞しい。
その手は暗黒と黄金、地の底の色のオーラを帯び、ミカエルの光を「その手で掴んで」居た。力を増した晶のスクライド・アルター、ハーメルン・アン・ディー・フロイデが、その手に・・・ありふれた機械で作られた、鋼の腕に、霊威を与えているのだ。
「やってやろう、ハカイダー!」
「応!」
「神を称える歌で神に抗うか!不敬者がぁっ!!」
晶が宣言し、ハカイダーが答えた。ミカエルが激昂し怒号する。
晶が己のアルターにつけた新たなる名は、歓喜の歌は、その歌詞に神を称える言霊を幾重にも謳っている。
しかし、その言葉を晶は否定した。
「僕たちはこれからも迷い、悩み・・・祈ることもこれからもあるだろう。神と呼ばれるものに。だけれども、それは僕たちが見出し、僕達が祈る神だ。お前達ではない!」
キン!カキン!
ハカイダーの鋼が鳴り響く中、晶はミカエルに言った。
「時が切り離した者達は再び結び付けられて兄弟となり、友や愛を得たもの、心を分かち合う魂が一つでもあるものは、祈り、謳うだろう。・・・それがならぬものは。崇拝を求め分かち合うを求めぬ古き神は、涙と共にこの輪から立ち去るがよい!」
歓喜の歌の歌詞に準えて、晶は宣言する。古い神話の終わりを、新しい神話の始まりを。
「貴様らぁああああああああああああっ!!」
ミカエルの羽ばたきが百の光剣と化す。
全方位から飛び来るそれを光ならざる黒の拳が・・・砕く!
「フンッッッッ!!!!!」
砕いたまま拳が、ハカイダーが前進する。上位次元の熱と光で出来たミカエルの翼剣を砕くその五体は、一時的にこの世の理から逸脱しているといっていい。
正確には、この世が今、ハカイダーにそれを逸脱することを許している。響き渡る歓喜の歌が、大地世界とハカイダーを結びつけ、この世に満ちる霊力をその身に宿させているのだ。
一方的に打ち勝ち、受ける事を許さないミカエルの優位論理が打ち消される。コレよりは互角の勝負!
「!」
ミカエルが身を捻る。突拳を避けるには余りにも大仰な・・・否、直後にハカイダーの拳から銃弾が放たれる。それを読んでの回避だが・・・
クワァアアアアアアンッ!!
「!?」
直後、ミカエルの顔面を打撃が強襲。ハカイダーショットを、それを握った反対側脳でが鈍器としてたたきつけたのだ。
ミカエルが首を捻る。同時、ハカイダー発砲。悲鳴の如き金属破砕音と共に、ミカエルの左目が粉砕される。
「serra!」
羽ばたいて間合いを取ると同時に、舞い散る羽毛が剣として飛ぶ。
飛来する剣をハカイダーはたたき起こす。だが、同時に一部の剣は、晶へ・・・
「させん!」
それを、ライフルを片手持ちに切り替えたトップガンダーが、エナジーブレイカーにて迎え撃つ。
あらゆる物質を光エネルギーに分解するその力は、拳打に限定され、自己の有するエネルギー量にて制限されるとはいえ、部分的にはミカエルの力に匹敵するもの。
そのままでは無理だろうが、大半がハカイダーの強化に振り分けられているが、晶の力の一部はトップガンダーにも流れ込んでいる。故に、打ち消しあい、攻撃を迎撃できる!
「♪!」
「斬!」
しかし同時に、ミカエルの攻撃に専念したトップガンダーを挟撃するワルダー・ビジンダーを・・・!
「邪魔だぁあぁああっ!!」
ガシャアアアアアンッ!
まるで、体当たりでガラス戸を破るように・・・装着型スクライドアルターの力で磔から身をもぎ離した晶が、その反動を込めた突進で打ち砕く!
「ハカイダー!」
その勢いで突進した晶は、ハカイダーの隣に立って叫ぶ。追いついた、隣に立った、共に戦える、と!
「勝機!」
その反対側に、ライフルを構えなおしたトップガンダー!
「っ!行くぞっ!!!」
ハカイダーが、吼えた!トップガンダーの進言に・・・そして、晶の叫びに答える!
「馬鹿な・・・!」
ミカエルの予知が、思考が、光の速さで回転する。
この後にとるべき行動を、この涜神者達を打ち倒す手段を、この攻撃をしのぎきる手段を・・・!
「バカなああああああああああっ!!」
ミカエルの絶叫が響き渡る!その手段が・・・見つからない!
ミカエルの機械体を光で増幅した左の光翼が翻ろうとする!
晶がそれを軍旗を叩き付けて打ち砕く!
ミカエルの霊体で構成された右の光翼が羽ばたこうとする!
トップガンダーの拳がそれを粉砕する!
正面!ミカエルの諸手の鉤爪光を・・・!
「馬鹿は貴様だ、天の使いとやら。晶達、地を生きる者の行く手を遮るのであれば。それを俺が破壊すべきと見定めたのであれば・・・」
グワッ、キャアアアアアアンッ!!!!
「天でさえ、砕いてみせる。それが、俺だ・・・ハカイダーだ!」
防ごうとした諸手鉤爪ごと、相手の胴体を粉々に、片手撃ちのハカイダーショットとアームショットの双撃が打ち砕いたっっっっ!
・・・
かくして、ロストグラウンドでの戦いは、上位次元軍の敗退という一先ずの結末を見た。だが、全てが終わらない限り、これは未だ一時的な勝利に過ぎない。
此処より上位次元に逆上陸したハカイダーとトップガンダーが、魔天のノノノンと合流し、三銃士と呼ばれることになるのだが・・・
それはまた別の物語。
この最後の戦いで起こる、数多在る語りつくせぬ事象の一つ、戦後に語られる神話めいた逸話の一つである。