4.海外・その2


アフリカ。
巨大なクリスタルのピラミッドと、それに寄りかかるように、船が座礁するように停止した巨大な城の載った島。
バリスタスアフリカ支部と、アフリカ支部まで撤退した夜真都の拠点、ナァデル・ブリュンスタッド。
「進め〜〜〜〜っ!!」
無数のコネクテッドと量産型改造人間が、そこから続々と出撃しては、世界各地に展開していたHAの残党や、エヴァンジェリスト、ロード、ガーライル派軍天使と激闘を繰り広げる。
バリスタス側は、これまでアフリカを平定する課程で得た、そして北米混乱の時代には撤退戦に専念することで温存していた他支部と比べて圧倒的に多い量産型改造人間とコネクテッドによる、数押しという
HAは既に壊滅していた。エヴァンジェリストと軍天使は一部が離反者として離脱し、残った一部がロードの手足たる一般兵として交戦。
精強でオーヴァーロードの意思に忠実なロード達が要として攻防の基点となる。
ために、エヴァンジェリストや軍天使ならば数で圧倒することは出来ても、ロードが出てくれば一方的に蹴散らされる。
物量差で広範囲の土地を制圧する事はできても、ロードを倒すことは出来ない。そういった状況が、今のアフリカの「昼の戦」であった。

「夜はまだか・・・」
じりじりとした様子で未だ大地を炙るように照りつける太陽を恨むように、ナァデル・ブリュンスタッドの玉座でフェンリルは呻く。
生産力においてはロード・オブ・ゼクターにも匹敵しよう、アフリカ支部で開発された新装備、AHA(アンチ・ホーリー・アーマー)。
ロードの使う上位次元由来の神聖霊子は、夜族にとって致命的な弱点である。本来であれば夜族はその優れた能力でもって精鋭中の精鋭として敵側の精鋭を撃砕する戦いにあたることが出来るのだが、相手がロードではそれが出来ない。
その状況を解決する為に開発された、夜族にとっては放射線より有害な神聖霊子の影響を断ち切る防御服。
強力な成果であるが、であるが故に制限も大きく、夜族の血の力が最大化する夜にしか、この装備はしようが出来ないのだ。
為に、ロードに夜族が決戦を挑むには夜を待つしかなく、昼は味方が大量に犠牲になるのを、じりじりと待つしかないという状態が続いていた。

それでも・・・下手をすれば大西洋で撃沈されてもおかしくなかったのが、何とかアフリカ支部までたどり着けたのは僥倖。
実際、犠牲は多いが・・・このまま続ければ、恐らくはアフリカ全土における上位次元勢力の駆逐は可能なはずだ。
筈だが。
「けれど、夜が来ても・・・来なくても・・・」
折角貧困を解決できるレベルの開発を行ったアフリカの大地が破壊され続けている事に変わりはない・・・
既に夜真都のアフリカ脱出、北米の戦闘での大西洋支部の壊滅により、バリスタスの直接的な影響力は既にヨーロッパからは失われている。
各種の同盟も、実質的に破棄された状態だ。だが、夜族やミュータント等の人権保障に関する規定は、一度それに目覚めた以上、民度の高いヨーロッパにおいては・・・逆の方向に進むことはまずめったに出来は住まい。
バリスタスが居たこと。バリスタスが戦ったこと。その意義は失われはしない。
だが・・・

 

中国。
共に首領を含む相当数の幹部と機体を失った国際警察機構とBF団ではあるが、HAの崩壊によって、状況はある程度立て直すことが出来ていた。
「BF団とバリスタスの戦力が姿を消しつつある?どういうことだ?」
報告を受けた中条長官は、サングラスの奥で目を。細めた。
一清道人の報告によれば、生き残りの十傑集を除くBF団の一般戦力と、バリスタスの幹部級を除く仮面怪人達が、撤収したかのように姿を消しつつあるのだという。
「・・・現状の戦闘状況的に言えば、それほどまでの問題は無いが・・・」
アフリカの状況と違い、十傑集と九大天王の生き残り、そして第六天魔王の一人であるまんぼうに、プロとガーライルフォースマスター・ロウランと、アルフェリッツ傭兵事務所が日本に向かった事を除いても、未だに対ロード戦闘をこなせる格の戦力が充実しているこの大陸においては、上位次元戦力の撃退がかなりの段階で進んでいた。
現状、国際警察機構の一般戦力があればエヴァンジェリスト勢は圧倒でき、そして十傑集の残りがいればロードも抑えられる為、バリスタスやBF団が一般戦力を引っ込めても問題は無い、のだが。
「奴ら、『次』を考えているとでも言うのか?」
未だぎくしゃくとした、お互いとは戦わず先に上位次元戦力と戦うという程度ではあるが、バリスタスとの共闘再開によって、勢力の建て直しは急速に進んでいた。
だが、その中で観測されたこの状況には、流石に警戒を覚えずにはいられない中条長官であった。
上位次元との戦闘が終わった後の『次』。誰が地球を支配するのかという最後の戦いに備え、戦力を温存し、此方を消耗させようとしているのか?
「いや、だが、それでは理屈が合わん。」
細めた目を閉じて、先の戦闘を回想する。
既にBF団は十傑集のうち、幻惑のセルバンテス、素晴らしきヒィッツカラルド、マスク・ザ・レッド、命の鐘の十常侍の4人を失い、上位次元に赴いた衝撃のアルベルトに関しても、連絡が取れておらず、また、先の魔天王という正体から、今後もBF団に残るかどうかははっきりしないところだ。
つまり、本来国際警察機構と張り合うために必要な最高幹部を相当数失っているのだ。・・・最も、国際警察機構も、太宗をはじめとして相当数の九大天王を失っているのだが・・・
それにも関わらず、残り数少ない十傑集の一人、激動たるカワラザキが、味方を護るために上級ロード数体を巻き添えに念動力での自爆で壮絶な最後を遂げた。
それにより、大陸に現存するロードは、最早下級ロードのみといっていい状態となった。だが。
最終決戦に備え勢力を温存しているというのであれば・・・むしろ十傑集こそ護るべき存在のはず。だが、彼等は十傑集を犠牲にして一般戦力を護るという道をとった。
そしてそれをバリスタスとBF団が共同して行っているという事は、既にBF団とバリスタスの共闘は以前と同レベル以上の状況に回復して居る事を示す。
「これは・・・。」
喉元まで、彼らが何を目指しているのかに気づきそうな感覚が競りあがってきている。
だが、どうしてもその最後の壁を突破できない。これでは・・・また、北米異変の最終段階のように、バリスタスの意図に出し抜かれてしまう。
「・・・対上位次元決戦までの時間は少ないだろう。彼等は日本に戦力を集中させつつある。・・・要石の星の更なる要であるあの場所を押さえるために。そして、恐らくタロンはそれに乗じる。」
日本に連絡をつけてくれたまえ。中条長官は命令した。
あの国には、かの者が帰り来るという。
北米異変において、最後の最後にバリスタスの意図にたどり着いた彼女が。
「我らもなんとしてもロードに勝つ。だが、それが終わりではない、始まりなのだ。成し遂げねばならん!」
・・・奇しくもその言葉が。ある意味では一番、バリスタスの意図を察知した発言であったのだが。

「ありがとう、助かったよ。」
一本が途中でへし折れた、輝く五本羽を背負い、第五天魔王まんぼうはその背を向け、海の向こうを見ながら言った。
「本当に・・・ありがとう。」
「・・・行くんだね。」
その背を、ロウランが見ながら呟く。
「ねえ、まんぼう。私は・・・まんぼうと一緒にいたいよ。」
戦いの口調ではない、素直な感情の吐露。
「・・・出来るの?」
「あんまり、いつも一緒に居る、ってことは、出来ないかも。」
くしゃ、と、髪をかきあげて、まんぼうは苦笑した。
「けれど、時々一緒に居る、ことは出来るようにはする。そういう、未来を何とか作りに行く。」
そして、精一杯言った。
全ては無理かもしれないけれど、それでも、救いを作りたい、と。それは、世界征服を謳うバリスタスらしからぬ言葉かもしれなかった。
だが、踏み潰されていく闇と影のものを、少しでも拾い集めようと旗を掲げた、バリスタスらしい言葉ではあった。
「いつかさ。また。ぬいぐるみみたいにふかふかなあの姿の貴方を、思う存分抱きしめたい。」
その少年の背中を見て、ロウランは呟く。彼のもう一つの姿。暫くみていない。それを、たまらなく懐かしく思った。
「・・・コレが終わったら、うん。そうするよ。あの姿に帰って・・・一緒に遊ぼう。」
それが出来る世界を造る、と。
まんぼうは呟いて、大空に飛び立った。
決戦の中心、日本へと向けて。


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