2.上位次元〜3.海外・その1
2.上位次元
「・・・情勢はどうなってるね。」
「っ、蛇姫さん!気づいたんですか!?」
ベッドの上で目覚めて、蛇姫は真っ先に呟いた。それに反応するのは、居残っていたピピン・ラシップ。
その回りには医療系の能力を持つ魔法少女や魔女っ子達が、負傷者の治療に当たっていたのを、長らく意識を失っていた彼女が目覚めたことに驚いて詰め寄り、諸々の手当てを行う。
「ああ。何とかね。どうやら、死んではいないようだが・・・夢うつつに理解したけど、大事なものをなくしちまったみたいだよ。」
そう蛇姫は、霊能力強化型解像人間として、悪の博士が死亡したこと、北米支部が壊滅したことを認識していたことを明らかにした。
「だから、それ以外を。・・・どうなってる?」
その上で、そんな彼女に気まずそうな表情をとる少女達に、構わないから、と促す。
上位次元軍の最大攻勢に対し、三貴子としての力を解放、巨大化し立ち向かったものの、数多の根源破滅招来体を打ち倒すも力を使い果たして、炎に包まれ気を失ったところで記憶が断絶している。
一体その後どうなったというのだ。
「だいぶあちこち焼けちゃいましたけど・・・まだ、無事です。パドドゥもノノノンさんも・・・それと、天使の人たちが頑張ってくれてます。戦略的に考えれば、だいぶ結果論ですけど。」
「はん?天使?おい、どういうことだい?」
「あ、はい、そのですね・・・」
かくかくしかじかとピピンが語ってのけたのは、次のような内容であった。
地上に北米を犠牲とした儀式により一気に転送されるはずだったロードのストックが、儀式のバックファイアで大半消滅してしまったこと。
宇宙、地球、上位次元、戦況の広がりと混乱により、一箇所当たりのロードの戦力が薄く分散してしまっていること。
そして、それに拍車をかけるように・・・地球の最前線で地獄をみた、フェニックスという名前の少年天使の脱走と魔天軍への義勇参戦が呼び水となり、とうとう軍天が非道に対し割れた。
魔を制し世を保つ天使の本分に帰ろうとし、ガーライルの非道に最早従えぬというものが、地上界で戦う脱走エヴァンジェリストやエンジェルナイト・ラピティアの情報が漏れたこともあって発生。
真っ二つに割れた軍天の天使達の半分が魔天で独立を為そうとする魔法少女達と連合し、結果、天が半分に割れての大戦となって魔法少女軍の戦力が倍増。
現状において、ほぼ拮抗して防衛を成功させるに至っていたのだ。
「・・・なんとまあ、そんなことが。」
よもやの事態に、蛇姫は感心と呆然の入り混じった表情でくつくつと笑った。
「しかしまあ、だとすると・・・」
「ええ、どうやら。」
いつの間にかその隣に立っていた妖桜姫が呟く。
「どうやら潮目が変わったのは事実のようどすが・・・同時に、潮時なのかもしれまへんな。」
「かもしれないねえ。」
これはもう、彼女達の戦だ。
だが。
「さて、そいでも。」
「ちょっ、大丈夫どすか?」
「なまるほどやわな改造はされてないよ。」
ベッドから立ち上がる蛇姫に驚く妖桜姫だが。
「【世界征服を企む悪の秘密結社】として、戦おうじゃないかい。最後の大戦を。」
「・・・どすな、いきますえ、子桜!」
彼女達もまた最後の戦いに身を投じる。
3.海外・その1
状況の大きな推移は、北米大陸を震源地としていた。
既存軍戦力が、バリスタス壊滅、北米軍消耗と大きく空白化し、加えて上位次元勢力の欺瞞が暴かれた地であったためだろうか。
「此方は覇道軍。我々は北米一帯の戦乱解決の為行動しています。我々は戦闘を望んでいません。人類同士の戦闘は!」
覇道瑠璃が高らかと呼びかける。その声に北米政府軍は大いに混乱し、怯んだ。
バリスタスが巻き起こした破壊と殺戮によって北米の統治は寸断され半ば無政府状態となりかけていたが、この時点でまだ北米政府は存在し続けている。
だが、その内実は極めて最悪といってよかった。自分達が上位次元に操られていたと気づいた北米の軍もヒーローの生き残りも戦意を喪失しており、加えて政府は大混乱に陥っていた。
上位次元と癒着していたもの、すりよって生き延びようとするもの、抗おうとして洗脳や粛清を受けるもの、政府軍の一部を率いて離脱しようとするもの。
上位次元勢力は最終的に大統領の洗脳天使化を持って、これを鎮圧せんとしたが・・・
「う、うおわあああああああっ!」
「き、貴様逃げるな!?」
「うるせえ!俺は・・・俺はいやだ!これ以上誰かを憎めと命令されるのはなあ・・・!」
兵士達が身を翻した。
「・・・粛清・・・!」
その眼前に現れる下級ロード。蟻の姿を持つフォルミカ級が、大顎を閃かせる。
「うわぁあああああああっ!!?」
「バルザイの円月刀!!!」
「SYAAAAAAA!?]
直後!アントロードのそっ首を両断する魔剣!
「汝ら神といえど、既に光さす世界の暗黒なり!乾かず飢えず、無に帰るがよい!」
「おうよ!敵はこいつらだ!見間違うなよ、お前ら!」
「うっ、うおおおおお!!」
マスター・オブ・ネクロノミコン、大十字九郎!その書の精霊、パートナー、アル・アジフだ!
北米軍を北米軍を支配するロードから覇道軍が護るという現実に、支配は忽ち瓦解してゆく。
「折原さん・・・。」
その光景を見て、瑠璃は告げた。
「行って下さい。貴方の国へ。私たちは・・・もう大丈夫と言い切れる世界ではありませんけど・・・私たちで頑張っていきます。貴方には貴方を待っている人がいる筈。」
「分かったわ。」
それに答えるのえるの表情は、はっきりとした意志力に輝いていた。
多くのものを背負わされた。多くのものを失った。その手は望まぬ血でぬれた。そして、あの時に全ては終わっていて、その手で成せたことはなかった。
だが、それでも。いや、だからこそ。
「・・・いってくる!」
だからこそ、今度こそと。覇道財閥の用意した迎撃困難なステルス極超音速大気圏往還機の発進スペースへと、のえるは退出する。
「・・・私たちも、成し遂げねばなりません。生き残った者として、最後まで生き残っての勝利を!」
「勿論よ!」
BLAMBLAMBLAM!!
瑠璃の通信機越しの激励に、聖なる弾丸で神の僕を標榜するロードを撃つ矛盾を、構わず突っ切りながらロゼットが叫んだ。
北米の、HAの崩壊は始まっていた。
だが、それはバリスタスの手によるものではなく。
いや、切欠は確かにそうであったのだが、彼ら自身の手によるもので。
この最終局面において、世界は寧ろ統一ではなく、分裂の様相を呈し始めていた。
だが、最後の戦いにおいて、世界を分割した諸勢力が激突すれば、その果てに世界の統一はある・・・
そうなのだろうか?
だがそれはともかくとして、あるいは、それを前提条件として、バリスタスたちも、それ以外の者達も、次々と逆襲の旗を掲げようとしていた。