15.最終対峙


「負けて僕は強くなった。仮面ライダーブラックも同じだ。だから・・・最初から最後まで強いままの彼には、負けて知る強さという部品が無かった。それじゃあ、届かなかったんだよ・・・アンジー。」
倒れ伏したラ・バルバ・デを、ウテナが膝に乗せていた。静かな表情で、派手に散っている彼女の髪をくしけずっている。
一際巨大な爆発四散痕が、延々と燃え盛っている。その周囲にまき散らかされているのは、ン・ダグバ・ゼバの欠片か。
そして打ち倒されたシャドームーンを、背負い立つ仮面ライダーブラックに、ゴルゴムの三神官が、ゴルゴム残党を束ねて支配する事での、早急な乱の終結を提案していた。
ゴルゴムの仮面ライダーブラックへの臣従は、lucarの言葉をブラックが容れた結果ではあったが。鍛え直された正義は終に悪を滅ぼしつくすことなく屈服せしめたのだ。

天頂には唸りを上げる超自然の力の渦。アスカ蘭の脱落により地に満ちた霊子を食らい、強引にガーライルの本体が地上に出ようとしているのだ。

その元で、HUMA・折原連合軍と、バリスタス軍が向かい合った。

決戦。

それを強く思わせる空気であった。

「・・・久しぶりね、バリスタス。」
連合軍を率いるのえるが、戦闘に立って呼びかけた。
「・・・大人びられたな、折原総理大臣」
lucarと共に立つシャドーが、静かながら油断の無いたたずまいで、ひらり、その声を受け止める。
「傷ついて得る強さがある。・・・貴方達と共に戦った、ウテナちゃんの言葉よ。」
貴方達は、『強くなれたの?』と。
太陽は、日食後に初めて登ったような強い輝きで問うた。
「負けて死んでは、強くなれません。そういう意味、寧ろやはり彼にその文句を言ってもらいたいところですが・・・ある意味、貴方を彼が強くした・・・貴方の中に彼がいる。そして、我々の中にも彼が齎した強さがある。そう信じたいものですな。」
欠けた第六の天を苦く悼みながら、日輪の輝きを黒曜は反射する。
「そう、我々にも得たものはある、と、言わせていただこう。我々は我々の本懐を取り戻した。」
「それは?」
シャドーの言葉に、のえるはしかと問うた。
連合軍に緊迫の気が満ちる。
天の支配が迫り来る中、この対峙はある意味、それに抗う地の支配者を決める戦いでもあるのだ。
その華奢な肩に世界と正義を背負う折原のえるに付き従うヒーロー達は、無論、天に抗い勝つ積りでいるが。
この地獄の戦乱を、傷つきながら生き残ったという点では、現在のバリスタスと自分達は正に互角。
どちらが、この地を担うのか。
どちらが、勝つのか。
それは戦ってみなければ分からない事だ、と、強く感じていた。
そして、主の問いに対し帰る答えを引き絞られた弓のように待ち構え・・・
「『我々は世界征服を目論む悪の秘密結社である』という事だよ。・・・ここで貴方達を倒してしまったら『世界征服を目論む』ではなく、『世界の支配者』に成ってしまうが。それは、今の我々では無理だ、ということだ。」
「はぁ!?」
全力で肩透かしを食らった。というか、突撃準備していた何人かが実際にずっこけた。
「ちょ・・・!?」
何しろ、あののえるですら、流石に面食らった表情をすら見せたほどだ。
「私たちはまだ『世界征服を目論む』だけで、『世界の支配者』にはなれない。それには、まだ、私たちには変化が必要。」
「い・・・いいの?それで。」
目をぱちぱちさせるのえるに、シャドーの言葉をついだlucarが、言葉を続ける。
「私たちは正義を試し、悪を救い、アンバランスを糺してここまで来た。此処から先に進むには、今度は、『私たちなりの、悪としての正義』が必要。それはその言葉の矛盾が示すとおりに、とてもとても、作り上げるのには、長くかかるもの。」
付き従うバリスタスの兵は静かで、上層部の下したその決定を、既に受領して居る事を姿で示していた。
「そして、正義を試し、悪を救い、アンバランスを糺す存在は、これからも必要となる。だから、私たちはまだ『世界征服を目論み続ける』必要がある。・・・それが、私たちの出した結論よ」
正義と悪の戦いは、これからも終わらない。
つまりは、そういう。成程、確かにそうだった、そしてそうなのだろうこと。
それが現時点でバリスタスがたどり着いた真理だった。
「・・・なるほどね。それじゃあ、ここに地上の正義と悪が揃ったってんなら。これが、これからの世界の形ということね。」
「ええ。ですから・・・」
納得しペースを取り戻したのえるが、にっと笑い。
lucarが、細くしなやかな指で天を指差した。
「正義も悪も許しはしない、天の支配をまずは協力して跳ね除けましょうか。」
「乗ったわ。」

これが、天と地との決戦の始まりで。

そして戦いが正義か悪が勝つものであれば、正義と悪の手の取り合いし軍勢が勝つのは、世の道理。

故に。この決戦の終わりの時に、天地は、正義と悪が、ともに勝鬨を上げるのを、初めて聞いたのであった。

 

16.明日


かくして、戦いは、上位次元陣営の敗退と、バリスタスら秘密結社勢力の再度の地下潜伏という形で終わり・・・月日が流れた。
だが、必然、それだけで済むはずがなかった。戦いにより明らかになったさまざまな真実は、激変を呼び。そして、世界は・・・

「出動だ!バーンナップ隊のアホ娘どもに先を越されたら晩飯抜きだぞ!」
「ラジャーッ!」
科学技術が裏面技術の解放と魔術との融合により比類無く高められた結果、それの導入によりかつてならばSFじみているといわれていただろう部分と、急激に進行が進んだ結果残っているかつてと全く同じ町並みとが融合した、奇妙な町並みを。
今日もカラフルなコスチュームに身を包んだ、様々なヒーロー・ヒロインや警察機関の隊員たちが突っ走る。
その弾みで風が巻き起こり、本屋の軒先に積まれた本が翻る・・・

・・・そこだけではなく、あちこちで騒ぎは巻き起こっていた。

「良いか、兎に角その物騒な右手を絶対に妾のほうに向けるでないぞ!?」
「そいつがあれば、ある意味ガーライルとの戦いは、すっげえ楽できたのかもしれねえが・・・今は今、お前はお前。無茶は・・・」
幻想を殺す少年の手に、アル・アジフが警戒し。
ヒーローが現れても尚、自分もまた立ち向かうつもりでいる少年に九郎が苦言するが。
「それでも、この俺の手に出来る事があるんだろ?」
「・・・無茶は程ほどになっ。」
巧く支え、一緒に戦うことを九郎は選択した。
「うむ。あの『ガーライル封印体』の娘、涼宮ハルヒというたか。あの娘の心までをもしかと助けたいのであれば・・・おぬし自身が無事に生き残って迎えに行くことが必要じゃぞ。上条当麻よ。」
「・・・おうっ!」
アル・アジフもそれに無言のうちに同意し・・・その言葉に少年もまた頷く。

・・・戦いの果てに、神は封じられ、天界は再編成された。

「インキュベーター星人!貴方達の魔法少女詐欺も此処までです!」
「僕達はこの宇宙を永遠にしようとしているんだよ?それなのに何で阻止されなきゃならないんだい?」
「まどかのお人よしやさやかのバカみたいな奴らの苦悶で作られる宇宙なんて、地獄だぜ。永遠の地獄なんて、誰も望みはしねえんだよっ。」
バージョンアップした魔法少女装束に身を包むパドドゥと、ぼさぼさした赤いポニーテールに多節ランスといういでたちの魔法少女が、一見マスコットじみているが奇妙に無表情な白い獣を追い詰める。
「『真赤な誓い(ロッソ・ジュラミント)!』」
「何だい、この力は!僕達の第三魔法(たましいのぶっしつか)の限界を遥かに超えている・・・!?」
赤き魔法少女、佐倉杏子の槍がひらめいて、編み出される魔法に、白き獣インキュベイターは驚愕した。本来の彼女の魔法は「真紅の幻影(ロッソ・ファンタズマ)」、幻覚を生み出す魔法であった筈だというのに。
今彼女が紡ぎだすこれは幻覚ではない。幻覚が強度を増し現実となり、誓いを押し通す為に世の理を挫いて奇跡を生み出す、真祖の空想具現化に等しい力・・・!
「・・・わけが分か」
「海の魔法は生命の根源。生きる意志と進化の力。貴方達が魔法少女に与える枷であるソウルジェムを解除し、真の魔法少女にすることだって、できます!」
「・・・説明されちゃったよ・・・。」
それが、パドドゥの新たなる魔法が杏子を強化・浄化した結果だと告げられると同時に、「真赤な誓い」の結界に囚われ、無限再生もままならず封じられるインキュベイター。
「・・・さて、あとは・・・」
「ああ。今日び魔王なんてそこらでごろごろして平和を満喫してんだ。今更魔王化なんてはやらねぇ、って、ほむらの奴の尻を引っぱたきにいかねえとな・・・!」
天と地との闘争の手駒とされることなく、今や天の魔法少女達は、本当の意味で地上を護るためにその力を振るえるのだ。
そして、その後継者達もまた、救われたる者達によって救われ、新たなる救い手となる。

・・・天と人と魔は交わり、隠れ潜んでいた秘密結社はその存在をあらわにし、「黄金の混沌」や「千切られし過去」を思わせる、豪華絢爛にして大騒ぎの時。

バラバラバラバラ・・・!
「今日も始まりましたよ!バリア展開!」
上空から撮影する、ヒーロー・ヴィラン案件撮影専用特殊新型ヘリで、バリアを展開しながらカメラマンがカメラをそこからはみ出さないようにして構える。
「やれやれ、慣れちゃあいけないはずなんだがなあ。今じゃあ特種のインフレで、どうにもこうにも。仮面ライダーの覚醒も何人目だっけ?」
慎重に操縦をしながら、運転手が苦笑する。
「ええ、おかげでミシェル・モア映像賞の難易度もうなぎのぼりで・・・ま、それでも頑張りますよ。今度こそ、私たちは真実を逃さない・・・世界を滅ぼさずにいてくれている人たちの為にも。」
「おう。頑張りな、リリィ=M=ブリッジ!」
「はい!」

・・・だが、世界は突発事故で崩壊したりすること無く、昨日も、今日も、明日も存在し続けている。それは多くのヒーローの頑張りの故であり、そしてそれだけではなく・・・

ヒーローの疾走で翻っていた本が閉じて、再びタイトルを表にする。
「さあ、今日も世界を守りにいこうじゃあないか。」
「ああ。世界を征服する前に、世界が滅んでしまってはどうしようもないからな・・・」
その書のタイトルは、『秘密結社バリスタス』。その活動の歴史をまとめ、改めてその善悪を問う書だ。
そして、今日最大の騒ぎの中心点に・・・
「では、また行くとしようか。世界を征服するその為に!秘密結社バリスタス、出撃!!」
秘密結社バリスタスの改造人間達が出撃する・・・!


小説・秘密結社バリスタス


 

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