14.日本・対上位次元、HA残党決戦

黄金の翼が天にはためく。黄金の後光が、無数の小天使となる。
それは地上の小ガーライルとでも言うべきオーキッド因子保持者、アスカ蘭の力。今や女神よりも神々しき黄金の大天使と化した彼女は、あたかも天の正義のように戦場に君臨する。
神聖霊子から生み出される小天使と、配下と侍る無数のロード。そして、HAの残存部隊。それは、この世界の命運のかかった戦闘の最終局面においては桁外れの力だ。
だが。
それに抗う漆黒の鏃が、幾つも光を切り裂いて進んでいた。

「serra、serra、serra・・・・!」
「聖なるかな・・・!」
「ここで負けては後がないぞ!撃てぇえええ!」
一つの漆黒は、無数の気弾や技の弾幕支援を受けて、地上を突っ走る稲妻。
マシーネン・カーネル。そして、彼女がJUNNKIから預かって率いる学園特武隊だ。
「ライダァッ、パァンチッ!」
「必殺剣・・・麦穂薙!」
共に戦った者達とバリスタすの改造人間達を率いる彼女が、HA残党軍と、ロード達を翻弄し、拘束する。
「JUNNKI!行けぇえっ!」
彼の決着を支援する為に。

「うぉおおおおおおおおおおっ!(YUOOOOOONN!!)]
人としての叫びに、怪獣王の咆哮を二重に重ねながら、青白い鬼火を噴射したJUNNKIが突進する。
怪獣王の黒くひび割れた肌を纏う今の姿は、正に神に挑む魔王の如し。
「悪魔め。」
鬼火を帯びる銃弾を、刃を、打撃を、鬼火の砲弾を、アスカ蘭は光の壁で受け止め、小天使を盾にし、翼で払う。
「落ちなさい。」
その上で、翼刃弾と小天使を弾幕の如く降らせ、悪魔を地に堕とそうとする。
「お前に・・・従って、たまるかぁあああ!(GAAAAAAAA!)]
体に食い込む刃を、己を構成するエネルギーを爆弾と変えて体当たりする天使を、体から生み出す炎で焼き尽くす。
焼き尽くす。
「従えるわ。」
「ぐうっ!」
焼き滅ぼすが、焼き尽くし、きれない!
「私は地上の霊力をかき集めることが出来るわ。救済を願う全ての祈りを。その力を上位次元への門にする事も出来るけれど、地上における代行者たる私の力にする事も出来る。門は貴方達を殺してから開けばいい。」
淡々と。
あゆを殺す事で更なる高みに達した力を誇示して。
「っ、が、ああああ!」
JUNNKIに血を吐くような咆哮をさせる。
だが。
「JUNNKI、さん!」
呼びなれない声が響く。悪魔の翼が翻る。翼刃弾と小天使が爆発四散した。
「っ、助かった!」
それを行った者も、また、疾走する漆黒。
ハンターJ。不動ジュン。かつて、アスカ蘭に使われていた女。JUNNKIのクラスメート、美樹の大切な人。過去、美樹の心配から、彼女についての調査が行われていた。
だが、それだけで。この最後の大混乱の最中出会っての、ぎこちないチームワークだ。まして、ハンターJの能力は、せいぜい標準的なオルフェノクよりは強いが、ギルス体の中では平均程度。
あたかもパズルのピースが偶然はまり込んだような偶然ではあるが、たいした力ではない、筈だ。
「・・・ジュン。貴方、何故。」
だが、その微力に、アスカ蘭は違和感を覚えていた。
大した力ではない。だから、少将の助けにしかなっていない。ように見える。だが。
「何故、ついてこれるの。」
そもそも、実力差的に割り込むことすら不可能な筈なのだ。
その呟きを聞いて、ジュンは答えた。
呟くように、祈るように。
「一人で戦ってきたから気づかなかった。私の、特殊能力。地獄の悪魔のような姿らしくて、けど、凄く、誇らしい力。・・・死者の思いを、少し、物理力に変換できるみたいなのよ。」
「死者の・・・!まさか!?」
超然としていたアスカ蘭の表情が歪んだ。
JUNNKIを見る。その背後に、いる筈の無いものを見ようとするように。
「いや、あゆじゃないさ。霊子学的に、それはありえない。ただ、あゆだけじゃない。俺達は多くの死を背負っている。」
消えた魂は、使者の思いを力に変える能力でも救えはしない、と、JUNNKIは言う。
「そう、それなら」
アスカ蘭は安堵したように言いかけた。それならば、恐れるに足らぬ、と。
その言葉を。
「皆が、お前を倒す。」
JUNNKIの言葉が途中で断ち切った。
同時に、その背後で、戦局が大きく動いた。


斬!
既に何体も切り倒したところにさらにロード一体を切り伏せ、カーネルは鋭く声を発した。
「HA共!ロードとオーキッド因子保有者を片づけたら、あとの貴様らは我らは感知せぬ!武器を捨てて折原軍にでも下るがいい!」
味方との短時間の接触で息子を後方に退避させることに成功している為、今のカーネルは恐ろしく身軽で、また鋭い。
「既に、他地域の拠点においても、ロードとHA残党は切り離され撃砕されつつある・・・負けるのは我らの側ではないぞ!」
そう語るカーネルの言葉は嘘ではなかった。

同時刻、北海道。

「ありがとう、助かった!」
にぱ、と、武藤カズキは笑った。
「何。誰かを助ける者がいるのであれば、誰かを助ける者を助ける者も、いなければならん。それだけのことだ。」
それに対し、キンムカムイは静かに答えた。
もとよりHAからの離脱者である錬金戦団は、割と自由に動ける立場だ。因縁を意識して、その場での共闘を拒む存在ではない。
「・・・いろいろあるけど、今は後回し!」
「うむ!」
無論、良心の強いカズキのこと。北米でのバリスタスの所業を是とは出来まい。
だが、今は目の前の人々を助ける為に走るのだ、それが最優先だとカズキは分かっている。己が武装錬金である槍のように、カズキはまっすぐに突き進む!
「仕掛ける、合わせられよ!」
「サンライト・スラッシャー!」
キンムカムイがロードの動きを封じ、そこにカズキが突撃を叩きこむ!
「・・・すまない。」
斗貴子が小さくつぶやいた。
「分かるさ。ああいう子は死なせたくない、だろ?・・・あたしらもそう思うだけのことさ!」
霊を言われる筋合いはない、と、エタシペカムイは笑う。ともあれこれで北海道の戦いは、錬金戦団ANDバリスタスVS現地降臨ロード、となったわけだが。
もとより北海道のHA戦力は錬金戦団が基本であり、それを失った以上、残ったロードの数は少ない。
対してバリスタスは北海道にもとより一大拠点を築いているのだ。これならば、勝機は十分!

そして同時刻、沖縄!

「やあああああっ!」
「せいぃっ!」
「ぎしゃ・・・!!」
「・・・終わりです。」
翼(ういんぐ)の張り巡らせた結界にトラップされた敵を、牙(たすく)と殻(しえる)の肉弾の挟み撃ちが粉砕する。
完璧なコンビネーションに、指揮官級のロードとて、もはやなすすべもない。
「やれやれ・・・まだまだ負けてはいませんよと、言いたいところですがっ!ふんっ!」
「ぐおっ!」
自らも配下のロード達に大斧を叩きつけながら、影磁としては、それでもうれしく思っていた。
かつては生命のエル相手になすすべもなかった娘たちも、ここまで強くなった。まだまだ、とはいえ、もはや自分を超えていく事は確定だろう。
だからこそ今、沖縄攻略にあたっては、あくまでロードを撃砕することで、HA残党の戦意を粉砕するという戦術をとれているのだ。
「そうだ。人間は神になど負けんさ。」
唯一の神には、天使はいても仲間はいない。成長をする仲間がいない。
故に、我らは負けはしない。そう、影磁はこの時確信した。

「何故だ。」
JUNNKIの言葉に、咄嗟に後方を見、そしてその神秘的知覚能力を持って上位次元軍勢の関係する全戦場を知覚したアスカ蘭は、再び表情をゆがめた。
「なぜこうも、押される?」
その二カ所、そしてそれ以外の戦場でも起こっているロード勢力の打倒に、アスカ蘭は疑念を抱いた。ロード一体一体の質が、どういうわけか低下している。
そうでなければ、これほどまで一方的に撃破される事はないはずだ。
「お前達のロードは、強い。戦力、兵力としては完璧だ。」
それに対しJUNNKIは呟いた。
「完璧だ。だから、変化しない。神聖霊力を繰り出すタイミングも、武器や拳の振り方も。成長もしない。戦術を駆使することも、相手の動きを読むこともしない。」
俺たちは、違う、と。
「そんな完璧との戦い方を、学んだ者達があちこちに出来始めた。そして、お前達は敵を作りすぎた。もうこの地球には、壊滅したHAの残党しか味方がいない。宇宙でも、お前達が支配した筈の銀河連邦は割れつつあるじゃないか。」
俺たちはお前たちを乗り越える。団結と、鍛錬と、そこから得る新たな力で、と。
・・・本当は、それだけではない、というよりは、もっと、理由があった。上位次元の神威は、人が神の正義を、正義の支配を求めれば求めるほど強くなる。本来ならば荒れた世には自然と強まる力。
だが。
バリスタスがいた。折原のえるがいた。何人もの正義の味方がいた。何人もの、正義に抗い大義の旗を掲げる悪があった。
世界は、人々は。正義に支配されるのではなく、自分の義の旗を掲げ戦う人々を見続けていた。
それが、ロード達の力を弱めている要素もある。アスカ蘭の言うことも、完全に間違いではない。
だがそれは、バリスタスたちが、戦い続けた結果で・・・それは間違いなく、戦い抜く中で研鑽された力と意思の結果であった。
「だから・・・お前も倒してみせる。あゆが生かしてくれた俺が。共に戦う皆と一緒に!名雪、お前の力も貸してくれ!」
「うん!」
カーネルの指揮の下、鷹乃羽が、学園特武隊が、HA・ロードの軍勢を切り刻み、引きずり回す。
その合間から、ぽんと弾み出るように現れた、青い髪の少女。水瀬名雪。JUNNKIを愛する少女。
「・・・ありえないわ。そいつも、二の舞になる。もう一度泣きなさい、子供!」
蘭の翼が輝き、ひらめく。天を覆いつくサンばかりの天使の軍勢!
空気を切り裂いて降り注ぐ。突き刺さる。爆発する。突き刺さる。爆発する。突き刺さる。爆発する。突き刺さる。爆発する。突き刺さる!爆発する!・・・JUNNKI達がかわした後の地面に!
背後から一斉に支援射撃が打ち上げられ、翼刃弾をそらし、天使を迎撃するのだ。それだけではく。
「蘭。貴方は、神じゃないわ。神じゃないから、特別すぎる自分を、異端ではなく優越なのだと確認する為に他者を虐げたりはしない。特別であることにそういう思いを抱きながらも、特別を失いたくないと同種を殺めたりはしないわ。貴方は、ただの人間。私は知っている。私と同じように。」
何度か食らって吹き飛ばされ倒れながらも、致命傷にしないぎりぎりの領域に飛び込みながら、ジュンが呟いた。
「彼らは、例えそれが本当の神でも恐れない、人間の強さを持っている。貴方は、人間でありながら神だと思って、人間の強さを失ってしまった。」
だから・・・勝てない。
実力で圧倒的に劣る身だが。アスカ蘭という女を知る者として、ジュンはそういった。
「あゆちゃんは、もういない。けど。貴方はJUNNKIさんの前で、あゆちゃんと全力で戦った」
猫のように俊敏に、キャットオルフェノク水瀬名雪は駆ける。
「見せてくれたんだよ、あゆは。お前の力を、戦い方を!」
神に牙を突き立てる黒月龍(クロウ・クルヴァッハ)のように、JUNNKIは奔った。「そして、その時と今の力の差は・・・さっき見た!」その為に、食らいながら耐えたのだと。
「対策と、僅かな助力で!越えられる力の差かぁっ!」
「それでも!私たちは勝って帰るの!皆で一緒に過ごせた、頃に!たとえ、もう一度全員で揃うことが、出来なくても!」
咆哮するアスカ蘭に、名雪が叫び返した。その体が青く光る。キャットオルフェノクとしての肉体が、一瞬、人間、水瀬名雪としての姿に近づく。だがそれと同時・・・
アスカの振るった神の力が、彼女の体から一定の範囲、消えた。
それは、日常を愛した彼女が、あゆの最後の戦いから、そもそもあゆ本人が力を受け継いだように、あゆから受け継いで目覚めさせた力。
後に幻想殺しと呼ばれ、ある少年に受け継がれることになる力だが。それはまた別の物語で。
「らぁああああああああああああああんっ!!!!!」
今、その、別の物語、未来へと至る道を、仇の名を叫びながらJUNNKIが走った。
名雪がこじ開けた空間を、JUNKKIが突っ切る。それを阻止しようとする小天使たちを、ジュンが遮った。

因果が。
応報する。
彼女が虐げたものが

「ライトニング!」
「な、あぁあああああああああっ!」
蒼の炎が、凝集され・・・赤の炎となる。己の身すら燃やすほどの怪獣王の切り札に。
「ショッカーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
絶叫と共に力を繰り出すアスカ蘭に、燃える腕を振り上げ、JUNNKIは命も燃えよとばかりにその体に、叩き、つけた!

・・・

「私を殺しても、貴方のあゆちゃんは戻ってこない。私を殺しても、私の死が、私の貯めた神聖霊子のエネルギーが、ガーライルを呼ぶわ。」
ライトニングショッカーで胴を焼ききられ、上半身だけになったアスカ蘭が徐々に消滅しながら呟いた。
「あゆは帰ってこないけれど。あゆに生きろと願われた命を生きる事は出来る。仲間を護ることも出来る。ガーライルがやってくるのなら、戦うだけさ。」
そんな彼女の最後を見る事なく。JUNNKIはきびすを返して、あゆの元へ戻りながら言葉を返した。
「そう・・・」
少年の背を、アスカ蘭は見た。人ならざる異形でありながら、人として背負う強さを持つ少年の姿を。
そして、視界内に、自分に虐げられ、自分を呪い憎むに値するであろうジュンが、静かに、悲しげに、己を看取っていることを認めて。
きっと。この後のガーライルの降臨も・・・おそらくはうまくいかないのだろう、と思いながら、何処か納得と共に、彼女は消失した。


戻る