1.銀河系宇宙


「・・・改めて、状況の報告を頼むわ。」
宇宙。M78星雲・旧「光の国」近郊、星系No.1947392729472.
宇宙傭兵協会の現在における拠点。
オーヴァーロード・トーマに敗れ、旧神としての力を失ったギラ軍曹が腹心の牙竜に頼んだ。
少々顔色は悪いままで、あちこち傷だらけだが。
まだ、生きている。そして・・・
「いわゆる「バリスタス混乱」と呼ばれる、地球の北米地方に端を発する一連の混乱が収束した結果、ネオバディム同盟は急激に勢力を盛り返してますな。」
それに対し、牙竜が立体映像を交えて説明にかかる。巨大なる龍の舵を取る白い鎧の将の姿。
「地球から送り込まれたバリスタス参謀ヴァイスロンドと、戦艦セルペンドラ。これを劣勢時に防衛の壁、攻勢時に突破口とし、連中は軍の再編成を完了しやした。・・・奴ら、近いうちに最終攻勢に出るつもりでしょう。なんとなれば・・・」
ピッ。
映像が切り替わる。旧式の銀色のコンバットスーツが、大勢のコンバットスーツを率いて突撃する画像。
「地球での、地球人を生贄にしての上位次元の戦力増強計画の発覚により、遂に銀河連邦が割れました。宇宙刑事長官ギャバンの全宇宙刑事を率いての蜂起を引き金に、上位次元派と、それ以前の体制に戻そうとする王道復古派で、真っ二つです。現状は上位次元派が優勢ですが・・・」
「連中にはもう兵力補給の後が無い。加えて、要石の星の戦況次第では、更にひっくり返りかねない。」
牙竜の言葉にギラ軍曹の言葉が重なる。北米の一件で上位次元は補給を断たれた。加えて・・・地球そのものだ。
M78星雲光の国が失われて以来、上位次元、下位次元、この世界を繋ぐ要石の星は地球のみ。
地球での戦局次第では、オーヴァーロード・トーマ、ガーライルそのものの力が、この世界から失われうる可能性すらあるのだ。
最後の決戦は、地球が決める事になるだろう。だが、同時に、宇宙の戦況が地球の戦況をも左右しうる。故に、どちらも等しく、今この時の行動が全宇宙の行く末に影響を齎すのだ。
千載一遇。というよりは、この機を逃して他になく、コレが終わればチャンスも終わりの、一発逆転の機会だ。
王道復古派にとっても、ネオバディムにとっても。そして・・・
「アタシたちの戦力は?」
血の気の足りない顔に、それでも力強い笑みを浮かべてギラ軍曹は問うた。
それに対し、無言で牙竜は腕を打ち振った。その先には・・・
「「「「「「「「「ギラ軍曹!萌えぇ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」」」」」
相変わらずアレな挨拶を掲げる、数多くの宇宙傭兵達の姿!コレまでの過酷な戦況で、尚残った精兵達だ。
それを見て、ギラ軍曹は目を細めて笑った。
(神として、長い、永い戦いを続けてきた。その挙句、神としての力を失った。それでも・・・)
終わりではない。それに、一時感じた孤独感は錯覚でしかなかった。
永く永く続けた戦いの故に、集まった多くの戦友がいる。
一人ではない。自分も、彼らも。
「アタシたちも、それじゃあ、そろそろ始めようか・・・!」
【うぉおおおおおおおおっ!!!」
ギラ軍曹の言葉に、牙竜が、傭兵達が吼えた。


ヴぉぉオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・ンンンンンン・・・・!

音が聞こえるはずの無い真空の宇宙に、龍の咆哮が轟々と轟き渡る。
それは通常の科学の産物ではない証拠。宇宙龍脈の流れを泳ぎ、霊子を振るわせる魔的存在としての戦艦である証拠。
襲い来る、戦艦よりも巨大な、天体に匹敵する程の大きさの天使達を、通常の戦艦より遥かに大きいが、それでも天体天使と比べれば微小な存在である筈の屠龍戦艦セルペンドラの龍咆砲が打ち砕いてゆく。
「進め!この機を逃して勝利はありません!我らの船はまだまだ持ちます!」
北米の一件、「バリスタス混乱」の最中、味方からの援護も得られぬまま最前線に踏みとどまって、バリスタスの行いに関して不信をどうしても抑えきれないネオバディムを守り続けたセルペンドラは、既に鱗型装甲や角型アンテナも相当数脱落し、痛々しい有様となっている。
だがそれでも尚、この反攻の局面に他っても未だ戦闘に立ち続けていた。傷だらけになっても、その戦闘能力は健在だったのだ。
今この瞬間、各地で潜伏した拠点から再起し、最後の大反攻を仕掛けているバリスタスの各地の改造人間達と同じように。
「GITF軍、セイバートロン解放戦線軍、共に合流!」
「来てくれ、ましたか」
セルペンドラの周囲に無数の大型円盤とそれぞれ各自の飛行形態に変形した機械生命体が並ぶ。
「・・・すまないな。」
「いえ。警戒は当然の事。事実として我らは罪を犯しました。そして、黙っていた我らの問題でしょう。」
かつてのバリスタス混乱では、地球北米におけるバリスタスの虐殺行為で分離していた関係だったが、今、再びお互いに対上位次元の攻勢を行う中、再び合流したのだ。
メフィラス星人の言葉少なな謝罪に、白き輪舞曲は静かに答える。
「私たちは世界征服を企む悪の秘密結社として、行くべき道を行きなおすのみ・・・さあ、進みましょう。ギャバン長官達銀河連邦王道復古派と、銀河連邦上位次元派を挟み撃ちにします!」
本来ならば、銀河連邦は敵なのだが、この状況では、一旦は王道復古派と共闘するのが最善の一手。
「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」
数多の宇宙人たちが吼える。その中、一人ヴァイスロンドは沈思黙考する。
「(さあ、いきましょうか。世界征服を目指す悪の秘密結社としての、我々の戦いの結末へ。)」
この戦いの果てにある・・・バリスタスによる世界支配ではない、結末を。

 

銀河最終決戦、開幕。

 

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