秘密結社バリスタス第二部大陸編第六話 記憶の連鎖
「ん・・・・・・?」
意識が覚醒したとき、リュートが最初に感じたのは違和感だった。
何故自分がこんなところにいるのかとかがさっぱり分からない、ちょっとした記憶喪失にかかったような感覚。
洞窟の、比較的入り口に近い中。暖を取るためにつけていた銀河連邦軍横流し品の小型ランプは完全に燃料が燃え尽きて、少し寒い。清冽な空気と単純な明るさではなくきらきらした感覚のある綺麗な光・・・早朝だ。
身を起こす・・・と、体から離れていく何か柔らかい感覚。
見ると、自分の体の下に簡易のマットと毛布に包まれた、見覚えのある獣人女性が眠っていた。金色の地に赤い縞模様の体毛、青紫の長い頭髪に朝日が当たって、宝石のように輝いている。
「あっ」
そこで、ようやく昨日の記憶と今がつながった。
攻龍騎・金沙羅に乗ってついてきて、虎の女性を助けようと治療を施して。薬を替えたり包帯を巻きなおしたり、色々しているうちに夜も更けて。
「寝ちゃったのか・・・」
目をこすり、手櫛で髪をざっと整えるリュート。軽く背伸びをする、それにつられて姉に比べて丸っこい耳がぱたぱた動いた。
手当てはしたけれど中々血が止まらなくて、体温が下がったりして、結局自分のほうの体力を分与してまでロロンを使用することとなった。しかし流石にそれが聞いたようで、元からの生命力も戻ってきているのか一晩で大分回復してきている。
「よかった・・・」
「にぅ・・・」
「あっ」
リュートが呟くのと、同時に。小さな声とともに、金色の獣が目を覚ました。きょとり、と瑠璃色の瞳が辺りを見回して、そしてリュートにとまり、見つめてくる。
子供のような輝きと、悠久を生きる者特有の深さ・・・間違いなくリュートの「同類」の瞳だ。
そして、その瞳が伝えてくる。感謝の感情を。
「ありがとう・・・助かったのじゃ。夢うつつだけど・・・何をしてくれたか、覚えてる。」
瞳だけでは足りないと、女は話しかけてきた。獣を、猛獣の虎を思わせる外見でありながら、その口調や仕草はとても柔らかで。言葉で話すと同時に一種の共感能力を使っているのか、古代から蘇ったばかりの彼女とも会話が出来るらしいのだが、そこから感じられる思念も、無邪気で純粋だ。
「どういたしまして、えっと・・・」
返事をしかけて、初めてリュートはこの女性の名前もまだ知らないことに思い至る。
「震星、じゃ。星をも震わすと言う意味じゃが・・・これでは単なる笑い種じゃな。」
「あ、はい。私はリュート、アルフェリッツ=リュートと言います。」
そう名乗って相手も気づいたか、僅かにこの皮肉な状況に苦笑したあと・・・問うてくる。
「何で・・・こんな見ず知らずなのに、敵か味方かも分からないのに・・・助けてくれたのじゃ?」
「えっ、その、だって・・・」
うまく答えられないリュート。
「無我夢中で・・・貴方を、死なせたくなかったから、貴方を、知りたかったから・・・かな?何か色々抱えているみたいなのに、あのまんま死んじゃったら・・・とても・・・悲しいから。」
「・・・・・っ」
ばふっ。
「えっ、あ・・・ちょっと!」
その言葉を聴いた途端、震星は唐突にリュートに抱きついてきた。柔らかい金色の毛の感触。柔らかいだけでなく、弾力を感じる体つきの感触。
自分も同じ女性であることも忘れてどぎまぎし、驚くリュートだが、その動揺は不意に静まった。
丁度頬を摺り寄せるような姿勢の、震星の顔。そこから感じられる、水滴。
震星は、泣いていた。摺り寄せられた体と、背中に回された手が、弱々しく震えている。
「泣いて・・・いるん、ですか?」
暫く、答えは返ってこない。泣き声ではなく、引き絞るようなしゃくりあげ。リュートは無理に答えをせかさず、静かに、静かに、その背を撫でていた。
やがて、自分から身を離した震星は、ぽつぽつと言葉をつむぎだす。
「う・・・すまぬ、急に・・・でもな。お主、ガーライルの力を使えるもの・・・なのじゃろ。そのお主が、こんなに優しいのなら・・・震星達のしたことや、ロウランの悲劇も、無駄ではなかったのじゃと思うと、つい・・・」
涙を拭いながら語りだす震星。
「貴方のしたことと、ロウラン・・・?一体、どういうことなのです?」
そこで震星が語った事実は、ある程度リュートたちの予想と似通ってはいたが、さらに驚くべきものであった。
震星の正体は降臨者戦争の時、ガーライル一派に反旗を翻し人とともに戦った「神」の眷属であったということ。どうも、ギドラーグ=ル=ジーニャ・・・ギラ軍曹も、同じ出自であるらしいし。
彼女達は自分達の力を人らに与えるべく、当時の人々に自分達の体の資料を与え、あの場所で研究が行われていたこと。
そして、あのロウランこそがその研究の成果であり・・・いうなれば「原初のガーライルフォースマスター」とでも言うべき存在であったこと。
だが、そこから待っていたのは驚きというよりも悲劇。
当時の地球の人類達は、必ずしも一枚岩の存在ではなかった。積極的に団結し神に反抗したゴルゴムや天然の神との混血種アギト、戦うということを知らないリント、中にはとにかく力を目指し、仲間同士でまで戦いあうことによって「最強」の種族を作り出し、それが全てを支配するべきだと考えた狂信的集団・グロンギなどと言うものもいた。このあたりは、リュートも古代遺跡などの研究などからある程度把握してはいたが・・・
ガーライルの力はあまりにも強大であった。それゆえ震星たちは平和的なリントにそれを与えようとしたのだが。
リントの「平和」の概念は、歪んだそれだった。優しいが故に戦いを嫌うのではなく、単に戦いを忌避していたのだ。彼らはあくまで力を持つものを認めようとせず、またガーライルフォースと言う「特別な」者への羨望と嫉妬もあったのか、最初の被験者であるロウランに過度の洗脳を施し、自動的に戦う道具として作り上げようとしてしまったのだ。
震星がそれを感知し、停めようとしたときは遅かった。ロウランは与えられた「人の持たぬ力を持つものを葬れ」という命令に従い、仲間であるはずの者たち、リントの守護者であった仮面神官や殖装体まで手当たり次第に倒そうとし始めた。彼らもまたロウランを失敗作として排斥しようとし、その巻き添えをくらってはじめてリントたちは己の間違いを悟ったが、時既に遅し。
結局研究所は壊滅し、震星がその身を呈してロウランを封印することとなってしまった。
「恐らく、その後ギドラーグめが研究を引き継ぎ、完成させたのがおぬし達なのじゃろうな」
そう語りを終えた震星。リュートはただただ圧倒されてその話を聞いていた。自分達の由来から古代の悲劇、この戦いの謎まで一気に明かされたのだから、無理もない。
ただ、
「それで・・・」
と呟くのが精一杯だった。
「うむ。まるで昔の戦いがそのままに続いているのかと錯覚してしまって・・・はは。」
震星はそれを最初に出会ったときの彼女の行動の原因と捉えたのか、照れたように頭をかき・・・手を動かした拍子に傷に障り、顔をゆがめる。
「いえ・・・違います。そうじゃなくて、あ、いや、そうでもあるけど・・・」
気遣いたいのだけれども、何をどういっていいのか分からない。そんなリュートの心の乱れを今度は正しく震星は察した。
にっこりと、微笑んでみせる。
「大丈夫じゃ、心配せんでよい。震星達のしたことは失敗だったのかもしれないが・・・お主のような優しいものが力を継いてくれたのじゃ、震星達の望みは・・・叶った。」
「っ・・・!!!」
その微笑が、余りにもきらきらと眩しくて。リュートは思わず顔を背けてしまった。自分達の今までの生きてきた道、震星が時の流れから逸れてから今までの歴史、闘争本能に翻弄される姉のミリィ、そして自分にしてもその無力さ・・・
様々なものが、心をよぎる。
「?・・・どーしたのじゃ?」
心配そうな顔をする震星。それにびくっとしたリュートは何気ない仕草を装おうと、そこから動きをつなげて立ち上がると、軽く伸びをしてみせた。その拍子に洞窟の入り口が目に入り・・・あることに気づき、慌てる。
「あっ、そういえば・・・」
「?どうしたのじゃ。」
不意に慌てて立ち上がったリュートは、洞窟の外を見回す。
切迫したその表情を見て、震星は理由に気づき、言った。
「見張りや、金沙羅のことなら大丈夫じゃよ。」
「えっ?」
それが本当に何気ない口調だったので、リュートはびっくりする。自分の考えが分かったのはいいとしても、今まで気絶していた震星に何が出来ると言うのだろうか。
構わず、震星は自慢げな表情をすると外に向けてちょいちょいと、招くような仕草をした。
「みゃ〜。」
「へ!?」
突然背後から、人間の女の子と子猫の声をサンプリングしたような妙な声がかけられた。仰天して振り向くミリィ。
「みゃ〜、みゃふ。」
「みゅうみゅう、み〜?み〜?」
そこには、震星を十歳弱から八歳ほどの年齢の小さな獣人の女の子が一杯いた。
数は十以上・・・それを確認した途端リュートは、昨日震星を手当てしたとき見つけた、袋の中に入っていた毛玉を思い出した。
「え?貴方達、まさかあの・・・袋の中の?」
以前「降臨者」関連の遺跡で同じように普段は小さい形態で、いざとなると急速に細胞分裂して大きくなるタイプの人造生物を見たことがあった、だからこその推理だったのだが。
「うみゃっ。」
リーダー格らしい、やや体の大きいのがはっきりと頷いた。言葉が分かるのだろうか、いやむしろガーライルフォースマスターと獣鬼兵・攻竜騎の交感に近いのかもしれない。
そして、震星も。
「そうじゃ。震星の分身、まめ震星たちじゃ。一種のクローンで子供みたいなものなのじゃが・・・こういうときは、色々役に立ってくれる。」
「みゅ。」
得意げに言う震星と、それに応じて胸を張るまめ震星達は、なるほど確かにそっくりで。
「ぷっ、ア、アハハハハハ・・・似てる〜、凄いそっくり!」
思わずリュートは笑い出してしまった。きょとんとして震星とまめ震星が顔をあわせ、そしてつられて笑う。
「みゃ〜〜!」
しかし、そこに突如飛び込んできたまめ震星の一匹によって、その笑いは遮られる。
「見つけました、グリセルダ様。例の古代人と、アルフェリッツ=リュートです。」
自分の調整体としてのコードネームを呼ばれ、静は変身前の体に羽織るロングコートの裾を翻した。隠密行動を取るため隠れた茂みの中に、偵察に向かわせた部下が入ってきた。
「分かりました・・・監視を続けてください。召喚士系と手負いとはいえガーライルフォースマスターが二人、兵力を結集させます。震星の能力が回復しているかどうか、作戦を左右する要素ですので確認してください。」
ひたすら実直に、忠実に行動し、事実だけを言葉で伝える部下。周りに控えているものも、いずれも一言も口を聞かずに立ち尽くしている。既に改造時外科的洗脳を施され、指揮官型として調整を受けた尾沼静=グリセルダの思念波を受けて動くロボットのような存在と成り果てている。
しかしそんな相手でも、静は丁寧な口調で応答していた。「命令」するというよりは、「お願い」しているようにも見える。
「了解。」
無表情に頷き、また監視を行うために戻っていく部下を、やはりしっかりと見送る静。その視線には主の巻島顎人や他のメンバーと違い、悲しみと、罪の意識が見れば感じられるだろう。しかしその表情を視界に入れるのは、自分の思考を持たない人形ばかりである。
「・・・・・・」
それに寂しさを感じ、静の精神は沈んでいく。
元来が静は戦うものではない。元々は、巻島の家の使用人の一人に過ぎなかった。故に彼に従っていた・・・
それだけでは、到底戦場までついてこれるはずがない。
(顎人様・・・顎人様のためなら・・・)
静は、顎人を愛していた。それが忠義から始まった、いささか従属的なものであったにしても。
愛していた。言葉に出来ない分、行動で示そうと思った。だから、こうして今も彼の野望を助けるため、戦場に立っている。
(でも・・・)
あの宇宙人の女、アルフェリッツ=ミリィに、顎人は執着している。それは静にもわかった。最初は、彼の野望のための手ごまとして欲しているのだろうと思っていた。
だが、どう見ても、顎人は「アルフェリッツ=ミリィそのもの」を欲していると感じられる。
そこからくる、嫉妬にまで届かない微妙な迷いが、心にしつこく付きまとっていた。
軽く首を打ち振る静。これから、ここは戦場になる。迷っていては死んでしまう・・・顎人様のそばにいられなくなる、そう考えて、迷いを強引に打ち切る。棚上げした、といってもいいが。
そして、行動への準備を進める。
「さて、諸君・・・」
緊迫の面持ちで、身を乗り出す中条長官。
「巻島顎人の要求は飲むわけにはいかない。どうせ飲んだとしても、際限の無い力を握っている以上敵の欲求はとどまることを知らないだろう。」
梁山泊作戦会議室には、前回の戦いの生き残りのほかに各支部から掻き集めてきた兵力、加えて世界各地の国際警察機構幹部達や、HUMA・宇宙刑事機構関係者も通信回線でアクセスしている。
「そこで、だ。敵は上海市破壊までに一日の期限を与えてきた。なんとしても対策を立て、いまや悪と化した「ゼウスの雷」を撃破せねばならない。」
巻島からの要求は、アルフェリッツ=ミリィの引渡し、ただしミリィ本人が抵抗して構わないと言う奇妙なものだった。期限は僅か一日、聞き入れないのならば上海市を破壊するという。
「事実上、「ゼウスの雷」を倒す、ということは巻島顎人を倒すということですよね。どうも既に他の大半のメンバーは洗脳を受けているようですし。」
実際に彼らと戦闘したロアの意見は、階級が下と言えど重要視される。ダークネスとの戦闘が主でそちらとは接触の無かった戴宗が、それに聞き入る。
「問題は、あれをどう打ち破るかだな。さらに、上海市をいかにして救うか。スパイラルギガスマッシャーを撃たれたら、重慶市と同じようにクレーターとなってしまう・・・呉学人君。何か策はないかね。」
長官の問いに、呉学人は暫く考えたと慎重に答えた。
「ええ・・・無いことは無いですね。不確実な手段ですが、スパイラルギガスマッシャーを撃たせない方法なら。」
「ほう。」
呉学人は、前回の重慶市消滅の映像をもう一度再生させた。
「このスパイラルギガスマッシャーが、ギガンティックダークネス最強の武装であることは間違いありません。現在までに使用が確認されたのは最初にBF団ロボット・ギャロンを破壊し村を焼き払ったとき、そして重慶市消滅時の二回だけです。」
「まあ、連射されたらたまったもんではないわな。」
「そう、そこです。」
滝の入れた合いの手に、頷く呉。
「その巨体に桁外れのエネルギーを溜め込みまたガーライルフォースマスター同様異次元からエネルギーを引き出せるギガンティックダークネスは、あれを一度の変身で複数回撃つことが可能のようです。しかしその使用は奇襲時の最初の一発と、ロウランとの戦闘時における陽電子流撃砲との同時発射と限定されている・・・」
「成る程。」
そこまで聞いて、蠍師匠は皆まで言わせずに理解した。
「つまりは、あれを発射するためには一定のチャージと発射プロセスのための隙が必要と言うことだろう。かつ奴の高威力兵器の乱射を避けられる上に、ガイバー系殖装体の最大の弱点である額の制御メタルを突く・・・精鋭で奴に白兵戦を挑むわけだな。」
「は、はい。」
何もかも一片に言い当てられて、細い目を白黒させる呉学人。蠍師匠は拳法家であるだけではなく、兵法も修めているのだ。
さらに師匠の言葉は続く。
「さらに気取られぬよう、まんぼう殿の特殊能力でもって一気に接近、最初の一撃で出来れば上海市の上空から相手を移動させたいところ・・・あれとやりあうのはわしと戴宗氏、と言ったところか。その間、他の者は「ゼウスの雷」の通常兵力を抑えてもらおう。スパイラルギガスマッシャー以外にも都市破壊用の手段を隠し持っている可能性がある。突入のタイミングは我等がダークネスと戦闘を開始した直後、といったところだな。」
あっという間に作戦の大体の段取りを決めてしまう師匠。しかし、確かに呉学人の出した条件から考えるならば、この手段が上策だろう。微妙に不安は残るが、それはむしろ元々の情報が不完全であるがゆえの側面が強い。
中条長官はしばし思考し、提示された作戦と現状で得ている情報を付き合わせた。
「ふむ、大体はそれでよかろう。ただし・・・」
言うと中条は口を笑みに歪め、腕を撫した。サングラスの下の瞳が鋭く輝く。
「私も・・・この国際警察機構九大天王が一人、「静かなる」中条も、戦いに加わろう。」
確かに、彼もまた九大天王の一人・・・その戦闘能力は高かろうと、師匠が納得する暇もなく。
「長官・・・!?」
呉学人が驚きの声を上げる。
「案ずるな、そう無茶はしない。」
他にも動揺しかかる周囲の国際警察機構のものたちを、手を挙げて中条は制した。
それだけの同様が巻き起こるにも、理由がある。国際警察機構の九大天王の中で、中条長官の「力」は格別に特殊で、そして・・・最も恐れられている。
ビッグバン・パンチ。
あまりに桁外れの破壊力を持つがゆえに、一度放たれれば自分もろとも相手を滅ぼさずにはおれない、「地上最大の爆発力」とも言われる技。これが一種の抑止力たるがゆえに、国際警察機構とBF団の均衡の一助ともなっているのだ。
「何もビッグバンパンチを使うというわけではない・・・直接戦闘にも、少しは自信があってね。」
「そう、ですか・・・本当に、ご無理をなさってはなりませんよ。」
中条の宣言に、国際警察機構の面々に高まりかけた緊迫は何とか緩んだ。それなら、中条長官の存在はかえって心強い。ビッグバンパンチを使用しなくても、意やむしろ使用しないのなら、彼の戦闘能力は格闘に長けた九大天王・戴宗にも匹敵する。
この三人の力ならば、何とかギガンティックダークネスを押さえ込めるかもしれない。
「まぼ、じゃあ、それでいいまぼとして・・・ロウランは?」
まんぼうが、新たな危惧を持ち出した。超次元の力に反応し、自動的に戦闘モードとなるロウランを、いかにして押さえるか。彼女の「奇鋼仙」が用いる陽電子流撃砲「フレア・デバイス」もまた、都市ひとつ消し飛ばすなど造作も無い破壊力を秘めている。
それに、きっぱりと中条は答える。
「君が何とかしたまえ、マンボウ君。」
「まぼっ」
その唐突な言葉に、以外にもまんぼうは動揺の色を見せなかった。むしろ感謝の表情を持って、頷く。
前回、ギガンティックダークネスとロウランの戦いを止めることはできなかった。だが、今度はダークネスに蠍師匠、戴宗、中条長官の三人が当たるのだ。マンボウはロウランに専念すればよい・・・それなら、まだ何とかなるかも知れない。
「まんぼう・・・」
「大丈夫、ロウラン」
そう前向きに考え、まんぼうは傍らで不安そうに呟くロウランの肩に、へにゃと胸鰭を置いた。
「あの・・・ミリィさんは?」
と、ロアがぽつりと呟いた。同時に前の会議と同様、俯いたまま黙りこくっているミリィに視線を移した。
「今回の作戦からは、外れてもらう。」
「そんな・・・」
直後、中条長官はそう断言した。それを聞いて、ミリィの肩が僅かにぴくりと震える。
咄嗟に長官に向き直るロア。しかしその視界に飛び込んできたのは、僅かに微笑んだ長官の、意外なまでに慈愛に満ちた表情。
「ミリィくんには、鷲羽博士とともに例の遺跡から移動した古代人・震星の捜索に向かってもらう。「ゼウスの雷」の目的が今までの行動から戦力の拡充と推理できる以上、彼女達が狙われる可能性は非常に高いと見て間違いは無い。」
「えっ・・・」
意表をつかれ、慌てて顔を上げたミリィ。露になった表情は、驚きの・・・そしてそれに僅か、様々な感情がほんのほんの僅かずつ入り混じった様相。
「はっ、はい!」
頷く。
「鷲羽君も、いいね?」
その、やや積極的な反応にやや安堵し、同時に長官の采配に感謝するロア。
続いて長官は、念を押すように鷲羽に言った。鷲羽の表情はミリィと対照的で、何か焦りというか都合が悪そうな表情を見せた。
「も、もちろんいいわよ。今度こそ詳しく調べたいことがあるしね〜。」
が、直後にはいつもの軽薄な笑みを浮かべていた。・・・幾分引きつっているが。
しかしそれを不審に思っている暇もなく、会議の閉会と作戦のより細かい立案、準備の開始が宣言された。
細かい詰めは蠍師匠と国際警察機構に任せ、退出したまんぼう。
廊下でふとたたずむと口をあけ、胸鰭をがもっとつっこむと・・・体内次元空間から、一枚の写真を取り出した。
写真には、大きな・・・下手なアパートなみの大きさを持つ緑色の装甲トレーラーを前にして、10人の男と一人の壮年男性、二人の少年が並んで移っている。
大きさもともかく、その装甲トレーラーのデザインは少々奇妙だ。六輪車なのだが最後部の車輪は一応胴体についてはいるがそれを奇妙な折り畳まれた足のようなものがついており、操縦席の窓ガラスは丸いのが左右に二つ盛り上がっていて、目玉のようにも見える。
それと全体の色、ひし形っぽい形とあいまって、それは・・・大きな飛蝗に見える。いや、「そう見えるように作られた」のだ。
ライダーキャリア。それがその装甲トレーラーの名前。
その前に並ぶ十人の男達の家であり、移動基地。・・・そう、彼ら蝗の改造人間、伝説の十人の戦士、仮面ライダーたちをサポートするために、「黄金の混沌」末期に建造されたもの。
であるならば、写真に写る仮面ライダーではない存在のうちの一人・・・壮年の男性の正体ははっきりする。仮面ライダーにとって父とも師とも慕われ、同時に親しみを込めて「おやっさん」と呼ばれた民間人協力者、立花藤兵衛氏以外に誰あろう。
だが、それならばそれとともに写る二人は、誰なのだろうか。
少年二人は並んで立っているが、片方のほうが三歳ほど歳かさのようだ。一見歳は中学生ほど、少々よれよれとなったオレンジ色のTDF直下警察機関「科学特捜隊」のスーツにぼろっちい白衣を羽織り、ぼさぼさに髪を逆立てている。その眠そうな白い顔は、バリスタスの極々少数の人間には、見覚えのあるものだった・・・悪の博士、がまだ「人間だったころ」だ。
そして、その隣にいる年下の男の子は、まだ小学生くらいにも見える。あどけない丸顔で、隣の少年のぼさぼさ逆立った髪とはまた違った、くりくりした巻き毛とやや色黒の肌と、隣の若き日の博士とは好対照をなしながら・・・同時にどこか似通ったところを見せている。
「まぼぉ・・・」
その写真を見て、まんぼうはため息をつく。そこから読み取れる感情は、回想と思慮。
その写真で何かを思い出し、そして・・・そこから、何かを掴み取ろうとしている。
「変身・・・か」
ふと、時折見せる普段のふにゃふにゃ声とは違う声で呟き・・・そして、自分の胸鰭に変化した掌を見た。
そして、その作戦の目標であり、国際警察機構と「ゼウスの雷」決戦の部隊となるであろう、上海市。
そこで待ち受ける兵力は、数の点から見ればあまりに少ない。
巻島顎人=ギガンティックダークネスと、浅倉威、それに戦闘に参加するどころか「ゼウスの雷」の構成員であるのかもはっきりしない、正体不明な薔薇のタトゥーの女、アンシーが一人。残りの兵力は静が指揮して、震星たちの確保に向かわせている。
しかし、それでもここに存在する戦力は尚絶大といってよかった。確かにギガンティックダークネスの圧倒的火力を持ってすれば逆にこれ以上はむしろ足手まとい、巻き添えで消耗されてしまうだろう。
巻島顎人も浅倉威も、いずれも自信満々といった様子で待っている。
「くくっ・・・」
「ハハ・・・」
いずれも、笑みすら浮かべて。だがその心のうち、笑みを生む回想は、正反対といってもいい。
いずれも、戦いであることに代わりはない。
巻島顎人のそれは、常にひたすら上を目指すものだった。彼の父はクロノスの下級幹部であったが、失敗し処刑された。しかし最初から父との仲の悪かった顎人は、別段悲しみを感じることがなかった。
それよりもむしろ、下級幹部とはいえ日本の裏社会においてクロノスの代理人として権勢を誇っていた父をあっさりと叩き潰した、更なる力の存在であった。このときから顎人は力あるものの立場に、人の上に立つ存在に強い渇望を抱くようになった。
殖装体の力を手に入れてガイバーVとなったのも、レジスタンス組織「ゼウスの雷」を組織しHUMAに参画したのも、全てはより強い力を求めて・・・正義など、はなから眼中になどなかった。
だが、そこで彼は殖装者となった自分すら、いや他のHUMAのヒーローやバリスタスの改造人間すら上回る「力」を目撃する。ガーライルフォースマスター・アルフェリッツ=ミリィ。その強さ、その突出性、気高さ、美しさ・・・何もかもが顎人の望んだ「強者」そのものに見えた。
それから、その「強者の力」を手に入れるために彼は狂奔した。降臨者に所以のあるクロノスの撃破をより一層急ぐとともにそこから情報を貪欲に吸収、大きな資本力を持つ組織「タロン」と手を組み、裏をかいて味方であるはずだったものすら倒し、ひたすらに力を掻き集めた。
そして遂に、彼は得た。ギガンティックダークネスという力。この上さらにガーライルフォースマスターを配下・・・いや己の手足として使える道具として揃える事が出来れば、彼の無敵は完全なものとなる。何より、自分に初めて「嫉妬」するほどの力を見せたミリィを、彼は欲していた。あの力を己のものとする、それにたまらない心地よさを覚えていた。
それが今叶おうとしている・・・巻島顎人は、得意の絶頂にあった。
浅倉のそれは・・・その本性同様、ようとして知れない。だが巻島はあくまで他者を「手駒」としか考えていないが故、そんなことに忖度する気持ちは持ち合わせない。ただ、指呼の間に迫った戦いに胸を躍らせている。
最初から彼らは、敵が要求を飲むとは思ってはいなかった。むしろ要求を突きつけることにより敵をおびき出し、完全に殲滅した上で目標を手に入れるのが真の目的ともいえる。
「全く、頼もしいですわね。」
笑みを浮かべ、その様子を見るアンシー。見守る、のではない。あくまで見ているだけだ。浮かべた笑みも、まるで仮面のように寒々しく硬い。
その内をめぐる心を、めぐる狙いを、めぐる記憶を、誰が知るだろう。
「ゼウスの雷」のものは、誰も知らない。
否、恐らく彼女が現在所属する組織・・・タロンのものも、それは知らないだろう。
彼女はタロンであって、タロンではないから。監察官でありながら、タロンの中枢とそれほど繋がりを持っているわけではない。
彼女は、タロンの協力者・・・タロンを「使って」彼女の望みをなさんとするもの。
そう・・・数万年越しの、望みを。
微笑みの形の唇から、言葉が漏れる。韻を踏み、旋律に乗り・・・それは歌うように。そして、その心のうちのように、何とも明かされることなく。
誰も知らない言葉で。歴史から消えた言葉を交えて。
「ガガ、ゲゲルゾ。リントンルブソバガベデ、「ン」ンチョグデンゼバベガガセ!ゲンジェスンズバリロゴジョダブダグバゼド!ザギバスゲゲルゼググルンザダザジドシ!ダダバパバベセダギビンボセバギ!」
それを強いて、今の言葉と訳するならば、こうなろうか。
「さあ、ゲームだ。力なき者の骸重ねて、至高の頂点へ駆け上れ!神の深みも及ばぬ究極の闇へと!生き残れるのはただ一人!戦わなければ生き残れない!」
まさに、歌のように、戦いは進もうとしている。そして、戦いの始まりを作ったものもそれを知る。
地球から見ればはるか宇宙の彼方、しかして同じ「宇宙の中」、要塞艦ラフィールの中で。
「もうじきね・・・」
ギラ軍曹は。
「この戦いは始まり、過去の因縁と未来の成否の。始まりに過ぎない・・・けれども、始まりであるがゆえに、重要よ・・・頑張って、みんな。」
決然と、そして、優しく。
戦いを傍観していたものも、それを知らざるを得ない。
「やれやれ・・・」
鷲羽は。
「どう向かい合え、って言うのよ、あたしに。でも・・・何とかしなきゃ、まずいわよね。」
仮面の下の迷いを抱え、だがそれにようやく向き合って。
そして、彼女を救ったガーライルフォースマスターの傍らで、震星は。
記憶ではなく、ただ、願いを。
記憶の交差の中で、一つ、既に回想を終えたがゆえに?・・・それだけではない。傍らに人があるがゆえに。
願いを思う。未来を思う。希望を思う。
傍らに人が、あるのなら。