秘密結社バリスタス第二部九州編第二話 ダイテンジンVSメタモルX

「うーん・・・おかしいですね・・・」
上陸直後から戦闘を繰り返し、とりあえず周辺の敵性秘密結社を撃破したバリスタス九州支部。アジトも完成し、吸収した現地勢力を含む戦力も駐屯し、計画の第一段階は早々終わったのだが。

>秘密結社電柱組・征服吸収。
>南蛮帝国・撃滅(一部上層部は逃亡した模様)
>海底王国ホンダワラ・地上進出部隊を撃破。

>接収した情報によるとこれら三勢力はそれぞれ外部から多大な資金援助を得て活動しており、それぞれ気づいては居ないようだが事実上それら組織の出先機関といった様相でもあった。伝え聞く秘密結社タロンの進攻パターンと類似が認められるものの、帳簿が処分されており詳細は不明、調査は続行中。

>理想推進機関アクロス(吸収した電柱組の情報提供から、上陸戦闘の最後に接触した二人組の女がそうであると判明)、とりあえず撃退。同情報源によればアクロスは理想推進機関などと大仰なことを言っていても構成員は首領込みでせいぜい三人か四人程度、理想とやらも不明確な組織と呼べるかどうか怪しい存在であるとのこと、今のところ無視して構わないと思われる。

それまで得た情報を打ち込み、整理し、コンピューター上で資料として纏めあげていく影磁。モニターの光を受けて、片目を飾るモノクルが輝く。

>現在アジトの戦力は私影磁こと改造人間AG、逆三連星(ネガトライスター) 牙(たすく)・翼(ういんぐ)・殻(しえる)、勢流鯨。インバーティブリット残存部隊改造人間パラドキシデス、マルレラ。秘密結社電柱組に関してはこちらの世界にさほど入り込んでいないものが殆んどで一般社会復帰も考えたが、彼等のバックにタロンが居た場合口封じに出る場合もあると判断

そこまで打ち込んで、影磁は少し考える。
(いっそ実際そうやって、タロンをいぶりだすという手もありますが・・・)
そのアイディアは魅力的に思えた。何しろ簡単に撃破出来ただけあって、電柱組は戦力としては期待できない。給料がろくに払われておらず、高邁な理想があったわけでもなくこれといって切迫した状況があって組織に参加していたわけではない電柱組は、あっさりバリスタスの指揮下で働くことを承知してくれたが。
完全にただの悪徳商人だった南蛮帝国よりかはましだが、秘密結社といっても様式だけのミーハー的なもので改良人間という主戦力も殆んど玩具のごとき児戯。
(いえ、いけませんねこのような考え方は)
結局、影磁は頭を打ち振ってその考えを脳裏から消した。そう言う姑息なやり口は、「堂々たる世界征服」をモットーとする組織の掟で禁じられている。「臨機応変に掟を破るのもまた掟」と滅茶苦茶なことが書いてあるが、今そのような「臨機応変」が必要とも思えない。
「どうしたんだい?」
と、彼の傍らでその作業を眺めていた、変わった鎧兜に身を包んだ女が首をかしげた。
しえる。逆三連星の一人で、伝説組織「破壊者(デストロン)」の部族怪人甲羅一族の長、鎧元帥こと改造人間ザリガーナのコンセプトを彼なりに再現しようとして製作した改造人間だ。
「何でもないですよ、しえるさん。」
ややそっけない口調で影磁は応じる。冷たいと思われるかもしれないが、このしえる、妙に惚れっぽいところがあってちょっと優しくするとすぐ騒ぐ。もっとも、その理由を知っているが故に影磁はそれについてあれこれ言う権利は無いのだが、それでも流石に自衛策くらいはとる権利はあるだろう。
また、仕事を続ける。

>止むを得ず戦力として組み込むことを決定。将軍チルソニア・幹部バラダギ大佐はそれぞれ普通の人間(バラダギ大佐はそれなりに有能ではあるが)、改良人間スコープ鶴崎、タイガードラゴン、マーカライト=ファープ、正月男、ボルチモアブラザーズ。いずれもせいぜい人間の数倍程度の身体能力、戦闘力は我が組織の戦闘員に劣る。
>他戦闘員だが、電柱組のもの、我々バリスタスのものを合わせてもやはりHUMA極東本部攻撃時の消耗からの再編成が精一杯で、この九州支部「熊本鎮台」においても定数は満たされず、改善は急務であるが至難である。

組織の中でも冷静を持って鳴らす影磁だけある、厳しくも正確な現状判断。ともかく報告書を纏め上げ、影磁は何度目かの転送を行おうとした。

ぴーっ。

だがまたも、アジト備え付けの通信機は異音を発して停止してしまう。
「ふーむ・・・何故停止してしまうのでしょうかねぇ?」
「アンテナが立ってないんじゃない?ほら、ケータイとかで、圏外って言われたりするやつ。」
とさっと軽い音を立てて、影磁の黒衣の上に体を預けるたすく。いろいろな動物の毛皮をパッチワークしたまだら模様のライダースーツが、ふわふわと影磁の頬をくすぐる。
身を乗り出したたすくはローティーンの少女らしい柔らかさを持つ褐色の肌の顎に手を当て、考え込むような仕草をする。こう見えても「破壊者」部族怪人牙一族々長・牙男爵こと吸血マンモスの能力を与えられた改造人間なのだが。
「おいおいたすく。これは一応俺たちOOB・バリスタス共通使用の共時性霊子通信装置なんだぞ?そんなわけないだろうが。」
そうたしなめたのは、もしゃもしゃと髭を生やした北欧系の、バイキングみたいな雰囲気の大男。彼は改造人間勢流鯨の人間体だ。普段から筋骨隆々たる巨漢だが、変身すればその肉体は身長3m、体重1tをはるかに超える。
「でも、だとしたら何なのかしらねえ?」
しえるも首をかしげる。性格的な難はともあれ、彼女は一応影磁が新たな専属参謀格として見込んで改造した、影磁配下軍の中でも知力のある女だ。それでも、やはり分からない。そもそも六天魔王に数えられる、すなわちバリスタス最高の科学者の一人でもある影磁に分からないのであるから仕方ないが。
「弱りましたねぇ・・・」
これではバリスタスの他の支部や彼の本来所属する組織OOB(アウトオブベース)と連絡を取ることが出来ない。ただでさえOOBから派遣されてくるはずの新怪人二名と、それを扇動するため本部から別途出発したギャリソン矢木ことラム・カプリコンと合流できていないのに。
(この鳩首を中心とした地域の霊的磁場がかき乱されているとしか考えられませんが、そういう妨害にも対処されて造られているもののはず。だとすると、それを無視してしまえるレベルの霊子嵐が?馬鹿な。それだけの霊子が集中すれば何らかの現象として感知されるはず・・・)
「あ・・・影磁支部長〜、お腹すいた。」
「え?仕方ありませんね。 何か適当に食べていいですよ。」
唐突に言うたすく。影磁は適当に返事したが、炊事を頼んでいた元電柱組のバラダギ大佐は赤毛を逆立てて悲鳴を上げた。
「え〜〜っ!?またですか!?さっき炊飯器一つからにしたばっかりじゃないですかっ!」
「確かに・・・信じられんほどよく食う子供だな。」
三葉虫怪人パラドキシデスも、表情がないのっぺりとした顔だが声で精一杯驚きを表す。炊飯器一つといっても業務用のかなりでかいヤツである。それをお昼に丸ごと一つおかずつきで食べて、今三時になってまた食べるという。
「いくらそういう体質とはいえ・・・うちにもサンダードラゴンってぇ大食らいがいんのに・・・」
ぶつぶつとぼやきながらおやつの準備を始めるバラダギ大佐。年齢は高校生ほどで見かけも組織稼業っぽい服装をのぞけば年頃の女の子だが、そう言う姿は変に所帯じみているというか、日常擦れしているというか。
OOB部隊との合流との他に抱えたもう一つの問題、それがこのたすくの食費であった。身体能力の徹底的な強化を基本コンセプトとして作られ、驚異的な体力とパワーを得ることは出来たのだが結果、異常なまでに多量の栄養を活動に要するようになってしまった。
ロボットではなく改造人間なので体を動かすのは食事で取った栄養、だから食う、とにかく食う。このままでは資金が尽きて九州支部は電柱組ごと路頭に迷うので、この大量の食料を確保するため補給ラインを早々に決めねばならないのだが。
早くせねばたすくが餓死する・・・ことは改造肉体がエネルギー切れると倍力などの機能を停止するため流石にないが、動けなくなってしまう。
「ふーん、たすくちゃんはキレンジャー系なのね。まぁ三人チームだけど、サンバルカンやライブマン・ハリケンジャー・アバレンジャーの初期もそうだったし。」
「ううむ・・・」
食糧問題と、ついでにマルレラの変に詳しい知識に頭を抱える影磁だった。

と!

ぐぅわーーーーーん!!!」
「なっ!?」
唐突にアジトの天井が砕け散った。地表のコンクリート、その下の土、アジトを構成する合金や特殊樹脂がばらばらと振ってくる。
「敵襲・・・!全員戦闘体制だ!」
爆音でそれが指向性爆薬による攻撃であることを察知した影磁が叫び、いち早く怪人形態となって外に躍り出る。続いてパラドキシデスとマルレラ、勢流鯨、電柱組の面々、最後に逆三連星。
このあたり改造人間の反射神経では補えない戦慣れの度合いがもろに反応速度に出る。軽く舌打ちする影磁だが、周囲の面々は気づかない。
それはともかく、今は攻めてきた相手と戦うことだ。敵の正体は、幸いにしてすぐに知れた。相手が名乗ったからだ。
「私の名は蒲腐!この町を守る正義の組織・市街安全保障局の局長にして博士だ!我が町を狙う悪よ、この町は!私が守るっ!!」
「かばぷ?へ〜んな名前!」
呑気にたすくが笑う。
「いやそれ以前に、あの髪型がぷっ、ぷははははは!」
「あは、あははははははは!」
「ひ、ひーっひっひっひ!」
そして、しえる、続いてマルレラやパラドキシデスすら笑い出した。顔面の可動部分の少ない彼は口の周りの蝕腕をわきわきさせているだけに見えるが、声から察するに非常におかしそうである。
左右にやたらと鋭くピンと立った髭、そして髪型が原因だ。なんと言うか、こう、パーマかかって棒状になった髪の塊が左右にばびょんと伸びているとでも言おうか、大変奇妙で直視不能な髪型である。あげくにその髪形をしているのが濃ゆい髭中年なので、なんともいえない可笑しさ爆発である。
あの冷静な影磁ですら、口のわきをひくひくさせて笑いたいのを懸命にこらえている。
「この街は私が守る!貴様ら悪の組織に好き勝手はさせん!」
が、本人は他意は全く無いらしい。いたって真面目に、言い放つ。念を入れるように、もう一度同じ趣旨の発言。
「ほう・・・面白い。それにしても・・・我がバリスタスのアジトを見つけるとは、なかなかやるな。」
何とか回復した影磁も、応じる。ようやく空気に緊迫の色がつき始めた。
「ふ・・・この町には都市防衛のためくまなく市民どころか国家・HUMAなどにも極秘で監視システムを設置していたからな。」
「おい。」
緊張の色が微妙に変質する。
「さしあたって「この私が」この街を守るために片端から洗脳して道具とした元九州各地を防衛していた防衛組織有志たちの攻撃を受けてもらおうか!」
「ちょっとまてい!」
それは・・・何というか。非常にあれだ。危険だ。下手をするなれば、それまでに遭遇したどの組織の連中よりも、危ない。HUMAの堕落とはまた違う、行き過ぎた過剰な正義。
そんな男が、市街安全保障局局長。やはり、この世界は問題ありだ。
「ゆけ!」
わっとばかりに押し寄せる、洗脳されたらしき防衛組織隊員たち。
どおりで悪の組織が多い割にそれと戦っているはずの正義の味方が出てこないと思ったら、こういうことだったのか。納得しつつ、バリスタスも応戦した。

電柱組から得た情報で、この地域の防衛組織は大体把握している。対電柱組の「県立地球防衛軍」、旧陸軍の諜報部隊の生き残りで南蛮帝国と戦っていた「陸軍中野予備校」、それと例のホンダワラとか言う改定人に住処を追われた別の海底人の一派、たしかアンチョビー一族。ホンダワラもふざけた名前だが、こっちはもっと変だ。どちらも日本語ではない言葉で偶然発音が同じなのだろうが・・
どっちにしろ軽々撃破した相手と戦っていた連中だ、そう大した連中でもないだろう。
「よ〜っし、そぉれっ!!」

ドバーン!

軽くたすくが腕を振った途端、猛烈な突風が発生した。腕が音速を超えて、衝撃波が発生したのだ。腕力的には下手をしたら三貴子のフェンリル以上かもしれない。
その衝撃波に弾かれて、大半の敵が吹っ飛ぶ。
「・・・」
吹っ飛ばなかった連中の一人の、インドかどこかの出身らしい顔立ちの褐色の肌の青年が無言で反撃に出た。両肩についていた妙な蓋のようなものが開く。そこには小型のミサイルポッドが入っていた。彼は機械式改造人間・サイボーグなのだ。
シュシューッ!ドドドドン!
それをモロに全弾直撃し、吹っ飛ぶたすく。衝撃で目を回し煙にむせこんでいるが、それほどダメージを受けた様子は無い。だがその隙にサイボーグは走り、後衛にいたういんぐに殴りかかった。
「〜〜〜っ!!」
泣きそうになりながらういんぐはそれをかわした。目をつぶったままでかわしているのだが、それは盲目の彼女を影磁が蝙蝠の因子で改造したからで、彼女は聴覚と超音波で外の世界を見ているのだ。
通りのビルの壁に当たったサイボーグのパンチは派手にコンクリートを砕いた。少なくとも数千馬力級の出力を持っているように見える。ういんぐは必死に逃げ回るが、気弱な性格ゆえ動転しているのか反撃もおぼつかない。
「ういんぐちゃん、助けるぜ!おうりゃあ!!」
そこに勢流鯨が割って入った、巨体を生かしたショルダータックルで。ひとたまりも無くめちゃめちゃに壊れてぶっとぶサイボーグ。本来水中戦闘用だがその巨体から生み出される圧倒的破壊力は陸上でも十二分に威力を成す。
さらにトドメとばかりにフライングボディープレス。潰されたサイボーグの肩内部でミサイルが暴発するが、押さえ込んでいる勢流鯨は一向こたえた様子を見せない。
その間にも他の連中にも敵は襲い掛かる。
「わっちちちち!!」
レーザー光線に焼かれ、しえるは飛び上がった。防御力重視の鎧にさしたるダメージは無いが、崩れた体制を狙って相手は即座に跳びかかってくる。
「・・・なんてね!!」
そこを狙って、しえるは思い切り拳を振るった。たすくのような規格外の怪力は無いが改造人間の腕力、それに拳の部分まで覆う鎧は十二分な威力の打撃を生み出した。
「!?」
もろに顔面にヒットし、相手はひとたまりも無くひっくり返る。その手に握られていたのは、黄金色をしたハリセンのような刀のようなものだ。柄の部分に青い結晶体が飾られている。どうもさっきのレーザーは底から放たれたらしい。
目に組み込まれたセンサーを使ってハリセン刀の材質を分析し、しえるは驚きと呆れの入り混じった声を上げた。
「これ・・・!光物質だ!宝石みたいなのも、ちゃんとした光結晶体!信じられない!なんて・・・なんて宝の持ち腐れなんだろう!」
バイザーとも面頬ともとれるデザインの顔を覆う鎧の下で目を丸くするしえる。光物質といえば超合金Z、オリハルコンとも呼ばれる「物質のふりをした超高密度エネルギー」で、おおよそ物質でこれを傷つけることは不可能に近くエネルギーを開放すれば核兵器以上の破壊力となるという物質。
純度を上げることによって得られる結晶体は霊子を集めて方向性を与える機能を持ち、「ブルーウォーター」「賢者の石」などと呼ばれている。特に純度と大きさと形に秀で、恒星なみのエネルギー量を持ち神のごとき奇跡の技を可能とするものを「キングストーン」ないし「霊石アマダム」と呼ばれる、究極の至宝だ。バリスタスにも三個しかない。
それを単なるレーザー発振機つきハリセンとして使うとは。
貰うことにして、しえるは拾った。するとそれは持ち主の思念の違いを感じてかハリセンみたいの姿を説き、しゅるしゅるとまとまって掌ほどの大きさの結晶を中心とした円盤型になった。しえるはそれを鎧の内側に落とし込む。

「ふむっ!?」
襲い掛かってきた相手の拳を、AGは楯で受け止めその意外な衝撃に戸惑った。今相手をしている男は確か改造人間ではなくただの生身の人間だったはず。だがそれにしてはこの楯にかかる衝撃は随分大きい。
全くの無言で相手は襲い掛かってくる。意志を奪い兵士をただの道具とする洗脳を、バリスタスは行わない。すべての構成員は同じ秘密結社という優しき夜闇に抱かれる仲間という信念を持つからだ。強制的な兵士・奴隷狩りもやはり行わない。
それゆえ、この目の前に居る存在は許せない。唾棄すべき人形、そしてその人形を使うものへの怒りが影磁の精神を熱くする。しかし同時に人間の体を熟知する科学者として、相手の動きを掴み技の原理を理解していた。
大日本帝国陸軍が伝承・開発した様々な格闘技の一つである十七条拳法。聖徳太子が編み出したという説があるが恐らく箔をつけるためのでっち上げだろう。原理としては打撃の後さらに弾くような動作を使い衝撃を寄り効率的に相手にだけ与える・・・「二重の極み」などと呼ばれる極意を徹底的に応用したものだ。「二重」自体生み出されたのは明治初期なのだから、時代が違う。
まあ聖徳太子が作ったという伝承のあるロボットをジライヤという忍者系ヒーローが乗り回していたため断言は出来ないが、しかしそんなことは関係ない。斧の横っ面で張り倒して黙らせる。刃の部分でないとはいえ改造人間用の大斧、分厚い鉄板で殴られたのもおんなじで相手は声も出さずに昏倒した。
「なーんだ、あたし達の出番は無しか。」
「いいじゃん、そのほうが。」
つまらなそうなマルレラに、パラドキシデスは気乗りしない様子で言った。
「そう・・・ね。でも、今の戦いは「あんな」じゃない、それにこの人たちも頼りになる、安心していいと思うわ。」
「あぁ・・・「あんなの」はもう経験しなくていい。」
「?」
その会話を小耳に挟んだ影磁は、酷くそれが気になった。その会話に僅かに、隠そうとして隠し切れないように匂っていた、本当の修羅の巷といえる戦場を経験したものだけにある、独特の暗い響きを感じたのだ。
「・・・!!っ、これは・・・!」
瞬間、影磁の脳に電光の如くいくつかの光景がよぎった。パラドキシデスやマルレラと似たようなタイプの、いずれも絶滅種を含む甲殻類や軟体動物など海産無脊椎動物の改造人間達が、秘密結社基地と思しき廊下いっぱいに死に絶えている。
いずれも打撃ではなく何か鋭いもので、人間の躊躇があれば出来ないほどの冷酷な正確さで貫かれ切り裂かれている。それがあくまで改造人間、人間であることを知っているものには正視に堪えない光景だ。
また舞台が変わり、間の前で一人の女性の改造人間が、レーザーで真っ二つにされた。少しイカンゴフに似た姿の、武装も少ない優しげな女だった。
それを見て、パラドキシデスと同じような三葉虫の改造人間が泣き叫びながら突撃していき、やはり一撃で切り裂かれて死ぬ。

「・・・っ!」
始まったのと同じに、光景は唐突に消えた。目の前に今の風景が戻る。蝗軍兵と電柱組の戦闘員達が、部下を倒された蒲腐を取り囲もうとしている。
(・・・どうやら、博士が言っていた「必要なときに蘇る」という移植記憶のようですね・・・しかし、あれは一体・・・)
今の凄残な光景が、彼らの戦いだったというのだろうか。一体、どのような相手と。しかしそれ以上移植記憶は何も答えず、影磁は現実の局面に集中することにした。
「随分歯ごたえが無いが、洗脳した連中は今ので最後のようだな。」
十重二十重の包囲に、しかし蒲腐は口ひげを歪めて笑った。
「ふふ・・・確かに「洗脳した連中は」な。」
その余裕の口調で陰時は全てを理解し、そして命令した。
「いかん包囲を解け!待避!!」
それと、殆んど時を同じくして、ヒーロー特有の掛け声が入る。
「ベストエレクトロンッ!!」
「ギガスマッシャァァ!!」
「デルタッ、エーーンド!」

チュドドドドン!!

「キチチーーーッ!」
「どわあああああああ!」
待避しかけだった戦闘員たちが、爆風に背中を押されて吹っ飛ぶ。
「くっ!」
さらに飛んでくる破片やらなにやらをAGは前に出てその外骨格と楯で防いだ。後ろでもパラドキシデスがやはり背甲で周りの皆をかばっている。
「ダイテンコア!」
赤く、ヘルメットバイザーがやや鋭角的で胸部に装甲版がついているのが特徴的な、戦隊用強化服を纏った男が名乗りを上げた。両手に一丁ずつレーザーガンを持っており、先ほどの射撃を行った一人らしい。
「ダイテンイムス!」
続いて青い強化服、形状自体は同じだ。こちらは徒手だが両手でまだエネルギーの残滓のようなものが音を立てて爆ぜており、同じく遠距離攻撃能力を持っていると思われる。
「ダイテンレディス!」
三人目はグリーンだが、これは前の二人と違って装甲版が無く、ぴったりと張り付いた強化服の描く滑らかかるふくよかな丸みから着用者は女性と知れる。彼女のスーツの手にもやはり何か細工があるようだ。
「ダイテンアイガン!」
続いて、黄色い色をした、グリーンのとは別の意味で丸みのある体型の男。早い話がデブだ。黄色が太め、というのは最初の戦隊であるゴレンジャーがそうであったせいかどういうわけかやたら多いが。遠距離攻撃を行った三人とは違い、さっきの洗脳ヒーローの一人と同じくハリセンのような武器を両手に持っている。
「ダイテンソラリア一式!」
「ダイテンソラリア二式!」
と、二人揃って名乗りを上げたのは、青紫と赤紫のスーツを着た女性二人。青紫の一式は落ち着いた物腰の大人、赤紫の二式となのったほうは打って変わって元気そうな子供だ。
一式にはこれといった武装が見当たらないが、錦のほうは両手に爪の生えたグローブをしている。頭についた二つの三角形のアンテナを見ると、猫をイメージしたのかもしれない。
「市立戦隊ダイテンジン!!」
そして、揃って名乗りを上げる。最近流行の六人編成だ。着用者の質は分からないが遠距離戦用と接近戦用のバランスや先ほどの攻撃の破壊力、そしてスーツの外見から判断できる精度など考えるに一体一体が宇宙刑事クラスの戦闘力を持っている可能性すらある。
「ふふふ・・・これが本命、我が市街防衛の切り札!市立戦隊ダイテンジンだ!」
全員揃ったところで、再び笑う蒲腐。別にそんなことをいちいち聞いている義理は無いので、影磁はその間にも指令を素早く下していた。
「戦闘員、それと電柱組の諸君はアジトから物資を搬出し待避!激戦と判断し当アジトは放棄する!改造人間諸君はこの場にて敵を撃退する!急げ!」
緊急時の撤退後の集合位置や予備アジトは既に準備済み、それ以上言う必要は無い。
「は、はいっ!」
負傷者をかばいながらとは思えない速度で素早く行動に移るバリスタス戦闘員。そして弱小組織の割には、あるいはそれゆえか待避行動が早い電柱組。
その撤退を妨害されないように、影磁は斧と楯を構え威嚇するように前に出た。勢流鯨も呼応してその巨躯で威圧する。他に残ったパラドキシデス・マルレラ・たすく・しえる・ういんぐも同様に行動する。
「ふむ、部下を逃がすか・・・流石HUMA極東本部陥落時に勇名をはせたバリスタス有数の戦士だ。それは我々の前に敗れる覚悟と見ていいのかな?」
「違うな、愚者め。我々には大義と遠大な戦略がある故戦力はいたずらに消耗できない。そして、改造人間の、強き体を持つものの本懐は弱者の楯だよ!」
「侵略者がほざくか!」
「貴様のような狂信者から身を守るためだ、手段を選べるほど秘密結社という存在は強くはない!」
激しい舌戦。そして互いにもはや語るよう話と判断し、自然と会話は終わる。そして、戦いが始まる。
「とぉおりゃああああああああ!」
と、その時!
「な、何だ!?」
唐突に野太い声があたりを揺るがした。慌てて水平方向をうろうろと見回す市街安全保障局を尻目に、対正義戦術に基づき素早く上を見上げた影磁は、声の主を補足できた。同時に、インバーティブリットの二人も補足したようだ。
白衣のような服を着た、彫りの深い顔立ちの男だ。太いもみ上げと眉、眉間に走った古傷が随分と迫力のある、声音に相応の顔を形成している。
そのころになってようやく蒲腐とそしてその手勢たちも気がついたらしい。
「おやおや、大文字君ではないか。基地を脱走して、こんなところで何をしているのかね?」
蒲腐が口ひげを歪めるように笑った。対して大文字と呼ばれた男は激昂してくって掛かる。
「やーかましいぃ!脱走しなけりゃそこの連中同様、洗脳されまくっとったわい!」
思わず、バリスタスの面々は横目で市街安全保障局の兵達を見、納得と同時に口元を引きつらせる。
「ともかく!正義とは名ばかりのお前の所業!この大文字激こと宇宙刑事シャトナーが許さん!」
バッ、と確かにヒーロー的な動作で見得を切る大文字激・・・いや、宇宙刑事シャトナー。
「ふふ・・・君らが正義を口にするかね、宇宙刑事機構の君が。それにその体でどうするというのかね?」
このご時世だからこそ通じる皮肉を言う蒲腐。宇宙刑事機構がHUMAとつるんで起こした事件をきっかけに、それまで隠れていた汚職がぼろぼろ発覚、組織再編成・構造改革に追われてまともに活動出来なくなってしまった今だから。大方彼はその間、犯罪組織の撲滅までは無理にしても地球の現状をこれ以上悪化させないためにギャバン長官がじきじきに指名し残らせた、まっとうな刑事のだろう。
その蒲腐の言葉を聴いて、影磁は思い出した。確か、宇宙刑事シャトナーは暫く前に異次元世界のクライシス帝国と戦い、勝利はしたものの負傷引退したはず。事実、見ると腕に固定するタイプの銀色の杖をついており、とても戦えそうにはない。
「むんっ!」
ばっ、とシャトナーが身構えた。
「瞬装!」
「何ぃ!?」
馬鹿な。コンバットスーツを着用するには相当強靭な体力バランスが要求される。片足のきかない状態でそれが出来るとは到底思われない。
だが現にコンバットスーツ着用時特有の閃光がシャトナーを覆・・・わず、一瞬通り過ぎて消えた。だがシャトナーの姿は変わっている。
しかし。
「な、何じゃそりゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
その場の全員が叫んだ。小林教授も蒲腐も影磁も。
シャトナーの姿・・・それは、早い話が。

超ぴっちりもっこりの白い全身タイツだった。挙句なぜか頭の天辺から先に丸いぽんぽんのついた触角?が一本ぴょろんと生えている。折角戦闘開始寸前でシリアスになりかけていた雰囲気がぶち壊しである。
「あ?ああこれか。これはコンバットスーツのアンダーウェアだ。残念ながら今の俺の体ではコンバットスーツは着れないからな。」
「そういう問題ではないわい!貴様、恥というものを知らんのか!」
蒲腐が怒鳴る。
「お前みたいなアホな髪型しているやつに何をいう資格がある!」
「私の髪型と髭型のどこに問題がある!君の全身タイツは地球では既に猥褻物陳列罪!」
さて、この二人が言い争っている間我等がバリスタス怪人軍団やタロンの部隊は何をしていたのかと言うと。
「わははははははははは!」
「ひーッ、ひーッ、髭とタイツがけんかしてるよ〜〜〜っ!」
「くいこみが!濃い顔とぽんぽんのギャップがっ!あ、あはあははははははは!」
・・・笑い転げていた。こればっかりは無理も無いか。
「ふ、俺がわざわざこの姿になったのには理由がある・・・」
「どこに!?」
総突っ込み。それをまるで見計らっていたかのように、シャトナーは叫んだ!
「ボルトフラ〜〜〜〜〜〜ッシュ!!!」
声と同時に触角先端の球体が、凄まじい閃光を放つ!
突っ込みを入れたためほとんどのやつがそれをまともに見てしまった。
「うわあああああ!」
「めっ、目がぁぁぁ!?」
「っっっっっ!」
閃光に目を焼かれ、見たヤツは一瞬目が見えなくなる。
「す、凄く眩しい〜〜〜〜っ!?」
中でも悲惨だったのは三葉虫怪人パラドキシデスだった。彼の目は単眼と複眼だが、瞼がないので閉じれないのだ。しかも両目の位置に単眼二つ、背中に大きな複眼二つで、手でふさぐことは出来ない。
あげく、この目は非常に敏感で、暗視スコープ並みの性能を持っているので被害は倍増だ。
「・・・・・っ!」
ようやく視力が回復したとき、シャトナーの姿はまだその場にあった。だが、そこに五つの人影が新たに増えている。
「ん・・・戦隊!?いや、魔法ヒロインのようにも見えるが・・・」
五人、という数を見て影磁は咄嗟に戦隊系ヒーローを想像したが、よく見ると魔法少女のようにそれぞれ特徴的な衣装を纏った少女達だ。いずれも大体十六歳前後か。
赤を基調とした、バレリーナを思わせる服装に天子のような羽を生やした少女。手に両刃の剣を構えている。
青っぽい婦人警官のような服装をした、やや浅黒い肌の少女。両肩についたパトランプ型レーザー発振装置と、手に持ったフェンシングのフルーレと銃を合成したような武器が特徴だ。
紫を基調とした少女は薄紫系の看護婦姿、背中に大きなメスや注射器を背負っている。攻撃に用いればなるほど効果をあらわしそうだ。
その辺はまだヒロインの服装として理解できるが残り二人、イエローを基調色にした扇を持ったバニーガールと黒いボンテージに二本角と目のついた魔法使い帽子を被り、手にハープーン(三叉鉾)を持っているのなど随分毛色が変わっている。六人編成のダイテンジンと異なり、こちらは五人だ。
「ヒロイン系戦隊ね、魔女っ子戦隊とかかな・・・最近二時創作や漫画、特撮系ゲームなんかで見るようになったと思ったら・・・あの子達をデビューさせるための準備だったのかしら?」
ヒーロー・ヒロインは表社会にはTVや漫画として似たようなものを露出され、目撃された際のリスクを減少させる慣例があることから、マルレラは呟く。
「最近はそっち系も見てたのか、毬華・・・」
恋人のオタクっぷりには慣れたいるパラドキシデスだが、拡大しているらしい広い嗜好についていけないようだ。
「宇宙刑事機構規定第三十七条。赴任刑事が戦闘能力を喪失した場合、現地住民から代理刑事を任命し、戦闘能力を与えることが出来る!彼女たちは私が組織し、宇宙刑事機構構造改革の一環として開発された魔法系新装備、メタモルパワーを与えたひみつ戦隊メタモルXだぁっ!!」
幸い、シャトナーはボルトフラッシュで時間を稼ぐのが目的だったらしく、既に元の姿に戻っている。あのままでは笑いっぱなしで戦闘にならないところだった。
「ぬうううっ、少しはやるようだなシャトナー君!だが宇宙刑事の付属の女の子など所詮サブキャラ!本物の戦隊に勝てるものか!行け、ダイテンジン!」
「博士、怪人たちはどうするんですか?」
「ぬ。」
緑の強化服・・・レディスに質問され、不意に言葉につまる蒲腐。
・・・・・・
正直、この状況は三つの勢力のどれにとってもかなり厄介だった。
市街安全保障局もメタモルXも、どちらも敵対する二勢力を両方倒せる戦闘力は無い。全力を振り絞って片方を倒せるかどうか、残した相手に寝首をかかれるのは目に見えている。
一方バリスタスはこの三勢力の中で最も戦闘力が高いが、それゆえうかつな判断をして共闘されると面倒だし、AGと勢流鯨はともかく、比較的旧式のインバーティブリットの二人と最新型だが未熟な逆三連星には少々不安がある。
しばしの後、その均衡は意外なほうから破られた。
ジャジャジャジャッ!!
ドドカーン!
「ぬぅっ!?」
唐突に、三つの勢力にほぼ平等に光線による掃射攻撃が加えられた。咄嗟に避ける三勢力、そしてそこに新たな軍団が現れる。それに反応したのは、宇宙刑事シャトナーだった。
「お前は・・・クライシス帝国のジャーク将軍!?生きていたのか!」
確かに、金色の仏像を思わせる金属質の体をもつそいつは、数年前滅亡したはずの異次元世界クライシス帝国の将軍・ジャークだ。
「わしだけではないぞ。」
と、さらにこちらは生物的な要素を持つ、白っぽい皮膚に青いまだら模様、赤い単眼に手足に鋭い爪を持つ同じクライシスの怪魔異生獣大隊長ゲドリアンと、額に小さな顔の模様のついたヘルメットをつけたような顔で戦闘的な軍服姿の貴族、怪魔獣人大隊長ボスガンが現れた。それぞれかの地での遺伝子改造生物と改造人間に値する戦力であったが、いずれも軍団も壊滅しているゆえか幹部が直接現れている。
「ふっふふ、シャトナー、探したぞ・・・。貴様のおかげで怪魔次元のクライシス帝国は消滅した!いまや生き残りは少なく、帝国復興は夢のまた夢!」
「犯罪組織ギャンドラーに再就職した我らだがかつての栄華とは雲泥の差、戦闘員並みの雑居部屋住み、怪魔妖族大隊長マリバロンは肺病病んで寝こみ、怪魔ロボット大隊長ガデゾーンは部品不足で満足に動けず、パソコン代わりにされる始末!」
見るとジャーグの体の金色はところどころ剥げ落ちており、マントのはしにほつれが見える。ボスガンの剣も刃こぼれだらけだ。
滅茶苦茶悲惨だった。
「だが、貴様への恨みは晴らしてくれる!ギャンドラーと手を組んだ地球の組織、タロンとやらに貴様らが邪魔らしいが、それ以上に許さん!ゆくぞぉ!」
ジャーグの掛け声とともにクライシスの戦闘員・チャップとギャンドラーコマンダーの混成部隊が湧き出た。
「ええいもう!次から次へぞろぞろとぉ!」
悲鳴にちかいぼやきをあげるバラダギ大佐。
影磁も叫びだしたかったが、それよりも遂にタロンの名が出てきたことのほうが気になった。
(やはりタロンが絡んできたか。しかし、ギャンドラーを動かしてくるとは・・・金の力だろうが、面倒なことだ)
実態を見せない敵。今までの連中とはなかなか違う。陰気なようで戦士的な部分を相当に持っている影磁としては、苛立ちが徐々に出てくる。ともあれこの刺激で戦場は流動化し、それぞれ接触した同士が戦い始めた。悩む暇なく、影磁も斧を振るい手じかに来たギャンドラーのコマンダーを真っ二つに切り裂く。
しかしこれで四つ巴である、また増えてしまった。前回も敵は多かったが、一つ一つ潰していっていたのでそれほど問題は無かった。が、今回は・・・

実は五つ巴だった。
「ふっふっふ〜なにやら集って大変そうですが、このエクセル馬鹿なので難しいことは分かりません、頭にあるのは偉大なるイルパラッツォ様への忠誠心のみ!」
物陰から、理想推進機関アクロスのたった二人の実働部隊が様子を伺っていたのだ。
「すなわち!今こそこの市街を完全に私達のものにするべく、不逞の輩をいちどきに抹殺する好機!」
「で、エクセル先輩。どうやってやるんですか?」
「うっ」
エクセルの饒舌を、ぼそっとした聞き取りにくい一言で停止させるハイアット。
「そ、それを今考えてるんでしょハっちゃん、そういうハっちゃんには何かアイディアあるの!?」
「・・・ごぼっ」
エクセルの問いに、唐突に喀血して倒れるハイアット。
「ってこらハっちゃん!!困ったら死に逃げって発想やめてよ!おーい!!」
心臓マッサージ。
「あら、先輩おはよう御座います。・・・え〜と、何でしたっけ?」
「・・・また死なれたら困るからいい。しかしど〜しよ、このまま帰ったらまたお仕置きだ〜・・・」
失敗の報告をすると総帥イルパラッツォは玉座の横にある紐を引っ張る。するとエクセルが立っている床が割れて、落とし穴に落ちるのだ。落とし穴には水が張ってあり、・・・そして大抵何かが居る。
前回はワニの群だった。その前はピラニアだった。今度はなんだろう。
「考えろエクセル!未使用領域も絞りつくせMy脳みそ!!」
かぶりをふるエクセルだが、この分では第五勢力は計算に入れる必要はないようだった。


舞台を実際に戦闘しているほうに戻そう。


どっと乱入し襲い掛かる、ギャンドラーのコマンダーとクライシス残存部隊のチャップ。それに三部隊がそれぞれ応戦するところから戦いは始まった。
「おらああああ!死んだりゃあああ!」
「エンジェルソード・白鳥の湖っ!」
ズバッ!
襲い掛かるコマンダーの攻撃を素早いステップでかわし、手に持った剣でまさに舞うように敵を切り伏せるメタモルレッド。
「これでもくらえっ!メディカルナイフッ!」
「さあっ、いくわよぉ〜!クォータームーンッ!」
巨大メスと投げ扇、巧みな同時攻撃をするパープルとイエロー。
「サーベルガン・シュートッ!」
正確な射撃で正確機敏に的を射抜いていくブルー。
「目覚めよ、私の中の悪魔・・・デビルズアイッ!デビルズハープーンっ!」
帽子の目からの閃光で敵の目をくらませ、その隙を突くトライデント攻撃、手数とテクニックで勝負するブラック。

「・・・容赦せんで」
「攻撃行動開始・・・」
「いっくよー、猫の爪とぎ攻撃っ!」
白兵戦用と思われる三人、アイガン・ソラリア一式・ソラリア二式の三人が応戦するダイテンジン。こちらは対照的にパワー重視、真正面から粉砕していく。
しかしスーツが高性能にしても、随分な高出力だ。特に赤いスーツのコア、そしてソラリア一式と二式・・・
「うりゃうりゃうりゃあっ!!」
ズドドドドドン!
「っきゃ!?」
「わあ!」
そう観察していたところに、コアが無茶苦茶に打ったレーザーガンが次々と着弾した。
「このぉっ!やったなあ!」
反応したたすくが突進し、その勢いのまま低空軌道のとび蹴りを見舞う。
「ぬあっ!・・・小さいくせになんて力だ、こいつ!」
「なにっ!?」
強化服限界出力や質量の関係上、吹っ飛ぶと思われたコアが踏みとどまった。驚いた影磁は咄嗟に両目に組み込んだスキャン機構を作動させる。
「・・・なるほど・・・これが力の秘密か!」
特にパワーの強い連中の仕組みが分かった。
コアは脳と中枢神経以外の部分を殆んど機械にしたサイボーグ、ソラリア一式と二式は一くくりに呼ばれているだけあって、似たような機構を有するアンドロイドだった。ただでさえ力の強いサイボーグやロボットに強化服を着せれば、それは強くなる。
しかしコストパフォーマンスの面から考えると贅沢な話だ。市街安全保障局というからには役所なのだろうが、資金はどうなっているのか。大規模な使い込みや横領でもせねば、とても手に入る金ではないと思うが。
と、そこまで考え込んでいたとき影磁は視界の端でメタモルXが五人で集まり陣形を作っているのに気づいた。それぞれ精神を集中し、全身からそれぞれの色の光が出て・・・混ざり合い、白色の光となっていく。
「必殺技か?」
機動性より装甲に自信のあるAGの体だ。楯を構えて防御の姿勢をとる影磁だったが、その光を見たマルレラが血相を変えて叫ぶ。
「あれは、多分マシンマンのカタルシスウェーヴと同じ光の刺激による良心励起よ!食らったら涙流して罪状告白する羽目になるわ!」
「カラード・ジェネシスッ!」
「ぬっ!」
メタモルXが集合して放った必殺技を、血相を変えて避ける影磁。キングストーン・アマダムを装備したMR級改造人間であるJUNNKIやゴキオンシザース、生命体の定義から半歩はずれているような次元存在のまんぼう、心理外骨格と狂的な信念で身を鎧う悪の博士などと異なり、AGの霊的、心理的な防御力は通常改造人間とそれほど変わりは無い。食らったら危ないところだった。
「避けられた・・・速いっ!」
「怯まないで、皆っ!」
必殺技を買わされて動揺するメタモルイエローを、レッドが叱咤する。
「危ない危ない、後一歩で洗脳されるところだったっ!」
「洗脳?失礼なこと言わないでよ!」
「やかましい!」
頬を膨らませて抗議するやや子供っぽいパープルに、AGは怒鳴り返した。
「改心させたいなら、言葉でこい言葉で!」
確かに最もな発言である。やっている当人にとっては改心させているつもりでも、強制的に人の心を変化させるというのはいただけない。
「っ!」
「あ・・・」
「言われてみれば・・・」
しかし、そう指摘されて悩むだけ確信犯・蒲腐よりずっといい。
「それにしても、なかなかやるな。」
マルレラの的確な指示のおかげで助かったことになる。意外な拾い物に、にやりと笑うAG.マルレラは、盛大に胸を張った。
「インバーティブリットで王室女官まで勤めた私よ!」
「単にオタクなだけ・・・」
「うるっさいわね!」
ぼそっと呟くパラドキシデスにむくれるマルレラ。しかし、そんなことをしている暇はない。
「いいでしょうが!創作とその鑑賞は知性をもつものの証明よ、っと!!」
後ろから迫ってきたチャップにハサミハイヒールでけりを入れてふっとばすマルレラ。
しかし、その後ろからボスガンがサーベルを振り上げて飛び掛った。
「うらみは無いが死んでもらうぞ、小娘ェッ!」
「きゃあっ!!」

ギキィン!

振り下ろされるサーベル。
「ぬう!」
「あ・・・」
一瞬身をすくめたマルレラだが、間一髪でボスガンのサーベルは間に入ったパラドキシデスの背甲に防がれていた。
「あ、ありがと。」
「まあ惚れた弱みだ、気にするなよ毬華」
さっきむくれていただけ、礼にてれが混じるマルレラ。それを何食わぬ顔で水に流すパラドキシデス。
サーベルを引き、再び構えるボスガン。そこに今度はゲドリアンとジャーク将軍が同時攻撃を仕掛けてきた。ジャークとボスガン、二発の電撃が同時に放たれる。
「そうはさせないわよ!」
今度はマルレラだ。壁を壊された基地からはみ出した電線をつかむと、それを避雷針のようにして電撃を避ける。絶妙に息の合ったコンビプレイだ。
「けええっ!やるな地球の改造人間!!」
「ぬう・・・貴様のような戦士が我がクライシスにおれば、われらも滅亡の憂き目を免れたやもしれぬのにな・・・惜しいことだ。」
叫ぶゲドリアン。一方ジャーク将軍は本当に悔しげに、白目の無い緑の瞳を二人にすえる。
それを見たパラドキシデスは少し考えると、大声で呼びかけた。
「なぁあんたら!見ればギャンドラーにあまりいい扱いうけてないみたいだが・・・なんだったらバリスタスに来ないか!」
「何?」
唐突な発言にボスガンがヘルメット飾りのような小さな、だが実はその部分こそが真の顔である頭部の顔の目を見開いた。
「バリスタスは戦い破った相手でも話し合えるなら仲間として迎えるし、俺たちみたいな組織を失って流浪する怪人も対等の存在として扱ってくれる。あんたらもギャンドラーの雑居部屋に押し込められているよりはいい扱いを受けられると思う!俺からもとりなしてみるから!」
真剣な声。
「ほぅ・・・」
(どうやら拾い物という表現では生ぬるいようですな。まさに良き戦友に値する)
変身後の顔面で顎を除くと唯一と言っていい可動部分である目で内心を示し、影磁は感嘆の声を上げた。
「む・・・」
一瞬ジャークも激しく心引かれたようだったが、暫しの懊悩の末首を振った。
「残念だが出来ぬ。マリバロンとボスガンは人質同然にわれらの行動を縛っているからな」
つまり、彼らが寝返れば二人は殺される。
だが逆に言えば、それさえなければ・・・という意味もあることは、言わずとも互いに分かっていた。言っては、どこで聞き耳立てられているか分かったものではないからである。
「おうりゃっ!ベストエレクトロン!」
「えーいっ!」
「・・・ギガハリセンや・・・」
ドガン!
そこにダイテンジンの攻撃が殺到する。周囲のチャップ達とコマンダーがばたばたと倒れた。
「っく、戦力差がありすぎるか・・・撤退する!」
異次元人であるクライシス人だけのことはある、次の攻撃を食らう前に消えて、即座に退いて見せた。
「あの人たち、仲間になってくれるかな!?」
「さぁねっ、信じて損は無いだろ!」
短く言葉を交わすと、すかさず今度はダイテンジンに立ち向かう。
「そぉれぇっ!」
「ぐはぁっ!」
たすくの体当たりが、今度は普通の強化服着用者であるイムズに直撃した。耐え切れず吹っ飛ぶイムズ。
それをみた蒲腐は言った。
「ふむ・・・流石にやるようだな。諸君、あれの使用を許可する。この際多少の被害は構わん。」
「おお!戦隊モノのお約束、合体必殺技だぜ!」
「あれですか!?」
能天気に喜ぶコアと違い、レディスはぎょっとした様子を見せた。合体必殺技だというが、一体どんなものだというのだろうか。影磁は嫌な予感を感じ、咄嗟に全員に間合いを取らせた。
「そのとおり!この・・・」
といい、蒲腐は手元のアタッシュケースから何かを取り出そうと蓋を開けたが、その表情が驚愕に変わる。
「・・・・な、無い!?アトミックシックスがない!?」
「アトミック・・・だと?」
不吉な響きに、思わず影磁の声も引きつる。念のため地面に斧を一振りし、待避用の下水管に通じる穴をぶちあけておく。
「はーっはっはっはっはー!!」
と、唐突に聞き覚えのある笑い声が響いた。聞くからになんも考えてなさそうな、陽気な笑い声だ。
「お前達の最終兵器は、この理想推進機関アクロスのエクセルが頂いた!自分の武器で倒されるとはまさに愚民!」
エクセルだった。ボーリングの玉ほどの大きさの、戦隊がしばしば必殺技に用いるキック爆弾を抱えている。
問題は、そのキック爆弾だ。
一瞬でそれをスキャンした影磁は、結果に愕然とする。
「カリホルニウム核爆弾・・・!!」
ごく僅かな量で臨界する、小型核爆弾だ。バズーカや小型砲に装てんすることが出来、小型とはいえ破壊力は核である、町一区画くらいは消し飛ぶはずだ。
それが、何も知らないやつの手にある。
「た・・・待避しろっっ!!」
「わ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「そぉれ、食らえ〜〜〜っ!」

カッ


どがあああああああああああああああああああああん!!!!!


辛うじて脱出に成功したバリスタス。地上の連中がどうなったかは、流石に確認できなかった。

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