秘密結社バリスタス第二部大西洋編第六話 我等の名は侵略者

豪壮なデザインの玉座、奇怪な仮面を被った博士は一人座する。
北洋水師の活動は活発化を極めており、手勢の大半は出払っていた。普段彼の執務を補佐するイカンゴフや蛇姫まで出撃させてしまったため、少々寂しい。
おまけに博士自信の実務能力がそれほど高くないが故に、事務が滞りかける始末。フェンリルも自らの野望である、夜族の国を創るために目下奮闘中。
成長したのだが。
「少しさみ・・・」
「博士、失礼いたします。」
と、カーネルが部屋に入ってきたため、慌てて博士は口をつぐんだ。その表紙に舌を噛んでしまうが、表には出さない、男はやせ我慢がその価値であり本懐。
カーネルは、僅かに微笑む。心理外骨格のせいで、表情が凄く痛そうに歪んで全然バレバレなのだ。同時に、僅かに寂しそうなのも。
「お手伝いいたしましょう。」
言うと、カーネルも書類に目を通し始める。
そのカーネルの心情を察すると、博士は元気を取り戻したようだ。書類に目を通し決済する合間に、博士はひらりとコンソールに手を伸ばした。
軽く弄る。装置が作動し、執務机の上に立体映像を展開した。
それを見て、博士は笑う。
「始まったか・・・頼もしい奴らよ。」

轟々と燃える炎。
硝煙。爆煙。
怒号、悲鳴、阿鼻叫喚、炸裂音銃撃音爆音エンジン音、様々な音が互いに寄り多くの空気を振るわせようと争っているかのごとく響き合う。

武装した市民が、軍隊と闘いながら首都政治機能の制圧を目指して突き進む。
それは、支配者からすれば反乱であり暴動。
それは、決起者からすれば

であるならば、他国からすれば・・・?

「簡単なこと、利害が一致する方の理屈が通るだけだな。」
「アラネスさん?」
焼けこげ大破し、放棄された戦車の上に立つアラネスが不意に独り言を呟き、傍らに立つイカンゴフが怪訝そうな顔をした。アラネスはともかくイカンゴフも珍しく戦場の装いで泥まみれの迷彩軍服を纏い、手にはその華奢な体に持たせるのには一見酷そうな、大きな軍用背嚢を下げている。
「ん、ああ、いや何でもない。」
少し慌てた口調でアラネスは答える・・・その可動部分のほとんどない改造人間形態の顔はほとんど動かないが。
戦場を見据える目。だがアラネスは、目だけで戦場を見ているのではない。よく見ると極めて細い糸が蜘蛛を模したその指から放たれており、大気の振動にあわせ震えている。
四方八方に張られた糸・・それによりアラネスは、音波とその反射からこの戦場を立体的にかつ細大漏らさずに捉えていた。・・・ひとたび網にかかった羽虫が蜘蛛の手から逃れ得ぬように、アラネスの糸の知覚からは誰も逃れられない。
(汚い話を聞かせてもしょうがあるまい)
アラネスは胸の内でそう呟く。しかし、アラネスはそれを読んでいた。
「アラネスさん。私もバリスタスの改造人間ですのよ。・・・世界の裏にて生きるための外道の知識、博士閣下に教わっております。」
「む。」
静かだが、凛としたイカンゴフの物言いに、アラネスは意表を突かれ、そして苦笑した。
「そうか、そうだったな。」
苦笑に微笑みで答え、イカンゴフは背嚢からリレーのバトンほどの大きさの筒を取り出した。
上に向け、横に付いたボタンを押す。
パシュ、と小さな音を立てて筒の上半分が飛び出した。そのまま空に向けてぐんぐん飛び上がり、そして小型のプロペラで空中に滞空する。同時に手元に残った部分が展開し、小さなディスプレイに上空に飛んだ端末から採取された付近のデータを写し始めた。
それはバリスタスが仮面ライダーV3の偵察用射出ユニット「V3ホッパー」やスーパー1の「レーダーアーム」を分析して開発し、幹部改造人間ゴキオンシザースに搭載したGホッパーの簡易製産版だった。航空戦力・偵察戦力の乏しいバリスタスに、上空から情報を提供する。
「戦況は今のところ「反乱軍」側に有利・・・ほんの僅かですが。じわじわと国軍を押しています。」
「うむ。それはいい。問題はその後だ。」
己に並び立つようになったイカンゴフに嬉しさを感じながら、アラネスは再び戦場を睥睨した。


しばし前、北洋水師がマリネラについた直後のことである。
「南米・・・ですか?」
「うむ。」
二人の悪の博士が与えた使命は、世界征服という組織の目的へ向けての、各組織との闘争よりもより積極的な世界への関与・・・すなわち、現行の政府の転覆・親バリスタス政権の樹立、であった。
そのために選ばれた地が、この南米と・・・もう一つはアフリカだった。そちらには、エジプティアンズを派遣したと博士は言う。
しかし。
「それで・・・作戦としては、どのように?」
「別に作戦はない。」
「は?」
しかし、イカンゴフとアラネスを呼びつけ行動を開始するように言っておきながら、博士はその行動の指針をまるで指定しなかった。
「目に映り足る物事を捉え、なすべきと思ったことをただなしていれば良い。」
と、ただそれだけ言って、博士は二人を送り出した。

現地の南米某国へ飛んだ後、イカンゴフとアラネスは身分を偽称して病院を経営した。何故なら、そこにはあまりに大量の、手当を必要としているものがいたからである。
未だほとんどの国に置いて、植民地時代の総督がすり替わっただけのような独裁と圧制、そしてうち続く戦闘と未熟な医療技術。元の職業である看護婦を改造材料と混ぜてコードネームに転用しているイカンゴフが、黙ってみていられるはずがない。
どんどんとその組織仕込みの腕前を披露して、患者達を救っていった。時には通常の医療技術では助けられないほどの患者も居たが、人体改造すら可能であるバリスタスの技術を持ってすれば救えぬ患者など、即死したか脳損傷くらいしかない。
しかし、戦いが、圧制がやまぬゆえ、苦しみ病院の扉をくぐる者もまたやまない。そして、彼等虐げられる者の、無力な嘆きを二人は聞く。
さらにこそ彼等の技術を、その政府が狙う。一人二人ならともかく、死亡確実と思われる負傷の者が次々と助かっては、どうしても目立つ。
分け隔てない治療が災いし、ゲリラ協力者とされて治安部隊が踏み込んできた故、二人は改造人間としての力でもってそれを撃退した。そしてそれを見た群衆に、こう頼まれる。
政府を倒してくれと。
アラネスはそれを断り、こう答えた。
我々が政府を倒してどうする。ここはお前達の国だろう。ならば・・・お前達が戦え。力が無いというのなら、その時は貸してやろう。
なるほど、確かに博士が言ったたとおりに。そして、それは断じて投げやりな指令であると言うことではない。
現地をつぶさに見、その民と親交を培った二人は、確信と戦意を持ってこの戦いの望むことが出来たのだ。



首都を巡る戦闘は激化していた。
反乱軍は数が多いとはいえ、大半は武装も貧弱な民衆である。それなのに彼等の勢いは強く、輸入された兵器で武装している軍隊を圧していた。
その要となっているのが、イカンゴフ達が戦力を供与した者達。いずれもメタリックブラックの体のラインに張り付くボディ・スーツを着用している。デザインはバリスタスの戦闘員服よりも随分シンプルで、繊維感のあるバリスタスの強化服と異なり、表面はまるで水面のように滑らかだ。

その装備を纏った者が、苦戦する反乱軍部隊の全面に飛び出した。鬢を二房長く延ばして後はショートボブにまとめた髪型をした、赤毛の女だ。片目にデータ・照準投影用の薄いグラスをモノクルのように付けている。
「ルネッ!」
「わかってる!」
言うなり女は跳躍し、片手に持った有効射程2000m装弾数32発という「超」性能を誇る「衝撃を与える者」製自動小銃「250式自動小銃」0の弾丸を一気にばらまきながら、敵陣のど真ん中に着地した。
踊るように回りながら、片手で討っているとは到底思えない精度の弾雨でもって群がる敵をなぎ倒すが、弾を撃ち尽くす。
「弾切れか馬鹿め!」
その隙を見てにんまり、生き延びた兵達は銃を突きつける。
「畜生が、蜂の巣になれ!」

ズダダダダダダダダダダ!

ルネが放ったのに数倍する数のM−16ライフル弾が、ルネの体に降り注ぐ。
が!
「なるほど、確かにね。今の私は、半分は畜生かもしれない。」
そう冷ややかに、平然と言うルネ。ライフル弾は彼女の体に微塵もダメージを与えていない・・・いや。
その両足にかわされ、その腕に受け止められていた。金属で作られた、銃を撃っていた腕を除いて獅子そのものの四肢。
これこそ、バリスタスの供与した新装備。金属細胞で構成され使用者と融合、完全に肉体の一部として機能し、戦闘時には埋め込まれた動植物の遺伝子情報を発現、簡易型の改造人間として機能する義肢・・・メタルセル・コネクテッド。
ルネはその着用者・・・獅子の遺伝子を埋め込まれた、レオ・コネクテッドだ。別名、獅子の女王。
「でもねぇ・・・」
それは何も獅子の遺伝子を持っているからと言うだけの単純な物ではない。
「手前ぇらみてえな下司の手先に比べたら、畜生の方がまだましさ!!」
怒鳴った、いな吼えたといったが良かろう。この気性の激しさこそ、獅子と讃えられる証。
「ウォオオオオオッ!!」
叫びながら突進するルネ、そのあまりに早さに銃を構え直す暇もない。獅子の爪の一撃で、数人の兵士が一気に宙を舞った。

バババッ!

「ぐっ!?・・・この!」
三点射撃がルネの体を叩く。メタルセルコネクテッドと融合し一部となって、装着部以外の体表を覆う金属皮膜が弾丸を防ぐが、衝撃を完全に殺しきれるほどではなく体勢が崩れる。
咄嗟に倒した兵士から奪ったM−16をぶっ放す。
倒れる敵兵達。しかしなお、ルネの表情は緊迫に引きつった。
その後ろから現れた次の相手は、装甲車。いわゆる歩兵戦闘車の部類だ。

火を噴き迫る対戦車ミサイル。獅子の脚力でもって何とかかわす。改造人間とはいえ大規模な神経系の改造を経ない簡易のものである、瞬発力が桁違いとはいえ反射神経は生身よりまし程度なので、かわせたのは奇跡に近い。
だがその着地に合わせるように、大口径機関砲がルネを捉える。
「しまっ・・・!」
ミサイルをかわして着地直後のルネにはかわせない。そして、大口径機関砲の連射に耐えられるほど、その体は強靱ではない。

ぐわらっしゃああああん!
パンチ一発で装甲車がひしゃげて砕け散った。それを行ったのはルネと同じメタルセルコネクテッドの金属皮膜で体を覆った、30歳ほどの屈強な男だ。インディオの血を引くらしい褐色の肌は顔しか露わになっていないが、
装甲車を一撃で粉砕した彼の右腕は、サイズが人間大のシャコのそれだ。全長10cm程度のシャコの前肢は、種類によるが貝殻などを割ったりするために極度に発達し、バネ仕掛けのように勢い良くパンチを繰り出す。ある水族館ではシャコのパンチで水槽の樹脂が砕かれたという・・・それが拡大・強化されたとなれば、その威力は推して知るべし。
「落ち着けルネ、熱くなり過ぎるな。的確にかわし精密にヒットさせなければダウンは奪えん、こちらが倒れるのが先になってしまう。」
元ボクサーらしい男のアドバイスに、ルネは冷や汗を拭いながら笑顔を返す。
「わかってる、二度はぬかりはしないよ!でも・・・ふふ、これが熱くならずに居られるか!」
哄笑するルネに、男も頷く。
「ああ。この機会をくれたあの蜘蛛と烏賊の二人には、いくら感謝してもしたりないな。」
「ふっ・・・まあな!」
再び狭い路地をぶち破るように現れる敵兵の大群。それに立ち向かいながら尚、二人は堂々としていた。

さらに。
パガッ!
手痛い金属細胞製蹄の一撃で、砲がへし折れる。馬の遺伝子を持つコネクテッドの脚力と、足技を主とする格闘技「カポエラ」の合一が生んだ破壊力だ。
「うおおっ!」
バサァッ!
さらにもう一人のコネクテッドが、背中から生えた羽を一振りした。途端に毒蛾を模したその羽から鱗粉が渦を巻き、敵兵達を飲み込み苦悶させる。

「やるじゃねえか皆!いい調子だぜ!」
味方の奮闘を見て、やはりコネクテッドの少女がやや荒っぽい声音で快哉した。ぼさぼさの金髪を束ね、コネクテッドの防御スーツの上に赤いジャケットを羽織っておりその裏に何やらごちゃごちゃと多数の銃器を隠している。
荒々しい少女の印象は、彼女のコネクテッドの因子も関わっていた。バリスタスに登録された彼女の怪人名はカクタス・コネクテッド・・・さぼてんである。体の所々に金属細胞のサボテン表皮がついており、そこから鋭い棘が生えている。
「キャル、不謹慎だろ。」
その隣、やはりコネクテッドの装束を纏った二人の内、東洋人、恐らく日系移民の子孫とおぼしき少年のほうが呟いた。こちらは肩の部分が金属細胞化し、そこにホウセンカの遺伝子を組み込んだ結果生じた、クレイモア地雷をそのままスケールアップしたような破棄力をもたらす種子がついている。ルネと同じ「衝撃を与える者」の250型小銃を持っているが、せいぜい16歳ほどと思われるのにその手つきは異常なほど慣れきっている。どの表情も瞳も、命のやりとりに慣れた者特有。
「う、そりゃ、そうだけど・・・」
「玲二、そうキャルを責めないで。ルネも言っていたでしょ、熱くなっているだけよ。」
「そ、そう!エレンの言うとおりなんだよ!」
三人の最後の一人、東洋系の少年と同じ黒い髪を短く刈った、キャルよりも幾分華奢な体格の少女が、オート拳銃に弾倉を挿入しながら静かに言った。その静かさは冷徹なものではなく、不器用な優しさ故であることが、一見無表情のように見えて僅かに照れて染められた頬に現れている。彼女のコネクテッドとしての属性である蛍に、少し似ていた。もっともメタルセルで構成され右足に仕込まれたそれは、簡易のレーザー砲として作用するが、そんな危険なところも含めて。
キャルも焦ってそれにのって弁明する。二人の言葉に、少年は微笑みで応えた。
「解ってる・・・まぁ、前は身動きもままならなかった僕達が、軍隊相手に圧倒して居るんだ。実際痛快かもしれないけど。」
確かに、そうだった。メタルセルコネクテッドの本来の用途は、手足の切断や皮膚・筋肉組織の大規模な欠損などの重傷を負った者への処置用・・・すなわち本来の役割は義手や義足なのだ。動植物のDNAを転写して戦闘能力を持たせたのはバリスタスの負傷戦闘員を前線に復帰させかつ戦闘能力を強化するための、いわば後付、それをこのたびの内乱で負傷兵に実地応用したわけである。結果、彼等は以前よりも遥かに機敏に動く体と、立ち上がり抵抗するための力を得た。
少年・・・玲二の微笑に揃って頬を染めた少女二人であったが、すぐに戦場にふさわしい真面目な顔に戻る。
この三人の少年少女は、反乱軍の中でも少々特殊だ。元々マフィア組織「インフェルノ」の暗殺者として洗脳処理を受けており、現地犯罪組織の鎮圧の過程でバリスタスと衝突したのだ。
暗示で叩き込まれた戦闘技術と、洗脳故の躊躇のなさで、改造人間であるアラネスと三対一とはいえ互角の勝負をし、双方ぼろぼろになってしまった。アラネスは改造人間だから修理すれば何とかなるが、人間であった三人はそうはいかず、マシンセルの使用となったわけである。
その上組織に拉致・洗脳された時点で既に死んだものと扱われており、洗脳がとけたはいいが社会復帰も出来ず、やむなく、そしてまた生身でアラネスと闘ってのけた腕前は見所有りということでバリスタスで引き取ることとなったのだ。
「さて、僕達も・・・拾ってもらった恩を果たさないと。ね、エレン?キャル?」
「わかってる!」
「わかったわ、玲二。」
そして、かつてファントムのコードネームで呼ばれた暗殺者の少年少女が、新たな体と蘇った心、自らの意志で戦場に舞う。



反乱軍は政府軍を押しまくり、既に首都の大半を制圧するに至っていた。メタルセルコネクテッドの戦闘力はバリスタス戦闘員よりも高く簡易改造人間に匹敵するが、同量以上の軍隊と真っ向から闘って圧倒できるかどうかは本来微妙な存在である。それでも、彼等は活躍し政府軍を押し寄せていく。
何故かの問いに結論を言うならば、戦意と練度の差という単純な答えである。
元々反乱が起きるような民衆と政府が剥離した国である、しかるべき力さえ有れば、蜂起するほどに滾っていた者達と、組織としての体裁で政府を・・・「国」ではなく「政府」を護っていただけのものとの戦意の差など、最初から知れている。

しかしだからこそ、アラネスはこの状況に窮地を感じ、出撃を選択した。何故なら・・・

自分達の利益のために他者を思うがままに踏みにじることが出来る力を持つ超大国が、そこにあるのだ。中小の独裁軍事国家など問題にならないほどに危険で圧倒的な力。
その前に、現代の観念で悪とされる独裁国家は、三つに分類されてしまう。超越の力が、その威を借る意志、ただ一つの意志が、決定し分類してしまうのだ。
すなわち。
倒す敵。これから倒す目標。そして・・・「利用価値が有るから残しておくもの」

アラネスがそれまで出撃を行わなかったのは、国の未来を決するのはその国の民でなければならない、という強い思いが有ったからだ。断じて、他国を好き放題空爆し侵攻し蹂躙し、倫理も信念も愛する者も護るべき物も、全てを思うがまま恣に作り替えてしまうような下種のまねはしたくなかった。
だが・・・そいつらも来るなら、話は別だ。「それ」は、阻止せねばならない。

キュドッ!!
ダァラララララララッ!ドガァァァァ!!

突如、押されていた軍隊の後方から、さらに強大な火力が浴びせかけられる。航空機による空爆攻撃だ。この国の軍隊のそれではない、最新鋭攻撃機。
「う・・・うわぁっ!!」
悲鳴を上げる反乱軍。それはもう、彼等の対処できるレベルを超えていた。
が。
「フゥンッ!!」
空気が、悲鳴のように甲高い振動を発する。ほとんど不可視と言える細い細い刃が、飛来する弾丸やミサイルを叩き落とした。
「アラネスさん!」
「応。」
歓呼する反乱軍に、アラネスは短く答え、そして苦々しい呟きを漏らす。
「やはり来たか・・・!」
「来た、って?」
アラネスの呟きに、キャルが問う。
アラネスは答えた。
「米軍だ。」
「な!?何で・・・」
全く唐突なその出現に動転する反乱軍の一般兵士に、アラネスは端的に説明する。
「この国の政府は、アメリカのに協力している。国内に軍事基地を置かせ、諜報活動を許し、安い資源と労働力を供給し、大量の兵器を買っている「お得意先」だ。利用価値がある故に、日ごろ正義だ自由だとお題目を唱えても、奴らはこの国を攻めず守る。だから、それを壊そうとする者を・・・奴らは国益に反する者と、敵と見なすだろう。」
言うまでもなく、アメリカは現在世界最大の武力と経済力を持ち、他国の政府をすげ替えるなど造作もない国だ。
自体が理解されるのを待って、アラネスは続けた。
「選択の時だ。屈従するか・・・世界を敵に回すかの。苦難と屈辱に支配されるが、世界の人間として生きられる道と、我等のように、世界全てに敵視されながら戦い抜く道。選べ、ただし時間はほとんどない。」
言って、周囲を見回し、そしてアラネスは満足そうに頷いた。
表情のみで、返事となっていた。
闘う、と。
しかしその決意の猛々しさに満足するほどに、自分たちの行いに対する苦悩が満ちる、結局彼等は自分たちの野望のために、この人達の闘いに便乗しているだけに過ぎないのだから。
「解った・・・ならば、勝たねばならん。そして、世界の敵は我等の味方。・・・秘密結社バリスタス、全力を持って諸君達を支援する。」
気を取り直すように、そして周囲に意志を伝えるように、アラネスは言う。それは偽りかも知れない。だが。
「イカンゴフ!」
「了解です、携帯式ガラダマ・ECMシステム、全力起動!」
言うとイカンゴフは、先程ホッパーを取り出した背嚢から、銀色のごつい金属塊と見える物体を取り出した。かなり重そうな外見だが、取り出すイカンゴフの仕草はむしろ発泡スチロールの塊を持つように軽々としている。
その表面に隠されたいくつかのスイッチを操作するイカンゴフ。すると、金属塊がふわふわと浮かび上がり始めた。ホッパーのようにロケット噴射と小型プロペラの複合によるものではなく、風船が浮かぶように。
「あ、あれは・・・何?」
外見から全くもって機能が推測できないので、ルネが思わず呟く。と、空に向けられたその目が不意に険しくなった。
「いけない、来るよ!」
「ああ・・・っ!」
先程のミサイルを迎撃された航空隊に続き、もう一部隊やってきた。今度はさらに大量の爆弾、ミサイルを限界まで満載している。
が。
「携帯式ガラダマ」とイカンゴフが呼んでいた金属塊がきらきら光ったと思うと、急に最新鋭攻撃機部隊はよろよろと空中でよろめいた。ミサイルも発射できずに、慌てて機首を帰すと帰投しようとする。それにすらも失敗したものが数機、遠くの山に墜落した。
呆気にとられて、それを見守る反乱軍達。戦場にしては相当長い間沈黙があたりを支配し、ようやく、エレンが呟いた。
「あれは・・・超強力なECM?」
「ああ、そうだ。我が組織の誇る技術の一つ。レーダーに頼らねば何もできない昨今の戦闘機どもも、空爆に頼らなければ進撃も怖くて出来ない米軍など、物の数ではない。」
にやりと笑うアラネス。そして、今度は大声で叫び、指し示す。
「さあ、大統領府はすぐそこだぞ!この包囲体勢ならば、相手は逃げられずに立てこもっているはずだ!いって積年の恨みぶつけてこい!」
「お、おおうっ!!」
驚きから立ち直って気合いの声を上げ、再び進撃していく「反乱軍」。
その背中を愛おしげに、そして僅かの不安と沢山の決意を込めて、アラネスとイカンゴフは見送った。
「さて・・・」
と、アラネスは急に振り返ると、鋭く視線を周囲に走らせた。
「出てきてもらおうか。ここから先はいかせないぞ?」
アラネスは既に、周囲に敵意を持つ何者かが隠れていることに勘づいていた。この国の政権が交代するのを望まない何者かの手先であることは、考えるまでもない。
近場の廃屋にニードルガンを叩き込む。狙ったとおり、隠れていた相手が正体を現す。
ただ、その正体は、予想と少し異なっていた。
「貴様らは・・・!」
アラネスには見覚えがあった。直接見たわけではないが、かつて彼が防人として闘っていた頃、資料映像か何かで。
防火服か何かに似た銀色の繊維、でかいヘルメット、背中に背負った即効性細菌兵器と火炎放射器の入った二つのボンベ。
「悪魔特捜隊だと!?」
「黄金の混沌」末期、地上進出を図った下位次元生物デーモン族は、人間に寄生し入れ替わるという方法で侵略を行った。従って正義側は人間に化けたデーモンを燻りだして倒す必要に迫られたのだが。
デビルマン、という存在が悲劇を生んだ。この寄生というのはデーモンにとっても相当無茶な手段であるが故にまれに合体時に人間の意識の方が勝り、デーモン族の体に人間の意識を持つ者が生まれる。それをデビルマンと言ったのだが・・・
当時、その両者は混同された。事実としてデビルマンとなってもデーモン側の意識に引きずられ結局凶暴化してしまう者が後を絶たなかったのだが、それでも人である彼等を、この格好をした連中は容赦なく狩り、皆殺しにしたのだ。世界保健機構直属の殺戮部隊、現代のSS。一部のヒーローはそれにたてついて逆に抹殺され、中には正義の所存を疑い、ヒーローとしての看板を下ろした者も、悪に身を落とした者もいたという。
そんな部隊が、デーモン族絶滅と同時に解散したと思われていたそれが、今目の前に居る。
「違うな。我々はHA実働部隊。貴様等バリスタスの野望を粉砕しに来た。」
そして名乗ったその名は、旧HUMA北米支部が本部の指令系統から離脱・組織改編を行いアメリカ政府や国連と融合し造りあげた組織。
その目的がバリスタスの阻止と同等かそれ以上にこの国がアメリカの支配系統から外れるのを許さないためにあるのは明確、そして堂々と名乗りそれを隠そうともしない。どうせお得意の証拠の捏造やMIBの使っている記憶消去装置ニューラライザーなどを使い、あとからどうとでもでっち上げられるといったところだろう。
「ふん、これがHAの本質ということか・・・!」
苦々しげに、アラネスは呟いた。同時にサブアームと腹部ワイヤー発射管を展開、身構える。
「こいつ等は・・・俺たちが相手をせねばならぬ連中だ。お前達は先に行け。」
「そうです、あなた方はあなた方の国のための戦いをなさい。私達は、私達の理由で彼等を倒します。」
と、傍らでイカンゴフも言い、頭部から生えた十本の触腕の先に、改造人間を手術するための強化皮膚をも切り裂く特殊メスを構える。アラネスはイカンゴフも下がらせたかったのだが、彼女の決意も動かしがたいようだ。
その目が、訴えている。仲間を戦場に一人で放り出すわけには行かない、と、そしてアラネスは知っていた。彼女が、足手まといにならないための訓練を重ねてきたことを。
そんなイカンゴフに軽く頷いて見せて了解を示し、向き直る。
敵のリーダーとおぼしき、キリスト教のカソック(僧衣)に両腕に投擲用の剣を何本も持った少女。
かつて、バリスタスは交戦したことがある。
「貴様、JUNNKI閣下の戦闘データで見たことが有るぞ。イスカリオテの巡回浄滅吏官シエル=エレイシア。オルグの群に踏みつぶされたってことだったが・・・生きていたのか。」
「これでも不死者の端くれですからね。痛かったですけど。」
不敵に笑うシエルに、かえってアラネスは哀れそうな声をかける。
「それで、復帰したらイスカリオテは崩壊していたわけだ。行き場のなくなり、食い詰めての傭兵稼業にしても・・・阿漕な事は辞めて、足を洗えばどうだ。」
アラネスの言葉に、失礼なとばかりにシエルは柳眉をつり上げる。
「主なる神に従う者は尽きることなく、その御技は不滅です。私達旧イスカリオテは、現在HAにて再編成を受けもうじき再び活動を開始します。新組織「埋葬機関」として・・・今度こそ貴方達を地獄に落としてあげましょう。」
言うなり、シエルは両手に持った剣を投げつけてきた。糸を振り回し、それをアラネスは片端からからめ取り叩き落とす。
「ほう、そうか・・・!ならば、何度でも叩きつぶすまでだ!!」

「ふむ・・・」
共時性霊子通信でこの戦闘の様子を把握していた博士は、八つの目を細め、その言葉から得られた情報を思索する。
「HAは、戦力を拡充しつつあるようだな。そしてそれがイスカリオテ機関残党などを含んでいるとすると・・・」
かつかつと、鋭い鈎爪で金属質の頬を叩く。右三つの瞳がじろりと動き、傍らのカーネルに向いた。
「カーネル、お前ならどう見る?」
「戦術・短期戦略から言うならば、フェンリルの遂行中の計画を早めるべきです。それと、例の計画を進めている蛇姫殿にも、念のため援軍を手配するべきです。」
「うむ、フェンリルに伝えておくがよい。増援に関しては本部並びに関東軍を通じて下位次元国家群に要請するとしよう。しかし、長期戦略にも問題が生じる可能性も有るな。」
イスカリオテ機関は神を、HAはいかにもアメリカ的な単純な正義を行動の指針とする。それがこの後に想定される古代勢力の復活、上位次元の本格的介入などという複雑な状況下、どう動くか・・・



ゴォォォ!
悪魔特捜隊の寸胴な装甲服が一斉に構え、火炎放射器を放つ。それをアラネスは四本のサブアームと二本の腕、腹部ワイヤ発射口をフル稼働させて宙に糸の壁を編み上げ、防ぐ。
燃えて落ちる網。その向こうめがけて、今度はもう片方のボンベから細菌が噴射される。「黄金の混沌」期の秘密結社や侵略者が使用した細菌を採取して培養したと噂される代物は、持続も短く伝染性も無いが、大抵の生物を即死させてしまうほどの毒性がある。
「違います、上!」
叫ぶシエル。網の向こう、たった今までいた場所に敵がいない、その事実に真っ先に気付く。咄嗟に上にシルエットを見つけ指示。火炎放射がそれを焼く。
「残念、それもはずれです。」
「!?」
しかし、燃え尽きたのはイカンゴフが持っていた軍用背嚢に過ぎない。それは上に放り上げられ、見事囮としての役割を果たしたのだ。
その間に脇道に飛び退いたイカンゴフとアラネスが、一気に敵の懐に踏み込む。悪魔特捜の装備はあくまで中距離対生物専用、白兵ならば改造人間の敵ではない。
だが、何とその奇襲を悪魔特捜は跳びのいて、否、飛んで回避した。腰に新設されたバーニア、ちょうどゴレンジャーのバーディーみたいなそれをふかして、一気に20mは下がる。咄嗟にアラネスがワイヤを放つも、一体を切り裂いた以外は取り逃がした。
「昔のそれと同じと思わないことですね!」
「確かに!」
直後の火炎放射器と細菌攻撃を、切れ味を押さえたワイヤーを遠くの街路樹にひっかけ、脇にイカンゴフを抱えてワイヤを巻き取って離脱するアラネス。
しかし今度はそこに、シエルが迫る。
彼女の持っている剣は「黒鍵」と言う名で、旧イスカリオテ機関の造りあげた概念武装だ。様々な呪的効果を持ち、主に投擲に用いられる。
それが、アラネスのサブアームに突き刺さり、切り裂く。
「っ!!」
吹き出す血に、アラネスの腕の中でイカンゴフは目を見開く。アラネスが判断して、傷を出来るだけ浅くするためサブアームで受けたことは頭では理解できるのだが、心の中の穏やかで優しい部分が悲鳴を上げ・・・
いや。
直後、イカンゴフは自分の意志で冷静さを取り戻す。自分で加わることを選択した戦いだ、最後までやり抜かねばならない。頭部増設頭脳ユニットの力を借りながら、瞬時にすべきことを割り出す。
まず身をひねり、打撃を受けて体勢を崩したアラネスの変わりに着地。イカンゴフの髪の毛のような触腕が伸び、それを補佐。
と同時にこうべを巡らせ、追撃せんと目前に迫ったシエルに、目潰しの頭部イカスミ煙幕攻撃。
流石にたまらず退くシエル、その間に二人は体勢を立て直した。
「やるな、すまぬ!」
短いアラネスの謝意。しかし闘志は滾る。
アラネスの腕が、見えず柔軟に変化する刃を操り走る。咄嗟に次の黒鍵を放とうとしていたシエルの左腕が切り落とされた、しかし再生者であるシエルはこの程度では死にはしない。
すぐさま左腕で黒鍵を構え直すシエル。しかしそこにアラネスが一気に接近、白兵戦に移行する。これならまた、後方の悪魔特捜達も攻撃できない。
「くっ・・・!」
損傷した一本のサブアームを除いて、五本の腕と二本の脚による嵐のような連撃。再生者といえども腕一本あっと言う間に生えてくることはないため、シエルはそれに対応できない。咄嗟に背中に背負ったユニコルンの角を用いたパイルバンカーとでも言うべき概念武装「第七聖典」を持ち出すが、片腕でとりまわせるはずもなく、かえって苦戦を助長する。
アラネスが勝つ、そう見えた次の瞬間、イカンゴフはシエルの表情に妙なものを見つけた。
自嘲混じりで悲しげな勝利の意志、とでもいうべきか。強いて言うならば、使いたくない手段で勝ったならば浮かべる表情と言うべきか・・・
咄嗟にその視線の先に目を向けたイカンゴフは、理解する。
悪魔特捜部隊が、銃口を揃って向けていた。二人を諸共に蜂の巣にするために。それまでの放射器ではなく、機関砲・・・これも恐らくパワーアシストシステムの改良によって搭載できた新装備なのだろう。そして、そこに込められた弾丸は、弾倉に記された放射能注意の印を見れば一発で解る。劣化ウラン弾。その重さ故に破壊力は高いが、放射能を帯びた弾丸は土地と生物に致命的な影響を与える。
「アラネスさ・・・っ!」
叫ぶイカンゴフ。その声だけで事態を認識し身を翻すアラネスだが、この体勢では間に合わない。改造人間用メスを投擲しても、倒せる数には限りがある。そして大口径機関砲の上劣化ウラン弾の集中砲火となれば、改造人間とはいえ助かる可能性は・・・

銃声。

いや、銃声とは違う。何か爆ぜるような音も混じっている。
それは劣化ウラン弾発射の音ではなかった。均衡の民家の屋根上からの、阻止射撃。ライフル三丁と、特大のクレイモア地雷を思わせる金属生体種子弾、加えてレーザー。
そして、その火力では悪魔特捜の装甲服を貫通することは出来なかった。
だが、その武器、放射性物質のつまった機関砲ではなく背中の火炎放射器のタンクを破壊するには十分だった。自らの武器の炎に飲まれ、たちまち壊滅状態となる悪魔特捜。細菌は焼き尽くされ、そして劣化ウラン弾は発射されることなく、防御された弾倉に収まったまま転がる。
「あ・・・!!」
蒼白だったイカンゴフの顔に、一瞬で喜びが輝く。
「吾妻君!エレンちゃん、キャルちゃん!」
吾妻玲二、エレン、キャル・ディヴェンスの三人だ。それぞれ手に持った250型小銃と、玲二、エレンはさらにコネクテッドとしての能力も用いている。(キャルのカクタスコネクテッドは、接近戦用)
「やっほ〜、イカン!」
「・・・私達は、あくまでバリスタス所属だから。」
叫ぶキャル、説明するエレン、玲二は手を振って、イカンゴフに答える。その間に、アラネスが再び身をかえして手札の尽きたシエルを捕まえた。
「こっ・・・の!離しなさい!」
もがくシエル。再生者の腕力は通常人より遥かに強大で、改造人間問いえど捕まえているのには苦労する。しかしかまわず、アラネスは問いかけた。
「何故だ・・・!」
低い、押し殺しながらも明らかに怒声と解る声でアラネスはシエルに問う。
「何故、あのような無茶な戦術を採った?再生者とはいえ、一定以上のレベルでの身体損壊は死につながろう。あの一斉射撃は、十二分に貴様を殺し得た。なのに何故だ?!」
「そうだ、あれは・・・明らかに、死にたがっているとしか思えない。僕も驚いた。」
玲二もアラネスの問いに乗る。敵に問われるとは思っていなかったらしく、シエルは一瞬酷くあどけない、きょとんとしたような表情を見せた。
そして、顔を背ける。
「貴方に言う義務はありません。」
「普通の再生者とは違うから・・・ですか?」
「!??」
シエルがそういった直後不意にイカンゴフが呟き、それに対するシエルの驚愕が、その正しさを示した。
「通常再生者とシエルさんとでは、帯びた霊子のパターンが違いますし、並びに再生に置いて依存する要素が血液や本人の魂の様相と、上位次元由来の神聖霊子を用いる再生者とは大幅に異なります。恐らく、吸血鬼化ににた複合呪詛の一種をかけられたことで、望まずにそのような体になったのでは?」
しばらく開設するイカンゴフを憎悪の目で見ていたシエルだったが、やがて諦めたようにため息を付いた。
「ええ、まあ。どうせ死ねないですし、死ねたら本望ですし、」
シエルが、いいかけたその時。
「ふざけるな!」
一喝。
まさにそう呼ぶにふさわしいほどの大声を、アラネスが発した。
「な・・・」
「神だ何だと偉そうに能書きたれておいて、結局はそんなところか、下らない!!生きる気も無い奴に、闘う権利などあるものか!!」
怒号するアラネス、それに続けるように、珍しくややきつめの口調でイカンゴフも言う。
「アラネスさんの言う通りです。貴方は闘わない方がいい。」
「何ですって・・・!」
眼鏡の奥の瞳に、いらだちの色を見せるシエル。それを感じてか、イカンゴフの次のセリフは柔らかな声音。
「貴方は、自分の体に対するコンプレックスを利用されているだけです。その体が不当な評価を受けない世界ならば、闘う理由がない。」
「そんな世界有るわけ・・・」
言いかけるシエルに、イカンゴフはきっぱりと言い切った。宣言するように。誓うように。
「私達、バリスタスはそのような差別は致しません。如何ですか?こちらにこられては。」
一瞬、シエルは迷うような表情を見せた。その表情に秘められた苦悩は思いのほか深く、重い。神に全てを委ね思考を停止したもののそれではない。言うならば、神にすがった程度で救われる悩みでもなかったということか。
「・・・チィッ!!」
しかし結局シエルは拒絶する・・・せざるを得ない。
「今回は未だ主力が編成中で、小規模部隊しか駐留していなかった、あなた方が勝てたのはそれだけの幸運に過ぎませんよ、そんな人に何言われても貸す耳持ちません!それでは!!」
言うなり、目の前の地面に黒鍵を数本まとめて叩き付ける。
ドォォン!
「む・・・!」
咄嗟に顔を覆うアラネス。直後慌てて糸を延ばし目を向けるが、概念武装である黒鍵の立てた煙は、アラネスが視力強化用に装備した暗視ゴーグルをもってしても見通すことが出来なかった。
恐らく、この隙にシエルは逃走してしまったのだろう。
大嫌いな不死の力で、あっというまに切れた脚をつなげて。一人で。
「ふん・・・哀れ、か。敵としてその前に立って置いて、俺も傲慢な奴だ。ん・・・?」
呟くアラネス。と、その腕をイカンゴフが取った。随分上背のあるアラネスを、下から見上げ、ゆっくり首を振る。
視線が、白い肌と好対照をなす金色の瞳が語っている。そんなに己を責めないでくれと。これが精一杯といえど、信仰に答えることのない神と違い、行いをなしているではないかと。
「・・・お前がそう思ってくれるならば、ありがたい。」
ぶっきらぼうに、アラネスはそう呟いた。
「行くぞ。他にも潜入している連中がおるやも知れぬ。この国の「征服」を、邪魔されるわけにはいかぬ」
アラネスに低い声に返事をするように、遠くで鬨の声が上がる。政府の最後の部隊と、反乱軍が激突したのだ。しかし、彼等の声に怯む様子はない。溢れている。力に、そして何より意志に。
その声に負けないように、イカンゴフはか細い声を思い切り張り上げた。
「はい、「征服」を・・・ね!」
先に行くアラネス、その後を追うイカンゴフ。
南米にて世界征服の基盤を築く為、あくまで住民の対政府蜂起を手伝って、感謝をもって迎えてもらうというえらく消極的な形で国家転覆に走る改造人間が、二人。
「あ、待って待って!」
「行くわよ、玲二。」
「ああ。」
そしてそれに救われ、ともに闘うと誓う少年少女が、三人。


一方、アフリカでも。

ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・ざらざらざら・・・・・
「うっ、うわああああああっ!?」
驚愕した兵士が叫ぶ。戦闘中、唐突に手に持った銃が崩れ始めたのだ。金属で出来ているはずのそれがまるで砂のようにざらざらと、一気に腐食して崩壊していく。
焦る兵士。いや、それは既に混乱だ。見れば味方は皆同じような有様で、なんと虎の子の戦車まで崩れ始めている。こんな状態で、敵に攻撃を受けたら・・・
「ああ、安心したまえ、攻撃を受けることはない。だから相手を殺さなくても、殺されることはない。
「何!?」
唐突に、すぐ隣で聞いたことのない声がした。慌てて振り向くと、そこには唐突な声よりも更に驚きを生むものが立っていた。
「やは。」
片手をしゅたっとあげて変な挨拶をする・・・ミイラ。少なくとも、ミイラのように見える何か。目を除いて全身を包帯でぐるぐる巻きにしており、その上に古代エジプトのファラオを思わせる装飾品を纏っている・・・あまり教養のある方でもなく、否そんな教養など培いようもないほど荒れた世界に住まざるを得なかった兵士達には、そこまで解らなかったが。
「だからまあ、安心して戦いを辞めてくれたまえ。民族紛争だの宗教だのなんやらかんやらごっちゃごちゃになっとるようだが、結局兵器でもうける人達に踊らされるっぽいよ?」
・・・えらい軽い口調。もう頭の中ぐっちゃぐちゃになりながら、哀れな一兵士はこの怪人に問わざるを得ない。
「な・・・何で、大丈夫なんだって?」
「簡単。向こうの武器も腐らせてきた。もうこの辺で・・・いや、このペースで行けば、あと三日くらいでこの国の内乱は武器がなくなったせいで自然消滅するね。輸入しようもんなら、国にはいるまでに全部潰す。買った人にも、まあ殺しはしない程度に野心を捨ててもらえる肉体的説得をばするし。」
きっぱりはっきり、ミイラ男は言い切る。
「な〜〜〜!?」
目を丸くする兵士。
「そんじゃ、忙しいんで。」
それをほおって置いて、軽い性格のミイラ男は飄々と歩み去っていった。訳の分からない現象に翻弄された兵士は、せめてとばかり叫ぶように問う。
「あ・・・あんた・・・一体なにもんだ!?」
対してミイラの人は、振り返ることもなく適当に手をひらひらさせて答える。
「あ、わしら?わしらはバリスタス、世界征服を企むバリスタスって秘密結社、わしはそこの改造人間で名前はオシリス。憶えといて。そいで、まあ・・・もしもそのうちこのあたりがまともな国になったら、そんときゃバリスタスに些細でいいから協力してね。それじゃ。」
言うと、まるで闇にとけるように、あっと言う間に消えてしまう。

・・・このような事件が、アフリカ大陸で何度も何度も、あちこちで起きるようになっていった。そして、その後にはしばしば

「何いい加減な仕事してんだいこの宿六!」
とかいう声が、聞こえたような聞こえなかったとか。

まあ、エジプティアンズたちという頼りにならない連中によってながらも、それなりに活動は行われていた。

戻る