秘密結社バリスタス第二部大陸編第七話 そして、前を向く勇気

「おおおおおおっ!!」
「たぁぁぁぁぁっ!!」
天高く跳躍した戴宗と中条長官が、左右から宙に待ち受けるギガンティックダークネスへ向かう。
戴宗の特殊能力である手足からエネルギーを吹き出し跳躍・キック・パンチ力を飛躍的に増強する噴射拳、そして中条長官の「ビッグバンパンチ」を生み出しうる超人的身体能力を込めた拳。
「フッ!!」
両側から襲う、二人の超人の拳を、ギガンティックダークネスはそれぞれ手一本で受け止めた。
同時に捕らえた相手を粉砕するべく、その全身に存在する兵器が起動する。が・
「まだ終わりでは無いぞォッ!!」
しかしそこに、蠍師匠の追撃。ハイパードールのプラズマ弾をも受け止めた気功布の一撃で、直接額の制御メダルを狙う。
鋭く、刃のように延びる布だが、間一髪ギガンティックの頭部を王冠のように飾る沢山の触角の一本を切り落としたに止まる。
「ちっ、邪魔だ爺!」
「ぬおっ!」
反撃とばかりに頭部レーザー砲と口腔の超音波砲・ソニックカノンを同時発射。ぎりぎりでそれをかわした師匠だが、一発でも当たればいずれも致命となりうる破壊力である。

激しい戦いの舞台が、未だ至近距離にある上海。しかし頭上を舞うその中の最大の一体が、その中に秘めた災厄は一撃でこの大都市を壊滅させるかも知れないというのに、しかしこの上海市には未だ市民が避難することなく存在していた。
本来は国際警察機構が中国政府に働きかけ、ダークネスを押しとどめているうちに避難させるつもりだったのである。だがしかし何故か中国政府はそれを拒否、そして仕方なく避難勧告を強行しようとした国際警察機構の一般エキスパート達に、突如国籍・正体不明の混成部隊が襲いかかったのである。
それこそ普通の軍備の傭兵のようなものから国際警察機構・BF団構成員のような異能力者、そして最新鋭の攻撃ヘリや戦車、アームスレイヴ(身長7〜10mほどの人型戦車)の混成部隊。
「これはまさか・・・この手口、恐らく中国政府内の内通者によって我々の要求を拒否させ、そして直接行動を妨害させるために現れたこの部隊・・・そうか・・・!」
一般エキスパート達の指揮に当たっていた呉学人は、その正体を掴む。
「タロン・・・!成る程、鷲羽博士の暗示していた「ゼウスの雷」の援助者・・・」
そして、理解と同時に心を占有するは、焦燥。
「くっ、なんということだ!これでは・・・」
街の人間を避難させることが出来ない以上、国際警察機構は一層苦しい立場となる。
そして、さらに国際警察機構の誤算となったのは、「ゼウスの雷」そしてギガンティックダークネスの底知れない力であった。

「おおおおっ!!」
エネルギーを纏った拳を、連続して見舞う戴宗。足にも同様の措置を施す事により、彼は中条長官や蠍師匠よりも更に高い機動力を持ち、空を飛ぶことが出来る。
そのフットワークを生かし攻める。ギガンティックダークネスは確かに巨大であり武装の破壊力も桁違いである。
「だがよ・・・その図体なら小回りは利かねえだろ!!」
ギュン!
真正面から拳を見舞う、と見えた一瞬後。全身をその超能力で強化している戴宗らエキスパートやミリィ達ガーライルフォースマスターで無ければ遠心力でミンチになってしまうだろう勢いで、ギガンティックダークネスの背後を取る戴宗。
そこから最大出力の噴射拳で、頭ごと制御メダルを砕くつもりなのだ。
「ふ。」
漆黒の甲殻で覆われたダークネス・・・巻島の顔に、それでも僅かな声音で分かる嘲笑。
一瞬でその意に気付いた師匠が、戴宗に静止の声を発するより僅かに速く。

ズブッ、ザギギッ

肉を、そして骨をも切り裂き貫く音。
ギガンティックダークネスの両腕、丁度バリスタス改造人間・蝗軍兵並びに機蝗兵において格闘戦用鋸刃が生えているに近い位置から延びる、扁平な刃の鰭と、毛髪がより合わさった「しなやかなドリル」とでも言うようなものが、戴宗の全身をずたずたに貫く。
「ぐぉ・・・」
そのまま、地面に叩き付けられる戴宗。身体能力の高い彼のことそう簡単に死にはしないだろうが、少なくとも一撃で戦闘不能になってしまったのは事実である。
「戴宗君!?」
あの冷静な中条長官すら取り乱す、それは意外な奇襲。
「十二神将の一人ワフェルダノスの特殊能力「魔槍乱舞」とこの巨人殖装固有の能力「高周波ソード」の融合。変幻自在、お前達ごときを捉えるのに、俺はわざわざ動き回る必要もないと言うことだ。」
明らかに越えに笑いを含ませ、顎人は告げる。しかし、その余裕を見せるだけの技ではあった。
破壊力を支えるための巨大な体を持つダークネスなら、機敏さに欠けると見て白兵戦に踏み切った国際警察機構・そしてバリスタスのもくろみは、もはや破綻したと言える。
「さらに、こんな真似も出来るぞ。李炎堆の「絶空斬」、空間に断裂を自在に作り出す力をさらにこの「魔槍乱舞」「高周波ソード」に加えるならば・・・」
妖しく、これから己の使う技の威力に酔うがごとく、装甲の隙間からでも分かるぎらつきを示すダークネスの瞳。
「絶空高周波魔槍乱舞・・・とでも、名付けよう!!」
そして、その叫びと同時に。
ギガンティックダークネスが空中に作り出した数十の空間断裂がダークネスの手元とその座標をつなぎ、四方八方の空間から魔槍と高周波ソードが飛び出す!
「ぬおおおっ!?」
「こ、これはっ!」
無差別に、周囲全ての空間が敵となり刃を放つというとてつもない技に、中条長官と蠍師匠という二人の手練れすらも防戦一方となる。
「ふふふ・・・どうした貴様等?おおかたアルフェリッツ=ミリィの手を借りずに、短期の白兵戦で俺を仕留めようという考えだったのだろうが・・・浅はかだったな。」
「ふん!だが、上海市破壊は、失敗したようだな!こんな乱戦の最中ではご自慢のスパイラルギガスマッシャーは撃てまいよ!」
言い返す蠍師匠だが、しかし苦戦の状況は動かない。何しろ高速機動しながらの白兵戦では、蠍師匠の大技である十二王方牌大車輪も、最終奥義である石破天驚拳も、共に一瞬ためを要するが故に使用できない。
「ダァァァァックネス・シザーーーーーーーースッ!!」
何とか魔槍を潜り抜け、蠍をモチーフとした改造人間となったが故に強化された、最終奥義の次に破壊力を持つ技を繰り出す師匠。
本来握撃であるそれを鋏と化した右腕で行えば、その破壊力は本来の数倍に達する。
「ふ、流派東方不敗・・・その程度か!!」
「何ぃ!?」
しかし、それをダークネスは受け止めた。重力子すら自在に操るその能力で、元から大力の拳を重力で加重加速、その破壊力を急上昇させる事によって。
ギリギリと競り合う中、顎人はふと上海市に目をやる。
「生憎、こうなることは既に想定の内だ・・・だから上海を囲ませた!今頃俺の部下があの街の中心部に爆弾を仕掛けている・・・くくく!無論街一つ消し飛ばすなど、容易なこと!」
「何だとぉ!!」
かつて「衝撃を与える者」や「黒十字軍」などの様々な悪の秘密結社が暗躍した時代「黄金の混沌」。その中で以上発達した科学は、数多くの破壊兵器をも生み出した。
「破壊者」の開発したプルトン爆弾、サタンニウム爆弾。「新たなる衝撃を与える者」の開発したプラスα爆弾、バリチウム弾などその数枚挙にいとま無く、殆どの制作方法並びに原材料は既に失われたが、旧HUMA極東本部が大量に所蔵していたとおり使用されず残された物のいくつかは今も残っている。
その中の一つが巻島かタロンどちらかの手にある可能性は考えられない物ではなく、そしてこの男ならばそれを躊躇無く使用するであろう事は火を見るまでもなく明らか。


「ハハハ・・・ハハハハ・・・・」
地下下水道の中、毒蛇の威嚇のような、酷くざらついた声で笑う男。その背後に設置されているのは、プルトン爆弾・・・本来空中爆破が最も適した使用法といえど、ほぼ上海の中心部に位置するこの場所からならば、例え遮蔽された状況からであっても、十二分に上海市を吹き飛ばすに足る。
「暴れられると聞いてきてみたが・・・まさか七星闘神ガイファードのお出ましとはなあ・・・・こいつは楽しめそうだ・・・」
茶色に染めてばさばさに散らした髪の下、ぎらぎら光る目。口元に浮かぶ、まるで亀裂のように深く、そしていびつな笑い。
だが、それは。
「涼村・・・暁・・・!」
ガイファード=風間剛は、かつて轡を並べた友のあまりの変わり様に、ただ呆然と呟くしかない。しかし、確かにその顔を見間違うはずもない。
だが、その男はざらざらとした声で、全てを嘲笑うように呟くだけだ。
「どうでもいいだろう、そんなことは。とにかく戦おうぜ。このイライラを消すにはそれしかない、この渇きを消すにはそれしかない・・・そうだろう、なぁ!!」
亀裂の笑みが、つり上がり。
顔を覆うように、その掌が閃く。仕草だけ昔のままで、しかしそれ以外は何もかも代わって。
「混沌・・・カオスヘッダー!」
かつて現れた、光をその身に燦然と纏わせる装具はそこにはなく、代わって現れたのはまるで顔に食い込み融合しようとするような、いびつな闇の葬具。
そして、変身する。かつての全身に光り輝く水晶の鎧を纏った姿とは正反対の、黒い合成樹脂が熱に曝され解け崩れたような、毒々しい触手か皮膜かといった姿に固まった、異形の戦士。
「お前はおれを誰かだと思っているらしいが、俺はそんなことどうでもいい。俺は、超闇戦士カオスゼリオン・・・ってところかなァァ!!さあ、殺りあおうぜ!!」
飢えて飢えて漸く獲物を見つけた獣のように、飛びかかるシャンゼリオン・・・否、カオスゼリオン。
一瞬、立ちつくす風間剛。
そこに間一髪将人がデスファードに変身して割り込み、カオスゼリオンの攻撃を受け止める。
「ハァァァァハッ!」
息を荒々しく吐いて笑うような毒蛇が鎌首もたげ威嚇するような音を発し、一撃めを受け止められたカオスゼリオン・・・浅倉はすぐさま次の手にでる、密着状態のまま腕をひねり、自分の胸の、CDを思わせる円盤に手をあてがう。
直後そこから虚空に突如剣が出てきて、それを待ちかまえた手が掴む。光エネルギーを物質へと変換再構成する、旧HUMAの天才・宗像教授の作り上げたシステムが、新生HUMAの戦士となったデスファードに牙を剥く。
「ぬおおおっ!むっ!」
確かに拳法の達人であるデスファード=風間将人であるが、人造ウルトラマンの高い身体能力でもって振るわれる刃をかわすのは、容易なことではない。たちまち腕に体に斬りつけられ、生機融合装甲に亀裂が走る。
「は、早く変身しろ、剛!一人では・・・持たん!」
「くっ・・・」



「くくく・・・は〜っはっはっはぁ!!」
「ぬ・・・!」
予想外の伏兵にまたも翻弄される敵を、嘲笑うギガンティックダークネス。これでほぼ全戦線で敵と相対する状況となった国際警察機構、そしてバリスタス。
しかも、そのいずれをも突破されても、即それは敗北へとつながるのだ。
そしてさらに、ダークネスシザースでもって重力拳と張り合う蠍師匠にも、危機が迫る。
ザシュ!
「ぬぉあ!」
間一髪、戴宗がやられた時のタイミングを憶えていたため全身をずたずたにされることだけはさけられる。しかし、蠍師匠の背後の空間断裂から飛び出した高周波ソードが、蠍師匠の外骨格を切り裂いて脇腹を抉る。
「ぐぬぅぅう!」
そして、身をひねり攻撃をかわすという隙を、ダークネスが見逃すはずもない。
「もらったっ!!」
蠍師匠の鋏と交差していた右腕と違い、フリーだった左腕が素早く動く。それは自分の胸部装甲の左胸の部分を鷲掴みにすると、引き毟るようにそれを「開いた」その奥にあるのは、目下地上最強クラスの粒子兵器発射口。
あっと言う間にそこに満ちるエネルギー。敢えて片方だけの発射にしてもう片方に回すエネルギーを持ってクイックチャージを行っているのだ。
「クイックチャージ・ギガスマッシャ!!」
遂に放たれる、終末の爆光。
しかし流石に蠍師匠。この絶望的短期間において気を練り上げ、自らの究極奥義でもって応戦する。
「ぬおおおおお!!石破天驚拳〜〜〜〜〜ッ!!」
物理法則をある程度超越しうる霊子の奔流。それは本来ならば互いに発射されても素通りするだろう荷電粒子の奔流と真正面から激突、その破壊エネルギーを押し返し消滅させようとする。
閃光が満ち、大気が震える。

ズッ・・・バッァァァァァァァン!!!

咄嗟の発射だったから本来の威力を完全に引き出したわけではなかったが、ぎりぎりで打ち消しに成功する。
しかし直後、ギガンティックダークネスの腰部と両拳に装備されている重力弾が一斉に発射された。
「ぐ、おおおおおっ!」
流石に、これをもかわしきることはいかに練達の蠍師匠とて出来なかった。それでも咄嗟に急所は外したが、全身を打ち据えられて倒れる。
「くっ・・・!」
そして、中条長官はせめてその一瞬という最後の勝機を活用すべく、ダークネスの後背を突いてとびかからんとするが。

ピシャアアアアン!!
「のぁぁ・・・」
元は十二神将プルクシュタールの能力であった落雷攻撃が、その体を刺し貫き、動けなくした。


「ガンレイザァァッ!!」
同時、上海地下での戦い。
剣に続いて胸部円盤から取り出した銃を乱射するカオスゼリオン。その射撃姿勢は片手でいい加減にもった銃を振り回しながら乱暴に引き金を引く、お世辞にもまともな撃ち方とは言えない代物だったが、にも関わらず狙いは異常に正確である。
それでも最初の二発をかわすデスファードだが、一発、二発と連続してやや右寄りに撃ちこまれてきた弾を左に避けると、三発目はそれまでと突然に変化しまさに回避行動をとったその先に着弾し、挟み撃ちにデスファードの俊敏な動きを封じる。
そして三発目が着弾し爆ぜると同時に、残った弾丸を全部一度に、左右を封じた相手に叩き込む・・・獣が本能で狩りをするがごとくに、カオスゼリオンはそれをやってのけた。
「ぬううん!王気烈火撃!」
しかしデスファード=風間将人も手練れの戦士。寄生生命体ファラーにより得た高レベルの霊子操作能力、それにより炎の気を集めた拳で、敵弾を叩き落とす。
「貴様・・・剛の元同僚とはいえ戦に狂う修羅の心に呑まれたのならば、かつての俺のような過ちを犯す前に・・・止める!王気砕撃蹴!!」
まだうち払った弾丸の熱が空気から消えぬ内に、デスファードは跳躍、カオスゼリオンとの距離を一気につめた。跳び蹴り・・・と見せかけて置いて、ひとたび着地してからの深い機動からの横回し蹴り。
「ガァ!」
これがもろに脇腹に入る。攻撃を入れた体勢のままかつて修羅であった男と修羅となった男が一瞬顔を合わせる。
苦悶にか、開かれた口。しかしその認識が誤りであったことを、デスファードは即座に認識する。
「ガァ!ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!」
荒々しく、息が詰まるような、それは笑い。自分の感じる痛みさえも、戦いの愉悦に含める・・・狂気の、笑い。
そしてカオスゼリオンの胸部円盤が、それまでにない強烈なエネルギーを発しはじめる。それはかつて彼が超光戦士シャンゼリオンであったころ幾多のダークザイドを葬った光の砲弾「シャイニングアタック」の発射プロセス・・・今では霊子と密接な関係を持つ光子の性質故その属性は光輝から混沌へと反転しているが、威力は恐らく同等以上。
「な、まさか・・・」
それがこの至近距離で発射されれば。デスファードが慄然としたのは危機故か、それとも自分自身の身が傷つくことをまるで躊躇しない、度し難いほどのカオスゼリオンの歪みか。
「それが楽しいんだよ!ハ・ハァァァァ!」
炸裂。
あと一歩で仕掛けられたプルトン爆弾に誘爆しかねない威力が、デスファードを吹き飛ばす。それよりも若干装甲に秀でるカオスゼリオンはその場に立ち尽くし耐えた。皹言った装甲から滴る血、それすらもまるで無視して。
「ハァァァ、アアアッハッハッハァァァァァ!!」
笑う。


「ふむ。浅倉の奴も優勢か。俺が街を壊すかあいつがやるか・・・遅い早いの問題だな。」
浅倉威=カオスゼリオンの体に付けた端末から向こうの戦況を関知し、分析する。完全に戦鬼と化したカオスゼリオンは、改造人間級生機融合体を相手にしても圧倒的な強さを発揮する。その上ガイファードのほうは、かつての同僚に攻撃を躊躇しているらしい。
既に勝ったも同然と、得意満面の顎人であったが。
「なんの、まだまだ・・・我が方の戦力がこれだけではないということを忘れたか!」
「ぬ・・・」
蠍師匠の未だ屈せぬ言葉に、驚愕し咄嗟に脳内で確認を行う。
確かに、ミリィがいないといっても戦力はこれだけではない。バリスタスの幹部怪人まんぼうと仮面怪人達にアルフェリッツ傭兵事務所の二人、そしてプロトガーライルフォースマスター・ロウランも未だ現れていない。
だが、巻島の動転は一瞬で終わる。安堵と、そこから来る余裕の嘲りが声に乗った。
「ふん、連中など・・・心も体も弱い屑共に、何が出来る。」
笑うギガンティックダークネス。その複雑な曲面を描く生体装甲で覆われた顔を、蠍師匠は心底醜いものを見るような目で見た。
「やはり貴様は世界の支配者の器ではないな、巻島顎人。他人を屑としか見られぬのは、己が無能で見る目が無いからだと、なぜ分からぬ。」
そして、呟き。



僅かに時間を遡る。リュート達の居場所でも、戦いはまたおこっていた。
見張りに立っていたまめ震星の一人、リーダー格の「サザンカ」という名前のが慌てて飛び込んできた刹那、丁度洞窟の入り口を半円形に包囲して現れる・・・
「ゼウスの雷・・・っ!!」
「その通りです。」
出来うるだけ感情を表さないようにした声で、静・・・グリセルダは宣告する。
「ゼウスの雷の主・巻島顎人様の命令に従い、貴方達を連行します。抵抗しないのならば、大人しくついてきなさい。抵抗するなら・・・顎人様は死体でも構わない、とおっしゃっています。我々の指揮下に加わるか、ずたずたにされてクローニング用のDNAサンプルになるか、選んで下さい。」
感情の感じられない声で変に丁寧な口調となれば、酷薄な悪党の印象が普通は生まれる。しかし静の声はそれに必要な自信がが感じられず、余り迫力がない。
しかし、周囲を取り囲んでいる兵力は、蚩尤塚の国際警察機構部隊を壊滅させたガイバーTを中心とした殖装体部隊である。その戦闘能力は、高い。
「震星さん・・・」
ちらと、リュートは傍らの、震星を見つめる。
決意を伺わせる表情で、頷く震星。無言のまま、それでも互いに相手の考えは把握できる。
「跳んで!」
叫ぶと、リュートが何かを放る。咄嗟にそれに目がいくグリセルダと殖装体たち、その目を強烈な光が焼く。
閃光手榴弾。地球のそれよりも小型かつ高効率なそれが敵の目を欺いている間に、既にリュートの声を理解して後方に跳んだ震星を追うように、リュートもまた身を翻す。
「くっ!」
洞窟の中に伏せると、重ブラスターを抜き放つリュート。その一連の行動に遅滞は微塵もなく、見た目とは違う熟練した戦士である事実を伺わせる。
幸い一晩のタイムラグにより、能力は相当回復している。
「獣鬼召還!!ロンシルド!」
現れたのは、バリア展開をその主たる能力とする小型の獣鬼兵。それによって普通の洞窟が、あっと言う間に堅固な防御陣地と化す。甲虫とミサイルを掛け合わせたような小型の生物が十数体地面に杭のように突き刺さり、その間を結んで障壁が完成する。
「ロロン!ピットヴァイパー!同時召還・・・行けぇっ!」
本来回復用だが自爆させれば生体ミサイルにもなるロロンと、初めからミサイルとして使うために作られた獣鬼兵ピットヴァイパー。
数をそろえるためそれを一緒にロンシルドが展開したバリアの外側に召還し、一斉に突撃させる。これなら敵の攻撃を防ぎつつ、相手にダメージを与えられる・・・はずだったが。
「指令式干渉!上昇自爆せよ、ロロン、ピットヴァイパー!」
「えー!?」
しかしグリセルダが叫んだ途端、突如ミサイル獣鬼兵達はリュートの制御を離れた。グリセルダの言葉通りに上昇の後、敵に全くダメージを与えることなく自爆してしまう。
そもそもガイバーなど殖装体も、生体兵器という観点からすれば獣鬼兵に近い。事実第三世代獣鬼兵などは、殖装体技術の発展系として開発されたという説もあるほどだ。
しかしそれでも、召還士である自分から獣鬼兵の制御を奪い取られるなど、予想だに出来なかったリュートは驚愕するしかない。
「く・・・っ!」
咄嗟にそれ以上の獣鬼兵の召還を停止し、現段階に置いて戦いの要であるロンシルドの制御維持に能力を集中させる。この獣鬼兵の制御まで奪われバリアラインを突破されては、白兵戦用武装の充実した仮面神官達に押し切られてしまう。
「行きなさい!!」
グリセルダの指令が飛び、それまで身じろぎもせず待機していた仮面神官と殖装体が一斉に突撃してくる。
「リュート!銃眼!」
「え・・・うん!」
震星が叫ぶ。それは今までリュートが受けたやや弱々しげな印象とは違い、戦いに望む気迫が満ちている。それに一瞬リュートは戦場であることを忘れはしないが、確かに喜びを感じる。
そして、その短い言葉の意味も理解。バリアを展開したままでは、内側からのプラズマによる阻止射撃が出来ない、ということだ。素早くリュートはロンシルドを操作、複数のそれを結ぶように構成されたバリアの一部を消去、まさにそこから銃を出して撃つため城壁に開けられた「銃眼」を作ってみせる。
「よしっ!」
すぐさま、精密な照準でその穴を潜り抜け、やはり能力が回復しつつあるらしい震星のプラズマ弾が放たれる。リュート達のレモンイエローに輝くそれとは異なり、むしろ眩い白に近い、より高熱のプラズマ。
「ミャアアッ!」
「ウミャー!」
そして、意外にもあまり迫力は無いながらそれでも必死の声で、まめ震星達が小型のプラズマ弾を発射する。小さくても古代神族のクローン、戦闘能力は意外なほど高い。
リュートも同時に抜きはなっていたブラスターを発射、敵の頭目であるグリセルダを狙う。
「無駄です!」
しかしそれをも、グリセルダは防いだ。再びゾアクリスタルが輝いたかと思うと、ミリィやギガンティックにも匹敵しようかという強力な電磁バリアが展開され、プラズマ弾を防ぐ。
グリセルダは指揮用として作られた故に、攻撃力は大したことがないが防御力は高く作られていたのだ。
歯がみする震星。
「むぅ、やはりまだ完調と言うわけにはいかぬか・・・!」
「・・射撃止めて!防御しないと!」
反撃とばかりにガイバーTが胸部粒子砲メガスマッシャーを展開したのを見て、リュートは即座に叫ぶ。効果のない攻撃に固執していては、あれを防ぐことなど出来ない。そしてまめ震星達も幼いなりにしっかりと戦いかたを覚えているらしく、すぐさま射撃をやめる。
直後ギガンティックダークネスのスパイラルギガスマッシャーに比べれば小さいと言えるが、それでも高レベルの火力が再度隙間無く展開されたロンシルドの障壁に襲いかかり、表面で激しく拡散・カスケードする。
凄まじい閃光。しかし防御専門に作られたロンシルドの障壁は、何とかそれを防ぎきる。
直後。
斬!
「あ・・・!」
閃光がリュート達の目をふさいでいた、その一瞬の隙。
それをついて、赤銅色の西洋鎧を思わせる姿をした仮面神官が急接近し、光子剣を振るった。レーザーブレードやプラズマソードのように熱で切り裂くのではなく光を物質レベルに近く圧縮したそれは、切れ味でもって的確にバリアを構成するロンシルドを突き刺し切断する。
「今です・・・行きなさい!!」
「イエス・マム!!」
城壁は崩れた。洗脳処置が施されているとはいえ元々軍事訓練を受けていた仮面神官や殖装体の中身達は、殆どグリセルダの指令を待つまでもなく突入する。
この戦いを攻城戦と捉えるならば、圧倒的に「ゼウスの雷」が有利、いやもはやゼウス側の勝利は疑いようもない。ひとたび城壁が破られれば、兵力差の時点で立てこもらざるを得なかった側は既に圧倒的不利。
しかしそれでも尚、リュートと震星は奮戦する。
赤銅色の奴の上を飛び越えるようにして一番乗りしてきた、青紫の忍者を思わせる姿の長い杖を携えた仮面神官、その顔面に重ブラスターをフルオートで殆ど全弾叩き込む。
殖装体の制御メダルや獣神将のゾアクリスタルと同じように頭部仮面の結晶体で全身を制御している仮面神官には、致命の一撃。頭部をぐずぐずに粉砕され、叫びをあげるいとまもなく仰向けにひっくり返る。
エネルギーがあっと言う間にエンプティとなった銃を惜しげもなく捨てるリュート。全弾をぶち込まねばこの種類の武器で仮面神官を止めることは出来ず、そしてもはや悠長にバッテリーを交換している暇はない。
「ギドラスレイヤー!」
ロンシルドの召還をうち切り、変わって接近戦用のプラズマ刀型獣鬼兵を召還する・・・が、直後そのギドラスレイヤーが粉みじんにちぎれ飛んだ。
白い合成樹脂を思わせる滑らかな外皮で体を覆う仮面神官。そいつが投げた手斧が、まるで電動丸鋸のように回転して飛来した。咄嗟に手を離さねば、その華奢な指も掌ごと粉砕されていただろう。
ブーメランのようにそれは白い仮面神官の手元に戻る。流体金属で構成され、自在に空気抵抗・航空力学的特性を変化させられるのだろう。そして即座にその手斧を構え、リュートの頭をかち割ろうと飛びかかってくる。
「みんな!」
「みゃ!」
リュートの危機。それを察知した震星が動く。
バリバリバリッ!
空気を振るわせる音と共に、まめ震星達が集中、それぞれが他次元から熱エネルギーを引き出し、その制御を自分たちから震星に預ける・・・つまり、まめ震星達をパワーブースターにして、震星の衰えた分の力をカバーしたのだ。
そうして震星が呼び出したのは、長いプラズマの刃だ。剣よりも長いが槍よりは短く、室町〜戦国時代に使われた長巻に近いサイズ。
「りゃああっ!」
気合一閃、灼熱した空気を僅かに残して、斧を持った手どころか体の三分の一ほどを一度に切り落とす。それでも不死に近い生命力・再生力を着用者に与えるガーライルの遺産は持ち主の肉体を再生しようと試みるが、即座にプラズマの刃がバランスを崩した頭部中枢を貫き、トドメを刺す。
しかし、そこまでだった。
「震星さんっ・・・あ!」
「リュートォッ!」
鮮血が飛び散る。先程ロンシルドを破壊した赤銅の仮面神官が震星目掛けて振り下ろした光子剣を、震星を突き飛ばしたリュートが背中に受けたのだ。いかなガーライルフォースマスターといっても戦士系ではないリュートが、僅かとはいえ光物質を纏った剣を受けてはひとたまりもない。
さらにそんなリュートの献身も虚しく、直後もう一体、豹のような頭部の金色の仮面神官が、震星にその鋭い爪で掴みかかり、押さえつける。同じような金色の姿の二人故に、酷く皮肉に見える。
まめ震星たちが即座に主人を奪回しようとするが、それをガイバーT、それともう一体の派手な蝶を思わせる姿の仮面神官が遮った。メガスマッシャーやプレッシャーカノン、超振動発生装置を突きつけられては、いくら見かけ以上に高い戦闘能力といえど身動きが取れない。
「く・・・ここまで、かな・・・震星さん、ごめん・・・」
「リュート・・・」
傷の痛みでなく、哀しみで涙目になるリュート。
いつの間にかそれほど、震星を助けることは彼女の中で重要な位置を占めるようになっていた。その思いは、心配から始まって、それでもきちんと成長する。
「チェックメイトです。」
震星、そして背中をばっさり切られた上装甲で頑丈に覆われた足で地面に踏みつけられるリュートに、グリセルダは宣言した。その声からは、先程までの弱々しさが消え、変わりに酷く・・・冷たい感じがする。戦闘で昂揚したと言うよりは、何かを台無しにされた憤りに近い。
「よくも、顎人様からいただいた貴重な兵力を・・・!」
怒りに震える。それほど静にとって顎人の存在は絶対のもの。
「このっ・・・このっ・・・!」
しかし、そこでつまってしまう。元々穏やかな人格であまり怒った経験がないため、怒ってもどうしたらいいのか分からないのだ。
そして、ようやく命令を下そうとする。最初からの予定通り、トドメを刺せと。
しかし、遅い。遅すぎた。

「ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおオオ!!」
ド ン!!
衝撃波を纏い、殆ど減速なしで、突っ込んできた。
「アルフェリッツ=ミリィ!?」
突然の事態の変化に、驚愕の声を上げる静。
「お姉ちゃん!?」
そう、アルフェリッツ=ミリィが。
地面を軋ませる、それほどの勢いで着地したミリィは、即座にリュート達を捕らえた仮面神官二人に襲いかかる。
顔面狙いの抜き手、と見せかける。振り上げた手に咄嗟に剣をかえそうとする相手の空いた腹部に思い切りの蹴り。息つく暇もなく背後をわざと見せたもう片方の豹型の奴、その顔を見ることもなく振り上げた手をそのまま流して裏拳。
致命傷を与えるのではなく二人から引き剥がすことが目的だったとはいえ、あっというまに二体を蹴散らす。
「リュート、ッ!お前・・・」
身をかがめ妹を助け起こすミリィだが、そこで凍り付く。彼女が助けに来たたった一人の肉親は、酷い手傷を負っていた。
「へへ、少し無理しちゃって・・・」
少しの無理どころではなく、背中一面血塗れのリュート。しかしその表情は、失血によりやや青ざめているものの酷く晴れやかだ。
「無理って、お前なぁ!」
「だって、守りたかったから・・・震星さんを。」
とがめるミリィに対して、リュートの表情はあまりに眩い。
「あの人は、とても寂しいのに、でも優しくて、純粋で・・・。憧れた。私達も、ああなれたらと想う。」
その顔に、ミリィはこの時初めて気付いたように一瞬見とれ、そして立ち上がった。
「そうか・・・なら・・・」
既に立ち直り、戦闘態勢に入った敵の気配を背中に感じながら、ミリィはにやりと笑う。それは戦闘の熱に浮かされたようなそれでは断じて無く、言葉で例えるのは難しいが強いて言うなら自分の決意に対する照れ隠しのような。
生き生きとした、笑いだ。
「あたしにも・・・出来るかな!?」
「う・・・うん!きっと!」
リュートの、再起したとはっきり分かる姉への精一杯のエールを受けて、ミリィは敵に向かう。
連続して放たれる敵の一斉射撃。ビーム、荷電粒子は電磁バリアで、超振動は媒体にしている空気をガーライルフォースで加熱し散乱させ、打撃や重力障壁はリュートよりもさらに堅固な、己の体で受け止める。
(強い者の体は、弱い者の盾になるためにある・・・か。成る程!)
地球で戦った最初の強敵であった悪の博士の、変に説教じみた言動を思い出すミリィ。だがそれは、ある意味でまさに今の答えになっていた。
攻撃の一切を受け止めながら、なおミリィは前進する。
痛みなど怖くない。あの哀しみ、己への憤り、それに比べれば何ほどのこともない。
(信じる・・・リュートと、あの震星は、信じあっている。だから今まで戦い抜けた。あたしにだって、信じてくれている奴が居る。)
ミリィは、走り出した。拳を固め、自分よりも遥かに勝る体格の敵を打ち抜く。
(なら、あたしも信じよう。あたしを信じてくれた人を、そしてその人達が信じてくれた、あたし自身を!ロム=ストール、私にも出来たよ。友が!)
最後にあのHUMAの牢獄で会った男のアドヴァイス、今なら胸を張って返答できる。戴宗たち国際警察機構、自分を受け入れてくれた宇宙傭兵機構のギラ軍曹や同僚達、自分とチームを組んでくれた滝、そしてロア。
(だから、あたしはあたし自身に負けない!)
心の中、宣言する。そして、もう一撃。蹴り飛ばされたガイバーTが他の仮面神官たちをなぎ倒し、一カ所に集合した状態となる。
まさに、ミリィの狙い通りに。
「もらったぁ!オルクスフューリー!」
手を高く掲げ、蒼く輝くプラズマの戦輪(チャクラム)を作り出す。ピン=ポイント、一撃で敵を、不必要な破壊を撒き散らさずに倒すために。
「させませんっ!!」
しかし、そこでグリセルダが動いた。獣神将タイプの調整体には標準装備されているゾアクリスタルからのレーザーで、ミリィを牽制する。
ダメージは大したことにはならない、しかし一瞬隙が出来れば、殖装体は立ち上がる。
「どうした、早く!攻撃しなさい!」
しかし、いずれの殖装体もぴくりとも動かない。まるで、スイッチの切れた人形だ。
一瞬パニックに陥り駆けるグリセルダ、だが突如その状況を説明する声が割り込んでくる、
「・・・無理よ。もうそいつらは動けない。」
鷲羽だ。背中に虫の羽のような形の小型飛行ユニットを背負っているから、それでミリィと一緒に飛んできたことが伺える。そして、手元には小型の光量子コンピュータ・・・何か、発信器のようなオプションを付けてある。
「殖装体着用者の洗脳された脳を操作する、貴方の精神波動のパターンを解析させてもらったわ。あとはそれをうち消す波をこちらから送ってやれば、もう貴方の指令は通用しない。」
まさに先程グリセルダがリュートの獣鬼兵攻撃を防いだ手段の、お株を奪う格好。しかし、そんなことが並の人間に出来るはずがない。いくら銀河連邦一の頭脳を自称していても、降臨者の遺産を自在に操るなど。
「ミリィちゃんの戦いぶりを見たら、思い出したわ。色んなこと・・・」
そう言う鷲羽の顔は、確かに明らかにそれ以前とは違っていた。軽薄を装ったにやついた瞳が、深く輝いている。この輝きはそう、ギラ軍曹や震星のそれに近い。
それが、不可能を可能とした理由を説明していた。彼女もまた、そこへと連なる者なのだろう。それが今再び、立ち上がった。
「今よ!」
叫ぶ鷲羽。頷くミリィ。
そう、一人では今もしくじっていただろう。だが今は、仲間がいる。
「りゃあああああ!」
一撃。自在に動き回るオルクスフューリーに揃って中枢部を真っ二つにされ、殖装体部隊は沈黙した。

「・・・なあ、出来れば降伏してもらえないかな。」
ミリィの言葉に、部下が全滅して暫く立ちつくしていた静は、ふっとため息をつき、その体の緊張を解いた。
「負けましたわ。」
そして、呟く。その表情はそれまでの緊迫が解け、恐らく彼女本来の穏やかで静かなそれになっているのであろうことが、変身した姿でも分かる。
「貴方達は、互いに信じあって行動できている。だから強い。私にあったのは顎人様への片思いと、ミリィさん、貴方への嫉妬だけ・・・他には何もなかった。何も。」
続く独白。それは、己の想いに、顎人が答えてくれなかったことを意味する。
それにしては悔しさの感じられないその言葉に、ミリィはふと嫌な予感を感じた。
「もう、終わりにします。有り難うございます。私を、私の妄執を、打ち負かしてくれて。」
「っ、バカ!!」
静の表情、そして言葉。ミリィは気付き、手を伸ばそうとする。
しかし。
直後、グリセルダ・・・静の全身が発光し。
そして、爆発。ゾアクリスタルのエネルギーを暴走させ自爆、己の命を静は絶った。
「こんな・・・」
「むぅ・・・」
勝利にしては苦い。震星とリュートは、言葉もなく。
しかしミリィは、延ばしたその手をしっかりと握りしめ。
そして、誓う。
「・・・あんたの哀しみ、届けるよ。あいつに。」



そして再び上海。
蠍師匠の呟きは、戦いの第二ラウンドの先触れとなった。
当初の国際警察機構の作戦を圧倒的戦闘力で打ち砕いたギガンティックダークネス。もはや彼の上海市破壊をくい止めうる者は誰もいない、そう思われたが。
「ほう、貴様・・・ロアとか言うガキか。ミリィに下らぬ正義感など吹き込んで善人ぶりおって・・・」
不愉快げに、ダークネスは呟いた。わざとらしくため息を付いた後、その3mに達する高身長でもってあからさまに見下しながら、己の目の前に立った少年・・・ロアを嘲弄する。
「それで?どうするつもりだ?まさか貴様ごとき、この俺にかなうはずはあるまい。今なら冗談ですましてやるぞ?」
銃を一部の隙もなく構えながらも、全く無防備な体勢のダークネスに確かにロアには毛筋一つほどの傷を負わせられる可能性もない。しかし、ロアはその手を下ろさない。その目を反らさない。そこに、立ち続ける。
その様子に、巻島は苛立つ。絶対的な力の差があると言うのに、ロアは微塵も恐れる様子を見せない。それが酷く気にさわる。
「いいだろう・・・分かった。下らない格好を付けたものだ。なら思い切り無様になるように・・・嬲り殺しだ!!」
轟!
再び空間を切り裂き、四方八方から襲いかかる魔槍と高周波ソード。
「〜〜〜っ!!」
避ける。銃で撃ち落とす。装甲服の曲面を利用してさばく。
「わああっ!くっ、このっ!」
必死で、ぎりぎりで、格好イイとは言い難い。
しかし・・・
「貴様・・・避けるか!虫けらの分際でちょろちょろとっ!!」
絶空高周波魔槍乱舞、蠍師匠や九大天王すら負かした技を、ロアはぎりぎりとはいえかわして見せている。
「・・・師匠さんたちが体を張ってっ、技を見させてくれましたから・・・これでよけられなきゃ、申し訳立ちませんよっ!!」
言い切るロア。その言葉に、蠍師匠は驚きを隠し得ない。
確かにそうだが、それにしても見て憶えても見切れるかどうかとはまた別問題。宇宙傭兵教会の訓練でも見せたとおり、一見弱そうな外見に比してロアの秘めた素質は相当のものだ。
しかし。
ジュッ!ジュウッ!
圧倒的な攻撃また攻撃の間隙を縫って、ロアは彼の武器であるレギオンバスターを放つ。しかし、直撃してもギガンティックダークネスの重装甲の前には、並のブラスターなど及びもつかない破壊力を持つリュート謹製の銃とて、その表面を焦がすこと以外には出来ない。そして、自己再生能力でもってそれもあっと言う間に消えてしまう。
ダークネスもそれを知っていて、なめてかかって電磁バリア使用すらしない。突っ立って、まるで小雨を無視するかのように攻撃に専念している。
「ふふん、非力だなぁ、小僧・・・貴様など俺に比べれば虫けらに等しい、蚊が刺したほどのダメージも与えられないと知れ。ははは!」
高笑いする顎人。対してロアは、言葉を返す余裕すらない。
前後左右。斜め。途中で柔軟に曲がり、そして時には直角の変化すら見せ。
それでもかわすロアだが、しかし体は意志ほどに全能足り得ない。
僅かずつだが、確実な疲労の集積が、ほんの0コンマ数秒の遅延を招き。

ザッ!

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
悲鳴など断じて聞かせたくない相手に受けた傷は、時に痛みより悔しさが勝る。奥歯をかみ砕かんばかりに食いしばり、足に突き刺さった魔槍の痛みを声に出さないロア。
それを魔槍を縮ませ、魚を釣り上げるようにしてダークネスはロアを手元まで引きずる。獲物を逃がさないよううねり、さらに魔の槍はロアの足から血を搾り取る。
「ハ、わかったか?」
楽しそうに、すかっとしたように巻島顎人は装甲に覆われ巨大なその手でロアの、年若い少年にしてもいささか細い感のある喉と顎を区別無く掴む。
骨を砕かんばかりの締め上げ。しかし、それでその視線は依然としてギガンティックダークネスを恐れず捉える。
それだけではなく、その状態でロアは拳を繰り出し、効かないとわかってはいてもギガンティックダークネスに精一杯の戦意を叩き付け、叫ぶ。
「何をっ・・・そんな鎧着て、奪った即席の力で舞い上がって!戴宗さんも、長官も、師匠さんも、本来貴方なんかに、ぐっ!」
装甲の置くの顎人の目が酷薄に細まり、同時に手が握られ、頸骨が締め上げられみりみりと音を立てる。自分はまるで屈する気は無いのに、体は情けなく悲鳴を上げるのだ。
だからせめて、ロアは僅かに残った息を振り絞る。
「つらい、悔しい、自分の力のなさが呪わしい・・・これが無力、ってことなんだろうな。ミリィさんたちは「どんなに力があっても何も救えない」という風に違えど、この気持ちを何百年もの間、ずっと、ずっと心に抱いていたんだ。」
「何だ、小僧?何を言って・・・」
問う巻島。決して聞こえていなかったわけではない。呟きどころかため息に近い大きさとはいえ、この至近距離で聞き逃すのことはない。
そうではなく、その真意が掴めなかったのだ。彼からすれば暴れ回るミリィこそがその本性であり、それが無力だなどと、考えたこともないからだ。
「そんな人に僕なんかが何か言う、確かに善人ぶっているだけだったのかも、しれない。でも、だったら・・・」
瞬時、それまで殆ど意識を失う寸前で、譫言のように呟いていた言葉が力を取り戻し、その視線が再び巻島を射る。
「なおさら!ここで諦めるわけに、いかないっ!!」
かっ、と目を見開くロア。その勢いに咄嗟に顎人がトドメを刺そうとした、刹那。
「うぉぉぉおお!ライダーーキーーーック!!!」
「何いい!?」
突如、背後にて上がる雄叫び。その内容に、咄嗟に顎人は振り返った。
その言葉の意味、野望のままに墜ちたとて、ひとたびヒーローの道を歩んだ者が忘れるはずがない。伝説の十人のヒーロー、仮面ライダーのの必殺技!
逆光の太陽。一瞬視界と、熱源センサーが撹乱される。しかしその中に浮かび上がる影は、紛れもなく。
「ぬおおおおっ!!?」
咄嗟に迎撃せんとするギガンティック・ダークネス。ロアを手放し、両腕の重力操作を最大にしてその足を受け止め、はじき返そうとする。それだけの対処を死ねば死を招く力が、ライダーキックにはある。
バシィィィッ!
走る衝撃、しかし顎人は一瞬怪訝な顔をする。まるで軽い、これではせいぜい生身の人間より少し上程度・・・と思った。
直後、電撃が体を走る。ダメージとなるには到らないが、一瞬隙を作るには充分の。
「かかりやがったっ!!」
そう叫ぶ仮面ライダー・・・いや。
真っ黒な改造ライダースーツにフルフェイスヘルメットを被った滝だ。足裏に放電用の電極、拳には爆発ボルトか何かが装着され、ある程度打撃戦闘に効果を及ぼすようになっている。そして首にマフラーを巻き、ヘルメットの表面に髑髏を模したペインティングをしていたため、一瞬仮面ライダーに見えたのだ。
「滝・・・一也ぁぁぁぁ!!」
叫び、そして。気付く。
「しまっ・・・!」
そこで反射的に巻島が振り向いたのは、ロアにとってはまさに狙い通り。
己の非力さ、敵との圧倒的戦闘力の差、それを相手の油断と満身、そして自分たちのチームワークで補うべく考え抜かれた作戦。
振り返ったギガンティックダークネスの顔、身長差の倍近くあるそこ目掛けて、相手の膝に足をかけて跳躍。狙うは殖装体の急所、額の制御メダル。弾倉部に込められた全エネルギーを解放し、即席の爆弾と変化させたそれを、殴るように叩き込む!

ドバァン!!

炸裂。反動で跳躍後のバランスを失し、地面に転がるロア。
即座に跳ね起き、状況を確認し。
ようと。

ドォッ!!

振り回される黒い腕。弾き飛ばされる、二人。
「マークハンター」強化装甲服の変わりに無理をして誂えた黒いライダースーツが木っ端のように吹き飛び。
宇宙刑事機構に所属していた時よりは相当に強化されていたはずのロアの赤い装甲服が、ウェハースのように砕けた。
「か、かふっ・・・!」
「糞ぉ!」
先程の喉についで、今度は肺を痛めつけられる。呼吸することに全力を消耗してしまうロア。
苦渋に毒づく滝。そして。
「やってくれたな・・・!」
それまでのなめてかかった口調とはうって変わった、憤怒が滾るような、暗黒の巨人の声音。
ギガンティックダークネスの頭部は、歪んでいた。頭部のエネルギー制御球の殆どが消失し、そして右目を含む顔の右半分が損傷、装甲が剥落し殖装者の身体と融合した強化筋肉の組織が剥き出しになっている。
しかし、制御メダルはあと僅かの所で損壊を免れていた。僅かにその端が歪んではいるが、以前健在。恐らく頭部エネルギー制御球を全力で使って鋭角の障壁を形成、爆発を反らしたのだ。
「この・・・糞ガキが!ドブネズミが!この俺の顔に傷を付けおって・・・貴様ごとき雑魚が!!」
激怒したギガンティックダークネスは、倒れ伏したロアにストンピングの嵐を見舞った。数トンの体重を支える巨大な足が、何度も何度も執念深く、ロアの肢体を蹂躙する。
「な・・・この!やめやがれぇ!」
飛びかかる滝。スーツの拳に装着した爆薬が殴ったときに炸裂し打撃を与えるが、黒い巨体は揺るがず、そして腹立たしいことに反撃もしてこない。構わずロアを蹂躙することに専念する。
まるで目の前を多い一歩も通さない、理不尽な黒い運命の城壁。
「あ、くぁっ・・・!」
こらえていた悲鳴を、とうとうロアは吐き出してしまう。逆に言うなれば、それだけ彼の意地に勝るほど肉体の損傷が深刻化してきたということ。
「ええい!畜生っ!」
殴る。蹴る。急づくりのスーツは不具合を起こし、電撃や爆発の衝撃は、滝自身の手足に痛みを与える。敵には、何も効いていないというのに。
「へっ・・・上等ォ!」
それでも滝は諦めない。身軽にダークネスの肩に手をかけて跳ぶと、足を回してロアがつけた傷口をつま先で蹴り砕かんとする。
流石にそれには顎人も反応した。蹴り足をひっ掴み、滝をロアのすぐ隣に叩き付ける。
「ぐっ!」
一瞬足が引きちぎれそうになり、また叩き付けられる息の詰まりに呻く滝。それを見るギガンティックダークネスの目は、血のたれるようなにたにた笑い。さあ、これからどうやって殺そうか、と。
それをにらみ返す滝。そこで、ふと心が冷たくなる。先程から、ロアはまるでダークネスに反応をかえしていない。まさか死んでしまったのでは、と滝は慌ててダークネスを無視し、隣に倒れている少年の横顔を確かめる。
生きていた。しかし、ロアは、ダークネスを見ていなかった。
「あ・・・」
言葉に鳴らず、ただただそれを見つめるロア。それはダークネスの更に向こう、空の上。
視線を辿って滝もまたヘルメットの風防の下からそれを見、ふっとため息をつく。満足と安堵、戦場にありうべからざる。
「役に立たないアシストだったかも知れんが・・・あいつをロアが生きている間に間に合わせただけ、良しとするか、なぁ、本郷よ。」
呟き。

それに答えるは、超音速の風切りと咆吼。
「クォォォォォォン!!!」
雄叫びと共に、空中を軽々と舞い飛ぶ金色の体毛に覆われた身長30mほどの優美な姿の怪獣・・・金沙羅。震星の乗騎たる攻龍騎だ。
そしてその背中に三人、そしてその傍らをほぼ同速度で飛ぶ、もう一人。
鷲羽、リュート、震星・・・そして、ミリィ。
「状況把握・・・!かなりまずい、でもまだ大丈夫、何も失われていない!ここから巻き返しは効くわ!」
「金沙羅!着陸せよ!」
鷲羽の声。向こうも相当急いで駆けつけたらしく、危惧と心配を感じる。以前の鷲羽には無かった、真剣さが。そして震星の号令と共に、金色の獣は恒星間すら自在に駆け抜ける力、重力制御でもって巨体から考えられないほどふわりと地面に降り立つ。
大急ぎで金沙羅の背中から降り立つ鷲羽、震星、リュート。
「鷲羽さんは、負傷者の皆さんを頼みます!」
リュートの声。飛行中に手当したとおぼしき傷もまだ痛々しいのに、毅然と立つ。その姿を信じて、鷲羽も言われたとおり即座に動く。
そして、ミリィ。再び降り立つ。
「ふふ、ふぁはははははははは!!ようやく来たか!ガーライルフォースマスター!アルフェリッツ=ミリィ!かつて神と戦うために作られた貴様等、それを屈服させ支配する!それのよってまさしく俺は降臨者ガーライルに並ぶ、至高の位階へ到達できるのだぁぁっ!!」
顔面装甲の顎の部分を大きく開くようにして、哄笑するギガンティックダークネス。
しかし、対照的なまでにミリィは物凄く静かだ。
「・・・お前がどうなろうと、あたしは知ったこっちゃない。けど、これ以上暴れ回るって言うなら・・・それは、許さない。」
ミリィの言葉。それを効いた途端、即座に、本当にあっさりとダークネスは次の行動に移る。
嫌悪と、期待を感じさせる、声。
「ふん、本格的に毒されたようだな・・・仕方がない。なら何度でも苦しめてやろう。それ。」
そう言うとギガンティックダークネスはその巨体には不釣り合いなほど小さなスイッチを取り出す。それが何なのかくらい。一目で分かった・・・プルトン爆弾の点火装置。
「なっ、お前!あの街にはまだお前の部下も・・・」
あまりに何気なく取り出されたそれに、ミリィは一瞬呆然となる。
「知ったことか。どうせ貴様等を捕らえクローニングを行えば、手駒などいくらでも増える。」
うそぶくと、一厘の躊躇も無く、巻島はそれを押した。

しかし。

「・・・ち。使えぬ奴だ。」
結局、舌打ちが一回、それだけだった。


「ん?」
自分があと一歩で街ごと爆破されるところだったとは気付く余地もなく、暴虐に酔った瞳を顔を覆うバイザーの下で浅倉は動かした。
デスファードとの戦いに集中していたせいで気付かなかったが、いつの間にか立ちつくしていたはずの風間剛の姿はない。
振り返る。
「何だ、お前・・・そっちのオモチャが気になってたのか。」
あきれたような、単調な声。
いつの間にか背後に回り、プルトン爆弾の配線を引きちぎっていた剛に対しての反応は、それだけだった。
爆弾の無力化は浅倉に与えられた任務から言えば失敗以外の何者でもない。しかし、それをまるで気にしない。
本当に、今気になるのは戦いのこと、ただそれだけなのだ。
それを認識し、剛は変わり果てた友と向き合う。
ちらと、倒れた兄に視線を移す。将人は、気付いていた。途中から剛ががプルトン爆弾のほうへ向かっていたこと。そして、剛の悩みも。
それに感謝と、そして決意を伝えるための一瞥だった。
「・・・」
手傷を負いながらも、頷いてみせる将人。
そして、剛は構えた。
「俺はお前を救えなかった。何も、出来なかった。そして今、お前を殺す。二重の罪・・・しかし・・・」
言いかけて、剛は首を振った。確かに、かつて涼村暁であった者は、見るも無惨に変貌してしまった。だが、殺すことが救いだなどと、言いたくも思いたくもない。
今はただ、全力で戦おう。この狂気の暴力を受け止め、そして打ち砕こう。
「しかし、俺は武道家!戦うより他に術を知らない!」
かつて二人、正義を信じ戦った、あの頃のように。
「はぁぁぁっっ・・・鎧気装!!」
生物と機械、二通りの改造が融合した体に、さらに霊子エネルギーである気が満ち、そして変わる。
「七星闘神ガイファード!!」
赤と銀、かつて地上に顕現した光の巨人達にも類似した、戦士の姿に。
「いくぞぉぉぉっ!」
「こぉぉぉぉい!!」


役に立たなくなったスイッチを投げ捨て、軽く顎人は肩をすくめる。
「まぁいい・・・別にお前達を痛めつけた後、ゆっくり目の前で焼き払えば済む話だ。・・・ところで、確認しておく。貴様らが揃ってここにいると言うことは、静は死んだか。仮面神官も、殖装体も。全部。」
「ああ。」
同意するミリィ。その声には、ほんの僅か苦さが混じっている。
「そうか・・・まあいい。もうあいつらをベースにした量産型の準備もできている。また作ればいい。」
故に、次の巻島の言葉は激昂を呼んだ。
「て、てめぇっ・・・!」
ギリっ、と、憤りの言葉を食いちぎろうとするように、ミリィの奥歯が鳴る。
ずきずきと頭痛がするほど、頭が熱くなる。
「あいつが、静が、何を考えてっ、どんなに・・・!」
嫌と言うほど見せつけられ、尚心の中で燃えたぎる、あの光景。それに突き動かされるミリィの言葉を、顎人は容易く遮った。
「知っている。それ故に使える駒だったが・・・命令に忠実な奴程度なら、洗脳でいくらでも作り出せる。」
冷ややかに、心の底からそういう巻島。
その言葉の冷たさに、ミリィは・・・
「お前は哀れだな、巻島顎人。」
「何だと!?」
不意に、静かに語る。だがそれは、あきらめではない。
むしろ、赤よりも熱い、青白い炎だ。
「哀れだと、言った。どれだけ強くなっても、どれだけ世界を手に入れても、お前には何もない。自分一人以外に大切な者をもてないなら・・・世界の全てに意味がない。あたしもそうだったから、知っている。お前は絶対に満たされない。」
決然と。言い切れるだけ、彼女はその虚しさを熟知している。
「だけど・・・許すわけには行かなくなった。あたしもお前も死をたれ流したが・・・だからこそ!」
それに、自決し、死に行く静に誓った。
そして。
「ミ、リィさん・・・よかった・・・ほんとに、よかった・・・」
ぜいぜいとのどを鳴らし、それでもぎこちなくだが微笑みかけてくる、ロア。
「『過ちを悔いるのに遅すぎるということは無い』って・・・ミリィさん、別に言う必要、無かったですね。」
ロアの、もう呟くような音量の言葉に、ミリィは、はっきりとした声で。
「いや。分かってはいても・・・お前に言ってもらえると嬉しい。」
答えた。
そしてミリィは、油断無くダークネスを見据え反射神経と闘志を向け研ぎ澄ましながらも、心はロアに与える。
「お前が信じてくれたから、あたしはここに戻ってこられた。お前が頑張ってくれたから、あたしは今この時に間にあった。ロア、お前の気高さに、あたしは感謝し・・・敬し愛する!」
凛然と言い切ると、斬りつけるほどの鋭さでダークネスを睨み据える。
「そういうわけだ、巻島顎人!お前にはあたしはやらない!心も!体も!あたしを構成する全てでお前を否定し、お前の野望も、破壊も・・・ここで止めてやる!」
それに、顎人は仲間を・・・大切なロアを傷つけた。
断じて許せない。
そして、顎人も吼える。戦いを告げるために。
「やれるものなら・・・やってみろ!」
大気が、一瞬で超音速へと達した二人を見送るように、鳴った。

一気に上空に到達した二人は相互に技の構えを取る。そこまでは以前の戦いと同じだが・・・そこから先はまるで違う。
「プレッシャー・・・何!?」
重力砲を発射しようとしたギガンティックダークネスは、いきなりの状況変化に我が目を疑う。
「オォォォォォォォォォッ!!」
両手にプラズマ球を発生させたミリィが・・・その体勢のままそれを発射せずに突っ込んできたのだ。
プラズマ弾を使っての遠距離攻撃、それこそがミリィの戦闘スタイルだったはず。その驚き故に一瞬対処が遅れるが、それでもダークネスは反応し、迎撃の体勢を取った。
「グラビティブレット・ガトリング!!」
相手がこちら側に高速接近している以上、その目前の範囲に弾をばらまいてやれば自分から突っ込む筈。
しかしミリィも、普段と違う行動をとっているとはいえその数百年の戦闘人生で培われた判断力は伊達ではない。
「むっ!」
左手に宿したプラズマ球体を制御、球から広い円盤状に再構成して、それを自分の目前に盾のように構える。
名前の通り連射された超重量物質は、その高熱プラズマの盾に突っ込むや否や、片端から高熱に曝され電子が外れ、プラズマへと崩壊する。
「何ぃ!?」
驚愕するダークネスだが、その暇もない。
「破ァッ!」
ドゴッ!
超音速を維持したまま突っ込んできたミリィの手が、掌底の型でダークネスの腹に叩き込まれる。その掌の上にプラズマを宿したままで。
密着体勢からの発射。一撃で、腹部に大穴が空く。
「げぇぇっ!?」
悶絶するダークネスだが、ミリィの猛攻は止まらない。先程盾として使ったプラズマを、そのまま円盤投げのような姿勢で振り回して、今度は首から上を狙う。当たれば切り口が瞬間的に蒸発消滅する故、薙ぎ払われれば確実に首が落ち、死が訪れる。
咄嗟に身を反らしながら、全身に蓄えたエネルギーを一時にオーバーフローさせる。瞬時に熱せられた周囲の空気が爆発、ミリィの姿勢を崩してその攻撃を外させる。
「ち・・・がぁっ!?」
舌打ちしかけるミリィだが、直後に息が詰まる。腹部にめり込む黒い塊・・・ダークネスの拳だ。
吹き飛ばされ、間合いが離れる。
「くっ、ミリィ、貴様一体・・・!」
呻く巻島。腹部に空いた大穴は再生が始まっているが、傷口が大きい故なかなか塞がらない。
対してミリィも重力子を纏って数十倍の質量と破壊力を持った拳に内蔵がかき回されるような苦痛を味わってはいたが、その顔から毅然とした表情は失われていない。
「あんた、言ってたね。あたし相手の戦い方は徹底的に研究したって。だから、あたしはそれまでの戦い方を変えた・・・それにこの方法なら、周りに迷惑にもならないだろう!!」
叫びが終わるか終わらないか、その一瞬に再びミリィは加速した。
咄嗟に拳を放つダークネス、その腕にとりつくとまるで鉄棒をするように、その腕を掴む。
そこからまた密着プラズマ攻撃かと、ダークネスは腕を振り回してミリィを振り払おうとする。しかしミリィの狙いは別にあった。
「ふっ!」
短く息を吐くと同時に、すらりとしたミリィの足が伸びる。必要最小限度のコンパクトな軌道を描くと、ダークネスの顔面、ロアの攻撃により装甲の破損した部分に突き刺さる。
そしてそれを軸足に、ミリィは空中で体をひねった。翻る緑柱石色の髪が、一瞬日を浴びて煌めく。
直後ミリィが取った体勢は、ダークネスの度肝を抜いた。まるで無重力の宇宙を回る宇宙飛行士のように、ミリィは空中で逆さになったのだ。反動を付けダークネスの顔面を蹴ったので、ミリィの上半身がダークネスの足の下に来る姿勢。
降臨者の遺産たる殖装体を纏い体を改造したとはいえ元々は普通の地球人である顎人には思いもつかない、まさに宇宙を駆ける戦闘種族故の判断だ。
そして、それもまた次の攻撃への布石に過ぎない。逆さになってギガンティックダークネスの巨躯を下から見上げる姿勢になったミリィは、上半身をくの字に折り曲げると手を伸ばす。それはそれまでとは違う、ダークネスには見慣れたプラズマ弾の発射形態。
「かかったっ!!シルフィンハーレーーーッ!!」
叫ぶミリィ。この体勢からなら、下の街に被害を一切もたらすことなく、ダークネスを粉砕できる!
「舐ぁめるなあああ!!」
しかし、ダークネスのほうが一瞬早かった。腕から魔槍を伸ばすと、鞭の用に使って大きく振り回し真下にいるミリィを打ち据えた。
「っ!!」
弾き飛ばされ、真下からダークネスの前斜め下まで移動させられるミリィ。
「ははっ!!そうか!それなら・・・逃げるなよ!ミリィイイイイイイイ!!!」
自分とミリィを結ぶ線上に、丁度上海市が入ることを確認し、ダークネスは狂気じみた笑いを含むと・・・その全身に備えた武器を一斉に発射した。
確かにダークネスは破壊力こそ優れてはいるが、戦場での咄嗟に判断ではミリィに分がある。しかし、相手の性格を読みその上で罠にはめる・・・と言うのは、ミリィにはまるで縁がないがそれこそ顎人の得意技であった。
そしてミリィは、それを真っ向から受け止める。
「負けるもんか・・・逃げるもんかぁっ!!」
全力で展開した障壁で攻撃を防ぐが、完全にはその破壊力を殺しきれない。再びその体は傷つき、打たれ、焼かれ。
そして反動で吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。


轟々たる戦火、激しい戦いを、あえて見守る影が、更に二つ。
まんぼうと、ロウラン。
まんぼうは攻撃力こそ低いとはいえ、極めて特殊な能力を持ったバリスタスの幹部怪人である。戦闘加入すればそれなりの戦力となるであろうに何故止まっているかと言えば、それは傍らのロウランの為である。
ガーライルフォースマスタークラスの能力を持っているがその能力を「他次元からの力を使う者の破壊」という刷り込まれた命令を遂行するただそれだけのために振るい、周囲の被害を何ら忖度しない破壊マシンと化してしまうロウランを留め置くことの方が、まんぼうの戦闘加入より重要であると判断されたからである。
「す・・・凄い戦い・・・戦いが・・・」
そう途切れ途切れ呟くロウランは、初めて国際警察機構が発見したときの震星のように、水晶詰めのような障壁に覆われている。
まんぼうがその次元系操作能力で発生させた、ガーライルフォースを遮断する障壁だ。これに包まれていれば、そもそも力が入ってこないため、敵を関知してもロウランは変身することはない。
しかし苦しげなロウラン。組み込まれた指令通りに外を関知して変身を行おうとする体が、エネルギーの不足に喘いでいるのだ。
「マボォ・・・」
そして、ある意味それよりも更に苦渋の表情を浮かべるまんぼう。
戦うことも出来ず、そしてロウランを助けることも出来ず、さりとて現状を放棄することはもっと出来ず。
「ねえ・・・まんぼう・・・苦しそう。戦っている人達も、苦しそう。何で?何で苦しいのに・・・こんな、苦しいって、嫌なこと・・・まんぼうは、嫌じゃないの?」
不意に問うロウラン。まんぼうは
「そりゃ、嫌じゃない、なんて人は居ないと思うマボ。でも、それでも。それ以上になしたい何かがあるから、苦しいも嫌も、越えられる。」
真面目に、例え現状への焦りからでも必死さを伺わせる答え。
「まんぼうも・・・そうなの?」
「・・・そう。ここでロウランを守り抜くのが、マボの戦い。」
その中で、まんぼうはやせ我慢でもなく、答える。いや、実際には僅かにやせ我慢かも知れない。だがそれを貫けば、未来へと到る。
少なくとも、そう信じられる。
「まんぼう・・・」
その、今までに見せてくれたそれだけでも何よりありがたい優しさともまた違う、何かを見て。
ロウランの中何かが目覚める。
「これが、戦い。まんぼう達の、戦い。なら、私が今までしてきたことは、何だったんだろう。戦いだったのか、そうでなかったのか。私の戦いは、何なのか・・・」
呟くロウラン。その表情が、段々変化していく。まんぼうがその変化を見極めようとする、その時ロウランは立ち上がった。
「私は・・・戦う。まんぼう、次元障壁を開けて。」
静かな声。そしてまんぼうも、そうするのが当然で有るかのように、ロウランに周りに張り巡らせた次元障壁を解く。
二人の心、共に不安は微塵も湧かない。そして、光が満ち。
「私は、今ようやく初めて自らの意志で立つ。今更だし、償いようもないし、だけど・・・決めたんだ。」
ロウランが再び変身する。黒と赤の拘束されし天女、しかしその顔に宿る表情は冷徹なそれではなく、変身前の純真で柔らかな感じのする顔のままだ。
否。
それは怯えていない。迷っていない。以前の変身後の意志の強さと、変身前の優しさを、彼女は己の意志の元に統合した。
マンボウは漸く理解した。その表情の名は、決意する勇気。
「私は、私の正義を見つける!」
そして、それを宣言するがごとく、朗々と叫ぶ。
「そう・・・それでいいマボ」
頷き呟くまんぼう。それは、茨の道かも知れない。その道の中で倒れるかも知れない。その道の果て、まんぼうと彼女の「正義」が対立するかも知れない。しかし。
進まないわけには行かないと、生命が叫んでいる。
「自分の道を選ぶ、それは成長って言うマボね。なら・・・マボもいつまでもとぼけてはいられない。進もう・・・」
突如、まんぼうの姿が変化した。一瞬光に包まれたように見えた後、それまでの姿がまるで着ぐるみか脱皮前の蛹の殻だったかのように脱ぎ捨てられ消える。
そして現された姿は、少年のそれ。年頃は高校生程か、兄と違ってやや褐色に近い色の濃い肌とふわふわの巻き毛髪、くりっとした瞳などの印象が強い。
一見人間形態をとったのかと思われるが白と水色、空を思わせる色の衣の背中には五枚という奇数の、昆虫のように透明な細長い羽がプロペラのように放射状に生えており、目的を変更した改造人間形態と思われる。
そして、その姿となったまんぼうが言う。その声はそれまでの愛嬌ある妙な口調ではなく、真摯なものだ。道化の装いを捨てたその様相は、まるで一瞬に成長したような・・・否、これが本当の彼、普段こそがむしろ己を偽る仮装なのだろう。
「そうだ、最後まで・・・前を向いていればいい!」

そして、二人は戦場へ飛ぶ。
折しもギガンティックダークネスは地上に落ちたミリィにトドメを刺すべく、スパイラルギガスマッシャーの発射準備に入っていた。
ぎりぎりの窮地。しかし、同時にチャージ中は隙だらけ・・・チャンスだ。
「巻島顎人ッ!!勝負!!」
「何!?」
唐突に現れた新たな相手に、一瞬虚を突かれる巻島。その隙は相手の懐に踏み込むには充分なそれだったが、あえてまんぼうはそれをしなかった。
些細な拘りで、無駄かも知れないが・・・折角己の意志で戦うことを決めたロウランの前で、姑息な手は使いたくない。
「秘密結社バリスタス第三天魔王まんぼう!野望故助太刀する!」
「貴様・・・あの魚もどき!?うっとうしいわぁ!」
怒号と共に重力弾を乱射するギガンティック=ダークネス。いつものまんぼうならダメージこそ受けないが吹っ飛ばされ、戦線を離脱するほどの打撃。
ギュウン!
しかし今のまんぼうは違う。背中のプロペラ羽が発光したかと思うと、以前のふわふわした動きからは考えられないほどの鋭敏な機動で全てを回避する。
「無茶苦茶なことを・・・するなっ!この馬鹿!」
相変わらずの巻島に怒りの声を発するまんぼうだが、それは断じて口だけではない。かわすだけではなく、展開された羽で、すれ違いざまに重力弾を消し去ったのだ。「羽」は正確には物質ではなく、まんぼうの展開する空間断裂のようなものらしく、それを次元バリアの代わりとして流れ弾となるのを防いだらしい。
まんぼうは空を駆けた。突き出されたその手を、不可思議な「何か」に包んで。
それは空間の歪みのようであり、そしてその歪みの中に光と闇が同時に渦巻いている。
「な・・・何だ、それは!」
思わず叫びながらも、ギガンティックダークネスはほぼ確信を持ってそれの正体を見極めていた。それでも問わずにはいられなかったのは、それのあまりのとてつもなさ故。
おそらくまんぼうは、普段自分を守り周囲の因果律を出来るだけ人が死なないような望んだ方向に歪めたりしている次元の湾曲を、飛行その他に使う分を除いて全て集中させたのだ。
「さぁ。名前・・・決めてないからね!」
顎人の動転を見透かすように、まんぼうが接触のほんの刹那前、笑う。
そして、名も無き拳が、黒い巨体を打つ。

「がああああああああっ!!」
炸裂。強烈な「歪み」と限定的に露出させられた「別の世界の一部」の質量がいちどきに叩き付けられては、耐えられる物質など有ろう筈がない。
身を翻しかけた顎人の、左腕をエネルギーアンプのついた肩ごと砕き、引きちぎる。
「ああああっ!貴様ァァァ!!」
それでも流石はギガンティックダークネス。即座に右腕を動かし、ありったけの魔槍を鞭のようにふるってまんぼうを弾き飛ばした。
急転直下、まんぼうは地面に叩き付けられ、小さなクレーターを作ってその中に埋没する。
「痛〜〜〜〜〜っ!!」
叫ぶまんぼう。激しく血が噴出し、その体のあちこちにうじゃけた傷口が覗く。
「ま、マンボウ!」
驚き叫ぶロウラン。いつもの姿の時ならまんぼうは、いくら攻撃を受けようと笑いながら受け流していたのに。
「いや、この形態は今まで喜劇空間を展開したり防御に振り向けていたエネルギーを、全部移動と攻撃に使ってるから、ダメージもろに受けて・・・痛いなぁ、こりゃ何回か喰らったら死ぬかも。」
「そんな、何でそんな無茶・・・」
顔にだらだらたれてくる血を拭ってから、それでも未だ気迫の爆ぜるような声で、まんぼうはミリィに答える。
「みんなの命かかってるんだぞ。自分の命気にしてる場合か!」
その理論は、愚かしいかも知れない。幼いかも知れない。
だが。
「・・・分かった!ならまんぼうがみんなを守る分、私達まんぼうの事守るから!」
進む力を、紛れもなく生み出す。
まんぼうにかわってダークネスに立ち向かうロウランが用いたのは、以前の彼女の武器である光子弾ではない。それを集中し、錬成し、束ねその手に取った・・・光の剣だ。幾分エネルギーに近い形態だが、どちらかといえば既に光物質に近い密度を有し、最硬にして最も鋭利な物質の威力を備える。
これなら、周囲に被害を撒き散らすことはない。
「それは・・・!」
「まんぼうのやり方、真似してみた。・・・教えてくれて、ありがと。」
まんぼうと同じく、ロウランもまた保身を捨てた。必死に己と向き合い、その力を制御する。
「タァァーーーッ!」
今度は、ロウランが宙を駆けた。襲い来る高周波ソードや魔槍を片っ端から切り落とす。


「ぐっ・・・!ええいうっとうしい!!雑魚共は雑魚共と潰しあっていればいいものを・・・、タロンの連中に浅倉のバカは何をしているのだ!」
巻島は焦れたように叫ぶ。
破壊された腕は既に自己再生が始まっており、ロウランの攻撃は魔槍と高周波ソードを迎撃しており、未だ体には届いていない。
しかし、焦りが始まる。それが何故起きるのか考えぬままに、巻島は周囲の状況を探る。指揮特化型のグリセルダほどではないが、ギガンティックダークネスも「ゼウスの雷」首領としての高レベル通信機能が付いている。
結果、巻島は。
「雑魚共め・・・!!」
毒づくこととなる。

街を包囲する、国際警察機構と交戦していたタロン部隊は、その大量の兵力にも関わらず、劣勢に陥っていた。
そのきっかけとなったと明らかな、陣中を突破する影は・・・何と、バリスタスの仮面怪人部隊である。
「うぉおお〜!我等とて、バリスタスの一員ッ!」
「忘れられては困るぞ!」
殆ど誰もが忘れていた。故にこそ、このタイミングで戦場に来ることが出来たのだ。
へんてこな見た目の割にはちゃんとした戦闘能力を持つ彼等が奇襲により後背を突いたのだ。数こそ多かれど、あくまで足止め目的だったタロンの部隊は、この思いも寄らない相手に滅茶苦茶に撹乱されている。少なくとも、この戦闘に置いては無力化されたと言っても過言ではない。

そして。

「がぁあぁああぁぁぁぁあ!!」
「うおおおおおっ!」
引きちぎり、砕き、切り裂く。
カオスゼリオンの腕にはめられた手甲と鈎爪、それと短銃身のパルスビーム銃を融合させたような武器が、ガイファードを襲う。
拳。蹴り。そしてまた拳。
ガイファードの体技が、真っ向からカオスゼリオンを打ち据える。
互いに、互いを知っている。
同時に、互いを拒絶している。
故にその戦いは、余りにも激しく。
「がぁっ、ハ、ハ、ハぁぁ!!楽しいなぁ、風間ァァァ!」
「ふぅっ、ふっ、おおおっ!!悲しいぞ、暁ァァァァ!!」
余りにも悲しい。
「うるさい・・・黙れ!いらつく、その名で呼ぶな!」
叫び、カオスゼリオンは胸部円盤に手を当てる。
「・・・・・・!」
無言で、ガイファードは構える。
「カオスネスアタック!!」
「王気!極星拳!」

ズバァァァン!!!

心の闇が、星の光が、激突し、炸裂し、鳴動する。その爆風に共に吹き飛ばされる二人だったが。
それでも終わらない戦い。互いにまた構え。
そこに、声が割り込んだ。
「そこまでにして下さいまし。」
続いて姿を現したのは、巻島にアンシーと呼ばれていたタロンの監察官だ。
その手に通信機を握っている・・・ただし、アンシーの細腕の何処にそんな力があるのか見当もつかないが、握りつぶされ、機能を停止している。
「ここは退きますよ、浅倉さん。」
「何だと!?俺は今楽しいんだ、それを邪魔をする気か!!」
穏やかなアンシーの声、対照的に吼えかかるような浅倉の言動。
しかしアンシーはその笑顔を微塵も動かさず、説得する。
「これ以上「ゼウスの雷」につきあっても、益はありません。それに貴方も、まだまだ戦い足りないでしょう?今ここに残ればつまらない連中が押し掛けてくるか突然の流れ弾で、結局全てが消えてしまう。それより、私と共に。より素晴らしい戦いが、貴方を待っていますよ?」
何の感情も見せず言ってのける。こうなるとその笑顔も、まるで仮面のように底が知れず、気色悪い。
しばしその鋭い目を細め、アンシーを見据えていた巻島だが。
「ハ」
と一声息だけで笑うと、突然身を翻してアンシーの傍らに立った。
しかしそれをガイファードが見逃すはずはなく、すかさず追いすがる。
「待てっ・・・涼村!そこの女、貴様涼村を・・・!」
その闘気を、仮面の笑顔は受け流す。
そして。
「ガイファード、貴方も力ある者、また戦いの場で出会うでしょう。では、ごきげんよう。」
言うなりアンシーは手品のように一輪の薔薇を取り出し、振った。その途端薔薇の花びらが何百何千何万、まるで炎のように沸き上がると、煙幕代わりにガイファードの視界を塞ぎ・・・そして、晴れた時にはアンシーも浅倉も、姿はすでにない。
「逃げられた・・・か。」
呟く、ガイファード。しかし尚その拳と瞳は前を向く。


そのような事態故ギガンティックダークネスからは、浅倉、アンシーともに連絡が付かない。
しかし、ギガンティック=ダークネスの戦意は微塵もかげるところはない。それは最初から何も信じては居ないから。そして。
「まぁいい・・・所詮連中は手間を省くための道具。この俺が、ギガンティックダークネスただ一人の力が有れば。何事をもなし得るということを証明してくれるわ!」
ばりばりと放電のような音を立てて、ただでさえ桁違いであったエネルギーを、更に増加させた。それにより全身が活性化し、事実肩ごと引きちぎれた腕も腹に空いた穴も、既に再生し始めている。
「ギガスマッシャー・ラピッド!!」
そしてそれが胸部に集中し、蓄積され・・・ギガンティックダークネス最大の武器の連射という形で現れる。
「わぁぁぁぁぁっ!?」
叫ぶまんぼう。攻撃・機動性重視に体を切り替えた故、一発でも当たれば即、死となる。その上連射型といってもその一発一発の威力は、スパイラルギガスマッシャーと比べれば流石に劣るが十二分に桁違い、空中のまんぼう達に放たれている分には問題はないが、一発でも地上に落ちたら、バリスタスの部隊諸共に全てが壊滅する。
そして、顎人がそれを躊躇する要因は何処にもない。
「ふん・・・焼き尽くしてやるぞ!」
案の定、最初の数発でまんぼうとロウランを引き離した直後、滅びを呼ぶ連弾は薙ぐように地上へ。
「ら・・・来来、奇鋼仙!!」
咄嗟にロウランは、彼女と同時期に製作された、人造攻龍騎「奇鋼仙」を呼び出し、受け止めようとする。
ジュアアアア!
その巨体に見合うバリア出力が、何とかギガスマッシャーを受け止めた。しかし、二発、三発と続くにつれ、防御が不完全となり、その装甲表面が焼けただれ、溶け落ちていく。

「くっ・・・畜生!」
地上に叩き落とされたミリィが起きあがった時に目にしたのは、まさにその光景。そして見る見るうちに、奇鋼仙が削られていく。自身第三世代獣鬼兵バムソードを操り戦うミリィにはそれが操者にどれほどの苦痛を与えるかをはっきりと感じ取れる。
対して、白兵戦の策も通じなかったミリィには、次のいい手が思いつかない。焦燥が走るが、真正面から撃ち合って勝てる相手ではないことは痛いほど分かっていた。
「ミリィさーーーんっ!!」
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
「ミリィ、無事かっ!」
そこに駆け込んでくる、アルフェリッツ傭兵事務所の仲間達。自分たちだってぼろぼろの状態だろうにいち早く駆けつけてくれた、その心配に頷きながらも、すぐにミリィは皆に問う。
「なぁ・・・何かないか!あいつを!ギガンティックダークネスを倒す術は!もうあたしには思いつかないし、全力も出しきった!あいつに無くてあたしにあるといったら・・・あとはあんたたちしか思いつかない!」
「むぅ・・・」
事実戦況は切迫している。バリスタス第三天魔王とプロトガーライルフォースマスターが全力を振るっても、ギリギリくい止めるので精一杯なのだ。
しかしダークネスと既に衝突したロアたちも策を尽くしたが、結局倒すには到らず、そしてリュートたちにも良い策は浮かばない。
と、その時。
不意に何かに気付いたように、震星はロアを見つめた。考えてみれば、初顔合わせの二人。
「お主、その髪・・・」
「え?」
震星は見つめ、ロアも見つめる。
互いの、輝く蒼い髪を。ギラ軍曹も、やはり同じ蒼い髪をしていた。
「何ですか・・・って!?」
一瞬きょとんとするロアだったが、直後事態が急変する。
ゴォォォォ・・・ズン!
うち続く打撃に耐えられず、とうとう奇鋼仙が膝を屈した。再び収納されていた異空間に戻り、その場にはロウランが取り残される。
「はぁ、ハァ・・・・まだ、駄目なのに。まだ・・・」
それでも立ち上がるロウランだが、消耗した彼女の力ではギガスマッシャーを止められないことははっきりしている。
「ロウランッ!」
咄嗟にマンボウが身を翻し、ロウランよりさらに前に進み出る。しかし、それでも防ぎ切れまい。
「くく・・・」
それを顎人もはっきり理解していて。それ故に、いやみったらしい余裕でもって応じる。
それまで連射していたのをチャージ、再び完全な威力のスパイラルギガスマッシャーとする。
「まっ、まずいぜ!?」
叫ぶ滝。このままだと、無論彼等も一緒に消し飛ぶ。
「くっ・・・ここまでなのかよ!?何かないのか!!どうにも出来ないのか!?」
「こんな・・・こんな事・・・認めたくないのに・・・!」
叫びが、莫大な破壊力の前兆に鳴動する大気に響く。
そんな中、ロアは願っていた。
力を。
皆を守れる、力を欲して。
そして。

パァァァァァァァァッ!!

閃光。

「な・・・何だ!?何が起こっている!?」
目を丸くするのは・・・巻島顎人だった。
確かに放ったスパイラルギガスマッシャー。それが・・・空中に消えていく。何か大きな手に受け止められたように。強いて言うならガーライルフォースマスターがプラズマを制御するのに、見かけは近い。
「な、に?」
吃驚して、目を丸くするリュート。ミリィにいたっては、声も出ない。
だって。
その不可思議な現象が、どう見てもロアが思わず突き出した手によって引き起こされているから。
「え・・・何!?何がどうなって、こんな!?」
そして、本人が一番驚いている。
そんな中震星は、これをある程度予期していたように呟いた。
「やはり、我等仙女の裔か。成る程、さっき示した力は、それが限定的に受け継がれたものだったのか・・・待てよ、それなら・・・」
つまり、地上に残った上位次元種族の末裔の血をロアはごく薄くではあるがひいており、そのガーライルフォースの更に元とも言うべき力を、ある程度使いこなせたのだ。
ただ自分で別次元からエネルギーを召還しそれを自在に操るだけの能力はなく、他の者が呼び出したエネルギーに限定的な制御を加えるくらいしか出来ないのだが。
「そうかっ、これなら・・・!」
リュートも気付いたらしく、ロアの顔を見る。
「そうじゃ。」
そんなリュートの顔に向けウィンクし、頷く震星。しかしまだよく分からずきょとんとしているロアに、リュートは勢い込んで説明した。
「ロアさんの力で・・・お姉ちゃんを助けられるんです!」
「僕の力・・・」
未だ実感のない感じで、ロアは呟く。
「厳密に言えば、僕の力じゃなくて、僕のずぅっと先祖の誰かの力が、たまたま受け継がれただけ・・・」
「違うよ。」
否定するミリィ。しかし、その声は優しい。あくまで謙虚な、共に。
「ロアの頑張りに、体が応えてくれただけだ。」
そして、リュートが叫んだ。
「ロウランさん、まんぼうさん!来て下さい!」

そしてリュート達の意図が素早く説明され、陣形が組まれる。まんぼうが操る次元断裂からリュートや震星、ロウラン、まめ震星たちがガーライルフォースを取り込み、ロアのエネルギー操作能力でもって、その力の流れをミリィに向かわせる。
つまり洞窟の戦いで震星がまめ震星からエネルギーを受け取った状況をより大規模にしたわけだ。

「はぁぁぁぁぁぁ・・・」
それまでにないほどの集中を持って、技を組み上げていくミリィ。高次元から呼び出されるエネルギー、それをプラズマの形となし、電磁の力でもってそれを制御していく。
ミリィの技は雷にしてもプラズマにしても、基本的にはあくまで発射する武器である。それらを「一点に留め置く」のは、打ち出すのに比べさらなる集中を必要とし、かつ危険で益も少ない大困難。
しかしその困難に、今ミリィは挑戦する。
それも、自分の周りにプラズマを顕現させそれを制御成形、丁度体を覆うバリアのすぐ外側に、巨大なプラズマ弾性体の衝角を形成しようとしている。
「う・・・くっ!」
制御しきれない熱が、障壁を越えてミリィの皮膚をじりじりと灼く。極度の過集中能力行使で、脳は破綻寸前を激痛で伝える。
しかし、ミリィは怯まない。
それは戦闘種族としての本能でも、戦を求める狂気でもない。
それは想い。かつて己の放った技に焼かれた者の感じた痛みをその身に敢えて受けるなどという、自己満足の謝罪ではなく。
それは、未来に進む意志。己の宿命にうち勝ち、友輩と明日を共に迎えるために、己のなさねばならないことをなそうという、覚悟の一歩。
そして、その技が完成する。
「チェイサーーーーギムレットッ!!!!」
敵を追い続ける巨大なプラズマの錐と化したミリィが、突貫する。
「な・・・!」
その様を見た巻島は、装甲の奥で眼をむいた。
「し、知らん!知らんぞ、そんな技は!」
それでも反射的に全兵装を発射、ミリィを撃ち落とそうとする。
しかし、効果はない。己の体をも焼くほどの集積した力が、また同時に敵の攻撃を防ぐ。皮肉だが、攻防一体の武器と言えるかもしれない。
「く・・・スパイラルギガスマッシャー!最大出力だああああ!!!」
必死になった顎人は、もう一度スパイラルギガスマッシャーを撃とうとするが、何故か出力が上がらない。
何事がおこったかと動転する顎人は気付いた。それは、額の制御メダルについた僅かな傷。ロアの必死の一撃がかすめたときついた傷が、度重なる酷使により今になって拡大し、殖装体の制御を疎外している。
「お・・・おのれ、ロアぁぁ、あ!!?」
そして叫び、気付く。
彼が飢えたように求めた緑柱石髪の戦闘妖精が、既に指呼の間まで迫っていることに。
「ミリィ・・・」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ミリィは、叫んでいた。
今まで生きてきた数百年の命の中でも感じたことのない、戦いにではなく、己の背を支えてくれる者への感謝と喜び、それが胸を高鳴らせ、喉を振るわせる。
そんな、叫びを。

そして。
チェイサーギムレットが、ギガンティックダークネスの障壁を打ち破る。無茶な攻撃乱射をしても尚有り余るエネルギーで作られたバリアは強固で、突破するだけで精一杯、ギガンティックダークネスの肉体にそれほど大きく傷を付けたわけではない。
ただ。
その微かなる一撃は。
見事に、巨人殖装の制御メタルを撃ち抜いていた。

「ぎゃああああああああああああああ!!」
無敵を誇った黒い巨人が、分解し、落ちる。


「ぐ、おおお、おのれ・・・」
地に落ちたギガンティックダークネス・・・いや、巻島顎人は、改造された体とはいえ自慢の鎧なしに地面に叩き付けられて苦悶していた。あのままでは暴走した殖装体に取り込まれ、人間としての意識のない肉の塊になってしまうところだった。
力の殆どを失った今、もはや野望も何もない。逃げようと顎人が立ち上がった、その時。
「あらあら、顎人さん・・・」
何喰わぬ、まるでいつものままの表情で、アンシーがふわりとスカートを翻し、その前に立った。
「所詮、貴方はここまででしたか。」
「な、何だと!」
激する顎人だが、同時にその言葉には焦りと脅えが見え隠れする。
絶対の力と思っていたギガンティックダークネスを打ち破られた、その上。
それまでただの監視役と思っていたこの女の、発する気配が尋常ではない。薔薇の花のような赤いドレスと、絶やさない笑顔は代わらないが。それは・・・死体の血を吸って咲いた花のような、得体の知れぬ気味の悪さ。
「ミリィさんへの思いを捨てきれないどころか、肥大湾曲したそれを力にしようとした・・・そのように純粋さに欠ける殺意では、到底最強とは言えません。やはり・・・ダグバ様が復活しないことには。」
「な・・・な・・・」
発言の真意が掴めず動転する巻島顎人をまるで無視して、アンシーと名乗った女はつと一輪の薔薇を手品のようにどこからともなく出す。
「では、さようなら。」
そして。
投ぜられた薔薇はまるで弾丸のように速く、槍のように鋭く、針のように的確に、顎人の脳髄を貫いた。
「な・・・!」
その予想だにしなかった事態に、地上まで追いかけてきたミリィたちは驚愕する。
てっきり顎人の部下と思っていたと言うのに。ならば・・・味方であって味方でない存在だったというならば。
「く、捕らえろ!そいつがタロンのエージェント、「ゼウスの雷」の援助者だ!」
咄嗟に中条長官が叫び、滝とガイファードがその命に従って取り押さえようと飛びかかるが。
「ズ=グムン=バ!ズ=ゴオマ=グ!」
叫びと共に突如疾風よりも速く現れた黒い影が二つ、攻撃を受け止め阻む。
「な・・・!」
それは、見たこともない改造人間。それぞれズ=グムン=バと呼ばれた方は蜘蛛を、ズ=ゴオマ=グと呼ばれた方は蝙蝠をモチーフとしているように見える。
いずれも極めて均整の取れた体躯をしており、高いバランスの能力を持っていることが伺え・・・それと同時に、身につけているベルトバックルなどの装飾や手足や腰に巻いた布はまるで古代民族のようで、奇妙な違和感を誘う。
その二人を従えるようにして、彼女は僅かに首を傾げるような独特の仕草をしながら、婉然と微笑む。
「私達の名は、グロンギ。最強を生み出し世界を征する者。私の名はラ=バルバ=デ、姫宮アンシー、薔薇の花嫁とも呼ばれます。」
名乗ると、幾つもの名を持つ女は、悠然とドレスの裾をつまみ上げ、会釈。
「では、貴方達がザギバスゲゲルへと勝ち進めたら・・・また、お会いしましょう。」
ゴォォォォッ!
「な!?」
言うなり、薔薇の花びらがまるで吹雪のように舞い・・・それが消えた一瞬後には、また彼女の姿も消えていた。
あまりに、あっけなく。
「どう、なった・・・?」
思わず呟く戴宗に、師匠が答える。
「巻島顎人・尾沼静は死亡、仮面神官たちは機能停止、「ゼウスの雷」に協力していたと思しきあのラ=バルバ=デと名乗った女は逃亡、浅倉めは分からぬが、恐らくラ=バルバ=デが逃がした・・・となるの。すると・・・」
そして、それに滝が言葉をつなげる。
「逃げてった連中はともかく、「ゼウスの雷」には、勝った・・・ってことだな!」
「勝った・・・?」
「私達が・・・」
確認するような呟き。
そして。
「ぉおおおおおおおおおおおっしゃああああああ!!」
「うおおおおおっ!!」
「やった〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
ようやく、勝利を認識し、皆は勝ち鬨を上げる。
未来を勝ち取った命が、失われた者に報い、そしてこれからも生きていく事を誓う、生命の凱歌。
ここに、未曾有の規模で繰り広げられた国際警察機構・秘密結社バリスタス・ゼウスの雷間の戦いは、決着を見た。

そして、暫く。
「・・・ん?」
戦場処理の最中、まんぼうはふと気付いて、懐に手をやった。そして、小型通信機を取り出す。
「どうしたマボか?」
緊迫が解けたのか、口調が元に戻っている。同時に姿も、ぶみょみょぷにょんといった効果音がイメージされる独特の蠢きで、あっと言う間に元に戻ってしまう。
「あ、蛇姫さんマボか・・・援護要請!?例の対上位次元作戦で・・・うん、分かったマボ。」
ぴょこぴょこあわただしい仕草で通信機をいじくり回し会話すると、慌ててまんぼうは人間形態時の懐から出したそれを無限収納庫になっている口の中に押し込む。
「すぐいかなきゃ・・・と・・・」
ぴょこぴょこ跳ねかけて、まんぼうは止まり、振り向く。
そして、今まで見せたおどけた面とも真面目な面、二つの面のどちらとも違う、ややはにかんだような声音で尋ねる。
「あ・・・ロウラン・・・まだ、ついてきて、くれる?」
そんなおそるおそるの問いかけに。
「うんっ!!」
ロウランは花が咲いたような笑みで答える。
「そうマボか・・・じゃ、いくまぼ!BF団絡みでも有るみたいだし、うまくすればこの大陸支部の目標も達成できるかも・・・その間、頼むまぼ蠍師匠!」
途端に元気になり、飛行体勢に入るまんぼう。蠍師匠も慌ただしさに苦笑しながらも、しっかり任せろと胸を叩く。
「うむ、任せておけ。な〜に、どうやら他の騒ぎが持ち上がったようで、連中やはり当分わし等と事を構えるなど出来そうにないようだ。」
そう言って、蠍師匠は国際警察機構とアルフェリッツ傭兵事務所の面々を示した。

「何だと!?襲撃!!?」
とんでもない情報が飛びだした通信機に向かって、思わず中条長官の声が荒げられる。
「は、はい、BF団でも「ゼウスの雷」でもなく、全く未知の怪人達が突如現れ・・・しかもいきなり全面攻撃を仕掛けてきて、暫く暴れ回ったと思ったら唐突に消えてしまって。さらにBF団やタロンの部隊にも襲撃を行っていたとの報告もあり・・・訳が分かりません!どうも、イギリスに現れた例の集団と同一らしいのですが・・・」
「むう・・・」
報告を受け、しばし考える素振りをした中条長官だったが、しかし殆ど考えるまでもなく、策は決まった。
さっとミリィたちに向き直り、告げる。
「聞いての通りだ。この新しい事件にも、君達アルフェリッツ傭兵事務所の調査協力を依頼したい。無論、依頼料は払おう。」
「・・・はい!喜んで!」
「応!」
「うん!」
「了解しました!」
毅然と答える、アルフェリッツ傭兵事務所の面々。その中に、以前の鬱々とした気配は無く。
「のぅ、リュート・・・」
「震星さん?」
そこに、ふと震星が加わる。戦いは終わったというのに、心配そうな顔で。
「震星も、一緒にいていいか・・・?リュート。」
「え?いいですよ。一緒に戦って、命を共にした仲じゃないですか。」
「みゃ・・・」
にっこりと笑うリュートの顔が、翡翠色の震星の瞳に映る。猫のそれを思わせる精緻な造作の瞳は、とてもとても綺麗で、リュートは思わず見とれてしまい。
直後、唇を重ねてきた震星の行動に、全く対処できなかった。
(え!?!?!?)
一瞬頭が真っ白になる。現実が認識できなくなる。ただ顔に触れる和毛のくすぐったいような感覚と、麝香を思わせる甘い吐息、そして柔らかい唇の、同種の柔らかさに溶けてくっついてしまいそうな感覚が、酷く克明鋭敏に感じられる。
あまりに唐突なんで、周囲の人間も何が起こったのかとばかりにただ立ちつくしている。
吃驚して見開かれたままのリュートの目に映る至近距離の震星の顔は、とても幸せそうで。思わずリュートは、その顔をとても可愛いと認識する。
「んっ!?」
口の中で、また驚きが発生する。人工呼吸や意識のない相手に口移しで薬を飲ませたり、口づけ自体は初めての経験ではないのだが、こういう・・・「深い」口づけは既に200年近い時を生きてきながら、リュートにとってはまるで初めてだった。
「む、ううんっ、ん・・・」
そのとろとろとした感覚に、リュートの神経は妖しく慄く。
長命に比例して成長の遅い、人間で言えば中学生ほどの少女にしか見えないか細い体が、つり上げられたワカサギのようにピンと跳ねる。
その仰け反った拍子に顔が離れ、ようやくリュートは解放された。
「なぁ、なっ、何・・・」
真っ赤になった顔を出来るだけ厳しくしようとして、でも周囲から見れば明らかに失敗しながら詰問するリュートに、答える震星の声は甘くとろける、春の夜の猫の求愛歌のようだ。心なしかその体に、甘い麝香のような香りも感じられる程に。
「愛している、リュート。嬉しいぞ、命を共にしていると言ってくれて・・・」
それでようやくリュートは自分の言った言葉が、震星の時代では一種の愛の告白か結婚の宣言に等しいものであると理解したのだったが、それで動転が消えるわけでもない。何しろ・・・
「ちょ、いや、その!確かにそう言いましたけど、それはあくまで純粋な意味でと言うか、女同士ですよ私達!!」
目を白黒させるリュートだが、震星は対照的に無邪気な子供か小動物のように、小首を傾げる。
暫く考えを巡らせていると思しき表情をして、そして。
「成る程。もうこの時代では、その技術は失われているのか・・・でも大丈夫じゃ。震星は愛した者なら性の別無しに子をなせる故。」
本当に無邪気な、心の底からそれを喜んでいる顔で震星は言う。その表情がまた、リュートをしてどぎまぎさせる。
「は、繁殖って・・・」
「愛の一つの形、であろ?必ずしもと言うわけではないが、それが出来ないことは悲しいこと。だから未だ星星の間が一つであった震星達の時代には、そういう差を超える為の道具には事欠かなかったでな・・・」
そしてまたまとわりついてくる。
「わ、きゃふ、うんっ!」
姉の柳刃のように尖った耳とは対照的な、ナキウサギを思わせる丸っこい耳に震星はつと舌を這わせた。
集音・放熱の他に、今でこそ戦士系や召還士系に分かれているとはいえ、かつては全てのフォースマスターが高速で空を舞うときその星の大気の情報収集と体の安定を頼っていた耳は、敏感な神経の塊である。
そこに加えられた柔らかく熱い感覚はそれまでリュートが一度たりとて憶えたことのないもので、思わず過剰に反応してしまう。
「だ、駄目ですってば、みんな見てますよ!やめて下さい、恥ずかしいです!」
何とか、殆ど抜け欠けた力の全力を費やして、何とか震星を引き離した。
・・・確かに、周囲の国際警察機構の男共なんか、顔赤らめながらもしっかりこっちを見ている。猫科の獣のしなやかさと大人の女性の艶やかさを持つ震星が妖精のようにはかなげなリュートに絡みついている様は、成る程XY染色体を持つものなら思わず目が吸い寄せられるだろう。
「みぅ〜〜っ!」
しかし、そうすると震星は何とも悲痛な声を上げる。まるで飼い主から引き離されるペットの猫のように。
「あ、あぅ・・」
その声は、リュートの心に随分と罪悪感を沸き立たせ。
「ああ、もう・・・」
そして、この人とも天女とも獣ともつかぬ不可思議な存在を、どうしようも無いほど可愛く愛しく思っている自分に、リュートは気付いてしまうのだった。
共に戦い、共に生き残った。戦士達の間では、それだけで友足るに値する。そしてそれよりも深く、互いに心通わせたのならば、それは・・・
リュートの頬が、刺激への反応だけではなく赤くなる。
「だ、大丈夫。別に震星のこと嫌いになったりしないから。ね?むしろ私だって貴方に嫌って欲しくない、つまり好き・・・なのかな?まだよく分からないって、何言ってるんだろ私。ああでもとにかく、ああいうことをあんまりみんなの前で、ってのはその、今は駄目なの。ね?」
言いながら混乱し、心を落ち着けてW言葉を紡ぎ直してはまたそれに自分でどぎまぎしてしまうリュート。何もかも、初めての感覚だった。
「にゅ・・・うん。」
少し目尻に涙さえ浮かべて騒いでいた震星は、その言葉でようやく大人しくなった。
大人しく、リュートの側にたち、今度は余り危なくない抱擁を交わすと、一緒についていくことを改めて宣言する。
もっとも、その直後にふとまたリュートが顔を赤くしたのだが、その時に震星がまた何か言ったのかもしれない。


「う、うわ〜・・・み、ミリィさん、リュートちゃんが、ちょっと・・・」
その二人の様子に頬を赤らめながら呟くロア。
「わぷっ!?」
だったが、直後もっと凄い狼狽に襲われる羽目になる。
何故かミリィまでが突然、ロアを抱きしめたのだ。そんなに背の高くないロアはぎりぎりミリィの胸元に顔が当たる形になり、超耐熱防弾繊維で織られたイエローの布地ごしの柔らかい感覚に、全身の血が沸騰するような感覚をロアは憶える。
「な、な、なに・・・」
ロアからは見えないが、耳の先まで真っ赤になった顔で、照れくさそうにぼそぼそとミリィは呟く。
そうとう照れくさいのか、けっこう手に力が入っている。
「別に、リュートがじゃれてるんだから、あたしがやっても問題はないだろ。・・・べ、別にちょっと面白そうだからやってみてるだけで、あの震星みたいな意図とか、お前のことそう言う風に思ってるとか、そんなの、全然ないんだからな。」
ぼそぼそっと呟くミリィ。自然うつむきがちになると、蒼いロアの髪の毛が緊張した唇をくすぐり、どきりとして慌てて顔を上げ・・ようとするけど。
「う・・・」
照れが臨界値を越えたのか、ロア諸共そのまま動けなくなってしまう。
そのままの、照れたままの、でもそれ故にありのままな、抱擁。

幸い国際警察機構の面々もてんやわんやの有様なので注目されずに済んだが、そうでなくばさぞや冷やかされたであろう。
とりあえずバリスタスは騒ぎの輪の外でしっかり見ていたので、あとで冷やかしの手紙でも送りつけられる筈。

「・・・みたいまぼね。」
「あ、ああ・・・」
何だか別の意味も混じってるケド。それと、一人輪の中に加われない滝がちょっと可哀想だし。
気を取り直して、早速その転移能力を持ってロウランとともにまんぼうは行く。
「ねえ、まんぼう。」
「マボ?」
時空間の道を開いている間に、ロウランが質問した。
「どうしてまたぬいぐるみになっちゃったの?かっこよかったのに。」
その問いに、今度はまんぼうが笑って答える番となる。
「マボ。その答は簡単。男の一世一代は、そうそう安売りするもんじゃ無いマボ。それに・・・」
にっこりと。
「いつもは、みんなで笑っていたいから。」
「・・・うん!!」
そして、笑顔は笑顔を呼び。
駆け行く、未来に。

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