秘密結社バリスタス第二部大陸編第四話 力の交差
蚩尤塚での戦いが起きる、丁度そのころ。
まんぼうたちバリスタス大陸支部・秘匿名称「義和団」の面々は、アジトの作成を行っていた。
それほど手間のかかることではない。まんぼうの能力である次元操作、その一環である無限に近い体内容積を縦横無尽に使い、まず土をがばっと吸い込んで、地面に大穴をあける。そこに、体内にしまっておいた組み立て済みのアジトを口から例の如くにゅもっと吐き出し、設置。こまごまとした設備もやはり全部口から吐き出し、それらを搬入した後に入り口を残して先ほど吸い込んだ土を、アジトの体積分だけ減らして元に戻す。
文章にすると凄く簡単な、それだけで地下アジトがあっさりと完成してしまった。
「め、滅茶苦茶だな・・・」
流石組織を束ねる大幹部の力、とばかりに、見ていた仮面怪人パチスロ仮面が驚愕の声を漏らす。
口から次から次へとものを吐き出すまんぼうのぬいぐるみと言う珍妙な絵面に呆れていた、ともとれないこともない声だったが。
「電気系統、基地内外通信網、各種防御システム、全て正常に作動。問題ありません。」
「うむまぼ。」
パソコン仮面の報告に、こくりと頷くまんぼう。達磨か起き上がりこぼしか、そんな感じで。
「わ〜っ、凄いね、まんぼう!」
と、そんなまんぼうの傍らで無邪気な歓声が上がった。
水色の瞳に驚きと感心の煌きを乗せ、手を叩いて笑う銀髪の少女。その姿に、まんぼうは青いたらこ唇をふにゅとほころばせる。
彼女の名はロウラン。前回の大陸犯罪組織掌握作戦時に、偶然遭遇したたらいに乗った少女。話を聞いてみると、どうも彼女はここ数日以前の記憶がないのだという。
記憶喪失。自分のことも、名前しか覚えていないのだと。気がついたときは山奥の小川の近くにいて、下流にいこうと思って落ちていたたらいに乗って川くだりしていたらしい。
そして、ある意味記憶喪失であるということよりもさらに奇妙なことに。彼女は・・・
「ふふ、これくらい大したことないまぼ。」
笑うまんぼうに、ロウランもまた笑みで答える。
そう、彼女は、まんぼうたちを見ても全く驚かなかった。
質感的にぬいぐるみそのものであるまんぼうが喋っているのは、可愛いと言えば可愛いが驚きといえば驚きの光景である。そして、奇怪な頭部を持つ仮面怪人たち。
それを見れば普通の人は驚き、恐怖鳴り嫌悪なりを示そう。だが彼女は、そういう反応を全く示さなかった。比較的ユーモラスなまんぼうと仮面怪人だけではなく、念のため蠍師匠の本体、人と蠍の融合体の凶悪で攻撃的な姿を見せても。ただ、
(何だか・・・記憶を失う前に見て、慣れてたような、そんな気がする)
と。そう答えたのだ。
これは放っておけない、とまんぼうは考えた。そんな反応を示すと言うことは、記憶を失う前の彼女はもともとまんぼうと「同じ側」の、裏の世界の人間だった可能性が高い。
そんな彼女が記憶を喪失した状態でふらふら歩いているのは危険だ。それにまんぼうたちの姿を見られている。
いや、そんな理屈ではなく、とにかく放っておけない。まんぼうはそういう性分だった。
それで、まんぼうはこの娘を引き取ることにしたのだ。それから数日。まんぼうたちはこれといって騒ぎに巻き込まれることなく、大陸方面の作戦の第一段階、地元通常犯罪組織の統括を完了させていた。
与謝野組の調査依頼に基づき背後を洗ったところ、漠然とだが一つの組織がそれらに資金面などで日本進出の援助をしていたこともつかんだ。それでもう少し細かく、腰を落ち着けて調べるためこのアジト建設となったわけである。
とっ捕まえたチャイニーズマフィアたちはそれぞれ更生させたり御仕置したりバリスタスで雇ったり、少なくともそのまま犯罪を重ねるよりはましな身の振り方を提供してやる。そのたびにロウランが、
「凄い。まんぼうちゃんは可愛い正義のヒーローだね!」
とか言うので、まんぼうは対応に苦慮し、自分が悪の秘密結社の大幹部だということをしつこく説明する羽目になるのだった。
「まんぼ〜っ、私、家の中見てくるね〜っ!」
ぼろいマントを翻して、ロウランが駆け出す。
「まぼ〜っ、あれは家じゃなくでアジトまぼっ、ロウラ〜ン!」
いちいち注意するまんぼうだが、別に目くじら立てている分けではない。むしろ、楽しそうだ。
そんなまんぼうの隣に、紫の胴着を着た人影が立つ。蠍師匠だ。
「ふむ・・・」
「どうしたまぼ?」
思案げに、ロウランの後姿を見る師匠に、まんぼうが問いかける。
答える師匠の顔は、以外に厳しい。
「まんぼうよ、お主、これからあの娘どうするつもりなのだ?」
そして、逆に問い返す。
「あの娘の記憶、恐らくは何か、相当な事柄が隠されているのだろうとわしは思う。直感だがな。それで、戻らない今はともかく戻ったときが問題だぞ。あの娘の本性が何なのか、わしらバリスタスの敵なのか味方なのか・・・」
確かにこの師匠の言葉は当然の問題だ。改造人間の存在を知っている・・・となるとその招待は二つに一つ。組織の構成員か、正義の味方か。そして組織にしても、バリスタスと組める組織か、組めない組織か。
まんぼうは答えない。だがその顔は、ぞんざいに可愛いぬいぐるみでありながら、はっきりと思案、苦悩に近い複雑な思考が見て取れる。
「分からないマボ。でも・・・」
と。
「うっ・・・!?」
突如、それまでまんぼうと楽しげに談笑していたロウランが、苦しげな表情を浮かべてしゃがみこんだ。
「ま、まぼ!?どうしたまぼ、ロウラン!?」
驚いて、短い胸鰭を伸ばしてロウランにすがりつきまんぼう。ロウランは心ここにあらずと言った様子で、ぶつぶつと何事かをつぶやいている。
「い、いるっ、何が・・・き、き、鬼、鬼、て、敵、的、目的、・・・私の・・・目的・・・」
ロウランの体が震え、そして。
「な・・・!」
突如、光がロウランを包んだ。
ロウランが光っているのでも、どこかからロウランが照らされているのでもない。一般物理学ではありえないことだが、ロウランの周囲を光が球状に取り巻いているのだ。
「ロウラン!」
叫ぶまんぼう。彼の知識の中には、それに近い現象は存在していた。マンボウ自身が得意とする次元技術とは微妙に異なるそれ、ガーライルフォースによる次元間のエネルギー移動。それによって、局地的に、別次元に「遍在」するエネルギーが、ここに限って「偏在」する。
光が収縮し、そして消える。それが終わったとき、そこには先ほどまでのロウランとはがらりと様変わりした姿の少女がいた。
ぼろぼろのマントにミニスカートとキャミソールというちぐはぐな衣装は、随所に桃色の、拘束具紛いの装甲をつけた艶のある黒のボディスーツに。その上に、伝説の仙女が纏う羽衣のような、細い半透明の布のようなものがまとわりついている。
長い灰銀色の髪は正反対の、ショートカットの金髪に変わり、中央に赤い宝玉が埋め込まれた鉢金でアップにまとめられている。
そして何より、その目だ。瞳の色は同じ水色のままだったが、それ以外は姿かたち以上に正反対。穏かでやや気弱ともとれそうな垂れ目の瞳が、獲物を追う猟犬のような攻撃色に満ちている。
「私の目的は、鬼を、全ての敵を、滅ぼすこと・・・!」
確認するように、別人のように低められた声で言うと、・・・一気に飛んだ。あっという間に超音速に達すると、内陸部に向けて飛んでいく。
「ろ、ロウラ〜〜ン!!」
慌てて後を追うまんぼう。通常まんぼうの飛行速度はたいしたことは無いが、全力を振り絞って追いすがる。
「ぬぅっ・・・危惧したとおりになってしまったか!」
蠍師匠は歯噛みすると、即座に怪人形態になり、仮面怪人たちに号令する。
「お前達はこの基地を守っておれ!まんぼうとあの娘はわしが追う!」
「は、はっ!」
仮面怪人の答礼を待つのももどかしく、蠍師匠もまた飛行しているのと殆んど変わらない大跳躍を繰り返し、まんぼうとロウランの後を追った。
蚩尤塚での戦いは、決着がつこうとしていた。
BF団のサイボーグやアンドロイド、エージェントで構成された通常部隊は風間兄弟とロア、マークハンターによって駆逐されつつあり、主力たる巨大ロボットも、モンスターを破壊したミリィのバムソードとの戦いに追い詰められつつある。
「ギオオッ!」
体内の機械の唸りを、口からまるで咆哮のように吐き出しながらギャロンは長大な尻尾を振るった。全長が自分の身長すら超えるそれを、バムソードは軽がる跳躍してかわす。
それを確認したギャロンの電子頭脳は、跳躍の着地地点へ向けて機体を突進させる。常識的に言えば正しい判断で、その巨体の質量をもって敵を蹂躙できただろうが、相手が悪かった。
「オオラァッ!!」
重力スラスターを使い、ミリィは空中でバムソードの姿勢を変えた。ギャロンの太く長い首筋に太い足の爪を叩き込む。腕のそれよりもさらに強力な一撃が、ギャロンの首の殆んどを引きちぎった。
「Pi・pibi・・・」
よろよろとよろめくギャロン。まだ頭は胴体とつながって入るが、殆んどぶらんぶらん、皮一枚と言った有様だ。
バムソードのコクピット内で、ミリィはにいと唇を歪める。あとは、中枢区画の入っていると思しき頭部を叩き潰せば、それで終わりだ。
「なんだ、あっけない・・・!?」
思わず口に出していたその呟き。それが、一瞬ミリィを縛った。
私は、今、戦うことを、楽しんでいる、のか?
それが、どうした?
以前なら当たり前のこと。それに不意に心が疑問を投げかける。僅かな混乱。
その一瞬の間に、敵は動く。
「Bi・・・Pi!」
「え!?」
突如、ギャロンの体が分解した。黒い体が部品一つ一つに分かれて、先導するように飛び上がった、首から切り離されて円盤型宇宙船に近い形になった頭部についてそれぞれが飛び上がる。
ダメージを与えた首の部分も、欠落したものまで一緒に飛び上がる。このままでは再生されてしまう。
「こ、このっ!待てっ!」
確かに不意をつかれはしたが、ミリィの反射神経はそれに追随した。バムソードの両肩部分にあるバイオスフィアが高速で細胞分裂し生体ミサイルを形成、飛ぶ部品たちの八割近くに一気にロックオンする。
これで相手が逃げても、もはや体を再構成することは不可能だ。
そうミリィが思いかけたとき、唐突にその音が響いた。
パチィン!
指を弾いて鳴らす音。それに近かった。だが、それにしては異常に大きい。
そして直後、バムソードの右肩が裂けた。
「うあっ!?何・・・!」
それでもミリィは歯を食いしばり、左肩のミサイルを全段発射する。しかし、指を鳴らすような音がさらに連続して鳴り響く。
パチン!パチパチパチ、パッチィン!
ドドドドドドドドド!
直後、発射されたミサイルが全弾真っ二つにされて吹っ飛んだ。当然、ギャロンへの攻撃としては失敗だ。
しかしミリィは、それをみて相手の攻撃方法を掴んでいた。
真空断裂・・・いわゆるカマイタチだ。空気中に真空の隙間を作り出し、それをぶつけて物質を切り裂く。そしてミリィは、同時にそれが発射されたと思しき場所も掴んでいた。
「ちいっ!」
咄嗟にその咆哮に、バムソードの額に仕込まれたプラズマバルカン砲の発射孔を向ける。
その照準の先にいたのは・・・一人の男だ。スーツに身を包んでいて、赤茶けた髪も体もまるで普通の人間にしか見えない。その両目は瞳が存在せず全体が白く濁っており、しかし視力は存在しているようでしっかりとミリィ=バムソードを見据えている。
「ふふふ・・・まあ名乗るだけの時間は貰おうではないか。私の名は、「素晴らしき」ヒィッツカラルド。BF団十傑集の一人だ。この作戦を預からせてもらっている。」
「うるさいっ!」
余裕綽々、といったその言動は、酷くミリィの癇に障った。喋る途中の相手に、問答無用でプラズマバルカンを発射する。
「おおっと!」
大きく早く、明らかに人外の速度で跳ねてそれをかわすヒィッツカラルド。同時に、その手が突き出される。
「無粋な奴だ・・・折角だからもう少し楽しまないかね!?」
パチィン!
また、あの爆ぜるような音。その正体は・・・本当に指を弾く音だった。
ぱちんぱちんと彼が指を弾いて音を出すたび、鋼鉄すら寸断する真空の刃が、際限なくその手から生み出される。舞うように滑らかなその仕草が、恐らく「素晴らしき」という彼の二つ名の由来なのだろう。
しかしミリィの反応速度もまた、「素晴らしい」といえるレベルだった。視認不能の真空断裂を、バムソードの巨体を躍らせてかわす。
「ふっふっふ・・・いつまでかわせるか、おおっ!」
突然それまで余裕ぶっていたヒィッツカラルドの顔が歪む。拳がめり込んだのだ。吹っ飛び、ごつごつと岩のむき出した地面に叩きつけられるヒィッツカラルド。
戴宗だ。
「出やがったな十傑集!九大天王の名にかけて、この俺が相手になるぜ!」
そう叫ぶ戴宗は先ほどヒィッツカラルドを殴り飛ばした両手と両足を光らせて、空中に浮遊している。
彼、神行太保・戴宗の特殊能力・・・噴射拳。己の体内にエネルギーをめぐらせ、手足から自在に噴射し戦う・・・格闘専門だが、能力としてはガーライルフォースマスターに近いかもしれない。
「ヒィッツカラルドか・・・「衝撃」のおっさんはどうしたんだい?」
「ふん、アルベルトめは別所で作戦中だ・・・私を前にしてそんなことを気にするとは、随分と余裕だな!」
「一応ライバルなもんでね!」
「舐めるな!」
短い言葉を往復させた跡、再び二人が動き出す。
指を弾き、真空を放つヒィッツカラルド。両足からエネルギーを噴射してそれをかわし、拳を打ち込もうと迫る戴宗。
こう、叫びをおいて。
「ギャロンをとめろ!早く!」
その叫びを聞いたミリィが、舌打ちする。二人の動きに気をとられて、ギャロンを止めそこなった。
慌ててバムソードを反転させ、ばらばらになって飛ぶギャロンを追う。ペダン星の誇る単純な機械式ならば銀河最強の戦闘ロボット(ブラックホール第三惑星産のメカゴジラの方が優秀だと言う説もあるが、微妙だ)キングジョーに似た力だ。
だが、負けはしない。キングジョーのように高効率の斥力を使っているわけでもない、分離した状態でいつまでも飛ぶことは出来ないだろう。
走りながらエネルギーを充填する。着地・合体したところで荷重力荷電粒子砲・マグナムブレイズで消し飛ばしてやる!
そのミリィの決意は、砕けた。
「な・・・!」
「BiBiBi・・・!」
ギャロンが着地した場所。それがよりにもよって、村のど真ん中だったからだ。
「Pi!」
同時に、体を再結合させたギャロンが両目を光らせる。かなり大口径のレーザー砲だ。
かわすこと自体は何てこと無かった。だが、それとは別にミリィの内心には焦りが満ちる。
(どうする・・・どうする!)
単純にギャロンを撃破したいなら、ことは簡単だ。村ごとマグナムブレイズで消し飛ばせばいい。実際、以前は似たようなことをしてのけたことがある。
だが、どういうわけかその選択をするのが凄く嫌なのだ。何故かは、分からないが。
(どうしちまったんだあたしは・・・あ!)
追い詰められた脳が、かえって高速回転してひらめいた。さっきモンスターを倒したのと、逆の要領だ。
ギャロンの懐に飛び込み、顎を狙う要領で下から頭を打ち抜く、それなら村への被害は最小限でとどまるはずだ。
「よし・・・っ!」
そう決めて、走り出そうとしたとき。
視界が、光で埋まった。
もう、人の耳には到底音とは捉えられないであろう、空気の津波、衝撃波の打撃。
それが押し寄せる。頭部の各種センサーを損傷しないように、ミリィは咄嗟にバムソードを屈ませる。
頭上を、「何か」がいくつもいくつも吹き飛ばされていく。
それは岩だったものだったり。家だったものだったり。家畜だったものだったり。
人だったもの、だったりするのだろう。直撃を受けて一撃で蒸発した以外の、周囲にいたものたち。
爆風が行き過ぎた後、そこには、何もなくなっていた。貧しげとはいえ確かに人が生活していた村は、ただ、一個の大穴になっていた。
「あ・・・あああ・・・あ・・・」
そのあまりに激烈な破壊に、流石のミリィも声を失う。戦いの前に滝が言葉を交わしていた幼い少女の面影が、視界をよぎった。
当然ギャロンも跡形もなくなっては、いたが。
戦いあっていた戴宗とヒィッツカラルドの姿は見えない。どこかへ吹き飛ばされたのか、巻き込まれてしまったのか、待避したのか、ミリィには分からなかった。
ただ、この攻撃がバムソードのマグナムブレイズとほぼ同威力かそれ以上の荷電粒子砲によるものだということは分かった。
そして、地面に残った後の状況から、それがほぼ直上から打ち込まれたものであることまで、ミリィの脳は推理分析する。
上を見るミリィ。その動きは、当人の意識しているより随分のろのろとしていた。
その様子に、ようやく上向いたミリィの視線の先から、嘲笑混じりの疑問が投げかけられる。
「どうした?何をそんなに愕いている?」
その冷然とした声を放つのは、空中に重力を無視してぴたりと静止する、黒い影。逆光と言うわけではない。それ自体が、漆黒の色をしているのだ。
バムソードよりは幾分か小さいが、それでもかなり大きい。3m〜5mはあろうか。尻尾など無い完全な人型だが、そのディティールの印象は人からはかけ離れている。
長く鋭く、優美に反り返る一本角。全身を覆う生物的複雑さの極致と呼ぶべき黒い装甲、そして巨大に発達した、丸い宝玉のようなものが嵌った肩。
甲虫かカブトガニか、何かそういった外骨格生物を思わせるが、口にする言葉と、何より重装甲の合間の細いスリットのような目に宿る意志は、人間のものだ。
「久しぶり・・・と声くらいかけてはくれないのかな?まんざら知らない仲ではないと思うが。」
すこし心外と言わんばかりの声。
その時になって、混乱に処理速度が落ちたミリィの脳は、その声の主の正体に気づいた。ガイファードたちと同じくHUMAにいたころ会ったことがある。降臨者の遺産である強化外骨格、強殖装甲ガイバー・ユニット。その二人いる殖装者のうちの一人。対クロノス・レジスタンス「ゼウスの雷」リーダー、巻島顎人だ。
しかし、彼の今の姿はミリィの知るそれとは様変わりしていた。確かに、印象としては黒い装甲と鋭く細い眼は、ガイバーVに近い。だが、ガイバーVはこんなに大きくなく、重力を制御して宙に浮かぶ術もなく、そして、これほどまでに巨大な破壊をなす力は無かったはず。
「ま、巻島・・・お前、お前何をしているんだ・・・それに、その姿は・・・」
ミリィの声に混乱と震えを感じ取り、それに何故か酷く気分を害したらしく、荒々しく巻島は息をつくと言葉を継いだ。
「ふん、腑抜けたかアルフェリッツの姫!」
轟然と、黒い装甲に覆われた胸を張る。
「俺たち力があるものに、戦う以外に何をすることがあると言うのだ?こちらこそ聞きたい、何だその様は。俺が目を離した隙に、随分弱くなったものだな。折角、俺はこんなに強くなったと言うのに。」
「何・・・っ!」
弱い。その言葉に反応して、ミリィの胸に戦闘種族としての闘志が戻る。
反論の言葉を吐こうとしたその時、間に割って入るものが現れた。
「貴様・・・」
BF団十傑集・「素晴らしき」ヒィッツカラルド。先ほどの爆風は避けきっていたらしく、スーツには汚れ一つ無い。おそらく超高速で後退し、そして今戻ってきたのだろう。
「どこの馬の骨かは知らないが我等BF団の作戦を妨害し、あまつさえ偉大なる我等が総帥、ビッグファイア様の所有物たるロボットを破壊するとは・・・いい度胸だ。褒美に・・・真っ二つにしてやろう!!」
言うなり、指を鳴らして真空断裂を放つヒィッツカラルド。その声と動きには、BF団最強幹部たる十傑集の自信が満ち溢れていた。
「やかましい。」
言うなり、軽く巻島はその黒い装甲に覆われた腕を振った。障壁が形成され、バムソードのバイオスフィアを切り裂いた真空断裂が完全に防御される。
まさか、と濁った目を剥くヒィッツカラルド。構わず巻島は、まるで日常の何気ない仕草のように、気負いもなくヒィッツカラルドに近づき。
「どけ。」
ぐばしゃああああああっ!!!
「ヒゲェッ!」
黒い拳が、宇宙の中である意味で最も黒い、光を飲み込むブラックホールを思わせるほどの重力子を纏って叩き込まれる。
一撃でヒィッツカラルドを、クロノス12神将に並ぶ力を持つと言う十傑集を殴り飛ばした。
はるか彼方に吹っ飛ぶヒィッツカラルドに目もくれず、ごみ処理とばかりに、その落下したあたりに適当に・・・雷を落とす。爆発の向こうへ消えるヒィッツカラルド。
「その能力・・・!」
目を見張るミリィ。十傑集をあっさり倒しただけではない。その雷を操る力を、彼女は見たことがあったからだ。
秘密結社クロノス十二神将の一人、プルクシュタールの技。
「ふふ・・・」
驚くミリィに、巻島は笑った。まるで友達に新しい玩具を見せびらかす子供のように、得意げに。
そして、唐突な事実を告げる。
「ふふ、暫く地球を離れていたお前に教えてやろう。秘密結社クロノスは、既に無い。この俺が壊滅させた。そして、深町晶=ガイバーTも同じだ。両方とも、この俺が倒した。」
それが何かとても誇らしい、名誉なことであるように巻島は言う。その口調に、ミリィは違和感と嫌悪と、そして・・・何か恐ろしいような感覚を覚える。
何か、それが戦闘などよりもさらに深い意味で自分に関わる、ような。
「この姿は巨人殖装=ギガンティック。深町の奴が自己進化させた、ガイバーユニットの上から装着する強化パーツだ。最も、奴は自我の強さ、支配力で俺に劣っていたから、奪って俺のものにしてやった。」
くくくく、と咽喉を鳴らす。
「そして、それだけではないぞ。クロノスの内乱に乗じて得た情報には、このガイバーユニットは着装するものが強化された肉体の持ち主であった場合、さらにその力を増すと言うことが分かった。迷わず俺は自分の体を強化させたよ。俺は深町やその辺の凡百のヒーローどもと違って組織を所有していたからな。そして数倍に膨れ上がったこの力でもってクロノスを滅ぼし、十二神将のゾアクリスタルを奪い取り、その能力の全てを手に入れたのだ!ははははははっ!」
耐え切れなくなったかのように、高らかと黒い鎧を震わせて笑う。そして、びしりと、バムソードの装甲を貫かんとするように勢い良く指をミリィに突きつける。
「いまや俺は、紛れもなく銀河最激戦区のこの惑星の中でも最強の存在だ。クロノスの連中は俺の纏った時の黒い姿を、ギガンティックダークと呼んでいたが、今の俺はただの闇以上、全てを飲み込む究極の闇、ギガンティックダークネス・・・とでもしておこう・・・それに比べて、今のお前の有様は何だ?まるで見ていられんぞ。」
「ど、どういう意味だよっ!」
それまで高揚したギガンティック=ダークネスの長広舌に圧されてつぐんでいた口を開くミリィ。
そのミリィの問い、それそのものがさらにダークネスを刺激したらしく、嘆かわしいと言わんばかりに長い角の生えた頭を打ち振る。
「先ほど言ったではないか、「腑抜けたか」と。何だあの無様な戦い方は。愚かで無力な虫けらどもなど踏み潰し、いかなる敵をも破壊する!それこそが強者の、俺やお前の戦い方であり、生き方ではないのか!?」
言い募るダークネス。そして彼は、決定的な言葉を口にした。
ミリィにとって、あまりに徹底的な。
「あの日お前は、それを俺に見せてくれたではないか。俺の目の前で、圧倒的な力を持ち、いかなるものをも気にかけず振舞う・・・まさに怪獣か「光の巨人」かはたまた降臨者か、全てを超越した者の生き様を。」
「・・・・っ!」
衝撃に、ミリィの頭は戦場であることを忘れて真っ白になりかかった。
この非情な怪物を作り出したのは・・・自分だというのか。
「だからこそ、お前を連れに着たのに・・・なあ。BF団・国際警察機構の粉砕、遺跡の技術の奪取、それと同等以上に、お前を欲して。」
ホワイトアウトした脳に、黒い言葉が染み入る。
「くそっ、好き勝手絶頂なことぬかしやがって・・・!」
戴宗に事情を説明され、そして今目の前でのミリィへのギガンティックダークネスの言葉に、歯噛みする滝。
「畜生・・・畜生!うおおおおおっ・・・!」
マークハンターとしてのマスクに覆い隠されて入るが、その仮面の下は血涙を流さんばかりであろうことが、声から知れる。
その激情のままに、だっとばかりに滝はギガンティックダークネスへ向かって走り出した。
「ああっ、滝さん!」
これは予想外だったらしく、呉学人が驚きの声を上げる。仮面ライダーとともに戦ったとかインターポール伝説の捜査官とか言われても、やはり彼の本質は極めて熱いタイプである。この状況で飛び出さずにはいられなかった。
必死に呉学人も思考をめぐらせる。
ギガンティックダークネスとアルフェリッツ=ミリィはまさに一触即発、いつ戦闘が開始されてもおかしくはない。
一方この場に唐突に割り込んでいたバリスタスの二人はそれどころではないらしく、何かを探しているように見えた。
そして蚩尤塚地下では、古代獣人が目覚めて動き出している、これに関してはいまだ味方なのか敵なのか判断できない。
「く・・・バリスタスに関してはひとまず静観しましょう、どうやら今のところこちらと事を構える気は無い様子!ミリィさん、それと滝さんへの援護には風間のお二人を、それと蚩尤塚は戴宗さんとロアさんに任せますっ!」
刺し当たって、今すぐ動かせる戦力が少ないのでバリスタスをおいておき、既存の脅威であるギガンティックダークネスに多めに戦力を注ぎ、未知の要素である蚩尤塚の獣人を戴宗たちで押さえる・・・これはそちらのほうがまだ解決の可能性が高いから、巧くいけばその後蚩尤塚に差し向けた戦力も合わせてダークネスへ対処できると言うのも考えのうちとなっている。
まずまずのベターな判断だろう。
「分かったっ!いくぜ兄貴!」
「おう!」
素早く、出来れば滝に追いつくべくかけだすガイファードとデスファード。
戴宗も急いで蚩尤塚へと向かうが、その後に続くロアの歩調はやや遅い。
「どうした?ロア!」
「あ、いえその・・・何でもありません、大丈夫です!」
そう答えるロアだったが、内心は穏かではなかった。
ミリィが、リュートが、別々の場所でピンチになっている。何とかしてあげたい。けど、一つの体では両方を助けることなんて出来ない。とにかく、今は目の前のことをするしかないのだ。
張り裂けそうな内心を押さえ、ロアも走り出す。
「ははははははははは!どうした、ミリィッ!!」
凄まじい速度と火力を交差させながら、高らかにダークネスは笑う。バムソードから猛射される生体ミサイル・プラズマバルカンの嵐を完全に防御しながら。
「折角、この俺の仲間に、配下としてではなく同格の仲間として迎えてやろうというのだぞっ!この星を支配し、銀河連邦を、全宇宙を我が物にし、その半分をやろうというのに何故断るのかな、ミリィィ!」
「黙れ煩いこの馬鹿っ!!」
ののしりながら、ミリィは内心の焦りを隠しきれないでいた。バムソードの武装が殆んど効果を示さない。もともとバムソードは機動性重視タイプで、火力自体はマグナムブレイズを除けばミリィ自身とそれほど変わりはしないのだが、それでもダークネスのバリアの強度はとてつもないものだ。
それでも策を考え付くミリィ。プラズマバルカンの射線を下げて、地面を掃射。高熱と電磁波、爆風の壁を作り出してセンサーを遮断する。
「おおおおおっ!?」
流石に驚くダークネス。そして。
「とったァッ!」
爆風で生体装甲の表面が焼け爛れるのも構わず、その中を突っ切ってバムソードが顔を出す。大きく開けられた口の中には、荷重力荷電粒子がワインレッドに輝く。
「マグナムブレイズッ!!」
「プレッシャアァカノン!最大出力ッ!!」
同時に、ダークネスも叫ぶ。
「な・・・!」
ダークネスの両掌から放たれた、強大な重力子の奔流。それが、同じく重力子で加速・制御されていたマグナムブレイズを裂き、バムソードの口に飛び込む
拡散したマグナムブレイズはダークネスに当たらず、周囲の山々を無駄に打ち砕いたにとどまった。対してバムソードは、顎をぐしゃぐしゃに砕かれマグナムブレイズ発射不能に陥る。その機体の傷みがダイレクトに伝わり、コクピットの中でミリィは仰け反って顔をかきむしり苦悶した。
「・・・・・・・!!!!」
声にならない悲鳴をかみ殺すミリィ。
「ははははははは!!」
その様子を見ながらそれが酷く嬉しいこと、戦いの一局面においての有利以上に大切な何かであるかのように、ダークネスはまた笑う。
「お前のことは調べてある、攻撃への対処法も何もかも!」
言うなり、指を揃え手刀の形にした腕を、勢い良く振り下ろす。
「絶空斬!!」
叫びとともに、とても薄くとても鋭い「何か」がその指先から放たれ、そして。
それがバムソードの左腕が切り落とされた。
「な・・・っ!」
さっきのヒィッツカラルドの真空断裂などとは比べ物にならないほど鋭い一撃。顔の痛みを一瞬忘れるほどの衝撃。
「くくっ、この技は元々は十二神将・李炎堆の技でな、空気ではなく空間そのものの断裂を作り出す、まさに絶対の刃・・・」
凍りついたように動かなくなるバムソードに、さらにダークネスの追撃が叩き込まれる。
「他にもこんな技もあるぞ!グラビティブレット・ガトリング!」
今度はそろえるのではなく、広げた両手の指を突き出す。そこから、黒い弾丸が機関銃のように十筋、途切れることなく連続して発射され、バムソードの装甲をずくずくに打ち抜いていく。
通常の弾丸ではない。マイクロブラックホール・・・小さくても超重量物質だ。いくらバムソードの装甲でもひとたまりも無い。
「ふははははははっ、どうしたどうした!?その程度・・・」
「シルフィンハーレーッ!」
「!?」
唐突に大型のプラズマ弾がダークネスの背中に突き刺さり爆発する。咄嗟ゆえに流石にバリアの展開が間に合わず、吹き飛ばされて地面に叩きつけられるダークネス。
いつの間にかバムソードの中から離脱したミリィが、バムソードをおとりにして背後へと回り込んでいたのだ。同時に、機体の維持が限界に達したバムソードが、自己修復のため元の異空間へ消える。
「もらったああっ!!」
ミリィの叫びが、度重なる爆発で煤の舞い散る熱い空気に響く。
爆発。
レモンイエローのプラズマ弾が飛ぶ。
爆発。
紫電が龍の如く猛り狂う。
「おおおおおおおっ!!」
爆発の中で、ダークネスの叫びが爆音にかき消されながら響く。
そしてそれでもその中から、重力弾・空間断裂・高出力レーザー・放電と反撃を繰り出してくる。
空間断裂の一つがミリィの耳をかすった。空中機動時にはカナード(前翼)の役割をし、同時に体内の熱を放出する役割も持つ、尖った耳。噴出した血が高熱でじっ、と音を立てる。
レーザーが真正面からミリィの太腿に突き刺さった。空力制御バリアに減衰されながらもそれは熱量を大部分保ち、特殊素材の戦闘服を貫いてミリィの足を射抜く。
重力弾が右肩に着弾した。反動で体勢が崩れそうになるのを、攻撃不能になる時間が惜しいとばかりに強引に姿勢を戻し、その拍子に肩関節が外れる。
もう一つ、空間断裂が脇腹を裂き、体勢を戻した胸に真正面から重力弾が激突する。
全身に激痛が走るが、悲鳴も上げずにミリィは攻撃を続ける。痛みに耐えるために食いしばられた歯が、その強さにかえって新しい痛みとなるが、それも無視して。
プルクシュタールの力を吸収したダークネスの雷が、ミリィの強力な電撃に飲み込まれ、逆にダークネスへと向かう流れの一部へと吸収される。
「うおあああああああっ!」
ミリィは、傷をいくつも負いながらも止まらない。
爆発。
ミリィが咆える。これを最後の勝機とばかりに、滑らかな咽喉と唇を震わせ叫び、ありったけの技を叩き込む。
爆発。
既に、爆縁の中からのダークネスの反撃は絶えている。いける、ミリィは確信した。
「ああああああああっ!!」
爆発!!
小規模の核爆発、かと思わせるようにきのこ雲が巻き上がる。
轟とミリィの咆哮に呼応するように爆風が吹きすさび、それをかき消す。
いや、その中でも僅かに、響いていたかもしれない。
ミリィの、攻撃を繰り返しながらの。
笑い声が。
爆風にうねる緑柱石色の髪に乱暴に撫でられる頬が、爆発を見つめる瞳が、確かに笑いに歪んでいた。
「あああはあはああははは!は、はぁ、はぁははは、はぁ、はぁ・・・げほっ」
とうとう体力が限界に達し、攻撃が停止する。
ぜいぜい荒い息と笑い、二つを同時に行おうとして咽喉を詰まらせ、ミリィは咳き込んだ。
その拍子に僅かに涙のにじんだ目をこすって、吹き散らされた爆煙の向こうを見て。
そして、本当の涙を流すことになる。
「ふふ・・・そうだ、それだミリィ。今の、そのお前を見たかったんだ、俺は。」
ギガンティック=ダークネス、健在。その巨体は流石に相当のダメージを受けているように見える。全身あちこちの装甲が焼け焦げ溶け落ち、エネルギーアンプと思しき肩の球体状の部分も片方が破裂して機能を停止している。
しかし、それだけだ。その巨体は焼け焦げた大地にしっかり立っており、その目には意志の光が爛々とともっている。
「自分の身を裂かれながらも構わず敵を攻撃し、何もかも一切合財を地獄の業火に叩き込みながら、その行為に堪らない陶酔を、至高の愉悦を、己の存在意義そのものを見出して笑う、この世で最も美しい獣・・・それが見たかったんだよ、俺は。」
そう言うとダークネスは、足元に転がっているものを、軽く蹴り飛ばした。その拍子に僅かに呻き声をあげるそれは・・・その高熱にあぶられて変形変色しながら僅かに原形をとどめる装甲服はマークハンター・・・滝和也だ。ダークネスの後ろには、ガイファードとデスファードらしき影も見えるが、微塵も、ぴくりとも動かずに地面に転がっている。
それにわざとらしく視線を這わせた後、ダークネスは自慢げに胸を張り、腕を広げた。
「どうだ?その、お前と言う凶暴なまでに美しい獣とやりあって、俺はなおぴんぴんしている。それに比べてみろ、この連中の情けないざまを。こんな弱い連中、お前の周りで生きるには値しない。そう思わないか?」
朗々と言ってから、ダークネスは両腕に生えている棘のようなものをしゅるしゅると伸ばし、もはや空中に浮かんでいるだけの力も絞りつくしたミリィに巻きつけ、引き寄せた。目の前にミリィを立たせて、そして分厚い胸部装甲版を開く。元々の「ガイバー」にも同じ場所に大型荷電粒子砲「メガスマッシャー」があったが、ここにあるものはそれよりもさらに大きい。出力も、これだけの大技を連続して繰り出しながら疲労の色すら見せないダークネスの力から考えれば、桁が違うだろう。
「俺は今、ここでお前をこのスパイラルギガスマッシャーで吹き飛ばすことが出来る。いくら怪獣並みの体の強度を誇るアルフェリッツ一族とて、これを食らえば助からん。だが、そうしない。つまり俺が勝者で、お前の命を握っていると言うことだ。」
消耗と、仲間を攻撃に巻き込んでしまったと言う事実に、いまだ思考が混乱しているミリィにも言葉が理解できるように一拍の間をおいた後、ダークネスはミリィの顎をその大きな手でわしづかむ。ミリィの顔を自分の顔に強引に向けると、黒い装甲に覆われた親指でぐいと強引にミリィの頬の涙を拭った。
「俺に従えミリィ。ともに来い!思う存分、お前の戦闘種族としての生命を全うさせてやろう!」
そして、叩きつけるように言い放つ。
「う・・・」
返答を待つ間、嘗め回すようにじっくりとミリィの顔に視線を注ぐダークネス。ミリィは顔をそむけようとしながら、視線自体はその黒い昆虫じみた顔から離せない。
「迷うことは無いぞ?どうせ遺跡のほうに向かったお前にまとわりつく者の残りもすぐに死ぬ、俺の部下どもが始末する。深町から奪ったガイバーTユニットや、「仮面舞踏会」とか言うヒーローどもを全滅させて奪った古代の仮面で武装させてある。俺やお前と比べれば弱いが、そのへんの虫けらどもなど相手にもならん。」
さあ、とダークネスが返答を迫る。
一方、ダークネスが「すぐに死ぬ」と宣告した少年は、そもそも興味の外といえる扱いの戴宗とともに、鳴動する遺跡へと飛び込んでいた。
そして、絶句する。
「うわっ・・・!」
遺跡の中は、国際警察機構のエキスパート達の死体で足の踏み場も無い有様だった。
遺跡守護、そして地上の戦闘の巻き添えを回避するために集まったエキスパート達、そこを敵が強行突破したのだ。
敵の死体はない。対して見方の死体は皆酷い有様だ。戦闘能力の差が圧倒的だったことを証明している。
確かに国際警察機構のエキスパートたちはみな人間場慣れした体術を誇り、下手な強化服着用者程度となら渡り合える。その装備も一見普通の銃や中国風の弓矢や剣だが、いずれも対改造人間強化はしてある。
しかし、超振動や高出力レーザー・荷電粒子砲、超高度物質の刃などで攻め込まれては、ひとたまりも無いことを死体たちの傷が雄弁に語っていた。
「ちぃぃっ・・・!」
歯軋りし、走り出す戴宗。
ロアも、必死に後を追う。「噴射拳」を使えば戴宗の移動速度は音速を超えるためとても追随できないが、地下ということで衝撃波で壁か崩れる危険から流石にそんなものを使うわけにはいかず、故に何とかロアが追いつける速度でもある。
しかし、それは逆にこの奥にいるであろうリュートや鷲羽へとたどり着くのが遅れると言うことだ。苦虫を噛み潰したような顔で、ただ二人は走る。
走る、走る、そして。
「ウオオオオォッ!」
キュドンッ!ドカァン!
叫び声と、連続した爆発音が響きわたる。戦っている場所が近づいている。そしてまだ戦っている、生き残っている人がいる。
その二つの意味を持つ音が聞こえてきた。
「でぇえいっ!!」
野太い叫びとともに、鉄牛が斧を敵に叩きつける。
その突撃に呼応するように、「指南」花栄の弓が唸り、ガトリング砲でもこうはいくまいと言うほどの大量の矢が放たれる。
しかし、眼前の敵、ガイバーTには微塵も効果を示さない。確かに突き刺さり、切り裂くことは出来る。だがその傷口はすぐさまに再生してしまうのだ。
反撃とばかりに、プレッシャーカノンが放たれる。巨人殖装のそれに比べれば小さなものだが、超能力者とはいえ人間など十人単位でまとめてミンチにしてしまえる。
「ロンヴァルト!バリアを!」
そこに、戦場に響くには可憐過ぎる少女の声音。ミリィの妹、リュートだ。その声に呼応して彼女の獣鬼兵、猛獣なみの大きさをした黄色い犬のような姿をしたロンヴァルトが俊敏に躍り出てバリアを展開、その場に生き残ったものたちをガードする。
しかしそこにいるのは鷲羽、リュート、鉄牛、銀鈴、花栄、黄信、楊志の七人だけ。地上に増援を呼びに言った呉学人を除いて・・・ここにいた国際警察機構の面々は全滅してしまったのだ。
敵の攻撃が終わった途端リュートはバリアを解除、同時に今度は銀鈴、黄信、楊志が討って出る。
銀鈴の大型拳銃が弾丸を吐き出し、国際警察機構一の腕前とも言われる黄信の剣が、楊志の金棒が敵を切り刻み、叩きのめす。
だが、それでも駄目だ。相手は平然と自己再生を行い、傷を治してしまう。それに敵も木偶ではない。反撃をしてくるのだ。
「ぬおっ!?」
全くの無言で進み出た、赤銅色の鎧と仮面を身に纏った敵が、虹色に輝く剣を無造作に振りかざす。素早く黄信はそれを自分の剣で弾こうとするが、身体改造を受けているものやBF団のエージェントにもきくように特殊鋼で作られた剣が、あっさり切り落とされた。そのままの勢いで虹色の剣は黄信の体を切り裂く。
血を噴出して倒れる黄信。リュートは、その理由を一目見て悟っていた。あれは光子剣、宇宙刑事が使うレーザーブレードのオリジナルとでも言うべき古代兵器で、起動状態だと表面に光物質が薄くコーティングされる。薄いとはいっても物質ではないが故に最も硬い存在である光物質だ。いかなるものでも切り裂いてしまう。
しかし・・・
「そんな、あれは、古代神官の仮面・・・!現存全十四種類すべて「仮面舞踏会」が管理しているはずなのに!」
ロンヴァルトにレーザーで牽制攻撃をさせて黄信を助けながら、驚きの声を上げる。「仮面舞踏会」は南米を中心に秘密結社「蝉の王」と戦う正義の組織のはず。それが何故こんなところでこんな悪行を。
「いえ、あれは違う!今スキャンしたけど、中身は別の人間・・・多分、殺して仮面を剥ぎ取ったんだ!」
鷲羽がリュートの叫びに答える。彼女は直接の戦闘能力が低いので、こういう形でしか今は役に立てない。焦燥と悔しさが顔に僅かにだが現れている。
「ええいっ・・・どうすれば・・・それにあいつ、この騒ぎの直接原因のくせしてどこいったんだい!」
舌打ちする。そもそもこの連中は遺跡の中でも特に貴重な文字通り「生きた」存在であるあの虎女を捕獲するために来たはずなのだ。
しかし込み入った遺跡の中で闘争する虎女を国際警察機構も侵入者達も見失ってしまった。あげく戦闘になってしまい、この有様である。
「グゥウウ・・・」
「ああっ、ロンちゃん!」
リュートが悲鳴を上げる。バリアにビーム、エネルギーを使いすぎたロンヴァルトがとうとう限界に達し倒れてしまったのだ。王族専用の高性能タイプとはいえ、無尽蔵のエネルギーなど無理な話である。しかも生体エネルギー補給用である獣鬼兵ロロンは、黄信の治療に使ってしまった。
咄嗟にギドラスレイヤーを抜いて構えようとするが、それより早く敵の仮面神官の一体、白い体に大きな腕、ロボットのような顔が特徴の奴が頭部の鋭い鶏冠をブーメランのように飛ばして攻撃してきた。
姉と違って獣鬼兵を操る召喚士であるリュートの身体能力は戦士である姉ほど高くはない。迫り来る手斧型の刃に、切り裂かれるかと思ったその時、その細い体に大きな影が覆いかぶさる。
「ぐっ・・・!」
「楊志さん!」
戴宗の妻、「青面獣」楊志だ。女性としては随分大柄かつ屈強な体で、斧ブーメランを受け止める。
さらにそのまま手で掴んで、相手の武器を奪おうとしたがそれは白い仮面神官のいわば体の一部、本体の思念で自立飛行して戻り、かえって楊志の掌を切りつけたにとどまる。
「ち、畜生!」
それでも立ち上がる楊志と、今度こそギドラスレイヤーを抜き放つリュートだが。
「おやめください。」
「!?」
唐突に、敵方の一人が声をかけてきた。いや、声ではなく十二神将が使うような念話だ。
それは、数体の仮面神官たちに守られるように後方に控えた女性的な姿をした者から発せられている。花弁を寄り合わせたような優美な姿で、他のものと違い仮面をつけているのではなく肉体改造を受けているらしい。
「降参してください。これ以上抵抗すると言うのなら、ガイバーTにメガスマッシャーを発射させます。獣鬼兵のエネルギー消耗でバリアが消えたことにより、貴方がたがこれを防ぐのは不可能です。」
確かに、この状態で二連装荷電粒子砲であるメガスマッシャーを食らえば、ひとたまりもなく全員木っ端微塵だ。
「っ・・・あっ!」
その危機的状況で、唐突にリュートが叫び声をあげる。
その視線、念話によって感知した表層意識から、仮面神官の指揮者は慌てて振り返る。
その背後の、通路の分かれ道。
そこから走り出る・・・三人の影!?
「うわああっ!?」
「ロア、さん!?」
「でぇぇい、くそっ!」
「あんた!?」
ロア。
リュート。
戴宗。
楊志。
そして、
「ふぁあああっ!?」
金色に真紅の縞の毛皮、青紫の頭髪が踊る。
通路から出てきたのはロアと戴宗と、そしてあの虎女だ。
それも虎女がロアに飛び掛りそれを戴宗が引き剥がそうとしてもつれ合って。
「く、このっ!」
虎女を振り払おうとしながら、ロアは内心また悔しがる。リュートを助けるつもりだったのだが、これでは単に的を増やしただけだ。折角敵に奇襲できるポイントにいたのに・・・!
一方、ロアを押し倒した虎女は、驚愕と混乱がない交ぜになった顔をしてロアを見る。
「うぁ!?何じゃお主、ギドラーグの・・・いや違う!?一体お主誰だ!何故戦おうとしている!?」
そして、慌てた仕草で身を翻して、仮面神官やガイバーたちに向き直り叫ぶ。
「お主ら・・・一体何をしておるのじゃ?!この人たちは何じゃ!何故殺そうとするのじゃ!おぬし達はロウランだけに飽き足らず・・・やめよ!戦いなどやめよ!」
叫ぶ虎女。しなやかな身を翻して、二つの勢力の間に割って入ろうとする。対して言われたガイバー・仮面神官たちには戸惑いの表情。虎女の呼びかけは明らかに見知った相手に対するもので。
疑問から最初に立ち直ったのは、指揮官の女だった。答えを見つけ出すより早い方法・・・無視することにしたのだ。
「・・・攻撃!捕らえなさい!」
指導者の命令に従い、ガイバーTや仮面神官達が次々と攻撃を放つ。
対して震星はそれを防御しようと構えをとる。それはミリィと類似した、ガーライルフォースを使う構えだったが・・・
「なに・・・!?」
「え?」
虎女は目を丸くする。痛みより驚きが先に立っていた。
そう、ガイバーたちの攻撃が、なんの防御もなく震星の体に突き刺さったということに。
「な・・・あれ?」
腹から、足から、腕から、首筋から、血が噴出す。それを虎の女は信じられないと言った様子で見て、そして倒れた。
「え、え、な!?」
本人も驚いたのだろうが、見ていたほうも同じだ。遺跡の映像を見るに高い戦闘能力を持っていたはずなのだが、それが何故。
「いっ、痛い・・・痛いっ!!何故じゃ、どうして力が使えないのじゃ・・・!!痛い・・・あああ・・・!」
金色の美しい毛皮を血塗れにして、のた打ち回り泣き叫ぶ虎女。その様にリュートは言い知れない悲しみを覚えた。
この遥か古代から時を越えて来た人は今がどうなっているのか自分に何が起こっているのか何も知らず、そして私達と知り合うことも分かりあうことも泣く死んでいくのだろうか。
それに今、この人は。私達を守ろうとして・・・!
「たすっ・・・助け・・・」
ふらふらと、混乱した視線がさまよう。その中に映ったのは、自分を捕まえようとする鎧を纏ったものたちだけ。
それを見たくないかのように、人でも虎でもない女は咽喉をそらし、顔を天井へと向け、叫んだ。
「金、沙羅・・・・金沙羅(キンシャラ)〜〜〜〜!」
寂しげな、絞るような、その叫び。
「ユオオオオオオオオオオオオン!ルオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
それに答えるように・・・どこからか巨大な咆え声が響きだした。
同時に、それまでも封印が解かれてから揺れ続けていた遺跡が、さらに激しく揺れだす。
「これは・・・」
慌てて手持ちの光量子コンピュータを操作する鷲羽。その顔が驚愕に引きつる。
「もっと下に、何か・・・何かがいる!?」
パニック寸前の表情を浮かべる鷲羽。
「オオオオオオオオオオオオオオオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
そして、床を下からぶち破って、それは現れた。
恐らくは金沙羅という名前の・・・身長30mを超える怪獣だ。全身呼び出した女と同じ金色の美しい体毛を持つ、哺乳類型。いや、顔や体のつくり自体は爬虫類にも近く、地球のジュラ紀以前、恐竜が生まれる前に生きていた哺乳類の特徴をいち早く備えながらも生存競争に敗れ生命の歴史の影へ消えた、哺乳類型爬虫類に近いのかもしれない。ただしそれらには無かった、二足歩行をしている。
後頭部に向けて鋭く長く伸びる耳、尻尾がかなり特徴的で航空機の尾翼か魚の鰭、ないしは蝶の羽を思わせる薄く広がるものが二本生え、滑らかな流線型の顔の横から似たような形だけどより小さい鰭とも羽ともつかないものがついている。
「これはまさか、攻竜騎!!」
リュートが、もう地球に再来して何度目か分からない驚きの声で、既に滅びた文明の兵器の分類名を発する。ギラ軍曹のゼランボラよりは幾分小さいが、間違いない。
俊敏そうな後ろ足とは対照的に短い前足を器用に使い、その時には既に失血から気を失って倒れていた自分を呼び出した主を持ち上げる金沙羅。
「くっ、何を・・・」
「!飛ぶ!?」
主が最後にしていたように、遺跡の天井を貫いて空を見るように上を振り仰ぐ金沙羅の姿に、殆んど直感といっていいが妙にはっきり確信を覚えリュートは叫ぶ。
そして、走り出した。
「り、リュートさんっ!?」
目を丸くして、止めようと手を伸ばすロアに走りながら振り向き、言いおく。
「このままじゃ・・・あの人は死んでしまう!」
どういうわけか、あの古代のガーライルフォースマスター、ないしはそれに類する何かであろう人は、力をまるで使えなくなっているらしい。そんな状態では身体能力も大幅に低下しているはず。リュートたちの知らなかったさらに下層に封印されていたらしい金沙羅はともかく、治療用の獣鬼兵もおそらく召喚できないだろう。自分の体を治療できないとなると・・・ここで気絶前の主の思念のまま金沙羅が逃げ延びても、結局死んでしまう。
そしてそれが、どうしても容認できなかった。理由など、そしてどうするつもりなのかもよく分からず、虎女を抱えあげた金沙羅の腕にしがみつき、ベルトで体を固定する。
直後・・・!
地上、ミリィへのギガンティック・ダークネス=巻島顎人の問いかけは妨げられた。
開かれるミリィの唇。そこに言葉がのる。
その一歩前に爆音と閃光が状況を決定した。
「ぬおおっ!?」
咄嗟にバリアを張るダークネス。降り注ぐのは光の弾丸、それが次々と爆発を引き起こす。
ミリィの使うレモンイエローの弾丸とは違う、真っ白い光を放つ弾丸。純白の殺意の具現。
と、急に光弾の嵐が途切れた。素早く撃った相手を突き止めるダークネス。
それは、空中を飛ぶ少女だった。
金色の短い髪、水色の鋭い瞳、黒い、体を縛るように密着したボディスーツの上に羽衣を纏った少女。
装甲の奥の巻島の瞳が見開かれる。
「あれは・・・情報にあった遺跡の片割れか!」
同時に、強殖装甲の制御メタルに、部下からの通信が入る。
その内容に、外骨格の中の顔をしかめる顎人。その報告を裏付けるように、遺跡をぶち破って巨大な金色の怪獣が飛び立った。
「機を逸したか・・・やむをえん。」
呟くと、攻撃を中止した襲撃者に視線を戻す。なにやら浮かぶように宙を飛ぶ、白くて丸い生物と言い争っているように見える。
「ロウラン、何がどーなって、どうしようとしているまぼか!?」
「全ての力に消滅を、全てのバケモノに滅びを・・・それが私の本能。私が受けた命令」
しかしダークネスには、別段その内容に興味は無かった。あの女の名とて、どういう存在かも彼は知っている。
「うぅっ・・・!」
今彼の心に食い入っているのは彼の足元。空の少女の攻撃から倒れている滝に覆いかぶさって庇ったミリィである。
「何だ、まだ息があったのかその男。しかし自分でそこまで追い込んでおいて、それで助けるとはお笑い種だ。」
冷ややかな、嘲弄と軽蔑のこもった声をダークネスは視線も合わせず空の上の少ロウランにらみつけたままミリィに浴びせる。何も言い返すことが出来ず、事実その通りと顔を俯かせるミリィ。
「また来るぞ。今はまず先に、あの邪魔者を潰すのが、先だっ!!」
言い捨てて、巨体を躍らせるようにダークネスは飛んだ。
「邪魔だ、どけ!!」
ロウランと自分の間にいた白い奴を体当たりで弾き飛ばす。並みの者ならそれだけの衝撃で粉々になっているはずだが、白い奴はどういう原理か体を柔らかく変形させバウンドして攻撃を防いだ。普通ならばいくら柔らかくても関係ない超音速の体当りだったのに。
(まあいい、とにかくどいた)
そう心中呟く巻島。弾き飛ばされた白い奴は地面に叩きつけられるが、それを視界の隅にすら入れることなく、ロウランへ突進する。
手加減無しで重力子を纏わせた拳を叩き込む。
ビシュウ!
返ってきたのは衝撃波つきの破砕音ではなく、微妙な唸り。
「ふ、殺すのか・・・お前も、「鬼」だな。」
笑うロウラン。ダークネスの拳を、第二の腕のように蠢いた羽衣で絡めとり止めている。まさに壁画にあった、四本腕の黒い怪物が彼女であることを証明する。
「そうだ、俺は鬼だ。だから貴様を殺すぞ!貴様なんぞに邪魔されたくないからなっ!」
至近距離から、額からレーザーを放つダークネス。通り道の空気をイオンどころかプラズマ化させる高出力のそれをロウランは発射のタイミングを呼んでかわす。
身を翻して超音速で飛びながら、光弾を乱射するロウラン。追うダークネス。そして地面に叩き落された白い生物も、弾むような仕草で飛び上がりロウランを追う。
それについていくことが出来ず、ミリィは地面に。
敵と、妹と、怪獣が去っていった空を見上げることも出来ず、地に臥していた。