秘密結社バリスタス第二部大陸編第三話 苦悩との遭遇
国際警察機構本部に降り立ったアルフェリッツ傭兵事務所。
彼らをまず出迎えたのは、意外にもHUMAでの馴染みの顔だった。
「ミリィさんにリュートさん、それにマーク、いや滝さんにロア君まで!みんな、久しぶり!」
「あ〜!あんた・・・」
眼前の、若者らしい爽やかさと同時に、格闘技を心の鍛錬も含めてやっているもの特有の剛毅さを併せ持つ青年を見て、基地に入ってきたミリィは驚きの声を上げる。
バリスタスは彼のヒーローとしての姿しか知らないが、ミリィは同じ基地に勤務していたので知っていた。彼の素顔、名前を。
「七星闘神ガイファード、風間剛じゃないか!何で梁山泊に!?」
「本当、剛さん!HUMA極東本部陥落以来ですけど・・・無事だったんですね!」
リュートも意外そうに目を見開く。対して剛は盛大に驚かれたことに軽く照れながら返答する。
「あぁ、あの事件の時は俺は別件で基地を離れてたからな・・・。で、今も風見長官の新生HUMAに勤めてて、ここには出向という形になってるんだ。」
「へぇ・・・あ、じゃあロム兄さんは?ゲートキーパーの人たちとか、仮面ライダー・・・今どーなってるんですか?」
「ととっ、そんないっぺんに言われても困るよ。」
宇宙傭兵組合では訓練訓練の日々だったので情報に餓えていて、勢い込んで質問を浴びせてしまうロアを剛は笑ってたしなめた。
「うむ。ロム=ストールたち惑星クロノス出身メンバーは宇宙刑事機構から新生HUMAに籍を移し、現在はロストグラウンドにて滅人同盟と戦っている。先発の連中が返り討ちにあうという事態に、風見長官も現役最強級の派遣を決定したらしい。ゲートキーパーに関しては風見長官の配慮で免責・解放が決定、民間人として暮らしている。仮面ライダーに関しては情報が少ないが、世界各地に散っているようだぞ。」
と、解説をしたのは剛ではなく、その隣に現れたもう一人の男。剛よりもっと体格が良く、太い眉や頑丈そうな顎など、もっとごつい印象のある男。
「あ〜っと・・・誰だっけ?」
首をかしげるミリィ。剛と知り合いのようだが、彼女はHUMAでこの男を見た覚えが無い。
同じように首をひねってた滝だったが、すぐに思い出したといった風にぽんと手を叩いた。
「おお、あんた!確か風間将人、剛の兄貴だったな!組織「クラウン」に洗脳されてたって聞いてたけど・・・」
「ああっ、そうか、デスファード!」
滝の言葉に、ミリィが驚きの声を上げる。目の前の男・・・風間将人は、日本中部から関東にかけてを中心としたリュートたちの戦いとはまた別の方面で、悪の組織「クラウン」最強の尖兵「デスファード」として暴れまわっていた筈。
「うむ、そうだったのだが・・・」
「記憶を取り戻して、元の兄さんに戻ってくれたんだ。おかげでクラウンも倒すことが出来た。」
兄弟二人揃って説明する剛と将人。よほどその事実が嬉しかったらしい・・・当たり前だろう。リュートは己の傍の姉を見上げ、思う。兄弟姉妹の絆は深い。もし、それが絶たれたら・・・ぞっとする想像を振り払う。目の前の二人は、事実それを乗り越えて見せたではないか。
しかし、これは中々強力な増援だ。ガイファードとデスファード・・・二人を改造した組織「クラウン」は、死の商人として二種類の人間兵器を研究していた。一つは、人体に機械を埋め込み改造するサイボーグの発展で、さらに外装を強化したガイボーグ。そしてもう一つは、人体に融合しそれを強化する寄生生命体・ファラーを寄生させ怪物化させたミューティアン。
剛は最初ガイボーグとして改造されたが、そこに偶然ファラーが寄生して、拳王流拳法を会得し機を操る術に長けた彼の体の中で機械と融合し、クラウンも意図しなかった全く新しい存在となってしまった。
後天的かつ偶発的とはいえ、生物的強化と機械的強化の両方を併せ持つ彼は、「仮面ライダー」・・・改造人間に最も近い存在でもある。秘密結社バリスタスとの交戦では蠍師匠と戦い敗北していたものの、あっちは本物の、それも最強クラスの改造人間である。それに、改造人間とガイファードの最大の特徴はその成長性・・・彼と戦うために急遽ガイファードを分析・製造された第二の生機融合体「デスファード」となった兄を救いクラウンを壊滅させた今、その戦闘能力は低いはずが無い。
「やーやー!皆さんお揃いで!旧交を温めてもらえたかしら?」
と、いささか呑気な声が割って入った。
ミリィたちが振り返ると、そこには外見12,3歳ほど・・・ギラ軍曹の外見年齢と同じくらいの姿の女が立っていた。
ボリューム感あふれる赤い髪を後頭部で縛っているが、側頭部の髪が左右に棘のようにぴんぴん生えており、色も相まって何だか蟹みたいな印象を受ける。
「宇宙傭兵協会長・ギラ軍曹の秘蔵っ子アルフェリッツ傭兵事務所に、新生HUMAの数少ない有効な戦力、七星闘神!それに国際警察機構・・・ふっふ、面白くなってきたと思っているでしょ!」
にかっと笑う。細められた緑色の瞳には、いたずらや発明の好きな子供のような好奇心がきらきらしている。
「あ・・・プロフェッサー鷲羽!プロフェッサー鷲羽じゃないですか!」
またも意外な人物に目を丸くするリュート。
「鷲羽博士って、あの宇宙アカデミー総裁を蹴って宇宙をさすらう、変わり者の天才科学者?」
「うん。私も「リュート=バッカー理論」発表時に偶然会っただけだけど。ってことは!ガーライルフォースの探知を行い、それを宇宙傭兵協会に報告したのは・・・!あれ、でも鷲羽博士、今は確か地球は地球でも、日本の岡山県で居候してるんじゃなかったっけ?確か、樹雷王家の縁者の、天地・・・征木天地とかいう人の家に。」
「その通り!今はまあ、出稼ぎみたいなものかな。流石ねリュートちゃん・・・ただ、一つ違うとことがあるわ。」
「?」
もったいをつけた口調で鷲羽は言うと、人差し指を立ててウィンクした。
「私のことは、鷲羽ちゃん、って呼んで!」
ややハスキーな声をむりやり可愛い子ぶらせる鷲羽博士・・・推定年齢二万歳以上。
(・・・ギラ軍曹と同系統のタイプかい・・・)
折角開放されたと思ったのに。
思わずげんなりするアルフェリッツ傭兵事務所の面々だった。
「ようこそ、諸君。私が国際警察機構九大天王の一人、「静かなる中条」こと中条静夫・・・本来は北京支部の長官を勤めさせてもらっているが、今回の事件を任せてもらっている。」
案内された指揮所らしき部屋で待っていたのは、仕立てのいいスーツに身を包んだ壮年の男性だった。いわゆるロマンスグレーというやつか、やや灰色が勝ってはいるものの豊かな頭髪を綺麗に撫でつけ、丁寧に整えられた口ひげを生やしている。目元は大ぶりのサングラスで覆われているが、僅かに透けて見える感じでは中々眼光鋭い。
他、国際警察機構の中でも上位と思われるメンバーが並んでいるが、本拠を中国においているせいか、スーツの中条長官はむしろ少数派で、中国風の衣装を身に纏っている者が殆んどである。
その中に白いミニ・チャイナドレスを着た黒髪の女と、黄色い平衣の腰に鎖でつないだ手斧を二挺ぶら下げた、浅黒い山賊のようにがっしりした顔立ちの男が立っているのを見て、またもミリィたちは懐かしい想いに捕われた。
二人、銀鈴と鉄牛はHUMA極東本部に一時派遣されていたので、面識があったのだ。あまり会話を交わす機会は無かったが、国際警察機構とHUMAは同じ治安組織ながらあまり接点が無かったので例外として覚えている。向こうもそれに気づいたらしく、無骨者の鉄牛はそのままだが銀鈴はその優しそうな顔に微笑を浮かべ、軽く会釈する。
「さて、君達に協力を要請したのは他でもない・・・」
と、中条長官の話が始まった。銀鈴の方を見ていたロアは、慌てて中条長官の方にむきなおる。
「君達もある程度話には聞いているだろうが、この中国で最近謎のガーライルフォース反応が検出された。この報告をプロフェッサー鷲羽から受けた我々は・・・」
「鷲羽ちゃんて呼んでっていったでしょお、中条殿?」
鷲羽がこんなときでも話に割ってはいるが、流石国際警察機構の最高幹部である九大天王に名を連ねるだけあり、構わず話を続ける意志力を長官は持っていた。
しかし、発端はどうも鷲羽が見つけたらしい。性格はあんなでも、銀河連邦最高の天才を自称するだけのことはある。
「独自の調査を行った。結果・・・呉学人君。」
「はい、長官。そのガーライルフォース反応はここ梁山泊から北東に位置する、蚩尤塚と呼ばれる遺跡から発せられており、現在既に先発部隊が現地に到着、調査の結果その遺跡が「千切られし過去」のまだ「生きている」遺跡であることが判明しまして。」
と、中条長官に代わって何だか三国志に出てくる軍師のような格好をした男が話を継いだ。顔は糸のように目が細いという特徴があるがいかにも知性が感じられ、鷲羽やバリスタスの科学者たちより随分常識がありそうだ。
「い、「生きてる」んですか!?」
驚きの声を上げるリュート。歴史上から「千切られた」といわれるほど、かの時代の遺跡は降臨者ガーライルや諸々の古代種族の戦争の結果残っているものが少ない。
ましてや「生きている」、建造当時の機能が動いているものなど・・・いくら当時の技術が今をも上回るほどのレベルとはいえ、稀少度はさらに上がる。
「さらにこの辺の情報はまだ未確認なのですが・・・いや、あれは現場の状況を見たほうがいいでしょうな。」
と呉学人は一旦言葉を切ると、しばし間をおいたあとで言った。
「飛行船グレタ・ガルボ号を用意してあります。皆様、これから急ですが早速その蚩尤塚へと赴いてもらうことになります。何しろこの情報は恐らくBF団も感知しているでしょう。そうなれば・・・」
「分かってる。」
急に表情を険しくしたミリィが、短く答える。
あの時代の、ましてガーライルフォースがらみの遺跡は、分析すれば大いなる力の源となる。秘密結社にとっては垂涎の的だろう。奪取せんと企む公算は大きい。
「なるほど、俺たちはその遺跡の番人をするってわけだ。」
「ええ・・・それだけではないかもしれませんが・・・」
「え?」
「いえ、まだ確実というわけでは。では、こちらへ・・・」
自身思案しているらしき顔で質問に微妙な返答をし、呉学人は皆を飛行船の発着デッキへ案内した。
「へぇ、ここが・・・」
飛行船といっても、グレタ=ガルボは相当高速だったため、かなり速く蚩尤塚につくことが出来た。
飛行船から降り立ったロアは、きょろきょろと物珍しげに周囲を見回す。そこは基地として整備されていた梁山泊とは違い本当にまだ未開の山奥で、空から見ても、こうして降り立っても、近隣の村はとても小さく貧しいように見える。
(こりゃ、本当にただ事じゃないようだね。)
一方国際警察機構の方を観察していたミリィは、そう感想を抱いていた。事前に渡された国際警察機構のデータと、この場にいる人々を照らし合わせる。
向こうで周囲を見張っている、水滸伝の義賊といった飄々たる雰囲気の頭巾に服の上からつける軽装の中国風部分鎧を着た男と、熊の毛皮の上着で胸に晒し巻いた姉御肌の女は九大天王の中でも特に格闘に長けた技を持つ神行太保・戴宗と、その妻の青面獣・楊志。
同行した呉学人にしても智多星の異名を持つ国際警察機構科学班一の秀才と呼ばれる男だし、遺跡の入り口らしき門を守っているやはり昔の中国風の鎧兜に身を包んだ二人はそれぞれ九大天王に次ぐ力を持つ「指南」の小李広・花栄と鎮三山・黄信だ。それぞれ古風な鎧に厳しい顔をして、周囲を睥睨している。
「いよっ、アンタがミリィさんか。」
指南の二人と比べると随分ひょうきんな態度で、戴宗は挨拶した。
軽く手を上げ、その拍子に腰にぶら下げた瓢箪がちゃぽんと鳴る。
「・・・ああ。」
相手の意図が少し掴みきれず、ややぶっきらぼうにミリィは挨拶を返す。
にかっ、と戴宗は笑う。と。
「わっ!」
そう見えたときには一瞬でミリィの前まで来ていた。さっきまで数メートルは離れていたのだが、信じられない加速だ。
驚いたミリィの顔を、その瞳を、まじまじと戴宗は覗き込む。心の底まで見ようとしているかのような目。だが同時に優しさの感じられる目。
「あんたのことは、鉄牛の野郎から聞いてるぜ。」
「そ、そう?」
「周りの迷惑を省みない無茶苦茶な奴だ・・・って聞いてたけどよ、何だ全然違うじゃねえか。」
「え、あぁ?」
鉄牛が彼女のことをう思っていたこと、それ自体を否定する意志は彼女には無かった。事実ミリィは今まで敵を倒すことだけを第一義に、周りのどれほどの損害が出ようが構わない乱暴な戦い方をしてきた。
だが、この男は唐突にそれを否定した。ミリィの心に疑問が満ちる。
「何で・・・そんなことを言う?」
「ふむ。」
会話の合間に、ひょいと戴宗は腰の瓢箪に口をつけた。僅かな匂いから、中身が酒であることが分かる。
「感心しないな、任務中に酒を飲むなんて。」
「・・・お互い酒程度でどうこうなる体じゃねえと思うが?」
確かに。ある程度の肉体能力・・・改造人間とか、ガーライルフォースマスターとか、それに類似する能力者なら、体内に多少アルコールが入ってようが、戦闘に入ればあっという間に覚醒することが出来る。
「で、だ。俺がさっきああいうことを言ったわけだがな・・・」
不意に、そのやや軽薄な笑いの色を見せていた目が、深く輝く。
「信じてやることは大事だ、そう思うからさ・・・って!?」
ゴン。
唐突に、青面獣・楊志が手に持った六角金棒で戴宗の後頭部をしばいた。目を丸くするミリィを前に、戴宗は楊志に食って掛かる。
「ってえな、おい!何だよ楊志!」
「じゃあかしい!何やってんだいあんたわ!」
怒声を発する楊志。いかにも豪快な性格に相応しいハスキーな声で、戴宗を怒鳴りつける。
一瞬ミリィは驚き、そして気がかりになる。聞けばなにやら自分は一部の人間には良く思われては居ないようで、そのせいではないかと・・・しかし。
「宇宙傭兵機構から綺麗な女が来たって聞いて、早速粉かけようとしやがって!あんた先週鉄牛と一緒に銀鈴さんの風呂場除こうとして、監視システム誤作動させて大騒ぎになったのもう忘れたのかい!」
「・・・・ととっ」
がみがみと戴宗をしかりつける楊志に、意表を突かれてミリィはずっこけた。
「こーの浮気モンが!いい年こいていつまで女の尻追いかけてんだい!」
「ちちち、違うわい!今回は少なくともマジ・・・」
「マジで手ぇだすつもりだったんかい!このひょーろくだま!宿六!ろくでなし〜!」
「ぎょえ〜〜〜!かあちゃんかんべ〜〜〜ん!!」
襟首捕まえてかますのように引きずられていく戴宗を、とりあえずミリィは見守ることしか出来なかった。それ以上したくなかったともいえるが。
「何なんだ・・・」
くしゃり、と額にかかる緑柱石色の髪をかきあげる。
警備といっても戦う前に疲れてしまいそうである。
「変なことしますねぇ・・・」
と、いつの間にか隣で様子を見ていたロアも呟く。
「ああ。ほんとに・・・」
「念を押さなくても、大丈夫ですよね。ミリィさんは。」
と。
ロアの言葉も、またミリィの意表をついた。意味を考えるミリィだが、分かるような分からないような・・・
久しぶりの地球で。ミリィはまた考え込む。
一方。
「こらこら、入るんじゃない!」
「だめっ、駄目だよ〜〜!」
と、なにやら揉め事が起こっているのに滝は気づいた。
「どうした?」
見ると小さな女の子が一人、国際警察機構の見張員に抱きかかえられて手足をじたばたさせている。
滝に気づいた見張員が、困った顔をむけ、ぼやく。
「いや、それがですね。この子が何度いっても遺跡に入ろうとして聞かんのでして・・・」
「へ〜ぇ。」
そう言うと滝は歩み寄り、ひょいと女の子に顔を近づけ、にっこりと笑った。
女の子はきょとんとする。それまで押しとどめられていた相手の仲間に笑いかけられて、ちょっと驚いたらしい。
対して滝は、昔少年仮面ライダー隊と関わっていただけあって子供の扱いがうまい・・・いや、扱うなんて考えずに真面目に子供に接する性質だ。しっかり女の子の目を見て、話しかける。
「どうたんだ?遺跡に何か用か?」
「違うの、遺跡じゃなくて・・・あの、塚に入っちゃ駄目だよ!」
真面目に話しかけてくる滝に、子供は暴れるのをやめた。それで見張員が抱きかかえるのをやめて地面に下ろすのを待って、離し始める。
「どうして?」
「じじさまが言ってた。あの塚には怖い妖怪がふーいんされてるんだって。だから入ったりあけたりすると、出てきちゃうんだよ。」
少したどたどしい言葉に愛らしさを感じ、滝は女の子のおかっぱに刈られた黒髪をなでた。
そして、彼女を安心させるように、ゆっくりと言う。
「大丈夫。俺たちはその妖怪が出たり暴れたりしないようにするために来たんだ。大丈夫だよ。」
暫く、女の子は黙っていた。
だがやがて、にこっと笑い、頷く。
「うん、分かった!」
というと、素直に帰っていった。
その様子をミリィは、何となく不思議な気持ちで見つめていた。
「みなさ〜ん!」
と、少し散らばりかけていた皆を呉学人が呼んだ。
「入り口はこちらです、案内しますので、お入りくださ〜い!」
遺跡の中はひんやりとした、墓所のような空気に包まれている。
そして、意外と狭く・・・どう見ても「千切られし過去」の遺跡とは思えなかった。
「ここ、本当に・・・その、ガーライルフォースの感知された遺跡なんですか?これじゃまるで・・・」
まるで、普通の遺跡である。壁も床もただの土と石でしかなく、降臨者関連の超技術も欠片も見られない。
リュートが不思議そうに鷲羽に尋ねる。
「ええ、そうよ。この部分は普通の遺跡。「千切られし過去」の遺跡の上に、さらに後の時代の人が造ったの。」
と、鷲羽の説明にリュートは納得した。表で滝が女の子から聞いたように、「千切られし過去」の出来事はしばしば現地において神話や伝説と化し、「遺跡」のありかが特別な土地とみなされることがあるという。
改めて、周りを見るリュート。この遺跡を作った人々は、この場所をどのように捉えていたのだろうか。神聖な場所?それとも・・・
「あ・・・レリーフ?」
少し先を行っていたロアが、声を出した。その声に今回初めて遺跡に入るミリィたちが集まってそれを見る。
「これは・・・戦い?それも・・・」
剛が呟く。
壁のレリーフは古拙でいくらか欠損しながら、しかし戦いであることをはっきり表していた。
それもただの戦いではなく。
「二人・・・と数えるべきなのかな?それとも、二匹?」
将人が言うとおり、戦いあう二つの存在はいずれも人なのか獣なのかはっきりしない姿をしている。
一体は、割と人に近い姿だが四本の腕とも触手ともとれる器官を持ち、もう一体は人と虎か何か猛獣を掛け合わせたような姿をしている。
「本来、以前国の調査団が調べたとき遺跡はこの場所で行き止まりとなっていました。ですが我々が来たとき、その脇が崩れ、新しい道が露出していたのです。」
そう呉学人が言い、脇の道を指差す。
「これは・・・」
滝が呆然とした声を出す。それまでの普通の古代遺跡から一転していた。
何か硬そうな黒い光沢のある素材で出来た、カメラの絞りのような扉が半分開いた常態で破壊されている・・・それも何故か内側から。
そこからの通路は、やはり同じようにいかにも古代中国風の遺跡から様変わりしている。
天井、床、いずれも不思議な材質で出来た通路は手ひどい破壊を受けた形跡こそあれ錆びることも朽ちることもなく、破壊されたままの生々しさを保っている。
「何かの研究施設・・・って感じに見えるけど・・・」
「ビンゴ、その通りねリュートちゃん。」
出来のいい生徒にするように、鷲羽が笑いかける。
「この施設の様式は明らかに研究施設、それも生物系の研究をしていたところよ。流石に何を研究してたかまでは残ってないけど・・・ふむ」
と、言いながら鷲羽は壁に手をかけた。まだ生きているらしい端末のようなものを操作する。
「ああっ」
「うおっ!」
いきなり遺跡をいじる鷲羽に呉学人が悲鳴を上げ、続いて起こった現象に将人が驚きの声を上げる。
「わっ」
「こりゃあ・・・」
それは、精巧な立体映像だった。
何かの事故か戦闘か、通路いっぱいに渦巻く噴煙の中を、研究者の白衣と何か神官の装束をあわせたような服装の人々が逃げ惑っている。煙の中で何かが動く。
同時に、映像の一番手前に居た人間が胸を撃ちぬかれて倒れた。
他の人々も、次々と殺されていく。
それを行っているのは、煙のむこうにいる・・・女性的なシルエットの存在。それも二人居て、戦いあっているように・・・片方が研究者を狙い、もう片方がそれを阻止しようとしているようにも見える。
続いて、今度は兵士・・・いや、今の意味で言うところの兵士というよりは、「ヒーロー」に近い姿かたちのものが出てきた。
大きな複眼、胸部を覆う装甲、ヘルメットを思わせる頭部に生えた角と宝玉のはまったベルト・・・まるで仮面ライダーのような姿をしたものたち。
宇宙刑事機構の元となった仮面戦士シャイダーや降臨者の鎧であるガイバーユニット・オーレンジャーユニット・仮面神官、外見は人に類似しながらも超能力者のような特殊な力の使い手たちも散見される。
いずれにしても戦っているのは超常の力の持ち主達で、普通の人間らしき人々はただ逃げ惑うばかりである。
そして、煙のむこうの者がもんどりうつように転がり出てきた。
一瞬で、この瞬間画像はかなり荒れていたが、漠然と姿は確認できる。
片方は全身黒いボディ・スーツのようなものに身を包み、天女の羽衣のようなものをたなびかせた金髪の女、もう片方は頭部が青、体は金色の毛に包まれた獣人。
どっと煙がなだれ込み、突入したガイバーや仮面ライダーもどきたちが入り乱れ・・・そこで映像は途切れる。
「・・・・・・」
目の前に突如繰り広げられた戦闘をどう判断していいものやら戸惑う面々の間を、鷲羽の解説が流れる。
「やっぱり当時の監視システムの映像ね。前に別の遺跡で見たのとそっくりだったのよ。おおかた中の研究品か何かが暴走したようだけど・・・」
「何で中のものだって分かるんだ?」
問う剛に、鷲羽は「そんなこともわかんないの?」といわんばかりの目をして、指をふり、ちっちっちと舌打ちをした。似非名探偵か快傑ズバットか、といったところだ。
「入り口を見たでしょう、内側からぶち破られているじゃない。」
「ああ、なるほど!」
と、ロアが手をぽんと打つが、対して呉学人の顔は優れない。勝手に鷲羽がいきなりシステムをいじったことに対して、ではないようだ、。
「はぁ、確かにそうだったらよかったのですが・・・」
「え?」
怪訝な顔をするロア。
「げ」
「そ、それってまさか」
対して鷲羽とリュートは、何かの可能性に思い至ったらしく顔を引きつらせる。
「ええ・・・来てください。」
重々しく頷くと、呉学人は一つの扉を開けた。
そこは、それまでで一番損傷が酷い部屋だった。様々な機材が爆発し砕け散り切り刻まれ、強烈な電撃や高熱のプラズマで蒸発・溶解した形跡も明らかなものも多い。明らかにそれらを異次元からのエネルギーで自在に使いこなすガーライルフォースマスターの戦いによるものだ。
だがそれより何より目を引くものがある。部屋の中央部、天井から床まで届いている太さ1mほどの、横が割れて穴の開いた透明円筒、そして。
その円筒を押さえるような姿勢で凍りつくように立ち尽くした、半人半獣の女。
全身を覆う、稲妻のように鋭い真紅の縞の走る金色の毛皮、尖った先端から毛の束が伸びる山猫のような耳、人間で言うところの爪先立ちのような、獣の足に近い脚の関節構造と、長い尻尾。
体の随所の特徴は虎を思わせるが、その全身のスタイルは女性そのものだ。人間なら20歳ほどのすらっとして俊敏そう、程よく筋肉が乗りつつも滑らかなラインは、全身を毛で覆われてはいるものの基本的には裸であるが故にはっきりと分かり、青・・・より正確を期せば青紫に近い煌く長い髪が、その印象に拍車をかけている
細かく見ているとしまったウェストに有袋類のような袋がついていたり、鼻など人間というよりは猫系の動物に近い感じだったりするが、それはむしろ当然といった風に、異形感はない。「そういう生物」として完成された美しさがある。
その全身は、不思議な結晶を思わせる光の壁に覆われて、まるで凍りついたかのようにひっそりと静止している。周囲の惨状ゆえに、その冷たさが酷く浮かび上がって見える。
「あの人は・・・さっきの立体映像の?」
「恐らく。彼女は我々が発見した時から、ずっとこのままです。」
ロアの呟きに答える呉学人。その言葉に、じっと光の壁を眺めていた鷲羽が、我が意を得たりとばかりに頷く。
「でしょうね。あれは恐らく不活性場・・・あの中では粒子の流れから何から、それこそ時が止まったような状態になっているでしょう。」
「不活性場!!凄い・・・今の技術じゃそんなもの、惑星規模の大掛かりな施設が必要ですよ・・・」
技術的興味と好奇心に、リュートの目が輝く。
「流石にこんだけ頭いいのが揃ってると、話が早いな。」
その様子を、あまりよく分かってない様子で滝は見守るしかない。
将人や剛、ロアも置いてけぼりだ。ただ、科学的ではないことなら、ある程度は話が出来る。
「なぁ・・・この虎の女、何かこう・・・」
「これを自分の体でふさいでいる、そんな感じがしないか?」
風間兄弟が言葉をつなぎ、慎重に言う。確かに半人半虎の女は、筒の割れた穴を押さえ込むようにして不活性場を纏い、そこをふさいでいるように見える。
だが、風間兄弟が確信できない口調だったのは、その穴が・・・虎女のふさいでいるほうの反対側にもあいていることだろう。
「建材自体が殆んど変化しない物質で構成されていたせいで、我々も最初良く分からなかったのですが・・・この施設のそこらじゅうについている傷と、あの入り口の突破口は全く別の時期につけられたものだったんですよ。そして、その筒状の装置、分析したところ恐らくHUMA極東本部基地でミリィさんが閉じ込められていたというマモン博士の多次元量子壁と類似した・・・おそらくそれよりも強力な、それこそ不活性化すら行いうるものしょう、それの反対側の部分の破孔も、また入り口とほぼ同じ時期に壊されていることが分かりました。」
呉学人の口調から全てを悟ったミリィが、緊迫し、同時に確信した口調で言う。
「その、二つの穴の開いた時期・・・ってのは、この間ガーライルフォースが確認されたとき、だね。」
重苦しい緊迫。自然ごくりと鳴る咽喉。乾く唇を湿らせ、滝が結論に達した。
「つまりここから何か・・・多分、あの黒いスーツの奴が逃げたんだろうな。」
皆、反論なく同じ結論を想像する。恐らく「黒スーツ」がこの研究所で作られていた「何か」、そしてこの虎女は暴走したそれを封印した存在。
ビーーーーッ!ビーーーーーーッ!
「わあああっ!!」
と、それまでの徐々に重苦しくなっていく緊迫からあまりに突然、かつタイミングよく鳴り響いた警報に思わず是認飛び上がった。
「は、はい。私ですが・・・ええっ!」
途端、それまでの狼狽にさらに驚愕が重なる呉学人。
「どうした!?」
「敵襲です!BF団が現れました!」
ぐわっきょん!ぐわっきょん!
巨大な鉄の塊が軋み歩く音が響く。
「あれが・・・BF団か!」
実戦では初顔合わせとなる相手に、ミリィは臆する様子も無く一気に飛び上がった。超音速で上昇し、上空から敵の陣容を素早く確認する。
まず目についたのは、巨大なロボットだ。身長は20m〜30mくらいか。金属の樽のような体と比べると細い、ひょろっとした手足。その上に載る円錐状の頭は黒色に塗られており、小さなアイカメラはあまりはっきりと視認できない。笑った口を思わせるスリットもあってか、あまり凶悪な印象は感じられないシンプルなメカだ。
後衛にもう一体、さらに巨大な四足歩行のロボットが控えている。真円を描く目が発光している以外全身真っ黒で両生類のようにつるつるととっかかりがなく、全体のフォルムはやや寸胴で頭のでかい首長竜、といった感じ。それぞれ事前にギラ軍曹が用意してくれたデータでばBF団のつけた名はモンスターとギャロン。
その周りを取り巻くように、機関銃や小型飛行ユニットなどで武装した戦闘員たち、人間サイズの小型戦闘ロボットやサイボーグなどの部隊が取り囲んでいる。
それを見て、戦士として鍛えられたミリィの判断力が素早く次の行動を導き出す。
まずミリィが倒すべきは主力と思しき巨大ロボットだ。ミリィにはそれを行うだけの攻撃力がある。そして他の人間サイズの連中はガイファードやロア、マークハンター、そして国債警察機構の面々に任せればいい。
いや。大威力のプラズマで集中射撃すれば、中央の大型ロボットもろとも敵をまとめて吹っ飛ばせるのではないか。多少は周りにも損害が出るだろうが・・・
(周りの迷惑を省みない無茶苦茶な奴だ・・・って聞いてたけどよ、何だ全然違うじゃねえか。)
不意に、先ほどの戴宗の言葉が頭をよぎる。
ミリィは先ほどの判断を捨てた。何故かは、自分でもよく分からない。分かってはいるが、言葉にするだけの時間も経験も無かった。
代わりに、こう叫ぶ。
「獣鬼召還!!バムソードーーーーーッ!!」
ミリィの叫びに震える大気に、光の粒子が渦を巻いた。その粒子が旋風に乗ったように回転しつつリュートを包み、そして空中に光のラインで一匹の龍の姿を描き出す。
鋭い爪の生えた前足、逞しい後ろ足、太く長い尻尾からコンパクトかつ鋭角的な機械と獰猛な獣の二種類の俊敏さを併せ持つ頭まで優美なラインを描く、古代ガーライルフォースマスターの乗り込む兵器怪獣・・・獣鬼兵が姿を表した。
どこか玩具じみたデザインのBF団ロボットより、随分格好がいい。
既にバムソートの体内に居るというより、バムソートと一体化したミリィは、「自分の体」となったバムソートの手足をその目で見て思う。
同時に、冷静と高揚が心を満たす。猛々しく敵へ立ち向かわせる熱さと、戦況を分析し的確に行動する冷たさ。その両方を、ミリィは持つことができる。
「いくぞ!!」
外部スピーカーを入れっぱなしにして叫びながら、バムソートとなったミリィが突進する。
対して相手は、まず前衛のモンスターが反応した。
一気に白兵戦距離まで踏み込んできたバムソートに、ひょろ長い腕を振り下ろす。だがその細い腕の速度は速く、当たれば戦車やASなど粉々にしてしまうだろう威力はある。
だが、バムソートはそれを受け止めた。身長は30mクラスのモンスターに対し、バムソートは全長で16m、長い尻尾を勘定に入れなければ8mちょっとと、圧倒的に小さいのだが。
しかも受け止めただけではない。超音波振動し目標を切り裂く爪・ハイパーソニッククロゥが、受け止めた勢いでモンスターの腕を引きちぎる。
「BiPi!?」
腕が切断されたことにより、慣性の法則に従い打撃の勢いを停められないモンスターが前のめりになる。状況の急変に搭載AIが電子音を立てるのが、まるで動転しているようだ。
自分のほうに倒れこんでくるモンスターの胴体を視界いっぱいに捉え、押し潰されそうにも見えるバムソート=ミリィは逆に笑みを浮かべた。追撃のチャンスに。
「おぉらあああああっ!!」
恐竜を拡大・装甲化したようなバムスパルナーの足に力がこもる。
片足を蹴り上げるようにしながら、あくまでその足で直接相手を狙うのではない。太い足をバレエのように旋回させ体を躍動させ。
その動きに連動した長大な尻尾が、したたかにモンスターの脇腹を打った。
ぐわっしゃああん!
体をくの字にひしゃげさせ、モンスターは吹っ飛ばされ横転する。
だが、流石に巨大ロボットはこの程度で機能停止するほどやわな代物ではない、長い手足を器用に使って、半身を起こすモンスター。
そのアイカメラが捉えた視界内に、つい先ほどまでそこに居たバムソートの姿はない。即座に首を回し、捜索。
「こっちだ、ポンコツ!」
バムソートの外部スピーカーから拡大されたミリィの声は、上から響いた。音源を探知したモンスターが即座に上に首を旋回させる。
同時にその口状のスリットから、高熱熱線が照射された。
ミリィ=バムソートはその時地面のモンスターの直上50mの空中に居た。本来バムソートは陸戦用で、妹・リュートの持つ全翼機型獣鬼兵・ソードスパルナーと合体しなければ飛行は出来ない。
だがそれでも体の各所につけられた重力スラスターをフル稼働させることにより、50m以上の大ジャンプを可能とするのだ。
そして、普通ならいっぺん跳躍したらあとは放物線を描いて落ちるだけだが、このスラスターによりバムソートはその体を自由に舞わせ、モンスターの熱線を軽々かわす。
急降下をかけながらミリィが考えていたのは、HUMAでの最初のバリスタスとの交戦。怪獣に化けたり精神攻撃したりと芸達者で口やかましいマッドサイエンティストのとった攻撃だった。
上に向かって撃てば周りへの被害は最小限。今ミリィは逆に相手に上に撃たせることにより、それの応用例を示していた。
以前の自分とは違う思考だ。そう認識しながら、ミリィは・・・
「オラァァァァアッ!!」
ズン!
ハイパーソニッククロゥを突きいれ、モンスターの首をもぎ取る。中枢を破壊されたモンスターは、もがかせていた手足をだらんと投げ出してひっくり返り、停止した。
「ハァァァッ!フン、フン、フン!!」
「トウッ!テリャアッ!」
「うわあああっ!」
赤と黒の影が走り、銀と鉄の光が輝くたび、BF団の戦闘員が吹っ飛ばされる。
風間剛。ヒーローとしての姿の名は、七星闘神ガイファード。赤と銀、そしてイエローに輝く瞳という「光の巨人」を思わせる配色の体は、生命と機械が融合した力強さにあふれて敵を粉砕する。
旧HUMA時代より確実にアップしたその腕前に、さらにもう一つ心強い味方が加わっているのだ。
「く、くそっ!鉄球サイボーグども!ヤツラを止めろ!!」
隊長らしき、他とは違う赤い覆面の男の叫びに従うように、ぞろりと新たな影がBF団側から沸き出でる。
それらは複数だが、全員同じ姿をしていた。プロレスラーのように屈強な肉体の表面は、肌の色を残しながら金属でコーティングされ、全員同じ顔、同じ髪型。そして、同じように巨大な鎖つき鉄球を振り回している。
素早く展開した鉄球サイボーグたちは、ガイファードを取り囲んだ。
「む・・・っ!」
俊敏な体を身構えさせるガイファード。だが、サイボーグの豪腕で投げる鉄球を四方八方から浴びれば、どこまでかわしきれるか。
だがその体から立ち上る気に、怯えの色はない。
叫ぶ。
「兄貴っ!」
「応ッ!」
それに答え、包囲の後背をついて・・・もう一体のガイファードが迫り来る!」
「何っ!?」
目をむくBF団員。
いや、良く見ればそれはガイファードではない。姿かたちは似ているが赤に銀の配色のガイファードと違い新たに現れたのは黒い体に鉄色の装甲、より堅牢なイメージのある別の戦士だ。
落ち着いて見れば違いは歴然。だが、明確に違うはずなのに似ている。そう、その二人は雰囲気がそっくりなのだ。
「受けろっ!拳王流が奥義の一つ、烈火撃!」
それは、ある意味当然の理由がある。
炎を纏った拳で屈強な鉄球サイボーグを次々なぎ倒す黒い戦士、彼こそデスファード、風間剛の兄将人に他ならないからだ。
突入したデスファードによってあいた包囲網を突破し、合流するガイファード。しかし敵に背中は向けず、兄とともに相手に向き直る。
呼吸もぴったりに、ガイファードとデスファードの構えが一致する。
「王気!」
「連続!」
足を広げやや腰を落とし、脇をしめた正拳の構え。一見平凡な構えだが、気の扱いに長けた拳王流にとって必殺の構え。それが、二つ重なる。
「「極星拳っ!!!」」
叫びとともに、ガイファードとデスファードの拳からまさに星のような眩い光が放たれ、着弾。鉄球サイボーグどもをまとめて吹き飛ばした。
「ひゅう、やるなぁ!」
その戦いっぷりに、既にマークハンターのスーツを身につけていた滝が口笛を吹く。
金属と各種複合素材で装甲されたマスクをつけたままで、器用な真似だ。そんな飄々たる様子を取りながら、決して隙は見せない。襲い掛かるBF団エージェントたちをサーベルとリボルバーライフルを素早く使い分けて倒していく。
「俺たちも負けてらんねぇ、な!ロア!」
「はいっ!」
鋭く返事を返すロアも、また以前とは見違えるほど素早い動きで敵を翻弄する。
「レギオン・バスターッ!」
襲い掛かってくる黒い中華鍋かはたまた陣笠のような頭をした小型戦闘ロボットを、機敏な仕草で次々と打ち抜く。
宇宙刑事機構時代に使っていたブルーレーザーガンと違い、アルフェリッツ=リュート謹製のその銃は桁外れに出力がアップして、当たった相手は一撃で爆散する。
しかし、いくら破壊力があっても当たらなければ意味はない。人間やさっきの鉄球サイボーグよりも機敏に動き回るロボットたちを次々しとめるロアの腕は、宇宙傭兵協会の訓練の成果をはっきり示している。
「Pi・・・!」
ズガァン!
その場にいた連中をひとまず蹴散らしたロアは、もう一体、ギャロンのほうと戦おうとしているミリィが気になり、そちらを見ようとする。
しかしそこに、不意に駆け込んでくるものがいる。
「わとっ・・・呉学人さん!?」
「たた・・・大変です!」
よほど慌てているのか、白皙の容貌が汗まみれになり、ぜいぜいと息も荒い。
「落ち着いてください。何があったんですか?」
「そ、それが・・・あの虎人間が動き始めたんです!!」
「ええええっ!!」
「何だってぇ!?」
これにはロアも、近くで聞いていたマークハンターも飛びあがった。
「理由は分かりませんが戦闘が始まった直後に、不活性場が解除されて・・・!今はまだ遺跡の中で、さしあたって花栄さんと黄信さん、それとリュートさんが取り押さえようと・・・」
その言葉に対して、何か二人がリアクションを起こそうとする、その前にさらに。
シュバァァァン!ズドッ!キュゴオオオオオオン!!
ドガガガガガガ・・・ズドァァァァァァン!
それまでの戦闘音とは一線を画する、桁外れの大爆発があたりをなぎ払った。
「ぬぁ・・・っ、な!?」
爆風から顔をかばい、やんだところで慌てて確認した状況は、一変していた。
あたりは真紅に染まっていた。遺跡の入り口が崩れ落ち周囲に黒焦げの肢体が転がる。何かでなぎ払ったかのように一直線に引かれた、溶けかかるほど赤熱した岩のライン。
「あ、あああ・・・・っ!」
マークハンター=滝が震える指で指差す、村も。ほんの小さな村だったそこは、クレーターと化していた。
そのすり鉢状の窪みの中、元々はBF団ロボット・ギャロンだったのであろうものが、溶けた金属の池となっていた。そして。
「み、ミリィさん・・・っ!!」
クレーターの縁に立つ、バムスパルナー。
「ま、まさか・・・ミリィッ!」
思わず叫ぶ、叫ばざるをえない滝。この分では、村にいた人間は確実に・・・あの女の子も含めて・・・全滅。警備の国債警察機構にしても、よっぽどの高レベルのものを除けば同じこと。
そして・・・バムスパルナーのマグナムブレイズをフルチャージでぶっ放せば、この惨状を作り出すのは不可能ではない。
「い、いや・・・違うぜ。」
「えっ、あ・・・戴宗さん!」
気がつくと、戴宗がすぐそこに来ていた。どうも爆風に乗って・・・というより吹っ飛んで来たらしく、地面に踏ん張った足の跡がめり込んでいる。普通の人間なら熱風でぐずぐずだが、流石に超能力者の集団である国際警察機構でも最高位の九大天王、頬に煤がついた程度にとどまっている。
「あれを見ろぃ!」
「あ・・・!」
クレーターの直上、煙がもうもうと立ち込める空間を指さす戴宗。見えにくいが・・・そこに何かが浮かんでいる。黒く・・・人間より大きい。身長は3〜4メートルほどの、全体的なシルエットは人間に近いが何かごてごてと棘や瘤のようなものがついているように見える。
「これをやったのは・・・あいつだ。正体は知らねえが、BF団じゃねえし・・・無闇に強いみたいだぜ。」
押し殺した声で語る戴宗。
手近の敵相手に戦っていたせいでそれまでの経緯を全く確認できなかったロアは、ただそれを黙って聞くしかなかった。
しかも、現状すら分からないというのに事態はさらに。
「ちぃぃぃぃっ・・・これは一体、どうしたというのだぁっ!!」
跳躍か飛行か、ともかく空から降ってくるように、目の前に紫の影が降り立った。着地したところで確認する、それは紫の胴着を纏った、蠍の改造人間。
「し・・・師匠!?」
目を丸くし、いや、変身後の顔ではそれは無理だが、人間の顔ならそうしているのであろう驚きの声を上げるガイファード。
「ろ、ロウラーーーーンッ!!!」
そのあとを追うように、白くて丸い姿をした、不可思議な生物が転がるようにやってくる。
ロアは直接の面識があったわけではないが、その二人が何なのかは知っていた。
秘密結社バリスタス「悪の博士怪人軍団」改造人間「蠍師匠」、六人の最高幹部の一人である、第三天魔王「まんぼう」だ。
「な・・・な・・・」
そして、トドメとばかりに遺跡から何か地響き紛いの音が響き渡り、塞がった入り口の下から何かが出てこようとしている中・・・
ロアは、叫んだ。
「何が・・・起こったんだぁ〜〜〜っ!」
叫びながら、ロアは。
起こったことが・・・何かの「始まり」であることは、理解していた。