秘密結社バリスタス第二部九州編第四話 蝗王来迎・前編〜タロン〜

未だ、雨は降り続いていた。
豪雨のように強くは無い。しかし霧雨よりは激しく、じくじくと意地悪く、しぶとく振り続けている。
前回の作戦失敗により行き場を失ったバリスタ九州支部の面々が当座の隠れ家とした廃ビルの中にも、雨は入り込んでくる。建設途中で会社が潰れたか何かしただろう、部分的に天井がついていないのだ。不景気を象徴する、この国に増えつつある陰気な墓標の一つ。
それとても、恐らく町中に監視システムを張り巡らしている蒲腐は、恐らく知るところだろう。今攻めてこないのは何か事情があるか、メタモルXあたりと戦闘しているか・・・いずれにしても猶予はひと時のものだ。
しかし。
「くっ・・・」
戦士としては炎のように熱く、科学者としては氷のように冷静な影磁が、珍しく苦渋に唸る。
前回の戦いで三貴子のうち二人、たすくとしえるがかなりの深手を負ってしまっていた。きちんとした基地の設備も無い状況では、いかに天才科学者と言えども応急的治療しか出来ない。
簡易なマットに寝かせられたたすくもういんぐも、いずれもかなり手傷を負い唸っている。手当てはしたし改造人間の回復力は人間のそれをはるかに上回るが、さりとて未だ到底戦闘に参加させられるものではない。
流石にことここに至って影磁は独自での状況打破が限界に達したと判断、蝗軍兵たちに伝令小隊を組織させ、本部に向かわせることとした。
(ともかく、何とか増援なり何なりを確保せねば・・・)
現状で動かせる戦力のうち、蝗軍兵たちは本部への伝令にいくらか戦力を割いており、電柱組は残りの蝗軍兵と一緒に物資調達と情報収集に、後はパラドキシデスならびにマルレラはこの廃ビルの周囲の警戒に当てている。ここを今襲われた場合動員できる兵力はインバーティブリットの二人とそれに加えて影磁自身と勢流鯨、しぇるの三人だけだ。
「・・・・・」
物思いに耽りながら、汗ばんだたすくの褐色の頬を拭き、ういんぐの髪を整える影磁。
じりじりと、時だけが流れる。
雨音が、響く。

シュ・・・シュ・・・

「!?しまっ・・・」
その雨音のせいで、普段なら聞き逃さないであろう壁の向こうの音に、直前になるまで影磁は気づくことが出来なかった。
コンクリートの壁を溶解液で発泡スチロールか何かのように溶かして現れる襲撃者。それでも咄嗟に影磁はそれに反応、大斧を叩きつけてたった今までそいつがいた壁の向こうへ吹き飛ばす。

グジュッ!

鈍い、水をたっぷり含んだ雑巾を叩いたような音とともに、何か気色の悪い粘液が飛び散る。
「勢流鯨っ!!」
「応!!」
振り向き、叫ぶ影磁。同時に勢流鯨が怪人形態に変化、たすくとういんぐを両脇に抱え、床をぶち抜いて一気に階下に下りる。
「しぇる!我等も階下へ!外へ出るぞ!」
「は、はいっ!」
声をかけると同時に、影磁もAGの姿に変形、しぇるとともに穴に飛び降りる。


一気に一階まで飛び降りる。改造人間の脚力と強度は、それしきの落下などダメージにはならない。
「あっ、影磁さん!」
「な・・・こっちもかッ!」
しかしそこで影磁たちが目にしたのは、大勢の敵に取り囲まれ戦闘中のパラドキシデスとマルレラの姿だった。
上では咄嗟の反撃だったので確認できなかった敵の姿は、鰻、蝸牛、鮫、犬、蛸、魚、鼠など動物と人間を混ぜたようなもの、兎や蝿、ゴキブリや芋虫を直接巨大化させたようなもの、鬼のように角の生えたものや人間に一見近いもの、生首に手足が生えたような気色の悪い生物、中にはヘドロの塊や雪達磨のような姿のものなど千差万別で、いずれも兵器生物としては随分奇妙な姿をしている。
ぐわっ、と長大な門歯を錐か鶴嘴のように尖らせ、身長3mはあろうかと言う巨大な兎が飛び掛るのを、パラドキシデスが背甲で防御。その間にマルレラが鋏状の足で蹴りを見舞い、その白い毛皮を破り突き刺す。ひとたまりもなく大兎は倒れるが、すぐさま次の怪物が襲いかかっていく。
「ふんぬっ!!おおおおっ!!」
勢流鯨がたすくとういんぐを置くと、雄叫びを上げて突貫した。ギロチンのような刃のついた口を開閉させる凶悪な雪達磨もどきを口ごと叩き潰し、刀を持って切りかかってくる犬男と喰らいついてくる鮫人間を拳で吹っ飛ばす。
しかし、それでもさらに敵は現れ、押し包むように勢流鯨の巨体にぬるぬるした粘液にまみれた蛸の触手が鰻の体がまとわりつく。
「うぐぐっ・・・!」
「あうっ!」
パラドキシデスたち二人も大量の相手に圧し掛かられ組み伏せられ、圧死せんばかりだ。
AGはAGで、未だ傷のいえないたすくとういんぐを庇う為に斧を縦横無尽に振るっていたが、前衛の危機に気づくや否や素早く敵の配置と味方の体制を見極め、そしてしぇるに命令する。
「ふむっ・・・しぇる!20秒だけ二人を守りきれ!そしてそれだけたったら、すぐうつぶせに伏せろ!!」
「は、はいっ!」
返事を確認すると、影磁は一気に敵隊列の中央へと突進した。斧で切り伏せ、楯で敵を突き飛ばし、足で蹴り飛ばし・・・
そして敵群の中央に達すると同時に、もう一度確認した。
たすくとういんぐは寝ており、しぇるは伏せた。勢流鯨とパラドキシデス、マルレラは相手に組み伏せられやはり地面に寝転がった体制。
その状況こそ、影磁が臨んだもの。甲殻に覆われたあまり可動しない口元が笑みに僅かにつりあがる。
「メキドの炎・・・拡散型・上半身限定!!」
AGの全身に仕込まれた超高熱火炎放射機・メキドの炎。その上半身に配置された分のみが一斉に火を噴いた。
「ぎやああああああああ!」
「ひいいいいいいいい!」
全員地面に伏せるようになっていたバリスタスの者には一人も当たらない。だが、化け物たちはほぼ全員一撃で黒こげになっていく。殆んどが一撃で機能を停止し、体が部分的に焼け落ちただけのものも暫くのたうった後動かなくなった。
「おっ、おお〜〜・・・」
目の前を通り過ぎていった炎に、目を白黒させながらもマルレラが感嘆のため息をつく。パラドキシデスも勢流鯨も、起き上がる。


「ふむふむ、流石改造人間・・・大したものだ。簡易な無機物合成強化型兵器生物では及びもつかんか。」
「何奴!?」
唐突に、消し炭となった怪物どもとは正反対の方角から、声が聞こえてきた。
視線をめぐらす影磁の目に映ったその者の姿は、一見極めてまっとうな老紳士だ。背広を着こなし、豊かな白髪をオールバックに撫でつけ、口ひげを綺麗に整えている。
しかしその糸のように細い目の奥に見える光は、明らかに「同業者」の・・・それも、ある種の甘さを国是のようにしているバリスタスとは正反対の、冷酷な部類のそれだ。
「小林・・・教授?」
そして、その顔を影磁は見たことがあった。表の世界では比較的有名な生物学者、というやつだ。バリスタスは表社会の科学などはるか超越しているが故に関係が少なく、下の名前は忘れてしまったが。
「その通りじゃ。そして、組織「タロン」の構成員でもある・・・ごくごく末端、じゃがな。」
「タロン・・・!」
その単語に、バリスタスの者は皆反応する。彼等がこの地に来た故でもあり、電柱組や幾多の組織の上にあったもの、ギャンドラーをけしかけてきたもの、そして・・・
「なるほど。あの宇宙船の自爆で仕留め切れなかったから、とうとう出てきた・・・というわけか。」
「ええっ!?それじゃ・・・」
それまで寝たきりだったたすくが、その言葉に激しく反応した。彼女の心に傷を刻んだあのクライシスとの惨劇、そのきっかけとなった宇宙船の爆発。
「その通り、あれは我等の仕業だ。捨て駒でもあったし、契約に払う金も惜しかったでな。」
「そんなことでっ、あんな・・・あんな、酷いことを!」
唖然とするういんぐ。
「わしの目的のために、必要なことだったでな。」
全く悪びれる様子の無い小林教授。しかしその言葉に、マルレラが疑問を見出した。
「「わしの」目的・・・?組織の、「タロン」とやらの目的じゃないの・・・?」
そのマルレラの言葉に、緊張していた影磁もはっとなった。。確かにそうだ。自分をタロンの一員それも末端と言っておきながら、「自分の目的」のために宇宙船を爆破したと言っている。
「ふむ、よい質問じゃな。答えてやろう。」
にい、とその問いに小林教授は笑みで答えた。出来のいい生徒に対し、彼の表の顔である教授がするような、そんな慈愛の笑み。
「「タロン」は・・・少々特殊な形態をとっておる。普通の組織が幹部会議であれ首領の意志であれ一つの意志で一つの目的に合同で行動するのに対し、タロンは群体とでも言うべき存在だ。複数の大企業が連合を組み、そこから湧き出る資金にいくつもの武装集団が連結し、それがまた企業を持ち、そこからまた兵どもが雇われ、徴収され、加わり・・・様々な意志・様々な動機・様々な参加要因をもって人はタロンに集まる。」
そう語る小林教授の言葉は、何だか妙だった。部分的には朗々と語りながら、ところどころ感情のない棒読みになる。
自分の意志ではないかのように。
「あるものは、金を求めて。またあるものは、権力を。中にはただただ戦える場所を求めるものもいる。だが理由は、タロンにとってはどうでもいいらしい。こんな組織形態でも「上位」の者は存在するが・・・その連中はそれぞれ自分の考えを持って、世界を弄繰り回そうとしているのだろう。そこに理想があるのか、欲望だけなのか、両方なのか・・・わしはしらん。」
そこで、小林教授は酷く疲れたような溜息をついた。
「わしのような下位の者はな、大抵は、「何か」をタロンに握られ、そのために戦うのだよ。上の連中は冗談半分に戦奴階級などと呼ぶらしいがな。クライシスの連中は、自国民、そしてわしは可愛い孫の彩、というわけじゃ。」
そこで、急に。
小林教授から、老いや疲労や諦観や・・・そういった「弱い」気配がかき消えた。
代わって、餓えた肉食獣のように獰猛な気配が押し寄せる。
「わしらが与えられた任務は、お主らバリスタスを打倒し、自らが役に立つ戦力であることを示すこと。お前らを倒したもののみが、生き残り願いをかなえることが出来る・・・故に、クライシスには消えてもらった。貴様らも・・・タロンに目をつけられる原因となった技術、半無機擬似生命「SU−MAH」で同じように殺してやるわい!」
叫ぶや、小林教授は招くように手を振る・・・その途端、地面が下から弾けとんだ。そこには、さらに数体のSU−MAHというらしき異形・・・恐らく下水道の中に隠れていて、上の土と舗装を吹き飛ばして現れたのだろう。いずれも、先ほどのよりも高度な作り方で作られているようだ。
全身びっしりと包帯を巻いて、奇妙な色の皮膚と目以外なにもない顔の部分だけを露出させた、格闘に適した筋骨隆々の体型の人間型、古びた鎧を纏い、大きな鉈じみたデザインの刀と長い鉄串のような針を構えた戦士型、赤い皮膚に全身を覆う、一見して何がモチーフとも知れない両腕に鋭い爪を生やした俊敏そうな体躯の生物、上半身は軍服とヘルメットを纏った人間ながら、両腕、両肩に大量の銃火器を搭載し、下半身が戦車をそのままくっつけたようなキャタピラになっているもの。
それにプラスして、人間としか思えない、綺麗な金色の髪を長く伸ばした10歳ほどの女の子と、赤茶色の髪の毛と鼻の周りにうっすら見える程度のそばかすが妙に似合っている、18,9歳ほどのメイド服姿の娘。
だがその妙な連中よりもさらに影磁に緊張感を感じさせたのは、小林教授のすぐ横にたっている奴だ。全身にぼろ布を巻きつけて体を隠しているが、その全身から立ち上る「闘気」とでも言うべきもの・・・それが桁外れに大きい。フードのように頭を覆う布、その下で明らかに爛々とした赤い光を帯びる目も、また。数百数千数万の命を過去に奪ってきた、恐ろしいほどに戦いなれた存在であることを告げている。
かなりの戦力だ。そして。
「ええいっ!!」
苦々しさが影磁の声に溢れる。それまでのとは明らかに違うのだがどれほどなのかいまいち読めない戦力比、そして何より相手方の複雑な事情が、戦意を鈍らせる。
「いいわよ。戦ってあげる・・・」
「毬華!!」
不意に、マルレラが呟くように言った。前に出ると、甲殻に覆われた手足を構える。パラドキシデスが驚いたように叫ぶが、マルレラは続けた。
「自分のために他人を踏みにじる覚悟があるんなら・・・当然あるわよね、誰かに踏みにじられる覚悟も!」
「ほう!」
マルレラの裂帛の声音に、思わず影磁は感心の溜息をついていた。
なるほど、確かにそうだ。そもそも秘密結社とは、悪とは、我等とは、そういう存在なのだ。明瞭な意志の光に霧が晴れたように影磁の戦意は回復し、同時に現状の再認識と、勝つための算段を急速に整え始める。
敵は小林教授を含めると八体。味方はたすくとういんぐを数に入れても6体。
一体一体の相手の戦闘力は戦ってみねばはっきりしないが、恐らく突出して強いのがあのぼろ布の男、それにつぐのが恐らくあの人間の娘にしか見えない二人だろう。どういうわけかあの二人には他の連中と異なり「意志」があるように見える。それに小林教授にしても自ら前線に出てくる以上それなりに戦闘力に自信があるとしか思えない。
「そうだ、そうだな・・・!」
「・・・」
甲殻に覆われた頭を頷かせるAG。勢流鯨も同じように納得して戦闘態勢に入るが、逆三連星の三人は、未だ吹っ切れない様子だ。
しかし、この状況下ではどうしようもない・・・その分を、影磁たちが補うしかないだろう。
「行くぞっ!!」
そう判断した影磁は、再び一気に敵隊列に突入、メキドの炎でまとめて焼き尽くそうとする。
「こちらも前進です!まはちゃん!」
「うん、ゆまおねーちゃん!」
「っ!?」
と、メイド姿の少女の号令一下、相手の軍団も一気に間合いをつめてきた。同時にまはと呼ばれた女の子の背中から鳥の羽が生えて飛翔すると、影磁に直上から、巨大な槌のように変化した腕を振り下ろしてきた。
「何っ!?・・・自分のベクター分子を操り、その場に適した姿に変化したというのか!」
バリスタスの改造人間でも持ち得ない、それこそ万能の自在変形とでも言うべき能力に驚嘆する影磁。それと同時に戦闘は至近距離の乱闘に変化し、メキドの炎で一度に相手をなぎ払う機会が失われる。
「ちぃっ・・・!」
見かけと違い存外指揮官として「やる」メイド少女のゆまの才覚に舌打ちしつつも、流石に影磁の装甲は体格の小さなまはの攻撃を弾き返す。まはもそれは承知の上のようで、影磁の上を飛び越えて後ろにいるほかの相手に攻撃を移そうとしているが、同時に背後に殺気。
咄嗟に振り返るその目の前、あのぼろ布を纏った男が、蹴りを繰り出してきた。楯は間に合わない。身を捻り、一番分厚い胸の装甲で受け流しながら両腕を突き出す。
「収束ッ・メキドフレイム!!」
全身から拡散するのではなく、一点に引き絞った劫火が槍のように突き刺さる。
「っ・・・・・!」
だが、相手も流石のもの。間一髪のところで身を捻って直撃を避ける。はためいた布に火がついたが本体に火が回るまえに内側から破るように布を吹っ飛ばす。
その下から現れた異形は。
「貴様、仮面ラーイダ!?」
そう叫んでから影磁いやAGは、妙な顔をした。
「・・・相変わらず変身時に発音に若干の障害が出るな。」
しかしまあ、そんなことはどうでもいい。問題は目の前のこの相手だ。
一瞬影磁はそれを「仮面ライダー」と認識しかけたが、実際にはその姿は大きく異なっていた。
昆虫と人間の融合体とでも言うべきところは辛うじて共通点だが、異形の体の上を強化服で覆う仮面ライダーと違い、目の前の相手は鋭角的で棘や節がいくつもついた外骨格がその表層を成している。
目の色が赤いのも同じだが丸い仮面ライダーの複眼と比べ、こいつの目は鋭いひし形を成しており、それも両眼のほかにもう一つ、仮面ライダーにおいては特殊感覚器官Oシグナルがある場所に、もう一つ目がついている。
そして何より、その右腕だ。左腕は蝗軍兵を思わせる鋭い爪のついたそれだが、こいつの右腕は他の体の部分とはかけ離れ、巨大な口ともラフレシアの花ともつかない、奇怪な代物になっている。そこから僅かにもれ出た緑色の液体がアスファルトの地面に落ちた途端、じゅうと白煙を上げそれを溶かす。
「違うな、俺の名はライダーキラー。仮面ライダーとやらを倒すもの。お前らと戦う、この仕事は本意ではないのだが・・・。」
そして、異形が名乗りを上げた。同時に、牙の生えた怪物花の右腕を、ずいと前に突き出して身構える。
「お前を殺す。破壊する。壊す。」
その口ぶりと爛々と光る目は、狂気を匂わせる。
だが同時に、どこか武人然とした気を、影磁は感じていた。それこそ、最初に「仮面ライダー」と錯覚したように。
「ぐわおぉっ!!」
「ぬうん!」
右腕を突き出し、アイアンクローのように顔面を狙ってくるライダーキラー。それを影磁は相手の腕に楯を叩きつけ、軌道をそらしてかわす。
同時にその右腕から溶解液が噴射される。スウェーでかわしていたら顔面にもろに浴びせられ、恐らく視覚を完全に奪われていただろう。
「もらったっ!!」
お返しとばかりにライダーキラーの胴に膝蹴りを見舞う。あまり接近した距離では、大斧はかえって取り回しづらい。
吹っ飛ばされるライダーキラーだが、すぐさま姿勢を立て直す。追撃に放たれたAGの斧を跳躍してかわす。
そこをさらに、AGのもう一つの武器である火炎が襲う。普通の兵器生物や改造人間ならば、一度跳躍してしまえば後はニュートン物理学に従うしかないので、撃つほうは軌道を読み、当てられる・・・はずだったが、ライダーキラーは空中で「身を翻した」。
「なぁっ!?」
一瞬その動きに目を奪われる影磁。空中において自在に姿勢を制御し、ジャンプの方向を自在に変化させる・・・その能力は改造人間の中でも最も上級の存在である、GH/MR級改造人間にしか出来ない力・・・ならば。
咄嗟にシールドを構える、その読みは影磁の命を救った。

ガギィィ!!

無言のまま放たれたライダーキックそっくりのキラーの蹴りが、楯に皹をいれ、軋ませる。インパクトの後も、さらに大気そのものに後押しされるように強引にこじいれられる足。
「ぬぅぅ・・・おおっ!」
その足めがけて斧を振り下ろすAG。しかしそれを、再び重力から解き放たれたかのような空中機動でよけるライダーキラー。
あたかも当然のごとくに。仮面ライダーを倒すもの・・・という名乗りは、伊達ではないということか。
(いや)
影磁の勘が、それは何か違うといっていた。そう、違う。仮面ライダーを倒すためにこれだけの力を与えられたのではなく、むしろ・・・
(仮面ライダー。そのものというべきではないのか?)
他にも、このライダーキラーという存在、妙なところが多すぎる。そもそも事前の情報ではその組織力を持って小林教授のような小規模なれど高い技術を持つ存在や崩壊した組織の遺産を漁っているとはいえそれほど高い技術を持ってはいないはずのタロンの兵器にしては単体としての戦闘力が高すぎ、二つの人格が存在するかのような気配の変化、溶解液に牙と重武装した右腕を持ちながらそれに頼らず、むしろそれを使うときだけ妙にぎこちない仕草を見せ、逆に格闘で無類の強さを持つ。
まるで、強引にその本来の姿を捻じ曲げているように・・・!?
「つっ!?」
一瞬戦場において思考に耽ったのはまずかった。それまで傍観していた小林教授の手から銀光が投じられ、装甲の隙間を狙って突き刺さる。
ぎりぎり外れて装甲に弾かれ落ちたのを見ると、それはメス・・・バリスタスで改造人間手術に使われるそれと同じくらい切れる、改造人間を切れるメスだ。これで装甲の隙間を狙われては危ない。
「ふむ、外したか・・・まあ、わしのことも忘れぬほうがよいぞ。」
その動き、力、精密さ、明らかに生身ではない。おそらくこの生物達の製造過程において得た技術でもって、自らの体を強化しているのか。
「ふふ・・・いいだろう、まとめて相手してくれる!」
だがそれでも、影磁の戦士としての部分は怯むことはない。重厚な装甲と薙ぎ払うのに適したAGの武装は、むしろこうした一対多の戦いをこそ得意とする。
再び攻撃せんと斧を構えるAG。そして、ライダーキラーと小林教授も動く!

一方影磁を抜いたまはとゆま、それに率いられた残存兵器生物部隊とバリスタスの他の怪人たちも戦い始める。

ズガガガガガ、ドガンドガン!

軍人と戦車との融合SU−MAHが、全身に装備した火器を一斉発射。咄嗟に前に出たパラドキシデスとしぇるが、持ち前の装甲でその弾丸を何とか弾き返す。
しかし防ぐことは出来ても遠距離での攻撃手段を持たない故、何とかせねばこのまま撃たれ続ける羽目になる。そうなれば、いつか堅固な装甲も疲弊し歪み破れる。
「凄い弾幕・・・!」
「そんならっ!!」
その弾雨の中を、パラドキシデスは走る。同時に前に倒れこむようにして体を丸め、背甲で全身を覆った装甲の弾丸になる。
「おおおらああっ!!」
ぐわっしゃあん!
大質量の直撃を正面から受けて、戦車人間は粉みじんに砕け散った。しかし装甲弾丸形態を解いたパラドキシデスに、他のSU−MAHが一気に襲い掛かる。
「せえーいっ!!」
「ぬおうりゃあ!」
しかしそれを、今度はマルレラと勢流鯨が阻む。
包帯姿の重格闘型を勢流鯨が、鋭い爪をもつタイプをマルレラが、それぞれ食い止める。その隙に体制を建て直したパラドキシデスは、起き上がって剣を振りかざしてきた鎧戦士と相対した。

ドドドォッ!
砲弾が炸裂したような音を立てて、勢流鯨と重格闘型が殴りあう。身長3mを誇る勢流鯨と比べ2m弱の相手は随分小さく見えるが、なんとそれでも一歩も退かないどころか勢流鯨相手に互角に打ち合っている。
「こいつっ!!」
ガギッ!
繰り出された拳同士の衝突、そして弾き飛ばされたのは勢流鯨の拳だった。骨に皹が入る痛みを感じながら、勢流鯨はその理由を掴んでいた。
こいつ、見た目以上に重量がある。身長3m体重1.5トンの勢流鯨に対して、相手は身長2mでも体重が2t以上あるように思えるのだ。
こうなると、勢流鯨は不利だ。リーチで勝っていても手合いで撃ち負けては手足にダメージが蓄積し攻撃するも避けるも出来なくなるし、さりとて組討でも相手のほうが重いとなるとうかつに投げをうとうとしたら重量に任せて返される。
しかし勢流鯨の巨体とリーチは相手の打撃を有効打たらしめず、互いに決め手を欠く有様となっていた。
一方マルレラも、優勢とはいえない。相手の動きは素早かったが、外骨格生物の梯子状神経系を採用しているインバーティブリット改造人間の反射は極端に高く、それすらも捉えきる。甲殻に覆われた拳が、大きな鋏の足が、何度も相手を捕らえ叩きふせる。
しかし、それでも相手は何度でも起き上がる・・・再生能力が高いのだ。とはいえフェンリルのような霊質のものでもないようなので再生限度は体内に蓄えられた栄養分の限界まで、それが尽きるのが先か、マルレラが疲弊して敵の攻撃を受けるのが先か、じりじりとした戦いになった。
そして、パラドキシデスも、単体では状況を打開できない。相手の戦士型SU−MAHの剣も針も、パラドキシデスの外骨格を通さない。しかし接近戦においてはパラドキシデスの拳は、相手にとって致命の一撃とはなりえないのだ。先刻戦車型SU−MAHを撃破した装甲弾丸は、ある程度間合いを取らなければ使用できないのだが、流石に意志があるのかないのかもはっきりしない相手も、それくらいはさっきの例で分かっているらしく、間合いを取らせない。

そうなると、結果この方面の闘争の焦点となるのはSU−MAHの残りの二人、まはとゆま、それと逆三連星の戦いとなるのだが・・・

「こっ・・・こないでくださいっ!」
震えるような、弱々しいういんぐの叫びとともに目くらまし気味に放たれた呪が、いささか破壊力に欠ける爆発をする。
「わぷっ!?」
それでもまは相手には幾分か聞いたらしく、巻き上げられた砂の入った目を押さえる。
そこでたすくが追撃に入れば、まはを倒せただろう。しかし未だ傷のいえないたすくはそれに間に合わず、振りかざされた拳は何とか逃げるまはを外して空しく地面に穴を開ける。
「まはちゃん、下がって!!」
それを見たゆまが、今度は攻撃を仕掛ける。それまでのメイド服姿から一転、一瞬で宇宙刑事を思わせる強化装甲服に身を包んだゆまが、拳をたたきつける。
「ひえっ・・・!?」
何とか頭を下げてそれをかわすたすく。空振りしたゆまの拳はその破壊力を無駄に撒き散らし、ビルの壁が砕けて崩壊した。
ゆまもまはも、奇しくも逆三連星と同じく身体的には高い能力を持ちながら、それをうまく使いこなす術を知らないようだった。先ほど見せた戦術的機知も、恐らくタロンに加わってから覚えさせられたもの・・・実際に戦わなければ身につかない戦技とは違う。
それでもメイド服の特徴を幾分残す装甲の隙間から一丁のトマホークを取り出したまはは、拳をかわした拍子に転倒したたすくの首めがけてそれを振り下ろそうとする。
「たすく危ない!」
それを間一髪、しぇるが弾き飛ばす。宙をくるくると舞い、電柱を切り倒すトマホーク。あたら身体能力だけは優れているだけ、周囲に迷惑である。
そんないまいち不器用な戦いだったが、状況は徐々にゆまたちの方に有利に働きだしていた。本来の能力からすれば逆三連星のほうが上回っているはずなのだが・・・
「ご主人様の願いをかなえるためです!死んでください!」
「きゃあっ!」
僅かな戦意の差。それが、ゆまたち意志を持つ兵器たちに、改造人間以上の力を与えていたのだ。
押される逆三連星。そもそも彼女達は、戦う動機についてもいまいち乏しい。洗脳処置を施さなければならなかったがゆえに己の過去を知らず、故に今の貴重さを知らず、それを守るための行いである戦いの意味も知りえない。
しかし、それでも。
「い、嫌だよっ!死にたくない・・・嫌だ!」
うつろな心の中にも、問いかけは響く。
再び繰り出されるゆまの斧を、柄の部分を取って受け止めたたすくが叫ぶ。
「何で・・・なんで戦わなきゃ・・・いや・・・いや・・・」
「ごめんねっ、でもしかたないの!!」
対照的に戦意を喪失し疲れ果てたようにしゃがみこむういんぐ。そこに飛び掛ったまはが、小さな手から爪を伸ばしてういんぐの装束ごと肩口を引っかく。
「つぅ!!」
「ういんぐ!」
悲鳴を上げるういんぐを助けおこし、焦燥の表情を仮面の下に隠してしぇるは次のまはの爪を装甲で防ぎながら、必死に呟く。まるでその言葉で、自分を現世につなぎとめるように。
「私達が狙われるのは、タロンにとってバリスタスが邪魔だから、ならバリスタスから外れれば・・・違う、駄目だ。私達はここでしか生きられない。私達は理由を知らないけど、昔の私達はそう考えて記憶を捨て体を作り変えてもらった、なら・・・どうすればっ!襲うもの全てを倒せばいいのか!?でも、彼女達を倒すのは、結局死の量においては何も代わらない、命は結局失われるっ・・・!」
痛む体を限界まで動かし戦いながら、哲学の難題に挑むように苦悩し、一秒一秒己の命と存在を延命する。


苦悩が、焦燥が、闘争が、血が、涙が、満ちる。

ズバァッ。
「お・・あ・・・?」
それは、全く唐突だった。たった一瞬前まで生きていた小林教授が、血しぶきを上げ真っ二つになり、倒れる。同時に糸のように細くかつ強烈な光が走り、生き残りの意志を持たぬSU−MAHの群がずたずたに切り裂かれた。
「ご、ご主人様ぁ!?」
悲鳴を上げるゆま。そして。
「富める者よ、汝の滅びの鐘に泣け。汝の家は朽ち、汝の武器は折れ、汝の金は錆びたり。」
そう、奇妙なまでに感情の欠落した声で、それを行ったものは言った。
全身べっとりと血濡れた、蝗をベースとした改造人間、のように見えた。蝗軍兵や機蝗兵など、バリスタスにも蝗ベースの改造人間は存在する。だが、こいつはそのどれとも、何もかもが異なっていた。
仮面ライダーのように表面をスーツ型の強化皮膜やヘルメットで覆ったタイプではない。強固な緑色の外骨格と複眼、節くれだった体を持つ蝗軍兵に一見近いように見える。だが、その雰囲気、気配とでも言うべきものはあきらかに別物だ。確かに姿形はこちらのほうがより力強く、均整の取れた体格をしている。また、羽の代わりに蟷螂の鎌と蠍の尾を合成したような禍々しい武器が二本背中から生えている点も異なる。
だが、そんな違いは些細なものだった。もっと、本質的なところから、こいつは違うと分かる。
影磁は思い、そして理解した。人間ではない。これが、改造された人間であるはずがない。外科的洗脳をされ意思を持たない人間とて、ここまでの無感情と冷徹さをもちあわせては居ない。一部のすきもない機械、それか本能と神経反射のみで動く昆虫。それに、より近い。
非常に・・・恐ろしかった。恐ろしい、と感じた。
「・・・ア、アバドーン・・・!!」
マルレラが渇いた咽喉から搾り出すような声で、その名を呼んだ。キリスト教ヨハネ黙示録に出てくる、世界を終末に導くため神が放つ、人と馬と飛蝗と蠍が合成された怪物の名だ。

続く

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