秘密結社バリスタス第二部九州編第三話 反破局主義者の闘争法
しのつく雨が、僅かに草の匂いを浮き立たせる。
市街地を一旦離れたバリスタス一党は、山の中へと避難していた。何しろ、市街地にいる限り蒲腐の張り巡らせた監視システムから逃れられないのだ。・・・恐るべきことに。個人の邸宅内部や各種施設・会社・病院などまで、確実に無許可で及んでいる。
なんともとんでもない話だ。その監視システムのせいで、街中では休むまもなく昼夜連続で蒲腐の手のものが攻撃をかけてくる。蒲腐と敵対関係にあるメタモルXやアクロスのおかげで毎回うやむやに終わることが多いが、それとてこうしつこくてはたまったものではない。
そんな彼らは、今物陰からある一点を凝視している。一見、そこには何もないように見える。
だが、よくよく見ると。この雨のおかげか、そこに極めて見えにくいが「何か」が存在しているのが分かる。それも、かなり大きい・・・下手な船くらいのサイズはあろうか。
シャドーやきっどなど、関東方面に派遣された改造人間と比べてAGたちの知覚能力はそれほど高くは無い。だが、それでもこれが何なのか位は分かる。
「随分いい加減な光学迷彩だな・・・予算ケチったのか、馬鹿なのか・・・ギャンドラーの連中のことだ、両方かもしれんな。」
呟く影磁の言葉から、それの正体は知れた。この前襲撃してきたギャンドラー・クライシスの部隊は、ここに自分達の宇宙船を光学迷彩で隠して停泊させていたのである。
近づけば確かに改造人間の目には明らかだが、遠くからでは発見は困難だろう。
では、何故彼らはここにいるのか。
簡単なことである。この宇宙船を攻撃し、制圧するためだ。
どうやって、この場所を探知したのか。それこそ、制圧のための理由でもある。数日前、アジトから何とか持ち出した通信機に、一つの通信が入った。銀河連邦標準形式の電波だったため、周囲の霊子的混乱に関係なく受信できたそれの、差出人は・・・クライシス帝国将軍・ジャーク。
電文には、こうあった。先日の申し込みを熟慮した結果、ギャンドラーの下で働くことをやめにしたいのだが、怪魔界崩壊の際に何とか脱出したクライシス人たちが、圧縮冷凍(注・ロンダース宇宙刑務所などで行われている、人間を小さく縮め冷凍睡眠させる技術。少ない面積で大量の人間を収容加納)されて連中の手に握られている。うまく連中を騙してそれを地上に停泊する船に運ばせたので、何とか協力して欲しい・・・と。
「あの・・・」
「何だ、ういんぐ。」
それで、攻撃のために隠れながら接近している影磁・・・当然、もう怪人形態AGに変身している・・・に、ういんぐが話しかけてきた。低めた声で、答えるAG。比較的過激な任務となることが予想されるため、戦闘にはあまり役に立たないだろう電柱組の人々は後方に下げさせている。
「本当に・・・その・・・やるんですか?ただでさえ・・・今・・・私達・・・追われて・・・」
ぼそぼそ、俯き加減に喋るういんぐ。その弱気な発言を、AGは否定する。ただし、やわな彼女の精神を傷つけないように、気を使いながら。
「困っているからこそ、やるんだ。情けは人のためならず。これに成功すればクライシスの連中も仲間に加わり、アジトも手に入る。いいことづくめではないか。」
「でもさぁ、乾坤一擲の大作戦に出る組織って、大抵それ失敗して壊滅するんだよね〜。」
「ひっ・・・壊滅・・・死・・・いやぁぁぁ・・・」
「不吉なこと言うな!ういんぐが怯える!」
まぜっかえすマルレラの特撮ギャグに、今にも失神しそうなほど顔を青ざめさせるういんぐ。泡を食ってAGは注意する。
「だ、大丈夫だよ。末期の作戦でも、ショッカーライダー作戦みたいに、ヒーローじゃなくて敵対組織を狙えば成功する可能性は・・・ううっ。」
と、フォローしかけたパラドキシデスが、がっくりする。
「どうした?」
「いや。こーゆーネタを自分で言うようになるのが、何か変わっちまったなと・・・」
「何言ってるの。改造人間になった時点で、既に特撮世界の住人でしょうに。」
「それと、オタクネタ能力の上昇とは関係が・・・」
「何よぉ、別に悪いもんでも・・・」
「ええかげんにせえよ。」
際限ない二人の言い争いに、げんなりすつつ影磁は仲裁に入る。
「大丈夫、調べては見たけど聴覚センサーの類はないみたい。」
「・・・それをしらべておいているところは評価するが・・・」
胸を張るマルレラに、影磁はぴっと親指では以後を指し示す。その先には、何だか退屈そうな顔をして待っているたすくがいる。
「やつに腹をすかされてはたまったもんではない。」
「なるほど。」
頷くマルレラ。事実、ここに来るまでに一度空腹を訴えたたすくを何とかするため、コンビニを一つ占領して食料を強奪してきたのだ。
ここでまたそんなことをしてる暇は無い。
「では・・・行くぞ。あくまで目的は圧縮冷凍保存されたクライシス人の確保だ。隠密にな!」
と、言った途端その目論見は崩れた。
「待てぇ〜〜〜〜〜〜〜いっ!!」
「ぬあっ!?」
唐突な背後からの野太い声に、前進しようと腰を上げたAGは思わずたたらを踏んだ。
慌てて振り返ると、そこには・・・意外にも、小学生くらいの年恰好の女の子が五人。
「どういう声帯してるの?君達。」
「違うわよっ!」
たすくの大ぼけに反論する、その声は確かに普通の女の子のもの。
では、先ほどの声は。
「秘密結社バリスタス!コンビニエンスストアからの食料品大量強奪、この宇宙刑事シャトナーがしかと目撃させてもらったぞ!」
「ああっ、いつかの変態タイツ男!」
「へんたいつー!」
しえるとたすくの二人がかりのぼけ兼つっこみに、ひとたまりもなくこけるシャトナー。今は例のタイツではなく、白衣に杖姿なのだが。
「ええ〜い!あれは単なるコンバットスーツのアンダーウェアだと、何度言えば分かる!。」
「いや、外見が問題なんだと思うが・・・」
勢流鯨も、流石にあの姿に関しては疑問を持っていたらしく口を挟む。
「まあ、それはおいといて。ところで、その子達、誰?」
と、パラドキシデスが女の子たちを指差す。
「え?前あったじゃない。」
と、五人の中で少し生意気そうな女の子が返事するが、どう引っくり返しても彼女の存在はパラドキシデスの中には無い。
しかし、マルレラ、そしてAGはその言葉で納得の表情を見せた。
「なぁるほど。魔法少女っぽいと思ってたら・・・」
マルレラの呟きに、シャトナーが大きく頷き、そして叫んだ。
「そのとおり!さぁメタモルXの諸君!」
「はいっ・・・変われっ、成長!」
「ブルーメタモル!」
「い、イエローメタモル・・・」
「ブラックメタモル!」
「成長!パープルメタモルッ!」
五色の光が満ち、そして・・・
たった今まで小学生くらいだった五人が、一気に前回見た年齢16歳ほどのメタモルXに「成長」する。
「そーゆーからくりだったのか・・・!」
「そのとおり!私達がメタモルX!貴方たち秘密結社バリスタスの野望・・・」
と、レッドがお定まりの台詞を言おうとしたとき。
「貴ぃ様ぁっ!!」
ガツン!
「おぐぁっ!!」
「!!」
唐突にAGがシャトナーを殴り飛ばした。そのまま白衣の胸倉をひっ掴み、怒鳴りつける。
「シャトナー!貴様、年端も行かぬ子供達を、それも私らの子供達のように「他に行き場所が無い」ならともかく、未熟な正義感につけこんで前途洋洋たる子供達を戦いに巻き込むとは何事かぁっ!!」
その鬼気迫る勢いに、思わず気を呑まれるシャトナー。またメタモルXたちもまるで結界のような迫力に、近づくことも出来ない。
「つけこんでなど、いないわい!」
もがくシャトナーだが、勢いはいささか弱い。しかしAGは離そうとはせず、なおも言い募る。
「貴様・・・そんな様子ではクライシス帝国崩壊時、五十億とも言われる民の殆んどを消滅する怪魔界もろとも・・・」
やや目を細め、にらみつけるように言うAG.と、それを聞いた途端シャトナーの顔が急に険しくなった。
「言うなっ!!」
「!?」
大声で叫ぶや否や、合気柔術の要領で胸倉を掴んでいたAGを投げ飛ばす。背中を打ったAGだが硬い外骨格ゆえダメージにはならず、すぐさま起き上がる。
AGが立ち上がったところで、今度はシャトナーがなじり返す。
「お前に、・・・お前らなんかに何が分かる!大体戦闘要員の自由意志など、洗脳で兵士を得ている秘密結社に言われる筋合いはないっ!」
そういわれたとき、僅かに影磁の甲殻に覆われた顔に翳りが宿る。しかし、それには気づかない様子で勢流鯨が言い返した。
「わはは、馬鹿者めっ!我等O.O.Bならびにバリスタスは志願兵制の戦士の集団!洗脳などと言う下種な手段は用いぬわ!」
胸を張る勢流鯨。それはインバーティブリットも同じことだったので、マルレラ・パラドキシデスも頷く。
が。
「え?私達は洗脳受けてるけど?」
「何!?」
唐突のしえるの爆弾発言。そのようなことは全く聞いていなかった勢流鯨とインバーティブリットの二人が慌てて振り返る。
「うん。そーだよ。」
「・・・そうです・・・」
驚きのあまり声も出ない三人に、たすくとういんぐも肯定をもって答える。
メタモルX側は、シャトナーがそれまで語らなかったクライシス帝国にまつわる話と、そして自分達の戦いへの関わり方に。
バリスタス側は、逆三連星の洗脳に関して。
疑問と不信と不安でどろどろとした、なんとも嫌な空気が澱む。
「あの・・・・・・」
と、消え入りそうな声でういんぐが呟く。
「何だ!?」
「こんな、ところで、騒いだら・・・」
暫くの間。
「あ」
「うぉらぁ〜!てめえらこんなところで何してやがるぅ!!」
どっとばかりにそれまで光学迷彩で覆われていたギャンドラーの船の扉が開き、コマンダーたちが湧き出てきた。
「ちいいいっ!だが、これは・・・!」
焦ったような声を出しながらも、修練を積んだ改造人間の脳は的確に動く。
「まぁいい・・・逆にチャンスだな、これは。」
頷き、いまだ遠いギャンドラーの連中には聞こえないように、素早く味方に伝達する。
「しえる!ういんぐ!たすく!マルレラにパラドキシデス!中の連中が出てきたのは好都合だ、今のうちに進入し、作戦を実行しろ!ここは、私と勢流鯨で十分!・・・例の洗脳の件に関しては、三人に直接聞け。勢流鯨には、私が話しますから!」
「了解!」
「は〜い!」
「オッケー!」
何とか素早くといえるレベルで頷いて、行動開始する逆三連星を少しだけ見送ると、影磁ははったとばかりにメタモルXとギャンドラーのコマンダーたちをにらみつけた。
「さぁて、お前らここからどこへもいかせんぞ!!」
・・・私の逆三連星の、折角の実戦訓練の機会なのですからね。
後半の部分は口に出さず、影磁は斧を振り上げた。
硬質の、機械生命体が暮らす船ならではの装甲と実用一点張りの床を蹴り、宇宙船内部に侵入した五人は走る。
所詮単なる犯罪者の寄せ集め、軍事の専門家などいないのであろう。殆んど船内の見張りまで全部出てしまってがらんどうの船内、遮るものもなく途切れずに外骨格の足裏が鋼板を叩く音が響き続ける。
「船内の間取りはわかるよな・・・っ」
「ええ、問題ないわ!」
それなりの時をともに戦ってきた、恋人とも相棒ともつかない男に、マルレラは素早くAGに渡された端末を示す。その中にはクライシス帝国の人たちから送られてきた船のデータが入っている。
それを確認し、行くべき道筋を頭の中に思い描いてから、パラドキシデスは言った。
「なぁ・・・さっきの、「洗脳受けてる」って・・・」
今しかない。まだ、戦闘が始まっていない、今しか。一旦戦いが始まればそんなことを聞いている暇はなく、そして微妙なとはいえ不信を抱えたままでの戦いは、チームワークの欠如をおこすことになる。
自然重くなるパラドキシデスの声。対して、返答するたすくのそれにはなんのてらいもない。
「そうだよ。」
と、軽く返事をする。まるでなんでもないこと・・・ごみを出したか出してないか、そんな日常的なことに対する回答のように。
「そ、そうだよって・・・」
「洗脳ってひとくちに言うけど、どんな・・・洗脳なの?」
後を続けられず口ごもるパラドキシデスに変わり、マルレラが問う。そして、答えるのは今度はういんぐだ。
「・・・過去の封印・・・記憶の一部ブラックボックス化・・・完全に消したわけではなく、思い出せないように暗示でロックをかけている・・・」
相変わらずの、ぼそぼそとした回答。しかし、その双眸を閉じた顔には、とりたててそれを気にする感じは無い。
「安心して・・・感情の操作や、精神的拘束・・・リモートコントロールみたいな、外科的処置は施されていない・・・」
「安心してと言われても。無理すればそりゃ出来るかもしれんが、何で、そんな洗脳を受けているのか聞かないと、納得は出来ないな。」
「納得、かい。分かった。じゃあ影磁さまに聞いた理由だけでも説明して・・・っ、と!?」
口を開きかけたえしえるが、唐突に言葉と歩みを止める。
その理由を聞くまでもなく、他の四人も全員同じ行動をとった。なぜなら、その行動をとらせる存在がそこにいたから。
「ふむ・・・来たか・・・待っていた甲斐があった。この窮地と思える状況に、あえて死中に活を見出そうと言うのだ、それなりの剛の者のはず・・・」
壁に寄りかかり、確かに待ち受けるように立っていたそいつは、クロノス星人と思しき機械生命体だ。外見は特徴的な頭部の色の配置、体色や左右に長く尖った肩など、なんとなく月代をそり、裃を着けた侍を思わせる姿をして、二刀流の刀を携えている。
「拙者の名はグローバイン、暗黒双殺剣のグローバインと申す!貴殿らの中に剛の者あらば、一騎打ちを申し出たい!」
と気合のこもった声で言うと、誰かがそれを受けないのならば通さないと言わんばかりに立ちはだかる。
それは全員に分かり、そして相手の実力の高さもはっきりと感じ取れる。明らかに、他の連中とは格が違う。
「分かった・・・俺が受けてやろうじゃないか。」
「えっ!?」
進み出たのは、パラドキシデスだった。傍らに立っていたマルレラが、驚きの声を上げる。
「ここで時間食ってたら、まずいだろ。」
「そ、それはそうだけど・・・」
頷きながらも、その顔には戸惑いと、なにより心配の色。
「大丈夫。確かに中々強そうだけど・・・まさか「あの蝗野郎」より強いとは思えないだろう?それなら!」
「ほぅ、お主・・・拙者より強い者を知っていると言うのか?」
対峙し、やりとりを聞いていたグローバインの声が、ややきつくなる。それは、戦士として誰かと比較して弱いと言われれば、腹も立つだろう。
「さ、早く。・・・大丈夫だ。その子たちの詳しい事情、まだ聞いてないしな。」
「うぬっ!」
マルレラを通路の奥に押しやるパラドキシデス。瞬間、抜く手も見せずにグローバインは二本の刀を抜き放った。
「貴様、はなから生きて帰るつもりとは・・・そこまで拙者との戦いを舐めるかっ!!」
パラドキシデスにはそう言うつもりは毛頭無かったのだが、そのように取れないことも無い発言である。
「キィエ〜〜〜イッ!」
ガキィン!
火花が散りそうなほどの、硬質な衝突音。
電光の速さで振り下ろされたグローバインの刀が、パラドキシデスの背甲に弾き返される。
「・・・舐めてかかるつもりはないが・・・負けるつもりで勝負に挑む奴はいないぜ。」
出来るだけ不敵そうな声で言うパラドキシデス。目の前の侍は半ば偶然だがそうとう熱くなっている。ここでもう少し挑発すれば・・・確実にこちらだけに向かってくるだろう。
場慣れてきてしまったな、思わず自分の思考をそう評価する。
「さぁ、早く!」」
「分かった!三人とも、ついてきて!」
パラドキシデスを信じ、マルレラは踵を返した。逆三連星の三人も、同時に走る。
しかしそれを、グローバインは完全に無視した。そして、表情の作れない顔の中、アイカメラを明滅させてパラドキシデスに笑いかける。
「安心しろ、貴殿の心配するような真似はせん。拙者はただ、満足のいく戦いをしたいだけだ。・・・時に、名は?」
「三葉治、改造人間としての、この姿の名前はパラドキシデス。秘密結社インバーティブリット、たった二人の生き残りの改造人間だ!」
名乗りを上げるパラドキシデス。怪人の戦いというのは時に現代の戦争より戦国時代の戦いにも似るが、流石にここまで古風なのは初めてだ。
「良かろう、拙者は先刻名乗ったとおり、暗黒双殺剣のグローバイン!いざ尋常に勝負ッ!」
「ふんんんんんんっ!!」
ハンマー投げのように豪快に振り回した斧で、周囲の敵を一まとめにミンチ、いやギャンドラーのコマンダーは大抵クロノス近郊の惑星出身の機械生物なので金属の破片が激しく飛び散る。
秘密結社バリスタス改造人間の中でも重量級の部類に入るAGならではの豪快な戦い方だ。
「ぬうおりゃあ!」
しかし、その隣で戦う勢流鯨はさらに豪快だ。3mに達する巨躯を誇るとはいえ、ギャンドラーのコマンダーどもも図体はそれに近いくらい大きい。しかしその自分と大差ない大きさのコマンダーどもを両手に一人づつ掴み上げ、叩きつけ閉め潰し握りつぶし倒していく。倒した敵の数にかけては、AGよりも多いほどだ。
だが、戦闘だけでは終わらないのが大幹部というものである。
回転攻撃と同時に一気に周りの様子を確認すると言う、冷静さも兼ね備えている。・・・生身の人間とは体の出来が違う、ぐるぐる回った程度で目を回したりはしない。
ギャンドラーの戦力は、普通のコマンダーが沢山と、前シャドーがやりあった・・・いややりあうまでもなくHUMAに倒されたらしい、デビルサターン6とかいう連中。クライシスの連中はいない・・・情報どおりに。
メタモルXの連中は確かに今のところギャンドラーの連中など寄せ付けていないが、いささか前回の戦いのときより動きが鈍い。戦意の低下が響いているのだろうが、今ここで連中に倒れられると、ダイテンジンとかいう蒲腐の下僕どもへの抑止力がなくなり面倒くさい。
「ほほぉう、やるやんけおんどれ。だがなぁ、このわいを舐めたらあかんでぇ!合体っ!」
と、デビルサターン6が得意の合体戦法に出た。六人が組みあわさり、ASクラス、身の丈10m近い巨体へと変化する。
「光あるとこ闇あり、正義あるところ悪あり!地獄からの使者デビルサターン6参上や!叩き潰したるわ!」
空気を唸らせ、そのへんのコマンダーの体丸ごと一人分くらいの堆積と質量を持つ腕が勢流鯨を狙う。
しかし、それを勢流鯨は真正面から受け止めた。
「なんやて!?」
「ぬるいわっ!ぬおおおおおおおっ!!」
そのまま腕を抱え込むと、自分の体ごと、変形のジャイアントスイングのようにして投げ飛ばす。
「ええい、何をやっておるか!」
「いいぞ勢流鯨、流石だ!」
ディオンドラとAG、二つの軍団の指揮官の言葉が形勢を表す。バリスタスの戦いは、今のところ好調に進んでいた。
影磁は、先ほど勢流鯨に洗脳に関する「事情」は素早く説明しておいた。それゆえ、彼の戦意には迷いが無い。そこが今苦戦するメタモルX、正義の味方をあざ笑うようにたった二体の改造人間がギャンドラーを粉砕している理由だろう。
そう冷静に状況を分析する間にも、全身から噴出す必殺技・メキドの火を思わせる真紅の甲殻に包まれた豪腕が、大斧をまるで小枝か何かのように軽々振るって敵を叩き潰す。
「ふむ・・・メタモルXの諸君、動きが鈍いね。・・・どうしたのかな?」
そして、合間にメタモルXに語りかけはじめる。十分に練った言葉、考え尽くされた台詞。
それは、試験にも似ていた。彼女達の心を試す試験。
「く・・・うるさいっ!お前達に言われる筋合いは無いわっ!」
レイピアに似た武器でコマンダーの攻撃を受け止めながら、褐色の頬を引きつらせてメタモルブルーが叫ぶ。
構わず、影磁は続ける。
「気になるのだろう・・・悩んでいるのだろう?己の戦いの意義、そして、私が漏らしたクライシス帝国と君達のリーダー、シャトナーとの戦いの顛末の秘密・・・」
「・・・う。」
「くっ・・・」
的確な影磁の指摘に、怯んだように顔を伏せるイエローとブラック。
しかし、そこでレッドがようやく明確な答えを発した。
「確かに・・・貴方達がいうように、私達、そんな難しいこと考えても見なかった。でも、それなら、これから考える!そして、必ず答えを出す!だから皆、この戦い勝ち抜かなきゃ!」
その答えは、影磁の基準からすれば百点に達するとはいえなかったが、合格の範囲には入っている。そして同時に、チームの皆に呼びかけている。
胸のうちで影磁は呟く。いいぞ、ならば第二問だ、と。
「ふむ、良く答えた。では・・・御褒美だ。私から教えてあげよう、シャトナーが語らなかった、いや語れなかったクライシス帝国との戦いの顛末を!」
「な・・・」
その大声に、シャトナーが反応するが、反応する以上のことはしない、いや出来ない。
打ち消すことは出来ない。彼はまだ語るべきではないと判断していただけで、それは、確かに事実なのだから。
「クライシス帝国のこの三次元世界への侵攻、その理由は何だと思うかね?彼らの世界、怪魔界は、次元世界としての寿命がつきかけ崩壊寸前だった。・・・と言えば、賢い君達には分かるな?」
わざと、少し間を持たせる。言葉が染み渡るのを待ってから、再び口を開く。
「宇宙刑事機構の決定は、杓子定規な侵略排除・・・そしてまあシャトナーもそれに従ったわけだ。事情を知らされてなかったのか知ってて加担したのか・・・ともかく、彼は立派に働いた。最終決戦で重傷を負い宇宙刑事としての戦闘能力を喪失しながらも、見事クライシス帝国の侵攻を阻止したわけだ。すると・・・どうなる?」
「どうなるって・・・」
「簡単なことだ。すこしイマジネーションを働かせればいい。クライシス「帝国」だ。国だ。信頼できるデータでは、当時の人口は50億人。帝国の支配のやり口にレジスタンスなどおこり政情は不安定だったが、とにかくそれが滅亡し、三次元世界への侵略・・・というか、移住計画が崩壊したわけだ。分かるな?」
「あ・・・」
ようやく考えが、影磁の意図した領域に至ったらしく、はっとした表情になるレッド。パープルは信じられないと言った表情で、シャトナーの顔を見つめる。
シャトナーが顔を伏せる中、影磁はそれを言葉に出した。
「そう・・・怪魔界50億の人間は、極少数を除いて滅びる世界とともに、死んだ。いうなればシャトナーめはこの世界の平和を守るために50億人を殺したに他ならない。それが正義か否か・・・お前達は自分達の正義を考えると言ったな、ならばこれをどう考える!?」
「うぅっ・・・!」
「そんな・・・!」
流石に厳しすぎる現実に、少女達は戦慄し、シャトナーも思い出したくなかったのであろう過去に苦渋の表情を見せる。
影磁は思った。いいだろう。変に開き直ったり、無茶な理屈を言うよりよほど「可能性」のある初々しさだ。HUMA、ダイテンジン、ろくでもない連中ばかり相手にしていたせいで、こんなまともな相手は懐かしい、と!?
「げへっへ、隙ありだぜぇぇっ!」
「!?」
その隙を突いて、一体の傭兵コマンダーが飛び出した。完全に不意をふかれたメタモルレッドの体めがけて、巨大な機械の腕を振り下ろそうとする。
「やかましい、黙れ!」
しかしそれが実行されるより速く、AGの大斧がコマンダーの顔面に叩き込まれた。ひとたまりもなく倒れるコマンダー。
「折角の知的闘争の最中だ、無粋はやめて貰おうか。」
「え・・・?」
冷酷に現実を突きつけながら、同時に襲おうとしたコマンダーを倒してくれる。影磁という男の意図が読めず、メタモルレッドは僅かに混乱した。
「その通りだ。全く質の悪い連中だな。同輩とはいえ情けなくなる」
「!!」
いつの間にかそこには、皆似たような姿のコマンダーとは違う、一人の機械生命体が立っていた。
漆黒のごつい装甲に包まれ、頭には力強い二本の太い角。人型の猛牛を思わせる、立ち上る雰囲気から明らかに戦士とうかがえる男。
「中々やるようだな、俺の名はジンギ。ギャンドラーには一宿一飯の恩があるのでな、相手をしよう。」
腰を落とし、ややレスラーじみた格闘スタイルをとるジンギ。なるほどその力強い体つきを生かすスタイルだ。
「ふむ、どうやらギャンドラーも雑魚ばかりではないようだ。」
楯と斧で隙なく身構えつつ、同時に影磁は全体の動きにも頭をめぐらせる。
そろそろ、宇宙船に潜入した連中から何がしかの反応があっていいはず。
同じことは、グローバインと戦うパラドキシデスも考えていた。
「テエーーイッ!!」
シュシュッ!
言うなり、グローバインの動きが変わった。激しく振り下ろすのではなく、今度は疾風のように変幻自在に。
「な・・・っ!?」
梯子状神経系に作り変えられたが故の人間に数倍する反射で咄嗟に身を翻すも、肩口の関節、外骨格の継ぎ目から青い体液が噴出した。
「いくら硬い鎧を纏っていようと、隙間を狙えば裸も同じ・・・関節ごとにばらしてくれよう!」
「そう簡単にいってたまるか!」
さらに続くグローバインの斬撃を、パラドキシデスは小刻みに体を動かして避ける。甲殻の継ぎ目の隙間といってもそれはほんの数ミリメートル、僅かでもずれればそこはインバーティブリットでも最も防御力を重視して開発された改造人間の装甲、外れたも同然である。
「うぉおっ!」
逆襲とばかりにパンチとキックを見舞うが、グローバインの体もまた相当に硬い。クロノス系機械生命体特有の体は、全身が装甲といっても過言ではない。高い防御のかわりにこれといった攻撃用能力を持たないパラドキシデスでは有効打を与えるのは無理だ。
「ええいっ、歯痒いのう!」
中々進展しない戦いに、じれたグローバインが叫ぶ。
「そうか、俺は悪くないと思うぜ。・・・そんなに人殺しが好きなわけじゃない」
また振り下ろされた刀を、左右に広がった頭甲をうち振って弾きながらパラドキシデスは言う。
その言葉に、グローバインは理解できないと言ったふうに
「何を言うておる、戦士たるもの、戦いに血を滾らせんで何とする!折角、平和ゆえに故郷に放逐を受け、こんな盗賊もどきに身を落としてまでの、久方ぶりに満足の行く戦いが出来そうなのだ、興ざめしそうなことをぬかすな!」
「ふざけんなよ!俺は成り行きでこんなことやってるも同然だがなぁ・・・戦いってのは守る誰かのためだッてこと位はわかるぞっ!」
叫びとともに繰り出した拳が、今まさに前進しようとしていたグローバインの顔面を捉えた。双方の加速の合一が衝撃を倍加し、遂にグローバインの装甲に皹を入れる。
「ぬうう!?」
怯まずなおも刀を繰り出すグローバインだが、装甲でそれを受け止めると同時にパラドキシデスは、先の一撃と同じようにカウンターを入れてくる。
連続して、グローバインの体に僅かずつだがダメージが蓄積され始めた。
「ちいいーーーっ!」
そしてまた拳を繰り出すパラドキシデスを、ざっと後ろに飛びのいてグローバインはかわした。
「話は合わんが・・・貴様が出来るということは認めよう。我が奥義、受けよ!」
叫ぶと・・・グローバインの姿が一瞬ぼやけ、その後、二人に分裂して固定した。
「何っ!?」
思わず目を疑うパラドキシデスだが、残像とかではなく間違いなく実際に二人に増えている。二本の刀をそれぞれ一本づつ構え、二人となったグローバインが突撃してきた。
「トォウッ!」
「く・・ぐあ!?」
一人目の攻撃を身を翻して背甲で受け止める。が、その瞬間には二人目が比較的装甲の隙の大きな腹部にばっさりと斬り込んできていた。
体を丸め、ごろごろと転がって振り払う。だが、流石に二体に分かれただけあり、攻撃の隙が殆んど無いどころか片方をかわせばもう片方が確実に装甲の隙間を狙ってくる。
「そんならっ!」
傷の痛みに耐えて転がりながら、咄嗟に思いついた手をパラドキシデスは使った。三葉虫の改造人間である以上、本来最も得意な能力。
転がった耐性からくるりと丸くなり、防御体制をとる。こうなってしまえば可動範囲を確保するため装甲に隙のある手足や腹を晒さず、最大防御力を誇る部分だけで相手の攻撃を受けられる。
「貴様・・・」
その防御体勢を見たグローバインが激昂する。
この姿では確かにグローバインの攻撃を防ぐことは出来よう。だが、攻撃をすることはおろか、ここでグローバインが彼を無視してマルレラたちを追いかけようとしても、それを阻止することすら出来ない。
「見下げ果てたぞその姿!恥ずかしいとは・・・」
二体に分裂していたグローバインが、一列に並ぶ。そして、同時に刀を構えて跳躍した。
「思わんのかぁぁぁぁぁっ!!」
接近するグローバインを、丸まった状態でも外に露出する複眼ではっきり捉えながら、パラドキシデスはそれをしっかりと見据えた。
真正面から。次の行動につなげるために。
グローバインの斬撃を正面から受け、同時にうまく姿勢を制御して相手の刀の打撃力を受けて壁に跳ね返り、位置エネルギーを蓄積する。
「何じゃと!?」
今度はグローバインが驚く番だった。彼はあの背中の甲羅は、単に防御にしか役に立たないと思っていたのだ。
まさか、それがパラドキシデス最強の必殺技にも使いうるとは。
「恥ずかしいかだと!!」
高速回転する装甲の弾丸と化したパラドキシデスは叫ぶ。
「名誉だの戦士の誇りだのっ、そんなもん知ったことか!こちとら悪の怪人だ!」
分離した二人のグローバイン。この姿となったとき彼は、どちらか一方を倒されてももう片方が相手を倒し、そして元に戻ることが出来る。だがパラドキシデスの体当たりは、並んでいた両方を巻き込んだ。
「マルレラ・・・いや、毬華の奴を守るためだったら、どんな汚名でも受けてやらあああああっ!!」
「ぬおおおおおおおおっ!!」
宇宙船の外壁をぶち破り、外に出るまでの一瞬。グローバインは。勝てなかった理由を認識し、一抹の羨望を覚えていた。
そのころ、事実既に逆三連星とマルレラは船の最奥部にたどり着いていた。
宇宙船の管制システムにたどり着き、クライシス人の圧縮冷凍睡眠システムを掌握する。
その過程をこなしながら、マルレラは手持ち無沙汰にそれを見守っている逆三連星に話しかけた。
「ねえ。さっきの「洗脳」云々についてなんだけど・・・」
「ああ、あれね。だから言ったっしょ。私達が受けたのは記憶消去だけで、思考制御は受けてないって。」
「ええ、そこまでは聞いた。」
離し始めるしえるに、マルレラは念を押すように相槌を打った。そこから先を、聞かせて欲しいと。
「で、記憶消去の理由が聞きたいんだったわよね。」
「ええ。」
真剣な顔で頷くマルレラ。
対してしえるは、目の部分までを覆う兜から露出しうかがえる部分は、あまり緊張していないように見受けられる。
「何でも、私達が願った、らしいんだよ。」
「え?」
自分達が願ったらしい。なんとも微妙な、少し矛盾を含む言い回し。
首をかしげるマルレラに、淡々としえるは続ける。
「影磁さんから聞いた話ではさ、あたしたち三人、いずれもぼろぼろになってたのを拾ったっていうか、保護したと言うか。それぞれ場所は違うけど、皆あまりに酷い今までのことを忘れたがったか、精神的に壊れかけていたかのどっちからしいんだわ。で、精神活動自体を保護するために、人工的な記憶喪失ってのを試したらしい。」
いい加減な言い方であったが、マルレラにも概要は想像できた。
「たすくの幼児性やういんぐの怯え、あたしの無駄な惚れっぽさなんかはその辺の名残なんだって。それで、何でもあたし達の精神が事実を受け止められるだけ成長したら、記憶が戻るようになるシステムだ、って影磁さんは言ってた。」
一応、納得は出来る。だが。
「で・・・でも、さ・・・」
「ああ、証拠は無いね。」
恐る恐るのマルレラの問いに、しえるはあっさり先読みして同意した。
「それなら、何故!」
一時操作を打ち切り、しえるの顔を真っ直ぐ見るマルレラ。
あくまで今しえるが説明したことは、影磁が言っていた、と言うだけに過ぎない。証拠は無い。実際はそうでない理由で洗脳が行われた可能性は残る。
それなのに、しえるは相変わらずいい加減な笑い顔・・・
いや。
露な口元は笑って入るが、目庇の下から覗く瞳は、意外なほど冷徹だ。
「確かめようもないからね。たとえば貴方、今自分の持っている記憶が、本当に絶対誰かの手で改変されたものではない、自分がそう思い込んでいるだけのものではないって、証明できるかしら?・・・それに今、あの人は私達に優しくしてくれている。なら、今を精一杯生きるだけよ。」
確かに。
哲学者デカルトの例を紐解くまでもなく、「自分」を、その存在を疑うことは誰にも出来ない。人は、その場の今を精一杯生きることしか出来ないのだ。
「そうね・・・疑って、ごめんね。」
「ふむ、確かにその疑いは別の方向に向けるべきだったな!」
マルレラの呟くような声に、唐突に別の言葉が襲い掛かる。
「!!?」
ギキィン!!
「ぬ、く・・・っ!」
「やるな、流石にっ!」
突進したジンギの角に、AGの楯と斧が激突して火花を散らす。
AGの豪腕を持ってしても、ジンギの突進を食い止めるので精一杯だった。いやそれどころか。
「ぬ・お・お・お・おっ!!」
じわじわとではあるが、ジンギのほうが押し込みつつある。
だが、AGとしてはこういう密着戦は臨むところだ。
「メキドフレイムッ!!」
AGの全身から、高熱火炎が渦を巻く。
「どわああああっ!!」
流石にこれにはたまらず吹き飛ばされるジンギ。
しかし追撃しようとするAGに角をブーメランのように飛ばして反撃し、隙を与えない。
むこうの方では宇宙船の壁を突き破ってパラドキシデスが参戦、同じように出てきたグローバインは既に戦闘できる状態ではないようなので、既に戦闘自体はバリスタス有利に傾きつつある。
「ふふ・・・やるものだっ!」
「お前こそなっ!」
そう互いに笑うように声を掛け合い、一旦開いた間合いを再び詰めようとした、その時!
「ふはは・・・そこまでだっ!!」
と、急に宇宙船のスピーカーが作動し、高圧的な声を吐き出した。
「なん・・・だとっ!」
「おお!」
先ほどまでとは逆にAGの顔に危惧の色が浮かび、ディオンドラの顔に勝利を確信した笑みが宿る。
「ディオンドラ・・・貴様何を!?」
「ふふ・・・」
食って掛かる影磁に、ディオンドラはその紫の唇を歪めて笑い、手に持った電磁鞭で宇宙船の上甲板を指した。
「見るがいい!」
「・・・っ!」
目を疑う。そんな今までの人生でそうそう何度もしたことのない経験を、影磁はした。
捕らえられたらしく、両腕にごつい手枷をはめられた逆三連星。銃を突きつけられたマルレラ。
それを包囲し、人質にとっているのは・・・
勢流鯨も、信じがたいといった声音で叫ぶ。
「く、クライシスの!どうしたことだ、これは!!」
そう。そこにいたのは、彼らにこの作戦を依頼し手引きした、クライシス帝国の者達だったのだ。
前回いなかった、赤く細いラインの入った黒服の女マリバロンと、クライシスの科学で作られた戦闘ロボット・ガデゾーンもいる。そして、ジャーグ将軍、ボスガン、ゲドリアンの三人も。
「裏切り者の裏切り、というわけかっ・・・!」
ぎりりと苦虫と奥歯を噛む影磁に、その通りだとばかりにディオンドラは笑う。
全てが罠だったのだ。クライシスの裏切りも。
己の失態と甘さを影磁は呪う。
本来冷静な幹部であった彼は、こういった罠の類など今までいくつも見抜いてきた。だが、バリスタスと言う組織に籍をおいてからは、その冷酷ともいえるほどのクールさをあえて排除してきたのだ。
バリスタスと言う「場所」を、好きになっていたから。その、己の冷たさと異なる暖かい場所を。
「くっ、割とありがちなパターンだったのに、気がつかなかったとは・・・」
同じく後悔するマルレラだが、彼女の苦悩はまた別の要因が絡む。
そもそも、クライシス帝国の連中に包囲されたとはいえ、たすくの怪力やういんぐの陰陽術、そしてしえるの装甲を駆使すれば脱出は不可能ではなかったのだ。
それが出来なかったのは、マルレラである。改造人間としては旧式の彼女は、実戦経験が豊富とはいえ戦闘能力はそう高くない。
「私のせいでっ・・・!」
悔しさと、責任感と、申し訳なさと。
「毬華〜〜〜っ!」
パラドキシデスの叫びが、響く。
「ふふ・・・」
混乱するバリスタス。それを見ながら、ジャーグ将軍は笑う。
それは、まんまと騙された相手を嘲る策士の笑みか。
はたまた、手を差し伸べてくれた者を罠にはめる己の浅ましさへの、自嘲の苦笑いか。
本人にも分からなかったのかもしれない。
「さぁ・・・覚悟してもらおうかねぇ!」
「こんな卑劣な手を・・・しかも我々に知らせないで行うとは!ディオンドラッ!」
食って掛かるジンギの生真面目な声も、勝ち誇るディオンドラには届かないらしい。
地面に倒れたグローバインも、やはり恨めしげな目で仲間であったはずのギャンドラーを見つめている。
「さぁ、やっておしまい!」
「合点でさ、姉御!」
対照的に、散々勢流鯨にぼこぼこにされたデビルサターン6は、意気揚々とばかりに攻撃に移ろうとする。
しかし影磁は、そんなことを気にしていなかった。その目が、注がれているのは。
「あ、ああああ、あああああああっ・・・!!」
「え?」
マルレラも、勢流鯨も、パラドキシデスも気づいた。
「た、たすくさんっ!?」
ういんぐが悲鳴を上げる。
たすくが、震えている。遠めにも分かるほど、もはや痙攣といってもいいレベル。歯ががちがちと鳴り、目は白目をむいてどこを見ているのかも判然としない。
「な、どうしたんだ!」
「心的外傷を刺激したかっ・・・」
勢流鯨の疑問に、傍らの影磁の呟きが答える。そしてそれは、奇しくもマルレラのさっきの問いにも答えていた。
影磁の言葉の、真実性の証明でも。
「ああああああああああっ!!!」
「え、ぐあ!?」
絶叫とともに手枷を引きちぎったたすくが、驚くひまもないゲドリアンを殴り飛ばす。
咄嗟にマルレラから照準を外し構えたガデゾーンのショットガン。その銃身を縦に殴り潰して、もろともにガデゾーンの腕を砕く。その隙にマルレラはガデゾーンに足払いをかまして宇宙船の上から飛び降りる。
「こ、こいつらっ!」
慌てたマリバロンが妖術で残りの二人、ういんぐとしえるとを拘束しようとするが、それははっきり言ってかえって状況を悪化させる役にしか立たなかった。
「ぎゃあああああああああっ!!?」
「ひえっ!」
結果、ういんぐまで暴走状態になってしまったからだ。
その混乱の巷から、はるか遠く。
現場に姿を現すことなく、それを見ているものがいた。人工衛星か、高高度無人偵察機か何かからと思しき映像が、薄暗い司令室のような部屋に映し出される。
暴れまわる二体の改造人間。
「ふむ、まあこんなもんかの。」
必死の戦場と違い静かなその場所で、その男は声を出さず静かに笑う。
オールバックに撫で付けられた白髪、細い目、丁寧にそろえられた口ひげ。一見上品な老紳士だが。
「所詮は滅亡を停められなかった劣等種族と、うすら馬鹿の機械人形に時代遅れの侍。もう、元は取れたのう。」
そう言うと、コンソールのスイッチの一つに手を伸ばした。
「ほ、本当に、ですか?」
「本当に、じゃ。何を戸惑う?」
老紳士の傍らに立っていた、家政婦・・・いやメイドのような格好をした少女がおどおどと念を押す。老紳士は何を言い出すのかと言わんばかりの意外そうな顔で、少女の赤い髪に縁取られた、そばかすのある顔を見つめ返す。
「・・・はい、分かりました。差し出がましい口を。」
おずおずと下がるメイド姿の少女。後ろを見ずに後ずさった拍子に、後ろに立っていた全身をぼろ布のマントで覆った男にぶつかり、慌てて横に移動する。
「さて、では。」
そして老紳士は、本当に何でもないことのように、スイッチを押した。
ただ、その手は、本人にしか分からない程度に、僅かに震えた。
その、人差し指が軽く動くだけの、それがもたらしたのは。
破壊と滅びと絶望、そしてそこから生まれる、
ズドガァァァァァァァアンッ!!!
「なあっ!?」
咄嗟に目をかばうAGだが、何が起こったのかは理解した。
ギャンドラーの宇宙船が突如木っ端微塵に爆発した。
「く、どういうことだ・・・皆、無事か!?」
周囲の木々が炎上し、凄まじい熱気が押し寄せる。しかし自身が炎を操る能力を持つ影磁は怯むことなく、素早く周囲を確認する。
今の一撃でギャンドラーのコマンダーどもは殆んど全部吹っ飛んだ。ディオンドラやジンギのような力のあるものは残ったようだ。重傷だが地面に伏していたおかげでグローバインも生存、合体していて巨大な体のデビルサターン6は、爆風をもろに受けたらしく転倒し分離、全員瀕死の状態で唸っている。
メタモルXも、姿が見えない。どうなったのであれ、戦闘に参加できる状態ではなかろう。
バリスタスの面々は、どうか。
勢流鯨は大したダメージを受けなかったらしく、倒れたのがすぐに起き上がってきた。しかし、鯨の改造人間の彼に、長時間の高熱はまずい。
防御形態をとっていたパラドキシデスは、これも無事だがやはり彼も高熱には弱い。
「か、影磁さ〜んっ!」
逆三連星の中で最強の防御力を持ち、そして唯一暴走状態に無かったしえるが走ってくる。その肩を借りるようによりかかって、マルレラも一緒に。
その後に、鳥の羽で造った衣装の殆んどが燃え落ちて、傷だらけの裸身を晒したういんぐも。
「毬華っ!!」
「つ・・・三葉君・・・」
パラドキシデスのかける声に、苦しげに答えるマルレラ。爆発した船の破片と思しき金属片が、いくつも体に突き刺さっていた。
「影磁さんっ、影磁さんっ・・・」
それを抱えるしえるは、失血したマルレラより青ざめた表情で、何度も何度も確認するように影磁の名を呼ぶ。
「落ち着け!たすくはどこだ!」
「あ、あれ、れ、れれれれれれぇ!」
彼女の心的外傷は火に関わるものなのか、舌がこわばりろれつが回らない。しかし他の二人より幾分か冷静なのか、何とかそれを制御しようとしている。
震える、鎧の指先が指し示す。
地面に倒れた、二人の影。その近くに立つ、影。燃える炎に鋭角に照らし出される影。本来ならその影は、光を反射して金色に輝いたのだろうが、今ではぼろぼろのその表皮は黒くくすんでいる。
そして。
「じ、ジャーグっ!」
ジャーグ将軍のシルエットが、杖を振り上げる。
ガキッ!
「・・・ぅあぁ!」
振り上げた杖を、地面に倒れる陰、たすくに振り下ろす。叩くのではなく、突くように。
痛みにもがく、細い腕があがる。
「ジャーグ、お前何を・・・」
AGの呟きは、炎の轟音にまかれて届かない。その間にも、ジャーグは杖を振り下ろし続ける。
「壊れ、壊れてる・・・」
何とか影磁が我に返ったのは、彼にすがりついたういんぐの言葉だった。
ぶつぶつと、呟くように。
「壊れている、あの人、あの金色の人の中で、希望も、屈辱も、罪も、皆壊れ死んでいる・・・」
見ることを拒絶するように瞑られた瞳の端から、煤まみれの頬を涙が伝う。
彼女の、蝙蝠の耳が、陰陽の技が、捉えた何かを、たすくはその体に受けていた。
心では、受け切れなかったから。ほとんど失神しかけたたすくが、うっすらと開いた目に映るジャークの金鍍金したような顔。
その顔は、怒っているようでもあり。悲しんでいるようでもあった。笑っているようにも、見えたかもしれない。
そして、その表情が消える。
「あ・・・・・・」
正確に言うと、その首から上がそっくり消えたのだ。
首が千切れ飛ぶと同時に、近くの木が二、三本なぎ倒される。地面に、投げつけられた影磁の斧が突き刺さった。
「っく・・・・・・・くそっ!」
苦々しく、影磁は呟く。
こうするしかなかった、と・・・そんな下らない言い訳なんて、言うわけには行かない。
「自分でクライシスの殺戮を糾弾しておきながら・・・まさしく悪党だな、私は。」
呆然と、たすくは呟く。
「何で・・・何故・・・何のために・・・どうして・・・・どうして・・・どうして・・・・・・・・・」
それら小さな声を飲み込み、ただ炎は轟々と燃え盛っていた。