関東編最終話「『抗い』の尊厳」

寂れた倉庫街の静寂を引き裂いて、激突する二つの影。
「とぉぉぉっ!!」
白いマントを翻す、きっど。凄まじい勢いでギロチンハット、レーザーブレード、頭部結晶体ビーム砲、更にトドメとばかりに物体を透過する霧状の腕を伸ばして相手の心臓を文字通り掴み取ろうとする。
一瞬で繰り出された四つの攻撃が、過たず高柳の体をずたずたに切り裂き、燃やし、抉る。
しかし。
「ふっふっふっふっふ・・・それで終わりか、小童。それならばこちらからだ。」
高柳は、まるでこたえた様子を見せない。老いた咽喉を低く鳴らし、きっどを嘲笑う。直後、高柳の腕が伸びた。
ズガッ!
コンクリートを抉り、突き刺さる肉色の槍。十数メートルは長さのあるそれは、高柳の右腕が変形して伸びた触手だ。更に一度だけではない。素早く元のように戻るとまた触手化、次、次、次と連続して伸縮しきっどを・・・さらに言うならばきっどの急所である体を統合する額の結晶を狙う。
粘着質な高柳の嘲笑を聞き流しながら、きっどは必死で考えをめぐらせる。
(リタさんが何のダメージも与えられないで捻られるなんておかしいと思ったら、こういうことか!攻撃したときの感触からして、内部構造は大体把握できるんだけど・・・読めたはいいんだが、僕の能力じゃ一寸殺しきれないな・・・これは)
高柳が言っていたとおり、きっどの能力はあくまで諜報活動用。元来が余り攻撃力があるとは言いがたいのだ。
ぎゅうううるっ!!
「あ!?」
触手が、曲がった。リタを狙ったかに見えたそれが急に軌道を変え、その先端は・・・
「しまった!アリシアッッ!!」
リタの絶叫が、届かない手とともに空しく。高柳の伸びた腕はアリシアの細腰に巻きつき、少女の体を捕縛した。
「ち!」
動くきっど。触手を切り落としアリシアを助けるべく、居合い気味にレーザーブレードを抜く。
しかし直後、大きくうねる高柳の触手。その横腹がリタを弾き、リタの体がきっどの目の前に。
「だああっ!?」
「うわっ!」
咄嗟にレーザーブレードを収めざるをえないきっど。後一歩で、リタの胴体を両断してしまうところだった。
体がもつれ、リタを抱きとめるような姿勢でつんのめるきっど。そこに追い討ちとばかりに、高柳の哄笑が響き渡った。
「ふはははは、小童!残り寿命がカスカスのその娘はくれてやるぞ、どうせもうじき死ぬのだしな!「ヴィクトルの遺産」さえ手に入れば後は用は無い!」
慌てて起きるきっどだが、既にそこに高柳の姿は無い。あからさまにステルス機能付きであることを主張するつや消し黒に平板な外見のVTOL機が数機、急速発進する噴煙が渦巻く。
「ち・・・しまったッ!!」
そこにようやく、ゾンビーナと玲、桜が到着した。
「くっ・・・バリスタスの怪人!お前みすみすアリシアを奪わるなんて、何やってる!!」
「やかましいぞ狂科学ハンター!リタさん助けるので精一杯だったんだよ、元はといえばアリシアはお前が保護したんだろうが!悪の組織としてそこまで善行押し付けられても責任取りかねる!」
咄嗟に今までの敵対関係から怒鳴りあってしまう玲ときっどだが、今はそれどころではない。
「馬鹿玲!!そのとおりじゃないの!あんたちっとは責任感じなさい!」
玲には、ゾンビーナが怒鳴りつけ。
「頼む・・・きっど、あの子を、助けてやってくれ・・・!」
そして、きっどにはリタが。
「あたしはどうせ駄目だ。アリシアが自分の血を・・・治癒効果のある「ヴィクトルの遺産」の血をくれたおかげで今は何とかなっているけど、どうせもう長くは持たない。それより、あの子を頼むよ。ハンターも、レベッカの人造人間も・・・」
そう言うと、リタは立っているのも辛いのか床に膝を着け、そしてこれは自らの意思で、額をコンクリートの床に擦り付けるようにして頭を下げた。
確かに折角アリシアの血で直りかけた体は高柳との戦闘で再びぼろぼろになり、崩壊が始まりかけている。
「確かに、あの子は人造人間・・・「ヴィクトルの遺産」そのものだったんだ。でも、それでもあの子だって心のある娘なんだよ。自分って物を、自我を怖がっている、まだ本の小さな魂なんだ・・・頼む・・・」
そのリタの言葉に、最初に反応したのはきっど。しかし返事はせず、リタの傍らに歩み寄ると。
「っ?何を・・・」
突如、先ほどF兵器の心臓を抉り出したときのように、きっどの腕が霧のように分解した。さらに今度は両腕が分解しその霧がリタの体を包むと、ちかちかと発光しだす。ナノマシンが激しく活動している証拠だ。
「・・・リタさんの体内の変性プリオンを、完全消去します。人体改造の耐用年数については後で再手術の必要があるでしょうがそれさえ行えば間違いなく大丈夫ですし、今でも充分全力発揮が可能なはずです。」
ナノマシンを駆動させながら、きっどは。
「助けに行くなら、リタさんも一緒にしましょう。」
にこりと笑った。それが答え。
「あたしは当然行くわよ。レベッカとの約束だし。」
ゾンビーナが、それに続く。きっと眦を決すると、拳を握り締めた。
「はい、はい、了解。」
その間一同から少し離れて通信機を使っていた桜が、通信機をたたみながら歩いてきた。そして言う。
「あたしもかませてもらうわよ、その話。って言うか、総理が動いたわ。日本国を挙げて「黄金の薔薇」を叩くって・・・それで玲、あんたはどうするの?対「黄金の薔薇」の戦闘は言われなくてもするだろうけど、そのアリシアとかいう女の子のこと。」
「・・・・・・」
表の世界を上回る超科学総てを狂える悪として狩ってきた狂科学ハンター、姫城玲。その横顔を桜は恐る恐るのぞき見た。
其処に宿る表情は・・・。

しかしここで、舞台は変わる。
夢。
それは時に過去の再現であり、そして時に心象の具現であったりする。
ならばこの場合それが過ぎ去った事象でない以上、後者であると認定しうるのだろうか。恐らくそうだろう。だがそれは、ひょっとしたら未来を移していたのかもしれない。現在の心象が生む行動から生じる、未来の予想図を。
夢。
警視総監にして元仮面ライダー一号・本郷猛は今、夢を見ていた。
戦いの、絶望の戦を戦う、未来の夢。

「仮面の力を手にしたら何でも出来るのですよ!仮面は全てを覆い隠す!!」
「俺は自分の為だけに戦ってる、そういう人間が一番強いんだよ!」
目の前で、殺し合いが行われている。多くの血が流されている。互いに戦いあい、力なき民衆を襲っては殺戮し、その命を貪って己の力へと帰る異形の怪人たち。
彼等は・・・仮面ライダーを名乗っていた。最後に生き残った一人が究極の力を得て自分の願いをかなえる、そのために殺しあうのだと。
「生きるって事は他人を蹴落とすってことなんだよ!この世は力のあるヤツが勝つんだ!ライダーの戦いも、それと同じこと・・・人間は皆ライダーなんだよ!ハッハ!」

「俺はもう、お前達のためになぞ涙は流さない・・・」
低い、地獄の底から響くがごとき声。
「お前達が仮面ライダー?お前達がヒーロー?・・・ふざけるな!お前達がそうだというのならば・・・俺は名を捨てる!仮面ライダー一号という名を!ショッカー怪人飛蝗男・・・それで構わない。俺はこれから、ショッカーになる!変・・・身っ!」
かしゃっ、とカメラのシャッターが開閉するような音。本郷の腰に銀色の楕円形をしたバックルが現れ、その中心の蓋が開く。赤い風車が光輝き、高速回転する。
その光が一瞬本郷の全身を覆い、そして消えた。その中から現れたのは黒い革のようなスーツと銀の手袋とブーツに覆われた、飛蝗と髑髏を融合させたような仮面を被った男。首筋に紅いマフラー、紛れも無い仮面ライダー。
それだけなら、かつての彼の姿。だが変身はそこで止まらない。それまで一度も開くことの無かった銀の顎、クラッシャーが開く。その中にあるのは人の顔ではなく蝗の口腔。頭部のアンテナが吹き飛びその穴から空気を探るように生物的な触角が生える。背中の、羽をイメージした模様の部分が破れ、本物の透明な昆虫の羽根が伸びる・・・大きく。翼長は身長をはるかに超えている。両手両足を覆う銀の手袋とブーツが破れ、鋭い爪が露出。体の側面を走る銀のラインにそれに呼応するように電光を放つ。
そして、最後に。大きく紅い、仮面ライダーの目。それが光を失い、漆黒へと変じる。爪の生えた手が、紅いマフラーを掴み・・・毟り取った。
・・・聖なる泉涸れ果てし時、凄まじき戦士雷の如く出で、太陽は闇に葬られん・・・

重装甲型の仮面ライダーの胸を、拳が一撃でぶち抜く。
カメレオンみたいな、見た目は本郷が昔戦った死神カメレオンそのものの奴は、縦一文字に両断された。
逃げようと背中を向けた奴は、走り出そうとしたときには既に首が転がり落ちている。
腰を抜かし、失禁したモノもいる。視線を合わせることも無く、塵のように踏み潰された。
仮面の上からでも血相を変えたのが分かる他の奴が、咄嗟に両側から襲い掛かる。
本郷の背中から生えた、昆虫の羽がはばたく。薄く輝く幻想のように美しい、だがそれは刃。向かってきたものは、五体ばらばらになる。
その隙に、最後の一人、全身金色の奴は必殺技の構え。それを投げやりに眺め、仮面ライダー一号であったものは、鼻で笑った。
ライダーキック。
金で身を飾ったゲームの親玉が砕け散る。

そこで、本郷猛は目を覚ました。色々な経緯があって勤めることとなった警視総監の部屋、机に伏せた体に意識が戻る。
ため息を一つ、つく。最近はいつも、このような悪夢を見る。あるときは戦いに敗れ総ての仲間を目の前で失う夢。またあるときは守ってきた世界に裏切られ、自ら悪の権化と化して世界を焼き払う夢。
・・・最近などという、漠然とした区切りで自らを欺いても仕方が無い。
九州での戦いで、一文字隼人が・・・仮面ライダー二号が、本郷の無二の相棒が命を落としたと、知ってからだ。
自分には、それをどうすることも出来なかった。老い朽ちた、既に変身すらままならぬこの体。尽きせぬ悪と、それに泣く人々。何ら変わらない、世界。
一体、何のために戦ったのか。何のために幾多の敵の命を奪ったのか。そして、何のために隼人は死んだのか。
と、既に何回目か数える気にもならない追想と苦い苦い自己嫌悪へと本郷が沈もうとした、その時。
なにやら歳若い少女の声と、部下の警察官達の声が廊下から聞こえてきた。どうも言い争っているように思えるが・・・
「いいから!御託並べてないでどきなさいっ!!!」
ドガン!
扉が蹴破られた。同時に扉もろともに蹴られたと思しき警官が一人もんどりうって転がってくる。そして、大またでつかつかと入ってきた、金髪をポニーテールに纏めた娘・・・総理大臣・折原のえるだ。
「な・・・!」
「健ちゃんが・・・あたしの恋人がさらわれたわ。下手人は秘密結社「黄金の薔薇」。要求は臓器移植新新法の撤回と、これからは「黄金の薔薇」の言うことをきくっていう制約。・・・早い話が、再びの、いえ今までよりもっと強固な日本政治への支配権の確立。この要求を呑めば、日本は今度こそ完全に「黄金の薔薇」の手に落ちるわ。」
入ってきたのえるは、藪から棒にそう言った。
「力を貸して本郷猛、仮面ライダー。」
自分を見つめる、真っ直ぐな視線。思わず本郷は、それから目をそらせてしまった。
「・・・俺はもう、仮面ライダーに変身は出来ん、戦うことは出来ない・・・仮面ライダーが戦えないなど、何も出来ないも同じ・・・」
そして呟く本郷猛。
対してのえるが返したのは、怒号か咆哮かと思うような凄まじい大声。
「・・・分かってるわよ!馬ッ鹿じゃないあんた!いい、人間ってのは一人では少しのことしか出来ないのよ!それなのにいい年して孤独のヒーロー気取ってるから鬱病にかかるのよ!分かる!?」
年上の相手にえらい失礼なことを、凄い剣幕でまくし立てるのえる。
しかし、その表情は真剣そのものだ。
「人間には人間は必要なの!あたしには健ちゃんが必要なの!だから・・・お願い・・・!!」
ぎゅうっと、震えるほど強く握られる拳。赤い拳。血に染まった包帯から、力を入れた拍子にまた血が溢れ、肘までつたいぱたぱたと床に落ちる。
「その、傷は・・・!?」
驚く本郷。それまでの話の流れからして、恐らく「黄金の薔薇」との戦いか、それに関係した事件の中でついたものというのは分かる。ならば何故驚くかといえば、その事実が衝撃だったのだ。どういうわけだか突然現れた、女子中学生の総理大臣。そんな不真面目に見える存在が、戦うなどと。
そののえるの表情は、強張って引きつって、でも泣きそうではなくて。
決意に、必死なまでの決意に彩られ。
「力を、少しでいいから力を貸して。貴方に、仲間が要るのなら・・・希望が要るなら・・・赤い拳は、ここにもあるから。」
のえるは、言った。
そして・・・本郷は。
「・・・分かった。」
そうだ、何を馬鹿な迷いを抱いていたのだ。本郷はそう思った。
仮面ライダーを名乗ったあの日。決意したではないか。希望になる、と。どんな闇の中にも輝く、闇の中の人々に僅かでも光を届ける、希望になろうと。
そして、その希望に答えてくれる人がいた。たとえ一つの希望が死んでも、それに続く光は現れる。
(そうだったんだな、隼人・・・)
それを知っていたからこそ、最後まで友は戦い抜いたのだと言うことを今更ながらに理解する。
そして、本郷はのえるが差し出した血濡れの手を、取った。再びの戦い、再び希望を示すために。繋ぎ止められたその手は、悪夢を砕いた。

百腕巨人が拉致した長谷川健太、そして高柳が捕獲してきたアリシアは、揃って「黄金の薔薇」の基地の同室に押し込められていた。
その二人を見る、二人の影。「黄金の薔薇」日本支部長高柳征爾と・・・白峰誠志郎。忍の父で、厚生労働大臣で、娘を捨て、役職を利用し今回の企みを目論んだ。名前の誠志が聞いて呆れる。
普段政治の場で健太やのえるが会っていたときの白峰は若干ふてぶてしい印象を感じるくらいの白峰構成労働大臣の顔は、既にそのうわべを取り払い、下から僅かに滲み出ていた何を犠牲にしても恥じることの無い野心の表情を剥き出しにしていた。
「この国ではまともな仕組みでは手に入らないのだよ、総理の椅子は。折原総理だって、「そう」ではないのかね?」
確かに、そうだ。のえるはまともではない手段・・・悪魔の力で総理大臣になった。人のことを言えはしないが、しかしそれでもこれは「違う」。のえると白峰は絶対的に違う。のえるは自らの魂を賭けて交渉し、知恵でもってそれを手に入れた。対して白峰は、それを他人の命と魂で贖おうとしている。
「お前は人質だ。あの小娘を思うがままに操り、わし等の日本支配の下準備に使うための・・・な。くく、既に新新法は取り下げられたこれを期に色々と、国民受けの悪い政策をやってもらうさ。わしの内閣でやらんでもすむようにな。なぁに、別に君が嫌だというならかまわないよ。・・・子供の臓器ならいくらでも必要だ。総理の秘書官として幸せだろう?公のためになるのだからな。くくく・・・ここだってわしが税金で作った、表向きは厚生労働省の研究所に過ぎんのだよ。」
嘲笑う白峰。
「そう言うわけで、まあせいぜい有効活用してうやるわ、有難く思うのだな。どうせお前たちは一人では何も出来ない・・・何も出来はしないのだからなぁ?」
咽喉を鳴らすような、粘つく気色の悪い声で高柳は言うと、不意に腰を折り曲げてアリシアに顔を近づけた。怯えて顔を背けようとするアリシアの華奢な顎を掴み、自分に強引に向けなおす。
「良いか・・・特に貴様は、だ。お前は、感情などもってはおらぬ。ただそのときその時にあわせて不完全に対応し、そして暴走するだけだ。お前が勝手に考えようとすれば、お前は過ち、誰かを殺す。そういう存在なのだ。・・・何も考えるな、何もするな。分かったな?」
皺だらけの口元を歪めてそう呪文のように執念深くアリシアに言うと、高柳顎を掴んだ手を突き放した。受身も取らずにまともにコンクリートの床にたたきつけられる様子に、満足するように酷く利己的な笑みを浮かべると、踵を返した。白峰もそれに従い、部屋から姿を消す。
そして、取り残される二人。只管に沈黙し、膝の間に顔を埋めて座り込むアリシア。
健太は、呟く。ただ呟くしかない。そう思っていた。
「ゲームに勝つのは、ルールを熟知した者なんだ・・・この世界を作っている、世の中のルールを決めている大人に、勝てるわけが無い。」
そして、そんな言葉を呟く自分を、汚いと思う。
自分が捕まったから、のえるは負けたのだ。
自分の、せいで。
「ごめん・・・」
「そうでもないよ。ゲームよりも強く、決定的に勝つ手がある。」
「一体なんだよ、それ。」
不意に、そんな声が聞こえた。殆んど慣性で、脳をろくに働かせないまま健太はその声と会話する。
声は言った。自信と元気たっぷりの、希望色の声は言った。
「ゲーム盤を丸ごと引っくり返して、それで相手をどつき倒すのよ!」
「へ!?」
(よく考えたら今、僕誰と会話してるんだ!?)
そこで気がついた。以前のえるから渡された、小型通信機。携帯電話につけられた「ドラえもん」のストラップに偽装されたそれからだ。しかし、電波的に遮蔽されたこの研究所では通常携帯電話が使えないところでも動くこの発信機も今まで機能せずにいたではないか。それが何故また突然に。
可能性としては、よほど強力な発信装置を使い、それも近くで行った場合だけだ。
「まさか・・・」
健太が呟いた、途端。

ドォォオン!ドォオオオン!

突如砲声が響き渡り、島を揺らした。
「ななななな、何だっ!!?」
突然の轟音に、高柳と白峰が慌てて飛び出してきた。
「馬鹿な。この岩戸島に攻撃じゃと!?自衛隊が動いたというのか・・・!?」
高柳すら驚愕の表情を浮かべ、白峰構成労働大臣に至ってはもはや言葉も出ない。
しかし確かに今洋上に島に、展開する光景には自衛隊の部隊が存在している。東京都であって東京都ではないような、この都心から真南の方角に点々と続く小さな島のひとつに、陸・海・空、そして「黄金の混沌」期に対怪獣戦闘用に編成された特生自衛隊が集結していた。
それが、この「黄金の薔薇」日本支部・・・北米のギア・グローバルが攻撃を受けてからギアグローバル日本支社のアジトへの襲撃の可能性を考慮し別に作った「黄金の薔薇」の日本侵略の拠点・岩戸島研究所に押し寄せてくるなど、高柳は想定もしていなかった。所詮小娘とのえるを侮り、ここまで歯向かってくるとは予想だにしていなかったのだ。
「大体、既にのえるは臓器移植新新法の可決を諦めたはず、それが何故・・・く、どういうことだ高柳!」
「ええい案ずるな愚か者!「黄金の薔薇」の力を見せてくれるわ!!全軍戦闘配置!全兵器起動せい!予定より早いが・・・ここで自衛隊を撃破し、日本征服を敢行する!」
動転する白峰に、高柳が咆えた。すぐさま端末を取り出し、司令する。

「ぐええええええええっ、ごええええええええええっ・・・」
海水を掻き分けるように手足を振り回し、現れる大きな影、影、影。緑色の海草とも鱗とも毛ともつかないものを体中に纏いつかせた、身長20mほどの巨人の群れ。
岩だらけの地面に次から次へと開くゲート、そこからぞろぞろと這い出す金褐色の毛を纏った、ゴリラのようにごつい体躯の巨人の群れ。
「黄金の混沌」期、最初の「フランケンシュタインの巨人」から分化した細胞が海と山で成長した怪獣「ガイラ」「サンダ」に酷似した姿である。否恐らく細胞レベルでは同じ存在・・・従来のF兵器に改造を加えたものだ。
しかし、片や人を食い暴れる普通の怪獣であり、片や知性をもち人の味方をする稀有な怪獣であったが故に、いわば細胞レベルまで同じクローンの兄弟であったのに戦いあい滅ばざるを得なかった二体とは違う。「黄金の薔薇」の意思の元に束縛され、その命令のままに動く人形の群れ。それぞれ五体ずつ、合計10体。
地上部隊としてさらに通常型のF兵器とネロス帝国本部ゴーストバンク攻撃に用いられた怨霊少女、大型荷電粒子砲など防御砲台も大量に配備されている。
空中を守るのは対空システムと、第二次大戦中に独逸で開発されていた、竹トンボのお化けのような「主翼自体がジェットで回転する」垂直離着陸機トリュープフリューゲル、円盤型の胴体が大きな換気扇のようなプロペラ状になっている特殊オートジャイロ「フリューゲラートW」、それぞれ「黄金の薔薇」の超技術で更なる強化を施されている。
更に更にこれだけではなく、未だ目に見える位置に現れていないものもあり、まさにこの島自体が巨大な要塞といっても過言ではないだろう。

対する自衛隊の戦力は、第一護衛艦隊群の八隻の駆逐艦と加えて掻き集められる範囲から掻き集めた輸送船団。
それだけして揚陸した部隊は、主に特生自衛隊を主戦力とする部隊。まず戦車揚陸艇から現れたのは、亀のような八角形の車体が特徴の90式メーサー戦車だ。続いて長い車体のトレーラー型装輪装甲車、84式ハイパワーレーザービーム車。
最新鋭のこの二種類の車種は、かつての黄金の混沌期に現れた50mクラス怪獣にならば、十二分に打撃を与えうるものとして設計された。・・・しかし。バブル期の狂乱の時代に開発分だけの予算は取れたもののその後の不景気で防衛予算は締め上げられ、ましてや「黄金の混沌」時期以来ぱったり出現しなくなった怪獣相手の特生に回る予算などなく、結局量産などされていない。
事実最初に出て着た数台を除けば、後は「黄金の混沌」初期に開発された六十四式殺獣メーサー砲戦車だ。牽引車に引っ張られて動く、天文台にあるような大型望遠鏡を光学の筒に電波のパラボラをくっつけ、銀色に塗ったような移動砲台。奇しくもかつて「サンダ」「ガイラ」が出現したときに初実戦投入された、旧式。
航空自衛隊の戦闘機もはせ参じるが、他国に攻め込むというありもしない心配のために増槽を装備でき無いためこの離れ小島で戦闘できる時間は短く、また対地攻撃装備も無いため火力に乏しい。VTOLで超音速・小型メーサー砲を二門搭載した支援戦闘機(有体に言えば攻撃機)の開発計画もあったのだが、予算が取れずに結局試作機すら作れなかった。
首都防衛用に計画された空中要塞スーパーX級の建造も、呉の港に大破した状態のまましてある海底軍艦の修理も予算不足で行われなかった現在、特生自衛隊の戦力はかつてTDF(地球防衛軍)並びにその各種下部組織が存在していたころよりかなり低下している、と言っていい。陸上自衛隊にしても、やはり予算不足で今は各国大抵導入している新機軸の兵器、人型戦車(AS・アームスレイヴ)の導入を見送っている。

ぐぅぅぅん・・・
島のあちこちから張り出してくる荷電粒子砲の禍々しい砲門を第一護衛艦隊を率いる沼田一佐は睨み付ける。小さな目に団子鼻、太い眉にずんぐりした顔体つきと余り風采は上がらないが、しっかと艦橋に立つその姿は一種の実直さが感じられる。
既に上陸作戦は始まっている。奇襲を優先したのと、護衛艦隊の火力では地下に隠蔽された状態での敵を叩くことが出来ないため砲台出現まで待ったが、危ない橋に変わりは無い。しかし、後に引くことは出来ない。
「敵エネルギー兵器、確認!」
「全艦に打電。『傘を開け』と伝えろ!」
「了解。『傘ヲ開ケ』!」
同時に、各護衛艦の本来対潜ヘリを搭載している後部甲板、並びに輸送船の上部甲板に、暗号電文の文字文字通り巨大な傘を思わせるパラボラが、古いカメラのフラッシュを思わせる形でバシャンと音立てて開く。
「何だあれは・・・かまわん、撃てっ!!」
それと同時に、「黄金の薔薇」も動いた。岩戸島の幾箇所からも強大なエネルギーの奔流が火を噴く。最初に艦船を叩き、揚陸中の部隊もろともに倒してしまおうという狙いだ。現代科学を超えるその一撃、果たしてその「傘」はどう防ぐのか。
次の瞬間、降り注いだ荷電粒子の流れが、歪んだ。艦首を狙ったものも艦橋を狙ったものも、吸い寄せられるように軌道を捻じ曲げてパラボラに向かい、そしてそこで一旦傘の表面ぎりぎりで受け止められたかのようにしたあと更に急激に湾曲し、Uターンした。
「なぁ・・・!!?」
炸裂。「黄金の薔薇」が撃った攻撃が、逆に「黄金の薔薇」を吹き飛ばしていく。
「やりました、一佐!作戦は成功です!マーカライトファープ、全機完全作動です!!」
自衛隊の使用した兵器は、これまた年代的には古い代物だ。TDF結成のきっかけとなった日本への宇宙人・ミステリアンの侵略。その際員敵宇宙技術をダッシュし始めて作成された一連の兵器システムの一つである、「敵のエネルギー兵器を反射する武器」マーカライトファープ・システム。「黄金の混沌」が過ぎ去り殆んどのTDFの装備が処分された時その防御兵器としての性質から自衛隊に払い下げられ、使われることなく埃を被っていた代物だ。
急遽整備し搭載、持ち出してはみたものの使えるか微妙だったが、それでも整備工の腕が良かったらしく見事数十年の時を越え作動した。
「うむ。過熱に注意しつつ、ファープ展開を続行。各艦76mm・127mm砲、CIWS、対潜ロケット弾に短魚雷、ありったけ準備!怪獣相手にレーダー・ソナー追尾は通じにくい、連動を切り目視で各個敵ガイラ級F兵器攻撃を敢行せよ!」
実戦経験の無い若い自衛官等が初体験の戦場にどよめくなか、沼田一佐は沈着に命令を下していく。
彼自身も、実戦の経験は殆んど無い。ごく若いころ一水兵として何回か対怪獣の警戒任務に当たる船に乗っていたことはあったが、今回のような秘密結社とはいえ人間の軍隊との戦闘。
しかし、不思議と彼の心理は沈着さを保つ。否保たなければならないのだ。
あの若さでこの決断を背負った少女に、負けるわけにはいかない。彼等は防人。同じ国に生きる他者の命のために己の命を賭けるものなのだから。
「ぎしゃああああああ!!」
速射砲の連続打撃に皮膚と肉を削られながらも、突進してきたガイラが沼田の乗る旗艦「しらね」に掴みかかった。雄叫びを上げ、機関砲塔などを次々とひきむしり、叩き潰していく。
激しく揺れる艦橋。沼田は衝撃をコンソールにしがみついて巧くやり過ごすと、即座に逆転の命令する。
「今だ、前砲門敵頭部に集中射撃!」
グワアアアアン!!
一斉射撃がガイラの顔面を捉える。これが50m級怪獣だったらダメージとはならないところだが、20m級のガイラには流石に大打撃となった。顔面をかきむしってもだえるガイラに、更に艦尾のマーカライトファープから蓄積エネルギーによる攻撃。直撃を受けたガイラの頭部が、粉みじんに吹っ飛んだ。船の横腹にしがみついていた緑色の巨体が、水柱を上げて海に落ちる。
「被害報告!」
「CIWSを一門もぎ取られました。他フィンスタビライザーと右舷装甲に歪みが発生・・・大丈夫です、まだいけます!」
間一髪、ガイラが隣接した直後に倒すことが出来たから、これだけの損害ですんだ。あのまま艦にしがみつかれて攻撃を受けていれば、一方的に損害は拡大したはずだ。
事実「しらね」ほど機敏に対処できなかった他の護衛艦の損害は、かなりのものがある。
「他の艦は、それと敵は!?」
「たちかぜ、艦首部127mm砲損傷、左舷装甲破孔、浸水!むらさめシースパローVLSシステムが爆発、火災発生!うみぎり、レーダーシステム破壊!」
「敵獣「ガイラ」級F兵器、二体の活動停止を確認!残る三体に各艦応射中・・・うわあああっ!?」
早くも損害続出だが、この程度なら五体もの怪獣を相手にしている現状ならば、許容範囲内だ。やはり「黄金の薔薇」が作った紛い物でしかないので、本物の怪獣ほどの力は持っていないのだろう。
そう沼田一佐が判断しかけた直後、「しらね」が再び揺れた。ガイラの攻撃ではない、直下から突き上げるような一撃だ。
「何だ・・・おおっ!!」
直後その攻撃の正体は判明する。海の底から次々と現れ、しらねの船体を叩く・・巨大な蛸の蝕腕。
さらに後方からこれも巨大な、長さが数十メートルにも達する大海蛇が現れ、僚艦はたかぜに襲い掛かる。
「これは・・・こいつらも「黄金の薔薇」の兵器かっ!!」
驚嘆する沼田一佐の言葉は、確かに的中していた。この巨大生物達はF兵器用に使う生体活性液を投与して「黄金の薔薇」が巨大化させたもの。「黄金の混沌」期には比較的数多く存在した、呉爾羅やガメラ、アンギラスやラドンなどの50m級怪獣よりかは弱い巨大生物。しかしそれでも、それが兵器として自在に制御できるとなれば強力な代物に違いは無い。さらに、複数が同時に現れたともなれば。
「このままではっ、陸上部隊の支援どころか艦隊が壊滅する恐れがっ・・・!」
上空でもまた「黄金の薔薇」と自衛隊の戦闘機が激しい空中戦を繰り広げるが、増槽が無いので上空に長時間とどまれない自衛隊と島の立地条件上速度のあまり出ない垂直離着陸機で戦力を固めざるを得なかった「黄金の薔薇」とでは一進一退、互いに決着はつかない。

そのころ既に、援護無しでも陸上部隊も激闘を繰り広げていた。
「ウオオオオオオン!!」
狒々を思わせる乱食いの牙をむき出して叫び、迫りくる「サンダ」級F巨人の群れ。本来知的な存在であったオリジナルのサンダの面影はそこには無い。
それに対し、砲門を並べた特生自衛隊が一斉にメーサー砲・レーザー砲を撃ち込む。それにより分解された大気のイオンを大量に含んだ爆風が、同時に地面を駆け巡り戦車たちの装甲表面を叩く。
「第一射、敵獣肩部分に命中、目標なおも突進中!」
メーサーないしはレーザーならば照射しホースでまいた水のように「薙ぎ払う」というイメージがあるかもしれないが、実際は相手に充分なダメージを与える攻撃には出力の都合からコンデンサで一度発電した電気を貯め、威力を上げてから一気に放つ必要が生じるため照射は途切れ途切れ、事実上その辺の「射撃」は通常火砲とそれほど違いがあるわけではない。
しかし異なるのはその威力だ。74式の105mm砲や九十式の120mm砲では、強固な体を持つ怪獣にダメージを与えにくい。しかし体内水分を沸騰させ組織構造自体を細胞の内側から爆発させるメーザーと、高熱の力で相手を溶かし穴を開け切断してしまうレーザーならば、怪獣相手にも打撃力として通用する。事実メーザーの命中したサンダ級F兵器の肩は弾け、真っ赤な血が噴出している。
「仰角2、下げ!足を狙い動きを止める!第二射再度全車両一斉射撃!その後は各個散開、独自に敵獣を攻撃せよ!」
隊長車両を勤める最新型・90式の発した号令の下、猛攻を加える特生陸戦部隊。次々と放たれる光と電光、不可視のメーサーの箭が、知性無き巨人達を貫き打ち据える。
しかし、優勢を保てたのはつかの間の出来事だった。何度めかの射撃を行っていた最中、戦列を形成していた六十四式メーサー殺獣砲車の一台が突如爆発したのだ。
「何だ!?」
それを見ていたすぐ隣の車長が叫ぶ。一瞬整備不足によるコンデンサやマグネトロン過熱による自壊かとも思ったが、それは違った。確かにこの六十四式は二十年以上実戦に出ていなかった筋金入りの旧式だが当時としては最高の十年二十年先を見つめた技術を用いており、出発前に出来る限りの整備を施した。
直後、車長はその理由を理解した。炎上する僚車の陰から素早く飛び出す、黒いボディスーツを纏った人影。
「人間兵器部隊・・・!?」
しかし、その直後死角からの一撃を加えられたその車両も、乗員を乗せたまま爆発炎上する。
「くっ、敵の強化人間どもをメーサー車に寄せるな!攻撃開始!!」
巨大なサンダ級F巨人で目を引いておいて、島全体に張り巡らされた出入り口から奇襲をかけてきた「黄金の薔薇」戦闘員部隊。その奇襲を許し貴重なメーサー車を二両失った自衛隊だが、直後には反撃を開始していた。
通常対怪獣戦闘となれば歩兵部隊の火力は役に立たないので車両だけで行動するメーサー車だが、今回の相手は秘密結社。通常の機甲師団と同じように随伴歩兵を配置した編成で上陸していたのだ。
「撃てっ〜〜〜!」
パパパパパパン、と強くキーボードを叩く音のような、乾いた自動小銃の発射音が木霊する。しかし逆に自衛隊歩兵部隊は刻一刻と劣勢に追い込まれていく。戦闘員相手ならば、まだ何とかこういう開けた場所なら互角の勝負が出来るのだ。
しかし相手がF兵器となると苦しくなる。何しろ銃弾などものともせずに襲い掛かってくるのだ。手の届く範囲まで来られたが最後、圧倒的な怪力で捻り潰されてしまう。さらにこの島には死体縫合技術を応用して複数の生物の体を繋ぎ合わせさらに生体強化を施した、人造幻獣たちもいる。ライオンと鷲のグリフォン、首を三つ持つ大型犬ケルベロス、巨大蟻の体に獅子の顔を持つミュルメコレオ、ドラゴンやキメラ、ヒュドラなどの姿までもある。いずれも歪められ操られているとはいえ野生の俊敏さを持ち、F兵器には無い素早さで持って一気に襲い掛かってくる。
重機関銃やグレネードランチャー、迫撃砲に無反動砲などで応戦し何体かを撃破するが、以前敵の猛攻に圧倒される状況に変わりは無い。怨霊少女などは物理攻撃自体効果が無いのだから手の施しようが無かった。
74式強化装甲服一型という車両支援用のパワードスーツの装備があったがこれはせいぜい一個小隊分くらいしか用意されておらず、それも宇宙刑事機構が地球介入を行ったり戦隊ヒーローが結成される前、いわばパワードスーツの技術など殆んど無い時に作られた代物、対改造人間戦闘はおろか戦車にだって勝てはしない。あくまで歩兵支援や車両直援用の装備なのだ。その後92式特殊強化装甲服プロテクト=ギアという新型の計画が進められたが、やはりこれも廃案となっている。しかしいずれにしても装備自体は通常火器なので、やはり決定打とはなりえなかっただろう。
「うぐわああああああっ!」
また一人の兵士が、F兵器に捻り殺された。骨を砕かれ、内蔵を引きずり出され、全身から血を噴出して息絶える部下に、苦悩する指揮官。
「むう、このままでは・・・!」
今のままでは勝てない。しかし、国防の、その国限定であれ皆を守るものである自衛隊が、ここでおめおめと逃げ出すわけには行かない。この一戦は、日本の今後を決める一戦でもあるのだ。今のままの腐敗と混迷を続けるか、それとも。その「それとも」を選ぶことを、我々は選択したのだ。
そう再度心を奮い立たせた、その時。
彼等は、来たのだ。

「おおっ、あれは・・・横須賀地方隊!」
全艦30ノットを出せる第一護衛艦隊の後を追ってきた、それよりも鈍足の25ノットが最高速度であるちくご級を含む横須賀地方隊の四隻が今、姿を表した。
「閣下、新たな艦影を確認!自衛艦が四隻、横須賀の地方隊と思われます!」
無論「黄金の薔薇」もそれを捉えていた。しかしその報告を受け取る高柳に、驚きの表情は無い。むしろ飛んで火に入る夏の虫といった風情だ。
「くくく、愚かな。軍隊ともいえぬ張子の虎が、たった四隻増えたところで我等の敵ではないわ。まとめて叩き潰して・・・おおっ!?」
しかし、直後。
「ガオーーーッ!!」
新たに現れた護衛艦「はつゆき」の甲板から、突如軋みのような咆哮を上げて飛び立つ、人型の影。ジェット噴射で飛行すると一気に突撃し、「しらね」に絡み付いていた大蛸を一撃で粉砕した。
手足を振り回し強引に慣性モーメントを変更、方向転換するその姿は砲弾のようにずんぐりとした体と尖った鼻のようなパーツ、鉄兜のような頭部が特徴のロボットだ。大きさは10mほどか、その無茶苦茶な機動を見るに有人ではなくリモートコントロール。水面をバウンドするように低空飛行し、生き残りのガイラの群れに殴りかかる。
さらに今度は、上空から二体の巨大な影が飛来した。どちらもやはり人型の巨大ロボットだが、先に現れたものと違って身長は50m近い。
一体は昆虫の複眼のような目をして、胸部装甲版に「17」と文字が書いてあるのが特徴だ。戦場に着くや否や、全身のいくつもの箇所からのミサイルと、両拳部分を発射する武器で残存していた敵の人造怪獣部隊を蹴散らしていく。

「行けっ、鉄人!そこだっ・・・叩け鉄人!」
護衛艦「はつゆき」の艦橋で、一人の初老の男性が興奮した面持ちでコントローラーを操作していた。二本のアンテナを兼ねる操縦桿と三つのつまみ兼用のボタンという、極端にシンプルに纏められた操縦機を動かしながら、ロボットに語りかける癖はかつてのまま。
彼の名は金田正太郎。「黄金の混沌」の時代からこの大日本帝国の遺産であるリモートコントロール式ロボット兵器「鉄人二十八号」を操り悪と戦ってきた。既に年配と化した今は自衛隊の戦史研究室に所属、桜や月形の上司として後方支援に当たっているのだが、今回は遂に出撃した。奇しくもフランケンシュタインの怪物」同様、旧大日本帝国の遺産同志の激突となる。
そしてもう一人その隣に、複雑な通信用のアンテナのついたヘルメットを被った少年が集中し、あの「17」(ワン・セブン)と呼ばれる、わけあって滅人同盟のブレイン党から離脱した、滅人同盟最強の巨大ロボットと「会話」し、こちらの作戦行動を伝えている。己の意思を持つ17は、概要を伝えれば自分の意思で行動できるのだ。
「室長、張り切ってるわね・・・でもまあ、仕方ないか。アレだけはっぱかけられちゃ・・・」
それを見て、呟く桜。今まで戦史研究室は殆んど動くことは無かった。それというのも超科学を管理する故に独自に国際警察機構と関係を持つなど独立独歩の気風が強い戦史研はのえるという破天荒極まりない総理大臣を信頼しておらず、動こうとしなかったのだ。しかし今回の出動の直前、警視庁で行ったのと同じように駆け込んだのえるが金田に直談判し、忠誠と出撃を取り付けたのだ。
「あたし達も燃えてきちゃった。あんた達もそうなんでしょ?」
金田室長から視線を移し、傍らに控える既に怪人形態となったシャドー=ゴキオンシザースに人懐っこく話しかける。対してシャドーも、きっぱりと頷いた。
「うむ。」
一方戦略目的が合致しているため即座に動いたバリスタスもまた、のえるが今回見せた意外なまでのカリスマ性に、正直舌を巻いていた。
(ただただ状況と運、そして僅かばかりの奇人ぶりと体力任せの小娘と思っていたが、どうしてどうしてそうではなかったか・・・。私ともあろうものが才を見誤っていましたね。折原のえるは確かに、年若いといえど百年、いや下手をすれば千年に一度の覇王の器!悪の博士が柄にも無く敬意を表する訳だよっ・・・!)
内心は賛辞の嵐といえど、張り合わなければいけない勢力の一指導者である以上、それは表に出さないシャドー。その代わり、行動で示す。今は黄金の薔薇を叩く・・・最大の力で。
「さて、私もそろそろ今回の切り札を出さねばなりませんね・・・」
そう言うとマントのような黒い羽を翻し、シャドーは窓の外に出た。ベルトにはめられたMRクラス改造人間の証である変性アマダムが、ひときわ強い光を放ち、そしてその光を編み上げるように両の触角が素早く性格に蠢き・・・空中に光で魔方陣のようなものを編み上げる。
「来たれ、機械に在らざる生きた魔術によって紡がれし悪魔。神を断つための刃。怨嗟の地よりきたりて、不遜なる涙掲げ、世界を制する旗を掲げよ!」
詠唱・・・正確には通信端末によってつながれたバリスタス関東軍アジトの地下格納庫に眠る「それ」を、起動させるためのパスワード。当初単純なロボットとして企画されていたものの、それだけでは戦闘能力が不足するという判断からより生物的・魔術的な部品を後付して作ったため、この面倒なプロセスと・・・MR級改造人間ゴキオンシザースが乗り込み、その変性霊石アマダムを接続して動力機関として用いることが必要となった、最終兵器。
次の瞬間空中に描き出された光の陣が示した場所に、現れる・・・バリスタスの新兵器、対滅人同盟・大型上位次元生命体用巨大人型機動兵器。
「斬神大魔ゴッドベイン!」
短いバランサーないしはスタビライザと思われる尻尾がついている以外は基本的に人型の、抽象芸術的な曲面に装甲されながら、どこか古風な鎧を思わせる「重み」を持った機械の兵が。
悪の意思を持って、堂々とするほどに不遜に、立ち上がった。
圧倒的なまでの力を思わせる装甲の中、しかしシャドーは慎重にそれを操作する。

出撃前に聞いた話を、再度反芻するシャドー。
「正直言えば、予算も時間も技術力も足りなかったのだ。現在完全に完成しているのはフレームと、武装は両腕部熱力学第二法則加速装置「アケロン・ブレイズ」と不定形結晶握剣「インドラ」くらいでしかない。主制御に関しては補助プログラムが仕上がってはいる。」
「装甲は?」
「光物質「NZα」の練成の都合上、まだ部分的にスペースチタニウム単層のところが四分の一くらいある。それと機動に関してだが、兎歩式転送装置を応用した召喚システムはともかく、脚部ニュートン力学限定解除機関「ラピュタ・スタンプ」は、正直当分無理っぽい。」
「ふむ。では不完全でもいいから使用可能、という段階の武装は?」
「口部溶解液噴射機構「ショゴス」が二連装の所を右側だけ完成、Maadi-Giffinタイプ単発超巨大拳銃「アザトース」は銃自体は出来たけど弾がまだ一発しかないのだ。ダーツ型投擲兵器「バイアクヘー」は・・・まだ使用できん。空力制御に問題があるのだ。」
答えるごとに、ブラックエクスプレスたちの声が小さくなっていく。申し訳なさに。まあ無理も無いかもしれない。意らいされた仕事の達成率ではせいぜいこれでは半分程度。とても顔向けが出来ないのだろう。
しかし、シャドーは言い切った。
「ふむ・・・充分だ。正直こんな短い期間で此処まで作り上げたとは驚きだ。良くやってくれた。」
「そ、そんな・・・!」
驚いたのは、やはり建造に関わっていたピョコラ=デ=アナローグだ。自分達が完成し切れなかったもので、危険に晒されるのはシャドーなのだ。そのシャドーが。
「ほ、ホントにこれでいいのかピョ?いくらなんでも未完成すぎ、危険ピョ!お願いぴょ、考え直して・・・」
必死なピョコラの言葉に、シャドーの答えは。
「・・・私を誰だと思っているのです。世界を支配し、そしていずれ宇宙をも手にする者ですよ?大体私どもの設計が複雑でいかんかったのでしょう?貴方方はよくやりました。ならば私も、よくやってみせるまでです。」
傲慢尊大と取れる言葉。しかし、それにしてはその声は、優しすぎて。かえって、その優しさに棟がつまりピョコラの大きな目には涙が増える。
「だから大丈夫ですってば。」
仕方なくシャドーは、また笑った。

「大丈夫、大丈夫・・・」
自分に信じさせるように、もう一度シャドーは呟いた。そして、戦況を確認。17と鉄人二十八号の予想外の活躍により、既に敵は相当のダメージを受けている。一時はこの未完成のゴッドベインで「黄金の薔薇」の巨大兵器全部相手にする覚悟だったことを考えれば、奇跡的なまでに状況は好転している。
「・・・奇蹟じゃないな」
必然だろう。シャドーが関東軍を率いるという戦略、のえると手を組むという選択、そしてのえるが戦史研を束ねるのに成功したこと・・・それらは皆がそれぞれに考え抜いた結果。
「ならば、勝つ!!口部溶解液噴射機構「ショゴス」噴射開始!」
シャドーの叫びと共に、ゴッドベインが咆えるようにその「口」の部分を開いた。二本の牙のように見える部品が作動、丁度毒を噴出して攻撃するコブラの一種のように、その牙の片方から液体を噴射する。
「溶解液」と呼称しているが、実際はそんな単純なものではない。この液体は蛋白質で擬似DNAのようにくみ上げ一時的に条件付けした、極めて不完全な人工生物ともとれる代物である。噴射されたそれはその擬似遺伝子の命じるままに、地球表面を構成する土や岩以外の固体に接触した途端、それを分解して自らの体の一部にしていく。それはその最初に取り付いた物体から一繋がりを吸収しきるまでは終わらず、それを総て形成しきった時点で活動を停止する。
すなわち、一度この液が付着したものを自己増殖しながら最後まで同化し溶かしきり、それでいて増えすぎて地球を丸ごと溶かしてしまうなどという現象も起こりえないという、執念深く同時に賢い兵器。
シュアアアアアアアアアアア!
噴射されたオレンジ色の液は、手間がかかっただけの威力を発揮した。17と鉄人がまだ倒していなかった斬敵を、ほぼ一撃で殲滅してしまった。
「よし・・・露払い完了!行け!」

「来たよ、忍、ほのか。」
貰った携帯電話を握り締め、のえるは呟いた。あの時忍が見せてくれた電話番号。そのおかげでいわば盲点とでも言うべき場所を割り出すことが出来た。
「ゴッドベインより発光信号!『進路クリア』!」
その言葉に「はつゆき」の艦上がにわかに騒がしくなる。横須賀地方隊は輸送艦を随伴してはいない。もともと揚陸に使える輸送艦を自衛隊が殆んど所有していないからなのだが、それでもこの隊は先に揚陸した部隊に倍する戦闘能力を持つ地上戦力を出撃させようとしていた。
それはつまり、極端なまでの超・精鋭集団であるということ。
現状の位置から、陸上までかなりの距離がある。しかし、彼等の能力をもってすれば、此処からで充分に上陸可能なのだ。
これより岩戸島へと向かう、総員が甲板上に集合する。姫城玲、扇桜、月形剛史、ゾンビーナ、企業戦士ヤマザキ、きっどとバリスタス関東軍戦闘員部隊、リタ=ヴァレリア・・・
立場も所属も様々な者達が集う様子を、ゴッドベインのアイカメラを通してシャドーは見る。
出撃前に聞いた、ハカイダーの言葉がふと浮かんだ。
(「今回の戦いで、見極めさせてもらうぞ。お前たちと組むに相応しいかどうか。」)
それに対する回答が、この光景であるとシャドーは確信する。徹底的ではないかもしれない、いびつかも知れず、そもそも一人一人の力で出来ないからこその団結。だがその団結の目標に、義はある筈。それこそがバリスタスが見せる、ハカイダーへの回答だ。

そして戦いに超人たちは跳ぶ。

援軍に一番槍をつけたのは、飛行能力を持つバリスタスの量産型改造人間たちだった。包囲されつつあった自衛隊の周囲に着地し、黄金の薔薇の部隊と激突する。
数自体はそれほど多くなく、50人にも満たない。仮に「黄金の薔薇」と同じ程度の戦力でこの数だったら、ひとたまりも無く壊滅していただろう。
しかし、関東支部に配備されていたのはただの戦闘員ではない。戦術指揮官であえりバリスタス最強クラスの決闘用改造人間「機蝗兵」マシーネン=カーネルと同レベルの改造をほどこされた、バリスタス全体でも今だ殆んど配備されていない精鋭・蝗騎兵の部隊なのだ。
右目部分に装備されたレーザー発振機、糸鋸型鞭や大型ナイフ、踵の刃や掌底部分のドリルなど、流石に格闘センスやスピードでは劣るもののまさにそのままの全身武装で「黄金の薔薇」の戦闘員はおろかF兵器や人造幻獣とすら互角以上に戦いつつ、一挙に戦線を押し返した。
さらにその後に、今まで活躍の機会の無かった戦史研が続く。
「ぬおうりゃあ!」
巨漢・月形の拳が唸りを上げ、一瞬光り。
手じかに迫っていた人造幻獣を一体、粉みじんに吹き飛ばした。
「今まで静観していた分だけ、思いっきりやらせてもらうぜ!!」
咆える月形。彼の能力は一種の接触念動力で、拳をぶち込んだ所にさらに「力」を上乗せし、破壊力を強化するといったものだ。当たるを幸い、木っ端微塵に殴り壊していく。
「ち、増援か・・・ならばお前たちの出番だ!やれぇ!」
月形の猛攻に、指揮官らしい戦闘員が焦りの混じる声で命じた。その声に招かれ出て来たのは、半透明でまるで幻覚のような姿をした、一見少女に見えないことも無い連中。しかしその瞳孔の無い真っ赤な目、鮫のような牙と鋭い爪が、餓えた怪物の本性を語る。
怨霊少女、この気色悪い相手ともバリスタスは既に戦闘経験があり、また弱点も見抜いていた。確かに物理的攻撃に対しては総てを透過してしまい、殆んど無敵に近い。だが僅かでも霊子的な攻撃を受ければ、途端に不安定化して消滅するのだ。
「けど・・・そういえばシャドーさんがゴッドベイン動かしてるんだっけ!?」
そのことに思い至り、ぎょっとなるきっど。下位次元種族の皆がクレール作戦に動員された今、この関東軍管区においてまともに霊子操作が出来るのはシャドー=ゴキオンシザースの変性アマダムによるキングストーン=フラッシュしかないというのに。
しかしそこに、自信に満ちた声がかかる。
「ふ、大丈夫!任せて!」
今度は桜だ。豊かに実った胸に内側から押される感じに見える名前とあわせた桜色のジャケットから、素早く中国風の投擲用ナイフである飛剣を数本一気に引き抜く。それぞれ刃元に赤、白、黒、青、黄という誤植の宝玉が嵌り、柄から伸びた同色の細い糸が桜の指に結び付けられている。
それを投じ、迫り来る怨霊少女の群れを包囲するような配置で地面に突き刺す。同時に桜の唇から、不思議な抑揚を持った言葉が流れ出た。
「潮の流れは帝都の潤い、本貫龍穴たる皇居が南東、青き竜神の守護の元、青竜統べる雷を呼ぶッ!疾(ジャイ)ッ!!」
言葉と共に、飛剣に囲まれた場所から唐突に強烈な電光を纏ったダムの決壊かと見違えそうな水流が吹き上がった。
中国に、風水という思想がある。龍脈と呼ばれる、地球自体の生命エネルギーの流れとその収束ポイントである龍穴を利用しようとするもので、昔の中国や日本の都市はこれに合わせて建設されたものも多い。
桜の能力はこの風水で龍脈を自在に操り、火・水・木・金・土の五種類=五行のエネルギーとして顕現させるもの。地球そのものの命という力の前に、紛い物の幽霊はひとたまりも無く消滅してしまう。
「な・・・!」
「魔玉操・火竜葬輪!」
「アンデッド・エエエエンドッ!!」
怨霊少女軍団を失い動転する「黄金の薔薇」の隙を、玲とゾンビーナは見逃さなかった。高熱と爆風が軍団のほぼ中央に炸裂し、吹き飛ばす。追撃とばかりにリタの大気レンズ熱線ときっどのマイクロ波砲が叩き込まれ、爆発を拡大させる。
それまでの圧倒的優位から一転、混乱に陥りかける「黄金の薔薇」だが何しろ数が多い。焼き尽くされた死体を押しのけるようにして、新たな部隊が現れる。
F兵器の群れがぞろぞろと続き、地獄から響くような喚き声を口々に上げる。一体幾人の命の尊厳が踏みにじられたか、死ぬに死ねない意思なき亡者の軍勢は尽きることは無い。
しかしそこにも、風は吹く。
「ライダァヘッドクラッシャアアアアアアアアア!!!」
轟々と、風が鳴る。力強く、風がその音を響かせた。前節の技の名を叫ぶ、年若き少女の声を。
相手を掴んで跳躍し、上空で体を翻して頭部から垂直に叩きつける、一歩間違えば自分の頭を砕きかねない荒業。それが完全に炸裂し、F兵器の頭部は粉々に砕かれる。しかも着地地点にいたミュルメコレオ型人造幻獣ももろともに砕かれ、機能停止に陥る。
そこに集中して打ち込まれる「黄金の薔薇」戦闘員の放電攻撃だが、黒焦げになったのは二つの死体だけで、それを行ったものは既にいない。
「はぁぁぁぁぁっ、ライダーフライングチョップッ!!」
斬、と。
跳躍していたその者は、その勢いを利して殆んど斬撃といえるレベルの手刀で、撃ってかかってきた戦闘員を叩き伏せる。
同時にその勢いを利用して反転、回し蹴り。航法から襲いかかろうとしていた隊長級戦闘員の首を刈るように一撃。その後も動きと攻撃を全く止めることなく、踊るように敵を倒していく。
あっという間に一部隊を全滅させ、ようやく旋風は・・・否、殲滅する風として殲風とでもすべきか、おさまってその姿をはっきりと視認で切るものとする。
「・・・シュッ!」
僅かに息を吐く。その姿は、伝説の戦士・「仮面ライダー」に酷似していた。頭部の二本の触角、胸部を覆う分厚い装甲。一見皮革を思わせる手足の表面。
しかし、異なっている面も多い。仮面ライダーならば皮膜に覆われているだけである手足部分にも部分的に薄い装甲版がついており、かつ全体的に金属的でメカニカルだ。色も胸部装甲が白銀で他がメタリックブルーという基調で、余り仮面ライダーと類似しているとはいえない。
そして、決定的に違う点が一つ。その体のラインはまだせいぜい中学生ほどではあっても少女のものであり、そして頭部の装甲は仮面ライダーのそれと違って顔が殆んど全部露出するシステムになっていて、ヘッドセットのようなフレームにから触角が生えている。良く見ると、仮面ライダーの「第三の目」O−シグナルも装備されているようだ。
それゆえに分かる着用者の正体、それは誰であっても見間違いようがあるはずが無い。今日本で一番有名な女子中学生だ。自己主張の激しいやんちゃなポニーテールが、染めたわけでもない金色を戦場の空気にはためかせる。
のえるだ。紛れも無く間違いようも無く、その顔はその精神はその正体は、日本国総理大臣・折原のえるに相違ない。事実先ほどの名前を叫んだ「技」二つは確かに仮面ライダーのそれだったが、それ以外の技の流れは仮面ライダーのそれの影響も感じるが基本的にはのえるがバスジャック事件などで見せた動きに近い。
少し、息を呑むのえる。己の手足についた血を、自分の体から噴出した血に対する無頓着とはまるで違った、悔いるような謝るような目で、それを見る。
僅かに出来た隙。
(のえる、上だ!!)
「!!」
直後のえるの頭に直接、警告の声が響く。一瞬で反応したのえるは、直上から迫り鋭い爪でのえるの頭部を打ち砕こうとしていたグリフォン型人造幻獣の攻撃をかわし、カウンターを入れてその頭を粉々に砕いた。
その攻撃失敗を期に再び突撃をかけて来た「黄金の薔薇」。接触するまでの僅かな間に、のえるは呟く。
「あたしは誰かを憎いからって、殺すようなことはしたくなかった。殺人なんて最低の行為だよ、命ほど取り返しのつかないものはないんだから。でも、殺す気で向かってくるあんた達を殺さなければ、あたしも、あたしの仲間も、大切なものも、失われちゃうのよ。」
放たれる雷撃を、ワイヤーを、のえるはかわす。自然で、場慣れした、完全に近い動き。
これこそがのえるの「鎧」、これこそがかつてのヒーロー「仮面ライダー」本郷猛がのえるへの協力として与えた「力」、G2システム改。
旧HUMAの崩壊で複雑化した対秘密結社戦況下、警察で運用できる強化装甲服として企画された、Gシリーズの試作二号機。以前のレスキューポリスタイプのノウハウを生かし建造が進められたものの所詮救助用・対通常犯罪者用でしかないレスキューポリスと戦闘用スーツでは要求される強度・操作反応性など総てが桁違いで製作は難航。一号機G−1は建造途中で事故を起こし失敗、二号機であるG2も制御コンピューターが力不足で失敗ということになっていた。
それに本郷猛が改良を加えたのが、このG2改だ。それはまさに彼でしか出来ない、特殊な改造。
制御用メイン電脳を取り外し、代わって本来仮面ライダー間のテレパシー機能用の装置を強化して取り付け、そしてそれと自らを「繋いだ」のだ。これにより本郷猛の、改造人間仮面ライダーの脳がG2システムを制御掌握し、着用者と一心同体となって完全な改造人間と同レベルの機動と、戦士としての本郷が長年蓄積した経験と技の総てが使用可能となったのだ。体に染み込んだ技と、本郷というもう一つの人格が存在することによる、隙の無さ。それでものえるほどの身体能力と反射神経が無ければ、着用自体堪えきれなかっただろうが、それをのえるは使いこなす。
「だから・・・あたしはこの作戦行動を起こすと決めたとき、自分も行くことにした。誰かに死にに行け、殺しに行けと命じて。自分だけ奥に引っ込んでいるのは、きっと直接人を殺すよりも悪辣だと思うから。あたしは殺すよ、あんた達を。だけど出来るだけそうしたくない!だから・・・!!」
かわし続け、のえるは相手が間合いに入ったことに気づいた。このG2改で増強された自分の力で、隙を見せず踏み込める間合いまで。次の一瞬には再び戦う、それを誰よりも理解してのえるは。
「そこを、どけぇぇぇっ!!」
叫んだ。
のえるの絶叫が、戦場を圧する。その叫びに敵は慄き、そして味方は勢いを増した。自衛隊が再び戦列を整え、突撃するのえるに懸命の援護射撃を開始する。
「そうだね、確かに・・・!のんびりはしてられない!」
さらに、リタも動いた。彼女もまた、助けるべき相手がこの彼方にいる。十重二十重の敵の軍勢と、一見通常の建物に見えながら「黄金の薔薇」の技術の粋を尽くした装甲で防御される研究所の中に。
大気操作リングが唸りを上げた。それまでに無い勢いで空気を巻き込み、そしてそれを成分ごとに分析していく。
諜報用改造人間として特に感覚を強化されているきっどには、その行動の意味がつかめた。空気の主成分である酸素・水素・窒素・二酸化炭素、それらは一切無視して僅かに含まれる希ガス、それも気体の中で一番重い気体であるキセノンだけを大量に掻き集めている。
「あっ・・・!!」
それを認識した直後、きっどは動いた。大気の流れ、その中に見つけた不自然な点に。
大気操作に集中しているリタの真後ろにあるそのポイントに、レーザーブレードを突き刺した。
「が、は・・・・っ!!」
直後、何も見えないはずの場所から声、そして血反吐。何かが倒れる音がして・・・一瞬複数の色水をかき混ぜたかのように色彩が変化し、光学迷彩で隠れていた「黄金の薔薇」戦闘員の死体が現れた。隙を突こうと単独潜入してきていたらしい。
それに気づいて驚くリタだが、しかしきっどの声に、即座に気を取り直す。
「リタさん、いっけ〜〜〜!!」
「おう!これが、あたしの奥義・・・キセノンドリルだァァァァッ!!」
リタの叫びと共に、大気操作リングが最大可動。掻き集めた大量のキセノンが、ドリルのように螺旋を描いて放たれた。横方向のタツマキとでも言うべきそれは進路上にあったもの総てをぶち砕いて突き進み、研究所の壁に大穴をあけた。
「よーし、風穴開いた!総理、玲君、ほか助ける相手がいる人みんな、今のうち!ここはあたし達が抑えるから・・・って、玲君、どしたの?」
感嘆するように叫ぶ桜は、ふとこちらを見つめる玲の視線に気づいた。
「いや、桜さんは何で戦っているのかな、って思って。」
不意の、余りにも唐突で、単純なくせに酷く複雑な問い。しかし、桜はそれに答えねばならない気がした。戦場の爆音を背景に一瞬の間を置き、そして口を開く。
「ん、まああたしみたいに特殊な力を持っているのなら、力の無い人の剣になるっきゃないでしょ。それに今回の場合特にさ、あたしもやっぱり移植関連の法整備の未熟さで、高校時代に友人一人亡くしてるし。」
簡潔な、一種あっけらかんとした感じの口調の答え。しかしその裏に深い様々な心の動きを、玲は確かに。感じた。
「よっし・・・行くわよっ!」
気合を入れるのか、ぐっと拳を握り締めるのえる。
「凄いなのえるさん。ほんっとに仮面ライダーみたいだ。でも、そのカラーリング・・・?」
ふときっどが呟く。
完璧なまでに仮面ライダーを再現して見せたG2改だったが、それにしてはそのカラーリングは仮面ライダーのそれとは随分異なっていた。胸部装甲は白というか白銀、手足や頭部は青く塗られている。警察のカラーリングに似ているといえば似ているが、しかしそれとも微妙に異なる。その場合は全体白に黒い縞となるはずで、この配色とは異なるだろう。
「ああ、この色ね。」
それに気づいたのえるは自分の体を覆う装甲を見ると、少し感慨深げに呟いた。
「あたしさ、藤子F不二夫の「ドラえもん」が大好きなのよ。劇場版ビデオレンタルで全部見たし、コミックスも揃えてる。」
「だ、だからその色なの?」
言われてみれば胴が白くて手足と頭が青という配色は、確かに似ているが。
「なりたかったのよね、ドラえもんに。いつもは笑って騒いで、いざ劇場版ともなれば世界の一つや二つは救っちゃう、でもたった一人のためでもあるドラえもん。何故って・・・?」
そこまで話を聞いたきっどが、不意にのえるの前にその白手袋の手を突き出した。人差し指を一本たて、のえるの口元に近づけ、ウィンク。
「続きは、健太君と一緒のときに・・・ね!」
その意味に気づきのえるはにやりと笑う。
「分かってるじゃないの・・・じゃ、行ってみようか!!」
そして、走り出した。

さらに同時刻。
都心部にあるギアグローバル本社にも、また大々的な攻撃が始まっていた。こちらを担当するのは特甲とレスキューポリスの全力にのえるの友であるアキハバラ電脳組の四人、加えて秘密結社側からは以前特甲と共闘経験のある秘密結社Qが、その改造人間の殆んどを集結させ大規模攻勢に出ていた。
「全部隊降車!!急げ〜!!」
「飛行改造人間プテラジェットは屋上より戦闘員を空挺降下!ゴリル、マーダークラブ、ウニアトム部隊は機械化戦闘員を率いて正面を突破しろ!マグネライノは磁力放射で電子機構を麻痺させるんだ!!」
先陣を切ったのは秘密結社Qだった。その名前のとおりDNAレベルから復元したプテラノドンにジェット戦闘機の部品を組み込んだ改造人間で、五つの棟から成り立つギアグローバルジャパン本社ビル上空の制空権を奪取、戦闘員たちを屋上のヘリポートに降下させていく。
同時に戦闘開始と同時に隔壁が下ろされ防衛兵器の火網が形成された正面ゲートを、ゴリラとドリルを合成した重攻撃型怪人ゴリルと装甲自慢の蟹+鋏のマーダークラブ、そして体内に小型原子炉を搭載しパワーなら幹部・首領を除けば確実にQ最強のウニアトムが、全身を金属装甲で包み火器を内蔵した機械化戦闘員と共に強行突破、戦車砲の集中砲火にも耐えたであろう隔壁を問答無用でぶちあける。
「むう、やるなQ!我等も遅れをとるでない!全隊全装備使用自由!繰り返す、全軍全装備使用自由!!攻撃開始!!!」
それに対して負けてられないとばかりに特甲も動き出した。攻撃力の不足をカバーするためレスキューポリスのウィンスペクター隊とソルブレイン隊が試作段階で長時間使用に耐えないとされた高熱プラズマ速射兵器・ギガストリーマーとパイルトルネードを持ち出しての一斉射撃。自己修復・有機結合の能力を持つ特殊建材・カタカムナコンクリートで出来た「黄金の薔薇」の拠点も流石にひとたまりも無い。休日の早朝、会社内に「黄金の薔薇」とは関係ない単なる社員は存在しないのを確認しているので、これほどまで思い切った攻撃が出来るのだ。
慌てて飛び出してきた戦闘員達を、薔薇十字軍との戦いでレベルを上げたアキハバラ電脳組のディーヴァたちが片っ端から叩き伏せ取り押さえる。
「な、何故だ!何故これほどまでの大部隊の奇襲を許したんだ!!」
混乱する「黄金の薔薇」司令部。彼等「黄金の薔薇」には日本全土を探査しうる監視衛星「英知の瞳」が存在していた筈。その威力はつい先日の脱走したリタ=ヴァレリア追撃の際にも証明されたはず。通常ならこれだけ大規模な作戦行動、自衛艦隊の動きやこの東京の市街地にある支社を攻撃するための人払いなど、簡単に見抜けたはず。それが何故。
既にマグネライノの一撃で基地のコンピューター機能は大半麻痺しており彼等には知る由も無いのだが、作戦開始前に監視衛星「英知の瞳」を人工衛星それもレーザー砲を搭載した攻撃衛星と蛾を合成した秘密結社Q怪人・サテライガーが制圧、欺瞞情報を流し続けていたのだ。この衛星があるがゆえそれに頼り切っていた「黄金の薔薇」は、完全に不意を突かれた・・・というか、宇宙活動用改造人間など、「黄金の混沌」期にも国際宇宙研究所のS−0とS−1・・・後のドグマ幹部改造人間死神バッファローと仮面ライダースーパー1しかいなかったのだ。
戦力の大半を岩戸島研究所の移していた「黄金の薔薇」がこの猛攻に耐えられるはずもなく、また「投降すればバリスタスやQの力で体内の時限プリオンを消去させる」という呼びかけも功を奏して、程なくして降伏した。

「お、おのれっ・・・!!こうなったら!」
所属団体の差を越えて集結した大部隊、それが遂にすぐ底まで押し寄せてきている。高柳の顔が怒りに引きつった。こめかみに浮かんだ太い血管が、びくびくと動くのが見える。
直後身を翻した高柳は大股で歩きオペレーターをしていた戦闘員の一人を突き飛ばすと、通信機を作動させ命じた。
「わしじゃ。こうなったからにはアレを作動させろ!」
極めて漠然とした命令。しかしそれだけで意図を察したか、通信機の向こうの相手は震え上がる。
「な・・・か、閣下!しかしあれは、まだ制御できません!我々まで攻撃する恐れが・・・!」
「かまわん、いいからやれ!やらねば反逆罪で処刑じゃ!!」
「は、はぃぃぃぃっ!」
高柳の怒声に、悲鳴のように相手は震え上がった。直後、通信が切れる。

「・・・何だ?また何か出てくる?」
ごぉぉぉぉん・・・
防衛砲台などと同じような構造のシャッターが開き、地下から何かがせりあがってくる。しかしそれが、今までのものと違う存在であることは、何故かその場にいる全員がはっきりと理解した。
シャッター自体の巨大さ、そこからの地鳴りのような駆動音の示す、物体の大きさ。そして何より、「姿すら現していないのに分かる、遺伝子が危険を叫ぶような圧倒的存在感」
そして、それは現れた。
銀色に輝く巨体。がっしりと太い数万トンの重量すら支える太い足、振り回せば巨大なビルすら消し飛ぶような長大な尻尾、怪力を秘めながらも鋭さすら感じる力強い両腕、呼吸するだけで世界を揺るがし、それが戦うために使われたら紛れもなくいかなるものをも砕くであろう顎・・・
「ご、ゴジラ!?いや、メカゴジラかっ!?」
確かに、それはその姿を象っていた。「黄金の混沌」期何度も大都市を総て焼き払い、闘争を求めるかのように自衛隊をTDFを蹴散らし叩き潰し他の怪獣と戦っても圧倒無敵総てを倒しつくし怪獣王の異名で呼ばれた、史上最強の怪獣ゴジラ。
しかしその巨体は銀色の金属板で構成されていて、一見そのゴジラを象って作られたブラックホール第三惑星人の侵略兵器「メカゴジラ」にむしろ近く見える。
「いや・・・メカなんて単純で生温い代物じゃないぞ、あれは・・・!」
しかし、シャドーは気づいた。その関節部分から見える、生物じみた中身に。そして同時にゴッドベインと接続することによって強化された感覚が、その内部構造を透視し見抜く。
「鬼才芹沢博士の水中酸素破壊剤で東京湾に消えた初代ゴジラの骨を利用してF兵器の要領で死体再構成、それに機械をつなげて作り上げた、機械の龍・・・機龍かっ!!」
答えるように、それは咆えた。
大気が、大地が・・・総てが、震える。
「〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!」
恐怖に、シャドーは叫ぼうとし、声が完全にかれていることに気づく。改造人間としてバリスタスの戦士として、明らかに強いシャドーですら、完全に飲まれるほどの、桁外れの恐怖。生物として人間より完全に上位にある、強大で強力で強壮で・・・圧倒的なまでの力と意思の黒い具現。
シャドーですらそうなのだ。周囲の兵士達・・・自衛隊も、バリスタス戦闘員も、それどころか彼等を作り出した「黄金の薔薇」の戦闘員たちまで・・・総てが、恐怖に凍りつく。
そして、機龍はそれに応じた。
無感情なはずのカメラアイに、真紅の激怒が・・・人造の太陽と生命を異形と化する見えない光への尽きせぬ怒りが宿り、身をそらせた拍子に背中の単純な板状の放熱機構を弾き飛ばし、骨質の、複雑なぎざぎざを持った背びれが現れる。
再び魂を吹き飛ばすような声で咆えた機龍は、まさにゴジラそのままに蹂躙を開始した。
「黄金の薔薇」も、それと戦うものも、関係なく一切合財を踏み潰し叩き潰す。
「う、わあああああっ!!?」
味方だと一応思っていたものに後ろから奇襲を受けた黄金の薔薇は、特にひとたまりも無い。戦闘員もF兵器も人造幻獣どもも、まとめてぺしゃんこになる。生き残っていたサンダ級も尻尾の一撃で粉々に砕け散り、実体の無い怨霊少女すらも、機龍が近づいたとたんにその威圧に叩きのめされ、弾けとんだ。
そして、続いては自衛隊とバリスタスたちだ。

ごぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

目一杯開かれた、巨大な顎。それが蒼い蒼い、どのような赤よりも熱い焔を噴出した。射線上にあった、機龍を射撃しようとしていたメーサー戦車、ガイラを叩いた後上陸し攻撃を続行しようとしていた鉄人、さらにその後方にいた横須賀地方隊のはつゆき、ちとせ、てしおの三艦が一瞬白く浮かび上がり。

爆発。爆発。爆発爆発爆発爆発爆発爆発バクハツ!!!
熱線の通り過ぎた空間の大気が、薙ぎ払われた兵器が、大地が海が爆裂する。
その、圧倒的な力。
咄嗟に向き直った17が、再び腕のミサイルを連射しながら胸部装甲を展開した。17がブレイン党最強のロボットだった理由のひとつ、超重力縮退砲グラビトン発射の構え。
しかし、発射体勢に入る前に機龍が動いた。半機械化されているが故の搭載武装・・・腕のレールキャノンと両肩のミサイルを使わず尻尾の一撃で発射寸前のグラビトン砲門を砕き、さらに接近して体当たり、17の重合金製の巨体が軽々と飛んだ。
「・・・ょっと!ちょっと、聞いてる!?シャドちゃん!!」
「シャドちゃん言うな!!」
気がついたとき、通信機にのえるの声が響いていた。慌てて返事を返すシャドー。既にゴジラそのものと化している機龍に気を飲まれて、僅かの間だが呆然としていたらしい。
(って、逆に言うならばのえるは平気だったのかい)
負けられない、そう思うとシャドーも闘志が湧き上がった。同時に停滞していた脳が一気に働き出し、やるべきことを見出す。
「分かっている。「黄金の薔薇」の連中も襲っている恐らく暴走状態とはいえ、このまま放っておけば確実にこっちは全滅・・・私が止めよう。なぁに、この斬神大魔ゴッドベイン、名前負けはせん!貴方がたは先に進みなさいな!
「期待してるわよ!」
簡潔に通信を切るのえる。どうも向こうも相当に戦闘が激化しているらしい。
しかし、これからはこちらも生きるか死ぬか、そっちを気にしている余裕はない。
「さぁて・・・行くぞ、呉爾羅の亡霊!!」
シャドーの叫びに弾かれたように、ゴッドベインが跳んだ。

機龍の暴走を目の当たりにした高柳だったが、すっかり気を飲まれ引きつった白峰の顔と比べ、予想済みだったといわんばかりの冷笑が口元に浮かんでいる。彼にとって部下の命など所詮は手駒の数、ここで戦闘員が巻き添えで全滅しても「ヴィクトルの遺産」の製法でまた増やせるということだろう。
そして、その口元の笑みの質が変化する。「冷笑」から「嗜虐」へ。
「さて・・・小僧。どうやら貴様はもういらんらしいな。」
じろりと、粘着質の瞳が健太の顔を撫でる。ゆっくりと伸ばされた腕がぐずぐずと溶け崩れ変化し、異形の触手へと変じる。
硬直し、声も出ない健太。
「あっ・・・!」
「動くなと言ったぞ、アリシア。それで動いて死者が出たら・・・出ることは確実だろうがな、それはお前が殺したことになるぞ、アリシア。」
僅かに動こうとしたアリシアを、一言の元に呪縛する高柳。その言葉だけで、アリシアは指一本動かせないほどに硬直してしまう。その様子を見て、僅かに落ち着きを取り戻す白峰・・・己より弱いものを踏みにじって安心を得る、その醜さを晒して。
今まさに高柳の触手に顔面を貫かれようとしている健太。完全に、声も出ないほどに震えきっていたが、しかし何故か現実感が無かった。恐怖の余り、ではない。さっき、のえるの声を僅かに聞いたときから。死ぬ気がしなくなっていた。何故だか分からないけど。
ガッシャアアアン!!
機械の、砕けるような音が顔のすれすれ前でした。
「ふむ、0.21秒ほど遅かったかもしれませんな。掴んで止めるつもりだったのですが・・・ですが長谷川秘書官は無事のご様子。よしとしましょう。」
と、突然聞いた声。視覚情報を認識した健太は、驚きの声を上げる。
「な、ヤマザキさん、って、えええ!!?」
驚いたのは、そこに突然にのえるが雇った顧問だとか言う山崎宅郎が現れたからではない。彼がその掌を持って高柳の触手を受け止め、その破れた皮膚断面からのぞいていたのが明らかに機械の部品だったから。
同時に、ケロロ軍曹とその仲間達が健太とアリシアの周りに展開、ガードする。今回は忍の所に居たドロロ兵長も加わって、総勢五人。
「さ、サイボーグ・・・?」
「いえ、まあ。少し違うといえるかも知れませんが大体は。」
動転する健太に対して、なんでもないことのように答えるヤマザキ。しかしそれを、高柳が混ぜ返す。
「お主・・・何者だ?確かにかつて存在した「企業戦士」と呼ばれる人材派遣会社NEO−SISTEMが裏のビジネス用に開発した一連のサイボーグシリーズに、お主の名前はある。だがあの不完全なサイボーグどもはいずれも不完全な脳神経の接続から一年強で脳細胞が腐敗するという構造的限界を抱え、死滅したはずではなかったのか・・・?」
「確かに、そのはずです。事実、ワタクシも何故今私が生きているのか、よく分かりません。」
冷静な口調ながらその実かなりとんでもないことを言うヤマザキ、しかし。
「ワタクシは死ぬわけには行かないと思った。それに何かが答えてくれたから・・・ワタクシは今ここに居るのでしょう。ワタクシが出来る、すべきことを成すために。」
いい様、ヤマザキはネクタイブレードを抜いた。
「心得てください長谷川秘書官、そしてアリシアさん。飛びたいと願ったゆえ鳥が鳥になり、人が飛行機を作ったように・・・人を決めるのは、その心です!」
高柳の腕と、ヤマザキの剣が交差する。

跳躍した直後、ゴッドベインがたった今まで建っていた場所に、機龍の熱線が直撃した。大地そのものを貫通しかねない勢いの熱線が、溶けた岩と熱風を撒き散らす。
本来この機龍にはそのような機能は想定されていなかったらしく、両肩にミサイルランチャー、両腕に恐らくレールガンと思しき砲門が一つづつついているが、怪獣としての意識が覚醒したせいでそちらの制御は出来ないらしく、撃ってこない。
不幸中の幸いと言っていえないことはないかもしれないが、しかしそんなものあっても無くてもこの熱線の桁違いの威力の前には意味を持つまい。
「撃たれっぱなしというワケにはいけませんね!!」
着地したシャドーは、すぐさまゴッドベインに行動を取らせる。選択した武装は、Maadi-Giffinタイプ単発超巨大拳銃「アザトース」。
ゴッドベインの腕が動き、それを構える。それは拳銃のような姿をしていたが、余りにも巨大。ゴッドベインが身長50mのロボットなのだから、巨大な銃であることは当然である。しかしそれを考慮しても尚、その銃は桁外れに巨大だった。体に対する比率で考えるサイズ的には大型のサブマシンガンか、小型の突撃銃くらいはありそうである。しかし、それは紛れも無く拳銃であった。
この「アザトース」のモデルとなった銃「Maadi-Giffin」は、元々「対戦車ライフル用の大型弾を発射できる拳銃」というとんでもない代物である。装弾数は一発きり、取り回しも最悪であるが、とにかく威力は桁外れの代物である。それを大型化し改造したのが、この「アザトース」。当然威力は桁外れなのだが、果たしてあの状態の機龍に通用するか。
両腕で出来るだけ精密勝つ反動に負けない姿勢で、照準。現時点で弾丸を一発しか準備できなかったので、外しても再装填ということが出来ないのだ。
「っ!」
グゴォォォォォォォォォォッ・・・ン!
発射。装薬・推進薬・電磁加速、三段の加速を得た銃弾が、その音だけで破壊を成せそうな爆音を立てて飛んだ。
銃口・・・砲門と呼ぶべきかもしれないが・・・を出るときに既に超音速に達していた弾丸が、発射煙を吹き散らす。銃口から焔が十数メートルは噴き出し、反動でゴッドベインの踏みしめた足が大地を揺らした。
着弾。胸の真ん中を狙ったシャドーだったが、機龍が動いた。巨体から考えられないほどの信じられない機敏な動作だったが、それでも何とか弾丸は胸からはそれたが機龍の右腕の付け根を捉える。炸裂し、さしもの機龍の腕も引きちぎれ落ちる。
「るぁぁぁぁああああああああああああああごぉっ!!!」
しかしそれでも、機龍の上げる声は怒号であって悲鳴ではない。それを確認したときにはもう、シャドーはゴッドベインを疾走させていた。「アザトース」が弾切れになった以上、これ以上ぼやぼやと今の間合いを保っていては熱線による攻撃で狙い撃ちにされるのは目に見えている。
「武装選択・不定形結晶握剣「インドラ」!」
半分音声認識と思考操作を取り入れている「黄金の混沌」期巨大人型兵器の制御システムを採用しているゆえ、シャドーは叫んでその行動を成した。ゴッドベインの腕が「アザトース」を収納し、代わってインド風の柄が刃に対して垂直な、握って使用する短剣を装備する。
不定形結晶握剣の名のとおり、ある程度までなら相手の装甲表面並びに内部材質に合わせて形状を変形させ、ダメージを拡大する「インドラ」を機龍の咽喉元を狙ってアッパーカット気味に突き出す。
ダガァン!
「っ!?」
衝撃がゴッドベインの機体を走り、狙いがそれる。突き上げられた「インドラ」は、機龍の下顎部装甲を僅かに削いだに過ぎない。
対してゴッドベインはダメージを受けていた。機龍の残った左腕がゴッドベインの肩に叩きつけるような一撃を見舞ったのだ。光物質NZαで装甲された肩自体は耐えたものの、それと接続された応急的にスペースチタニウムで覆われた部分が歪む。
「く・・・流石怪獣王を材料とするだけは!口部溶解液噴射機構「ショゴス」全力噴射!」
密着したような直前の姿勢から若干離されて、シャドーは次の手を打つ。一度捉えたならば相手を貪りつくすまで停まらない増殖式擬似生命溶解液を、機龍目掛けて現在残っている分全部吐きつける。
凄まじい音を立てて、溶けていく機龍の表面。しかしその赤く燃える瞳は、真っ直ぐにゴッドベインを・・・その中のシャドーの意思を貫く。
「な・・・!」
目の前の巨大で圧倒的な憎悪と殺気が、さらに強烈に収束されるのをシャドーは感じた。それに危機を感じるが、しかし行動に変換するだけの時間も無く。
機龍がその太い足で一歩踏み出し、胴を捻り。
バランサー・スタビライザ用のゴッドベインのそれとは比べ物にならない長く太い尻尾を、薙ぎ払った。

ドゴゥオン!!

衝撃波、打撃、そして僅かに間をおいて転倒。三連続の衝撃がゴッドベインとその中のシャドーを滅茶苦茶に打ちのめす。機龍の尻尾の一撃でゴッドベインは数百メートルも吹っ飛ばされていた。
ズン!
来る。一瞬失神しかけていたシャドーはその音で意識を取り戻し、ゴッドベインを立ち上がらせようとする。
ズン!
足音立てて、機龍が・・・呉爾羅の骸が来る。トドメを刺すために。しかしゴッドベインは動けない。今の衝撃でどこかを損傷したらしい。シャドーは咄嗟に制御系をチェックし破損を確認、修復プログラムを再度走らせる。
ズン!
(落ち着け・・・慌てるも恐怖も混乱も何の役にも立たない。落ち着いて、でも急いで、なすことを成す・・・!)
ズン!
「直った・・・あ!!?」
シャドーがプログラムの損傷を修復し終えた、その瞬間。
ズン・・・メキャアア、バキィ!!
機龍の足が、ゴッドベインの脚を踏み潰した。装甲どころかメインフレームまで破断する。
「しまっ・・・!」
言いかけるシャドーだが、その暇も無い。直後機龍が口を開いたのだ。その中にはあの蒼い蒼い光が、核の焔を宿し尚生きる命がその猛り総てを光と熱に集約する、特有の生体チェレンコフ光が見える。
それが「見えた」以上、あとは何か行動を起こす間も無く、焼き尽くされる。それを理解しながらもシャドーは尚、とにかく何かせねばと手を動かし・・・!

ガン!
小規模な爆発が機龍の顎、先にゴッドベインが「インドラ」で傷をつけた部分で発生した。完全に生身の呉爾羅だったならば、その程度は本当に蚊に刺されたほども感じなかったに違いない。しかし、半分以上を機械で補った機龍の場合、それが起こした結果は破滅的なものとなった。
その拍子に制御を失った、そもそもその機能を想定していなかった熱線が口の中で暴発したのだ。下顎部は完全に引きちぎれ、血と機械油が混じりながら噴出する。
ガン!ガン!ガン!
さらに立て続けに命中弾・・・そう、最初のときは突然過ぎて分からなかったが、それは遠距離から砲撃によるものだった。装甲に当てても弾かれる攻撃だが、射撃手はピンポイントで使用されなかったミサイル・レールガンを狙い誘爆させている。
「い、ま、だァァァァァァッ!!!」
最後の好機。確信したシャドーは機体に残る力を振り絞った。スタビライザを兼ねる尻尾を自爆させ、その反動で強引に一瞬身を起こす。
両腕を回し、機龍にしがみつく。同時にゴッドベイン最大の武装を駆動。
「両腕部熱力学第二法則加速装置「アケロン・ブレイズ」出力最大ッ!!いけぇぇぇぇえっ!!」
アケロン・ブレイズとは基本的に大規模に破壊するのではなくそのまま今の繁栄する部分を征服しようと考えているバリスタスが作り上げた「静かな兵器」の一つの形である。
ゴッドベインの両腕部の内側に装備されたそれは両腕をつなぐことにより発動。腕によって囲まれた内部にある上下一定範囲の空間において異次元宇宙の法則を呼び込み熱力学第二法則を加速させるという兵器である。熱力学第二法則、すなわち熱いお湯はいつまでも熱いままではなく冷め、冷たい氷はいつまでも冷たいままではなく溶ける「熱拡散」。
これが加速されることにより対象物は熱量的に静止し、駆動源を失うか体が熱の変化に耐えられなくなるかのどちらかとなり、停止する。
その効果は完璧に発揮され、さしもの機龍も遂に眠るが如く停止した。
「・・・・・・ふーーーーーっ・・・・・」
勝利、というよりは安堵のため息をつくシャドー。無理も無いが、否むしろ呉爾羅の力を不完全とはいえ継ぐものと戦って「勝った」のだから、当然といってもいい。
流石にこれ以上は、ゴッドベインも動きそうに無い。そこでふとシャドーはゴッドベインを格納庫に送り返す前に先ほどシャドーを救った攻撃が何処から来ているのか確かめてみた。弾道を計算する。
場所は沈没した「はつゆき」が存在していた海域のすぐ近く、水面上ギリギリから。
そこにカメラを向けたシャドーは、思わず微笑を浮かべた。
水面上に黒い体を浮かばせつつ、ハカイダーがあの凶暴なショットガンを構え、いつもの仏頂面でこっちを見ていたから。

「ふはは・・・何をぬかそうが所詮は旧式、「黄金の薔薇」の敵ではないな!」
嘲笑う高柳。確かにヤマザキは既に相当の損傷を追っているのだが、高柳のほうには目立ったダメージが見られない。
名刺スラッシュやネクタイブレードで切り刻んでも、内蔵された様々な火器で攻撃を加えても、高柳はそのつど再生してしまうのだ。
しかし、ヤマザキの表情に敗北感は無い。むしろ希望と達成感を持って、山崎は次の言葉を口にした。
「いえいえ、そうでもありません。」
ずーーーん・・・
その言葉に被るように、地響きのような音・・・機龍が倒れた。
ダガン!
直後、研究所の壁面が吹き飛ばされた。同時に、飛び込んでくる青と白の装甲を纏った少女。
「さぁぁぁぁって・・・年貢の納め時よマンネリズムたっぷりな現代版悪代官と越後屋コンビ!お白洲か暴れん坊将軍の抜けば命散る氷の刃が呼んでるわ!」
のえるだ。
「お待ちしておりました、総理。」
「後は任せなさい、尾崎。・・・ありがとう。」
損傷した体で丁寧に礼をするヤマザキに、
「く、こんなことをして何になる、既に日付は変わったはずだ、新法は施行されたんだぞ!?」
焦りの色濃くなった叫びを上げる白峰。確かに、日付が変わった以上のえるが阻止しようとしていた白峰の臓器移植新法が思考されたことになる。そしてのえるはそれを受諾した筈なのだ。ならば何故、今になって攻め寄せて着たのか。
それに対して、ノエルの答えは。
「ああ、その件なら問題ないわ。「限定日付延長法」っての、作ったから。」
にやりとのえるは笑う。酷くワルっぽくて、そのくせ輝いている、会心のいたずらを考え付いた子供のような、笑顔で。
「以前、国際繊維取引委員会(GATT)において、新協定発効が難航しこのままでは取引のルールが消滅する、って危機があったのよ。それでソン時の委員長が考案したのは、「今日の深夜零時以降、GATTの時計は進まない」ってことにするというウルトラC.要するにそれと同じく、日本の政治的公式時間は、昨日の内から進んでない・・・ってことになるのよ、今。これでそもそもあんた等の腐れ新法自体が発効しない、って寸法よ。」
「な・・・あ・・・?」
唖然とする白峰。まさにコペルニクス的・・・などというレベルではない。完全に無茶苦茶だ。
「もしもの時のために、国会の定足法いじくって一人で国会出来るようにしといたのよ。まあ一回使えばばれちゃうし、今回の日付延長にしても時限立法にしといたから、今回こっきりの技なんだけどさ。」
「ひ、卑劣な・・・法を何だと思っとるんだお前は!」
ハン、とのえるは鼻で笑った。
「法律なんて、所詮その程度のもんよ。悪用しようと思えばいくらでも出来る、それ利用して今まで悪事働いてきたあんた等が・・・今更何言ってるのよ!」
バシッ!
叫ぶと同時に一瞬で踏み込んだのえるは、白峰の顔に拳を叩き込んだ。パワードスーツを着用しているのを考慮に入れた、気絶させる程度の一撃。
「白峰。アンタは法廷で裁くわ。今の一発は・・・忍の拳と思いなさい。」
そういうと、襟首を引っつかんでのえるが白峰をぶん投げた。それをひょいとヤマザキがキャッチし、下がった。
「ふ、ふふふふ・・・」
余りの事態の急かつ無茶苦茶な展開に、乾いた笑いを思わず漏らす高柳。対するのえるの後ろに、玲、リタ、ゾンビーナ、きっどたちが追いついてくる。
「面白い、面白いまねをしよるの、小娘。だが法廷とやらは随分遠いと思うぞ。」
ざっ、と手を上げる高柳。同時に、百腕巨人とタケル、さらに支部長直衛のために残っていた最後の「黄金の薔薇」戦闘部隊が現れる。
「この場で貴様らを皆殺しにして、わしが次代の日本の支配者となればすむことよっ!」
「のえるっ!!」
思わず心配の声を上げる健太。それに、のえるは答えた。
「大丈夫!」
「舐めるな小娘ェェェェッ!!」
激昂する高柳が動いた。凄まじい勢いで触手の槍と変えた腕を突き出す、それを号砲に戦いが始まった。

「アリシアッ!」
「ふん、貴様は俺が相手だ!次元槌ッ!!」
飛び出そうとするゾンビーナに、百腕巨人が立ちはだかった。太い腕を振り回し空間そのものを圧縮して打ち出す次元槌が、ゾンビーナを襲う。
「あああっ!!」
不意をつかれ、直撃を受けたゾンビーナが吹き飛ぶ。
「リタさんっ、もう一度キセノンドリルを・・・!」
「ああ・・・!?」
ドドドドン!!
きっどの言葉に気圧操作リングを繰り出そうとするリタだが、そこに打ち込まれる反物質弾。慌てて避けたリタがたった今まで建っていた場所が、盛大に爆発する。
「タケルっ、アンタ!!」
その攻撃に、血相変えるゾンビーナ。
「ごめん・・・ホント、ごめん!でも、オイラ・・・!」
しかし、攻撃を加えるタケルの表情の辛さに、ゾンビーナはすぐに気づく。彼もまた、その自我が目覚めてはいるのだ。しかしそれまでと余りに違う、自分でで判断し自分で決断するその重みに混乱に誓いおびえを抱いているのだろう。
「くっ・・・!」
「ハァァァァァァ!フン、フン、フンッ!!」
しかしそれに躊躇し悩む暇も無く、百腕巨人の次元槌が連射で叩き込まれる。まさにギリシャ神話において百の腕から大岩を投げつけ敵軍を滅ぼしたという巨人のままに。
「はうっ・・・!!」
そして、その見えない打撃にリタが捉えられた。体をくの字に折り曲げ、壁に叩きつけられるリタを見たとたん、きっどの声が
「こ、このおおおおおっ!!!」
倉庫でF兵器と戦闘したときのように再び腕を分解し、侵食攻撃をかけようとするきっど。
しかし次元槌の連射は、そもそも相手を近寄らせない。ある程度までは接近できたきっどだが、しかしやはり一撃を喰らって吹き飛ばされる。
「トドメだっ!!」
壁に叩きつけられた二人に、さらに次元槌を打ち込もうとする百腕巨人。
「ぐう・・ううっ!!」
その一撃を、ゾンビーナが楯となって受け止めた。苦痛の呻きを上げ、全身の縫合手術跡から鮮血を噴出しながらも。
「むん?まあいい。当たりやすくて助かる。」
それをなんとも思わず、次元槌を無感情に打ち続ける百腕巨人、そして、その打撃を一身に受けて仲間をかばうゾンビーナ。
「っ、〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
その様子を見て、ついに、あるいはようやく、それとも今こそと言うべきか、タケルの中で何かが弾けた。
「うわあああっ!!」
両肩部分に搭載された原子分解・操作装置ケルヴランジェネレーターが唸りを上げ、周囲の空気に漂う僅かな塵を吸収し、反物質の弾丸を作り上げる。一見僅かな力に見えるそれは、しかしうかつに大きくすると自らをも吹き飛ばしかねないが故。
そしてタケルは、その反物質を指のレールガンに載せて・・・百腕巨人に向けて放つ!」
「ぬおっ!?」
突然の奇襲に驚いた百腕巨人だが、咄嗟に次元槌を叩きつけ、反物質の弾丸を自らの体に届く前に迎撃する。
「タケル・・・!」
「タケル、君!?
その間に跳ね起きたリタときっどが、嬉しさを含んだ驚きの声をあげ。
「き、貴様裏切るか!!」
逆に咎めの叫びを上げる百腕巨人。
その二つに、複雑な、ある意味酷く人間らしい表情を浮かべて、タケルは答えた。
「人なら・・・これ以上ヒドイまねなんて出来ない!機械なら、最初から忠誠なんて求めるのが間違いだよ!どっちにしろ・・・これ以上「黄金の薔薇」の言いなりに戦うのは、嫌だ!」
そして皮肉混じりながらも確かな「自我」を宣言した「少年」の抵抗が、「黄金の薔薇」を、百腕巨人を撃つ。

「カァァァァァッ!!」
高速で伸縮する高柳の触手。当たれば、いかな装甲されていてもマズ間違いなく体を突き破り、切り裂くであろう一撃。
それを、のえるは僅かに横に身をそらし、手の甲で弾いてそらした。殆んど動いたとも見えない、自然かつ素早すぎる回避。
さらに高柳が二撃目を放つ前に、一気に隣接まで間合いを詰める。あまりの速さに高柳が気づいたのは、のえるがさらにその次の一撃を放ってからだった。
「フッ!」
肘打で高柳の上半身を跳ね上げた後での掌底、さらにもう一発体を返しながら肘うちと流れるように連続攻撃、そして。
「ライダーきりもみシュートッ!!」
相手を持ち上げ、回転させて投げ上げる。そう言うと一見酷く単純なように聞こえる技。しかしその高速回転は強大なタツマキとカマイタチを巻き起こし、相手を吹き飛ばし切り刻む。
「なああああああああっ!?」
空中に吹き飛ばされててから、ようやく自分が技を喰らったことを理解する高柳。
さらに。
「魔玉操・龍振波!」
玲の魔玉が飛んだ。高振動の渦を作り出し、高柳の体をずぐずぐに崩壊させる。
グシャッ!
明らかに肉塊と化した音で、地面に叩きつけられる高柳・・・だが。
「く、くくくく・・・」
平然と、起き上がってきた。砕かれ、切り刻まれ、高振動で半分液状化した体を再構成して立ち上がる。
「わしの体はF兵器研究過程における細胞不死化技術の総てを注ぎ込んである。お前等如きの技では、どれほど叩いてもダメージにはならぬわ・・・!」
「ならっ、焼き尽くしてやる!魔玉操・火龍葬輪!!」
さらに技を放つ。大気中水分から分離された水素を燃料とした高熱火炎が、高柳の体を焼いていく。
「ぬううおおおおおっ!!!?」
流石に、これは効いた。叩くとかちぎるではなく、熱による攻撃ならば
「おのれっ、なら!」
叫ぶ高柳の体が溶け崩れ、巨大なアメーバのような姿になった。その形態のまま津波のように高速移動した、その先は・・・
「アッ、アリシア!?」
どろどろのアメーバ状になった高柳が一瞬でアリシアの体を包み込み、丁度華奢な少女の上半身をレリーフのように胸部に生やした、怪物へと変化する。
「きっ、きゃあああああああ!!」
アリシアの悲鳴。明らかに恐怖だけではない、その叫びは・・・
「高柳っ!アンタって男は・・・何処まで外道だぁぁぁっ!!」
のえるの怒号。高柳の体がアリシアに喰らいつき、その血肉を貪っては自分の再生に使っていることに気づいてのその叫びを、既に人間ともF兵器とも思えぬ機械に歪んだ顔でながら、高柳は人の姿であったころそのままの悪意ある嘲笑で答える。
「こっ、これじゃ・・・!」
それまでの冷静さが嘘のように、戸惑いの表情を浮かべる玲。これでは大威力の技は、
「それなら我輩たちに!行くぞ必殺!ケロニカルC・C・C・Sダンクッ!」
ケロロの掛け声と共に、五人揃ったケロロ小隊が動いた。
「エナジーボール発生!」
「ダブルドリブル!」
「トラベリング!」
「ナイス・ショットッ!」
クルルが発生させたエネルギー球を、次々と渡すことによって相手を霍乱、同時にそれぞれのエネルギーをさらに充填して威力を上げていく。
「左手は添えるだけ・・・ハッ!」
最後に、ドロロが。バスケットボールのシュートに似た手つきで、それを投げる。一見ゆっくりとした仕草、しかし高柳は何故かそのボールから目を離せず、動けない。
「なーーーー!!」
その一撃は精密にアリシアを避け、高柳の肉体が構成する部分に直撃して炸裂した。
これが軍事的に弱小なケロン人が今まで生き残ってこれた理由。戦隊ヒーローの必殺技と同種の幻惑による特殊能力。一度放たれれば、まさに必中である。

しかし。
「ふふ・・・ふわははははは!そんなものかそんな程度か!いくら当たろうが、聞きはせぬわあああっ!」
高柳の無限再生は止まらない。
柳眉を焦燥に歪める玲。高柳の再生力の源となっているのは取り込まれたアリシアの血なのだ。このまま無策に攻撃し続けてもアリシアが消耗するだけ・・・!
そんな苦悩の隙を、高柳がついた。一瞬避けるのが遅れた玲に、高柳の触手がまきつく。
「うくぁああああああああっ!!?」
「玲っ!」
触手と玲の体の接触面に無数の牙の生えた口が発生し、玲の体を貪り始める。それを取り外そうとするのえるだが、しかし触手からさらに牙つきの触手が分化し、高柳本体からも無数の腕が伸び、襲い掛かってくる。
それはもう再生の領域を超えて、既に増殖し始めているといっていい。
「ふははははは、素晴らしいぞ!小娘の血がわしの肉体を活性化させている、これが「ヴィクトルの遺産」の力!一ついいことを教えてやろう。この娘は人造人間だ。貴様は人形をわざわざ助けに来て死ぬというわけだ!」
勝利を確信した高柳の哄笑交じりの言葉に、アリシアはびくりと身を震わせる。目を伏せ、ぽつりと呟いた。
「知られ・・・ちゃった・・・」
しかして、玲の答えはそのアリシアの悲嘆を打ち砕く。
「知ってた・・・いや、気づいていたよ。」
「ええっ!?」
苦しい息の下、玲は答えた。
「最終的にはリタさんの口からだけど、それ以前からそうだろうって思っていた・・・以前の僕なら、確かに高柳と同じように「人形」って思ったかもしれない。レベッカさんがゾンビーナに口止めしたのも、そのためだろう。けど・・・」
僅かな苦い表情は、痛みだけではないだろう。
「けど、それが間違っているって知った!アリシア、君も僕たちも、体がどうであろうと関係ない!いろんなことに戸惑いながら、間違いながら、でも精一杯生きるなら・・・同じ心を持っている、同じ人間と変わりない!!」
苦しみながら、しかしはっきりと響く玲の叫び。
「その通り!アリシア・・・人は愛によって生まれる、君にも愛してくれる人たちは居る、これまでだってそうだだろう!?だから君は今ここに居る!」
きっども叫んだ。
「その通り・・・人を愛することを捨て、私欲におぼれた貴方がたの、どこに彼女を見下す資格があるっ!!」
「ふんっ、ほざけほざけ!言葉でわしを倒せるとでも思うか!下らぬ下らぬ・・・死ねィ!!」
嘲笑い、再び触手を放つ高柳。単純な攻撃であるが、しかし無限に近い再生能力を持っているが故に、何度振り払っても叩き落しても尚喰らいついてくる。そしてその内の一本の触手が、建物の壁を掠めた。

シューーッ!
配管から漏れたのはどうやら液体窒素か何かの極低温物質らしく、こぼれたあたりが一瞬で凍りつく。
はっ、と戦いを見ていた健太は気づいた。そして、叫ぶ。
「ギロロさんっ、その後ろのタンク撃ってッ!」
「応ッ!」
健太の言葉から僅かの遅滞も無く、ギロロが銃を抜いた。光が走り、高柳の背後に会ったタンクをぶち抜く。その配管の大本になっている、タンクを。
爆ぜた。
「ぎゅあああああああああああああっ!?!?!?ここここっ、小僧ォォォォォォ!!!」
絶叫する高柳。物理的打撃に対しては殆んど不滅とさえ言っていい体といえども、此処までの極低温度にまでは耐えられない。そして・・・
「なっ、こ、これは・・・再生が利かぬ!?」
凍りついた傷口は硬く、そこからの更なる再生を阻んでいた。
「そうか、超低温なら再生を阻止できる!凄い、健ちゃん!」
「いや、別に僕がやったってほどでもないし・・・」
飛び上がって喜ぶのえるだが。
「ごぉ・・おのれ!だが冷却用タンクは今ので最後!これ以上は・・・!」
「ちっ・・・!」
高柳の言うとおりであった。目に付く範囲にある液体窒素タンクは今のやつしかない。それだけでは、とても高柳に止めを刺すことは出来ない。
「玲・・・さんっ・・・!」
しかし、その時。
「なっ、アリシア!?」
高柳の体内に取り込まれたはずのアリシアが、意識を取り戻した。
頭を上げ、必死に叫ぶ。
「私・・・たとえ作り物かもしれなくても・・・それでも・・・玲さんたちが、皆が信じてくれるから・・・!私もう怖くない!私は、自分で考える!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
驚愕、恐怖、激痛の絶叫。
高柳の体を内側から強引に引き裂いて・・・アリシアが外へ飛び出した。

「ぬぁっ、閣下っ!?」
急転する事態に、咄嗟にそちらに気を取られる百腕巨人。タケルが加勢したとはいえ未だ膠着状態だった戦況に出来た、決定的な隙。
そこに、ゾンビーナは勝機を見出した。
「今だァァァァァッ!」
手首部分を破り、飛び出す機械仕掛け。唸りを上げるマシンまでめり込めとばかりに、全力でゾンビーナは拳を、百腕巨人に「突き刺した」。
「げおっ・・・」
血を吐き呻く、その一瞬しか与えず。
「アンデッドエンド・フルパワーーーーーーッ!!!」
内側から焼き尽くす。

飛び出した勢いによろけながら、それでも前へ走ろうとするアリシア。
それを再び捕まえようと、腕を伸ばす高柳。あっという間に、再びアリシアが捉えられる・・・と見ているものが思いかけた時。
キン!
高柳の腕が、凍りつき砕け散った。
「な!?」
驚愕。それは、液体窒素などによる極低温ではない。紛れもなし、完全な絶対零度・・・そうでなければ説明がつかない効果。
そして、それを成したのは。
「玲・・・!」
「これは・・・」
しかし、この出来事に一番驚いているのは実は玲本人だった。彼はこの力を、今まで逆上した拍子に振り回したことはあったが、しかしこうして自分の意思で、ましてや誰かを守るために使えたことなど、無かったから。
だが、何故か分かる。きっとこの使い方こそが、正しい・・・あの日自分を生かしてくれた、姉の望んだ使い方であろう、と。
ならば。
キン!キキキキキ・・・
「ひ、ひぃぃっ!?」
酷く硬質な音を立て、高柳の体が凍り付き、そしてその氷が砕けていく。絶対零度の結界が、不滅に見えた高柳の体を砕いていく。
無様に悲鳴をあげあとじさる高柳に、玲はさらに力を叩き付けた。高柳の体全体が凍りに縛られ固定される。
「今だ!今なら、奴を砕ける!!」
「分かってる!」
答え、のえるが跳んだ。
かつての伝説の技と、自らの最も得意とする一撃を織り交ぜて、のえるは放つ。
「ノエル・ライダーキッック!!!」
跳躍しながら身を捻り、アクロバットのような動作でのえるにしなやかな脚が躍る。ライダーキックのように跳躍しながら、のえるの得意とする首刈り回し蹴りを跳躍と遠心力、二重の力で叩き込む!

グワアアアアアアン!!

凄まじい炸裂音と共に高柳の体が粉々となり、さらにその破片は壁をぶち破って次の部屋、そのまた次の部屋へと吹き飛ばされた。
「ぐ、お、おのれぇえ・・・・」
喚きながら、よたよたと歩を進める高柳。先ほどの一撃で肉体体積の三分の一近くを失っており、いかな再攻勢したといえどそれは補いきれるものではない。腰から下をなくした状態で、ずるずるとはいずる。
「まだだ、まだ負けてはおらん・・・!」
呟くと、高柳は苦労して通信機の前まで這いより、それを起動させた。
「こ、こちら日本支部、「黄金の薔薇」全支部、至急応答せよ・・・」
この日本支部の戦力は集中しているとはいえあくまで「黄金の薔薇」の戦力の一部でしかない。世界各国の戦力を掻き集めれば、まだ逆転は可能だ。「黄金の薔薇」の力を持ってすれば、短時間で現在の敵を殲滅できるだけの戦力を掻き集めることが出来る筈。
しかし、通信機からの返事は無い。
「な・・・お、応答せよ!こちら日本支部!こちら・・・」
「無駄よ。」
背後から、声。振り返る高柳の前には既に追いついたのえる達。
「既に「黄金の薔薇」がギア=グローバルを表向きの顔とする秘密結社であることは、あたしが表の世界にまでも知らせてしまった。通信がつながらないのは、既に世界全ての「黄金の薔薇」の支部がHUMAやHA、各国の軍隊や他の組織に攻撃を受けているからなのよ。」
「なぁ・・・っ!!」
それは、ある意味究極の暴挙である。「黄金の混沌」より、各国は公式には秘密結社や正義の味方の存在を明らかにはせず、あくまで影の部分で関わってきた。それを「黄金の薔薇」限定とはいえ明らかにするなどと、それはのえる自身が秘密結社との闘争に巻き込まれる危険すら感受するということでもある。
「あ・・・が・・・うぉあああああああああ!!!!」
絶叫。
絶望が一度にか価値となった叩きつけられたが故に、高柳は我を忘れ叫び、狂気の縁に飲み込まれた。その瞬間高柳の体を構成していた細胞が一気に暴走した。
「おがああああああああああああ!!」
絶叫し、進路上にあるすべてのものを分解し取り込みながら、憎悪の津波と化して襲い掛かる。
「なっ・・・!」
驚き、咄嗟に健太を抱きしめ飛びのこうとするのえる。しかし、駄目だ。その後ろにはさらにアリシアと仲間達が居る。
「任せろ。」
そこに、玲が出た。一歩踏み出すと、構える。
「終わりだ・・・「黄金の薔薇」はもう枯れる。地獄には一人で行け!!」
是対零度に下がった玲の体が、躍動した。取り出した最後の、たった一つの魔玉。それに全エネルギーを収拾し、魔玉を構成するすべての分子をひと時に駆動する。
「準光速魔玉・菩薩翔!!」
瞬間、光速の99%までに加速された魔玉が、打ち出された。高柳との距離を飛ぶ間に見かけ上の重量を数百万トンまで増大させた魔玉が、命中しその運動エネルギーの総てをぶちまける。

炸裂。


高柳どころか、施設のほぼ全部を纏めて吹き飛んだ。
文字通り跡形も無くなったその最後を僅かに瞑目して送ると、のえるは笑顔を取り戻して健太に話しかけた。
「何とか・・・終わったわね、健ちゃん。大丈夫、どこか痛いところ、無い?」
「な、無いけど・・・っていうか、のえるのほうが大変じゃないか、どうしたのその手!!」
穏かなのえるの声に対して、健太の返答は悲鳴に近い。確かに大傷だというのにかまわず振るわれ続けた拳、その装甲の隙間からぽたぽたと血が滴っている。
しかしあくまでのえるは、なんとも無いといった感じで。
「まあちょこっと手に風穴開いただけだから、問題ないわ。」
「あ、穴っ・・・」
さっきまでの心労に思わず失神しかける健太、咄嗟にそれを支えるのえる。
「ふふっ・・・。」
健太を抱きしめるような格好で、不意にのえるは笑った。その笑顔に健太はどきりとし、そして自分に驚いた。
(えっ、えっえっ、ええっ!?何、何で・・・!?)
のえるの笑顔は、それまでに見せたものとは随分違って見えた。柔らかで、優しくて。何故だか、今までそんなことは一度も無かったのに、不意に心臓が大きく拍動しだした。
(嘘だろ、まさかのえるに・・・)
ありえないと健太は思った。のえると自分の関係は引っ掻き回して遊ぶノエルと遊ばれる自分という関係だったはずで、まさか。
動転した健太の脳は、不意に違う話題に気づく。
「あっ、のの、のえる、寿命・・・」
のえるがメフィと結んだ契約は、あくまで一ヶ月限定のお試し期間であった。その最後の日が、昨日。今日も総理大臣であるということは、つまり契約をして「昔の成人にとっての大体の残りの寿命」である三十年分の命をメフィに契約の証として差し出さなければならないはず。
咄嗟に心配の声を上げる健太だが、のえるの笑顔は代わらないままだ。
「あ、それも大丈夫。言ったでしょう?「限定日付延長法」。アレがあるから・・・」
「だから、「総理大臣でいるのえるの時間」は停まったまま・・・全くよくやってくれるぜ、この女。俺たち悪魔にとって契約は絶対だからな・・・どんなに無茶苦茶な代物でも。」
のえるの後をついで、何処から現れたのかあの黒猫型悪魔のメフィが呟いた。悔しがるような口調ではあるが、存外楽しそうでもある。少なくとものえるが総理大臣を続けるということは、メフィたち下位次元族の同盟者であるバリスタスにとっても有益な事だし。
「ともかくこれで一件落着ね。」
「落着って・・・その手、傷消えなかったらどうするんだよ・・・」
「別になんてこと無いわ。」
「うん。このくらいの傷なら僕たちの技術力で、後も残さず一日完治だな。」
なおも心配する健太に、こんどはきっどが言う。確かに、改造人間作るに比べたらたやすいことではあるが。
「そ、そう・・・」
と答え安心する健太だが、直後、さらにどきどきする羽目になる。
「健ちゃんは優しいね。あたしと違う、普通の優しさがあるから。あたしにとってたった一人・・・こんな変なあたしに大切にしてくれる、たった一人の大切な人だから。だからあたしは、あたしにある、あたしにこれしかない強さで、健ちゃんを守る。一番大切な人のために、無敵になる。」
「えっ、えっ・・・!」
そう言うと、のえるはさっさと身を翻した。どきどきする健太を置き去りにして振り返った。
そこには、彼女の同盟者であるバリスタスと、その仲間がいる。
アリシアを抱きかかえ、復讐から解き放たれた玲がいる。
他にもヤマザキ、ゾンビーナ、影から様々支援してくれた本郷猛、都心のほうで戦った特甲、アキハバラ電脳組、Q・・・
そして彼女に忠節を誓い、彼女のために戦った自衛隊の皆が居る。既に敵勢力の平定に成功し、今は待機し降伏した捕虜の捕縛、負傷者の手当てを行っている。

共に戦い、共に傷つき、共に・・・勝った。その瞳が一点に集中する中。
ぐっ、とのえるは拳を握り締め。

突き上げた。
「おーーーーーーーっ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
湧き上がる勝鬨。死者を悼み、生存を感謝し、そして明日を生きる決意を新たにする、戦い生きる命の凱歌が吹き上がる。
「いやはや、本当に凄いカリスマだ。・・・あるいは彼女を我が組織の大幹部、いや空位である「大首領」に迎え、共に世界を制するという選択もあり、かもしれませんね・・・」
獲坐状態のゴッドベインコックピットで、シャドーは呟く。
ともあれ、戦いは続くのだが。
ひとまず、バリスタスのそして日本の、対「黄金の薔薇」戦闘は本日此処に終了した。

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