秘密結社バリスタス第二部関東編第八話 真実、空虚、そして・バリスタス編

かしーん・・・かしーん・・・
要塞としての防御力のために一面スペースチタニウムの上を硬化耐熱チルソナイトで覆った銀色の床に、シャドーの靴音が酷く甲高く響く。
秘密結社バリスタス「関東軍」アジト兼ネオバディム同盟地球支部。厳密には更に「混沌のイデア」下位次元種族移住計画の日本支部も兼ねているのだが、現在下位次元使節団は瑠久羽姫以下ミルキィ、アーテリー、紫亜、全員「北洋水師」三貴子・蛇姫が担当する対上位次元妨害行動「クレール作戦」に出発してしまい、留守だ。ロウレスもQもロストグラウンドでの戦闘激化で本土側には殆ど来ておらず、アキハバラ電脳組は敵である「薔薇十字軍」がなりを潜めているため最近は普通に学校に行っている。
そう考えると一見更に暇になったかに見えるバリスタス関東支部だが、なかなかどうしてそうではない。むしろ人員が減少すると同時に「黄金の薔薇」の作戦行動が異常に活発化しているため、残された人員はどえらく多忙なのだ。
「・・・はいはい、成る程。そういう事情が・・・」
現に今漫然と廊下を歩いているように見えるシャドーだが、基地の総合指揮所と接続を保ち、そこから各支部を束ねる大幹部達と会談を行っているのだ・・・一見、独り言を言っているようにも見えてしまうのが笑えるが。
(「黄金の薔薇」の活動活性化は、その停滞・衰亡が原因となっている。HAの強引な活動とバリスタス大西洋支部の攻撃によりアメリカ大陸での勢力を失い、また旧来本部を置く欧州においては肥大しきった組織のこれ以上の拡大は望めず、さりとてシベリア〜中国のユーラシア東端は「BF団」「国際警察機構」、さらにまんぼうからの報告では「ゼウスの雷」が新たに世界征服を狙う組織へと転向、活動しているとかでとても手が付けられぬ。「黄金の薔薇」にとって日本攻略は停滞した状況を立て直す唯一の策なのだ。)
と、コレは先日「ハカイダー」の移送を告げた大西洋支部長・悪の博士の言葉だ。
(しかしシャドーさん、戦力の不足は大丈夫なのでしょうか?新鋭怪人四体に加え旧インバーティブリットの改造人間二体、さらにO.O.Bの改造人間三体を擁している筈の「熊本鎮台」も、通信が殆ど取れないのですがタロンや地元組織複数との泥沼の抗争に巻き込まれうまく身動きを取れずにいるとのことでしたが・・・)
というlucarの心配に、シャドーは虚勢ではなく本物の余裕で答える。
「いえ、今のところは。確かに色々と戦力を割かざるをえない状況ですが、主敵「黄金の薔薇」も四方に手を伸ばしすぎて散漫になっているところ。むしろここは隠密行動をとるべき故、戦力の大小は問題になりません。それに・・・)
扇子で隠した口を、にやりと笑わせるシャドー。
「切り札が二枚、もうじき出そろいます故。では・・・」
そして、通信を切る。それは、丁度本来の目的の一つである場所・・・ネオバディム同盟軍格納庫へと到達したからであった。
天井の高さ、幅、奥行き、どれをとっても一体様々の配管配線、加えて地下鉄などの存在する東京の地下にどうやってこれだけのスペースを確保できたのか思わず首をひねりそうな、巨大な空間。

そしてそこに、その巨大な空間すら狭苦しく感じさせるほどの威圧感を持って鎮座する、くろがねの巨躯。
手があり、足があり、頭がある・・・されど生命の無い、巨大なヒトガタ。今だ建造途中で完成に到らず、幾つもの部分が欠落していてその部分に組み立てようの自動アームが延び、設計図に従って作業を続けている。
格納庫と比較して、それほどでかい訳ではない。全長数百メートル級の宇宙戦艦すら入る格納庫だが、その巨大なヒトガタの大きさ・・・身長は、50m程度。
しかしそれでも尚、その未完成の金属塊は周囲を圧していた。あたかもかつて地上を闊歩した怪獣達が、己の身の丈よりもはるか巨大な街を、船を、ビルを、蹂躙しまさに支配していたように。それは強烈な威迫を周囲に放つ。
「流石・・・の仕上がりですねえ。」
富士山麓一帯に存在し、かつて地球圏初の乗り込み式戦闘用ロボット「魔神」の素材とされた天然光物質。更に影磁が持ってきた同じ富士近郊で研究されていた、特殊宇宙線動力の惑星開発用可変合体ロボットの技術。
地球で使用され、いずれ劣らぬ鉄壁の力を見せつけた、ペダン星製ロボット「キングジョー」ブラックホール第三惑星製ロボット「メカゴジラ」。更に本来対上位次元生命体用に、「超人獣」研究の副産物と異世界の情報を融合して悪の博士が生み出した霊子武装「エルダー・マキナ」シリーズ。
それらをネオバディム同盟の技術力でまとめ上げた、バリスタスが遂に保有する初の巨大人型機動兵器。
「うむ・・現在で78%の仕上がり、既に各所のチェックは平行して済ませてあるから、あとは外装と兵器の搭載にとりかかっているのだ。」
シャドーの横にその黒い短躯を寄せ、ブラックエクスプレスが報告する。
「地球の技術と素材、そして異世界からの魔術的霊子武装、それを宇宙系の機動兵器製作方法でまとめ上げようってんだから、無茶だと思いましたが・・・何とか形になったですね。」
「そうそう。それにしても驚きの連続、いい勉強になりました〜。」
ブラッチャーの副官、ドシラスとウッカリーも作業を一時中断してシャドーの所によってくる。
「ぴょっ!さぼってないで仕事するっ!」
「うわ!」
「は、は〜い!」
それを叱りつけるピョコラ=デ=アナローグ。一応アナローグの王女の筈なのだが、惑星全体の生来の貧乏からか庶民的で働き者、意外にも凄く扱いやすい。
「うんうん、頑張って下さっているようで結構結構。ですが少し休んで構いませんよ?」
いずれも地球人の基準からすれば子供のような体躯の持ち主ばかり、その様子に思わず微笑みをこぼすシャドー。彼等が組み上げようとしているこの巨大な存在と比べるだに、その対比は面白い。

「さて・・・」
そしてシャドーは、もう一つの「切り札」、ただし縁に鋭いエッジがついていそうな、危険な「切り札」のもとへと向かう。
人造人間ハカイダー。
先日確保した「黄金の混沌」期最強クラスの人造人間。前回は半ば暴走状態で起動した為大騒ぎとなり、あわやという所もあったが。
「あれをきちんと起動し、そして我等の仲間に加えられれば、百人力というもの・・・」
そう言って、シャドーは機能停止させたハカイダーを安置してある部屋に入り。
そして。
側頭部に銃口を突きつけられる。
(・・・な、何で起動しとるんだ!?)
思わず眼をむくシャドー。咄嗟に身をひねり銃口をかわそうと思うが、その前に言葉が聞こえてくる。
「動くな。」
低い、ぼそりとした声。
それが、ハカイダーが発している声だと気付き、シャドーは回避を中止する。いっそこの場合、会話に望んだ方がまだ状況が好転する可能性が高い。
「・・・分かった。で、私に何のようかね?」
流石にバリスタス大幹部の一人。既に落ち着きを取り戻し、震えの無い沈着な声で応じる。
「状況を説明しろ。」
そしてまたハカイダーの答も、明快そのもの。
しかし、あまりに簡潔すぎて逆に答えようがない。
「説明と言われましてもねえ。むしろ私のほうが貴方について知らないことが多すぎて、何から話せばいいのやら。」
軽く肩をすくめ、扇子を広げるシャドー。側頭部に密着するほどの距離に自分の頭部を丸ごと吹き飛ばせるだけの破壊力を持つ銃口があると言うのに、大した度胸である。
しかし同時にその洒脱な仕草に、ハカイダーの殺気が若干ゆるんだ。
「ふん。俺もよくわからん。確信を持って言えるのは、俺が「ハカイダー」という名前であること、それと何かを破壊するための存在であること・・・それくらいだ。記憶ははっきりしているのは昨日目覚めてからで、それ以前は憶えてはいるようなのだが、他人の記憶のようにぼうっと霞んでいる。」
「そうですか・・・。」
ハカイダーの言葉に別段嘘の要素は見受けられない、動機も無いだろう。一瞬でそう分析したシャドーは、すぐさま脳内で得た情報を分析する。
「おい。お前が説明のために知りたいといったことは話したぞ。」
「あ、あぁ。」
しかし直後ハカイダーがぼそりと促し、シャドーは分析を中止して説明を行わなければならなくなる。

・・・
・・・・・・・・・
そして、説明を行い。
「・・・というのが、今の世界の現状だ。「黄金の薔薇」とかは、貴方も昨日見たでしょう?・・・それと。」
そこでシャドーは、昨日から気になっていた事を尋ねる。
「貴方そう言えば昨日、アリシアさん・・・とか言う、「黄金の薔薇」からの脱走者に銃を突きつけていましたが・・・アレは一体何故で?貴方の当初の目的は、「キカイダーの破壊」ではなかったのですか?」
その問いは、ハカイダー自身自問していたものだろう。予測していたという感じを漂わせつつ、同時に考えながら、ハカイダーは答える。
「昔、確かに「キカイダー」を追っていた、という気がする。だが今はその気はない。ならば何を破壊するのか探さなければならない、俺は「ハカイダー」なのだから。そして、あの娘は破壊されることを望んでいた。しかし・・・」
そう言うとハカイダーは、大きなショットガンを器用にくるくると振り回すと、欠落していたホルスターの代わりに腰のベルトに押し込んだ。
「破壊されていることを望んでいると、破壊されるべき、は無関係だろうな。俺は、俺が破壊すべき者を探そうと思う。」
そう言うと、ハカイダーの姿が変化した。キカイダータイプのいささかぎこちない変形システムと違い、全身に電光を走らせたかと思うと表皮が有機的に変形、人間そっくりの姿となる。髪の毛を短く苅った眼光鋭い青年の姿で、これもかつてのハカイダー人間形態「サブロー」とは微妙に違う。
「暫くここに居させて、見極めさせてもらおう。何を破壊するべきか・・・」
「ええ、いいでしょう。貴方の見聞の一助となるため、我等バリスタス関東軍、色々サポートさせていただきます。」
ハカイダーの言葉に、ひょいと腰を折ってややおどけ気味に返答するシャドー。その調子良さに、ハカイダーは僅かに唇を歪め、笑った。
「ひょっとしたらお前達が、俺の破壊の対象となるかもしれんぞ?」
対してシャドーも、扇子で口元を隠しながらいつもの笑いで切り返す。
「それもまた一興・・・まあ、目を付けられないように頑張りますよ、ハカイダー。」
と、その時!
唐突にシャドーの通信端末にアクセス。基地のオペレーティングを担当しているバリスタスの戦闘員からだ。
「シャドー閣下!きっど様から連絡です!「黄金の薔薇」が再び動き出し、狂科学ハンターとの衝突も間近とのことです!尚「ヴィクトルの遺産」の正体も発覚したとのことで・・・至急、司令室にお越しください!」
しかし、それと同時に部屋のドアが開いて、ひばりが飛び込んでくる。
「たたっ、大変!健太君が「黄金の薔薇」にさらわれたよっ!のえるちゃんが「コッケンハツドウ」とか何とか、とにかく自衛隊や警察で「黄金の薔薇」と戦うから、シャドーさんも手伝ってって・・・!」
さらに、この叫び。
「っと・・・来たか!って、何だってぇぇ!?」
前者は予想していたシャドーだが、後者余りにも唐突に。
激しく、複雑に。
戦いの幕が開く。

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