秘密結社バリスタス第二部関東編第七話 薔薇と人形
前回の事件から結構過ぎたが、のえるがアジトに帰ってこない。健太もだ。
「まあ、心配はしていませんけど?」
そう言うと、シャドーは伸ばした触角で器用にコントローラーを操り、テレビを付けた。国会中継・・・珍しくも真面目にのえるが答弁している。
テーマは、臓器移植に関する新法の作成だ。今までの法律では、子供は臓器移植に色々の制限があり、受けられない。故に外国まで行ったりして手術する・・・しかし日本国内で限定して考えれば、これは子供に「死ね」と言っているに等しい。
あの娘は、バカで奔放身勝手で誇大妄想の気があるかもしれないが、理不尽にぶつかると敢然と立ち向かうタイプだ。テレビの中ののえるの珍しくきりっとした表情と、初めてであったときのバスジャック事件での大立ち回りを重ね合わせるシャドー。
「ともあれ、彼女は彼女の仕事を行っている。我等も我等の仕事をこなそうじゃないか。・・・きっど君、行きますよ。」
呟くと、シャドーはソファから身を起こした。立ち上がるとほぼ同時に、黒い光沢のある外骨格で体を覆った改造人間の姿になる。
数日前から、「黄金の薔薇」の動きが妙にあわただしい。何か新しいものが入ったか来たかしたらしくそれの迎え入れと、半端ではない量の護衛と研究員の集中・・・興味を引くに十分な現象が起きている。
そしてその件に関して他の支部に情報の有無を問い合わせたところ、大西洋支部から反応があった。
「・・・それに関しては心当たりがある。ちょいとばかし面倒なことになってな。黄金の混沌期の遺産が新たに発見されたのだが、世の理を知らぬ若造に説教している間に逃げる黄金薔薇を取り逃がしてな。北米の連中の支部は潰してやったのだが日本に搬送されたあとだったようだ。日本の連中の支部は、貴殿の関東軍の管轄。」
「はい、了解。ところで誰なんです?その若造って。」
「若造の名はハンター。狂科学ハンターREI。いい悪い関係なくすべての超科学を破壊しようとしている。姉の復讐なのだそうだが、そのせいでもっと不幸な人間を増やしそうになったのでな。ちょいと拳で語ってやった。」
得意げに薄く笑う博士。実際には相当窮地に陥っていたのだが、引き分けではなく勝ちだと判断したらしい。いかにも、彼らしいが。
「あと、その遺産というのは?」
ともかく問いを続けるシャドー。そして博士も、より重要事項であるそっちの方に思考を切り返る。
「・・・滅びの棺。黄金薔薇の連中はそういうコードネームで呼んでいたがな、言いえて妙なネーミングだ。外見は全長二メートルを超える漆黒の西洋風棺、問題なのはその中身だ。黄金の混沌期において最強クラスの人造人間、「ハカイダー」が納まっている公算が高い。」
「!」
流石に眼をむくシャドー。「黄金の混沌」期に製作された人造人間は皆複雑な自我と高い性能を持っている。しかし改造人間の術式と違い所持している科学者・組織に縁がなかった故に、バリスタスはその技術を保持していないのだ。
これは、是非欲しい存在である。そして。
「アレは光明寺博士の作った中でも、キカイダーシリーズに継ぐ芸術品だ。黄金薔薇の連中に扱いきれるものではない。暴走させるか、木偶にしてしまうか・・・いずれにしても失敗する。早々に確保せねばまずい。」
「それは、確かに。」
それこそが一番の心配事。頷くと、席を立とうとするシャドー。
「それと。」
立ち去ろうとするシャドーを止めるように、博士は言葉を発する。
「もう一つ。それ以外にも連中の中で何か情報漏洩が起きたらしく、あっちこっちに「それ」が流れている。「ヴィクトルの遺産」・・・連中が使っている「F兵器」のオリジナルであるヴィクトル=フランケンシュタインがらみの「何か」が、日本にあるらしい。それ故に、今日本に集中しているのだろう。狂科学ハンターも、やはり日本に帰ったらしい。注意してくれ。」
「・・・待った?出来れば「ううん、今来たトコ」って言って欲しい・・・なんちゃって。」
ぎらぎらした夜の明かりに照らし出された横顔が、笑う。
のえるだ。内閣総理大臣・・・一応。
「ええ、まあ。それほど待ちはしませんでした。」
それに応えるのは、パイナップルの葉っぱのようにぼさぼさ逆立った髪をした、痩躯の中年男性だ。眼鏡が街灯を反射して光っているためその表情は読みにくいが、何かとぼけたような感じをしている。
彼のモノと思しき車の傍らに立っている・・・事故ったのか、車は電信柱にぶつかって少しへこんでいる。
「それで、総理。一介のフリー派遣社員であるこのワタクシ山崎宅郎に、一体どの様な用件が?」
「単刀直入に言うわよ、山崎宅郎・・・いや、尾崎達郎さん。」
のえるの言葉には、普段のボケや茶化しが一切入っていない。真正面から、男の顔を見据える。
「貴方を雇いたいの。依頼としては、今もめている臓器移植新法の可決。」
「ふむ。」
のえるの言葉に、二通りの名で呼ばれた男は顎に手をやって考え込む仕草をする。
「何か、勘違いをなさっておいでなのでは?ワタクシは派遣社員。政治のことには・・・」
言いかける山崎を、のえるは黙って手で制した。そして頷きながらも、言葉を止めない。
「確かに、そう。でも、この国の不景気に喘ぐサラリーマン・・・平凡でも確かな生を送っている疲れた大人達、その絶体絶命の危機を救ってあるき、派遣社員としてもらったお金を仕送り「一度死んだ身」でありながら妻子を気遣う、優しきサイボーグ企業戦士・・・YAMAZAKIの噂は知っている。」
のえるの言葉に、ヤマザキは表情を動かさない。しかし、僅かな気配の動きを、のえるは感じる。長年世界各国を旅し、命のやりとりなど日常茶飯事だった特殊な人生のせいで、そういった気配の読みには自信がある。
「この国を変えるということは、貴方が何時もやっていることと同じだと思うわ、尾崎さん。ただ少し状況がでっかいだけ。」
ドォォォォン!!
そうのえるが言った途端、唐突に大爆音。熱をはらんだ空気が吹き荒れ、のえるのポニーテールを揺らす。
咄嗟に視線を巡らすと、すぐ近く、大きな影を投げかける高架道路の上からだ。炎が上がり、電光が閃く。そのまにまに姿を現すのは、黒い体に張り付く衣服に身を包んだ男達。
「何・・・「黄金の薔薇」!?」
高架道路上で繰り広げられる戦いは、一台の大型トレーラーを巡って行われていた。逃げる大型トレーラーの周囲を、まるで箆鹿を追う狼の群のように、軽快な装輪装甲車が追いかけ回す。
どちらも「黄金の薔薇」の車両であるという点が奇妙だが、普通に考えれば決着はすぐ付く筈である。大型トレーラーが捕捉されると言う結末で。
しかし現実に繰り広げられる光景は、それとは全く逆の様相を呈していた。
「うわああああっ!?」
一溜まりもなく消滅する「黄金の薔薇」の兵士達。それを行うのは・・・トレーラーの屋根の上に立つ、異形の少女だった。
黒い、おかっぱ頭に近いヘアバンドでまとめたショートヘア。その下のくりっとした大きな目も、それは確かに可愛い少女のそれ。しかし、年の頃16歳ほどのその華奢な体は・・・
幾重にも傷に覆われている。手足に、頬に、首に、簡素なデザインの服からのぞくウェスト部分にも。引きつった傷跡が幾重にも・・・否。
それは、手術跡だ。体を・・・死体をつないで体を作りだした痕。死体蘇生式人造人間「F兵器」と同種のそれ。
そう、彼女もまた死体蘇生式の人造人間、フランケンシュタインの怪物。
「アンデッド・エンド!」
叫ぶ。その声音は、細く高く、しかし柔らかい。
しかしそれと同時に少女のきゃしゃな手首を突き破って、電極を思わせるものが突き出た。
高速で回転するそれがプラズマを発し、トレーラーに飛び移ろうとしていた戦闘員を全て焼き尽くす。
「糞ォォッ!」
周囲の装甲車たちがそれに反応。天下の公道で堂々とロケットランチャーをぶっ放す。それだけこの国に置いて情報操作の術を確立している・・・侵略を進めている証拠足る攻撃。
迫る炎の矢に、しかしフランケンシュタインの乙女は屈しない。
「アンデッド・スライサー!」
手首の皮膚を破って飛び出す、血塗れのメカニズムから長いプラズマの刃が延び、迫るロケット弾を真っ二つにした。その爆発は、少女にもトレーラーにも届かない。
「くっそ、流石にやるじゃないか、F兵器タイプ3ネクロマンシー「ゾンビーナ」・・・」
苦々しげに呟くリタ。雌虎を思わせる横顔にも、珍しく焦燥の色が浮かぶ。
確かにゾンビーナは手強い。だが、それだけではなく。
(何で裏切るんだよ・・・レベッカ!)
別にリタは、「黄金の薔薇」に忠誠を誓っているわけではない。戦うことしか生きる手段がなかったために拾われ、この組織に属しているだけに過ぎない。
しかし、たまにアジトの廊下ですれ違ったとき、レベッカは己の仕事に誇りを持って接しているように見えていた。
そんな彼女が、まだ幼い妹を連れ、発掘した「黄金の混沌」期の人造人間と彼女の製作した新型の自律型F兵器・・・意志を持つ者と一緒に組織を脱走した。追われ、殺されるかも知れない覚悟の上で。
何故だ。
彼女は持っていたのではないのか。信念を、家族を、護るべき物を、リタの持たないもの何もかもを。
それらを危険にさらすのがどうにも理解できず、リタの心はかき乱される。
苦り切った様子のリタ。しかし、その傍らに立つ男は対照的に無表情に呟く。
「確かに。だがこの脱走を阻止するのが我等の使命だ。」
魁偉な容貌の巨漢である。身長2mを越える全身に重金属の鎧を纏い、巨大に発達した両腕を組んで逃亡するトレーラーを見据えている。
その表情には恐れも苦悩も無く、リタは薄気味悪く見据える。
対狂科学ハンター用に作られた新型の人間兵器で、名前を「百腕巨人(ヘカトンケイル)と言うらしい。自分より、おそらくよほど強い。
「ふーん。」
そんな声も姿も重々しい百腕巨人に対して、隣の者は一見全く逆の印象だ。
それは、一見元気そうな少年にしか見えない。今下で獅子奮迅の戦いを見せているゾンビーナより見た目の年齢は下、せいぜい13歳程か。小麦色の肌、漫画の稲妻のようにじぐざぐと逆立った髪。イエローのジャケットを革のつなぎの上に羽織って、腰のベルトに何故か金属製のオモチャをじゃらじゃらと下げている。
彼の名はタケル。ジャック=ウォーガンソン式自動人形(オートマタ)・・・歯車やゼンマイバネ、早い話がからくり時計と同レベルの材料で作られた機械式人造人間だ。事実ジャック=ウォーガンソンとは伝説的な腕前の時計職人で、彼が作ったアヒルの人形は本物のように鳴き、泳ぎ、餌を食べて排泄までしたという。
それと同じ技術は、事実黄金の混沌期の組織「堕悪」の「破壊部隊」と呼ばれる亜獣人型人造人間にも使用されており、その体内にはやはり大量の歯車が使用されていたそうだ。
「分からないなぁ・・・人間って。」
きょとんとした無邪気な表情で、リタとヘカトンケイル・・・同じ事に、まったく正反対の思考と表情で行動しようとしている二人を見る。
「おいら機械だから、スイッチ入れられて言われたとおり働いて、壊れたらそれで終わりだけど、人間はそうじゃない。面白いな。」
そして、今度はきびすを返してトレーラーを見る。
アレに乗っている人間は、一体何を考えてあのような行動に出たのだろうか。それを「考え」ながら。
激しい戦闘が繰り広げられる高架の真下で、同時にもう一つの戦いが始まる。
「・・・折原総理、だな?我等「黄金の薔薇」の作戦行動を目撃した以上・・・例え一国の総理であろうとも、消えていただく。」
ぞろりと、周りと取り囲む黒いスーツの戦闘員達を、のえるとヤマザキは共に油断無く見つめながら、会話する。
「やれやれ・・・どうやら戦うしかないようですな。のえるさんは下がっていた方がいい。」
「あたしだって、戦闘員に負ける気遣いはないけど・・・。内戦の最前線を旅したこともあった。身も守り方は心得ているから、見せて、貴方を。」
ずいと進み出て、白手袋の手をのえるの前にかざす山崎。
それでものえるは、構わずその場に立っていた。
そして山崎は、迫り来る「黄金の薔薇」戦闘員相手に・・・いや、おそらくはその背後に居るであろう「黄金の薔薇」そのものに対して問うた。
「貴方達は一体、何をしようと言うのか。浴びるほどの富を蓄えて、何故それ以上を求める。」
懐から、眼鏡を一つ取りだした。それは今付けている野暮ったいものとは正反対の細身でSFチックなデザイン、眼鏡と言うよりはゴーグルに近いかも知れない。指先につるを引っかけてくるると回転させると、素早く・・・眼鏡の下の顔が見える暇も無いほど素早く、それを今の眼鏡と付け替える。
「戦闘モード変換!企業戦士(ビジネスコマンドー)YAMAZAKI!!」
ばりばりっと・・・一瞬、男の体の周りを電撃が飾る。それは、生身の人間ではない証。
サイボーグ。それがこの一見サラリーマン風のおっさんの正体だったのだ。
そして懐に手を突っ込み取り出したのは・・・数枚の名刺。最近ではいまいち時代遅れの感が否めないが、一昔前はビジネスマンの必需品だったものだ。そしてそれをまるで手裏剣のように構えると・・・
「名刺スラッシュ!」
投げた。旋回しながら飛ぶ名刺。一見、それがどうしたと見えるかも知れない。
「な・・・うわああああ!!」
しかし直後、それが戦闘員達の体をずたずたに切り裂いた。名刺自体特殊な素材で作られた鋭いエッジがついているのと、サイボーグ体の腕力のなせる技だ。
「来なさい。しかしこの国の安寧を乱す権利はあなた方にはない。」
「・・・何だか凄いことになっていますね。」
その大騒ぎを、遥か高空で羽を広げたシャドーは注意深く監視していた。
「黄金の薔薇」の新型の人間兵器と自動人形、そしてそれと戦う明らかにそれまでとは異なる技術レベルで作成されたFタイプ人造人間。さらに狂科学ハンターに・・・あの伝説の「企業戦士(ビジネスコマンドー)」・・・まさかまだ生きていたとはな。のえるさんもまたとんでもない男を引き入れたものだ。」
呟きながら、既にシャドーはその長大な触角に秘められた探知能力で、目標を突き止めていた。
「ふむ、「滅びの棺」・・・ハカイダーはあのトレーラーの中か。」
そしてシャドーが状況を見計らい、降下を開始した時。
さらにまた、状況が動いてしまう。
「わ、わわわっ・・・!」
ヤマザキ達の戦いと別に、高架道路を走るトレーラーの上で戦っていたゾンビーナが、バランスを崩してよろめく。
ガッシャアアアン!
直後、トレーラーはその横腹を大いにひしゃげさせ、巨大な拳に一撃されたかのように九の字に折れ曲がって横転した。そのままに勢いで道路上を滑り・・・高架道路から転落、下の道へと落ち、路上駐車していた車を押しつぶした。
仮にも「黄金の薔薇」の用いている改造されたものでなければ、一溜まりもなく炎上爆発、中の人間も死亡していただろうが。
「きゃああっ!な、何っ!?」
「分からない!戦闘員達の攻撃じゃないけど・・・!?」
装甲と衝撃吸収システムで防御され、無事だった運転席からの悲鳴に、幾分混乱気味ながらも返答を帰すゾンビーナ。しかし原因はともかく、状況は悪化した。もうじきにも「黄金の薔薇」の大部隊がここに押し寄せてくる。
「くっ、こうなったら・・・!」
横転したトレーラーの操縦席で、レベッカは普通のトレーラーには無いであろう装置を操作した。それはコンテナの中、固定され拘束された棺を目覚めさせる為の装置を動かす。
「さぁ、目覚めなさい。貴方は戦うために生まれたのでしょう?貴方の使命を果たしなさい!」
バシン!バシィィィィン!
ひっぱたくような音を立てて、電撃が黒い棺に放たれる。しかし、棺は反応を帰さない。更に何度も電流が放たれるが、やはり棺の中身は動くことなく・・・逆に放電システムが過熱に耐えかね、火を噴く。
「きゃああっ!」
咄嗟に脱出したレベッカの後を追うように、爆発。トレーラーは中身ごと炎に包まれる。
「レベッカっ、大丈夫!?」
爆発するトレーラーの上から飛び降りたゾンビーナが着地し、倒れたレベッカと、レベッカが抱きかかえて一緒に脱出させた少女を助け起こす。もう一人、レベッカと一緒にトレーラーに乗っていたのだ。
「え、ええ。大丈夫・・・」
しかし。
「アレが失われたとなると・・・これ以上の追っ手を退けるのは、厳しい・・・!?」
そうレベッカが悩みを口にしかけたのと同時。
「黄金の薔薇」の内紛か。どっちにしろ、敵であることに変わりはない。」
そこに現れる、さらなる・・・異なる存在ではあるが、危険であると言うことには変わりのない者。
狂科学ハンター、玲。
「死・・・!」
魔玉を構えかけた玲は、一瞬虚を突かれたような表情になった。
それは、邂逅であり、遭遇。
「レベッカ・・・さん、か?」
唖然と・・・それこそ、普段の氷の刃を思わせる表情とは裏腹の、子供のような表情をのぞかせる玲。
そう、子供のような、というのはまさしく正しい。この女レベッカ=ピッコロニーミこそ、姉の茉莉香と共に「黄金の薔薇」で幼い頃の玲の世話を焼いていた女性。
そして。
「玲、君・・・良かった、会いたかった・・・」
やはり驚いたように、しかしそれが望みであった事を明らかに呟くレベッカ。
しかし、玲はすぐさま、冷静さを取り戻す。その言葉故に。
「・・・姉さんの脱走計画を密告した貴方が、会いたい?何故です。」
その言葉に、レベッカはびくりと震え、顔を逸らした。
「分かっているわ。私は、殺されてもいい。その代わり、この子を・・・」
そう言うとレベッカは、一人の少女を前に押し出した。
人形のようだ。玲が抱いた感想が、それだった。
前は綺麗に切りそろえられ、後ろは膝の後ろまで長く緩いウェーヴを描いて延びる金色の髪。空色の瞳、丁寧に研磨された大理石のような滑らかな頬。年の頃12,3歳ほどの少女。
それは確かに来ているワンピースのドレスのような意匠も相まって、古風なフランス人形のような美しい外見。しかし、玲が「人形」と例えたのはそれが理由ではない。
瞳と顔の表情だ。いや・・・「ない」というのならば、表情とは言わないか。その可愛い微笑みに彩られてこそ映えるであろう容貌は、一種怖いくらいに無表情なのだ。
「お願い、玲君。この子を助けてあげて、名前はアリシア・・・彼女は「黄金の薔薇」に狙われてる。彼女に「ヴィクトルの遺産」の秘密が・・・」
「ちょっと、レベッカ正気!?」
そこまで言いかけたレベッカの言葉を、遮る。
「相手は狂科学ハンターだよ!あのハンターが、冷血の処刑人が、そんな頼み聞く分けない!この子も殺しちゃうに決まってるよ!」
言うなり、身構えた。手足から突き出された機械が、唸りをあげる。
「別に、狂科学を扱っているもの以外の人間を殺す気は無い。だが、お前は・・・狂科学の産物だな。その力、許して置くわけには行かない。」
対抗するように、玲も魔玉を構え、ゾンビーナを睨み付ける。
(・・・やばいな・・・)
その間シャドーは、物陰に隠れ再び様子をうかがう。なにぶんにも今回はきっどが別方面の偵察活動に出ており、秘密結社Qの連中はロストグラウンドに出張、ネオバディム同盟軍は対滅人同盟用ロボット兵器の開発が最終段階、下位次元種族の皆は悪の博士配下の三貴子・蛇姫と影磁配下の改造人間妖桜姫の行う対上位次元作戦「クレール」に必要と言うことで徴用されているため、今手持ちの戦力がないに等しいのだ。
無理は出来ない。
そして、そんな状況のシャドーが見ている前で、戦いは更に複雑化していく。
「おやめなさい。」
「何だ?」
あまりに突然、かつ意表を突く姿の人物の登場に、玲は怪訝の表情を浮かべる。ぼさぼさの髪と変な眼鏡を除けば、ドコにでも居るサラリーマンのおっさんにしか見えない。
しかし、「黄金の薔薇」最強の人間兵器として調整された玲の感覚は、それとは違うモノを捕らえる。
「サイボーグか・・・何処の誰が作ったか知らないが、生かしては置かない。」
魔玉を構える玲に対し、山崎はあくまで冷静に、身構えず言葉を返す。
「無駄なビジネスはおやめになったほうがよろしいでしょう。」
「何だと?」
柳眉を逆立てる玲に、あくまで淡々と、ヤマザキは告げる。
「貴方がどれほど破壊と殺戮を繰り返そうと、誰も幸せになることはない。何故なら貴方は貴方自身をも嫌悪しているから・・・」
「うるさい!」
山崎の指摘がよほど勘に障ったのか、そのまま叫びと共に魔玉を叩き付けようとする玲。
しかしそれを、のえるが制した。
「いいの?本当に・・・それで。」
ただ、そう問う。
真っ直ぐに。真っ直ぐに見据えて。
「・・・・・・」
じりじりとにらみ合う時は、しかし長く続かなかった。
ドガァン!!
「なあっ!」
「きゃっ!」
強大な力が炸裂しコンクリートに大穴を穿った。直後、それを追いかけるようにして三体の影が着地する。
一人は玲も何度か戦ったことのある、赤い髪と褐色の肌の女闘士・・・リタ=ヴァレリア。だがもう二人は、初顔合わせとなった。
「「黄金の薔薇」か・・・」
ごつい鎧を纏った巨漢が、がしりと音立てて腕を組み合わせ、唸るように答える。
「いかにも。俺の名は百腕巨人(ヘカトンケイル)、「黄金の薔薇」日本支部長、高柳征爾閣下直属の人間兵器。」
電光のようにジグザク逆立つ金髪の少年が、軽く身を反らせながら呟く。
「おいらはタケル。ジャック=ウォーガンソン式自動人形で、「黄金の薔薇」の新しい・・・備品かな。」
対照的だ。見かけも、声も。そして、中身も。
玲を睨み据える百腕巨人の視線は激しいが一欠片の迷いも苦悩もない。対して軽い態度をとるタケルの表情の下には、何故だか微妙な倦怠、ないしは諦観のようなものが感じられる。
緊迫が、戦場に走る。
「ふむ・・流石に今度は戦闘員のように行きそうにはありませんね。のえるさんは下がって・・・」
と、身構えつつ警戒を発しようとしたヤマザキだが。
「あれ?」
振り返ると、そこにはもうのえるの姿はない。変わりに、風で飛ばないように小石を置かれたメモが一枚。
『ごめん、ちょっと別口の用事が出来ちゃった。 のえる」
と、あまり上手でない字で書いてある。
「ふむ・・・まあ、これで巻き込む心配はなしで戦えますな。」
かえって安心したように呟くヤマザキ。のえるが居なくなっても、一端依頼を受けると決定したならば、迷いはない。
で、一方のえるは。
「あんた・・・ケロちゃんのお仲間?」
「ふぉっ!?」
不意に声をかけられ、暗がりの中その影・・・丸まっちくて、手足が細くて、ぽてぽてつやつやした可愛い影・・・は、びっくんと飛び上がった。
慌てて振り返るその顔は、ケロン星人の下級軍属がよく被る柔らかい耳あてのついたヘルメットの他に、布覆面のようなもので口を覆っている。紫がかった色合いと背中にたすきがけ気味に背負った短い剣・・・忍者みたいだ。恐らくジャカンジャ系の宇宙忍法を拾得した特殊工作兵。
その姿が路地裏に消えるのを見かけたからこそ、のえるは転進したのだった。
「け、ケロロ君を知っておられるのか?!君は一体・・・」
「知らない?のえる。折原のえる。日本国総理大臣よ。」
にっこりと笑いかけるのえるだが・・・その言葉に、突然そいつは身構え、カタナを抜いた。
「なんと・・・我が友たちと敵味方に分かれねばならぬとは・・・しかし、貴殿は紛れもなく拙者の主の敵!」
「何!?」
刀を構え・・・ると同時に左手が全く別の生き物のように動き、手裏剣を投げつけてくる。並の人間なら、為す術もなく眉間に突き刺さっていたそれを・・・のえるは何とかかわした。
「どういうこと!?」
「主の名も目的も言わぬ・・・!忍びとして当然!」
「そうじゃない!何で貴方が、仲間のケロちゃんたちよりも今の「主人」を選んだかって・・・!」
しかしのえるがその言葉を言い終えるよりも早く、身を翻した紫色のケロン人は素早く夜闇の中へと消えた。
「まさか・・・」
後に、珍しく深刻な顔をしたのえるを残して。その脳裏をよぎる歯、数日前に見た、クラスメートのある行動・・・それと、いくつかのファクターが絡む。
「これは・・・尾崎さんを雇って置いて、正解だったかもしれないわね。」
思案しつつ、自らもまた闇の中へ歩み居るのえる。
そこで唐突に「振り返り」、一言。
「伏線だからね?」
しかし何が?と突っ込む者はいない。・・・長谷川健太とは、別行動を取っていたから。
「はぁ・・・」
その現実を認識すると、のえるは幾分力の失せたため息を付く。
しかし、歩みは止めない。
「むううううん!!」
戦いの先手をとったのは、百腕巨人だった。その巨大な両腕を握り合わせると、鎧と筋肉を軋ませる勢いで振り回す。
そしてそれを・・・「空間に叩き付ける」
「何っ!?」
玲がかっと驚愕に目を見開いた。空を叩く百腕巨人の拳、それが何かを生み出し、こちらに向けて弾き飛ばしてきたのを玲ははっきりと感じた。
見えない、そして空気の振動も感じない。衝撃波でも爆風でもない・・・「何か」。咄嗟に身を翻した玲がたった今までいた場所が、巨大なハンマーで一撃されたかのように砕けた。
「な、何だ!振動でも衝撃波でも爆風でもない・・・一体!!」
驚愕する玲に、百腕巨人はその頑強そうな口元をにやりと歪める。
「見たか、コレこそが俺が「黄金の薔薇」に受けた力、次元そのものを湾曲させ叩き付ける次元鎚。貴様が脱走してから既に十年、「黄金の薔薇」は貴様以上の人間兵器を作り出すことに成功したのだ。ムン!ムン!ムン!」
さらに追撃の次元鎚。次々と見えない打撃が打ち出され、流れ弾となって街を打ち砕く。すなわち玲はその攻撃をかわしているのだが、それだけでもまだ終わらない。
「当たらなければ、どれだけ強力な力だろうと!お返しだ、魔玉操・龍震・・・」
「おーっとちょっと待って!オイラの技も見てからにしてよ〜!」
唐突に背後からかかる、酷く呑気な声。魔玉を構えたまま振り返った玲の背後にいるのは、箒のように逆立った髪が特徴の少年だ。
いたずらで輪ゴムを指にかけ、弾いて飛ばそうとしている子供のような手つき。しかしその機械で構成された指の間には電磁加速器が装備され、弾丸を加速する。しかも、その弾丸は。
「ケルブランジェネレータ全開!位相反転・反物質レールガン・・・バァン!」
「なぁ・・・!」
爆発!!
着弾した反物質は酷く大雑把な狙いで玲と百腕巨人の間くらいの位置に落ちたものの、僅か1グラムで広島型原爆を越える破壊力を持つ反物質の弾丸は、けた外れの高熱爆発を巻き起こす。このとき反物質に変換しタケルが発射したのは空気中を漂う僅かな塵、しかしそれでも高熱で道路を解かし爆風が通りを薙ぐ。
「うぐっ・・・!」
高熱で肌を焼かれ、さらに地面に叩き付けられる玲。咄嗟に転がって服に付いた火を消し、また人間兵器としての自己再生能力が焼かれた皮膚を回復し始めるが、傷は浅くはない。
「ええい貴様!もっとよく狙え!」
「分かってるってば!おっさんだって当ててないじゃないか、相手が素早いんだよ!」
対して重量級で鎧まで纏った百腕巨人は爆風も熱もものともしない。タケルと罵りあいながらも、再び攻撃。
「にょおおおおおっ!!?」
同時刻。近所のアニメグッズ店「ゲーマーズ」にて。
閉店後の店の整理をしていたでじこが、特撮ドラマ「彗星ハレイ」に出てきた怪獣・鋭甲戦闘獣ニードラのガレージキットを取り落とし、鋭く尖った鼻部分の角をその頭にざっくりと突き刺し、悶絶する。
とりあえずそんな似非猫宇宙人の負傷はおいといても、さらにこの騒ぎで埋設型の送電線が切れ、周囲の会社で残業していた幾多のサラリーマンの仕事が一瞬で消滅。並びに道路の損傷で、明朝からの近隣住民の活動に多大な被害がでることは確実。
「くっ!」
爆風に、レベッカを確保しに走っていたリタと、それを阻止すべく迎え撃とうとしたゾンビーナまで諸共に吹き飛ばされる。
「なんて連中だい・・・巻き込まれないようにするのが精一杯だよ!」
味方とはいえあまりに無茶苦茶なやり口の二人に、悪態を付くリタ。さらに玲も全力で応戦しようとしている・・・間違いなく、あと少しで街のこの区画は壊滅する。
しかし、そうはいかなかった。
「あ・・・!」
最初にそれに気付いたゾンビーナが見つめる、その視線の先の男が、それを許さない。
「いいかげんにしていただきましょう。」
がきっ。
「な!?」
調子に乗って玲を押しまくる百腕巨人の得意げな顔が、一瞬凍り付いた。全く気付かなかったからだ。
いつの間にか彼のすぐ側まで接近し、腕の鎧をひしゃげさせるほどの握力で、その腕を押さえている・・・ぼさぼさ逆立った髪以外は、スーツに眼鏡とドコにでも居そうなサラリーマン風のおっさんに。
「何だ貴様!」
「この国に生き、働く、一人の人間です。故に許しません。精一杯真面目に生きる人々の努力を踏みにじる、破壊の理不尽を。」
言い切る、ヤマザキ。その気迫に一瞬驚いた百腕巨人は、すぐさまそっちの方に攻撃をうつす。
「ぬお・・・!」
「0.35秒遅い。」
しかし振りかざしかけた百腕巨人の次元鎚の先に、すでにヤマザキの姿はない。その居場所は、百腕巨人の上空。
「ヤマザキキック!!」
瞬間的に背中の背広が開き、ジェットブースターで加速した一撃。伝説のライダーキックほどではないが、確かに激烈な一撃に百腕巨人の巨体がぐらりと揺らぐ。
さらに空中で身を翻し、自分のネクタイを掴み、引き抜き。
「ネクタイブレード!レイ・オフ(首切り)・・・されたいですか?」
その形状記憶の金属繊維か何かで出来ていたと思しきネクタイを一気に硬化させ宇宙刑事のレーザーブレードと同じく光を纏わせると、後ろからかかろうとしていたタケルに一挙動で突きつける。金色の髪が僅かに切られ、はらはらと落ちた。
「ひ、ひぇええ・・・」
目の前に迫った切っ先に、目をぱちくりさせるタケル。技や動きの切れだけではない。その動きに込められた、気迫というか信念と言うかが、人造人間の少年を射すくめた。
(こーゆーの、やっぱ人間の特徴なのかな・・・必死さ?壊れるだけのオイラたちにはない・・・?)
瞬時、様々な思考がタケルの電子頭脳をよぎる。しかしそれに構わず、状況は進行する。
「えぇい、貴様に構っている暇などないわ!戦闘員共!」
体勢を立て直した百腕巨人が叫び、同時に最後の生き残り戦闘員達が、レベッカへ向けて走る。百腕巨人とタケル相手に前進していたヤマザキと玲の、丁度虚を突く感じに。
「しまった!」
咄嗟に身を翻すゾンビーナだが、間に合わない。戦闘員の放った電光が、レベッカの体を撃ち抜く。
「く・・・!」
しかし、レベッカは死ななかった。それどころか腕から青白い光を発して、逆に戦闘員を弾き飛ばした。「黄金の薔薇」の科学者は脳と肉体を強化されており、玲の姉茉莉香が造りあげたヒエロニムスジェネレータによる生体衝撃波という武器がある。そうでなければ、そもそもトレーラーを奪って逃げることすら出来なかっただろう。
だがしかしそれでもダメージは深かったらしく、そのまま倒れてしまうレベッカ。戦闘員は吹き飛ばされたが生きていて、撤退しようとするがそこに逃がさずヤマザキの名刺カッターが突き刺さり、一溜まりもなくバラバラとなる。
そして、三度目のしかし。事態はそれだけでは収束しなかった。レベッカの体を貫いた電流が、炎上するコンテナを直撃し。
そこにいたものを、とうとう目覚めさせた。
ぎぃぃぃぃ・・・
鈍い、錆びた金具が動く音。高熱にあぶられ、溶けた金属を浴びつつも微塵も損壊することなく、それは棺の中から蘇った。
漆黒の人造人間。
「は、ハカイダー・・・」
今回の目標である人造人間の登場に、思わず姿を現すシャドー。「ハカイダー」は、いわゆるロボットの中では特殊中の特殊な部類で、中枢の制御に人間の脳髄を使っている。そう言う意味では、全身を機械化したパーフェクトサイボーグにむしろ近い。
しかしそれに分類されないのは、あくまでそれを制御のための部品として使用しているからで、その脳ではなくロボット自体の人格が存在したという。しかしやはり人間の脳に影響を受けるのか、その脳が変わるたびに人格ががらっと変化したと言うが・・・
(博士の言では、誰の脳が入っているか分からないって言っていたけど・・・)
煙の中から、がしゃり、がしゃりと重い音。来る。戦闘能力最強をうたわれた、「堕悪」の人造人間が。
そして、現れた姿は。
「何?」
以外にも、予想したそれとは異なっていた。
確かに、目標である「ハカイダー」には似ている。しかし、随所のデザインが異なり・・・より精密かつ暴力的に変化している。
シャドーが見た「黄金の混沌」期の資料では、ハカイダーは当時流行のつるりとした曲面装甲と、レザーを思わせる軟質の合成素材で体を覆い、その顔はむしろ仮面のようにのっぺりとしてそこに鮫のそれを思わせる亀裂のように鋭角な口が刻まれていた筈。
しかし今目の前にいる、「このハカイダー」はそれとは全然違う。胸部や手足、ほぼ全身を巌のようにごつごつとした装甲で構成されている。ハカイダーの特徴である黒い体色に稲妻のように走る黄色い縞はさらにその激しさを増加し金色に、そして何より変化したのは。
歯を食いしばる不動明王のような・・・独特の表情。
その顔と。
その腕に持った、巨大なショットガン。元々のハカイダーが使っていたのは長い銃身のリボルバー拳銃で、高周波を弾丸に乗せ目標物を粉砕するモノだったが・・・それよりもあれは、遥かに巨大だ。同じ高周波兵器だと言うのなら散弾ではなくあの口径から一発を繰り出すスラグ弾だろう、威力はケタが違う筈。
(しかし、何故、変化している?)
思考を巡らす。こちらのデーターが間違っているという可能性は低い。当時の堕悪の映像資料だけでなく、ハカイダーと戦った人造人間・・・キカイダーの仲間だった人間達の証言も集めてあるのだ。
ならば、何ゆえ。
(ふぅむ・・・なにぶん分からないことが多すぎるな。)
そもそも「堕悪」の総帥ギル教授の脳を入れたハカイダーは組織を再興し、ライバル組織「影」を撃破、巨大ロボット兵器アマゲドン=ゴッドを製作し世界征服を目指したが、その中でキカイダーに暴れられ当時最高の人造人間達は皆その爆発に巻き込まれ滅んだと思われていたのだ。
(誰かが手直ししたか、はたまた脳を維持するための半生体部分が自己進化を行ったということか・・・)
と、思い悩むシャドーに、ハカイダーはいきなり銃口を向けてきた。
「あわっ!?」
咄嗟に避けようと身をひねる・・・が、待てど暮らせど銃弾は来ない。
落ち着いてよく見ると。いったんは銃を構えたハカイダーだが、それを呆然とした様子で取り落とし・・・周囲を見回している。どうも、状況を把握し切れていないようだ。
ジャッ!
ジャアアッ!
そう認識した途端、空気を焼く稲妻がハカイダーを直撃した。
「捕獲しろ!あれが例の人造人間だっ!」
「了解!」
「黄金の薔薇」の戦闘員部隊による攻撃。
直後、変わった。ハカイダーの、気配が。
ギン!
深紅の両目に、光が満ちる。一挙動で取り落としたショットガンを拾ってハカイダーは立ち上がると、流麗な動きで照準。
ドン!ドン!ドン!
無造作に銃口を動かしながら、連射。
ジャッキン!ジャキン!チャリン、リン!
合間合間に排莢、装弾、そして薬莢の落下音を挟みながら、連射、連射、連射。
その巨大な弾丸の命中した者は全て、弾丸の運動エネルギーと高振動に粉々に砕かれる。しかし、その威力はまだショットガンの凶暴な外見から予想できる。しかして、それよりも恐ろしいものが存在する。
それは、その弾丸がただの一発も外れはしないと言うことだ。
周囲の戦闘員達を一瞬で駆逐したハカイダーは、続いて玲と戦う三人・・・いや、玲を含む四人に照準を合わせる。
「むうっ!!止まれ!ハカイダー!!」
咄嗟にそれに気付いた百腕巨人が、次元鎚をハカイダー目掛けて発射する。
空間自体の歪み、ハカイダーの高周波ショットガンと比べれば格段の進歩を経た武器が、真正面から黒い人造人間を叩く。
しかし、ハカイダーは倒れない。仰け反りながらもショットガンを構え、狙う先を見もせずに発射。
「ごぉっ!!?」
その弾丸は放たれた異常な姿勢にも関わらず、次元鎚発射のために構えていた百腕巨人の掌をぶち抜き、そのまま腕の中に食い込んで炸裂した。
この打撃に、流石に苦悶の声を上げる百腕巨人。
「げげっ・・・こりゃ、ハンターよりも強敵か!?」
その様子に動転の表情を見せるタケル。しかしそこで、再びハカイダーの攻撃がやむ。
そして、ハカイダーは、言葉を発した。
「ハ、カイ、ダー・・・。」
声は、やや低めだが若々しい、青年のもの。しかしやはり、記録されていたハカイダー=サブロウでも、その体を一時的に使用していた光明寺伝とも、プロフェッサーギルとも、その声は異なる。
「それが、俺の名前・・・だったはず。そして、俺は・・・」
ぎらり。
赤い輝きが、更に強く、そして凶暴になる。
「破壊を目的として作られた、人造人間!!」
「やば・・・っ!」
「くっ、魔玉操、天神華!!」
再び銃を構えるハカイダー。咄嗟にタケルは飛んで跳躍して逃げ、玲は逆に魔玉で迎撃しようとする。
しかし魔玉が作り出した迎撃網をかいくぐり、ハカイダーショットのスラグ弾は玲を吹き飛ばした。巨弾が玲の体にめり込み、黒いブルゾンを破って真っ赤な血を噴き出させる。
「がぁは・・・!」
「破壊・・・破壊・・・破壊!」
頽れる玲を無視して、ハカイダーは更に銃を振り回す。手当たり次第に、目に付く者全てに銃弾を撃ち込む。
「う、うおわっ!?」
逃げ回るシャドー。バリスタスの中では高速を誇る彼でもしかし完全に避けきることは出来ず、弾丸がかすめ装甲や羽の縁が徐々に欠けていく。ましてや反撃するなどとてもではないがその暇はない。
「く、流石最強の人造人間・・・」
無表情なゴキオンシザースの顔にすら、色濃い焦りの色が浮かぶ。狂科学ハンター玲すら身動きもままならないほどのダメージを負い、ましてや周囲の「黄金の薔薇」は既に戦力としては壊滅状態に陥っている。
そんな窮地だった状況だが、それでもその次に起こった事態にはシャドーはさらに驚く羽目になる。
「破壊・・・する?」
「アリシアッ!?」
それまでこの戦いの中にも一人動くことなく立っていた金髪の少女が、まるで魅入られたようにふらりとハカイダーの前に歩み出たのだ。今初めて名前を呼ばれて、それで彼女の名を全員が知ったほどの、存在感の希薄な少女。
咄嗟に傷ついた体を引きずってでも前に出ようとするレベッカをゾンビーナが突き飛ばした直後、飛来した銃弾がゾンビーナの足首を打ち砕いた。
「あっ!!」
苦悶するゾンビーナの顔を、しかしハカイダーは見ていない。いや、そもそも先の銃撃も銃だけを横に向けて、音を頼りに・・・と言うよりは、微かな少女の声を聞き逃したくなかったから、音を止めようとした・・・そんな無造作な射撃だった。
そして静まり返る。その場にいた全員、百腕巨人や玲ですら、何故だかその静寂を、邪魔しなかった。
「破壊する・・・貴方は、破壊する人?本当に?」
そんな中語られる彼女の声は、何故だか無性に悲しく感じられる。ましてや、その内容は。
「もしそうなら・・・「私」を、壊して下さい。私が生きていると、私が考えると人が死ぬ・・・」
そういってアリシアは、祈るようにハカイダーの前にひざまずいた。
「な・・・駄目っ!!」
「そんな、アリシア!」
彼女を連れだした二人が叫ぶ。
しかし、同じく二人が連れてきたハカイダーは、まるでそれが神聖な義務であるかのように、酷くゆっくりと、ある意味ではぎこちなくと思えるそれまでとはうって変わった仕草で、少女アリシアの頭にショットガンの銃口を突きつける。
「むっ!!」
咄嗟にヤマザキが名刺スラッシュの構えを取るが、しかしその時には既にハカイダーの指は、引き金に・・・!
ガァン!
そして。
「何・・・っ!」
銃声は、全く別の場所から響いてきた。そして、ハカイダーの側頭部にめり込む銃弾。
それを行ったのは、この夜と同じ色を持つ、もう一体の黒い人造人間。
「好かんな・・・そういうのは。」
「トップガンダー!?」
そう、そこに居たのはバリスタス本部が「黄金の薔薇」による攻撃から守った旧ネロスの一員の内、唯一地球に残った元戦闘ロボット軍団暴魂、トップガンダーの姿だった。
「借りを返すぞ、シャドー!今だ!」
「了解!」
咄嗟に、シャドーが走る。側頭部に直撃を受けたハカイダーだが、よろめきはしたものの機能を停止しては居ない。しかし、それにより装甲に隙間が出来・・・内部へのアクセスを可能としていた。
シュ!
軽く空気を切り裂く音を立てて、触角がハカイダーの内部に侵入、その機能を一時的にカットする。
がしゃり、何とか機能停止し、音を立てて崩れ落ちるハカイダーをすかさず抱え手に入れるシャドー。
「ち、バリスタスに、ネロス残党まで出張ってきたか・・・百腕巨人!これ以上はマズい!一端退いたほうがいい!」
その様子を見たリタの叫びに、百腕巨人も重々しく頷いた。
「うむ。今、高柳閣下から通信が入った。HUMAやこの国の部隊も動き出したらしい、ここは一端退けとのお達しだ。タケル!」
「はいはい、分かってます!」
軽く答えると、素早く身を翻したタケルが飛び上がった。頭の上に反重力球を生成し、自分で自分を引っ張り上げるようにして宙を舞う。
その力はそうとうなもののようで、百腕巨人とリタももろともに持ち上げる。
「それじゃ、またねっ!!」
轟、風を巻いて一気に「黄金の薔薇」の部隊が撤収し始める。
「ふむ・・・!」
同時にハカイダーを抱えたシャドーも、大量の黒曜を周囲にばらまき、それを目くらましに消える。無論、「黄金の薔薇」と現場に残った玲やアリシア、ゾンビーナ、レベッカの三人を監視するためのホッパーの展開は忘れないが。
そして、再び夜がそこに・・・しかし、確かに違った方向への「進行」の気配を感じさせながら、戻る。