秘密結社バリスタス第二部関東編第六話 まだ咲かざるや闇茨

ある休日のバリスタス関東軍アジト。
「恋〜しましょ、粘りましょう、愛すべきぃ夢見〜人〜。今世〜紀最大のっ、出力で〜・・乗り切ろうHURRY UP!」
「おお〜!」
「・・・・・・」
歌い踊る女子中学生ヒロイン「アキハバラ電脳組」の一人、東十条つぐみ。彼女のパタPであるテツは背中にマイクがついていて、ハンディカラオケの機能も出来るのだ。そしてそれに感嘆と感動を持って答え、自分達も一緒にたどたどしいながらも踊る、魔族の女の子たち。
「ぬは〜!我々も負けてられないであります!いくぞクルル!あっそ〜れ!わしょーいわしょーい!」
「輪焼夷、輪焼夷・・・」
負けじとケロン人たちも、何か地球文化を誤解している感じはするが踊りを披露する。

「全く歌だの踊りだの・・・ええい軟弱な。」
そんな仲間の様子をケロン人の一人、ギロロ伍長は赤い皮膚をますます赤くして不機嫌そうに見ていた。
その傍ら同じように様子を見ていたきっどは、対照的に朗らかに笑っている。
「いいじゃないですか。楽しそうですよ?るくちゃんたち。」
確かに、その通りだった。歌に、踊りに、華やかな地上に、悪魔と呼ばれる種族の女の子たちはとても楽しそうな反応を見せている。特に瑠玖羽は心底嬉しそうに、踊りのステップものりにのっている。
「まあ、荒れ果てた魔界には何の楽しみも無かったからな。」
と、不意に声。視線を下げると、足元にメフィストがいた。声が青年のそれで姿かたちが猫なので、突然話しかけられるとなれていてもやっぱり少しは驚く。
「音楽とか、そんな綺麗なもの、初めてなんだよ姫たちは。」
「いい話じゃない〜。ね、ギロちゃん?」
ひょいと語るメフィストを抱き上げ、のえるがにっこりとギロロに笑いかけた。するとギロロは赤い顔をますます赤くして二、三度咳払いをするとそっぽを向く。
「ふ、ふん。まあ、そう言う事情ならな。」
「?」
首をかしげるのえる。きっどの聞いた話ではケロン人との初期接触においてのえるが戦闘を挑むギロロに勝ってから「こう」らしいのだが。
「呑気なこどだの〜。」
ブラックエクスプレスがその様を見て、嘆息のように言う。
関東支部は、平和だった。
と言うか・・・
「戦力不足で身動きとれん・・・」
シャドーは頭を抱えていた。増援の宇宙人はいまいち頼りないし、魔族たちに至っては戦いに投入するのもはばかられるようなお子様である。
秘密結社Qは流石に戦力として通用するが、ロウレスとの同盟関係上ロストグラウンドのロウレス領土の防衛にも力を割かねばならないため、こちらにまわせる戦力はそう多くない。
防衛的・現状維持的任務の本部や大陸支部、戦力が充実している大西洋支部などと違いこの関東支部には「黄金の薔薇」と「滅人同盟」という大敵、そして未だ未知の部分の多い「ローゼンクロイツ」と、敵が多い。
「よぉっ、どうしだんだいゴキブリのおっさん、そんな渋柿食べたみたいな顔して?」
さっきまで踊っていたつぐみが、汗をタオルで拭きながら近寄ってきた。バンダナを外して、前髪をかきあげる。長い黒髪は家が空手の道場とかで引き締まった体に似合い、結構綺麗だ。
「まあ、大幹部ともなれば責任が色々ありましてね。」
「そうそう。「はとぴょんの歌で異次元と文化交流だ〜!」なんて、歌をほめられて舞い上がってるどっかの誰かさんよりかは少なくとも組織のトップは忙しいものなんでございますですます。」
と、相変わらず語尾が変な丁寧語が特徴な、電脳組を戦隊と捉えると大体ブルーのポジションにいる、桜上水すずめだ。お金持ちのお嬢様なのだが、レッド?の花小金井ひばりの「へその緒がついてるころからの幼馴染」で、一番の友達の座をめぐってライバルのつぐみとは仲間と言うより喧嘩友達である。
言われて、かっとつぐみの頬が赤くなった。母親が女子プロレスラー、父親が空手の師範という格闘技サラブレッドな血筋ながら、当の本人は何故だかアイドル志望で、さっき歌っていた「恋しましょ粘りましょ」の歌手・「はとぴょん」こと代官山はと子の大ファンらしい。
「うっ、煩い!そこで何で俺を引き合いに出すんだよ!それよかいまどき幼馴染で財閥令嬢なんて陳腐なお前の方が、よっぽど苦労が少ないだろこの似非丁寧語!」
「ぬっ、抜かしくさっですわねこのアイドルオタク!お金持ちの子が馬鹿というのは俗説に過ぎないですわ!そんな筋肉、ステージ衣装より空手着がお似合いでございますですます!」
この一言ですずめもキレた。頭の上の触角みたいにハネた毛が、ますますピンと逆立つ。どういう原理かは分からないけど。
(構造を調べてみたいかも)
などと思わず考え、そしてまたため息。そんな個人情報に熟知してしまうほど、最近の関東支部はまともに対外活動を行っていないのだ。
「全くあの二人もあきへんなぁ・・・」
「ホンマデンナー」
泉岳寺かもめとパタPのビリケンだ。ブルー役のすずめがああでイエローのつぐみも当然あてにならないため、ポジショニング的にはグリーンの彼女が、なんだかんだいって電脳組のブレーンと言っていい。実家が借金抱えてるせいで金にがめついことを除けば、それなりに有能だ。
「おお。」
軽く頭を下げるシャドー。彼女と、電脳組に協力しているという祖父泉岳寺シマ福朗。その二人からの情報のおかげで、彼女達の使うあの人造人間の正体がおぼろげながら分かってきた。
あれの正式名称はディーヴァ、女神とでも言うべき意味か。アキハバラ電脳組の四人はローゼンクロイツからは「アニマ・ムンディ」、女性的な世界の霊魂を意味するオカルト用語で呼称されており、彼女達とパタPが何らかの作用でもって「ディーヴァ」を召喚することが出来るのだと言う。
ローゼンクロイツにとってディーヴァとアニマ・ムンディは何か特別な意味があるらしく、執拗にその奪取を狙ってくるのだそうだ。
そしてそんなアキハバラ電脳組の中でも、リーダーであるひばりはさらに特別な「何か」らしく、彼女のパタP・デンスケはひばりが「王子様」と呼ぶ謎の少年に貰ったのだと言うこと。そしてその正体不明の王子様と、ローゼンクロイツ幹部シューティングスターが同一人物かもしれないこと・・・
とはいえ、シャドーもそれら情報だけを鵜呑みにして従うほどお人よしというわけではない。恐らくそのシマ福朗老人、他に何か知っていて隠しているだろうと口ぶりから判断し、きっど配下の粘土ナノマシンロボットを使い、独自の調査も行った。結果事態は思ったほどではなかったが、一応わかったことはさらに増えた。
ローゼンクロイツと「黄金の薔薇」は元々一つの組織であったことと、第一次世界大戦直後に分裂し以後敵対関係にあること、そして・・・その分裂直前に研究されていた生機融合体による人類進化計画がディーヴァと呼ばれていたがそのデータが何らかの原因で消失、その後の組織の進むべき道を巡っての対立が分裂を促したらしいと言うこと・・・
まあ、一応情報収集という面から見れば、バリスタス関東支部は立派に機能を果たしていたと言えないことも無い。
「しっかしまあ確かに、おっさんたちバリスタスって気張った仕事の仕方しとんな〜。うち、悪の秘密結社つったらもっと放埓なもんかとおもっとったわ。」
「潰せ、壊せ、破壊せよ、とか?」
あつかましいともいえるかもしれないがとにかく正直なかもめの感想に、ふふとシャドーは僅かに笑い、その口元を扇子で隠した。
「なんや、雅な笑い方しおってからに。」
「いや失礼。だがね、そんな単純なことでは世界征服など到底出来ないよ。TVとかだとそう言うところは省略されているが、実際我らは真面目なものだ。」
「ふ〜ん、そないなもんなんか。」
「そうだ。君達もお話のヒロイン気取りでいると、いつか足元すくわれるぞ。気をつけることだ。」
などど話をしていると。
「ごめんごめん、遅くなっちゃって〜!」
「うぴぃ〜」
と、アキハバラ電脳組のリーダー、花小金井ひばりとそのパタP・デンスケがどたばたと駆け込んできた。
「おお、待っとったで。」
「あ、ひばりちゃん!」
と負うようなかもめの声に割り込むようにすずめの悲鳴に似た叫び。
ずべしゃ。
次の瞬間、自動扉の溝に足を引っ掛けてひばりは転倒した。それも顔面からモロに。
「うぅ〜・・・」
「おいおい大丈夫かひばり!?」
「あたた〜、でも大丈夫大丈夫。それよりごめんね、パタPショップいこうって言ってたの私なのに。」
パタPショップというのは、電脳ペットであるパタPの改造用パーツを扱う店である。メモリ増設して賢くしたり、アクセサリパーツをつけたりと、子供達は競い合えて楽しいし会社は売れて儲かる、中々考えられた企画である。
しかし、ひばりはどんくさい。とても電脳組リーダーとは思えないと、改めてシャドーは感じた。
「いいっていいって、結構楽しいし、ここ。」
「そりゃあ。あれだけ歌えればねえ〜。」
「まあええやんけ。カラオケボックスいくんと違うて、ここはただやし。ただほどええもんはないで〜。」
つまり、彼女達はこのアジトを休日外出の待ち合わせ場所にしていたわけである。
「へ〜、面白そうじゃない。パタP持ってないけど、あたしもまぜて!」
「いいよ〜。」
「健ちゃんもいこ〜!」
「う、うん。分かったよ。」
のえるや健太も同行するらしい。すっかりただの中学生の溜まり場と化している、バリスタス関東支部だった。

そんな風に開店休業なバリスタス関東支部から、アキハバラ電脳組が出かけて、暫く後。
唐突に通信が入った。
「あっ、シャドちゃん?!あたしあたし。ちょっと手伝って欲しいの、大至急!」
声の主はのえる。そして、それは唐突に、あまりにも唐突に、一方的に宣告したあと。
「ローゼンクロイツが動き出したわ!いま電脳組と地下・・・えーと、この間建造がスタートした第二アキハバラデパート裏の閉鎖された地下テーマパーク「ボトム・ザ・ワールド」跡地で戦ってんだけど、どうもピンチみたい!特甲呼んだんだけど、「黄金の薔薇」まで出てきちゃって!助けてやって欲しいのよ、頼んだからね!
切れた。
「ふむぅっ・・・」
冷静に考えれば、ここでバリスタスがアキハバラ電脳組を助けなければならない根拠など無い。
現在折原のえると密約を交わした状態ではあるが、その密約とてあくまで「バリスタスの活動を黙認する」だけであり、お返しにこちらから助ける義務は無いのだ。
これだけ状況が錯綜しているとなると、その中に手を突っ込むのは相当面倒だ。ただでさえ乏しい戦力をこんなところで消耗でもしては、到底関東支部の大目標である「黄金の薔薇」打倒はおぼつかない。
しかし・・・
「個人的人情で作戦を立案遂行する組織というのも、また珍しいのでしょうが・・・面白い、それこそが堂々たる世界征服、と開き直ってみますか。」
ふぅ、とシャドーはため息をついた。ともに過ごした記憶があるものを見捨てるというのは、とことんに難しく、そして嫌なものだ。いくらなんでもそんなことはしたくない。
何より。
「シャドー閣下、秘密結社Qの皆さんに話をつけました、戦力は既に集結させてあります。ロウレスの人たちは今回はロストグラウンド側の事情があってこれないみたいですけど・・・」
と、てきぱき指示を下していたきっど。その白いタキシードの裾を、つん、と引っ張る小さな手。
「ん?どうしたの、るくちゃん?」
「私達も、出る。」
と、悪魔軍団・・・と言うにはえらく可愛い、下位次元世界の使者たちまで、既にその場に揃っている。
「えっ、でも、危ないよ?戦いだよ?」
目を白黒させるきっどに、瑠玖羽はしっかりと、分かっているというように頷く。
「大丈夫、私達も、魔族の端くれ。」
というと、瑠玖羽の長い黒髪がざわざわと逆立った。そして羽と手が融合したような姿に変じて、羽ばたいてみせる。
ミルキィも胸を張って答えた。
「その通り!恩顧に答えずして何の契約だってことだ!」
「み、ミルキィさまが行くなら私も!」
ウサギみたいな耳をぴんと緊張させながらも、アーテリーも同意を示す。
「・・・」
二人に比べて特に儚げで、戦闘が出来るとは到底思えない紫亜もこくこくと頷いている。

ともかく、ここまで盛り上がってしまったらどうしようもない。それに、大幹部としてシャドーが知悉する情報の中には、関東戦区最大の敵である「狂科学ハンター」が、目下アメリカに移動しているとの情報も入っている。
今ならば、まだ何とか。
「分かりました。では・・・秘密結社バリスタス、出撃しましょうか!」
「おーっ!」
「キチキチキチキチ!」
「ジーク・バリスタス!」
「キューーッ!」
シャドーの号令に、一斉に様々な返事が返って来た。
(ふむ・・・のえるは、ここまで考えて、読んでいたのでしょうかね。それとも・・・)


「総員、配置につきましたか?」
二種合成型改造人間ゴキオン・シザースの姿となったシャドーが、触角の多元通信機能を最大限活用して呼びかける。
現地に先に派遣したきっどが視察したところ、状況は思ったよりもさらに混濁していた。アキハバラ電脳組が戦闘中という閉鎖された地下遊園地「ボトム・ザ・ワールド」はメインゲートが閉鎖され、いくつかのごく狭い作業用ゲートからしか進入できないようになっている。現在もなにやら事情があるとかで別行動中ののえるの言では、どうもローゼンクロイツは最初からボトム・ザ・ワールドの中で待ち構えていて、奇襲により電脳組を中に引きずり込んだらしい。
現在周囲はボトム・ザ・ワールド跡地内部で事故が発生したと偽って封鎖されている。その中でボトム・ザ・ワールドごとローゼンクロイツ・電脳組を抹殺せんとする「黄金の薔薇」とレスキューポリス・機動刑事隊を含む特甲が戦っている、といった有様らしい。さらにボトム・ザ・ワールドの中には電脳組のほかに再開発のため視察中だった民間会社の人間までいるとか。さらに中の連中相当派手にやっているらしく、ボトム・ザ・ワールド崩落の危険すら生じていると言う。
せいぜい好材料といえばのえるが特甲に話を通しているから、そっちからも攻撃される可能性はないということくらいか。
従って想定される敵戦力は、ローゼンクロイツの幹部四人と随伴するホムンクルス、外を取り巻く「黄金の薔薇」の戦闘員部隊。恐らく対ディーヴァ・ローゼンクロイツ用にF兵器を混ぜた編成となっていて相当厄介だ。
対して味方がこの戦いに動員できる兵力は、魔界軍が瑠玖羽、紫亜、ミルキィ、アーテリーだが戦闘能力があるのは瑠玖羽とアーテリー、それもあまり期待できない。ネオバディム同盟からはケロロ軍曹、タママ二等、ギロロ伍長、クルル曹長。ブラッチャーのブラックエクスプレスたちとアナローグ星系のピョコラたちは、シャドーが目下計画中の対滅人同盟・ブレイン党破壊ロボット用決戦兵器を建造させていて手が離せない。
ロウレスは目下ロストグラウンドの自領防衛に手一杯でこっちにまわせる余裕は無い。
秘密結社Qからは行動隊長レイジと香川教授、そして改造人間ゴキブリジャガーとマグネライノ、ならびに随伴戦闘員部隊。シャドーローズが戦闘員を指揮してはいるが、彼女自身に戦闘能力は無い。それに加えてシャドーときっど、バリスタス関東支部のただ二人の改造人間。
多いように見えないことも無いが眼前に展開する「黄金の薔薇」だけでもその数は三倍以上いる。あげくにこれを二手に分けるとなると・・・
「ふむ、きっどさん。地上の、対「黄金の薔薇」部隊は貴方に指揮を任せます。私が香川教授、それとネオバディムの兵を率いて地下に参りますから、残りは貴方が率いてください・・・「黄金の薔薇」の兵士、一歩たりとも地下に入れてはなりませんよ。」
「はいっ!」
大兵力を展開できず、高威力の兵器で武装した地下のローゼンクロイツに対しては精鋭部隊で、地上には出来るだけ戦力を残しておくという判断だ。
「では、行きますよ。」
通信を終えると、シャドーは既に集まっていた地下へ行く仲間に言った。
「分かりました。全ては、我等の大義のため・・・」
「了解であります!」
確保した作業用ゲートから、出来るだけ隠密に潜入する。


「突破を許すなあ!撃て〜〜〜!」
特殊鋼製防弾防爆楯で古代の重装歩兵のように防御を固め、特甲の部隊が号令と同時に一斉に発砲する。
強装弾の嵐が「黄金の薔薇」の第一部隊をなぎ払うが、直後に反撃が来た。イオンで指向性を持たされた高圧電流が怒涛のように押し寄せる。
「わああっ!」
電撃は流石に楯では防げず、ひとたまりも無く隊列を乱す特甲。
「怯むなっ!退くなっ!」
隊長らしき立派な髭を生やし警察と軍の中間といったような特甲の制服に身を包んだ壮年の男が、声を限りに叫ぶ。自分も大型拳銃を抜くと、迫り来る「黄金の薔薇」の兵を撃ち倒した
しかし「黄金の薔薇」との戦力差は激しく、あっという間に追い詰められていく。
「我等がここで退いては、日本の治安はどうなる!HUMAの堕落を阻止できず知らぬとはいえその尖兵となっていた我等に再起の舞台を与えてくださったのえる総理になんと申し開きするのだ!」
「しかし長官!戦力の差は圧倒的で・・・」
長官、と言うからには本来現場指揮を行う立場ではなく、特甲のトップとも言うべき存在である。そんな高位の者が前線指揮を執っているということは、それだけ力を入れているとも取れるが逆に衰退しているとも取れる。恐らくは、その両方なのだろう。
「ええい、レスキューポリスや機動刑事は何をしているのだ!」
「敵の人造人間と交戦、苦戦している模様です!」

死体をつなぎ合わせ特殊な薬液を投与し、電気ショックで蘇生させたフランケンシュタイン式人造人間、F兵器。「黄金の薔薇」は各支部の支部長の科学者としての専攻分野によって装備兵器が異なり、機械工学と地脈エネルギーの研究を行っていた北米支部ではバリスタスとの交戦に大電力跳躍システムやオルゴン砲が投入されたが、生化学を得意とするらしい日本支部の主力がこのF兵器である。
「うおおおっ!」
ソルブレイン、ウィンスペクター、エクシードラフト各部隊必死に応戦するが、いかんせん本来レスキューないし対通常犯罪者用の、戦闘を想定していないパワードスーツでは宇宙刑事のそれと違い大した戦闘力を持ち得ない。
「ぐおおおおおおおっ!!」
「うわっ!」
巨体、そして生身の人間の数十倍の効率で稼動する蘇生強化筋肉から繰り出される怪力は、食い下がろうとするレスキューポリスを一方的に叩きのめしていた。
機動刑事ジバン、そして後継として開発され超人機メタルダーや戦隊系の技術を盛り込んでさらに強化した特捜ロボ・ジャンパーソンの二人はまだ対抗しているが、十数体のF兵器に囲まれてはいつまで持つか分かったものではない。
「くっ、せめて開発中の戦闘用強化装甲服・G3システムが量産化、いやせめて一体でも完成していれば・・・」
歯噛みする長官。
そこに、「黄金の薔薇」の部隊が迫る・・・!

「キュキューーー!」
「ガァァッ!」
「ライーーーノーーーーッ!」
その間に割り込むように、黒い閃光が走る。攻め寄せてきた黄金の薔薇の小隊を横から急襲した部隊は、明らかに改造された人体にしか出しえない速度を有していた。
名前の通りシャドーと同じゴキブリをベースにジャガーを合成した改造人間ゴキブリジャガー、そしてデストロン式機械合成で、強力な電磁石を武器として埋め込んだ犀の改造人間マグネライノを主力とした、秘密結社Qの部隊だ。
「秘密結社バリスタスならび諸同盟軍!日本国総理大臣折原のえるとの盟約に基づき、助太刀します!」
先頭のQの部隊が「黄金の薔薇」と接触したのを見計らって、きっどが叫ぶ。のえるは話をつけたといっていたが、万が一にも衝突が起きてはたまったものではないという念のためだ。
「ぬうっ・・・!」
しかし、攻撃こそしてはこないものの特甲長官の表情は険しいままだ。やはり、秘密結社の手を借りるのは癪なのだろうか。
と、きっどが思いかけたとき、傍らに立っていたQの幹部、レイジが呻くように呟いた。
「お、オヤジ・・・!」
「え?」
びっくりしてレイジの、竜を象った鎧から露出した顔を見る。驚きと、嫌悪と怒りの相。特甲長官の浮かべているそれと、近い。
きっどが何か聞くその前に、今度は長官が怒号を発した。
「京介、貴様!まだそんな馬鹿な稼業を続けているのか!この馬鹿息子がぁ!」
「馬鹿馬鹿うるせえぞ糞オヤジ!てめぇこそいい年ぶっこいて何前線に出てきてやがる!てめえの無能の結果そんなにおいつめられてんのか!?」
ぎゃんぎゃんと罵りあう二人を見比べながら、きっどはシャドーローズに恐る恐る尋ねた。
「あの、シャドーローズさん、あの二人って・・・」
「ええ、お察しの通り親子なんです。レイジさんの本名は西村京介・・・特甲の西村右京長官の息子ですわ。」
父親が治安維持のため戦う特甲の長官で、息子が悪の秘密結社の幹部・・・
「あまり仲がよろしくないみたいで・・・」
「よろしくないどころじゃないと思うけど?」
呑気なシャドーローズの言葉に、思わず突っ込みを入れざるを得ないきっどだった。
「なんだとぉ!ええいそこに直れ、「黄金の薔薇」より先に貴様を片付けてくれるわっ!!」
「それはこっちの台詞だバカオヤジ!おいゴキブリジャガー、マグネライノ!目標変更だ、あいつらを叩き潰せ!」
「って、待って待って!」
流石にそれはまずい、とばかりにきっどが慌てて止めに入った。シャドーローズがレイジを長官から引き離し、怪人に待機を命じる。
そのまま今度は味方にも内紛が飛び火する危険もあったけど、それはなかった・・・と言うかその暇も無く「黄金の薔薇」の部隊が攻めかかって来た。
「うわっ!?」
しかし、この隙は致命的なものとはならなかった。攻めかかった黄金の薔薇戦闘員が紫電を放つ前に、逆に雷撃の弾丸が戦闘員達を吹き飛ばしたのである。
「まったく・・・何をやっておるのだ!」
見掛けの年齢と比べてやや大人ぶった口調、金髪の悪魔少女ミルキィだ。単純な放電ではなく球電状にして炸裂させるとは、割と高度な魔術を使う。
同時に、瑠玖羽も動いていた。腕でもあり羽でもある姿に変じた髪を羽ばたかせて敵陣へ突入すると、その羽腕と手に持った(シャドーの顔面をどついた)モーニングスターで敵をなぎ倒す。
「ええい、F兵器ども何をしている!あの小娘どもを叩き潰せぇ!」
「きゃ・・・!」
と、前線に出た瑠玖羽をレスキューポリスを蹴散らしてやってきたF兵器が捉えた。太い腕の一撃を羽腕で防御する瑠玖羽だが、激しく吹き飛ばされてしまう。
「瑠玖羽!!」
咄嗟にミルキィが雷弾で援護するが、そこに隊長クラスの戦闘員が襲い掛かった。単分子ワイヤーが銀の雨のように大量に、ミルキィの体を貫かんと襲い掛かる。
「ちい!」
咄嗟にきっどがミルキィを抱きかかえて跳躍、単分子ワイヤーの雨をかわす。
「もう、そんなことしている場合じゃないでしょうレイジさん!」
シャドーローズの言葉に、流石にレイジも正気に返る。
「わ、わかった!ゴキブリジャガー、突撃!瑠玖羽を援護した後、ウィルスシャワーで敵をけちらせっ!」
「ジャガアアアッ!」
その叫びに乗るように、ゴキブリジャガーが背中の羽を開いて飛んだ。ゴキブリの因子を色濃く受け継いだその姿は、はっきり言うと気色悪い。思わず怯む「黄金の薔薇」戦闘員を蹴散らすと、瑠玖羽の退路を開いた。
「ありがとう・・・!」
瑠玖羽はいつもの小さな声だが、はっきりとゴキブリジャガーにそう言って後退した。彼女は魔族、ゴキブリジャガーがいくら異形であっても、異形を見慣れた彼女の心に恐怖は無く、人として正しき対処をする。
「ウィルス・シャワアアアア!」
同時にゴキブリジャガーの黒い装甲のスリットから、大量の猛毒細菌が噴射された。獰猛な笑みを浮かべながら、ゴキブリジャガーは言う。
「ふふっ、この細菌兵器はあまりの強力さゆえに最初は俺自身も耐え切れなかったが・・・肉体を強化しゴキブリと合成手術を行った結果、最近平気(さいきんへいき)ジャガ!」
猛々しい雰囲気とは裏腹に、ジョークだったらしい。思わずずっこけかけるきっどだが、その暇は無い。シャドーほどではないが彼も知覚能力は相当高いのだ。
「レイジさん、まだ!そっちの路地裏からもF兵器が三・・・いや四体!」
「分かった!マグネライノ!」
「ライ〜ノ!」
きっどが状況を的確に把握し、Qの怪人の戦闘力をしっかり理解したレイジが命令を下し、怪人がそれに答える。
マグネライノの腕につけられた巨大電磁石が、周囲に散乱した特甲の楯や装甲服の欠片など金属を一気に磁力でかき集める。その腕を敵出現の予測ポイントにむけ、照準。
「ぐお・・・!」
「マグネットブロォ!」
それをレールガンの要領で現れたF兵器の群れに一気にたたきつけた。流石に巨体を転倒させるF兵器。
しかし流石にしぶとく、起き上がろうとする。
「今です、皆さん!」
シャドーローズがQの戦闘員、魔族、それだけではなく特甲の面々にも呼びかけた。言われなくても、わだかまりがあっても、チャンスは理解できる。
雷電が、弾丸が、ロケット砲が、一斉に火を噴いて意志を持たず暴れまわる死体を焼き払い止めを刺した。
「けっ!どうだオヤジ!ちったぁ感謝しやがれよ!」
「何を!今のトドメをさしたのはワシら特甲!まだまだ負けてはおらんわい!」
また怒鳴りあうレイジと長官だが、先ほどよりかは刺々しさ、致命的なまでの対立は見られない。むしろ互いに相手に戦果で劣るまいと発奮しているようだ。
いい調子になってきた、何とか状況を持たせられそうな気配に、きっどはほっと・・・
する暇も無く、直上に向けてギロチンハットを放つ。

キィン!

硬く澄んだ鋭利な金属がぶつかる音。きっどのシルクハットに今まさに大気レンズを作り出そうとしていたリングが弾かれ、ワイヤーで持ち主のもとに戻った。
屈強な体格をした、褐色の肌に赤毛の女。
「は、やっぱ気づいたかきっど!」
黄金の薔薇実働部隊きっての使い手、「閃光」の異名を持つ女戦士リタ=ヴァレリアの顔に、好敵手に向けられる猛々しい笑みが宿る。
「リタさん!」
「さん付けするなっての!」
マントを翻してきっどは跳躍。大規模な技を封じようと一気に間合いを詰める。しかしリタもその手を読み、一直線に迫るきっどをかわすと再びリングを繰り出す。
「黄金の薔薇」とバリスタス同盟軍の戦いは一気に加熱していた。

キュドォォォォン!
ババババババン
ズズーーーーーーーン!

地下遊園地に、爆音が何度も木霊し、倒れる柱や崩れる施設の振動が空気を振るわせる。
迫り来るはローゼンクロイツの三人の実働部隊幹部と、それが操るサイボーグ人造生物・アルヴァタール。動物に精霊が降りた状態を示すサンスクリット語で呼称するあたり、ローゼンクロイツの魔術性が伺えて来る。
しかしそれを操る三人、戦闘の無い間に行った情報収集、と言うか電脳組から聞いた話では前回最初に現れたケルベロスを操るブラッドファルコン、以下スケルトンを操るデスクロウ、コカトリスを操るダークピジョンら三人の女からは、そのような一種の魔術が備える神秘性は感じられない。だがその代わりに、激しく燃えるものがあった。
気迫だ。それぞれ実年齢では二十代前半、大学生くらい、最年少のダークピジョンは高校生ほどで、人相なども一見毒々しいほどに派手なマスクや衣装を別に知れば普通の民間人と大差ないが、その気迫の鋭さ激しさは、前に現れたときの彼女達と比べても別物だ。
「喰らい尽くせ・・・黒曜!!」
シャドーが叫びとともに胸部装甲を開き、その内部にひしめく全身が腐食毒に満ちた刃となっている人食いゴキブリ・黒曜の大軍を解き放つ。
「スケルトン!」
しかし襲い掛かる黒曜を、デスクロウの命に従ったスケルトンが軟体を薄く広げ、膜のようになってからめとった。同時にコカトリスが、その上へと飛び上がる。
「コカトリス!拡散粒子弾、撃てっ!」
両翼から放たれた拡散粒子弾が、丁度ゴキブリほいほいに引っかかったようにスケルトンの体の表面でもがく黒曜を一網打尽に焼き尽くす。スケルトンも若干のダメージのようだが、構わず突撃を再開する。
「撃てっ!撃てっ!撃てっ!あの小娘どもを、ディーヴァを、パタPを、皆纏めて焼き尽くせぇぇぇっ!!」
「進め、進めェェェェ!」
「もはや、こここそ我等が戦場!我等が死に場所!退くな!どれほど損傷を受けてもいい、ただ敵に一太刀、一太刀なりと浴びせよ!」
ブラッドファルコンの絶叫とともに、ケルベロスが荷電粒子砲を連続発射。再びあたりが爆炎に包まれる。その最中を強引に突っ切って、コカトリスとスケルトンが再度突撃。
「ぬおおおおっ!?」
「きゃああああああっ!!」
シャドーの叫びと、ひばりの悲鳴が爆音にかき消されかけながらも響く。
「ふむっ、なんと言う気迫のこもった猛攻・・・以前交戦したときとは比べ物にならぬ!一体何が・・・!」
驚嘆するシャドー。反撃とばかりにディーヴァの一体、かもめが召喚した「アンフィトルテ」が、背中に背負っていた武器を遠距離用のレーザーランチャーにセットし発砲、同時にケロン軍も反撃の銃撃を放つがその勢いはいささか乏しい。
その弾雨を強引に突破し、コカトリスが鋭い爪を光らせてつぐみに掴みかかる。あの鋭い爪と改造生物の力なら、女の子一人ミンチにするのはたやすいだろう・・・今まではディーヴァ奪取のために動いていた彼女達だが、今回は明らかに「殺すつもり」で動いているのが感じられた。
「させません!」
と、間に既に魔術戦闘服「オルダナティヴ・ゼロ」を着装した香川教授が割って入った。左腕に装備された機械のスリットに、ベルトから抜き出したカードを一枚滑らせる。
「ソードベント」
無機質な合成音の声が、機械から発せられる。と同時にカードが青い炎となって消失し、その代わりに香川の手には一本の、鋸のように棘でぎざぎざがついた剣が一本握られている。それで、ぎりぎりのタイミングでコカトリスの爪を弾いた。しかし直後に今度はスケルトンがその腕を伸ばして香川を弾き飛ばした。
「ぐむっ!?・・これは、少々厄介ですね。シャドーさん、一旦奥へ!」
「分かりました!」
香川の提案をシャドーは勘案し、素早く承諾する。このボトム・ザ・ワールドは物凄く広いから、一旦待避するにしても場所には事欠かない。
それに、そうせねばならない事情というものもあった。
すらり、と香川はもう一枚のカードを引き抜き、スリットに通した。
「アドベント」
合成音とともに現れたのは、今度は武器ではない。人間と同じような二足歩行ながら、明らかにそれとは異なる、いや恐らく命あるものとも異なるのであろう、人造魔獣とでも言うべき存在。銀色のメカニカルな昆虫とでも言うべき姿だが首と胴をつなぐように生えた触角ともチューブともとれない何か、そして目も口も無くただ九つの穴が開いただけの顔面が、異形感をかきたてる。
「サイコローグ、二人を運びなさい。」
香川の命令に従う人造魔獣サイコローグは、ひょいとばかりにその機械じみた両腕でひばりとすずめを抱えた。同時にシャドーがかもめとつぐみを抱きかかえる。
その後を守るように再び展開するケロロたちと、アンフィトルテ・・・ディーヴァは、その一体だけ。
「ちっくしょう!俺たちも自由に召喚できたら!」
悔しげに呟くつぐみ・・そう。今まではピンチになると殆んど自然にディーヴァが出てきていた、のであって、自発的意思でもってディーヴァが召喚された例はむしろまれなのだ。大阪でディーヴァについて祖父から学んでいたかもめは自力でディーヴァを召喚できるのだが、他の三人はそうは行かないらしい。
これでは、彼女達を守ると言う本来の任務を全うするために、ゴキオンシザースにしてもオルダナティヴ・ゼロにしても完全に実力を発揮し切れない。故に、一旦体勢を立て直す必要があった。
「逃がさないわよ!ケルベロス、荷電粒子砲発射!」
「コカトリス、ケルベロスの射撃にあわせて!!」
だがその背後に、まさに絶妙のタイミングで放たれた攻撃が、今までで最大規模の爆発をもたらした。
「うおああああああああああああっ!?!?」


「あっ、れ・・・・!?」
爆発で僅かの間気を失っていたひばりは目を覚まし、きょときょとと周囲を見回した。
それまでと今の後継が、あまりにも分断されてしまっているが故に。暗い、かすかな照明しかないがらんとした場所。そして・・・誰もいない。
「えっ、皆どこ!?」
慌てて周囲を見回すひばり。不幸中の幸いかデンスケはすぐ近くにいたが、うまくディーヴァを召喚できないのでは、このいつ敵に襲われるのか分からない現状ではあまり頼りにならない。
そして・・・!

そして、とひばりに起きたことと同時に、ひばりとはぐれた他の電脳組とバリスタス連合軍は、これもまた困難な状況・・・ローゼンクロイツに捕捉され、総攻撃を受けると言う目にあっていた。
互いにそれほど離れていないながらも入り組んだ地下の、遊園地として機能していたころにはグッズなどを売る店がアーケードをなしていたのであろう区画で、それぞれに分断され戦う。
すずめとそれを守るオルダナティヴ・ゼロがデスクロウ操るスケルトンと、つぐみとケロン人軍がダークピジョン操るコカトリスと、そしてかもめは召喚したアンフィトルテでブラッドファルコンのケルベロスと戦っていた。

「ええいっ・・・あかん!」
アンフィトルテを戦わせるかもめだが、最初から劣勢だった。
そもそもシャドーたちがたどり着くまでの間、三体のアルヴァタールをたった一体で食い止めていたアンフィトルテは、既にぼろぼろである。普段なら一対一でケルベロスに遅れをとるなどありえないのだが、これだけ損傷しては動きも鈍り、手も足も出ない。
「うおおおおおっ!!」
そして、それに加えて敵は今回は特に気迫を込めて・・・捨て身といっていいほどの勢いで襲い掛かってくる。そのことが少女の心に恐怖を生んでいた。
「なっ、何でや。何でこないな・・・」
「ふっ・・・」
怯えるかもめに、ブラッドファルコンはふと暗い笑みを浮かべた。
「教えてあげようかしら?それはね・・・」

「ぬわああああああっ!?」
ズバババババン!
クラスター爆弾を連想させるが、破壊力ではそれよりもはるかに高効率な拡散粒子弾が、小さなケロンの戦士たちを木っ端か何かのようにふっとばす。
「く〜っく、やばいねこりゃ。」
皮肉屋のクルル曹長が思わず呟く。事実ケロロ小隊とアルバタール・コカトリスでは戦闘能力に差がありすぎ、まともな戦闘とならないのだ。
クルルの超音波攻撃は効果を表さず、加速能力と気を僅かながら操れるタママが格闘戦を挑むが高速で飛ぶコカトリスの大質量に弾き飛ばされ逆にダメージを負う。それでも何とか兵器を山ほど背負ったギロロ伍長がコカトリスの背中に飛び乗り、至近距離から猛射を加えるが、相手を破壊するにははるか至らない。
「ふん・・・」
その様をいかにも楽しそうに見やり、薄笑いとともにダークピジョンはアルヴァタールを指揮する剣のように鋭く細い杖を、つぐみに叩き付けた。
「あうっ!!」
叩かれた足に赤いあざを作り、転倒するつぐみ。そこにさらに激したダークピジョンは二度、三度と打ち据える。
「このっ!このぉっ!!あんた達のせいでっ、あんた達のせいでっ!私達・・・!」
叫びながら、ダークピジョンは泣いていた。激しく杖を振り回すたびに、大きくパッチリとした瞳から涙がこぼれる。
「私達、シューティングスター様に見捨てられてしまった!私達はただ、あの人のために生きていたかったのに・・・!それを!アンタたちが!全部!ぶち壊してくれちゃったのよぉぉっ!!」
そう。三人の女をかきたてたのは、想いを奪われるという痛みと憎悪。
「痛っ!痛い!やああっ・・・!」
その本人すら制御を失った容赦の無い打撃に、つぐみは泣き叫ぶ。格闘技の鍛錬を積んでいる彼女は本気で抵抗すれば武器を持っているとはいえただの生身のダークピジョンとならある程度やりあえたかもしれない。だが初めて接するほど強烈な女の怒りに、萎縮してしまって反撃できずにいた。
しかし、それでもそんな彼女を守ろうとする者がいた。
ケロロ軍曹である。
「邪魔よボケガエル!どいてなさい!」
「ど、どかないであります!」
武器を失い、ダークピジョンに蹴り飛ばされ踏みつけられながらも、ケロロ軍曹はダークピジョンにすがりつき、その手を離そうとしない。
「ええいっ、このぉ!」
ぶんぶんと足を振り回し、ケロロをコンクリートの壁に叩きつけるダークピジョン。しかしそれでもなおケロロは食い下がる。
「一寸の虫にも五分の魂・・・ケロンのど根性、見せてやるであります!」
「な、何で・・・」
その様子を見て、それまで半ば自失の体であったつぐみが、口を開いた。
「何で、そこまで・・・」
その問いに、ケロロは答えなかった。戦場の刹那に答えるには、あまりにも難題だった。
のえるとの盟約、つぐみへの友情、バリスタスとの計画、母星の未来、仲間達との絆・・・あまりに、その理由は大きかった。自分のためでもあり、つぐみのためであり、国のためでもあり、そして、そして・・・
「・・・・・っ!」
ばしっ!
「なに!?」
それまでと違う音、違う手ごたえ、違う反応。
突然自分の振り下ろしたステッキを受け止めたつぐみに、ダークピジョンはアイマスクの下の目を見開く。
「へっ、へへ・・・そうだよな・・・理由・・・あんた達ローゼンクロイツにも、ケロロ、あんたにもあったんだな・・・」
そのままじりじりと押し、立ち上がるつぐみ。その目は先ほどまでの怯え震えるそれではなく、きりっと相手を見据えている。
「だけど・・・俺にも!平和に、こんなわけもわかんないまま狙われて襲われる戦いを終わらせて平和に生きたいって、そんなちゃちな願いだけど・・・せいぜい、好きな歌手のはとぴょんみたいになりたいなんて漠然としたことしか考えて無くても、あたしたち電脳組も、あたし達の未来のために・・・戦ってんだよっ!」
「えっ・・・!?」
驚きを思わず声に出すダークピジョン。その理由を知ったら、つぐみも驚くだろう。まさか彼女が大ファンのアイドル・代官山はと子のもう一つの顔こそが、アイドルと言う華やかさの裏の闇から逃れるためにローゼンクロイツに飛び込んだ女・ダークピジョンだ、などと知ったら。
だがそれをつぐみが知るのは、ずっと後・・・この戦いを、戦い抜いた後のこととなる。
そしてつまり、戦いを生き抜く力が、ここに。
「来い・・・アテナァァァァッ!」

「むおっ!ぬっ、く!」
変幻自在のスケルトンの軟体触手に、流石のオルダナティヴ・ゼロも対応しきれない。ソードベント・スラッシュダガーを構えて防御しようとしても、その構えを潜り抜けて確実に当ててくる。
「ふふ、はははははは!いけ、いけ!我等の思いを、われらの願いを幸せを、正義の名もて砕くものを、逆に砕き喰らい尽くせ、スケルトンッ!」
いささか芝居がかった仕草と台詞回しの裏に、それだけ激しく心を燃やしてデスクロウとスケルトンが征く。その猛撃に押し捲られながら、香川は何故だか恐れも、怒りも、闘争心も抱かなかった。
むしろ、その心中は共感に近いかも知れない。彼女達の憤りも悲しみも、悪を名乗らざるを得ない者に付きまとう、すなわち香川たちQや銀河連邦に反旗を翻したケロン人たち、そしてバリスタスにもあるものだから。
「別に、私達は正義の味方ではありませんがね。」
「邪魔をしておいて何を!」
そして、ここに矛盾が生じる。バリスタスは正義の味方ではない、むしろそれと敵対している、だが自分たち自身の世界征服を行うためにのえると盟約を交わした、が故に正義の立場をとっていたアキハバラ電脳組を守って戦わなければならないという。
しかし、現に香川が後ろに庇うすずめは、普段の気丈な様子が剥げ落ちて、デスクロウの狂的なまでの気迫に押し込められたようにへたり込み、怯えている。これを見捨てると言うのは盟約を云々するよりも後味が悪い。
「ふむ。私も昔は多数のために一つを犠牲にすることを勇気だと思っていましたが・・・今は違います。」
ふと、香川は笑った。昔の自分を思い出してか、今のこの眼前に広がる状況をか。
「全てを求めよ、それこそが覇道・・・総統Qはそうおっしゃって下さいました。」
ギュバッ!!
「な・・・なに!?」
それまでは防ぐことも出来ないでいたスケルトンの触手を、突然香川が切り落とした。同時に、それまで窮地だったように見えた香川が語りだす。
「私は少々特殊な能力を持っていましてね。一度見てしまったものを、写真にでもとったかのように克明に覚えてしまうのですよ。この力のせいで忘れたいものも忘れられずに苦労をしましたが・・・」
「ええいッ、それがどうした!」
焦燥を感じさせる声で香川の話を遮り、再びデスクロウはスケルトンに攻撃させた。しかし。
「こと戦闘においては、切り札ともなります。そう、私は覚えてしまうのですよ。例えそれが相手の攻撃パターンでも!」
再びスラッシュダガーがスケルトンの触手を切り裂いた。
「く・・・舐めるな!まだ勝負は決まったわけではないぞ!」
しかし尚、デスクロウは叫び、そしてその言葉は事実だった。
「ふむ・・・確かに。私だけの力では、受けるのが精一杯というところですね・・・!」
スケルトンはシューティングスターのサイクロプスを含めた四体の中では最も小型だが、それでもその体躯は2mをはるかに超える。オルダナティヴゼロの力では両手大剣のスラッシュダガーを全力で振るい人造魔獣サイコローグの力を借りても、その攻撃を受けるのがやっとの有様だ。
相手の攻撃を受けて、受けて、受けて、反撃の機会を作ることが出来ない。そしてこの状況では、疲れ知らずの機械であるスケルトンが有利。
それでも敵の攻撃を受け続ける香川の背中が、すずめの目に映っていた。
そして、その目に映像が定着し、それが染み入っていくのに押し出されるように、恐怖の、怯えの色が消えていく。
変わって普段の、いや普段以上の、矜持と意志の力が戻ってくる。
魔術戦闘服の顔の大半を占める複眼部分の広い視界の端にそれを捉え、香川はまた先ほどとは違う笑いを漏らした。
(やれやれ、私としたことが仮面ライダーの・・・希望の役の真似事をしてしまうとは。これではあのお嬢さんの罵倒にも反論できませんね。しかし・・・悪くは無い。)
そして、すずめのパタP・フランチェスカが、その心の動きを捉え、光の柱に包まれた。
ディーヴァ・ヘスティアを召喚するために。

「うっ!?な、何やってんのよ・・・ええいっ!!」
売店の向こうから立ち上る発光現象。始まってしまった召喚に、思わず焦りを見せるブラッドファルコンだが、すぐにその焦りは消えた。他の二人の場合は確かに窮地でそれはまずいが、自分の目の前にいるアンフィトルテは既に満身創痍。
ならばともかく、ここでこいつを倒してしまえば。
「っ、きゃああ?!」
しかし直後、その目論見はアンフィトルテにのしかかっていたケルベロスもろともひっくり返った。アンフィトルテが、その傷ついた腕でのしかかるケルベロスを弾き飛ばしたのである。
「なっ、なっ、なっ・・・」
あまりのことに言葉も出ないブラッドファルコン。何故、あそこまで傷ついて、無傷のときと変わらぬ力・・・いや、それどころか、普段以上の力を出せるのだ、という驚愕が脳を白く焼く。
慌てて身を起こし、そしてブラッドファルコンは見た。普段は人形か何かのように無表情なディーヴァの顔に、何か、本当に僅かだが、意志の力のようなものが垣間見えた。
そして同じ顔をもつ少女、かもめには、さらに強く。
「そっか・・・皆、まだまだガンバッとるんか・・・ほなら、うちも負けてはいられんなぁ・・・!」
(まさか、これが、シューティングスター様が、ローゼンクロイツがディーヴァを求める理由の・・・)
その、ほんの一片を、確かにブラッドファルコンは見た気がした。
そして、かもめが叫ぶ。
「いくでぇっ!うちのアンフィトルテェェェェッ!!」


一方シャドーは、ボトム・ザ・ワールドの中を奥へ奥へと進んでいた。別に直感だけで行動したのではない。既にこのときシャドーの触角が近場で行われている通信をキャッチしていたのだ。かなり高レベルの圧縮暗号通信だが、傍受できないほどではない。
シャドーは触角を長く伸ばしてそれを捉え発信源へ向かうと同時に、既に都内数十箇所に配置しておいた、量産型ナノマシン集合体スパイロボットと接続。通信相手の場所を特定する。
この場から通信を行っていた相手は、直接自分の目で確認する。黒い、飾り気の多い貴族的な服を纏った仮面の少年、シューティングスターだ。そして、スパイロボットを使って特定したその通信相手は・・・
(・・・これは・・・アキハバラ第三中学校?)
それは、はっきり言って物凄く意外な場所だった。アキハバラ第三中といえば、電脳組の面々が通っている中学である。のえるたちはまた別の中学校のようだが、ともかく恐らくアジトと思われる場所と交信しているらしいシューティングスターの様子からは、まるで想像できない。
スパイロボットを操作し校舎向かいのビル屋上から、さらに詳しく観察させ、その視界にアクセス。
精密な電波の発信源は、アキハバラ第三中学校校長室。そこで、窓から外を眺めながら校長らしき男が話していた。一見ただの電話にしか見えないのだが、それでこの圧縮暗号通信と言うのだから中々の偽装ぶりである。
左右に伸びた口ひげとあわせるような側頭部でくるっと二房髪がはねる独特の髪型に丸眼鏡。やや妙な風体だが紳士然と構えている。
(ふむ・・・)
と、シャドーがさらに調査を行おうとしたとき。
「!?!」
突如、スパイロボットの機能が停止した。接続していた意識まで壊れそうになるのをこらえ、慌てて意識を体に戻す。
(破壊されましたか。)
接続が途絶える一瞬前、スパイロボットの視界に超音速で迫り手甲から逆に生えた刃を振りかざす何か、ディーヴァに近い人型の影が写っていた。ローゼンクロイツは組織としては「黄金の薔薇」と比べると随分小さいようだが、それでもまだ戦力があるらしい。
とはいえ、それどころではない。通信を傍受していたのが発覚したのだから・・・
「誰だ!」
当然、もう一方の通信者も気づいたということ。
シューティングスターが素早くシャドーのいる方角に叫び、持っていた鋭く尖ったステッキで地面を指す。同時に杖を指標とした電送転移装置が作動、その場にモノアイと四本の腕を蠢かせる、サイボーグの巨人サイクロプスが現れる。
「ふむ、ばれましたか。」
悠然と構えながら、シャドーも柱の影から姿を現す。今の転移もやはりアキハバラ第三中学校から行われていることを確認したが、その情報とてこの場を切り抜けなければ活用は出来ない。
「我等ローゼンクロイツの秘密を探ろうとは、いい度胸だ・・・だが、許すわけには行かない。」
「ふふ、度胸と言うならば貴方には負けますよ。あれだけ必死に頑張っている部下を切り捨てようというのだから・・・いやはや、大したものです。」
シューティングスターの言葉に、さらりと皮肉を返すシャドー。
しかし、残念ながらその言葉は的外れなものとなった。
「切り捨てる?そんなつもりは無い。彼女達もまた栄光あるローゼンクロイツの一員。今回はただ彼女達とアニマムンディに、同時に活を入れただけのこと。」
そう言うと、フェンシングのエペのようにステッキを構え、切っ先をシャドーに突きつけるシューティングスター。
それに従うように、サイクロプスが低い唸りを上げた。
「これより私は部下達を連れ戻しに行かねばならない。雛鳥はもはや目覚める寸前まで来ている、メタトロンの覚醒も同じ。もはや今回の作戦は達成された。」
「ふむ・・・なるほど、そう言うことなら。」
あっさり、シャドーは引き下がることを決めた。本当にシューティングスターが彼女達を見捨てるのならともかく、自分と同じくこの戦いを一旦分けることが目的だと言うのなら、今争っても益は無い。
それと同時に、「雛鳥が目覚める」という彼の言葉も気にかかった。そして、「メタトロン」。天使の長、宇宙の全てに動きを与える第十天、プリムムモビーレを操る天使の名だが、今シューティングスターはそれを明らかに別の意味で、恐らく何かの秘匿名称として使用している。そしてこの態度や作戦行動から察するに・・・
(ローゼンクロイツは、本気でアキハバラ電脳組を倒すつもりは無い?・・・むしろ、その成長を臨んでいるのか?)
もしそうだとしたら、そのような戦略があるのだとしたら、このような戦いに勝っても勝利とは言いがたく、むしろ敗北にそれは近いのかもしれない。しかし、だからといって電脳組を見捨てて敗れさせるわけにもいかない。
「ふっふっふっふ・・・面白いですね、貴方がた、中々読みづらい・・・ふっふっふ・・・」
内心の焦燥を押し隠し、シャドーは余裕を装って笑いながら姿を闇の中に隠した。
と!?
ズガァン!
「んな・・・っ!?」
突如背中に衝撃を受け、シャドーは弾き飛ばされた。幸い損傷していなかった羽を震わせて姿勢を制御、慌てて振り返り何事かを確認する。
そこにいたのは、ある意味ローゼンクロイツよりも「黄金の薔薇」よりも異質な集団。
「遊園地の仕掛けと、作業用メカ!?」
シャドーの言葉どおりのものがそこにはあった。この閉鎖遊園地ボトム・ザ・ワールドのマスコットキャラやお化け屋敷の怪物のロボットなどと、建築作業用の自動作業機械がずらり並んで、そして攻撃を仕掛けてきたのだ。溶接用火炎放射や腕による殴打など一見機能そのままのように見えるが、しかし明らかに改造された高い殺傷力・破壊力。
ローゼンクロイツの罠か、と判断したシャドーは飛びのくが、あにはからんやそうではなかった。
「何っ・・・!何だか知らぬが、下らん小細工だ。やれ!サイクロプス!」
ローゼンクロイツの幹部たるはずのシューティングスターもまた驚き、それらを敵としてサイクロプスに攻撃させたのだ。
両肩からケルベロスのそれ以上の出力を誇る荷電粒子砲を放つサイクロプス。改造されているとはいえ所詮作業用メカと遊園地のロボット、あっというまに砕け散るが。
「待て!」
シャドーがそれを制止する。一瞬仮面の下に「何で指図をされねばならない」という表情をシューティングスターは浮かべるが、直後に気づく。
その謎の暴走機械たちの真っ只中に、ひばりがいたのだ。
「なっ、ひばりさん・・・危ないですよ!」
「いかん!」
叫ぶシャドー。そしてシャドーの考えを裏付けるかのように、敵であるはずのひばりを助けようとシューティングスターが駆け出そうとする。
しかし!
「デンスケ・・・いくよ!ディーヴァ・セットアップ!」
「これは・・・・・!」
地下遊園地の天井を突き抜けて立ち上る、光の柱。それを分析しようとして、シャドーは驚嘆の声を漏らした。
ディーヴァのエネルギー源であるニュートリノの収束、同時に空間の転移が起こっている。ティーヴァ召喚時特有の現象らしいのだが、それにしても・・・
「転移元を特定できない!?馬鹿な、バリスタス有数の探査能力を持つ私の能力を持ってしても見通せないステルス・システムだと!?」
ディーヴァが送られてくるその場所を突き止めれば、その謎も解明できるかと思っていたのだが、ゴキオンシザースに装備されたあらゆる探知システムをフル稼働させても、アルヴァタールの場合と違ってその場所を特定することが出来ないのだ。
「ううむ・・・ますます興味深いですね、ディーヴァ!!」
科学者らしい感嘆の唸りを上げるシャドー。その間に出現したディーヴァ・アフロディーテは周囲の暴走機械どもを一瞬で蹴散らしてしまう。
「ひばりさんっ、あなた、ディーヴァ召喚を自力で・・・!?」
「うんっ、その、何かさっきあっちで、これと同じロボットと戦っている人・・・多分サイボーグだと思う・・と、ケロちゃんたちと同じようなかっこした宇宙人にあって、それで何ていうか励まされて、いや、直接言われたってわけじゃないんだけど・・・」
暫くもたもたと言葉を選んでいたひばりだったが、その顔は晴れやかだ。
今はそれだけでシャドーは知識欲を満足させ、探求を控え代わりにせかす。
「ともあれ、急いで合流せねば。他の皆が危ない。」
「うんっ、あ、でも・・・」
と、返事をしながらも、ひばりは僅かに考え、そして少し笑った。
「?」
「きっと皆、大丈夫・・・皆なら頑張ってる、そう思うんです。」
(ほ)
軽く笑うシャドー。なるほど、ある意味ではあのあくの強いメンバーを纏めるのは、彼女のような純朴と言っていいほどのタイプが、適しているのかもしれない。
そして、その言葉は、当たった。

「いっ、けぇぇぇぇっ!アテナ!」
「今までのお返しをさせてもらいますわ!」
「よっしゃ、アキハバラ電脳組勢ぞろい!アンフィトルテ、反撃のチャンスやで!」
そして、ディーヴァたちの、アキハバラ電脳組の反撃が始まった。

伸びるスケルトンの腕を、アンフィトルテのレーザーソウが焼き切る。普通の傷ならあっという間にくっつけてしまう軟体も、熱で傷口を封じられては再生不能だ。

放たれるケルベロスの荷電粒子砲を、ヘスティアの楯・斥力場フィールドが受け止めた。爆発させること無く、空間を楯の表面で歪めて受け流す。そのまま一気にダッシュして、空間湾曲を秘めた楯でケルベロスの巨体を弾き飛ばす。

そしてアテナも。大出力による格闘以外に武器が無いアテナは空の敵に対応できないかと思われたが、崩れたコンクリートの巨大な塊を、まるで砲丸のように投げつけて翼を破り、叩き落した。

「おお、逆転であります!」
「ふぅむ・・・」
感嘆するケロロ。確かにその通りなのだが、事実に反して駆けつけてきたシャドーの気は晴れない。この「勝利」すらローゼンクロイツの策の上かもしれないという可能性と、そして。
「おのれっ、おのれぇっ〜〜〜!」
「負けられない、負けられないのに!!」
「立て、立ちなさいよあんた達!立って、反撃しないと・・・・!」
逆転されたローゼンクロイツの女達、その姿にどうしようもないほどの憐憫と同情、共感を感じざるを得ない。
何故なら、それはシャドーたちの、バリスタスの、悪の、昔の姿。力を得る前の、「正義」の前になす術も無かったころの姿を思い出させるから。
「・・・むん!」
ピシィッ!
「きゃ!」
「わ!?」
憤りのまま、シャドーは斬刺触角ブラックロッドを電脳組の直前に叩きつけ、制止した。
「あ、危なっ・・・!何するですか!裏切るつもりでございますですか!?」
「勘違いしないでください。」
叫ぶすずめに、シャドーはやや冷ややかとも言える反応を返した。だが、説明はする。
「私達はあくまで貴方がたの撤収を支援しにきただけ・・・これ以上の戦闘は無意味です。」
「そうですね。事実相当この地下空間の構造は弱ってきています・・・早く逃げないと崩落して、ぺしゃんこですね。」
香川もそれに注釈を加え、撤退を促す。
「うん、分かった!皆!」
「あらほれま、それは大変ですます!」
「お、おう!」
「命あってのものだね、やしな!」
アキハバラ電脳組も素直にそれに従い、地上を目指し撤退する。ケロロたちもそれと同時に、彼女達を護衛するように一緒に後退する。
彼女達はあくまで普通の女子中学生、それは悪い意味にも作用することもあろうが、今この瞬間はかえって素直ないい意味に作用したようだ。
「ふむ・・・」
そして、ローゼンクロイツのほうも見れば撤退を始めているようだ。
「ブラッドファルコン!デスクロウ!ダークピジョン!」
「しゅ、シューティングスターさま・・・何故、ここに!?」
見捨てられたと思っていた主の出現に動揺するブラッドファルコンに、シューティングスターはふと微笑で答える。
「お前たちの覚悟、見せてもらった。ならば私も答えねばなるまい?」
「はっ、あっ・・・はい!あ、ありがたき幸せ!」
感極まる部下達を促すため、シューティングスターは率先して身を翻す。
「急げ、脱出するぞ!」
「はっ!」

わざわざその様子を確認してから、シャドーは撤退を開始しようと振り返り、そこにひばりの影を認めて一寸驚いた。
「な?貴方、早く逃げなさいって・・・」
「え、あ、はい!」
「今から走っても人間の脚力では間に合いませんよ。私のサイコローダーにお乗りなさい。」
ホイールベント、とカード読み込み確認の合成音声が聞こえたと同時に、オルダナティヴゼロに影のように付き従っていたサイコローグが一瞬でバイク型へと変形した。
香川がそれに跨り、後ろにひばりを乗せる。既にディーヴァからパタPへ戻っていたデンスケも、ひばりにちょこんとしがみついた。
「行きます!」
ゴキオンシザースが羽を広げ、サイコローダーのエンジンが唸りをあげる。
同時に、最後まで残っていた遅れを取り戻すべく両者猛スピードで走り出した。そんな最中でもシャドーの、そしてオルダナティヴゼロの耳は、ひばりの呟きを捕らえていた。
「そうだよね・・・あの人たちも、シャドーさんたちも、戦ってるんだよね・・・私達と、同じように・・・」
そして、変身後の仮面のような顔にも、僅かに笑みが浮かぶ。
感心か、満足か、希望か。

「私です、きっど君!こちらは撤収準備が整いました、早くしないとこの「ボトム・ザ・ワールド」全体が崩落します!支援を!」
「了解!」
シャドーからの通信に、即座に地上のきっどは答えた。
同時に、今まで戦いを繰り広げてきた眼前の女に詫びを入れる。
「ごめん、リタさん!また今度!!」
「なんだって!?」
相手の真意を測りかねるリタ。その目前できっどの白いタキシードのあちこちから、手品のように大量のロケット弾が発射される。
「しまっ・・・!」
咄嗟に身を捻りかわそうとするリタだが、かわすまでもなくそれは目の前で爆ぜ、
「煙幕!?」
大量の煙を吐き出した。
タイミングを合わせてほぼ同時に、戦場全域に飛んだロケットが一斉に発煙、周囲を白一色に染め上げる。
同時にシャドー・きっど両名が誘導電波を発振、それを受信したQの改造人間たちが瑠玖羽たちを連れ、シャドーたちが電脳組を抱えて、一斉に戦場から離脱する。
入り組んだ路地のアキハバラ、加えていずれ劣らぬ素早さを誇る改造人間達である。現場からの離脱は、煙が薄れるまでには行われていた。

(しかし・・・)
その最中、シャドーは考えをめぐらす。
(事前情報では内部に民間人がいるとのことでしたが、見かけませんでしたね・・・私が遭遇した謎の暴走機械、ひばりさんが遭遇したと言う謎の戦士とケロン人、あの騒ぎ好きののえるさんが現場に現れなかったこと・・・何か関係があるのでしょうね)

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