秘密結社バリスタス第二部関東編第三話 集結

「ふむっ。つまりバリスタスの皆は同盟関係にあるから当然知ってる、それで秘密結社Qの人たちも、やっぱりシャド君から報告は受けてたわけだ。じゃあケロちゃんたちの自己紹介は改めてしなくていいわね・・・」
「あの。」
「ってことは、ふむ。あたしもバリスタスについては前にあってからそれなりに風見長官とかに無理行って調べてもらってたのよ。だからこの場合」
「あの、ちょっと!」
「Qとロウレスの皆さんから自己紹介してもらって、その後に現状の再認識を・・って、なによもうシャド君。」
能天気な笑顔を浮かべるのえる。まるで悩みの無い、元気な笑顔だ。
「シャド君呼ぶな!!いやそうじゃなくて、何で貴方がイニシアティヴ握ってるのですか!!!」
そんなのえるの笑顔に、激発のあまり一瞬怪人形態に戻ったシャドーが食って掛かる。
ここは東京某所地下数十メートル、スペースチタニウム隔壁と様々なセキュリティシステムで何十にも防御された、反銀河連邦同盟「ネオバディム」ケロン星系軍地球基地。
その中央会議室だ。銀河中央スタイル、地球で言うならば1960〜70年代のSF映画みたいな内装で、様々な機能のついた円卓にケロン、アナローグ、ブラッチャー、そしてバリスタスの二人に秘密結社Qのメンバーと・・・

そこになぜか居る14歳女子中学生兼総理大臣・折原のえる。
「うちがこのアジトの上にあるから。」
きっぱりと彼女はそう答える。
「面目ないであります・・・」
がっくりとうなだれるケロン人部隊の隊長・ケロロ軍曹。地球来訪のごく初期の段階で彼らはこの家の住人に地球潜入がばれてしまい、それ以来止むを得ず共存路線をとっていたのだ。
「それにしても久しぶりねぇ、バスジャック事件の時以来ね。」
確かにそうなのだが、のえるの言葉にあえてシャドーは答えなかった。
かわりに、こちらから質問する。
「丁度いいです、聞きたかったことがありますから。・・・一体どうやって総理になったんですか?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!ある日、あたしの机の引き出しが開いて中から青いネコ型ロボットが・・・」
「ドラえもんかい!」
「嘘つかないでよ!」
奇しくも、声が重なってしまった。
どらえもん云々を言ったのはシャドーだが、嘘をつかないでといったのはバリスタスの関係者ではない。のえるの片側に居た、少し個性の薄い感じがするが優しそうなのえると同年代の少年だ。
シャドーはその人間のデータを記憶していた。のえると同じくバスジャック事件の時に出会った、長谷川健太とかいう筈。
そして、この間テレビでのえると一緒に出ていた。
「あぁ、健太君だね。のえる総理の秘書官にして婚約者の・・・」
「ああ〜〜〜〜っ!!」
そういった途端、健太は頭を抱えて座り込んだ。
「どうしたね?」
「秘密結社な人にまで、もう世界中隅々まであの嘘伝わってるのか〜!!」
「嘘?」
「酷いわ健ちゃん、あたしの愛は本物よ!ただ婚約なんてしてないだけで・・・」
「それを嘘って言うんだよ、のえる!」
割り込んだのえるのわざとらしい悲嘆と健太の突っ込みで、状況を理解したシャドーはそれ以上は聴かないことにした。
というか、こっちの問題にかまけてていつの間にか本筋の「どうやって14歳の少女がいきなり総理になったのか」を聞くのを忘れてはまずいという判断もある。
「ああ、それは俺が説明するさ。」
と、ややハスキーな青年の声。
しかし、シャドーが感知したその音声の発生源は、のえるの膝の上に座っている黒い猫から発せられている。
そして、僅かにだが漂う霊子の反応。アマダム搭載型改造人間である彼には、はっきりとそれが感じられる。
「下位次元族・・・貴方の力か?」
「いかにも。俺の名はメフィ、魔族だ。」
平然と会話するシャドー。仕事柄こういうことには慣れている。
「早い話が、これは人間と魔族の「魂の契約」だ。意味は分かるな?」
「ええ。魂を貰う代わりに願いをかなえる、あれでしょう?」
しかし目の前ののえるは、到底魂を抜かれたとは思えないほど元気だ。いやもう、魂の二、三個抜いてようやく人並みなのではないかと思うくらい元気が無駄にいっぱいいっぱいだ。
そのシャドーの胡乱な視線に気づいたのか、メフィはその綺麗な金色の目をしばたかせて、口ひげを撫でる。
「それが、色々あってな。のえるの奴最初は「世界を支配する王」になりたいと言ったのだが、現実に無い地位を与えることは出来ない。そしたら「内閣総理大臣でいい」と言われてな。その代わり魔力のほどを確かめるために、一ヶ月のお試し期間をつけろといわれて・・・」
今はお試し期間中というわけか。
内心後一歩で本当にのえるに先に世界を征服されそうだったことに冷や汗をかくシャドー。
同時に博士がのえるを重要視した理由が分かった気がした・・・が、実際のところとはまだ微妙に異なっている。
「うん、まぁ、そーゆーことで。」
にこにことのえるは笑う。
そしてその後、感慨深げに円卓につく面々を見回した。
「しっかし、宇宙人に魔族、そして改造人間にアルター能力者、世界征服を企む悪の秘密結社と、銀河規模の大宇宙戦争を戦う反銀河連邦軍!」
にやり、また笑う。
「私の総理としての器の大きさも、ここまで来ると大したもんだわね〜」
「冗談じゃないよっ!」
得意満面と言った様子ののえると、対照的に健太はよよと泣き崩れる。
「平穏な生活を返してよ〜・・・」
くす、とシャドーもその様子を見て笑う。・・・僅かも軽蔑が無いといえばうそになるかもしれない。だが、否定するつもりは無かった。彼は、我々とは違う。普通の優しい人間なのだ。争うことも血を見ることも嫌い、人を殺すなど考えたことも無い。
ついでに。
この家は長谷川の家で、折原家と仲の良かった健太の両親が、探検家の母と考古学者の父とわかれ単身帰国したのえるを住まわせてやっているという状況なのに、ここまで巻き込まれたらまぁ、かわいそうの部類には入るだろう。
(私なら、楽しいと思うでしょうけどねぇ)
「シャドー閣下、あの〜・・・私達・・・」
と、声がかかる。
振り返るまでもなく分かった。のえるに構いすぎて、きっどにQの面々について紹介するのを忘れていた。
「ああ・・・すいませんでしたね。どうぞどうぞ。」
ぺこりと頭を下げるシャドー。
「さて・・・私は秘密結社Qの科学顧問を勤めさせていただいております、香川秀行と申します」
と、どうやらこの場のQのメンバーの中では一番位階が上らしい、眼鏡をかけた温厚そうな教授風の男が立ち上がり、一礼した。きっどもつられるようにぺこりと一礼。
「私ども秘密結社Qは、現在まで関東、それも主にロストグラウンド近辺をその活動の舞台としていましたので、全世界的には知名度の低い存在とは思いますが、友邦バリスタスの大幹部シャドーさんの援助と、我等の偉大なる総統Qのご加護もあり、これまで戦ってまいりました。」
総統Qの名を香川が口にした直後、周囲の戦闘員と怪人たちが一斉に起立し、ローマスタイルの敬礼(俗にはナチス式と思われている、片手を高々と突き上げる敬礼。アレは本来古代ローマに起源を有する。ナチスはそれを一方的にまねしただけ)をした。
香川の言葉にも総統に対する形式ではない本当の敬意があり、組織としてのQのまとまりを示しているようにきっどには思えた。
「我々Qの目標はより良い世界の実現、多くの人々の幸福です。それは断じて犠牲の上に成されるのではなく、我等有志の英雄的行動の上にこそ成り立つべきであると考えているところが、バリスタスとの共通点であり、このたびの同盟の決定となりました。」
そう言うと香川は、深々と腰を折り礼をした。
「HUMA・宇宙刑事機構との戦い、そしてこのたびの「黄金の薔薇」「タロン」などとの対決姿勢の表明、我等の総統に成り代わり感謝いたしますよ。」
「おお、こっちでHUMA極東本部の壊滅を知ったときぁ、胸がすーっとしたぜ!」
「きゅ〜!ききゅ〜!」
「きゅっきゅ、きゅ〜!」
香川の言葉に、龍を模した鎧を来た青年が頷く。周りの戦闘員達も表情のよく読めないマスク姿ながら、彼らなりに敬意を示しているらしい。・・・組織ごとに違う形式が用いられる戦闘用圧縮言語(「衝撃を与えるもの」の「イーッ!」や黒十字軍の「ホイーッ!」とか、戦闘員の掛け声)のせいで、何言っているのかよく分からないが。
「あっ、いえ、そんな。HUMAとの戦いのときはまだ僕は殆んど前線に出ていなかったし・・・」
慌てて、恥ずかしそうにかぶりを振るきっど。
「いいえ、先ほどの戦いを拝見させてもらいましたが、貴方の戦い方は実に正々堂々としたものでした。」
「おお、そうだぜ!」
と、先の戦いにて狂科学ハンター相手にそのアルター能力を見せつけ威迫してみせた二人が笑う。
「あ、貴方達は・・・」
「いえ、私達はまた所属が違いますので、まず先にQの方々から・・・」
問うきっどに、少年の方が待つように手を差し出す。そして少年は、さっと掌をQの幹部らしき面々のほうへと向けた。
そこに立っている人数は、前回現れたものより多い。前線で怪人を指揮していた龍の鎧の青年の他に、青い軍服を身につけた隻眼に眼帯の軍人、そして漆黒に赤い薔薇の模様をあしらったチャイナ・ドレスの妖艶な美女。彼女は、手に小さな石像のようなものを持っている。口をかっと大きく開けた、硬質なデザインの悪魔蜥蜴というか・・・怪獣じみた魔神の像。
自己紹介を促されたことに気づいたのか、三人は話し始める。
「俺は、レイジ。本名ではないが、今はこれが俺の名だ。Qでは前線での直接指揮を担当している。
体の左右で黒と白銀に分かれる、龍を象った鎧の青年が最初に答えた。続いて、そのそばに立っていた黒いチャイナドレスの女。
「私は、シャドーローズといいます。Qではレイジさまの秘書と、戦闘員の皆さんの食堂のまかないなんかをしています。きっど様、シャドーさまからお話は伺っております・・・これから、よろしくお願いします!」
以外にも優しく丁寧な口調で、シャドーローズは自己紹介を終える。
「そしてこの私こそが香川教授と並ぶ大幹部、秘密結社Qの軍事面での頭脳!作戦参謀のM・ガデスだ。そして・・・!」
いきなりガデスの全身が強化細胞変容特有の熱発光で光り輝き、そして変貌する。その過程はバリスタスの改造人間とそう代わりは無い。
「Z・バーーーット!」
牙むき出しの口で叫んだ。
既にこのとき、彼の肉体は人間のものではなくなっていた。人と蝙蝠の融合した姿に、変身している。
他のQの改造人間と違い一種類のみの改造のようだが、その分極めて精妙に研ぎ澄まされた姿かたちをしており、戦闘力は秘密結社Qの改造人間でも戦術指揮官や六天魔王に匹敵するものと思われる。
「組織最強の改造人間!吸血Zバットでもあるのだ!ふはーっはっはっは!」
「・・・・・」
初対面で、普通イキナリここまで明かすだろうか。それも堂々組織最強を自称するか。
えらくテンション高いガデスの言動に、ちょっときっどは押される。
と、そこでシャドーローズが持っていた魔神像の目が光った。同時に像から声が漏れる。
「ガデスよ・・・」
「こ、これは総統Q閣下!」
慌てるガデス。同時に、周囲の幹部・怪人・戦闘員達も一斉に平伏する。
(あれは・・・)
職業柄、きっどの意識は瞬間的にその像に集中し、額の結晶体の機能を使って内部を分析する。どうも内部に通信装置が内蔵されていて、おそらくQの本部アジトにいるであろう総統Qがじかに会話しているらしい。
「ガデスよ・・・Q最強の改造人間は、私だ。」
「は・・・ははっ!」
「以上だ。」
「以上なのかい!」
思わず叫ぶきっど。登場が仰々しかっただけあっけにとられ、思わず突っ込みを入れてしまったが既に総統Qは回線を切ったらしく、全然反応は無い。
「〜〜〜〜っ・・・」
なんというか複雑な想いに捕われ、白いシルクハットを傾げて頭をかくきっど。
その様子に、アルター使いの少年、箕条晶は苦笑する。
「はは・・・少し驚かせちゃったかな。でも、総統Qはいい人だよ、とても。僕たちロストグラウンドの民を、援助してくれている。」
「ロストグラウンド・・・失われた、というよりは捨てられた大地と言ったほうがいいって、聞いている」
きっどの呟きに同情するように、額の結晶体がちかちかと輝いた。彼の頭脳であるそれが、思考に反応しているのだ。
ロストグラウンド。「黄金の混沌」末期に大地震で日本本土から切り離された、荒れ果てた島。ロストグラウンドというのは通称で実際は連(むらじ)特別行政区という。現在は国連の統治下にある。
・・・そんな教科書的な事項以外の、裏の知識がきっどの脳裏をよぎる。
アルターといわれる再構成物質を武器とする特殊能力者の存在ゆえに、ロストグラウンドは平和とは程遠い島となっている。
荒廃した自然、犯罪の横行。そしてなにより、支配。
重武装警察HOLDと徴用したアルター能力者で構成された特殊部隊HOLYによる、苛烈な軍政。一部の国連とつながる連中が住む文明的な市街地と、現地住民が住まう荒れ果てた土地との圧倒的な格差。
現地住民は力で支配され、アルター能力者は狩り出される。そのバックにはHA(人類同盟)、そしてアメリカの影があるとされている。国連など、所詮は大国の丁稚に過ぎない。
その上滅人同盟の本部すらあり、まずは本拠地の周囲を固めるためかその破壊活動は最も激しいと聞く。そして、それゆえに・・・滅人同盟への時間稼ぎのいけにえとしても扱われている。
「あなたも、分かっていただいているようですね。僕、箕条晶はいくつかある現地住民の自治組織のうちの一つ「ロウレス」のリーダーを勤めさせてもらっています。」
それを聞いたきっどは少し意外に思った。てっきりやくざ風の大男のほうが位が高いと思っていたから。
「そして俺は副リーダーのゼネラル=モーターバロンだ。俺たちの目的はロストグラウンドに平和を取り戻し、そして最終的にはHOLDの糞どもをぶっ潰すこと・・・!」
にぃ、と貫禄のあるサングラスの大男が笑う。ごついサングラスの下の十字傷と顔立ちが物凄い迫力だ。
だが、その彼らの目的は言うほど簡単なことではない。何しろ曲がりなりにも国連直轄・・・すなわち世界を相手に抗うことに他ならない。
だがしかし、きっどは
「ええ、僕たちバリスタスも、きっとお力になりましょう。」
と、きっぱり言った。
彼らバリスタスの目的は世界征服。世界にけんか売ることに関しては負けては居ない。
と。
「ふむぅ、なぁるほどぉ・・・・分かったわ。」
「わ。」
唐突にのえるがしたり顔で割り込んできた。
「分かったって・・・何を?」
健太がそう尋ねるが、その顔はひしひしとする悪い予感に引きつっている。
対して、きっどとシャドーは興味津々と言った様子でその決断を見守る。
「あたしこと日本国総理大臣折原のえるは、バリスタスならびにその同盟者の活動を承認します!!」
「何〜〜〜〜〜っ!!?」
流石に予想外の反応に、目をむくシャドーときっど。
ましてや、健太など。
「の、の、のえる〜〜〜〜〜っ!!」
「なあに、健ちゃん?」
「何考えてるんだよ!相手は悪の秘密結社だよ!?」
まぁ、当然の反応だ。
「ふっふっふ・・・私は世界を狙う悪女。そもそも最初の目的は世界征服だったんだし〜」
「最初から悪魔と手を組んでるんだ、今更どうということもないだろ?」
「・・・・・・っ!!」
のえるとメフィに二人がかりで言い負かされて、口をつぐむ健太。
健太の発言が一番常識的なんだが・・・ちょっとシャドーはかわいそうになった。
「何しろ、あたしの日本で唯一あたしの命令が届かない、いわば国連に不当に占領された場所だからねぇ・・・それに、日本を食い物にしようっていう他の組織と戦ってくれるっていうんなら、ますます好都合。」
くっくっく、と全然似合わない悪女っぽい笑い方をするのえる。
「ふ・・・我々が最終的には日本の占領を目指しているとしても?」
「ええ。あんたたちはそこまであくどくないみたいだし、それにあたしの手下達の手の届かない仕事をやってくれている間、こっちには来ないでしょう?そして来たら、HUMAやあたしの部下のヒーローたちがお相手する・・・」
だが、その分析は意外なほど鋭い。
権力機構である以上生じる制限など、関係なくバリスタスは動ける。そして彼等が動けば動くほど、敵は減るのだ。
「なかなか・・・大したお方だ。」
シャドーも思わず舌を巻いた。そして、この取引はバリスタスにとっても有利なこと。
「いいでしょう、手打ちだ。」
「ふっふっふ・・・そちらもワルよのう。」
「ワルではなく、悪でございます総理大臣様。」
「の、のえる〜〜〜っ!」
わっはっは。
とりあえずこの場で唯一の常識人の悲痛な叫びを無視して、ここに裏の日本・バリスタス共闘契約は成立してしまった。
「ち、ちょっと待て!!」
と。
突如天井裏、恐らく排気ダクトかなんかに潜んでいたらしい二人組が降りてきた。ごっつい大男と小柄な割りにスタイルがやたらいい美女・・・自衛隊戦史研の月形と桜だ。
「減給40%。」
その二人にイキナリのえるはそう言い放ち、超科学を管理する秘密機関・戦史研の二人は揃ってこけた。
「そ、そんなっ、ご無体な!そんな減給食らったら、あたしカード破産しちゃいますよ〜!」
泣きながらのえるにつめよる桜。
「駄〜目!折角あたしがぱちんと指鳴らしたら降りてくる算段だったのにぃ!」
「だからといって40%は酷すぎますぅ!」
「煩いわね!あたしだって内閣総理大臣なのに二千円しか給料貰ってないのよ!それも先代総理の失策で余っちゃった二千円札で!」
「総理のそれは後楽園球場貸しきったりするから、官房長官が経費さっぴいてるんでしょ〜〜!」
「あんたのカード破産も自業自得よ!半分は自分の浪費!もう一つは悪の秘密結社と同盟しないとならないようなあんた達の力不足!」
ぎゃんぎゃんと言い争う二人。
その後ろでそもそも総理の無軌道な悪巧みを正すために降りてきたと思われる月形が、話を切り出せずに固まっているのがちょっと哀れだったりする。
「あーもう!ケロちゃん、貸して!」
と、とうとう長話に飽きたらしいのえるが、唐突にケロロの手からコントローラーのようなものをひったくった。・・・きっどにも遜色も無い鮮やかな手つきだ。明らかに擦りか何かの心得がある腕。
「ぽちっとな。」
そして、ボタンを押す。
「あ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」
床に大穴が開いて、月形も桜も一緒に落下していった。
何のために出てきたのか。・・・ひょっとして減給されるためだろうか?
などときっどが思うまもなく、のえるは話を続ける。
「まぁ、一緒にゲームをするなら手札は見せておいたほうがいいわよね。私が今直接動かせる兵力は自衛隊や警察と、あの戦史研の二人と、風見長官から指揮権を返してもらった特甲、レスキューポリス、まあ公の戦力はこの程度ね。警察機構の一部としての対特殊犯罪者戦闘用強化装甲服はまだ未完成だし、HUMAは日本政府の管轄じゃない・・・つまり、HUMAとあんたたちが交戦状態になっても、あたしには関係ないから」
難儀な感じの口調でありながら、のえるの口元を彩る笑いは尽きない。
「・・・公の戦力は、か。ということは、公ではない戦力もあるのだね?」
「分かってるわねぇ。・・・皆、入ってきて。」
今度こそのえるは、ぱちん、と指を弾いた。やや斜めに構え綺麗にくびれた腰に片手を当てて、きめきめだ。
たまたまその時彼女が着ていたのが、公務のときによく着る赤いスーツ姿で、何だかきっどは昔幹部候補生の授業で見せられた映像の、19世紀秘密結社ネオ・アオランティスの幹部ガーゴイルを思い出した。
「はーい、のえるちゃん。」
「ちゅちゅーん、話はまとまったようでございますですわね。」
「結構待たせたなぁ」
「ほんまやで、うち疲れてもうたわ。」
と、がやがやしながら出てきたのは。
「あっ、君達・・・」
アキハバラの戦闘で目撃した、人造人間を操る少女達。確か・・・
「アミバHAL電童シブガキ隊?」
「アキハバラ電脳組だっつーの!!どーゆー耳しとんじゃおんどりゃあ!でございますですます!」
があっ、と青い人造人間の主人である触角みたいな髪形をした少女が怒る。それまでの妙に丁寧な口調からするとえらい変化だが、きっどの間違いっぷりもある意味それに匹敵する。
「ちょっとちょっとすずめちゃん・・・」
と、一行のまとめ役と思しき少女が割ってはいる。
「うぴぃ〜」
「スズメ、オーバーヒート。スズメ、オーバーヒート。」
と。その少女達に付き従うように動く、小さなものが目に入る。
黄色くて柔らかい外見の、二頭身の可愛いロボットだ。片方は天使みたいな羽が生えており、もう一方は眼鏡とベレー帽でおしゃれしている。
確か、巷で最近大流行のペットロボット「パタP」とかいったはず。女子中学生とかの間でその可愛さとお手ごろな安価さ、どんどん成長する人工知能、専用のカスタムパーツで自分の好みに創れるなどの特徴から爆発的大流行を起こしている。
シャドーは、それを前からしらべていた。別に女子中学生に興味があったわけではない。
あまりに高度な技術で造られていたからだ。アイボやアシモのレベルなんぞとっくに超えている。このサイズの自立二足歩行に完全な人工知能、あろうことか少しなら飯まで食う。
しらべてみると殆んどすべての工程が極秘とされパテントをとられ、分解(可愛いデザインなので若干罪悪感を覚えた)しても自己消滅機能までついた完全なブラックボックスだ。
「えーと、彼女達四人とは、もう会ったわよね。神聖ローゼンクロイツっていう組織と戦っている、戦隊系なのか何なのか良くわかんないヒロイン集団。」
「その説明は、ちょっと・・・」
のえると同じ金髪の少女が、嫌な顔をする。のえるは確かハーフだと聞いたが、彼女もそうなのだろうか。
「それが嫌なら自己紹介、しゃきしゃきする!」
「はーい!」
のえるの言葉に従い、元気よく前に出てきたのはピンク色の人造人間のマスターだったらしき少女だ。大きく丸っこい目と細い体、可愛いといえば可愛いがのえると比べるとのえるの方が一歳年上というのを考慮に入れても随分子供っぽい感じである。
彼女に抱っこされて、さっきの羽の生えたパタPが一緒に挨拶する。
「私、花小金井ひばり。こっちはデンスケ。」
「うぴぃ〜。」
と、それに続くようにして触角のように二筋、髪の毛の立ったこっちはひばりに比べると何ぼか大人っぽい女の子と、眼鏡のパタPが出てきた。
「わたくしは桜上水すずめ。この子はフランチェスカ、ミサイル・ドリル・電鋸・ビーム・エアバック・パラシュートと多機能取り揃えた、世界一のパタPですわ!」
「フランチェスカ、セカイイチ!」
ペット用ロボットの装備とは思えないが・・・とシャドーが思うまもなく。次。
長い黒髪にイエローのバンダナを巻いた女の子だ。彼女のパタPは背中にロケットブースターみたいなものを二個しょって、主人の頭の上にちょんと立っている。体育会系のはきはきした印象のある主人に似て、幾分運動神経がよさそうだ。
「俺は東十条つぐみ。こいつは、テツっていうんだ。」
「ぐぐ〜っ。」
それでとりに、金髪の大阪弁娘。やや垂れ目な表情とは裏腹に、しっかりした印象を受ける。細目でパーティ用みたいな帽子を被ったパタPも、やはり見てくれと違ってフランチェスカと同じようにしゃべるなど、頭がよさそうだ。
「うちは泉岳寺かもめや。こいつはビリケンっちゅうんやで。」
「モーカリマッカー?」
四人と四匹が挨拶をする。
「ふむ・・・分かった。私の名はシャドー、改造人間ゴキオンシザース。これは我が組織バリスタスの幹部候補生きっど。」
こちらも、自己紹介を返すシャドー。だがそれ以上に、聞きたいことが色々あった。神聖ローゼンクロイツとはどのような組織なのか。あの人造人間は何なのか。そして何故、戦うのか。

が。
「と・・・これは、本部からの緊急通信?」
ぴょこん、とシャドーの頭部から改造人間形態の時通信に使う触角が飛び出る。
「何っ!!?」
その情報は定時の報告ではなく、関東軍への至急電だった。
本部基地が有する海底牧場、バリスタスの資金源の大きな一つであるそれが、滅人同盟の水中部隊に攻撃を受けたというのだ。
幸い撃退には成功したようだが、結構損傷を受けたとも言っている。滅人同盟との関係を、早急に何とかする必要がある。
「これは・・・あいにくゆっくりしている時間はなさそうだな、きっど。」
「え、あ、はい!」
同じく通信を受信していたきっどが頷く。
「早速出発だ。悪いなアキハバラ電脳組の諸君。詳しいことはまた、戦場で聞くとしよう!では!」
「は、はー」
ばさっ、とシャドーは羽を広げ飛び立った。東京中心区のここからだとロストグラウンドへは少し遠い。
・・・忙しい戦いになりそうだった。

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