秘密結社バリスタス第二部関東編第一話 乱闘!電子の魔都アキハバラ(前編)

荷電粒子砲が着弾し大爆発する。
電光が、強いイオン臭を残して空気を切り裂く。
さらに他にも正体不明のビーム、溶解液、奇怪な生物、極細のワイヤー、生体ミサイル、もううんざりするほど乱舞する。
そして泥人形のような怪物がうろうろし、ぴったりとしたスーツを着た男供が飛びまわり、両生類ことに蛙じみた姿の宇宙人が跳ね、ロボットが煩い音を立てて走り回る。
思いきり混戦状態の、戦場の有様だった。
「う〜ん・・・」
そんな中、あくまで冷静な男が居た。バリスタス関東軍軍団長、ドクターゴキラーことシャドーである。
「あ、いえいえ。冷静というわけではありませんよ。」
と、ゴキラーことシャドーは突然「こちら」にむいて話し出した。
「単に傍観するしか手がないだけです・・・」
事実、彼は飛び交う弾丸の嵐に頭を上げることも出来ず物陰で伏せの体制をとっている。
「流石「電子の魔境」の異名をとるアキハバラ。各組織の熱の入れようもはんぱじゃあありませんね。」
呟くと、匍匐姿勢のまま、変身。あまりかっこいいとは言いがたいが、彼の場合それが似合っているといえなくもない。
何しろ彼の怪人名はゴキオン・シザース。ゴキブリとハサミムシの合成怪人なのだ。その上、本人の意向で湿気や残飯をエネルギーにするエコロジカルな改造を施された腰部光結晶エネルギー機関、すなわちキングストーン式ベルトを搭載したMR級怪人でもある。
物陰から触覚をピンと立てると、腰の横についていたゴキブリ「ゴキオンホッパー」をひょいと放り上げた。するとそいつはたちまち上昇し、上空から周囲の情報を転送し始める。
「ふむふむ・・・」
それを触角をもずもず動かしながら受信するゴキオン。黒光りする外骨格は両腕に生えたハサミムシの刃もあいまってかなり強そうなのに、こういう姿もなぜか似合うのはやはりゴキブリの因子だろうか。

まず感知したのが、この東京方面での戦いでバリスタスが主敵と想定していた組織、「黄金の薔薇」の戦闘部隊だ。
黒いボディスーツを纏った戦闘員たち。統制の取れた行動で一斉に人間のそれの十数倍の距離を跳躍し、指先から指向性の電撃を放っている。また隊長クラスのものは接近戦用に、単分子ワイヤーの斬糸を用いているようだ。
かなり完成された強化人間である。戦闘員としての能力は、強化服を纏ったバリスタス通常戦闘員や、格闘戦専用の簡易改造人間・蝗軍兵よりも優秀といえる。隊長クラスに至っては短針銃への応用能力などはなく振り回す速度・力で劣るものの、バリスタス戦闘用改造人間第一号である悪の博士の怪人・蜘蛛男アラネスと同じ能力を持っているのだ。
「・・・ふん。」
だがシャドーはそれに対して驚嘆するとか驚異に感じるとかではなく、嘲笑をもって応じた。彼には、弱点が見えたのだ。
「黄金の薔薇」には、怪人に分類される存在が居なかったのだ。通常戦闘部隊は、全部戦闘員で構成され、指揮官とて戦闘能力に優れる一品生産の怪人ではない。
科学者集団であり、技術力を高めそれにより世界を裏から指導することを目指す「黄金の薔薇」は戦闘を賎行と考えており、戦闘員達のあくまで消耗部品としての手駒、幹部達は貴族階級を名乗りそれぞれ自らの得意とする技術で体を強化し高い戦闘力を誇るらしいが・・・
「下らんな。戦わぬものが貴族を名乗るなど。」
ぬくぬくとしているだけの存在のどこが貴い。貴きものとしての貴族は、己の民衆のために先頭にたち戦うからこそ。故に戦わなくなった貴族達は革命によって民衆に失業を言い渡されたのではないか。
「ええ。」
同じく彼と行動を共にする幹部候補生・きっども同種の嫌悪を感じたらしく、シャドーの呟きに同意を示す。
しかし純白のタキシードにシルクハットとマントで身を固めた彼がシャドーと同じく地面をごそごそ這い回っている姿はかなりさまにならないが。
「それよりも、戦っている相手のほうが気になります。シャドー閣下、あれは?」
す、ときっどが手に持ったステッキで指し示す。

「ええいっ、邪魔をするなぁっ「黄金の薔薇」!!みんな、やっておしまい!」
「黄金の薔薇」と交戦しているのは、きっどが事前に得ていた情報には無い組織だった。同じ服装の戦闘員ばかりの「黄金の薔薇」と異なり、部隊は三種類の存在で構成されている。
先ほど声を発したのは、指揮官らしき女性だ。蝶の羽のようなアイマスクに体に密着するコスチュームとマントという、これでもかと言わんばかりの「悪女」ファッションだが、着用している本人が目鼻立ちのはっきりした顔立ちでスタイルも抜群なので、かえってこれ以外考えられないというくらいにはまっている。しかもはまっている自分に自己陶酔しているようで、ますますその存在は確たるものとなっている。
「ヴあ〜・・・ヴあ〜〜〜」
その声にこたえて行動開始したのは、恐らく彼女の組織の戦闘員と思われる存在だ。二本の柔らかそうに頭の左右に垂れた触角、四つのいい加減な穴のような目、ぞんざいな手足の造作にもったりした動きと、まるで泥人形のような奇妙な連中だ。いや、事実泥人形、そういってもさしつかえなかった。
シャドーの触角、きっどの結晶体がその正体を一瞬で分析する。周囲の土をナノマシンで分解し纏め上げたロボット。戦闘能力はたいしたことは無かろうが、土さえ露出していればあっという間に数をそろえられる。
しかし流石に安物らしく、あっというまに「黄金の薔薇」の電撃にずたずたにされてしまう。
「ちいっ、ホムンクルスじゃだめか、なら!ケルベロス!!」
女性の命令で生き残ったホムンクルスの群れを押しのけるようにして次に進み出てきたのは、それらや「黄金の薔薇」戦闘員とは明らかに毛色の違う存在だ。
身の丈3メートル、いやもっとあるかもしれない。前後にもボリュームがあり、特に上半身と両腕が大きい。体は部分部分金属装甲で覆われてはいるが基本的には生物・狗か狼を思わせる哺乳類に近い。だが上半身は殆んどが機械化されていて、形状は丁度リボルバー型拳銃の弾倉のようになっている。ただしケルベロスの名のとおり、その上半身からの付属物は三つ。一つは機械仕掛けの頭部、もう一つは何か排気口のようなスリット、そして最後の一つは、明らかに何かを発射する砲門。
がしゃん。
機械音を立てて、ケルベロスの上半身が回転した。それまで頭部が真正面だったものが、リボルバー部分が回転して砲門が正面に出てきた。僅かに唸りをあげたあと・・・その砲門から眩い光が発射された!
ドゴオオオオオン!!
レーザーなどではありえない強力な爆発。ひとたまりも無く蹴散らされるのは、今度は「黄金の薔薇」兵のほうだった。
「荷電粒子砲!あのサイズでこの威力とは、なんという技術力だ!」
正体を見て取ったシャドーは、同時にやや驚いた。そもそも荷電粒子砲は空気との干渉や必要エネルギーなど、かなりの高度技術を要する兵器だ。
シャドーの知る限りでは、現在はかなり大きな組織でも荷電粒子砲は戦略級攻撃衛星用か、小型のものでも重要基地の防衛砲台としてしか使われていない。それを3〜4mクラスとはいえ生物兵器に主砲として搭載するとは。
一撃で調子に乗ったのか、指揮官らしき女は哄笑する。
「ほ〜っほっほ!今日こそあの連中を捕まえて、シューティングスターさまに献上するんだから!!」
(あの連中・・・か。それは・・・)
素早くホッパーの探知を切り替え、周囲を捜索する。するとその連中と思しき、正義の味方サイドらしき勢力も認識できた。
(ガッチャマン?)
一瞬はそう思った。だが、違うらしい。
確かに、鳥のくちばしを思わせる鋭角な透明風防をつけた外見は似ているが、黒を基調とし、白にそれぞれの色と思しき赤・ピンク・青・緑の色が入った装甲をつけた姿はあまり似ているとは言いがたい。
リーダーなのか先頭を切っているピンクの識別色の背中に大きな羽が生えているのでそう見えただけだ。他の連中はそれぞれ背中に別のものを積んでいる。
そして、なにより強化服をつけた人間ではなかった。一見女性が強化服を着用しているように見えたが、それにしては少々大きい。身長は二メートルほどはあるかもしれない。
動きの様子はやや無機質かつ無表情でアンドロイドのように見える。
と、もう一つ後から気づいたことがあった。後方にそれぞれ四体と似たような、そう、この四人が大人になればあの四対のアンドロイドのような顔立ちになるであろうと推察される、四人の少女だ。おそらく中学生。一人は長い黒髪できりっとした目鼻立ち、識別色赤のアンドロイドに類似している。
くるくるとした巻き毛の少女は緑、頭の天辺にゴキオンの触角のようにぴょこんと飛び出た髪がある女の子は青、そして他の三人と比べてやや発育の子供っぽい少女が、ピンクの羽の生えた奴に似ていた。
「うぇ〜っ!!今日はなんだか敵が多いよっ、すずめちゃん!!?」
「大丈夫、落ち着いてですわひばりちゃん。私達アキハバラ電脳組の名にかけて、あんなタイツマンどもに負けるわけには参りませんですます!」
(アキハバラ電脳組、か。どうも後ろの少女達の命令で動く半生体アンドロイドのようだ。戦隊ヒーローには一人足りないようだが。ふぅむ・・・っと!?)
近づく気配に、慌てて隠れ場所を変更するシャドー。
ぐわっしゃああああん!!
その半生体アンドロイドが、ケルベロスを思い切り殴り飛ばしたのだ。巨体が十メートルは吹っ飛び、シャドーのすぐ近くに落下する。
(っ、とと。確かに、なかなか汎用性にとんだ兵器だ。だが、余裕のない中小の一組織が血道を上げて狙うほどではないはず。・・・我々のあずかり知らぬ何かがあるのか?)
この件に関してはもう少ししらべていたかったが、そのほかにも次々情報が入ってくる。
「ゲーマーズの平和はでじこが守るにょ!目からビームにょ!」
・・・・・・
メイド服のようなものを着た猫耳少女が目から怪光線を乱射している・・・
ちょっと精神的にダメージを受けるシャドー。
心を落ち着かせる。あれは確かデ=ジ=キャラット。領土こそ狭いが銀河で一、二を争う富裕星系の王女だったはずだ。社会見学で地球でバイトしているという情報は宇宙外交官ルートから入ってはいたが・・・
何故、ゲーマーズ。(注・ゲーマーズとはゲームやアニメや漫画やフィギュア関連を手広く商うマニア向けのお店です)
と・・・まぁ、そんなものは放っておいて構わない、いやむしろ放っておくべきだとシャドーは判断した。なぜならそれとはいろんな意味で別に、重要なものを見つけたからだ。

「ふぉ〜〜〜!まぁ地球の市場電子技術の最先端といわれる場所を征服すれば地球征服もはかどろうと思ったら、またとんでもないことになってるでありますっ!」
「うはぁなんて奴らだ!こうなったらケロン拳を十倍まで上げるしか!」
「くっ、銃がきかん!」
「く〜っくっくく、やばいねぇこれは・・・」
なにやら騒ぎに巻き込まれたような格好で大騒ぎをしている、蛙のような可愛い二頭身の宇宙人たちだ。緑色の皮膚をしたもの、おたまじゃくしに近い尻尾のある黒いの、目付きが鋭く顔に傷の走る赤いの、眼鏡をかけた黄色いの、都合四人。
先ごろ本部にて締結された反銀河連邦軍事同盟「ネオバディム」参加星系列国家、ガマ星雲第58太陽系ケロン星の住人、ケロン人のはずだ。本部から転送されたデータでは、確か緑のが地球派遣部隊隊長・ケロロ軍曹、黒いのがタママ二等兵、赤いのがギロロ伍長、黄色いのがクルル曹長。
・・・予想外に頼りにならなそうな連中で、ちょっと拍子抜けした。
「それもこれもあんたらの用意した巨大ロボがあっさりうち落とされるから!」
「なにを〜〜〜!俺たちのせいだってか〜〜〜!?」
「そうですよ!連戦連敗で資金が尽きてぼろを寄せ集めてしかロボ造れなかったからで、別に作戦指揮してる親分の責任じゃ・・・」
「そうそう。親分はメカの設計までやってくれるんですよ。そんな立派な親分を・・・」
「ドシラス〜!ウッカリ〜!!」
「結局思い切りお前のせいかぴょ〜!」
と、その騒ぎにさらに七人が加わった。黒色の、列車を擬人化したような姿の機械生命体が三人。それと、それぞれ年齢の違う、亜人間タイプ宇宙人の男性三人と、それに囲まれるようにしている小さな女の子が一人。
「ええと・・・」
何とか匍匐前進しながらシャドーの後ろから顔を出したきっどは、それを何とか確認した。額の結晶体がちかちかと、思考のテンポを表すようにせわしなく輝く。
「あの人たちもネオバディム同盟の参加星系の宇宙人ですね。ええと・・・あの機械生命体・・・あ、いや違いましたね。エネルギー生命体が地球の機械に寄生しているんでしたね。名前は確か暗黒帝国ブラッチャー。D51型蒸気機関車の体なのがドシラス、D55のがウッカリー。地球攻撃先遣偵察隊のリーダーは、試作高速鉄道を強奪したブラックエクスプレス。」
列車を言っても形質を残して再構成されたものなので、大きくは無い。さっきのケロン人よりかは大きいが、人間の大人よりは小さめだ。
対して亜人型の宇宙人の方は、かなり地球人に近い・・というか、殆んど変わらない姿をしている。三人の男はそれぞれ四角い眼鏡をかけて髪をオールバックに撫で付けた細面の大人と、薄い丸眼鏡に灰がかった紫の髪の気の強そうな少年、オリーヴ色の髪の子供っぽい元気さの見え隠れする、丸眼鏡のほうよりやや幼い印象の少年。
ぱっと身に地球人と似たように見えるが、宇宙では半獣四耳タイプと呼ばれている・・・地球語で平易な表現をすると、いわゆる獣耳だ。それも人間型の耳が頭の横についていて、それとは別に頭の天辺にもう二つ動物・・・彼ら三人の場合猫のような・・・耳がついているのだ。
それと一緒に居る少女の耳はそれと違い、猫というより熊か、色からするとパンダか、黒くて丸っこい。金色の髪に緑の大きな瞳。黒と灰色の・・・なんだろう、看護婦の服に微妙ににているのかドレスに近いのか、きっどには判別がつかない。
「えーと、アナローグ星系のピョコラ=デ=アナローグ王女、ならびに年食った順でリク元帥、カイ中将、クウ少佐。にしても博士にlucarさんにJUNNKIさん、あんなド田舎の貧乏国まで引っ張り込んだのか?」
「きっど君。」
ややとがめるような怒ったような口調で、シャドーはぼやくきっどの名を呼んだ。
「あ、す、すいません。そうですよね、そんな星系を救うことこそそもそもネオバディム同盟の目的でしたね・・・すいません。」
「うむ。まぁ・・・気にするな。私も、案外戦力として期待できないので少々焦っている。」
目が真ん丸なために、時としてぽかんとしているように見えるゴキオン・シザースの顔面が、シャドーの今の感情に妙にあって見える。
「さてまぁ、偵察は大体終わりましたね。それでは・・・」
「ようやくですか。」
「同盟者達を援護しますよ。」
そういってようやく立ち上がったシャドーだが、不安が無いわけではなかった。これだけ混乱した状況では、何が起こるかわかったものではない。
それに・・・

そのころ、アキハバラを目指してひた走るトラックの部隊があった。荷台は装甲版で覆われ、側面には尻尾と鋏を掲げた蠍の紋章が刻まれている。一本の鋏が尻尾とともに円を描き、もう一本の鋏が別の方向へと向けられているため、アルファベットのQに、それは似て見えた。

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