秘密結社バリスタス第二部本部編第三話 断片パズル
前回の戦闘、かなりの損害を受けた海底牧場の復旧作業に追われるバリスタス本営。
あちこちから資材や水中作業員が掻き集められ作業が進められる中、当然組織の雑用を一手に担う戦闘員達は大忙しである。パワードスーツである戦闘員服のおかげでそう危険性や苦労は無いが、なにぶん破壊の規模が大きい上に戦闘員の人数もそう多くは無い。
しかし一人、その中に無聊をかこつ戦闘員が居た。
「ちっくしょう・・・」
遊星帝国コマンダー、千太郎である。
彼は遊星帝国最強の戦闘力、怪人に匹敵するかそれ以上の力を持つ戦闘員であり、遊星大帝が直々に目をかけ、指名して地球へ向かわせたのだが・・・
「俺不器用だもんなぁ〜。でもあの言い草はねぇだろ〜に・・・」
戦闘能力特化の千太郎は、この手の作業の類が大の苦手であり、つい先ほど作業現場の海底牧場につながる洞窟に偽装した通路の工事中に足場を引っくり返してしまい、作業中の女性アンドロイドに「もうアンタは作業しないで!」といわれ追い出されてしまったのである。
そんなわけで作業現場に戻るわけにも無くさりとてすることも無く、手持ち無沙汰に千太郎は廊下をぶらつくしかなかった。そろそろ昼の作業休憩時間、現場から戻ってきたバリスタス戦闘員達を手持ち無沙汰にぶらぶらしながら出迎えるのは、大変居心地が悪かった。
おりしも作業休止の鐘が鳴り、戦闘員たちが戻ってくる気配が感じられ・・・
「っ、と!」
とうとうその気まずさに耐え切れなくなった千太郎は、咄嗟に近くの部屋に身を隠した。
「と、と、とっとっとっ・・・」
しかし、部屋に身を隠した瞬間、千太郎は廊下に居たほうが百倍ましだったことを思い知ることになる。
その部屋は海への入り口の一つとつながっており、床の三分の一くらいが海水の満ちた穴となっていた。残りの半分はクルーザーの客室と生物学の研究室を足したような感じになっていて、広さも結構ある。
問題はそこに備え付けられた小さなシャワールームから、丁度裸の女が現れたところだったと言うことだ。
年は、千太郎より少し上くらいだろうか。日に焼けた、スリムだが引き締まった体。元々黒かったのだろうが日に当たったり泳いだ後急いで乾かしたりしたせいか幾分茶色を帯びた髪の毛は男性の髪に近いくらいのベリーショート、全体的に中性的な印象を受けるが、顔立ちは優しげでもある。
それをもろに見てしまい、思わずどもる千太郎。相手も一瞬状況が理解できなかったようでぽかんと千太郎を見返していたが、やがて事態を認識。
「キャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」
「うわああああっ、すすっ、すまねえっ!!」
慌てて背を向けようとして自分が戦闘員服の上に羽織っているコートに足を引っ掛けて転んだり、その拍子に海への開口部に転落したり、大騒ぎになる。
結局素早くその辺のタオルを体に巻いた女が千太郎を引き上げ、何とか収まった。
「ぶはっ、げほっ、ごほっ・・・」
ヘルメットやスーツの中に水が入ってしまい、もがきながらそれらを外す千太郎。顔のまるで分からないフルフェイスヘルメットの下から現れた顔は、普段の暑苦しいまでに熱血で伝法な言動と異なって意外にも相当の美形だ。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、何のこれしき・・・それより、すまん!」
「いえ、そう気になさらなずに・・・」
はいつくばって床に頭を擦り付けて謝る千太郎、その視線が離れた隙に女は素早く服を身につけた。変わって今度はびしょぬれになった千太郎に別のタオルをかぶせる。
体をタオルで覆い一息ついてから、ふと千太郎は呟いた。
「勝手に部屋に入っちまってから言うのものなんだがそういえばあんた、一体誰だ?今まで見たことも無い顔だけど・・・」
首を捻る千太郎。今まで日常生活を送る中で、本部に居るバリスタス構成員の顔は大方目にしていたが、彼女の顔を見た覚えは無い。
個人研究室を持っているからには、それなりに地位があるのだろうが・・・
「あれっ?気づきませんでしたか?私ですよ私。」
と、女はいたずらっぽく微笑むと。立ち上がって着用した服を見せ付けた。薄いイエローのタンクトップとモスグリーンの長めのスパッツ。
「あれっ、その服装は、ええっと・・・」
確かにそんな服装をした奴を見た覚えがするのだがどうにも目の前の女の顔と結びつかず、千太郎はますます悩む。その様子をくすくす笑い名がたら見ていた女は、やがて種明かしをすることに決めた。
「すまねえ、思い出せねえ。」
「そう・・・じゃ、これならどう?」
と、前に突き出した掌をひらひら、泳ぐ魚の鰭のように動かす。その腕が一瞬、黝い滑らかな皮膚に覆われたイルカの改造人間のそれに変わった。
「ああっ・・・lucarさんか!」
途端に謎が氷解し、ぽんと手を打つ千太郎。にっこり微笑むと、lucarは頷いた。
「いつも変身しているから気がつかなかった・・・。」
「ふふ、驚いたのは私の方もよ。千太郎君の素顔って初めて見るけど・・・意外と可愛いんだね。」
元々彼女は名前がlucarで、改造人間としての名称はシーハーダーというのが別にあるのだが根っから海が好きな彼女はいつも怪人形態のため、いつの間にやら怪人形態でも名前のほうで呼ばれるようになっていたのだ。
「さっきまでは水中作業してたんだけど、お昼休みになったんで一旦上がって、それでシャワー浴びてたのよ。そこに貴方が・・・」
言いかけて思い出したのか、やや気恥ずかしげな様子を見せると慌てて話題を変えるlucar。
「それにしても千太郎君、何で私の部屋に?」
「あ、それは・・・」
暫く躊躇したが、千太郎は勝手に部屋に入ってしまった負い目もあって素直に事情を説明した。
前回の戦闘であまり役に立てなかったのでせめて作業に協力しようとしたらかえって失敗して仕事を増やしてしまったこと、それで邪魔扱いを請けたこと、さりとて仕事をしなくていいといわれても手持ち無沙汰では他の戦闘員に対して気まずいこと・・・
白状するように全てを語る千太郎の言葉を、lucarはただ黙って、僅かに顔に相手を安心させるような微笑を浮かべながら聞いていた。
そして、彼の言葉が終わると、その笑みをますます大きく深くして、答える。
「うん・・・分かったわ。」
と言うと机の引き出しを開けなにやら書類を取り出し、ペンで何か書き付けた。
それをさっと千太郎の手に握らせる。
「えっ、これは・・・」
「ふふっ。」
慌てて書状に目を通す千太郎を、lucarは微笑みながら見ていた。
「ふ〜ん・・・」
そして暫く後、また千太郎は廊下を歩いていた。
ただし今度は目的無き彷徨ではなく、ちゃんとした目的がある。
それを示す紙・・・一応正規の指令所を見ながら、千太郎はlucarに言われたことを反芻した。
(そうですね〜、それでは。視察許可証を発行しますから、基地を一回り見てきてください。多分、それで道が開けると思います)
「道が開ける、ねぇ。」
あれは一体どういう意味だったのだろう。
さっきから傾げっぱなしでいい加減こってきた首を二、三回振る。少し関節がこきこきと音を立てた。
どたーん!がたん!
と、首の骨が鳴るにはあまりに大げさな音・・・って、そんなわけはない。
音は千太郎が歩いていた廊下に面した、一つの部屋から発せられていた。
「あうっ!」
見ると、ラーミア・・・千太郎と同じ遊星帝国の戦獣士、ラーミアが壁に叩きつけられていた。
階級的には怪人クラスであるラーミアのほうが千太郎より上なのだが、色々あってラーミアは千太郎を兄貴と呼んで慕っていのだが・・・。
やったのは、どうもバリスタス改造人間・鎧武人らしい。ようやく調整処理が終了し、前線に復帰してきたようだがそれが何故。
「てめっ・・・!?」
飛び出しかけた千太郎は、何とか思いとどまった。
最近こうして飛び出すとどうにもろくなことにならない。マウアーからもその辺厳重注意を受けたばっかりだったので、ひとまず様子を見ることに。
「あ痛〜っ・・・」
ぶつけた頭をこすりながら、ラーミアは起き上がった。意外にも、改造人間と兵器生物の闘争だと言うのに怪我一つない。
「少しは手加減してよ〜、訓練なんでしょ?」
「がっはっは、手加減はしとる。しとらんかったら真っ二つだ!まあ、いいリハビリになったわい!」
豪快にラーミアの抗議を笑い飛ばす鎧武人。どうやら訓練だと分かり、千太郎は飛び出さなくてよかったと胸をなでおろした。
「強いなぁ〜・・・流石バリスタスの誇る「改造人間。」
「いや、それは違うぞ。」
と、悔しがるラーミアにアドバイスを入れたのは、JUNNKIだ。
「改造人間といっても万能無敵って訳じゃない。身体的データーを見れば、ラーミアのほうがずっと動きがいいはずなんだ、でも、鎧武人の攻撃は命中した。何故だか分かるか?」
「ん〜・・・腕の差?」
「そ。」
悩みながらも答えを出すラーミアに、JUNNKIは少しお兄さんっぽく笑いかける。
「要は技量を磨けってこと・・・お!?」
と、慣れないことをしたせいではないだろうが、急に背中を突き押されてJUNNKIは前のめりによろめいた。
慌てて振り返ると、そこには。
「あぁっ、そこ、ちょっとどいて頂戴。」
野太く艶めかしい、なんとも妙な声。
大きなコンテナに体を絡めるようにして運んでいるのは、悪の博士怪人軍団に所属しながらジャパニウム鉱脈採掘作業用に本部に残されたみみずおかまだ。精神的にはおかまであり、蚯蚓は雌雄同体・・・どうもそのあたりからこの姿に改造されたという説もある。
「いやいや全く、修理修理で材料のジャパニウム採掘も急ピッチで、おかげでこちとら睡眠時間まで削って穴掘り作業よ〜?お肌が荒れちゃうわ。」
疲れたような口ぶりの割には元気一杯のように見えるみみずおかま。みみずそのものの表皮も、ピンク色の節がうねり粘液がぬめり、荒れているようには・・・見えない、けど、気色のいいものではない。
「それにしても相変わらず皆元気ねぇ〜。」
「うむ。運搬作業は備遣人に任せてあるからな。俺は、こっちのほうが役に立てる。」
鎧武人の答えに、なるほどといった風にみみずおかまは頷くと、ラーミアに視線を走らせる。
「ふ〜ん、それで今度は攻められても大事にならないように特訓を・・・うっふっふ・・・可愛いわねぇラーミアちゃん。健気な男の子って、割と好みよ。」
「ひぃぃぃっ!ぞぞぞぞ〜〜〜っ!!」
全身に鳥肌立ててもがき後ずさるラーミア。まあ、ただでさえアレなおかま口調の上に外見は腕を二本早しぎょろ目を剥いて直立する巨大蚯蚓である。ぬめぬめの肌で擦り寄られては、気色悪く思っても仕方がないだろう。
「でもさぁ、別にそこまで気張る必要はないと、あたし思うわけ。」
「えっ?」
目を丸くするラーミア。
「さっきJUNNちゃんが言ってたけどさ、たとえばラーミアちゃんはうちの組織の怪人にはいない電撃の使い手なんでしょ。ならその電撃が必要なとき、ラーミアちゃんがいないと困る。でもこの間みたいな水中戦闘だと、lucarさんやカニンジャーみたいな人が必要よね?」
「うん。」
答えた途端みみずおかまがその左右互い違いについた目玉を長いつけ睫毛が音を立てるほど激しくウィンクさせ、またびくっと退くラーミアだが。
「まっ、あたし達は古典的正義のヒーローと違って、一人で何でもやる必要はないからね。皆で補い合えばいいのさ。」
「あ・・・はい・・・」
見た目や言動と異なり意外なほどまともな事を言うみみずおかまに、驚きながらも今度は頷いてしまう。
遊星帝国の仲間や兄貴分の千太郎とはまた違うバリスタスの独特の感覚や新しい考え方に、ラーミアは感心する。
まさかその千太郎も同じ光景を見聞きし、同じような感想を覚えているとも知らず。
「あっ、いたいた。お〜い!」
と、今見たことについて考えをめぐらせながら部屋を出た途端に千太郎は声をかけられた。
「んっ、ああ。生栗磁力か。」
声の主は、千太郎にはすぐ分かった。元々HV団という別組織に属しながら大幹部の一人である悪の博士に引き抜かれた、自分と似た特殊な立場の戦闘員だから、注目していたのだ。
だが振り向いて、それだけではないことに気づいた。他に二人・・・一人は立派な顎鬚とがっちりした体格の老紳士、もう一人は。
「あっ・・・テメェは!?」
さっき作業現場で千太郎を追い払った女アンドロイドだ。気の強そうな表情もポニーテールの髪も相変わらずだが、何故か傍らの老紳士に手をつかまれて引っ張られている。
「な、何のようだ?」
「ほれ、ソドム。」
千太郎の問いに、老紳士・・・彼もどうやらアンドロイドらしい・・・が、掴んでいた女を千太郎の前に押し出した。ソドム、というのが彼女の名前らしい。
「分かってるってば、ゴモラ。もう離してよ。」
少々むくれながら、ソドムは答え・・・その言葉が、千太郎に二人の正体を思い至らせた。
異世界の組織ヘルバーチャ団の戦闘員である生栗磁力。彼のいた世界では、バーチャロンと呼ばれる人型機動兵器が改造人間以上に兵器として普及していた。そして、正義の組織Aフォースからの脱走者であるという特殊な事情により、彼がAフォースから強奪し所持する所持する二機のVR(バーチャロン)は特別な能力を持っていた。
それが目の前にいる二人、V/ヒューマノイドのソドムとゴモラ。質量の大半をエネルギー化・次元転送することにより、人間そっくりのアンドロイドに変身することが出来、かつ自意識を持つ。
「えっと・・・千太郎。」
しかし、目の前の少女は外見からはそんな複雑な正体をにおわせることは全くなく、やや照れた様子で話しかけてきた。
「さっきはちょい言いすぎてごめん・・・と言えって、生栗とゴモラが。」
「こら。それで謝ったこととなるかい!」
いらんことを付け加えるソドムの後頭部を、ゴモラのサザエのようにごつい拳がどついた。
「あう〜〜っ!ごごっ、ごめん〜〜〜!」
相当痛かったらしく後頭部を抑えてうずくまるソドムだが、割といつものことらしくすぐ立ち直った。
「あ〜、と、いうわけで。そんなに気にしないでくれないかな?」
二人の意見を纏めるように、磁力が微苦笑を浮かべながら千太郎に言う。
対して千太郎も苦笑いをするがこちらはより苦さが色濃い。
「気にしない、って訳にはいかねえさ。根に持つとかそうじゃなくて、個人的に・・・」
頭の後ろで手を組み、軽く背をそらせて上を見る千太郎。
「反省しなきゃ、成長もないだろ。・・・強くなりたいんだ、俺は。」
「ふ〜ん・・・」
そんな千太郎に、暫く考えてから磁力は言葉を与えた。
「千太郎。今の君は、熱血を持て余した挙句空回りさせているような気がするんだ。」
「?」
姿勢を解いて、磁力の顔をまじまじと見つめる千太郎。
「力があるにしても、だ。それが何のためか、ないしは誰のためか。それを見極めなきゃいけないと思う・・・って、偉そうなこと言っちまったな、ごめん。」
「え、あ、いや・・・」
磁力の言葉に、千太郎は目をしばたかせた。そういう考え方をしたことは、今まで無かったからだ。戦闘員として戦士として、武名を高めることに専念してきたから。
「ごめん。ちょっとえらそうなこと言っちまったかな?」
「いっ、いや!」
すまなそうな顔をする磁力の言葉に、千太郎は力いっぱい首を振った。
丁度さっき見たこと聞いたこと、頭の中で渦巻くいろいろなことの破片が、その言葉を軸に一気に固まった、とでも言うべきか。
「すげえ参考になったぜ!ありがとうよ磁力、流石だぜ!」
そう叫ぶや否や、磁力の手を取ってぶんぶんと振る千太郎。本人は握手のつもりなのだろうが、盲が開けたのに有頂天になって、磁力の体全体を振り回さんばかりだ。
「ほんっと、ありがとな!じゃあ!」
そして、ばたばたと走っていってしまう千太郎を、磁力はふらふらになりながら見送った。
「やれやれ・・・まだ力入りすぎてる向きもあるけど、大体いいか。」
そして、走っていた千太郎だが。
「何のため、誰のための力、か・・・っ、と。」
ふと立ち止まる千太郎。聞こえてきた話し声が、彼の足を止めた。
「こうして二人きりというのは、久しぶりですね・・・グラムス殿下。」
そう呼ばれて、何故かグラムスはふと悲しそうな顔をした。その様子は、何だか妙に似ている。雰囲気も、身体的特徴も。肌の色も同じ褐色で、髪の毛の色の薄い輝きも良く似ている。
「殿下、か・・・」
そのグラムスの反応に、一瞬話しかけたマウアーはぐっと、息が詰まったような表情を見せた。
「亡国の王子を、殿下と呼ぶか、マウアー。ただグラムスと呼んでも、もはや・・・」
「いえ。」
自嘲的な言葉を吐きながら、存外明るい表情のグラムス。しかしマウアーは顔を伏せる。
そして、マウアーの視線が外れると同時に、グラムスの表情が言葉の重さに見合う暗さを宿した。それを予期していたからこそ、マウアーは顔を背けたのだろう。
「父上は、まあこの間見たとおりだ、あの二重人格は相変わらずだが、ダンディやグミーンたちがよくしてくれている。エリカは・・・準備で忙しいようだが、元気らしいぞ。」
「はっ・・・」
話し合う二人。しかしその様子は底か互いに距離を推し量るような、見えない壁が間にあって、グラムスとマウアー、二人それぞれにその壁を認識し距離を置いているような。
話を続ける。
「あ・・・、申し訳御座いません、本来の伝令事項を忘れていました。ネオ・バディム同盟からの定期報告のデーターがまとまりました。今期の兵器生産ですが、主なものではバラナス級第二世代械獣殲艦一番艦バラナス・二番艦ヴィオロン、翼衛艦ザイクロイド=アノド、ファングーン級装攻邀撃艦弐番艦ガインが完成。キメラ級鬼導艇の生産ラインは、翌月始動とのことです。」
械獣殲艦(かいじゅうせんかん)、翼衛艦(よくえいかん)、装攻邀撃艦(そうこうようげきかん)、鬼導艇(きどうてい)・・・いずれも秘密結社バリスタスの技術供与・設計になる新型の航宙艦である。生機融合、霊子制御などバリスタスの得意分野の超技術を大幅に取り込んでおり、その戦闘能力は従来辺境星系が保有していた戦力を大幅に上回り、質で宇宙刑事用の超次元戦闘艦や樹雷の生体戦艦に匹敵・凌駕する初の航宙艦として戦局を握る存在となっていた。
仰々しい分類名は、いずれも今までの艦種分類に収まらない船であるが故に、戦意高揚もかねて出来るだけ猛々しくと命名が施された。従来の艦載機動兵器と小型艦艇の中間である鬼導艇、戦艦よりもさらに大きくかつ生機融合技術が最も多用されている械獣戦艦、機動兵器のみならず陸戦兵器の惑星展開、他艦船への補給も行う、空母をさらに発展させた重装甲艦・翼衛艦、それらの能力を合わせ持ち、小規模機動戦力として機能する装攻邀撃艦・・・と言う風に。
「うむ。陸戦の装備は初式強軍装「月影」弐式強軍装改一型「夜叉姫」いずれも既に整えてある・・・何とか次の戦いまでに、もう一艦隊揃えられそうだな。」
強軍装(きょうぐんそう)、と言うのもやはりバリスタスからの輸出兵器で、いわゆるパワードスーツ、それも大気圏外運用が可能な重装タイプだ。当初のネオバディムからの要求仕様書ではバリスタスのそれよりも低い技術水準で生産できその代わり一組織のバリスタスの兵器よりも星系国家の予算ということでコストをかけて良く、一個小隊で何とか宇宙刑事のコンバットスーツと渡り合えるレベル・・・と言う、中々微妙な代物だった。
バリスタスの技術力を持ってすれば不可能難事ではなかったが、「コストをかけていい」という文言を拡大解釈した博士が試作スーツに小型駆逐艦なみの金をかけて不採用にされてしまったり、女性が多いムーティ軍のために女性用の弐式強軍装改一型「夜叉姫」を最初の量産型である「月影」と別途生産する必要が生じたりと色々あったが、何とか実用化・すでに生産ラインに乗せられネオバディム同盟軍にいきわたっていた。
「は、これで恐らく、次回戦闘時の兵力は4:6くらいまでは何とか持ち込めるのではないかと。」
「相変わらず苦しいな・・・」
戦力が劣っているのは苦しいが、ある意味ではいつものこととも言えた。最初から追い詰められたが故に宣戦布告をしたので、技術力も生産力も銀河連邦に比べ劣っている。技術力はバリスタスからの援助で逆に現在では敵を上回っているが、物量では未だ不利なままだ。
その分GITFやセイバートロンの直接戦闘力、ムーティ系を主軸とする錬度の高い兵たちを持って、何とか五分の戦いを保ってはいるが、いずれ押され始めるのは目に見えている。そのためにネオバディム側としては味方に引き込める星系をピンポイントで狙って防衛艦隊を素早く撃破し陸上戦力を展開、そうやって確保した星系を連続させて敵戦力を分断していく戦略をとっている・・・新兵器もいずれもその目的に沿って開発されている。
その戦いの関連から言えば、アドニス星系もまた確保を必要とする重要なポイントであった。
「しかし・・・我等が今更戻ったところで、アドニスは・・・」
(・・・我等?)
不意に沈むマウアーの声音を聞き、千太郎はふと首をかしげ、聞き違いかと思った。
マウアーはあくまで遊星帝国の軍人であり、アドニス星の者ではないはず。しかし彼女は今、「我等」と言った。
一見、この二人はネオバディム同盟に参画する国の軍を率いるものとして、当たり前の会話をしているようにも見える、だが。
(何かある・・・のか?)
「我等王家が不甲斐無かったが故に、アドニスは銀河中央の企業との競走に敗れ国外産業を失い、合法的に半ば植民地化された。そしてそれを阻止することも出来ず「銀河連邦への反乱」として国を追われ・・・。そんな我等が今更帰ったとて、何が出来よう・・・」
雄雄しく戦ったが故に悲劇となったが、それゆえに民の誇りを保ちえたムーティとアドニスでは、また事情がかなり異なる。
知性を持ち、故に人は悩む。
可能性を持ち、故に人はその範囲外を渇望する。
今、グラムスの表情には影がある。有史以来何度も人に取り付いてきた影。繰り返しとはいえ、人はそれを見るのを嫌い、辛いと思う。
マウアーもまたそう思い、そして。
「・・・グラムス殿下・・・」
「なん、だ?」
決然、声をかけた。
「もしもです。次の戦いで、今度こそ私達ネオバディムが、真に盟約を果たしうる戦が出来たのならば、その時は・・・」
(・・・・・・)
それを皆まで聞かずして、千太郎はその場を後にする。
皆まで聞いて、どうなると言うものでもない。二人の間に一体何があったのか、それを知らないし、無理に聞き出そうとも思わない。
だが、ただ一つ分かったことがある。
唯一つ、せねばならぬことがある。
(次は・・・無様を晒さない。晒すわけにはいかない。マウアーのために、グラムスのために、アドニスの命運、ネオバディム同盟の戦いの趨勢、バリスタスの運命・・・色々な何かのために。)
そして、最終的に千太郎はまた戦闘員の作業現場に戻ってきていた。既に昼休みも終わり、作業が始まっている。
その作業を見守る千太郎。暫く、何事もなく進んでいたが・・・
ガラララララララァッ!!
「わあああああああ!?」
崩れ落ちてくる岩は相当巨大、10tトラックよりも大きそうだ。こんなものにぶつかられてはいくら強化服を纏った戦闘員といえどもひとたまりも無い。
「・・・・・っ!!」
その瞬間、千太郎は走っていた。
「千太郎トルネードフィニーーッシュッ!」
ドガァァァァァン!!
全身を横回転の竜巻のように旋回させた千太郎の蹴りが、大岩を粉みじんに打ち砕いた。
そのまま岩の下敷きになりかけた戦闘員を飛び越すようにして着地する。
「お、おおおおっ!」
「ありがとう、ございますっ!」
「すげ〜〜〜っ!」
やんやと喝采するバリスタス戦闘員達。確かに、さっきのことを気にしている向きはないようだ。
「出来ることから、そして、誰かのために・・・か。」
ふと呟く千太郎。
ともかく、バリスタス本部は再び動き出そうとしていた。