早朝

バリスタス大西洋統括支部の根拠地・マリネラ地下ドックに、見慣れない少女がやってきた。

歳は高校生くらいか、腰元まである黒く艶やかな髪に、ほんの少し幼さを残す均整のとれた顔、線の細い華奢な体に夏用のセーラー服を着ている。

厳重に警備された此処にどうやって侵入したのかと、周りで訓練をしていた者達が警戒する。

そんな事など気にも留めず、きょろきょろと辺りを見回す少女。

「あっ」

その少女の姿を見て、自主訓練をしていた村正宗が声を出す。

その声に気付いたのか少女が小走りで村正宗の方に駆けてきた。

驚いた様子の村正宗の一歩手前で少女は止まり、微笑みを浮かべて

「おはよう、久しぶりだね村正宗くん」



一瞬硬直する村正宗、そして・・・



「あ、あああ彩乃姉さんっ!どうしてここに!?」
柄にも無く驚いた声を上げる村正宗。

『姉さんっ!?』
村正宗の言葉に、周りに集まっていた者達が一斉に声を上げる。

周囲の視線を浴びながら、彩乃を呼ばれた少女はニコニコと笑顔を浮かべていた。









「で、何しに来たんですか彩乃姉さん?」

場所を応接室に移し、向かい合って村正宗が尋ねる。

何故かいつもより丁寧な口調だ。

「村正宗くんに会いにきたんだよ♪」

のほほんとした声で彩乃が答える。

椅子からずり落ちそうになる村正宗。

「冗談、冗談、本当はもっと真面目な話」

そう言って真剣な顔になる彩乃。

体勢を直し村正宗が視線を合わせる。

「例の「義肢」についてなんだけど、まだ出来てないの?」

用件を切り出す彩乃。

「もう殆ど出来ていると聞いている、しかし何でまた?」

彩乃の問いに答え、問い返す。

「・・・最近こっちでまた紛争が始まったの、今までにも小競り合いはあったけど、それほど激しくは無かったし、それに・・・」

一旦言葉を切る。

「私達に対抗できるほど強力なのは居なかったから」

風も無いのに彩乃の髪が揺れる。

「「組織」が動いた、ということか・・・」

頷く彩乃。

「その話、詳しく聞かせてくれまいか?」

応接室の扉が開き、悪の博士が入ってきた。

「失礼とは思ったが先程から話を聞かせてもらっていた、かなり重要なことのようだが、それよりもまず・・・」

博士が彩乃の方を見る。

「貴女、一体何者か、少なくとも普通の民間人ではあるまい」

試すような口調で博士が尋ねる。

「バレましたか・・・」

チロっと舌を出して椅子から立ち上がる。

そして博士の方を向き、片手を胸に当てて名乗る。

「はじめまして、十二天星・第九星将、彩乃・バルキュアです」

自己紹介をして握手を求める。

「うむ、バリスタス幹部・第六天魔王、悪の博士で・・・ってなにぃ!?」
「きゃっ!」

自己紹介の途中で驚きの声を上げ目を見開く博士。

変化した仮面を見て彩乃も驚く。

「そんなに驚かなくても・・・」

「これが驚かずにおれるか!」
村正宗の言葉に博士が声を大にする。

【十二天星】

バダン崩壊直後に生み出された12体の改造人間で、東南アジアの辺境地帯に人と改造人間とが共に暮らせる理想郷をバリスタスよりも先に創り出した伝説的な集団。

その存在は裏の世界でも噂程度でしか知られておらず、実際に会った者は片手で数えられる程しかいない。

「我輩も噂では聞いていたが、まさか実在するとは・・・」

しばし感嘆する博士。

「え〜と、握手してもらえないんでしょうか?」

「おお失礼した、彩乃殿」

遅ればせながら握手を交わす。



「ところで彩乃殿、一つ質問があるのだがよろしいいか?」

「はい、何でしょう?」

握手の後、博士が彩乃に質問する。

「彩乃殿が改造されたのはバダン崩壊直後と聞している。しかしそれだと村正宗君と姉弟だというのに矛盾が・・・」

「私と村正宗くんは姉弟じゃありませんよ」

博士が言い終わらないうちに彩乃が答える。

「彩乃姉さんにそう呼べって言われてるんです。」

妙に憔悴した顔で村正宗も答える。

「本当は「お姉ちゃん」って呼んでほしいのに・・・」

「勘弁してください」

残念そうな顔をする彩乃。

「神奈ちゃんは呼んでくれたのに、それにJUNNKIクンやきっどクンも」

「「なぬ!?」」

今度は2人とも驚いた。

「彩乃殿、日本へ行ったのか?」

「また弟増やしたんですか・・・」

2人の問いに、飛び切りの笑顔で頷く。

対照的に、またも憔悴する村正宗。

「そんな報告を受けた記憶は無いのだが」

博士が記憶を辿る。

「う〜ん、居たといってもすぐに離れましたから」

「・・・堪能した?」

唐突に村正宗が尋ねる。

途端目が光る彩乃。

「もちろん!JUNNKIクンやきっどクン、アキハバラ電脳組の皆も可愛くてね、のえるちゃん面白いし、ルクちゃんも萌え萌えで

(以下省略)」

延々と話し続ける彩乃。

いきなりのハイテンションに、流石の博士も引く。

「村正宗君、彩乃殿は・・・」

「そうです、彩乃姉さんは弟萌えの妹萌えのショタコンの可愛いもの好きなんです」

心底疲れたという感じで村正宗が答える。

彩乃はまだ喋っている。

「あれでも戦場では「死神の歌姫」って呼ばれてるんですよ」

「そういえば村正宗君、さっきまで忘れていたが彩乃殿の話していた「組織」とは何なのだ? それに貴殿妙に事情に詳しいが」

博士の問いに、ようやく本題に戻ってきたといった感じで村正宗が話を始める。

「それを説明するために、まず俺と彩乃姉さんとの経緯について話しましょう」

一旦言葉を切り、彩乃の方を見る。

いつの間にか話すのをやめ、頷く彩乃。

「あれは3年前のことでした」

そして村正宗はゆっくりと話し始めた。

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